《H.A.L.'s 訪問記》
No.0011 - 2008/7/15 東京都世田谷区 S様-H.A.L.'s 訪問記 Vol.11「私が脱帽するほどのオーケストラ!!その訳が奥深い!!」 今回で11人目となったSound checkの訪問記ですが、これまでご紹介してきた 皆様と、そもそもこの製品からお付き合いが始まったという歴史が色々ありました。 B&W N801などは典型的な事例であり、多数のお客様にお求め頂き、それを起点 として各種コンポーネントのアップグレードが数年越しで、あるいは10年以上 の歳月をかけて現在のシステムに進化していったという経緯もご紹介してきた ものでした。 しかし、今回のS様は最初にスピーカーからではなく、最もシステムの上流で あり入口の部分の↓この製品をお求め頂いたことから始まったものでした。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/216.html 2003年2月のこと、限定生産50台というESOTERIC P-0s with VUK-P0の導入を 決意されたことからS様のストーリーが始まったものです。 http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/d70vu/index.html その一か月後にESOTERIC D-70を購入され、更に↑同年の11月にはVUK-D70に よってバージョンアップされました。 http://www.hifijapan.co.jp/accusticarts.htm http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/235.html また、アンプに関しても同年の9月に大変貴重であり私も推薦していた↑この Accustic Artsのプリ・パワーアンプの両者を購入して頂きました。しかも!! 輸入元でも扱いが希少であり店頭展示もなかったPiano Black仕上げの限定品 というものです。 しかし、世田谷区のご自宅ではこれらのコンポーネントをセットされることも なく、理想のスピーカーと巡り合うまでは…、ということでお求め頂いた製品 を長らく当社で預かり保管していたものでした。 このご自宅は築年数からしても大分老朽化しており、新しいお住いを近い将来 に購入されてからの納品ということでお預かりしていたものですが、実は今回 お伺いして初めてうかがったお話しで興味深いエピソードを耳にしました。 今から4年くらい前のこと、奥様がお友達の付き合いで多摩丘陵の緑多い環境 に建設されたマンションを視察に出かけられたところ大変気に入られてしまい、 完売間近だったこのマンションの残り少ない一戸がぎりぎり間に合うという タイミングで、ほぼ衝動買いに近い契約をしてしまったということでした。 そこで、高価な製品をお求め頂きながらずっと保管していましたが、このまま でよろしいのでしょうか? そろそろお手元に置いて頂き音を出されてはいかが なものでしょうか? と納品を促したところでS様からの回答は… -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 「お忙しいところ、失礼します。 先日立ち話でお願いした配送の件、今週の土曜、21日の夜ということで 可能でしょうか。P-0s、D-70、Accustic Artsのプリ、パワーの4点です。 配送場所は東京都八王子市****です。 以下は余談です。 毎日、川又さんから目のくらむような企画が送信されてきて、読むだけでも 楽しみにしているのですが、当然、後から後から新製品が出てきて、買い求 めた機器をこのまま預けておくと、さわりもしないうちに1年後には売りた くなるのではないかと、心配になりました。 加えて、最近は妻が、「あんた、ほんとに買ったの?」と不審がるようにな りました。卒倒するので値段は言っていませんが「買った、買った」と言う だけでは、もはや説得力に欠ける状態であります。 よって、手元に置くことに決めました。 SPは納得できないものを買っても仕方がないし、音楽を聴けない状況ではな いので、浮気はしません。その日が来るまで、眺め、触り、時には音出しも しながら舐め回していましょう。」 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ということで、これらに見合ったスピーカー不在というままで、いったん納品 をさせて頂いたのが2004年の一年後のことでした。フロントエンドからアンプ まで、ご納得の上で決定されてきたS様は果たしてどのようなスピーカーに たどり着くのでしょうか? そして、そのための様々な情報収集と体験が続いて いくことになってきます。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0205.html 記念すべき“Friday concert”Vol.1にご参加頂きありがとうございました。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0250.html “Friday concert”Vol.9にもご参加頂きました。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0280.html この時期、やはり限定50台というESOTERIC G-0dを導入されました。 G-0dとは?→ http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/plate.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0271.html “Friday concert”Vol.13ではこんな体験をなさっています。 ■この年2006年に遂に納得できるスピーカーを導入されました!! http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0329.html ESOTERIC PS-1500&7N-PC9100×3モニターレポートです。 ■この年にESOTERIC G-0dから何とG-0sに買い替えをされました!! そして… http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0339.html “JORMA DIGITAL/BNC-Internal Wire”Story です!! http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0374.html “Friday concert”Vol.28にてスピーカーケーブルに関しても… http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html 更にはZ-Boardの導入で磨きをかけていかれました!! http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0394.html 「今だったらこれ買っていました」とS様を唸らせたものは!? http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_hear0412.html システム構成が固まってくるとこういうものには興味が湧きますね〜(^^ゞ さあ、このような体験談の数々が実はS様のシステムの再生音にすべて集約 され生きているということなのですね〜。 「触りもしないのに一年後には売りたくなってしまうのではと心配に…」と、 心にもないことをおっしゃっていたS様の現在のシステムをご紹介しましょう。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ◆ H.A.L.'s 訪問記-Vol.11 東京都世田谷区 S様システム構成 ◆ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC G-0s(税別\1,200,000.) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/g0_g0s/index.html with JORMA DIGITAL/BNC-BNC for Internal Wire(税別\68,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/470.html □Power equipments□ TRANSPARENT PLMM(税別\240,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-DA6100BNC×2(税別\480,000.)→Wordsync-for ESOTERIC D-70 http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7nda6000/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC P-0s+VUK-P0(税別\1,950,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/216.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/108.html with ESOTERIC 6N-DC/P01(税別\120,000.) □Power equipments□ ESOTERIC 7N-PC9100(税別\350,000.) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/7npc9100/index.html ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ Acrolink 8N-A2080 ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC D-70+VUK-D70(税別\950,000.) http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/d70vu/index.html □Power equipments□ TRANSPARENT PLMM(税別\240,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ Acrolink 8N-A2080 ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… Accustic Arts PREAMP I (Piano Black/販売完了) (税別\850,000.) http://www.hifijapan.co.jp/accusticarts.htm http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/235.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html □Power equipments□ TRANSPARENT PLMM(税別\240,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ van den Hul VH-GOLD-10XW(税別\74,000.) http://www.teac.co.jp/audio/vdh/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… Accustic Arts AMP II (Piano Black/販売完了) (税別\1,800,000.) http://www.hifijapan.co.jp/accusticarts.htm http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/235.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"(税込み販売価格\57,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html □Power equipments□ TRANSPARENT PLMM(税別\240,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ■自作スピーカーケーブル ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… Sonusfaber AMATI anniversario (税別\3,600,000.) http://www.noahcorporation.com/sonusfaber/amati.html and H.A.L.'s Original Products"Z-board"×2(税込み販売価格\114,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0362.html ……………………………………………………………………………… S様が求めていたスピーカーがお分かりでしょうか? 足かけ三年がかりで入念 に選択され、タイムリーなグッドプライスもご利用頂き上記のシステムが完成 したわけですが、実はこれらがセットされているのは世田谷区ではなかったと いうことです。今回、意を決して今までの選択の歴史がどのような音質として 結実しているのか、それを実際に聴かせて頂こうと訪問させて頂きました。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 2008年7月某日、S様のご住所をwebの地図検索に入力すると、なるほど〜。 八王子とはいえJR中央本線の八王子駅ではなく京王相模原線のとある駅が近い。 梅雨空を見上げて降らなければいいがと思いつつ、今回もまたJR御茶ノ水駅へ の坂道を登っていく。 webで路線検索をすると御茶ノ水から約一時間という乗継。途中で京王線の 急行にうまく接続すると割合と短時間で行けることがわかった。 事前の打ち合わせでS様からは… 「実は駅から歩くと大変美しいのですが、車でお迎えにあがります。 新宿でも調布でもよろしいですので電話をいただけますでしょうか。 時間は何時でもかまいません。ただ、夜遅くなると、マンションですので、 音量を気にしないとなりません。それより心配なのは、犬(ミニチュア ダックスフント)です。 どなたかのレトリバーとは違って小さいのに他人にはよう吠えます(笑)」 待ち合わせの駅に到着し生まれて初めて降り立った発展著しい駅前に出ると ぽつぽつと降ってきました。するとS様が駆け寄ってこられ、ここ数年で駅前 も大変開発されましたよ〜などと世間話をしながらお出迎えの車に乗せて頂き 確かに昼間だったら緑の景観が美しいだろうと思われる良く整備された道路を 走り始めました。 多摩ニュータウン通りに面した大きな公園を回り込むようにして到着したマン ションは都心部のタワー型高層マンションとは全く趣を異にする落ち着いた たたずまい。環外観からしても奥様が一目惚れしてしまう心境がわかるような 緑に囲まれた素晴らしい環境にあるお住まいでした。 そして、三階のお住いにご案内頂き玄関のドアを開けた瞬間にまっ先に出迎え てくれたのが、やっぱりこの子でした(^^ゞ http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/801.jpg 私はワンちゃんとは直ぐに仲良しになってしまう方なのですが、盛んに吠える 割にはしっぽを一生懸命ふりふりしながら可愛い声で鳴いているのですから 思わず微笑んでしまいます。女の子で六歳というミニチュアダックスフントの 彼女の名前は“さくら”ちゃんということでした。 なかなかじっとしていてくれないのでピントがうまく合いませんでしたが、 ご覧のようにチャーミングな表情です。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/821.jpg 後ほど、私が試聴しているとこんな風に寝てしまいました。でも、面白いもの で、そ〜とカメラを向けると気配でわかるのかピクリッ!!と起き出して私の方 をずっと見つめてきます(^^ゞかわいいですね〜、私のことも大分舐めてくれ るようになりましたから、まずまずの仲良しになれたということでしょうか。 S様の発想としてオーディオルームに閉じこもって音を聴くということはなく、 ご家族とともに明るい空間でゆったり楽しみたいというお考えであるという。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/789.jpg それがバッチリ実現されているのが広いリビングダイニングルームの一角と いうことで、ダイニングテーブルからオーディオシステムを見ると↑このよう になっています。 向かって左側は南向きの全面ガラスの大きな窓。既に暗くなった外を見ると 部屋全体の長さと等しい大きなベランダがあり、このベランダで夕涼みしな がら音楽を流し、ビールでも一杯やれたら幸せだろうな〜(^^ゞと思わず考え てしまいました。うらやましい限りです。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/772.jpg ↑もう少しオーディオシステムに接近していきましょう。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/776.jpg 音質にこだわるオーディオラックは多々ありますが、実は私はインテリア的に はこんなセッティングが個人的にはとても好きなものです。 さらに接近してみましょう。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/777.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/779.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/782.jpg 写真では解りづらいのですが、アンプの質感です。 スピーカーではPiano Black仕上げというのは良くありますが、アンプでとい うことは大変珍しいものです。というよりも私も他の事例を知りません。 普通、アンプやCDプレーヤーでブラック仕上げと言えば、アルミのヘアライン 加工にアルマイト仕上げというもので、ざっくりした質感が多いものです。 しかし、Accustic Artsのこだわりは酸化被膜をコーティングするアルマイト 処理とは全く違い、何回も塗装を繰り返しバフで磨きあげていくという正に ピアノフィニッシュのぬめっとした潤いのある光沢感なのです。これはいい!! 実は、販売前に展示して実物を見たいと輸入元に言ったら、あまりの精巧な 仕上げなので展示してわずかな痕跡でも残ってしまうと困るのでダメと言われ 私も実物を初めて見るものでした。こういう質感は実にいいものです!! そして、アンプを載せているテーブルは大きな一枚板をわざと曲線を付けた 形に加工して塗装したものということで、本来は奥様がインテリアの一部と して誂えたものだったという。それをオーディオのためにS様が奪い取って しまったといういわくつきのエピソードもうかがいました(^^ゞ http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/799.jpg Cardas Myrtlewood Blockを随所にお使いになっていることはわかると思いま すが、実はこのスピーカーケーブルは自作であり音質的にも自信ありという ものでした。さあ、そろそろ聴かせて頂きましょうか〜(^^ゞ -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団 最近は色々なお宅にお伺いして最初にこの一曲を聴かせて頂くのが快感!? というか大変楽しみになってきました。最も聴きなれたオーケストラがどの ように展開するのか? 今となっては懐かしいP-0sのリモコンを拝借し、S様が いつも聴いておられるリクライニングチェアーにかけさせて頂きました。 すると…!? 「あー!! これはこれは、恐れ入りました!!」<m(__)m> 冒頭の弦楽器の重奏が始まった瞬間に、私は先ずオーケストラはこう聴きたい という願望がことごとく実現されていることに驚いてしまいました。 私の目前にスピーカーはなくなっていたのです。あるのは↓この空間だけ!! http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/804.jpg 私の目測では左右スピーカーの間隔は2.5メートル程か、AMATI anniversario からの距離もほぼ同じくらいと見当を付けましたが、見事にスピーカーの存在 感がかき消えているのですから驚きました。 後ほどS様からうかがったところでは、この時に私が設定したボリュームより も小さい音量で普段は聴いておられるという。でも、私にしてみれば大分遠慮 がちな音量だったのですが、その解像度と音場感が見事にバランスしているの が最初に感心したことでした。 弦楽器群の定位感は音源であるスピーカーユニットの位置関係から解放され、 私が日頃重要視している中間定位という再現性を巧妙に実現しています。 管楽器も同様で、AMATI anniversarioの奥に向かって消失点を結ぶ遠近法が 正確に発揮されており、深みのあるステージ感が高レベルに再現されています。 弦楽器は面として捉え管楽器は点として発した楽音を空間に広げていく。 そんな私の理想像に大変近い音質が控え目な音量でも見事に確立されていました。 第一印象が圧倒的に素晴らしく、いつものような往診で例えるなら初見の診察 では全くの健康児ということになりました。コントラバスの重量感と残響の 見事さ、ヴァイオリンの質感は十分な潤いと解像度を兼ね備え、オーケストラ 全体をこう聴きたいというS様のバランス感覚がAMATI anniversarioの個性を 助長していることに間違いはありません。 これを言いかえるとAMATI anniversarioの22センチ・ウーファー二個という 構成であるにも関わらず、低域方向の充実感というか鳴りっぷりがすこぶる 魅力的だということです。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/393.html 私の試聴室でAMATI anniversarioを聴いたとき↑にはここまで低域に充実感を 感じなかった? いや、失礼。他のスピーカーたちと比較したときにという意味 なのですが、これほど私を引きつけるAMATI anniversarioは初めてなのです!! いつもであれば、この曲の音質いかんによって対処療法としてのセッティング の変更と調整をスタートさせるものですが、これほど魅力的な演奏を最初に 聴かされてしまうと手の着けようがありません。というよりも、このバランス を崩したくないというほどの説得力でした。脱帽です^_^; ■セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル メン」の両組曲から1.前奏曲 8.ファランドール これまでの体験では、この最初の一曲で問題点を察知すると、診察のために スタジオ録音のテスト曲に切り替えて再生音のポイントごとにチェックを 始めるのですが、S様のシステムでは全くその気になりません。(^^ゞ というよりも、もっと続けてオーケストラを聴きたくなってしまいました。 弦楽器だけで始まる前奏曲の冒頭では、演奏者の人数分だけ楽音の陰影を個々 に感じられるほどの解像度の素晴らしさがありながら、それらは決して無味乾 燥な分析のためにパラプレートのような切り取られた切片の音ではなく、弦楽 器の各パートの重なり合うレイヤーの色彩感の異なる様子がくっきりと見られ、 各楽器の色合いの違いが接線として混じり合う境目に私は引き付けられました。 異なる音階を奏でる弦楽器の各々には固有の色彩感があり、それらは隣り合う 楽音と一線を引いているのだが、それは黒い境界線でくっきりと描かれるよう な輪郭ではない。色と色が接している部分では微妙に混じり合い中間色を作る。 その中間色が温度感と弾力性のある輪郭表現を司っているので嫌みがない!! 圧巻だったのはファランドールだった!! 金管楽器の雄大なスケール感は残響 の拡散していく空間領域として見事な広がりを見せ、タンバリンなどの打楽器 がスピーカー後方の壁際から発するような奥行き感を伴い、そして弦楽器では トゥッティのタッチが軽快ながらも滑らかな展開を見せる安心感がある。 ことオーケストラに関しては絶品と評したい演奏に私は大変気分が良くなり、 S様がいつも聴きながらついつい寝てしまうという笑い話をさもありなんと 納得するものでした。さあ、次もやっぱりオーケストラを聴きたい!! ■チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲 サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団 指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132 http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm 第一幕の序曲での弦楽器の質感にはため息が漏れそうな余韻感の美しさがあり、 アルコの切り替えしごとにヴァイオリンだけのエコー感がほんのりと展開する。 決して力の入った音量での演奏ではないのだが、ピッコロやフルートの木管 楽器のソロパートの響きは弦楽器の質感と絶妙な融合をホールという空間で 果たしているという再現性が素晴らしい。思わずうっとりするような充実感と して日頃の私の目標とする音質がここにあったのかと聴き入ってしまう。 15トラックの中国の踊りではファゴットの軽妙な演奏がゆったりした余韻感を AMATI anniversarioの後方に提示し、その空間表現のあり方が絶妙であり鋭く 切れ込むピッコロの高域部のエコー感を見事に包み込んでいく。これはいい!! 寄り添うように始まる弦楽器のパートが左側から右方向にホールエコーをたな びかせるように振りまいていくが、この余韻感を支える要素は何なんだろうか と、やっと私にも鑑賞から分析へと集中力をシフトする余裕が出てきたようだ。 次のトレパークは実に楽しかった。大音量での迫力はいつも聴きなれたもので すが、AMATI anniversarioの低域の量感がここまでオーケストラ全体を支えて いるという実感が好ましく思える。しかし…、このポイントには何かありそう だというチェックポイントが次第に私の心中に芽生え始めた。 もちろん良い意味でということだが、ハードウエアとしての力量だけではない 何かがある!! 張り詰めたテンションと開放感が同居するオーケストラがいかに楽しいものか、 私の想像を上回る音質に舌を巻きながらも、その要因を探り出してみたいとい う好奇心が次の曲に待ち構えていた。さて、どうなるのか!? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- ■“Basia”「 The Best Remixes 」CRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX) http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/ http://www.basiaweb.com/ http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1 冒頭の賑やかなパーカッションの乱舞、このチェックはほぼ素通りしてドラム の連打が始まったときだった!! 「おー!! そういうことかー!!」 ドラムの輪郭が見えません。スピーカーの内側全体で脈動しているだけという 大きな低音が誇大表現されています。これは頂けません(^_^;) チェロとピアノのいうアコースティックな伴奏も低音の大波をかぶってしまっ たのか存在感が見えてきません。堂々たる鳴りっぷりというレベルではなく、 低域の楽音が量的に過大であり空間を埋め尽くしてしまいます。 更にBasiaのヴォーカルには音像と呼べる輪郭が見当たらず、ドラム同様に スピーカーの中間に大きく拡大してしまいます。これはいかん!! しかし… 音楽の曲層によって大きく異なる再現性、いや魅力の表現力ということですが、 このギャップを埋めることがS様が求めていることなのかどうか。 この曲は最後まで聴きませんでした。次です!! ■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777 http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html これは後ほど奥様が「素敵な声ね〜」とおっしゃっていたものですが、確かに 魅力的な声ということは私も納得できるものです。ただし、それは部屋の反対 側の離れたところで聴いている分には響きの艶やかさということで良いのです が、センターポジションでいつものような聴き方をしている私にとっては前曲 同様に正体不明の音像と定位感でした。 イントロのペースが始まった瞬間に私は気が付きました。 「やっぱり、そうか〜。しかし、この特徴をどう理解したものか!?」 すみません、この曲も最後まで聴きませんでした。<m(__)m> ■MUSE 1.フィリッパ・ジョルダーノ/ハバネラ http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html この曲のドラムの二連打で前曲と同じ印象がありましたが、ちょっと変です。 スタジオ録音の輪郭が鮮明でクローズアップされたイメージの低音ではなく、 ゆったりとホールで響くイメージを演出した低音なのですが、打音の成分が 二つに分けられてしまっています。 叩かれた瞬間に響くスタート直後の低音は重量感があるのに、二打目の伸びる エコー感の響きは軽くなっていて連続性がありません。今までにない不思議な 現象ですが、私には原因が推測出来てきました。なるほど〜!! ただし、オーバーダビングされたフィリッパ・ジョルダーノのバックコーラス や、弾けるようなオーケストラバックのフォルテの演奏ではなかなかのうま味 が出ているのです。さあ、私の経験則からS様のシステムの個性が次第に見え 隠れしてきました。 ■DIANA KRALL 「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004) http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html DIANA KRALLの指を弾く音。この切れ込み鋭い音の残響はちょっとオーバーか。 クリスチャン・マクプライドのペース、これも前曲同様に質感が二分割されて います。ビンッと弾かれた瞬間はまずまずの質感に重みもあるが、その後に ズシーンと引き継がれていく開放弦のダイナミックな響きが軽い、そして 音像が見えません。 DIANA KRALLのヴォーカルが…。う〜ん、確かに深いリヴァーヴがかけられた 声質であるのは承知していますが、何とも口許のフォーカスが見えません。 これも最後まで聴きませんでした。 ■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」 http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html いよいよ最後の一曲です。ギターとヴァイオリンの伴奏によるイントロ。 この段階で私が承知している解像度と輪郭表現に関しては異質のものでした。 空間に漂うという印象で楽器の姿が見えてきません。 しかし、ヴォーカルが聴こえてきたとき… 「そういうことか〜、共通項はあるんだな〜!!」 この日本人の声と国産の録音では歌手の口許のリアルさと対称的な音場感の 広がりという相反する要素が魅力でもあります。つまり、口許はくっきりと 描き、その周囲にはエコー感がはっきりと追加されながらも魅力的に聴かせる。 そんなテクニックが聴く人を知らないうちに惹き付けてしまうものです。 言いかえれば、楽音の中心点の色彩感の最も濃厚な部分が口許であり、そこか ら発せられた歌声が次第に薄く淡く広がっていくところに美しさが感じられる ものなのですが、そのグラデーションというか濃淡の諧調が少ないのです。 響き方として単調な残響なのですが、エコー感の滞空時間が長く持続するので 一聴すると魅力的に聴こえなくもありません。これがポイントです!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 今までのオーケストラによるホール録音と課題曲のスタジオ録音を入念に試聴 して比較し、その各々によって音楽を鑑賞するという次元でS様が選択された チューニングの方法論と過程を私なりに分析してみました。 先ず肝心なスピーカーのセッティングをご覧頂くとこのようになっています。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/807.jpg 後方の壁面からこれだけ前進させたポジションを設定しておられるわけですが、 この状態で音源であるスピーカーから放射された音波が周囲の反射面、つまり 床、天井、壁面のそれぞれから一次反射波として折り返されてくるわけです。 音速から判断して、それらの反射波は直接音との時間差がどのくらいあるだろ うか、というのが先ず最初の懸念。私の経験からしても、恐らくは直接音との 時差は千分の数秒というものでしょう。そして、二次、三次反射音を含めても 直接音との時間差で明らかに反射音が直接音との時間差で二重、三重になって 折り返してくるという反射音だけの認識は困難だと思われました。 つまり、直接音と見まがうばかりの反射音の影響力、言い換えればルーム アコースティックが直接音の残響成分として程良い響き加減を追加してくれる という絶妙な演出効果がS様のシステムとお部屋にはあると推測されるのです。 しかも、その反射音には特定の強調感を催す定在波の嫌がらせがなく、反射音 を含める伝送周波数特性に関しては低域の比較的広い範囲で量感の補強という 現象をもたらしています。これがオーケストラの演奏に実にうま味のある厚み を加えることになり、また弦楽器の質感に豊かさと潤いを与える妙薬として 察知しにくい良質なサポートを行っているということかと思います。 その証拠に弱音による弦楽器の演奏パートでは小音量でも微小な余韻成分が 程良く再現され、管楽器のエコー感が拡散する領域を拡大し、そしてホール エコーの滞空時間を巧妙に引き延ばしています。 更に、私が重要視している左右両側のスピーカーの中間地点である空間に見事 な音像で中間定位させるという好ましい再現性も加わっていると思います。 弦楽器は厚みのある何層ものレイヤーを重ねる面として目前の空間に滞空し、 管楽器の発した楽音は遠近法の限りない消失点の微小な先端まで描かれます。 これらの演出効果が弦楽器の質感がもとより潤いのあるAMATI anniversarioの 再生音に、正にシルクのベールをふわっとまとわせるような余韻感の増量を 自然な形で実現していると考えられるのです。 そして、大切なことは、それらのルームアコースティックの応用が大変高い レベルで実現されているということであり、偶然が支配している再生音では ないということです。 では、なぜこのような絶妙なチューニングができたのか、その大きな要因が ふたつあると考えました。ひとつは↓これです。 http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/813.jpg これはS様のお聴きになるディスクのほんの一部ですが、正にS様が聴かれる 曲層を象徴するようなタイトルでしょう。つまり、お聴きになる主流はホール 録音が当たり前のクラシック音楽ばかりであり、ジャズ、ポップスというスタ ジオ録音はほとんど聴かないという徹底ぶりがS様の音質的な選択肢を絞り込 む時に大きな根拠となっていたはずです。 ルームアコースティックにおける自然なサポートが演奏に含まれる余韻感を 全くの同色の響きとして延長し助長するという作用が解像度と音場感という 両立に大きな役割を果たしているのです。 しかし、そんなルームアコースティックを巧妙に味方につけるようなチューニ ングが誰にでもできるものでしょうか? それが二つ目の要因です。 今回のイントロダクションでも述べているように、五年前に購入されたP-0sと いうシステムの入り口部分の選択。もちろん、これも試聴した上での決定です。 それからAMATI anniversarioに決定するまでの三年間、そして現在も進行して いるあくなき音質追求の過程で当フロアーでの膨大な試聴体験による高品位な 音質とは何か、という美意識の追求でありノウハウの習得であり、ご自身が 自らのシステムをセットアップする際の音質的な選択肢の判断において根拠と なる基準をこのフロアーでの試聴から身につけられていたということなのです。 各種の試聴レポートでもS様の分析力と感性は相当なレベルであることが察し られ、それら多数の試聴体験から次第にご自身が求める方向性をみのフロアー で学びとっておられたのでしょう。 ですから、電源やアクセサリー関係の試聴に関しても使用前と使用後の対比を 的確に言い当てておられ、そのような変化が自分にとって好ましいかどうかと いう二者択一の見極めを何度となく繰り返すうちに、音質変化の許される変化 領域という範囲を知らぬ間に身に付けてこられたのでしょう。 その変化の範囲の中でリビングルームで聴く音質に対して、ここは尊重ここは 割り切りというご自身なりに選択が功を奏しているということだと思いました。 本当においしいものを食べ続けているとまずいものがわかるようになります。 S様はスピーカー導入の以前から、そして音質の基準となるスピーカーが決定 してからも追求の姿勢を崩さず、自分にとってのおいしいものだけを引き出す ことに成功した事例と言えます。 ですから、私が脱帽するほどのオーケストラとクラシック音楽の音質を実現し ておられますが、スタジオ録音のために、そのバランス感覚を変化させるとい うことを断固として否定しておられるのです。 中途半端なマッチングでどのジャンルの音楽も80点を目指すということよりは、 クラシック音楽の音質に100点満点を目指し、他のジャンルの再生音は50点で あっても堂々とご自身の主義主張を貫いているというあっぱれな音質でした。 従いまして、私は室内のルームアコースティックの特徴に関して多少の分析を 口にすることはありましたが、セッティングに関しては何も変化をさせず、 今回はただただ玄人はだしのオーケストラの演奏に舌鼓、いや耳鼓を打って 堪能させて頂きました。お見事です!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さて、最近のSound checkでは訪問しての滞在時間が次第に長くなってきてい るようです。今回もお邪魔してから三時間半も経ってしまいました。 実は、お迎え頂いた車中では… 「川又さん、大したものはできませんが今日は簡単な食事も用意しましたし、 お酒も飲んで行って欲しいんですよ〜。先に一杯やりますか? それとも聴く 方を先にしますか? 」 と、もったいないお言葉を頂き、私も飲んでしまうと音がわからなくなって しまうので、先に聴かせて頂けますか、とお願いしたものでした。 こちらのマンションへは週末しか来られないということで、普段は世田谷の ご自宅から通勤していらっしゃるという。せっかくのオーディオシステムを セットしてあるのに忙しいと来られない週末もあるという。 そんな具合なので、今回はわざわざ奥様も私の訪問に合わせてお待ち頂いてい るということなので恐縮してしまいました。Sound checkですから肝心な音質 を先ず確認しなければと試聴を開始しましたが、S様も奥様もダイニングテー ブルで私の試聴が終わるのをお待ち頂いているという状況なので、逆にお二方 のお食事が遅くなってしまうことが大変申し訳ない思いでした。 しかし、そのような遠慮があったから試聴を早々に切り上げたということも なく、きっちりと再生音とルームアコースティックの関連性を見極める分析も 出来ましたし、S様の頑固な調整基準が素晴らしい結果となっていることにも 私は納得できたものです。 そして、課題曲はすべて一回ずつの再生で完了し、私が販売したオーディオ システムの中でも大変素晴らしい音質に仕上がっているということに安心し、 いよいよお二方とテーブルをはさんでのお食事と美味しいワインを頂戴する ことになりました。 聞けば奥様とは同じ年ということで、気さくな奥様もお酒はたしなまれると いうことで、二時間ほど色々な世間話やオーディオに関して話しが弾みました。 奥様の美味しい手料理に舌鼓を打ちながら静かに音楽を流しながらの歓談の ひと時は本当に楽しいものでした。 むしろ、我が道を行く音質に自信をお持ちのS様からすれば、細かい音質調整 よりも私が訪問したことそのものを喜んで頂いた様子で、ご家族の話題やお仕 事の昔話など実に様々な話題で盛り上がりました。 そんなひと時にふとオーディオシステムの方に目を向けると… http://www.dynamicaudio.jp/file/080708/785.jpg お部屋に入った最初から気になっていたアートが音楽の背景に浮かび上がって いるではないですか。さぞ名のある方の作品かと思いきや、実はS様がケニア へ取材に赴いていたころに現地で買い求めたもので、何とろうけつ染めによる 作品であるという。 染料としては一色なのですが、背景のほんわかした淡いグラデーションの見事さ、 髪の毛一本一本の精密な描写を可能にした極細の線画の素晴らしさ、日本では なかなかお目にかかれない作風が大変印象的でした。 クラシック音楽のみに的を絞り、その音楽ジャンルを一色と例えるならば、 そのひとつの色合いをここまで多種多様な表現力で描き切るというシンプルで 徹底したS様のオーディオに対する思想と共通するのではと私は思いました。 上記に海外取材と述べましたが、S様は長らく国内の最大手新聞社で記者を務め 現在は系列子会社の代表取締役を務めておられるものです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 5W1Hは一番重要なことを先頭にもってくるニュース記事を書くときの慣行。 要するに読者はまず事実を、それから些末な逸話を読みたがるということである。 ニュース記事の最初の段落はリードと呼ばれる。 ニューススタイルの規則では、リードには以下の「5W」の多くを含むべきと されている。すなわち、 Who(誰が)What(何を)When(いつ)Where(どこで)Why(どうして)したのか。 日本においては「5W」にさらにHow(どのように) の「1H」を含む「5W1H」で あるべきであるとされる。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 私が子供の頃に学校でこんなことを教わった記憶があります。記者の習性とし て、このような物事の把握の仕方が音質変化に対するS様の分析の土台に なっていたとしても不思議ではありません。 オーディオにおいて音質変化を起こす“因子”が多数あるわけですが、それら を当フロアーでの比較試聴で色々と体験され、自分にとって有用であり必要な “因子”を自室にて取捨選択の上で実行したということでしょう。 そんなS様より当日を思い出してのメールを頂戴しましたので、この機会に ご紹介させて頂きましょう。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 川又さん 私の箱庭楽団を聴きにこられ、ありがとうございました。まったく楽しいひと 時でした。できればもっともっと音楽談義をしていたかったです。 あのように贅沢な時間は最近、あまりありませんでした。 なにより、妻を巻き込めたのが大成功! 女性はなぜオーディオに興味がないのか、という話まで出来たことは上出来でした。 これでシステムも川又さんも認知されたこと間違いなしです。 川又さんをお迎えするに当たって、最も心配だったことが、川又ルームとは かなり違う鳴り方をしているということでした。 それから毎日聴いていないので、聞き落としているところがあるのではないか、 ということでした。 でも、一部でも気に入っていただいて、一安心です。 一度には買えないので、気に入ったものから少しずつ買いためていったのですが、 あのころは楽しかったですね。 川又ルームで、いろいろな組み合わせで音を自分なりに確認し、この前買った あれと、今度のこれを組み合わせれば、こういう風になるだろうなあと、妄想 をふくらまし続けて、何年かたったのですねえ。 鳴り方、響き方、つまり音場は事前には想像ができませんでした。 ただ、川又ルームのような鳴り方は、自宅の空間ではかなり手を入れなければ 無理だろうなと、割に早くから大きな果実をあきらめていたように思います。 ただし、弦だけはお気に入りの「お抱え楽団」にするぞ!!と。 思い出したのですが、スピーカーを除いて、確かにある時、機材を搬入してい ただきました。そのときは、なんとミニコンポのスピーカーをつないで鳴らし ていたんです。それが驚くほど骨のある音で鳴って、スピーカー以外の機器も 主役だぞということがわかりました。 そのときの便利さは、小さなブックシェルフのスピーカーなので、上下、左右、 前後、どこにでもスピーカーを簡単に置けて、鳴り方を確かめられるというこ とでした。 だから、最後に今のスピーカーを入れた時も、位置についてはあまり悪戦苦闘 して動かした記憶がありません。 というか、まだそこまで行っていないのでしょう。 これまではオーケストラの分解をよくするとか、しびれる弦の音にするとか、 クラシックを気持ちよく聴けるようにすることばかりに気が向いていました。 だからというか、私のはへそ曲がりオーディオだと思っているのです。 でも、悔しいんですよ、本当は。 ジャズもボーカルもイライラしない程度には鳴らしたい。 週末、それも下手をすれば数時間しか滞在できないから、クラシックだけしか 聴かないけれど、毎日が音楽漬けの日が来たら、部屋の壁をぶっ壊したくなる かもしれませんね。 それにしても、何も語らないのに、音の語らいだけで持ち主の気持ちを見通す 川又さんの眼力(聴力か)に脱帽です。 手をつけたら泥沼にはまるからしょう。 診断時間は短かったのですが、そのあとのおしゃべりが本当に楽しかった。 得難い時間をいただきました。 ありがとうございました。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- S様もこちらこそ、ありがとうございました。確かにその通りなんですね〜。 スタジオ録音のジャズやポップス、ヴォーカルものをきちんと鳴らそうと思う とどうしても室内の壁面に対して大がかりなことを始めなくてはならず、それ はインテリア性に目をつぶってエイヤッ!!とやらなくてはなりません。 おっしゃるように、現在楽しまれている曲層のうま味をそのままにということ になりますと大手術であり、100%の成功を収めるには時間と労力とコストが かかってきます。そして、それを行うことで現在のオーケストラの音質に変化 も当然表れてくるわけです。それが一番悩ましいところであり、今のS様に とって果たして望ましいことかどうかは不明であり私にも確信が持てません。 そして何よりも弦楽器を主体としたクラシック音楽の演奏が大変高いレベルに 達しているのですから、当面は十分にお楽しみ頂けるものかと思います。 さて、話しはとんと変わりますが、もう28年近く前のことですが戸川 猪佐武 著作の『小説吉田学校』の全巻を読破したことがありました。 終戦後に早稲田大学に復学し、卒業後1947年に読売新聞へ入社すると政治部 記者として活躍し、この頃から数多くの政治家に対し取材を行なって顔を知ら れるようになる。 S様と同じ新聞記者として才覚を発揮し、1962年に読売新聞を退社して政治評 論家に転じる。 1983年3月18日映画化された『小説吉田学校』の試写会や竹下登のパーティな どに参加した直後、翌日未明に突然59歳という若さで急逝した。 「小説・吉田学校」は当時、単行本の形で第7部までが発表され、1981年に 角川文庫に収録されるとともに第8部が書き下ろされて完結した。私は7部まで しか読んでいなかったので、文庫化されてからの全8部を購入したものの未だ 手つかずで読んでいない。 作家としての戸川の作品で“小説”と銘打っているものは、いずれも実際は 史実を克明に追ったノンフィクションである。戸川が「小説という形を取って あえて評伝にしなかった」のは、「政治家というものは、そのパーソナリティ、 キャラクターによって、行動様式が支配されている」ものであり、政治家の 「人間を描くことによって、こういう人だから、こういう行動をとったという ことがはじめてわかるから」だという。 この解説は大変興味深かった。なぜか!? 「オーディオ(音楽)愛好家というものは、そのパーソナリティ、キャラクター によって、出し得る音質様式が支配されている」とは言えないだろうか!? オーディオ(音楽)愛好家の… 「人間を描くことによって、こういう人だから、こういう音を出しているとい うことがはじめてわかるから」とは言えないだろうか。 数多くのお得意様に支えられてきた私は、その数に相当する多数のお客様が 日頃聴いておられる音質を知りたいと思ってもなかなか実現できないものだ。 しかし、最近のSound checkという私の行動様式によって、一人、また一人と ご本人が演奏しているシステムの音質を拝聴するにつけ、私はユーザーの個性 と再生音の関連性を考えずにはいられないものです。 だからSound checkは面白いのです!! 今回の訪問記は音質だけでなくS様の人となりを述べる機会が多かったように 思いますが、その傾向は今後も続くかもしれません。 いつかは私も『小説吉田学校』の最終部を完読したいものです。 そして、私のこのH.A.L.というフロアーは「川又オーディオ学校」(笑)&(^^ゞ のように皆様に親しんで頂き、ご利用頂ければ何よりであると考えています。 S様、「川又オーディオ学校」ご卒業おめでとうございます!! いや、再度の入学・復学も大歓迎です!! ありがとうございました。<m(__)m> |