《“I love B&W”H.A.L.'s Essay competition - Entry No.4》
No.0435 - 2008/4/8 福島県本宮市 A.F 様 Entry No.4 「B&W−N801が最終選考で踊り出た!!」 福島県本宮市 A.F様より あの夕べ、店員さんらは包装を解いて、楽ちんでしょうと床敷きのうえを コロコロと移動した。ノーチラスちょん髷の801。100kgの図体は、 まるで測ったように、巣立って空いた子ども部屋連結リフォーム20畳奥の、 レンガ床部に載った。 奥座に置かれたのへ対面したあの日は、指折り数えると7年も前になる。 早いものだ。 当時の私はB&W社の何たるかなどには詳しくなかった。 だからマトリクスシリーズ以前など知りもしなかった。 それにしてはまたずいぶん気楽に買ってくれるではないかと言われそうだ。 いやいやけして気楽でなどないのです。 しがないサラリーおじさん夫婦のなけなしのお買い物です。夫婦連れだって 地元北の地方都市に出向いたのあの日は、五十路に立った私の誕生日。 その足で知る人ぞ知るお店に向かったのでした。 ・・と、ここで場違いな美談を述べるつもりはないのだがコトの始まりを 少々続けます。 奮闘努力の末に4男児をひとまず育て上げて巣立って。 ほっと一息のある朝賢明なる妻殿が私の顔をまじまじと見て、疲れているので はありませんかと申された。 「昨日、友人の旦那様の悲報がありまして、『あなたの所もお気を付けなさい 身体だけではないのよ。心を患って休職中も多いのよ。バブルの後90年代の 中高年お父さんたちはそりゃもう大変。倒れられてごらんなさい大混乱よ。 運良く立ち直っても1年2年分は軽く吹き飛んじゃう』ですって……」。 私は通勤マイカーのことと燃費のほかに日頃財布から支払うものなどない 良きパパであり、脇道寄らぬ優良会社員。酒も要らなきゃたばこも、の一途な 小男。それを読みとって、バーンアウトのごとく倒れて逝った友人の夫の遺影 が、私の背後にもちらついたらしい。 子育て親業の峠を越してもう一山無事に過ぎてほしいなら、ここは願っても 少々無理しても、心に注ぐべき潤滑油など先手を打てと助言を受け、思案した という。 そんなわけで、清水の舞台どころか富士山頂かアルプスの天ッぺんからの 思いで、私の体の健康と心の潤い確保に、無謀とも思える投資を決意したよう なのでした。 もちろん私はその話を冗談だと思いました。せいぜいがカルチャーセンター 通いの絵描きでもやれば、と言うのかと思いました。何を言うやらと笑って 過ぎようとしたのはいうまでもありません。 しかし話の裏には五十男の死や泣き叫んで棺にすがる家族の様子がある。 有効に使いましょうと提示された額にその真剣な思いを感じた。 で、こちらもつい真剣に、喜んで思いめぐらした数日。 若き頃の自分が聴き楽しんだ音楽とオーディオが良いと関連書を求めて開いた。 そうそう、小さな秘め事はひとつありました。 出張上京のおり時間をみて、あまりな様変わりの秋葉原に寄ったことがあった。 昔取った杵柄か、老舗のオーディオコーナーに、ふと立った。すでに妻の案ず る心の疲れがあったのかもしれません。 20年以上空白があるオーディオ機器との出会いは浦島太郎のごとき有り様。 ブランドネームプレートも機器類のデザインも珍しいお初ばかり。強靱な造り のCDプレーヤーに、斬新なメタリックパネルのアンプ、縦長角無し反り身ス リムなスピーカーなどなど。 恐るおそる店員氏に訊ねて、乞うた一曲。ららら…………。 目を丸くしたまま聴き入る私の耳にはあまりにも清冽なサウンド。 奏者たちの輪郭が描きくり抜けそうに再現された。 あの頃海外製品に有り金はたいて買い並べ聴き養った音感が、不幸にも新時 代の音に共鳴して身震いした。 「20年以上前といえばパソコンも無い頃でしょう。オーディオ業界だって テクノロジーの進歩は負けていませんよ」の店員氏の解説に納得。 とはいえ燃費オンリー定額小遣い現役サラリーマンおじさんに、目ざめた 音感を満たすには高額。話にもならないと翌日から、また笑って過ぎるに慣れ た一人のおじさんに戻ったのでした。 滅多に鳴らさなかった往年の装置はすでに部屋の隅で半身不随。それでも 聴くとなればバッハ以前も以後も室内楽も交響曲も内外民謡からジャズシャン ソン歌謡曲、タンゴにマンボにカンツォーネ。アメリカンポップスもスクリー ンミュージックもミュージカルも。 私は何でも真面目に聴き込む質(たち)。 だらだらの、ながら聴きはしない。系統立てて参考本やメモ片手に向き合う タイプ。 ついでに言えば、ウィーンムジークフェラインの音でなければとか、サント リーホールだけが音楽会場という声が嫌いだ。武道館だって凸凹市民会館で あれ○×文化センター、地方の△□音楽堂だっていいではないかという思いが ある。味噌や醤油の極東でこれだけ恵まれているのだから、がたがた言わずに 謙虚に聴かせて戴くべきだと思う。 BPOやVPOの音しか音楽でないなんてこともなかろう。 ストラジヴァリウスしか弦楽器ではないということもないはずだ。 判ったふうなワイン通みたいな講釈は厭だ。 そしてオーディオもまた、メガネの有り無しで耳で感じるはずの音が、違っ て聞こえたりする。そんな気分ものであるオーディオ機器に必要以上にこだわ れば際限ない。わが分を超えては本筋を見失う。 などと無口なわりに、面倒な持論を吐いたりする小男は、徹底選択の末に、 どぉんと据えたら、あんたの出す音が私の音世界のすべてだ、聞こえない音は 録られてないのだと、すべて信じて任せっきりで居られるものを選びたかった。 そういう選択基準を元に、調整箇所を極力排した複雑過ぎない構成が、精神 衛生上の企てとする妻の投資趣旨に沿う大切さだとしての一次予選。 最上級つまりメーカー自慢の全力投球フラグシップ機が見せる面構えで スピーカーのブランドを選った。惹かれたのはティール、アバロン、ウィルソ ン・オーディオ、B&W。 60年代の名は残れず、80年代以降のメーカーとなった。二次予選は店で、 目に耳にできる機種を現実購入の前提で視聴した。 21世紀型オーディオを開眼させてくれた新時代音響学の粋、米美人ティール。 または生真面目な英国産の消音テクノロジーとスタイルに何かあると惚れた B&W、ちょん髷ホラ貝。その段階ではN802だった。 だが何を聞いても比べ聴き惚れる私の耳を読んだ店主は、後悔しないで済む N801になさいと言う。何とかしますから、と。 そこから妻の出番。妻はミュージカル「レ・ミゼラブル」で居酒屋テナル ディの妻がコゼット引き渡し額を交渉する胸勘定の狡い目でジャンバルジャン ならぬ店主に迫り、まぁ…良いでしょう、と手を打たせた。 B&W−N801が最終選考で踊り出た! その日のうちに運び込まれ、以来聴き続けている。 堂々としていて的確な音だといつも感じる。理論に裏付けられたテクノロジー の具現化か説得力がある。 後に選び、入れ替えたゴールドムンドのアンプも、さらに後メンバー加わっ たワディアのCDプレーヤも、私基準の的確な音指向の同一路線上にあり、 夜な夜な絶妙に協奏してくれる。 私をいつも一音で音楽のただ中に引き入れてしまうN801だが、その音は 豪快鈍重でもなければ、病的で味気ない赤裸々さというのでもない。 何を聴いても元の響きや余韻の漂いまでを洩らさず描き出しては奏でる音に 集中させる。 そういうふうな過不足無い安心感を常時提供してくれる機器類こそが、頼も しい音楽心の支えではないかと思っている。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 川又より A.F様ありがとうございました。2000年に福島県内のショップで購入された ということも追記させて頂きました。人それぞれの巡り合いと選択とがあり、 音楽の楽しみ方も千差万別。皆様の気に入られたシステムで思いっきり音楽わ 楽しんでいらっしゃるという心境が伝わってくる投稿でした。 私も同様に全国の皆様に素晴らしい音をお届けしていきたいと日々努力して おりますので、これからもよろしくお願い致します。ありがとうございました。 |