第五十話「Made in Japanの逆襲」


★ 新趣向 ★

約10年間の歴史を持つ本随筆は今まで私の思いのたけをあるがままに表現してきたが、私の、 自分に嘘をつけないというビジネスに対する姿勢に見事に共鳴するユーザーが日本各地に現れてきた。
つまり、同様に自分に嘘をつけないハイエンドユーザー達である。いいものはいい、と妥協を許さないユーザーに共著を依頼したのは自然な流れでもあった。 その声とは・・・。


6 国内初オーナーの声を拝聴(福井県S様より特別寄稿)

思い起こせば、ほぼ1年前の昨年夏、Dyna5555.H.A.L.I及び川又利明氏の存在を知った。
といっても、実際に訪れたわけではない。Web上で単にその存在を知ったに過ぎない。
しかし、Web上で公開されている随筆には、川又氏の明快な理論と豊富な経験に裏打ちされた世界が、的確かつ偽りのないタッチで記されていた。 そして何よりも、その随筆には、オーディオに対する情熱的で真摯な姿勢が満ち溢れていることに大変魅力を感じた。
そのころの私は、ある程度のシステム(総額1,000万超)を組み、結構自己満足していた。 しかし、その反面、「これだけ投資してもこの程度か。オーディオとは所詮この程度のものなのか。」という、 ある種あきらめめいた感情を拭い去ることができないでいた。
これまで自分ながら結構投資もし、オーディオ歴25年の経験をシステムに反映してきたつもりだったが、この路線の延長線上の行き着くところを内心では直感的に察知していた。 このままでは、たとえ機器を相当な高額機器にグレードアップしていこうとも先が知れている、オーディオの終着点がその程度では何とも寂しいものだ、などと思っていた。 つまり、オーディオに半ば失望しながらも、内心では現状を大きく突き破る何かを求めていた、いや癒されることのない渇望を常に抱いていたといった方がいいかもしれない。 そんな状態が続いていたころに、Web上での出会いがあったのである。
ほどなく、ハルズサークルに入会し、サークルの皆様のレベルの高い生の声や川又氏の高度でありながら楽しいレポートなどを読むうちに、 「よし、この人に私のオーディオをいっちょ託してみるか。」という軽い気持ちで、内容的にはかなり重い相談メールを送ったのである。
それまでのシステムでも、音域バランス、定位、迫真の再生などオーディオ的な項目はかなりのレベルに達していたと思う。 しかし、「空間表現」この一点だけは全く満足できるレベルではなかった。 いや、オーディオを突き詰めていくほどに、だんだんこの欠点が浮き彫りになってきたのである。特に奥行に関しては奥で鳴っている「感じ」がするだけなのだ。 つまり、再生が平面的である。平面上に描かれる絵としてはかなりのレベルではあるが、所詮「絵画」なのである。「絵画」の中での奥行感なのである。
私としては、「前後左右に立ち並ぶ音の彫像群」といった再生を夢想していた。本当のオーディオを極めればそんな再生も夢ではないと期待していたのである。
 さて、川又氏の返答は、ある意味衝撃的であった。
「お持ちのスピーカーでは、お望みの再生は不可能です。」
ひとつ間違えれば、失礼とも取れる返答だった。人によっては、これによってへそを曲げる方もいるだろう。
しかし、スピーカーについては、私も実は薄々そう感じていたので、こちらの本心を見事に的中させ、あまりに遠慮なくスッパリ切り捨てるその物腰に、 かえって虚飾のない潔さと底知れぬ自信を感じた。
「よーし、そこまで自信があるなら、乗り込んで聴いてみるか。」ということで、H.A.L.Iを訪問した次第である。
H.A.L.IのNautilusでの再生は、多様な音の表現力、音色など全く格が違った。 オーディオ的には、全く非の打ち所がない。しかし、この点は予想の範囲内だった。予想をはるかに超え、私の脳髄に焼き付いてしまったのは、空間表現である。
奥のほうで鳴っているべき楽器が完全に奥で鳴っている。各楽器が鳴るべき位置で実在しながら、最上のハーモニーを前後左右に響かせている。
 オーディオはイリュ−ジョンの世界であるとよく言われるが、ここまで完璧に近いイリュージョンを再生し得るとは思いもよらなかった。 ああ、自分のシステムの音はなんと薄っぺらな音なのか、そして、オーディオとはかくも素晴らしいものなのだ、 まさしく、私はこの方向の再生を思い描いていたのだ、やっと見つけた、といううれしさで心が満たされていた。
この方向性、このレベル、それ以来私は川又氏に絶大な信頼を置くようになった。ただ、私とても一介のサラリーマン。 金にいとめをつけず、などということは到底できない。信頼を置きつつも、実際に試聴して完全に満足しないことには、おいそれと購入などできないのである。 しかし、よくよく考えてみれば、もし一生オーディオを続けるのなら、一生モノの機器をドンと買って、一生それを聴き続けた方がトータル的なコストパフォーマンスは高いと思う。 目先の損得で機器を購入しても、また買い替えてしまい、その買い替えが繰り返されれば、かえって投資額は大きくなってしまう。 実は川又氏と出会う前に、そのような辛酸を少なからず舐めてきたので、決断は早かったのである。心は決まった。
そんな中、スピーカー候補として抜群の光彩を放っていたのがB&W/Signature800であった。
川又氏の随筆で十分その実力を認知し、実際H.A.L.I に出向いてしつこいほどに試聴もした。
そして、購入を決めた。もちろん現在も我がシステムの要として活躍しているが、使い込めば使い込むほどに、その懐の深さには舌を巻く。 どんな変化にも敏感に反応し、かつ、こちらの予想以上にハイレベルな再生をする。 Nautilusの卓越した空間表現には一歩及ばないかもしれないが、一般家庭で使用するという現実面を考えると、Signature800がベストパフォーマンスであろう。
 昨年末、Signature800を導入して以来、このスピーカーを鳴らし切ることを至上命題にしてきた。H.A.L.IでのSignature800の再生を目標にである。
PAD/DOMINUS、Zoethecus、そして、ESOTERIC/P-0s。室内環境にも気を配り、QRD/Abffusor、Skylineも導入した。 再生が格段に向上していく。すべて、私の「この点をもう少し何とか。」というしつこいほどのメールに対して、川又氏がアドバイスをする、という繰り返しによるものだ。
確かに、結構な資金を投入した。しかし、よく考えるとここ半年にそれが集中しただけであって、結局同じ道を歩んだだろうな、と思う。 それほど川又氏のアドバイスは的確で一貫性がある。決してあっちの製品こっちの製品にふらふらと指針が揺れたりしない。
 さて、残るは前々からの懸案、アンプ導入である。実はこれまでプリアンプは使用しておらず、Elgar plus1394からパワーアンプ直結で聴いていたのである。 自分としては、空間表現を最も重視し、H.A.L.I で聴いた、GOLDMUND /Millenniumシリーズの音の屹立した感じが出たら最高だ、という選択基準はあった。 その基準の中での第一候補として、頭の中ではJeff Rowland DG/SynergyIIiとModel12を最有力候補としていた。 Jeff Rowland DGの音質傾向はH.A.L.Iで確認済みだったので、ほぼ決定事項だった。・・・ただし、つい最近までは。
 その予定を一気に覆すアンプが登場した。なんと国産である。
更にJeff Rowland DGペアよりも大幅なコストセーブになる。なんとうれしいことではないか。
 私は、以前から国産製品を内心応援していた。かつては国産製品を中心にシステムを組んでいた。 しかし、どうしても海外のものと比べると、その音質、訴求力、ポリシーといった点で見劣りがしていた。 次第に国産に対する触手が動かなくなっていたのである。
 しかし、このmarantzアンプはその先入観を払拭して余りある十分な実力を持っていた。 音質、コスト、サービス性、三拍子揃ったアンプの登場、marantz SC-7S1/MA-9S1である。 何という自然な質感!何という空間の広大さ!音の存在感・密度感も十分。特に欠点は見当たらない。 これを聴いてしまうと、今までのアンプにはなんと癖があったことだろう、と思ってしまう。 その癖にはまればいうことなしだが、このアンプはそんな音色の好みという次元を明らかに超越したものがある。
実はmarantzを購入するにあたって、プリアンプについてはJeff Rowland DG/SynergyIIiと比較試聴させてもらったのであるが、以下はその試聴記である。

試聴CDを「ゲルギエフ/くるみ割り人形(全曲)PHCP-11132」に固定して、聴き始めた。
marantzのSC-7S1、MA-9S1のペアからは、本当に何のストレスもなく音が出てくる。極めて自然な感じで音楽が理想的に展開していく。 そして、今まで聴こえなかったほんとに細かい音がはっきりと認識される。かなりの超高分解能、超広帯域、超高S/N設計なのだろう。 そして、モノアンプということもあってか、セパレーションのよさ、音場の広がりも十分感知された。
しかし、あまりにもスムーズ過ぎて、ちょっと物足りないような…。もう少し音がシャキッと屹立してほしい感じもやや受ける。 以前は、ホーン型スピーカーの険しい音を聴き、一時はその音調にしびれていた私からするとどこにも全くひっかかりのない音というのは、やや違和感を覚えてしまう。 そこで、プリをSynergy II i に換えてみる。パワーはmarantz/MA-9S1のままである。 大変贅沢な聴き比べだが、こんなことができるのは、H.A.L.Iだけだろう。
さて、Synergy II i は・・・、いい感じである! 川又氏の言っていた独特の素晴らしい「輝き」がはっきりと認識される。低域の輪郭感も良好。こりゃあSC-7S1、負けたかな!?やばいなー。 と思いながら、しばらく聴いていて、だんだん分かってきたことがある。先程のSC-7S1のときは自然な感じに聴こえていた音が、 Synergy II i 特有であり、長所でもある例の「輝き」に照らされて、やや一本調子になる印象だ。
また、Synergy II i はかなり音を立てて表現するタイプであること、誤解を恐れず、 ものすごく極端に言えば、非常に高度なドンシャリ傾向で、すべてSynergy II iの音調の枠内で鳴らしてしまう感じである。
でも、この音調は、H.A.L.I で聞いたGOLDMUND /Millenniumシリーズの音調と似通うところがあって、私には大変好ましく思える。
特にシンバル系の音調には、非常にハッとさせられるほど鮮明で得がたいものがあると思う。
金属系の音と、低域の密度感はSynergy II i か・・・。いや、でも全体に少し金属臭がつきまとうのがやや気になるが・・・。
再度、SC-7S1に接続しなおしてみる。やはり、大変スムーズな音。
SynergyIIiの高度なドンシャリに比べると、中域重視の超広帯域という感じ。しかし、不思議なことに、先程よりは物足りないという感じが減ったようだ。 出るべき音はちゃんと出ているし、音色もこちらのほうが自然な感じである。特に弦の音色が金属的にならないのがよい。木管も自然でまろやかである。
何よりも一番の違いは、空間の広さだ。特に前後感がSynergyIIiに比べてかなり上。奥行の深いこと!
Synergy II i はSC-7S1に比べるとやや粒子が粗く、ギスギスした感じに聴こえる。 また、高域と低域にやや作為(癖?)を感じる。音の出方に若干のストレスを感じるのである。
音の好みだけで選べば、SynergyIIiに魅かれる部分は多分にある。私がJAZZを好むのならSynergy II i にするだろう。 しかし、音場の3次元的広がり、音色の自然さではかなりSC-7S1の方が上。結論として、すべてにおいて完全に上回るわけではないが、 トータルポイントでは、SC-7S1に軍配を上げる。
 翌日、Synergy II i は完全に外して、SC-7S1、MA-9S1のmarantzペアに固定して本格的に試聴。
CDはやはり「ゲルギエフ/くるみ割り人形」。
うーん、昨日よりも抜けがよろしい。音も結構立ってきた。自分としては誠に好ましい方向にいっている。昨日よりも更に雑味がなくなった感じ。 何といっても透明度が増した。確実にバーンインが進んでいるようだ。SC-7S1の空間の描き方は、Synergy II i と比べると、概して中高域はオフ気味に展開するが、 それが奥行の深さにつながり、広大なホール感を味わうことができるのだろう。
しかし、音によってはもっと前に出てきて欲しいときもあり、正直、その点でやや物足りなさを感じていた。ただし、昨日までは・・・。
今日聴いて、中高域はオフ気味、という印象は全く消え去った。 トラック3のやや過多に収録されているサスペンションシンバルが昨日まではややくぐもって聴こえていたのだが、今日はキリッと聴こえる。
しっかり金属の音だが、厚みを感じさせる音。理想的な金属音。トライアングルも鉄の棒の太さを感じる音。理想的。大満足!
これまでは、中高域に耳がいっていたが、落ち着いてじっくり聴くと、中低域も素晴らしい鳴り方をするようだ。 時折、中低域がリスニングポイントのあたりまでフーッと伸びてくるのを感じる。 それがまた、えもいわれぬ快感である。ものすごく自然ではあるが、ものすごく広大な空間表現。
奥行ばかりでなく、前にも音がひたひたと漂ってくる。
今までオーディオの再生を聴いていて、こんな感じは体験したことがない。
自然な中低音がこちらに伸びてきて、更に身を包むような感じというのは、まさしく、ホールで聴いているあの感じに近いものがある。 それに気付いてからは、次にそういう感覚に襲われるのを待ち望んでいたりする。まだどのあたりで聴ける、 と言えるまで聞き込んでいないが、それは突然やってきて、あっと思った瞬間には消え去っていたのである。
それと、今日改めて気付いたのだが、スピーカーにまとわりついてなかなか離れなかった音が、本当に空間に浮かぶ感じになってきた。 今までもかなりそのような感じにはなってきてはいたのだが、これほどスピーカーから遊離して鳴っている感じではなかった。
SC-7S1/MA-9S1の空間表現は並ではないようだ。
実はこのmarantzペアに対して、B&W専用、あるいはSignature800専用のアンプ、という先入観を抱いていたが、 この実力からすると他のスピーカーをも素晴らしく鳴らすポテンシャルを秘めているのではないだろうか。
これで、我がシステムも一応のおさまりが付いたようだ。整理すると、

《オーディオ機器》
dCS/992II > Esoteric/P-0s > dCS/Purcell1394 > dCS/Elgar plus1394
> marantz/SC-7S1 > marantz/MA-9S1 > B&W/Signature800
《その他》
  • ケーブル類・・・PAD/DOMINUS、TANTUS、ISTARU、dCS付属クロックケーブル
  • ラック・・・zoethecus×2
  • タップ・・・AudioReplas/SBT-4SZ×2(PAD/CRYO-L2に換装)
  • 壁コンセント・・・PAD/CRYO-L2(コンセントプレートAudioReplas/CPP-2SZ)
  • Esoteric/P-0s、dCS/Elgar plus1394、marantz/SC-7S1にPAD/T.I.P.使用
  • Elgar plus1394にRELAXA2PLUS使用
  • Signature800にBrassShell(試作品)使用
  • Esoteric/P-0sにAudioReplas/ OPT-100HG/FLAT HR×4使用
  • dCS992IIにAudioReplas/OPT-1HR×4使用
  • ACOUSTIC REVIVE/SuperEarthLinkRE-9
  • QRD/Abffusor、Skyline
  • RoomTunes/エコーチューン、コーナーチューン
  • GoldenSound/ACOUSTIC DISC
システムの定価総額では一年前のほぼ2倍になったが、極めて確実な実効性のあるグレードアップであった。再生音も著しく向上した。 ただし、ハルズサークルの特典を最大限に使ったので、実際の投資額はかなり縮小されたのだが・・・。
それにしても、プリ1台、パワー左右1台ずつという通常の使用でこの音質ならば、川又氏の推奨するコンプリート・バイアンプでの再生は一体どうなってしまうのだろう。
またまたH.A.L.Iを訪問したくなってしまった。