《H.A.L.'s 訪問記》
No.0012 - 2008/7/20 静岡県熱海市 S.I 様-H.A.L.'s 訪問記 Vol.12「いくつかのCDを演奏することでぐいぐいと分析されていく様は圧巻でした!!」 今となってはもうすっかり顔馴染みのS.I 様ですが、ふとコンピューターに 残されているプロファイルを改めて見直すと、何とハルズサークルにご登録 頂いたのは2000年ということですから大分以前からのお付き合いということに なりましょうか。 この訪問記にてご紹介している皆様は一つのコンポーネントをお求め頂いた ことからお付き合いが始まったというケースが当然多いのですが、S.I 様の 場合にはシステム全体を大変計画的な経過をたどって一新されたものでした。 「川又さん,いつも楽しみにメイルを読ませていただいてます。ぜひそのうち に試聴室にも伺いたいと思います。」 ということで入会以来四年間、ずっとH.A.L.'s Circle Reviewをご愛読頂いて いたものでしたが、そのS.I 様が五年目にして遂に行動に移られました。 そうです、ちょうど“Friday concert”がスタートした時期でした。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0211.html ■この時より将来のオーディオルームの構想をお持ちになっていた訳ですね。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0220.html ■はい、スピーカーと自分との相性は聴けば聴くほどわかってくるものですね。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0229.html ■S.I 様曰く「結果は...知らなければよかったと後悔半分です。(^^ゞ」 by GOLDMUND http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0267.html ■しかし、第一候補が決まっても他のスピーカーで確認して頂きましたね。 このように将来の構想に向けて半年間以上の時間をかけて“Friday concert” に参加して頂いたり、お一人で音質を確認しにご来店頂いたりという情報収集 を熱心に続けておられましたが、何と遂に↓その時が…。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/421.html ということで、2006月6月のこと、値上げ寸前のNEOをお求め頂きました!! それまでの体験と評価によって、同年8月にはGOLDMUND MIMESIS 24MEと同社 TELOS 600をNEOに合わせて試聴確認の上、これまた“Friday concert”での 試聴を元にフロントエンドには ESOTERIC P-01とG-0sを決定されました!! この時点ではご自宅は世田谷区にあったもので、将来的にご自宅の新築と念願 のリスニングルーム建設まで当社で預かり保管させて頂く事になりました。 そして、それから一年後の2007年8月末に一日がかりで納品とセッティングに お伺いしたのが熱海市ということでした。では改めて構想五年、調査・検討 期間も一年以上をかけて決定されたシステム構成をご紹介しましょう。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ◆ H.A.L.'s 訪問記-Vol.12 静岡県熱海市 S.I 様システム構成 ◆ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC G-0Rb(税別\1,350,000./ G-0s+VUK-G0Rb) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/g0rb/index.html with Project H.A.L.C. H.C/3B (税込み販売価格 一台\660,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html □Power equipments□ Cryo Audio Technology IPT3000 <生産完了>(税別\858,000.) http://www.cryo-at.com/ipt/ipt3000.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-DA6100BNC(税別\240,000.) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7nda6000/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC P-01(税別\2,200,000.) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/p01_d01/index.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/576.html with Project H.A.L.C. H.C/3B (税込み販売価格 一台\660,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html □Power equipments□ Cryo Audio Technology IPT3000 <生産完了>(税別\858,000.) http://www.cryo-at.com/ipt/ipt3000.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ GOLDMUND Lineal Digital Cable 1.5m(税別\95,000.) http://www.stellavox-japan.co.jp/products/goldmund/accessories/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… GOLDMUND MIMESIS 24ME(税別\5,800,000.) http://www.stellavox-japan.co.jp/products/goldmund/ultimate/mimesis24.html with Project H.A.L.C. H.C/3B (税込み販売価格 一台\660,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/index.html □Power equipments□ Cryo Audio Technology IPT3000 <生産完了>(税別\858,000.) http://www.cryo-at.com/ipt/ipt3000.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ GOLDMUND Lineal Digital Cable 7.0m(税別\177,500.)MM24ME→TELOS600/Rch GOLDMUND Lineal Digital Cable 3.0m(税別\117,500.)TELOS600/Rch→TELOS600/Lch http://www.stellavox-japan.co.jp/products/goldmund/accessories/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… GOLDMUND TELOS 600+Alize 6 (税別\5,900,000. + 税別\800,000.) http://www.stellavox-japan.co.jp/products/goldmund/amplifiers/telos600.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"×2(税込み販売価格\114,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html □Power equipments□ Cryo Audio Technology IPT3000 <生産完了>(税別\858,000.) http://www.cryo-at.com/ipt/ipt3000.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ GOLDMUND LINEAL SP CABLE/2.5m(税別\206,000.) http://www.stellavox-japan.co.jp/products/goldmund/accessories/sp_cable.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… MOSQUITO NEO (税別 \4,800,000.) http://www.mosquito-groupe.com/ http://www.dynamicaudio.jp/file/050413/oto-no-hosomichi_neo.pdf http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto54.html and H.A.L.'s Original Products“B-board”×2(税込み販売価格\268,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html ……………………………………………………………………………… プロジェクターはVictor DLA-HD1をお求め頂きました。念のため(^^ゞ -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 2008年7月某日、S.I 様のご住所をwebの地図検索に入力すると、なるほど〜。 そして、同様に熱海までの路線を検索してみると…、新幹線を使えば東京から 47分で到着とな。昨年は各社を引き連れて車数台で納品に向かいましたが、 一人だけだったらさほどもかからないな〜。 まだ、梅雨明けしていない関東地方。しかし、当日は朝から晴れて気温もウナ ギ登りという朝、自宅を早く出て山手線では秋葉原を素通りして込み合う東京 駅に向かい久しぶりに新幹線ホームへと。 いつも出張の車中では本が読めるぞ、と張り切って乗り込むのだが不思議と 眠くなってしまうのだから仕方ない。熱海は車では何回も行ったことがあるが 一人で新幹線で行くのは初めてのこと。温泉地として鳴らした昔の面影も影を ひそめて駅の周辺でもシャッターを下ろしている店が今でも目に着く。 タクシーの運転手にwebから印刷した地図を見せると簡単に目的地がわかった。 急斜面を何度も切り替えしながら登っていくと、あっ、ここだ!!という間に S.I 様のお宅の前をちょっと過ぎてしまい、慌てて運転手にストップをかける。 玄関先を通過する一瞬にお待ち頂いているS.I 様の姿がちらっと見えたので、 私がタクシーを降りて近づいていくと笑顔でお出迎え頂きました。 周辺にはたくさんの保養所や有名人の自宅も多いが、最近は更地になったまま で買い手がつかない土地が多くなってきたという。しかし、そんな中でうらや ましいほどの絶好の敷地に建てられたS.I 様のお宅は、外壁がすべてガラス張 りという外観からして注目を集めるものだった。 古くからの土地であり大きな樹木が敷地に残されていて近代的な建物と対比を なしている。S.I 様のお宅ほ設計されたのは建築家 井口 浩 氏が率いる (株)井口浩フィフス・ワールド・アーキテクツであるという。 http://www.fifthworld-inc.com/ 先ずユニークなのが建物の外壁はすべてガラスでできているが、単なる温室 ではないという。名付けて「ソーラーウォールシステム」という外壁と内部の 間に空気層を設けて暖房の機能を持たせたものだという。イメージ図として 写真を撮らせて頂いたページがこれ。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/864.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/865.jpg へぇ〜、と思わず感心してしまうアイデアに近年のエコロジー思想が生かされ ているということだ。実際にひと冬を過ごされたS.I 様も冬の寒さもあまり 感じずに快適だったということで、斬新なアイデアとデザインのお住いの中身 にも感心してしまった。 二階から張り出した大きなベランダから熱海の海を一望できるという素晴らしさ!! 一枚では納まりきれないので二回に分けて眺望を撮影してみました。 うらやましいですね〜(^^ゞ http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/897.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/898.jpg その玄関の左側にこのような構造による大きな窓があります。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/908.jpg 実は、この窓の奥がリスニングルームになっているわけですが…、さて、昨年 お伺いしているので承知しているオーディオルームへと上がらせて頂きました。 まず、種明かしは後ほどということで、オーディオルームにいったん入って 振り返ると↓このように先ほどの熱海の海を向こうに見ることができる視界が この窓を通して得られるのです。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/835.jpg 上記の写真ではガラスドアと窓を兼用する下と同じものが上にも見えますが、 これは二階のリビングダイニングルームからの明かり取りであり、二階から 直接オーディオルームを見下ろせるようになっているもの。 さて、オーディオルームの入口を振り返り、更にそのまま天井を見上げると… http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/880.jpg ↑この写真の下に見えるのが二階から見下ろせるガラス窓になっていますが、 私はまっすぐ上にカメラを向けているという感じです。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/882.jpg そして、そのままオーディオルームの奥にカメラを向けていくと↑こうなります。 板張りの壁面にあずき色の布地がストライプに見える部分が吸音面です。 それが部屋の突き当りでは縦方向になっていますが、それを次第に下を見ると。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/831.jpg ↑このようにリスニングポイントの椅子が見えてくるというものです。つまり、 いったん入室して入口を振り返り、そのまま天井をひとめぐりして入口の反対 側である部屋の奥に視点を戻し一周したというものです。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_visi0009.html 同じMOSQUITO NEOを使用しておられる茨城県潮来市 R.N 様と同じように 基本的には石井式の吸音面と反射面の比率を応用したものだという。 S.I 様のオーディオルームは天井高5.0メートル、床面積は4.4メートル×5.5 メートルという大きさ。しかし、この天井は高く感じますね〜 お部屋に入って気が付いたこと。昨年の新築当時にはなかったものが目を引き ました。これは誰のだ〜!! http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/850.jpg 自筆のサインがバッチリされているユニフォーム、これは誰のと尋ねると!! 「FC東京のディフェンダー茂庭照幸選手です!!」 http://www.fctokyo.co.jp/home/index.phtml?cont=player/player&pprof_id=2 と、誇らしげなS.I 様から即答を頂戴した。昔からの大ファンだということで 歴代の監督や今は移籍してしまった往年のプレイヤーのサインも飾られていま した。いいですね〜(^^ゞ私の地元にもJリーグの柏レイソルがありますが、 どうもご縁がなくてプレーヤーの名前も知らないあり様ですから^_^;&(笑) さて、そろそろオーディオの話しに戻らないといけませんね〜(^^ゞ http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/860.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/846.jpg フロントエンドのコンポーネントたちはこのようにProject H.A.L.C. H.C/3B に収納されています。こと音質には絶対の自信があるラックとして以前の 訪問記でも多数紹介してきましたが、これからも信頼のおけるラックとして 皆様に推奨したいものです。写真のピントが甘くて申し訳ありません<m(__)m> さあ、ここで入口を振り返ってみましょう!! http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/868.jpg 左側です。パワーアンプTELOS 600のとなりにあるのがCryo Audio Technology のIPT3000です。また、S.I 様のコメントによりますと「オーディオ用の配電盤、 トランス、タップなどを含めたオーディオ電源周りの工事はすべて、川又さん のお客様でもあるKさんにお願いしたものです。私の部屋の音の根底は、この しっかりした電源に支えられていると常日頃実感しています。」という一言が ありました。 このKさんは都内足立区で「(有)K電気商会」という名称で営業されています。 S.I 様と同じ2000年にハルズサークルにご入会頂いており、ご自宅のシステム も私からお納めしたものでした。お仕事の実績として、オーディオ専用電源の 施工実績を多数残しているものであり、過去の訪問記でもご紹介しているもの でした。今回S.I 様から特に謝意を伝えたいということでズバリ表記はできま せんでしたがご紹介させて頂きました。ご希望の方にはご紹介致します(^^ゞ http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/870.jpg 向かって右側です。入口のドアをはさんでいますが、配線は床下に大きな溝と いうかピットが掘ってあり、電源ケーブルやデジタルケーブル、そしてスピー カーケーブルなども極力見えないように処理されている。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/874.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/873.jpg さて、次の写真は同様に左右のパワーアンプとスピーカーのスケール感を 二階の窓の高さと対比して撮影したもの。ここで入口の上にスクリーンが 設置されていることもチェックして頂き、S.I 様はDVDに関してはもっぱら プレイステーション3で再生しているという。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/877.jpg Cryo Audio TechnologyのIPT3000にもしっかりZ-boardを使用して頂いてます。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/854.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/859.jpg このようにNEOも納品の段階で“B-board”をしっかり採用して頂きました。 以上のようなセッティングですが、左右のNEOの主軸に間隔は3.4メートルと ほぼH.A.L.と同じものであり、NEOのフロントパッフルとリスニングポイント での耳の距離感はおおよそ3.4〜3.6メートル程度ということでほぼ正三角形 の配置となっています。この辺も後ほど音質的なチェックポイントとなります。 納品させて頂いてからもうすぐ一年経ちますが、納品の際にも基本的なセッテ ィングは私が聴きながら行いましたが、お住いもシステムも落ち着いて、更に パワーアンプTELOS 600にもAlize 6が搭載され、本当の意味でじっくりと聴か せて頂くことになりました。当然最初の曲はこれです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団 最近は色々なお宅にお伺いして最初にこの一曲を聴かせて頂くのが快感!? というか大変楽しみになってきました。最も聴きなれたオーケストラがどの ように展開するのか? S.I 様がいつも聴いておられるAeron Chairにかけさせ て頂きました。すると…!? 「いやいや、これは素晴らしい!!私のフロアーよりもいいかもしれないぞ!!」 左右NEOの中間に、いやNEOの両翼にも広がるような、湧きあがるような素晴ら しいオーケストラです。冒頭の弦楽器群の重奏が大変重厚なレイヤーを積み重 ねながら、しかも各パートの質感がこの上なく上質な潤いを保ち、しなやかで あり滑らかな弦楽器が展開する。 この第一印象はリスニングルームによる貢献が大変大きいことを直ちに実感し たものであり、専用に設計された音響空間の包容力が弦楽器の発するホール エコーを見事なまでにサポートしているのです。それはNEOの特徴として音源 位置を聴き手に察知させることなく、NEOが放った音波を室内のラウドネスが 程良く中空に浮遊させる効果を発揮しており、次に展開する管楽器のアンビエ ンスを上空に向けて発散させているのが美しく感じられます。 前回訪問した八王子市のS様の場合にもオーケストラの再生音をルームアコー スティックが自然な響きの補足を行い、とにかく弦楽器とオーケストラの質感 を磨きあげていたものでしたが、今回はNEOにおいても高い天井にふさわしい 素晴らしいオーケストラをのっけから聴かせてくれました。 私が納品したセッティングの状態からS.I 様も自分なりにスピーカーのリプ レースメントを調整されてきたということで、このポジションに向けてNEOの 主軸がぴったりリスナーに正対しています。いいじゃないですかー!! オーケストラなどのホールエコーを一緒に録音に含ませているものは、多数の 奏者が発した個々の楽音に不自然な尾ひれがつかなければルームアコースティ ックの音響的な追い風を有利に活用されることもひとつのテクニックと言える。 この曲でつまづきがあれば私も改善策の検討を始める、いわゆる対症療法の 具体性を考え始めるものだが、この第一印象ではそんなことは無用の心配と 言えるような素晴らしいオーケストラを聴かせてくれた。これはいいです!! さて、ここでS.I 様の聴かれる曲層を確認するとクラシックも聴くが、他の ジャンルの曲も幅広く楽しまれているという。私はいつも使用している8枚の ディスクから二曲目は何にしようか? いっそのこと早いうちに問題点があるの なら最もわかりやすい曲にしようということで、早速これを選択しP-01にロー ディングした。 ■“Basia”「 The Best Remixes 」CRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX) http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/ http://www.basiaweb.com/ http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1 冒頭の賑やかなパーカッションの乱舞、だが不思議とこのパートのまぶしいよ うに感じることさえあるサンプリングによる高い音階のパーカッションの激し い質感が穏やかにさえ感じられる。何気ない派手な音の連続に思えるパートだ が、実はこのパートはシステムの伝送過程に問題があったり、室内の伝送周波 数特性や一次反射音の出方に問題があると直ちに反応するパートでもある。 しかし、不思議な事にルームアコースティックの影響が大きいと思われるのだ が、NEOのトゥイーター位置に定位感が拘束されることなく、見事な中間定位 として華々しいパーカッションが展開する。これはいい!! この時のNEOのトゥイーターの位置関係は側面の壁から1メートル、後方の壁か らは90センチという距離感だが、幾例かの再生音ではトゥイーターの軸上に 集約した定位感で聴きづらい場合があったが、何とも空間に浮かぶように展開 する体験は大変まれなものであった。 さて、いよいよサンプリング音源を加工した正確無比な打音を連続するドラム が入ってきた。すると… 「うん、先ずは打音に厚みがある。だが余分な余韻は付けず歯切れいい音!!」 オーケストラで感じたルームアコースティックのサポートとは直接音に遅れを とることなく、かつ一次反射音の周波数特性が良好であれば、一拍の打音を NEOが放射した瞬間に一千分の数秒という極めて高速な一次反射音の折り返し が直接音とほぼ同じ時間軸で聴き取れることによってドラムの質感を厚く重く してくれるという傾向がここでも発揮されているということだ。 しかし、私がこの時に過去の多数の事例、しかもNEOを使って聴いた時の音質 を記憶のファイルから何種類か呼び出してみると、若干だがドラムの音像が 大きめに展開し輪郭表現のくっきりさがちょっと物足りないだろうか…。 いやいや、そんな細かいことを要求すると贅沢過ぎるだろうか!? http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/831.jpg この写真でもお分かりになるようにS.I 様はAeron Chairs↓をお使いになって おられるので、キャスターを利用してスムーズにリスニングポイントを自由に 変更できる。http://www.hermanmiller.co.jp/product/aeron.html 私は軽く足を動かして1メートル、更に50センチとスピーカーに接近し同時に 上半身を前後に動かして低域の変化を探ってみるが、さすがに良質な設計を されたリスニングルームであるため、これといった大きな変化は低域では 感じられなかった。ただし、このテストが後々大きなヒントを生むことになる。 Basiaのヴォーカルが入ってくると、これまたオーケストラの弦楽器が中空に 面として滞空する定位感を見せていたことと同類の魅力的な定位感が光る。 そう、ぽっかりと中空に浮いた口許と周辺に拡散していくエコー感の対比も 鮮明であり、特にこれと言って文句のつけようがないだろう。素晴らしい!! NEO後方の壁面に対して発した音波が反射して、もともとのNEOの位置まで戻っ てくるのに要する時間はおおよそ2.6ミリ秒という時間差。その遅れた一次反 射音をともなって直接音を聴いているという認識になるものだが、その程度の 時間的なずれがあったとしても直接音に適度な響きの薄化粧を施しているだけ ということに気になることはない。いや、逆に好ましい演出効果として肯定的 に私は聴くことができる。 リスニングルームの音響的な包容力と述べたが、まさにスピーカーが発した 音波が消滅していくまでの時間軸に表面活性剤・潤滑剤によってうすい皮膜が 構成され、楽音すべてが滑らかに滑るように滑空し消滅していく様が美しい。 スタジオ録音においても輪郭表現がこれほど鮮明であれば十分ではないだろうか、 最初の二曲でホール録音との対比でも大変優秀な再生音を聴かせてくれたが、 私が問題はないですし素晴らしい音質ですよ、と簡単にコメントを述べたこと に対して、ここでS.I 様より微妙な発言がもたらされました。 「川又さんのところのNEOの方が、もっと奥行き感があったような気がするん ですが、どうでしょうか?」 前回のS様も含めて実に多くの皆様が当フロアーで様々な音を聴き、また個別 の印象で分析をされ記憶として持ち帰りになっていることでしょう。そして、 そのような体験を通じて皆様の感性が研ぎ澄まされ学習されているということ を私も承知しているつもりであり、またそのような経験を推奨しているもので すが、時折このS.I 様のように私の想定以上の分析をされている方が現れます。 私の試聴室はざっと55畳という広さでリスナーとスピーカーが対向する軸での 一辺は9メートルというサイズ。長年のうちに私が設定してきたセッティング ではスピーカーの後方に3メートル、スピーカーとリスナーの距離が4メートル、 そしてリスナー後方の壁まで約2メートルという配置でセットされている。 確かにスピーカー後方の壁まで3メートルというのは贅沢なスペース配分だが、 この環境における音質的な選択から現在のセッティングに落ち着いてきたもの。 それを再度S.I 様にお話しすると、それを承知の上でそれを目指したいという ありがたくもうれしい高レベルな目標を追求していきたいということだった。 しかし、私が試聴を始めて二曲目でも見事な及第点の音質であり、逆に言えば 都心にあるテナントビルの一室よりも好条件を備えるS.I 様のお部屋での音質 の方が魅力的にさえ感じるほどなのです。さて、あくなき追求を、しかも私の 試聴室を目標としているというコメントに対して、この段階でなす術はない と簡単に見切りを付けてしまうこともできないだろう。わかりました、もう ちょっと聴かせて下さい、と三曲目を聴くことにしました。違う曲を聴き続け ていくことでヒントが見つかるかもしれません。 次の曲もルームアコースティックの問題発見には適切なこの曲にしました。 ■DIANA KRALL「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004) http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html DIANA KRALLの指を弾く音。切れ味良く雑味もなく、高い透明感が余韻の最終 部まで行き渡りイントロから申し分ない演奏が展開する。 さあ、次のチェックポイントであるChristian McBrideのペース。 最初のピッチカートの一瞬から適度な緊張感とテンションがこともなげに 発揮され、これまた脱帽という印象からスタートした。ここまで良いコンディ ションのシステムにお目にかかることさえ稀なのに、S.I 様のご要望をかなえ るヒントがどこにあるだろうか。私は聴きながら、この室内のどこに変化を 与えたものか考え始めていた。 さて、DIANA KRALLのヴォーカルが…。う〜ん、いいじゃありませんか〜!! スタジオワークで深いリヴァーヴが施されたヴォーカルは正にNEOのセンター、 上記の写真でも見てお分かりのように、建築家のアイデアで海を見ながら音楽 を聴けたら面白いだろうという発想で、ガラスドアのあるスピーカーの中間点 に本当にぽっかりと音像が浮かんでいる。吸音面と反射面の比率を示唆する 石井式の壁面には9センチ程度の吸音材がベルト状に埋め込まれているという 設計法は写真でもお分かりのはず。ただ、残響時間のコントロールはこの方式 である程度可能だが、音像を司る反射音の制御ということではちょっと課題を 残すところもある。 既に私のレベルでも十分においしいと思われる音質を、更においしくしたいと いうS.I 様のご要望をどのようにして実現したものか? と、そこでS.I 様から思わぬコメントが…!! 「川又さん、実は私も気になっていたんですが、ガラスドアは建築家のアイデ アであり音質的にはどうかと思っていたんです。 それで、この前ドアを開けて聴いてみたら、ずっと良くなったんですが 川又さんにも確認してもらいたいんですが…」 そうでしたか!! けっこうな音量で鳴らしているので、ドアを開けたりしたら まずいのではないかと思っていました。つまり、↓この状態ですね。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/888.jpg このガラスドアそのものが相当な重量があるもので、それを引き戸として滑ら かに滑らせて開閉しており、締め切るとある程度の機密性と遮音性もある。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/884.jpg それを左側に開いてみると↑このようになるのだが、このドア枠は幅90センチ 高さ218センチというサイズだが、この面積でどのような変化があるものか? 私は結構な音量を出していたので、同じ曲でこのままの音量で開けてもいいですか? とお断りして、いそいそとAeron Chairに再度腰掛けました。すると…!? DIANA KRALLの指を弾く音… 「えっ!! 指先が見えます!! ほらそこに!!」 パシッ!! パシッ!!と繰り返す単純な音。もちろん今まで違和感なく聴いてい たものですが、指に力を入れて溜まっていたエネルギーが一瞬にして弾けた 瞬間が今まではNEOのセンターで拳くらいの音像のサイズだったでしょうか? それが半分くらいのサイズになり、かつ弾ける瞬間の時間軸が圧縮された ように高速化して聴こえます。 つまり、左右のNEOから直線距離で1.5メートルくらいの位置にあった、ほとん ど完全な反射面のガラスドアからの反射音が実は相当存在していたということ でしょうか。しかも左右二台のNEOが放射した音波が反射するわけですから、 ドアを開放することで音源ふたつ分の反射音がいっぺんになくなったわけです。 何とイントロだけでこんなに違うものでしょうか!? Christian McBrideのウッドベースが… 「あー!! さっきより音像が引き締まって輪郭もくっきりしたぞ!!」 このベースの変化はひょうきんなものでした。それほどわかりやすいものです。 この曲のように楽音は三種類だけ。しかも、低音のペース、ヴォーカルの中域、 指を鳴らす高域という三要素が都合良く比較できます。更に、ヴォーカルと 指の音には深いリヴァーヴがかけられていて広い音場感とエコー感の拡散する 空間が大きく、逆にウッドベースはドライな録音でストレートなノンエコーと いう録音の対比がテストにふさわしいチェックポイントとなっています。 そのエコー感を持たないウッドベースの輪郭が何ともくっきり見え始めます。 同時に先ほどまでの音像のサイズより一回り引き絞られたイメージが好ましく、 開放弦のダイナミックな奏法に至っても重量感を維持しながらテンションが 更に高まっているのですからいいことずくめです!! DIANA KRALLのヴォーカル… 「おおー!! これでしょう!! 私のフロアーの音にぐっと近くなりました!!」 スタジオワークで深いリヴァーヴがかけられているということ。それが左右の NEOがある位置から更に両翼に向けて、爽快なエコー感を空間に広げていくと いうプロデューサーの演出が上手い録音です。それをたっぷりしたエコー感 だけを見ていると解りづらいものですが、NEOのセンターのほんの一点に凝縮 した彼女の口許がもっと鮮明に見えても良かったはず。 しかし、演奏全体の雰囲気がルームアコースティックの上質な響きの上で大変 素晴らしい空間表現を提示し、私のレベルでも十分な解像度をもって音像が 展開していたので違和感なく楽しんでいたものだった。 そこに落とし穴があったのか!? いや、これを欠点とするには最初からレベル が高すぎるほどの音質を実現していたではないか!? http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/887.jpg この写真はガラスドアを開放して建築家のアイデアのように遠く海が見える というアイデアを音響的にも実現したものか!? この一枚のガラスドアから室内に反射していた成分がいかに大きかったものか、 それが反射面を取り去ったことですっきりと音像が描かれ、エコー感の発祥の 元になる楽音の輪郭やサイズも鮮明に聴き取れるようになってくるとは!! そして、スタジオ録音ながら、スピーカーに近い反射面がなくなったことで 何とS.I 様が望んでおられた奥行き感をも引き出してくれるようになりました。 以前の経験からも、左右スピーカーの後方にどれだけの空間があるか、言い換 えれば後方の壁との距離をどれだけ空けられるかということで遠近感・奥行き 感が必ず発揮されるというわけではない。スピーカーに対峙して先ずは各楽音 の輪郭が鮮明になることが大切であり、それが成されれば楽音の分離感と同時 に遠近感も感じられるようになる。つまり曖昧な音像表現は奥行き感にとって は大敵だということだ。それが今回も大変高い次元で確認されました!! S.I 様が発見され試してみたが自信が持てなかったという調整法。ドアを開放 するということは実に大きな音質変化をもたらしてくれます。これは私からも 正しい判断ということでS.I 様に申し上げたものでした。 さあ、このドアの開閉状態に関することを他の曲でもチェックしながら、同時 にもうひとつのチェックポイントを検証していくことにしました。この曲です。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ■MUSE 1.フィリッパ・ジョルダーノ/ハバネラ http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html Aeron Chairは座り心地が素晴らしいだけでなく機能性も備わった良い椅子で、 フローリングの床面を実に軽快にスムーズに移動することができます。 先ずはガラスドアの開閉による違いをここでも確認しました。最初に締めた 状態で聴き始めます。冒頭で聴かれるオーバーダビングされたフィリッパ・ ジョルダーノのバックコーラスが展開するが、なにせ最初の状態が素晴らしい ので何も違和感なく聴けてしまう。十分な解像度がはじめから察しられ、これ だけ聴いている分には何も過不足ない。実に快調な出足としか言いようがない。 さて、いつも注目するドラムの連打がNEOのセンターに湧き上がってくる。 均一な質感と重量感が目の前に展開し、ここでも高レベルのルームアコース ティックが低域の充実感を支え、打音の出はじめから終息までなだらかな 減衰特性できれいに消えていく。お部屋のノイズフロアーが相当に低いという ことを再生音になじませてヴォーカルが入ってくる。 オーケストラをバックとして歌われるヴォーカルは背後の演奏とはくっきりと 浮き上がるような分離感を提示してよどみなく展開し、オーケストラを背後に 控えた大きな音場感の中でフィリッパの声の存在感が見事に空間に浸透し、 そして拡散して消えていくのが美しい。あ〜、これだけでも素晴らしいのに!! せっかくのリスニングルームという環境はあるべきドアを閉じて聴くのが当然 ということで、比較対照の原型を記憶し、どんな変化が起こるか期待しながら ドアを開けてみる。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/887.jpg このように幅90センチ高さ218センチの開口部がNEOのセンターにぽっかりと 口をあけ、四角く切り取られた太平洋の景観を室内に呼び込んでみる。さあ、 Aeron Chairに駆け戻りP-01のリモコンでスタートさせると…!? 「おー!! これは…、いや、しかし、こんなにも変わるのか!!」 その違いは冒頭のバックコーラスから聴きとれた。多重録音による複数の フィリッパが見事なハーモニーを展開するのは同様だが、複数の口許が個々に 背負っていたエコー感と音像が整理され、すっきりとした分離感が新鮮だ!! 各々の口許から発した彼女の声が中空に広がっていくが、隣同士で交わって オーバーラップする残響成分が調整され各音階ごとのヴォーカルの音像の 中間に隙間ができたように見通しが良くなっている。一次反射波の要因を 取り去っただけなのに、これだけ敏感に反応するとは思わなかった。 次に驚いたのはドラムの質感だった。広い裾野を持つ富士山のように重厚な 打音の響きはセンターから左右に向けてゆったりとした減衰カーブで広がり、 そして堂々たる重みを残しながら消えていくのだが、その山の頂というか 音圧が最も大きくなる打音の核の部分、ドラムの打音が出はじめた瞬間に 先ほどよりも引き締まり縮小した音像が見えるようになっているのである。 低音の打楽器の余韻がたなびき響き渡るというのは確かに快感だ。 しかし、その打撃音が発生した直後に楽音としての輪郭が見えるかどうかと いうこだわりを日頃私も追求しているものだが、ガラスがあった場所から反射 音が返ってこなくなったという変化が前曲と同様に低域再生のクォリティーを 想像以上に引き上げている。これには驚いた!! さあ、ヴォーカルが入ってきた。バックコーラスという音像の位置関係と 音響的な質感の調整とは、メインヴォーカルのそれらとは当然違うもので あり、背後のオーケストラバックよりも相当前進してオンマイクでの鮮度高い 質感で録音されている。 そのフィリッパの口許を含む彼女の小さな顔という存在感が先ほどとは大分 違っている。この変化の説明にはどのような表現がふさわしいのか、私は しばし聴きながら考え込んでしまった。このヴォーカルだ!! 今まで彼女の発した声の周辺に立ちのぼるエコー感は、この今の状態と比較 すると左右の水平方向へと拡散していたように思えるのだが、ドアを開けて からというものは、彼女の発した声のエコー感は目前にぽっかり口をあけた 外界への開放部のある奥行き方向へと消えていくようになったのである。 言いかえれば、左右方向へと広がっていたように聴こえたヴォーカルのエコー 感は実はガラスの一次反射波がもたらした虚像だったのだろうか? それがなくなってみると、上記の写真のようにNEOのセンターから遠方へと ずっと続いていく空間連鎖の彼方に、遠近法の消失点を見事な鮮明さで描く ようになっていたのである。 フィリッパ・ジョルダーノのつま先から頭のてっぺんまで、ずっと見上げる ように低域から高域までの再生音の質感の変化を観察してきたが、発見から 確認へと私の分析が進むにつれて、ある表現が浮かんできた。 ただの黒い線だけで描かれたぬり絵。今まではぬり絵の黒い線を境界としたら、 それからはみ出して色を塗っていたことに気がつかなかったのだろうと!! ぬり絵を塗った隣り合う色が微妙に混じり合っていたとしても、その二色は 個々に見れば大変純粋で透明感もあり見事な色彩感の美しさがあった。 それが微妙に溶け合うように混じりあっていても演奏全体を汚すようなことは なかったので気がつかなかったのだろう。 一つの答えがこれで見つかったということだろうか。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さて、ガラスドアの開閉による違い、言い換えれば一次反射面があるかないか という違いの大きな変化を確認してきたが、これは前述のように左右のNEOの 主軸での間隔は3.4メートル、NEOのフロントパッフルとリスニングポイントで の耳の距離感はおおよそ3.4〜3.6メートル程度ということでほぼ正三角形の 頂点で聴いてきたものだが、リスニングポイントを1.5メートル程前に前進し てスピーカーに接近しても低域には大きな変化は見られなかった、という判断 を下したのはガラスドアを閉めている状態での分析だった。 しかし、総合的な判断をするには上述のようにガラスドアを開けてみての試聴 を別の角度からして見る必要性があるだろうと思われたのでした。この曲での 変化を確認した上で、再度Aeron Chairを前方に滑らせて1.5メートル程前進し て同じ曲を比較してみることにしました。 実は、S.I 様も同様に壁際まで下がっての正三角形の頂点で聴く場合と、前進 して聴く場合とに違いがあるということは実験して解っていたものの、果たし てどちらの方が正解なのだろうかという答えがわからなかったというご意見を うかがったからでした。しかも、この曲は前進して聴くよりも離れた位置の 方がいい、また他の曲では逆もあったということで判断に困っておられたと いうことでした。 さあ、比較検討する基準を一次反射波の影響をなくしてという設定に変えて、 私も同様な実験をしてみることにしました。 従来の位置よりも1.5から2メートル近く前進して聴き始めると…!? 「あ〜、音場感が崩れてきますね〜、というよりも中間定位がなくなってきますね!!」 同じ曲を比較したが、前進すると左のNEO、右のスピーカー、そして真ん中と いう三点に楽音の定位感を集中してしまうという現象を発見した。 バックコーラスなどは特にわかりやすく、今までは左右のNEOの中間点に五人 くらいのフィリッパ・ジョルダーノが異なる音階で歌い美しいハーモニーを 聴かせてくれるのだが、前進していくにつれて、それらコーラスの定位感が 左右にぱっかりと分かれてしまい、中間定位がなくなってしまうのである。 そして、メインヴォーカルのパートがセンターに定位するのは変わりなく、 各々の楽音は三か所に集約されてしまう定位感の変化があり、その分低域の 質感はスピーカーに接近したことで若干の鮮度向上を見せるものの、音楽の 味わいとしては頂けないものになってしまった。 ただ、S.I 様が実験に使っておられた曲はバッハのチェロソナタであり、ソロ の演奏を教会という音場感豊かな環境で録音したものだった。確かに録音に 含まれる残響成分は多く響きが豊かではあるが演奏者は一人。このソロ演奏の 音像という存在感を優先するのか、あるいは教会録音という響きの美しさを 空間情報として聴くのか、という相反する評価の仕方があり迷ってしまったの ではないかと私は推測した。 先ほども同様な実験を行ったが、ガラスドアが閉まっている状態ではスピー カーとの距離感の違いによって起こる変化を察知することができなかった。 しかし、これまでに述べた一次反射波の弊害を取り去ってみたことで明らかに リスニングポイントの推奨は従来通りのトライアングルの頂点であるという ことを最後に確認したものでした。 この後に確認の意味でも違う課題曲、それも上記の定位感と音場感の変化を 見極めやすいヴォーカルものの曲でも比較試聴してみました。 ■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777 http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html 海外の作品ではヴォーカルに多くのリヴァーブが施され、それが左右のNEOの 中間と両翼に盛大な広がりを見せる。その典型的なこの曲でもガラスドアの 存在感とリスニングポイントの変化については同様な結果となり、ガラスが なくなり後方の位置での方がこの曲にふさわしい音質であると判断しました。 ■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」 http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html 対称的に国内録音で日本人の声という対比で口許がいかにチャーミングな音像 として浮かび上がるか、そして周辺に発散する余韻感がどれほどの滞空時間で 広がっていくのか。いつものチェックポイントを頭にイメージしつつも、本当 にS.I 様のNEOは音楽を楽しませてくれます。 ドアの開閉によってちあきなおみの音像がすっきりと見えるようになり、更に 背後で叩かれるベルの打音がことさらに鮮度を高め、ギターの爪弾きのエッジ がきりりと冴えわたる見事さ。完成度が高いお部屋とシステム構成だけに今回 はスピーカーの配置を大きく変えることもなく、S.I 様が発見されたポイント に対して私なりの答え合わせをさせて頂いたということでしょうか。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- では、ガラスドアの存在を認めたままで、どのような対策をお勧めしたかと いうことですが、間口90センチ高さ218センチの枠の中に幅875ミリで高さが 1800ミリというQRD DigiWeveを採用されることを推奨しました。 http://www.ohbashoji.co.jp/products/qrd/digiwave/ http://dyna5555.cocolog-nifty.com/.shared/image.html?/photos/uncategorized/new_digi_wave.jpg ちょうど以前に私が撮影した写真がありましたのでリンクをご紹介します。 このようにキャスターによる可動式であり、DigiWeveの拡散・吸音効果により 事実上ガラス面がなくなったように調整されます。 本来ならば二時間ほどの滞在時間を予定していたものの、気がつくと試聴だけ で三時間も経過してしまいました。しかし、新しい発見と出すべき結論とを 一通りまとめることができ、素晴らしいリスニングルームにふさわしい音質に 仕上がってきたというところで、そろそろおいとまをと申し上げると… 「川又さん、大したものはありませんが軽く昼食でもどうぞ…」 とS.I 様にもったいないお言葉を頂戴してしまいました。しかし、予定時間を オーバーしながらもS.I 様も熱心に数々の実験と試聴にお付き合い頂き、同時 に奥様も昼食の時間を遅らせてしまったのでは恐縮しつつ、お言葉に甘えさせ て頂くことにしました。 二階のリビングダイニングルームは20畳以上はあろうかというゆったりとした スペースであり、ほぼ全面がガラスで構成された明るいお部屋です。目前の 大きなベランダからの景観はそれはそれは見事なものであり、冒頭に紹介した 太平洋を望む景色も二階から撮影したものでした。 「川又さん、ちょっとだけビールでも…」 などとお勧めを頂き、S.I 様と向かい合わせのテーブルで今度は世間話が盛り 上がりました。聞けば奥様は私の地元の隣町のご出身ということで、千葉県と 職場のある東京と、そして熱海という立地での生活感にまつわる話題があれこ れと展開するうちに奥様が、「鯛茶もどきですけど、どうぞ〜」ということで 手作りのお食事をごちそうになってしまいました。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080712/904.jpg 大海原を遠景に眺めながら日差しが差し込む明るく広いリビングですっかり くつろいでしまい、お食事も大変美味でありオーディオ意外にも感動してし まいました(^^ゞ 本当にありがとうございました。<m(__)m> 今回の訪問では最初から相当高度なレベルの音質であり、大手術をするような 必要もなく、S.I 様が気が付いたポイントを確認し何が好ましいかという判断 を私がお手伝いさせて頂いたということでした。すると、早速S.I 様からも メールを頂戴しました。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 川又様 今日は遠方のところお越し頂きありがとうございました。天気がよかったので、 少しは熱海の景色も楽しんでいただけたかと思います。 実のところ、川又さんのチェックを受ければ、長年の経験と鋭い耳で今の音が 10倍よくなる!と秘かに期待していたので…「特に大きな問題はありませんね」 と、おっしゃられたときはその目論見がはずれてがっかりな気持ちも正直ありました。 ただ、よくよく考えてみれば、もともと川又さんにセッティングして頂いてい るわけですから、そんなうまい話はないですよね。 川又さんの厳しい基準をクリアできたということで、喜ぶべきことでした。 一人であれこれいじっていると自分の中の基準がぐらついてきてしまうので、 やはり、川又さんのような信頼の置ける第三者に聴いていただくことの貴重さ を改めて痛感しました。 そして、ガラスのドアを開けて試聴されたとき、川又さんも思わず笑われてい たようで、私が日頃感じていることを共有していただき嬉しい気持ちでした。 あの違いはほんと、笑うしかありません。 その後、ソースによってベストなポジションが変わるという私の疑問を、 いくつかのCDを演奏することでぐいぐいと分析されていく様は圧巻でした。 確かに周波数によってガラス・ドアの影響が相対的に異なるというのは肯ける 話で、頭の中のもやもやが晴れた思いです。 改めて長時間に渡る貴重なアドバイスの数々、感謝申し上げます。 まずはお礼まで。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- S.I 様、早速のメールともったいないお言葉ありがとうございました。 10倍良くなるというご期待にお応えできたかどうかは解りませんが(^^ゞ 現状確認と共にルームアコースティックで変化する要素がこれとこれという 確認、そしてリスニングポイントに設定に関しても環境改善の後では正三角形 の頂点という従来の位置が間違いないということ。 特に私がNEOのトゥイーターの近くに口を近づけてしゃべり、その声の残響の あり方がドアの開閉で大きく違っていたという体験は一人ではできないもので あり、人間の声だけでもあれだけ大きな変化があったということは収穫でした。 これらを私が選曲した再生音でご確認頂きましたが、今回の訪問でS.I 様の 進むべき方向性がしっかりと見えてきたのではないかと考えております。 今回、私は目に見える形で装置を動かしたりはしていませんが、それは必要が なかったからであり、もし仮にセッティング変更の必要があれば今までのよう にリプレースメントも含めていじっていたでしょう。もとより納品の段階で 一時間ほどですが基本的なセットアップを行っておきましたので基礎は出来て いたということをご理解頂けて何よりでした。 ルームアコースティックの変化要因の先ず大きなものを特定する。その判定を 行ってから基礎を構築した後に他の変化要因を順番に選択していく。つまりは 土台として変化の仕方の大きなものから設定していくという手順ですね。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 今回は私も大変に勉強になりました。リスニングルームの設計から建築まで 私が提携している業者もあり、室内のレイアウトも含めてお部屋そのものも 私のビジネスの範疇として承ることができます。 部屋そのものからお願いします〜、というご注文も承りますのでなんなりと ご相談頂ければと思います。 それにしても、NEOはいいですね〜(^^ゞ そうそう、次もNEOオーナーへ訪問予定です。 どうぞご期待下さい。 |