第五十話「Made in Japanの逆襲」 1.「くるみ割り人形「序曲」」 2002年4月26日の夕方、marantz 『SC-7S1』 と 『MA-9S1』が私の元に持ち込まれた。 正式な販売と出荷は来月からということで、異例なやりくりを社内的に配慮してくれたものだという。 同社の担当者いわく「店長がそれほど興味を持ってくれるとは予想してなかったんですよ。 何と言っても価格は100万円以下のものですから、H.A.L.の試聴室に置いてもらえるような価格帯じゃないですからね〜」 とメーカーの当事者も意外のことだったようだ。その意外性がこれから数々のドラマを生むことになろうとは・・・・・。Timelord chronos(AC DOMINUS) ⇒ dcs 992/2(AC DOMINUS) ⇒ Esoteric P-0s(AC/DC DOMINUS & RK-P0) ⇒ dcs MSC-BNC Digital Cable ⇒ dcs purcell 1394(AC DOMINUS) ⇒ dcs MSC-BNC Digital Cable ⇒ dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS) ⇒ PAD BALANCE DOMINUS 2m ⇒ marantz SC-7S1(AC DOMINUS) ⇒ PAD BALANCE DOMINUS 10m ⇒ marantz SM-9S1 (ACSP DOMINUS×2) ⇒ PAD DOMINUS SP BI-WIER 3m ⇒ B&W Signature 800 (以降はS800と表記) このようにシステムに組み込んだ『SC-7S1』と『SM-9S1』だが、バーンインをするどころか電源投入直後から異彩を放つ演奏を開始した。 私はこれまでにもゲルギエフ指揮によるキーロフ歌劇場管弦楽団のヴェルディ:レイクエム(UCCP-1026/7)やストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》(UCCP-1035)なども聴いてきたが、 これらの作品はオーケストラの録音手法というか傾向についてはこれまでのものと一線を画する相違点があると感じている。 各パートの楽音はオンマイクで録音しているかのように鮮明であり、同時にしたたかにホールエコーを十分に含み空間表現に優れている。 しかし、GRAMMOPHON、DECCA、PHILIPSなどの同じUNIVERSAL系の他のレーベル、いやそれ以外のクラシック・レーベルでの録音による質感とは確かに違う個性を持っているのである。つまり、どんな再生装置で聴いても聴き疲れしないような、ある意味では焦点を曖昧にすることで感じられる楽音のフォーカスを大きめに設定しての音像の演出が一切ないのである。 従って、再生側での問題があればたちどころに聴き手にその違和感を伝えてくる。 特にゲルギエフ&キーロフの図式によるオーケストラでは弦楽パートのストレス感によって問題点の指摘が行われる傾向があると考えている。 さあ、アンプ以外は当フロアーのリファレンスシステムであり、つないだばかりの『SC-7S1』と『SM-9S1』がそこに組み込まれてくるみ割り人形「序曲」の演奏が いよいよ始まった。 「おい・・・、どうしたということだ!? こんなアンプは今までに聴いたことないよ!!」 そこに現れたキーロフ歌劇場管弦楽団の弦楽パートの質感はまったく経験がないものだった。ややもすると硬質に聴こえてしまう1st/2ndの両ヴァイオリンが、『SC-7S1』と『SM-9S1』に変えた瞬間から 過去に例がないほどに透明度あふれるスムーズな質感に豹変しているではないか。 今までJEFFROWLAND COHERENCE2をプリアンプとして、同社のMODEL 12(260万円)はもちろんのこと、 HALCRO dm68(550万円)Audio Physic Strada(220万円)Arir WT350XM(400万円)などの堂々たるパワーアンプ群とのコンビネーション、 そしてGOLDMUNDのフルMillenniumシリーズと、S800が発売されてからというもの錚々たるハイエンドモデルのアンプで鳴らしてきたのだが、こんな質感は初めてだった。 そして何度も打ち鳴らされるトライアングルの打音の瞬間の鮮明さと、その余韻感が背筋に寒気を覚えるほどのリアルさで眼前にきらきらとエコーを散乱させていく。 「芯のある柔軟さ」とでも言ったらよいのだろうか、鮮明でありながらストレスが皆無の演奏にただ引き込まれていく。 当日セッティングに来られた日本マランツ株式会社のAV事業本部・商品企画部の澤田龍一氏に対して、 昨年9月のS800との出会いの時のように私は矢継ぎ早に数々の質問を投げつけていったのである。 |
2.「どんな人たちが作ったのか!?」 私が冒頭で述べているように音楽と芸術も人で語られるものだが、私が澤田氏に真っ先に質問したのが開発スタッフのことだった。 つまり、過去のmarantzのアンプに対して残念ながら私が評価できなかったが故に、それらの製作者とは感性も技量も違った人たちでなければこのような作品を作り出せるはずがない。弁舌さわやかに早速澤田氏の回答があった。
「このセパレートアンプの構想は、 1997年の暮れに私が“B&W” に呼ばれて次期モニタースピーカー 『Nautilus 800』シリーズの プロトタイプを見せられた時から スタートしました。」 川又: 「お〜、ということは開発の起源としては 5年前に遡るということですね。」 澤田: 「翌年の1998年にはロンドンのアビーロードスタジオでNautilus 801x5台による マルチチャンネル・デモンストレーションを経験し、アラン・パーソンズと夕食を共にしながら、 新モニタースピーカーを設置した新しいスタジオで未来のサウンドデザインについて話を聞き、 この飛躍したスピーカーを駆動するアンプはどうあるべきか漠然と考えていました。 この年の夏、待望のNautilus 801の1'stサンプルが届き、そのとてつもないパフォーマンスと 容易ならざるドライブの困難さに、それまで積み上げてきたアンプの考え方を、根底から考え直す 必要性を強く感じました。その3年後、さらにSignature 800の登場となったのです。」 川又: 「なるほど、私もNautilus 801の登場には度肝を抜かれたものですが、そこからスタートしていたわけですね。」 澤田: 「一方マランツでは、フィリップスと共にかなり早い時期からスーパーオーディオCDに取り組んで いました。1997年には、4倍速CDでSACDと同等の記録密度の実験を始め、翌1998年には DSDフォーマットの実験機が完成していました。こういった状況も、いち早く次世代オーディオ に対する取り組みができた要因です。他社よりも早くオーディオの最先端に接し続けてきたことが、 今回のセパレートアンプのフィロソフィー形成に大きく影響しています。 2000年には、ベースとなる技術の実験を始め、2001年初頭にプランをまとめて具体的な開発に入り ました。プロトタイプはその年のインターナショナル・オーディオショウよりサウンドデモに用い、 改良を加えながらその都度オーディオ・エキスポ、大阪オーディオ・セッション、翌年の名古屋、 九州の両オーディオ・フェスタで披露し、満を持して今回の発売にこぎつけたのです。 生産は岩手県の弊社工場で行われ電気、機構の両設計者自らが立ち会って指導確認し、量産品は ランニング試験がかけられ、品質保証部によってチェックされた後、最終音質検討セットと音質比較 されて、初めて出荷となりました。」 川又: 「そうでしたか。さすがに日本製ということできめ細かい配慮が伺えます。 それで肝心な設計陣は・・・!?」
「このアンプの電気回路のベースと なるところは、永年マランツのHi-Fiアンプ を設計してきたAV事業部技術部 マネージャーの宮崎が開発しました。 彼は1970年代からマランツのアンプを 設計し、一時他社に武者修業に出ました が1987年ころからまたマランツに戻り、 中高級Hi-Fiアンプの設計を一貫して 続けてきました。HDAMや電流帰還型 アンプ回路は彼の手によるものです。 しかし2001年大変残念ながら定年を 迎え、新セパレートアンプの完成は後任に託したのです。」 川又: 「なるほど、これまでの御社のアンプに対する認識を私も少し変えなければなりませんね。 失礼しました(笑) しかし、先輩諸氏の努力はもちろん認めるところではありますが、私の経験からしても海外の ハイエンドスピーカーに対して国産アンプがいかに非力であったか。言い換えれば自社のアンプを 設計する上でターゲットとするスピーカーそのものを理解する努力がこれまでの国内メーカーには 不足していた感があると思います。それで・・・」 澤田: 「宮崎の後は、同部の若い更科が引き継ぎました。彼は真空管アンプのレプリカモデルを担当し、 その後真空管プリメインアンプのModel 66を手がけ、宮崎の指導を受けながらエントリークラス のプリメインアンプPM6100SAや、PM8100SA(ローコストモデルながら最先端の技術を駆使して 人気モデルとなりました)等を担当した異色のエンジニアです。 彼に随時、岡本、大竹などのエンジニアがアシストとしてサポートする体制で完成させました。 プロ機器開発出身の大竹のアイデアは瞬時電流供給能力向上に大きく寄与し、岡本は デジタルコントロール部分に対する効果的なノイズ低減を行ないました。 外装筐体などの機構設計は、これもHi-Fiモデルのベテランである山川が手がけました。 こういった機構部分は電気ほどには注目されませんが、音質的に大きなファクターであることは 間違いありません。求める通りに機構設計をアレンジしてくれる彼の存在は、無視できないものです。 デザインはデザイン室長の佐藤が担当しました。 ブランドの歴史からくるさまざまな制約の中で、彼は常にマランツの質感の追求をし続けてきました。 まさに、川又さんのおっしゃっている通りです。商品企画は前年商品企画部に移動してきたばかりの 若い松井が担当し、このプロジェクトをよくまとめてくれました。」
「そうですか。デザインに関しては私の思い入れ でもありますね。 実は、私が今回の新製品を日本で最初に販売した お客様からデザインはよろしくない…、と言う コメントを頂戴したものですが、それに対して私が お客様に回答したことをおっしゃっているわけですね。 つまり、デザインがお気に召さないのは残念ですが、 では、どのようなデザインがマランツらしいとお考え でしょうか?メーカーとしてのアイデンティティーを考えると、誰が見てもマランツと思えない ようなデザインにしたとしたら、マランツが作ったという意味、音質的には大変高く評価して頂き 気に入って頂いた新製品の存在感を根底から否定することになってしまうのではないでしょうか? とお客様に申し上げたわけですね。つまり、私が前述しているように作者である人間の感性と個性を 商品として認めていただければ、デザインに対する各論としての欲求不満は、少なからず解消する ものと私は考えています。」 「あっ、ごめんなさい。しゃべりすぎましたね(笑)続きをどうぞ」
「ここまでの話しで既にお気付きと思いますが、 私は全体の構想を担ってきました。 私のマランツブランド製品に関する直接の職分は、 音質担当スペシャリストです。 従いまして音質に関してはすべて私が責任を 持っています。とはいっても私が直接設計を行うわけ ではありませんから、設計者がいかに私に信頼を おいてくれるかにかかっているわけです。 宮崎とはコンビを組んで15年、更科とは5年に なります。私のもう一つの職分B&Wに関してはご承知 の通りです。社内でB&Wをもっとも熟知している私が、いかにしてこれらのすばらしいスピーカーの 能力を引き出せるアンプシステムを実現するか。その中でコンプリート・バイアンプも考えました。」 川又: 「なるほど、了解しました。それでは今回の新 製品を企画する上で従来の御社のアンプとは一線を 画するというコンセプトとは、どういうものでしょうか?」 澤田: 「マランツは、新世代ハイデンシティ・デジタルオーディオであるSACDプレーヤーの開発をいち早く 手がけ、同時にアンプの" Super Audio"対応化を<進めてきました。またスピーカーにおいても、 B&W Signature 800のような正攻法で" Super Audio"に対応したモデルが発売されています。 この素晴らしいスピーカーのパフォーマンスを充分に発揮させるためには、聴感上のS/Nと 音場再現性、高いドライブ能力を有したアンプが必要となります。 マランツは、こういったデジタル新世代のプレーヤー/スピーカーの実力を最大限に生かすため、 最先端技術"Absolute SA Technology"を盛り込んだセパレートアンプを開発しました。 当然のことながら従来CDについても高いパフォーマンスを発揮できることは、いうまでもありません。」 川又: 「ですよねぇ。私は通常現行方式のCDをいかに素晴らしく再生するかということで、このフロアーの 音質を追求してきました。そこで『SC-7S1』と『SM-9S1』が、これだけの演奏を聴かせてくれた のですから、既に何ら疑いの余地はないものと思います。では、過去のマランツのアンプと端的に 言ってどこが違うのか開発におけるコンセプトをお聞かせ下さい。」 澤田: 「開発にあたってのテーマを以下の3つ設定しました。 ・ハイデンシティ・デジタルオーディオ"Super Audio"に本質的に対応 ・2chからバイアンプ、マルチチャンネルまで視野に入れた発展性 ・ハイエンドのリファレンススピーカーであるB&W Signature 800が、アンプに対して要求する スペックをクリア モデル名はマランツの伝統モデルMODEL 7/MODEL 9を受け継ぎ、ステレオコントロ−ルアンプ 『SC-7S1』、モノーラルパワーアンプ『SM-9S1』としました。」 川又: 「本当に端的なご返事でしたね(笑) でも外見から音響工学的なデザインの意味を推測することの出来るスピーカーという分野とは違って、 エレクトロニクス・コンポーネントの技術的な解説に立ち入っていくと多くのユーザーがあくびを漏らして しまうものです。私も、もう一度演奏を聴いてもいいですか!?」 澤田: 「どうぞどうぞ…(笑) |
3.「音場表現と行進曲」 さて、「くるみ割り人形」を聴き進めていく。3トラック目はおなじみの「行進曲」となる。木管楽器が一定のリズムを繰り返し、それを右チャンネルのコントラバスのピチカートが深みを増してサポートする。 瞬間的にきらめくように短時間でミュートされるシンバルは十分な明るさを持って響くのだが、何とも刺激成分が含まれていないので爽快な鳴り方となる。 この演奏では弦楽と管楽器がひとつの楽器のように連繋しながら音階を駆け上がるパートがあるのだが、ゲルギエフがもたらす激しさというか緊張感なのだろうか、 右から左側に彗星のように瞬時に流れていく弦楽器群は緊密に絡み合って展開する見事な余韻の尻尾を引いている。 その彗星が飛翔する空間には何も残存物を残していかないのでフェストシュピールハウスのステージが見晴らしよく眼前に展開するようである。しかし、そこにも未体験の音が!? 「ちょっと待ってよ!! 今までの鳴らしてきたS800よりも広がっているのはなぜ!?」 私がここでセッティングしているS800の左右のトゥイーター間は約2.8メートル、そしてトゥイーターからソファーに深く腰掛けての耳までは約4メートル。 キッチリと90°のクロスセッティングを施している左右S800の主軸の交点は前方2メートルの位置にある。 それを前方から監視していると、オーケストラの左右への展開は今までになく広がっているではないか。 そうそう、目視で両翼への余韻の広がり方を観察すると、トゥイーターという音源位置よりも左右に30センチずつは音場感が拡大しているようだ。ここで一言付言することがあるとすれば、音場感が広がっても音像の大きさやフォーカスイメージは一層の解像度が発揮されていてぼけることがないということだろう。 例えれば、テレビコマーシャルで伸び縮みするストレッチ素材によって作られた湿布薬をタレントが引き伸ばすシーンを見かけたものだが、 仮にそのような白い湿布薬に図柄を書いてから引き伸ばすとする。それらの図柄は伸縮性のある生地が引き伸ばされるたびに変形しゆがんでしまうが、 SC-7S1とSM-9S1による音場感の拡大はそうはならないのである。 つまり、伸縮性のある生地に書き込んだ図柄ではなく、楽音という図柄のステッカーを貼ってあるので下地の生地がいくら引き伸ばされても ステッカーそのものの大きさとフォーカス感はそのままで背景だけが拡大するということだ。 しかし・・・、一体今までに使用してきたアンプと何が違うというのだろうか? ここで過去の類似体験を頭の中の記憶のファイルから探し出してくると、そう、同様な分析と評価を確かに行ったことがあった!! 何年も前から度々質問され、今でも同様な問い合わせが多い単純なモノ選びのポイントがある。 年代は遡るが原理としては今も変わりないのだが、次のような実例をまず思い出して頂きたい。 例えばJEFF ROWLANDで言えば MODEL 6(150W/ch〔8Ω〕170万円)とMODEL 8Ti(250W/ch〔8Ω〕220万円)・・・〔※両者共に生産完了〕、 またMarkLevinsonではNo.436L(350W/ch〔8Ω〕220万円)とNo.336L(350W/ch〔8Ω〕200万円)、 KRELLでは350Mcx(ch/350W〔8Ω〕240万円)と400cx(ch/400W〔8Ω〕200万円)、そして、 GOLDMUNDではMIMESIS 28.4 M EVOLUTION (ch/200W〔2-8Ω〕250万円) とMIMESIS 29 M(ch/250W〔2-8Ω〕250万円)ということになるが、 これらの対象比較は何を示しているものだろうか? そうです。これらは同一メーカーでありながら近似した価格、 近似したパワーを有している前者モノブロックパワーアンプと後者ステレオアンプという比較なのである。そこで皆様から当然のごとく頂いた問い合わせとは・・・・・。 「川又さん、同じような価格帯でモノとステレオがあるけど、どう違うの??」 同じような疑問を持たれた方も多いと思うが、私はこれらを自分のホームグラウンドで実際に同時比較することで各々の特徴を捉えてきた。 同じメーカーであり同じ設計陣が開発したものであり、モノかステレオかという違いは再生音の中で楽音そのものの質感は大きく変わるものではない。 当然ながら同じメーカーの個性が両者に聴き取れる。 しかし、同じメーカーでもモノアンプにした場合には発生する音場感の広がり方がステレオアンプに比較しても顕著に拡大されるのである。 言い換えれば楽音が発した余韻が広がっていく空間の大きさはモノアンプの方が左右、上下、奥行き感の各々の方向性に対して優位性があるということだ。 こう言うとステレオアンプのメリットが感じられなくなってしまうが、単純にボディーが一台で済むというスペースセービングをメリットのひとつとして考えても良いだろう。 スイスのFM ACOUSTICSは数百万円もするトップモデルでもステレオアンプという構成を貫き通しているが(例外として限定生産のFM2011 2.500万円とF50B 512万円があるが)、 他のほとんどのメーカーではフラッグシップモデルとしてはすべてモノブロックが主流となっている。 単純なことなのだが、モノブロックにすることでチャンネルセパレーションは完璧といってよいくらいに改善されるわけであり、 左右各々のシグナルパスが完全に別筐体のアンプによって伝送されるということが、微細なクロストークを排除し結果として認識できる音場感をより広大に再現するということだ。 当然、今までS800を鳴らしてきたパワーアンプもすべてモノアンプだった。 しかし、今回の『SM-9S1』もモノラルアンプであるのに、なぜmarantzのペアにした途端にこれほど音場感が拡大されるのであろうか。 「と、いうことは・・・これは・・・、もしかしたらプリアンプにおけるチャンネルセパレーションの違いが出たということか!?」 川又: 「澤田さん、私はチャンネルセパレーションが音場感の拡大に影響しているということを体験してきまし た。それが今ここで演奏されたSC-7S1とSM-9S1の音質に同類の傾向を感じましたが、 モノアンプの『SM-9S1』は従来通りの考え方でいいと思うんですが、 『SC-7S1』のチャンネルセパレーションには何かこだわりがあるんですか?」 澤田: 「川又さん、実にいい質問をしてくれました!!」と、待ってましたとばかりに・・・。 澤田: 「プリアンプの設計において、"Super Audio"の帯域を、周波数特性、位相特性、 歪み特性、S/N比など、スペック的に確保することは特別に困難なことではありません。 しかし、クロストーク(チャンネル・セパレーション)については、ステレオアンプでは 重要なスペックであるのにも関わらず、今までスペックとして表示されてきませんでした。 優れたCDプレーヤー(D/Aコンバーター)では、クロストークは100dB(20〜20kHz)以上あります。」 川又: 「はい、承知しています。私もアナログとデジタルの違いでアナログが絶対に有利な周波数特性と、 デジタルが絶対有利なクロストークの双方を解説に使ったことがありました。 このクロストークの違いがアナログとデジタルの聴感上での本質的な違いになっていると私は考えて います。決してアナログが高い周波数まで含んでいるから絶対的にアナログがいいという論理には 反対なんです。あっ、ごめんなさい。話がそれてしまいました(笑)」 澤田: 「いいえ。さて、“Super Audio”ではもちろん20kHz以上についても問題となります。 これに対してアンプ側の実力はどうでしょうか。中級のステレオ・プリメインアンプでは、相当良いもの でも60dB(20kHz)、45dB(100kHz)くらいです。弊社のステレオプリアンプSC-5/Ver.2(68万円)では 70dB(20kHz)、55dB(100kHz)で、これはかなり良い数値ですが、それでも送り出し側の性能とは 隔たりがあります。 私たちはアンプのクロストーク特性が、送り出し側を上回ることを目標としました。 また当然のことながらパワーアンプを強力にドライブするために、充分な出力性能も必要です。 S/Nについても数値の追求のみでなく、聴感を重視しました。」 川又: 「なるほど、目標が従来の比ではないということですね。 今私が体験した再生音でここまで感じ取れるほどの音場感は、やはりモノアンプの原理と同じく チャンネルセパレーションの貢献が大きかったということですね。それで目標は達成できたのですか?」 澤田: 「実測でクロストークは、20kHzにおいて105dB(S/Nの限界)、100kHzでも95dBに達し、 設定した目標をクリアできました。」 川又: 「えっ、御社の従来比で何と100倍ですか!! いや、凄いですね。 二つの音源の間に中間定位を発生させ、三次元的な臨場感を実現するためには各々のチャンネル から発せられる信号の純度が問題です。その純度が反対チャンネルから漏れてきた信号によって 混濁してしまっては、正確な位相の管理も出来ないでしょう。ステレオフォニックとは二つの音源から 発せられた信号の周波数特性、音圧レベル、位相の三つによって定位感を認識する、人間の 「双耳聴感効果」を言うわけですが、その各項目についてチャンネルセパレーションの影響が それほど大きいということですね。 いや、しかし、100kHzで95dBは驚きです。」 川又: 「さて、何だかSC-7S1にはまだまだ語るところがありそうですね。 プリアンプの存在感については、私は他の視点からもお客様にアドバイスしてきたことがありますよ。」 澤田: 「なんでしょう。ぜひお聞かせ下さい。」 川又: 「はぁ、でも、その前にもう少し聴かせて下さい。」 澤田: 「どうぞどうぞ…(笑)」 |