《H.A.L.'s 訪問記》


No.0005 - 2008/5/14

東京都練馬区 T.I 様-H.A.L.'s 訪問記

Vol.5「川又さんに聴いてもらっていると何だか裸にされていくような気がするな〜!!」

首都東京を環状にめぐるJR山手線、それを南北に縦断する形で走る中央線と
総武線が交わるのがJR御茶ノ水駅。そこから秋葉原へ向かう途中にあるのが
江戸時代から名を残す昌平橋であり、現在ではJR総武線の鉄橋がかかっている。

日本橋を起点に新潟市へ至る中山道(中仙道)国道17号が神田明神下でクラン
ク状に曲がる交差点に当社の旧サウンドパーク・ダイナ(現在のサウンドハウ
ス)があるが、ちょうど秋葉原に向かう総武線の車窓から北側を眺めていると
昌平橋を通過する際に一瞬だが当社のビルが垣間見える。そして…

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto46.html

ちょうど10年前1998年の秋、上記の随筆で述べている感動の出会いがあった。
私はステレオサウンド誌No.129にて次のヘッドコピーによる旧サウンドパー
ク・ダイナ単独の広告を出した。

           「98'〜99'ノーチラス宣言」

「当サウンドパーク・ダイナは、オリジナルノーチラスをはじめとする総ての
 ノーチラスシリーズを展示することにより、全国の皆様のご期待にお応え
 していくことをここに宣言致します。」

               1998年12月 
          株式会社ダイナミックオーディオ 
         サウンドパーク・ダイナ店長 川又利明

この時期に私は旧サウンドパーク・ダイナの外壁に巨大な懸垂幕をしかけた。
鮮やかな黄色に地に大きく縦書きされた「ノーチラス宣言!!」という文字を
総武線の窓から偶然にも見かけたある女性がおられた。ちょうどご自宅を新築
され、仕上がったオーディオルームに大きなスピーカーを入れようと、ご主人
と楽しい思案を重ねていた練馬区在住のK子様がその人。

仕事でコンピューターのCPUを求めに秋葉原へ向かう途中、ほんの一瞬目に
とまった「ノーチラス宣言!!」という言葉が何を意味するのかも知らなかった
K子様はオーディオ好きな知人からB&Wというメーカーのスピーカーのことだと
知らされ、それまではとJBLを購入しようと思っていたご主人を伴って初めて
私の元に来店されたのが早10年前ということになる。

ご自宅の部屋のサイズからすれば当時はN802がよろしいと考えておられたが、
実際にN801と比較試聴を行い、私が推奨するN801の音質に納得され導入して
頂いたことが思えばそもそもの出会いであった。あれから10年…、

熱心に音を追求するK子様とご主人のT.I 様は、私のセットアップした数々の
コンポーネントを納得いくまで試聴され、ご自分が求めている音はどういう
ものなのかというご自分の感性を次第に明確なビジョンとして持ち始めてきた。

10年間のオーディオに対する取り組みは徐々にご夫妻の求めるレベルを引き
上げていくことになり、一歩一歩のステップでは思い切った決断をされてきた
ことが今日のシステム全体で成し得た完成度の高さとなっている。そして…!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

2008年5月某日、T.I 様のご住所をパソコンに入力して地図を検索していた。

高田馬場にビッグボックスは今は亡き建築家の黒川紀章の設計。オープンした
ての1974年に高校生だった私は当時流行していたVictorの4ch方式であるCD4が
体験できるショールームがあるということで聴きに行ったものだった。

そのビッグボックスを見送るようにして高田馬場から西武新宿線の急行へと
乗り継ぎ、一路T.I 様のお宅を目指し雨の中とある駅に降り立った。五月とい
うのに気温は三月に逆戻りで寒い雨が降る中、閑静な住宅地の中で目立つラン
ドマークも乏しく、さした傘を傾けて街灯の明かりを頼りにプリントした地図
を何度も見ながら徒歩で新青梅街道を目指す。

ここだ〜、表札を確認し傘をたたみ呼び鈴を押す。

夜分の訪問と手ぶらでうかがってしまった失礼をお詫びしつつも、快くご夫妻
でお出迎え頂き恐縮の体でお邪魔すると…

「川又さんに先ずこれを見てもらいたかったんですよ〜」

とご案内頂いたのは一階の仕事部屋にある押入れ!? でした…
実は訪問に先立って頂戴したメールには次のような一節が。

「川又さん、こちらこそ何時もお世話になっております。
 本日は、宜しくお願いいたします。

 私のシステムで特に拘っているのは電源です。
 拙宅の電源は一般家電を含め全て200Vで供給を行っています。
 当然、100Vにしか対応しない製品も多く存在するため200V電源を
 ノイズカットトランスを通し100Vにし対応を行っています。
 これは冷蔵庫から部屋の明かりまですべてに及んでおり、当然オーディオ用
 の主電源は一般家電とは別の電源ルートとしています。
 その上でPIMM等を使用し更なる電源浄化を行っております。」

ということで、二階のオーディオルームより先に電源の部屋?を拝見すること
にあいなりました。先ずは200Vで電源を取り入れる配電盤も特注ということで。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/12.jpg

次に、この配電盤から上述のメールのように家庭内のすべての電化製品に対す
る電源を200Vのままと100Vに変圧するトランスがこれ。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/10.jpg

右側三台は電研のノイズカット・トランスで一般家電製品にも使用していると
いうことでしたが、オーディオに悪影響を及ぼすコモンモードノイズの大方は
電化製品から回り込んでくるというものだということで、そのためには家電
製品そのものの電源もアイソレーションしないといけないというこだわり。

そして、左側にある外観の変わったものがオーディオ専用のトランスという
ものであり、量子物理学の実験に使用する機材に電源供給するためのシビアな
高品位電源を取り出すための特殊なトランスであるという。それらにもしっか
りとTAOCのボードを敷いておられるところが更なるこだわりであり、デッド
ニングのために鉛と思われるダンピング材を張り付けたりレンガを置いて重量
バランスも考慮したという“電源の小部屋”をしばらく眺め、ブーンという
うなりもここだったら気にならないだろうと納得してしまった。

特殊なトランスで用途を優先して設計されたものらしく、うなりが出ることな
ど気にしないような状況で使用するものらしい。何といってもオーディオシス
テムは二階なのだから(笑)ここまでやるか〜!?という自戒を込めてか、T.I 様
は笑いながらこう言う。「ばかでしょう〜(笑)」と…、しかし、屈託のない
笑顔に隠れる満足感を私は見逃さなかった。そして…

いよいよ二階のオーディオルームに足を踏み入れると待ち構えていたのはこの
風景だった!!

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/14.jpg

照明を抑えていらっしゃるのをかまわずに撮影してしまい、写真の写りが悪く
て申し訳ございません<m(__)m>画質補正にも限界があるようでお許しください。

と、撮影の未熟さを嘆いていたところが、何と!!
K子様より助け舟を頂戴しました!! ありがとうございました。<m(__)m>

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/normal.jpg

先ずはこの↑写真をとくとご覧頂きたいものですが、Pioneer KURO 6010を
使用される状態ではこのようになっています。しかし、昨年末のことT.I 様が
どうしても画面の表面で発生する一次反射波の影響で音質が落ちてしまうので
何とかならないだろうか、というご相談を頂戴し私がご提案して対応策を講じ
たのが次の写真↓の状態です。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/tv_cover.jpg

お分かりのようにプラズマディスプレーの表面をきっちりとカバーしているの
はご存知のQRDのDisplay Cover BADタイプ。これは特注サイズです。

http://www.ohbashoji.co.jp/products/qrd/price/

この他にもSkylineタイプやDigiwaveタイプがあります。今回のように音源で
あるスピーカーと画面の位置が近接している場合には吸音性があるDigiwave
タイプかBADタイプを推奨しておりますが、お客様の使用環境と好みによって
は拡散だけのSkylineタイプが好まれる場合があるようです。ご相談下さい。
そして、当然今回の訪問で試聴させて頂いたのはDisplay Coverをした状態と
いうことでした。

そして、肝心なフロントエンドとプリアンプは上記システムの右側にこのよう
にセットされていました。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/16.jpg

こちらもK子様からよりふさわしい写真をご提供いただきました。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/source.jpg

さて、写真ではわかりづらいと思いますので、早速T.I 様のシステムの流れを
ご紹介しましょう。


  ◆H.A.L.'s 訪問記-Vol.5 東京都練馬区 T.I 様システム構成◆

       □ Front Channel System □

ESOTERIC  P-0s+VUK-P0(税別\1,950,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/216.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/108.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様) -> PAD Signature Series AC DOMINUS PLASMA
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓
NBS Black Label Interconnect Balanced     
      ↓
Wadia 27ix V3.0 (税別\1,680,000.)
http://www.axiss.co.jp/fwadia.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様) -> NBS Black Label AC
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓  
NBS Black Label Interconnect Balanced    
      ↓   
KRELL  Evolution Two/Black (税別\8,000,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様)-> TRANSPARENT PLMM
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓
KRELL CAST MMF3  (税別\210,000.)
http://www.axiss.co.jp/krelllineup.html#KACCESS
      ↓
KRELL  Evolution One/Black (税別\9,600,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様)×2-> TRANSPARENT PLMM(20A仕様)×2
      ↓
NBS Black Label Speaker Cable
     ↓
KRELL  LAT-1 (税別\5,900,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/126.html


       □ Surround-Front L/R Channel System □

ESOTERIC UX-1+ VUK-X01(税別\1,350,000.) -> SONY Qualia 001 -> Pioneer KURO 6010
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/ux1/index.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様) -> PAD Signature Series AC DOMINUS PLASMA
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓
KRELL Home theater standard 7.1ch/Silver
http://www.axiss.co.jp/whatsnew_krellHTS7.1.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIXL -> AudioPrism改造版 -> PAD Signature Series AC DOMINUS PLASMA
      ↓
(Front L/R ch)Analysis Plus XLR 3m
      ↓
KRELL  Evolution Two/Black (税別\8,000,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様)-> TRANSPARENT PLMM
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓
KRELL CAST MMF3  (税別\210,000.)
http://www.axiss.co.jp/krelllineup.html#KACCESS
      ↓
KRELL  Evolution One/Black (税別\9,600,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様)×2-> TRANSPARENT PLMM(20A仕様)×2
      ↓
NBS Black Label Speaker Cable
     ↓
KRELL  LAT-1 (税別\5,900,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/126.html


  □ Surround-Center/Rear/Sub woofer Channel System □

ESOTERIC UX-1+ VUK-X01(税別\1,350,000.) -> SONY Qualia 001 -> Pioneer KURO 6010
http://www.teac.co.jp/audio/esoteric/ux1/index.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIMM(200V仕様) -> PAD Signature Series AC DOMINUS PLASMA
http://www.axiss.co.jp/ftran.html
      ↓
KRELL Home theater standard 7.1ch/Silver →Sub woofer  LINN  AV-5150
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
        □Power equipments□
TRANSPARENT PIXL -> AudioPrism改造版 -> PAD Signature Series AC DOMINUS PLASMA
      ↓
Proceed AMP3(200V) □Power equipments□ NBS Black label AC Cable
      ↓  
Rear SPK   BOSE 101IT
Center SPK BOSE 101SD

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、以上の構成ですが、壁コンセントにもこんなこだわりが見られます。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/22.jpg

三年前にも次のような↓投稿を頂きましたが、それから現在に至るまでに更に
システムは更新されています。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0253.html

こちらにご本人から詳細な解説がなされていますが、電磁波対策まですべて
ご自身で設計したということで頭が下がります。<m(__)m>
ちなみに施工された電源工事のご担当者もハルズサークル会員です(笑)
K様ご苦労様でした。(^^ゞ

取材みたいな撮影は試聴の前にということで、色々なスナップを撮らせて頂き
ましたが、面白いものを教えて頂きました。これ↓です。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/25.jpg

右上に見えるのがスピーカーのKRELL  LAT-1ですが、スピーカーケーブルに
何やらグレーの布地が巻き付けられていますが、これは何とあのサンダーロン
のマフラーだそうです。なにそれ!?という方は下記をご覧ください。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/554.html

サンダーロンとは、ここでご紹介しているSFC SK-EXの箱の内側に貼り付けら
れているフェルトの生地であり、これがコロナ放電の原理で静電気を除去して
くれるというもの。

さて、このサンダーロンの供給元の開発者と話しをしたことを思い出した。
サンダーロンとは特定の生地や繊維を指す名称ではなく、特殊な“染色技術”
の特許のことであるという。その染物業者は創業70年という京都の老舗の一つ
であり下記のように導電性繊製品として多方面に応用されているという。

http://www.sanmo.co.jp/thunderon/thun-01.html

T.I 様は何と、このサンダーロンのマフラーを見つけてきて、スピーカーケー
ブルに巻き付けたところ、これがまたいい!!とのことでした。やりますね〜!!

そして、更にK子様から一言。「ここは壁紙も吸音なんですよ!!」と、私は?

なるほど〜、触ってみると柔らかく、わずかにクッション性がある肉厚な壁紙
が室内のすべての壁面に貼り付けられている。これはいい!! 下記は参考まで。

http://bb.epox.jp/item_data/30831/?ct=277
http://www.sangetsu.co.jp/interior/floor/index.html

10年以上の情熱とノウハウが結実したT.I 様の部屋は機能性重視でやりたい
放題であり、新宿区のTELOS様↓とは好対照な発想と取り組み方というもの。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/hf_visi0001.html

雑然としているように見えても、これとあれを妥協なく使いたいということに
なれば隠しようがないものばかり。それもこれも音質本位の取り組みをされて
いるのだから誰が文句を言えようか!?これこそあっぱれ!!という徹底ぶりです。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/tv_cover.jpg

さて、再度セッティングのあり様↑をとくとご覧頂きたいのですが、パワー
アンプのKRELL  Evolution One/Blackの下にはご存じ“B-board”が、そして
プリアンプEvolution Two/Blackの下にはMMW-1(Metal Matrix Works)が、更に
スピーカーLAT-1の足元には下記↓と同様な方法でP-Boardで固められています。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/549.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/071014/SN260004.jpg

更に私が推薦してきたアイテムの過去の歴史をさかのぼるようにして、この
写真↓にも面白いものがP-0sとWadiaの下に使われています。

http://www.dynamicaudio.jp/file/080511/source.jpg

更にヒントとしては訪問記二番手の東京都渋谷区 A.A 様のシステムでも次の
ように写真に写っているものです。おわかりでしょうか?

http://www.dynamicaudio.jp/file/080425/15.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/080425/22.jpg

そうです!!残念ながら現在では生産完了となってしまいましたが、PAD  T.I.P
(Total Isolation Platform) が実に要所に使われています。そもそもは下記
の発売当初のレポート↓をご覧ください。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/107.html

振動対策としての“B-board”をはじめとするMetal Matrix Worksシリーズと
電磁波・高周波の対策としてPAD  T.I.Pを併用するということは実に効果的で
あり、A.A 様も今回のT.I 様も私とのお付き合いの深さと歴史がセッティング
にも表れているという好例でしょう。このような細かい配慮とこだわりが高価
なコンポーネントへの投資効果を更に引き立てていくわけですね。そして…

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

K子様が淹れてくださった私好みのローストの深い酸味よりも香り優先という
おいしいコーヒーとロールケーキをごちそうになり、いよいよ試聴ということ
でT.I 様が…

「じゃあ聴いて頂きましょうか。ボリュームは大きいかもしれませんが…」と、
既にP-0sにローディングしてあったディスクを前置きなしにスタートさせた!!

ジャズコンボの演奏で曲はベニー・グッドマンの名曲「Sing,Sing,Sing,」

おなじみのメロディーではありますが、とにかくドラムとパーカッションの
鮮烈な打撃音が私も未体験というレベルのインパクトで叩き出されてきます!!

打楽器の本質はそのアタックの鋭さにあり、とでも言えそうな強烈な打撃音は
耳元でガツンと叩かれたような激しさであり、同時に耳に刺さるような刺激を
含んでいないということが不思議に快感を催す鳴りっぷり。そうか〜、T.I 様
はこれを最初に私に聴かせたかったのか〜(^^ゞと、聴きながら私の口許が
緩んでしまいました。

演奏の中盤からパーカッションの連打が繰り返され、店頭で鳴らしたら効果
抜群だろうな〜という激しい打音が続き、圧倒的な音量から解放されると
思わずため息をつきたくなりそうな一曲目でした。

「はは〜ん、T.I 様はこれを私に聴かせたかったんでしょう〜」と言うと、
「わかりました!?私はとにかく太鼓を鳴らしたかったんですよ(笑)」という
ご返事で、笑顔のT.I 様がこちらを振り向かれた。

やっぱりな〜、これは確かに衝撃的でしたね〜、まさしくKRELLでないと出せ
ない音があるとすれば、ズバリこれでしょう!!

ちなみに、このディスクの詳細を教えて欲しいとお願いしたところT.I 様も
詳しくは知らないという。演奏者や録音の背景などは全く分からないが、知人
からCD-Rで譲り受けたものだという。う〜む、よかったな〜(^^ゞ

そして、私から「それでは持参したCDを聴かせて頂いていいですか?」と言う
と「もちろんです、どうぞどうぞ!!」とリモコンを渡して下さった。

さて、ここでチェックポイントが一つ。最初の演奏を聴かせて頂く際にT.I 様
は「多分、この位置がいいと思いますが…」と、ちょっぴり自信なさそうに
テーブルのそばにあって目前のハイバックチェアーの背もたれの後ろにある
丸い小さな椅子を示された。ここで最初の曲を聴かせて頂いてから私のCDを
聴き始めたのですが…。やっぱり最初の曲はこれです。


■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団第二楽章

威風堂々…というイメージがぴったりの出足でした。管楽器のエネルギーも
十分であり弦楽器の質感も私が承知しているKRELLのアンプとスピーカーと
いう純正ペアリングの個性が色濃く出ています。

しかし、広く一般的にオーケストラの弦楽器はこうあって欲しい、管楽器も
こうなって欲しいという平均値よりはテンションの張り方とコントラバスと
チェロなどの肉厚感が少し違うようです。これは何を意味するのか!?

他にも数枚持参したオーケストラのディスクを聴こうかどうか、ということを
考えているうちに、これはT.I 様が好まれる音楽の種類がちょっと違うのだろ
うということに気がつきました。うかがってみると…

「オーケストラもたまに聴きますが、春の祭典のように打楽器が盛大に使われ
 る曲が好きですね〜」

やっぱり!! その方向性でチューニングされていたということをうかがって
私も安心しました。そういうことであれば、最初に聴かせて頂いた傾向の選曲
がいいだろうということで、これまでにもおなじみのCDに切り替えました。


■“Basia”「 The Best Remixes 」からCRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX)
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/
http://www.basiaweb.com/
http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1

「この部屋は電磁波対策と防音仕様の両方になっていますから音量は遠慮なく
 好きなだけ上げてください」

とコメントを頂き、ずっしりと重いKRELLのリモコンで徐々に音量を上げて
行きました。毎度のことながら、この曲の最初のチェックポイントはドラム。

「いや〜、そうきましたか〜、これですねー!!」

この曲のキックドラムはスピーカーによって千差万別の音になり、スピーカー
によって「ドスッ!!ドスッ!!」「ドンッ!!ドンッ!!」「ドシッ!!ドシッ!!」
などなど擬音として文字に置き換えると様々な表現があるものですが、国内で
も数人しか?いや、ひょっとしたらプリとパワーアンプ両方がKRELL Evolution
シリーズのフラッグシップという組み合わせ、更に同社のLAT-1という構成は
国内唯一ではないかと思いますが、(輸入元であるアクシスに確認したところ
Evolution OneだけTwoだけを単品として購入された事例はあるがセットで所有
されているのは国内ではT.I 様お一人だけ。ましてや同社のLAT-1とのセット
で所有しておられるのも間違いなく日本ではT.I 様だけということでした)
このインパクトの見事さと強力なブレーキがかかる打音というのは私も記憶に
ないかもしれません。

言葉にすると…まさに「ダンッ!!ダンッ!!」という感じなのです。

サンプリング音源とはいえ、ドラムヘッドの皮の質感が幾分か膨らんだ響きを
醸し出すものですが、これには恐れ入りました。「太鼓を鳴らしたい」という
T.I 様の条件は相当なボリュームまで上げても破綻しないということが前提で
あることは私も承知していました。

しかし、ここまでストイックに引き締まったドラムが聴けるとは私の想像を
ちょっと超えていました。次に入ってくるチェロやピアノのテンションも更に
新鮮な響きと解像度があるので申し分なく、しかも肝心なBasiaのヴォーカル
ではことさらにクリスタルなイメージが展開します。

この音質の最大の貢献者としては間違いなくスピーカーです。
LAT(Lossless Acoustic Transducer)シリーズの第一号機として設計され、私
もそのマッチョでありながら繊細な表現が得意なLATシリーズで何回も聴いて
きた経験がありますが、ESOTERIC P-0sという強靭な筋肉質のフロントエンド
からピックアップされた信号を同様にエネルギー感溢れる個性のWadia 27ixが
アナログ変換し、Evolution One+Twoというパワフルな増幅部が打撃音の奔流
を余すことなくLAT-1に注ぎ込むとこのようになるのでしょう!!

LAT-1のウーファーにあたかもスチール製のクランクシャフトを溶接して直接
ドラムの打音のインパクトをガツンと伝えているようなスピード感です!!

Losslessとは失うものがあってはいけないという思想の他にも余分なものを
付け足さないというポリシーを併せ持っているということを再認識されられ
ました。脱帽です<m(__)m>

私は目の前で展開するインパクト溢れる再生音を聴きながら、T.I 様が「多分、
この位置がいいと思いますが…」とおっしゃった椅子の上で、上体を前後に
動かしてスピーカーとの距離感を変化させてみた。あれ…、という発見がある。
その発見をどのように理解すればいいのか? 確認作業に進もう。次の曲だ!!


■DIANA KRALL 「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004)
http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html

叩く楽器とクリスタルなイメージを彷彿とさせるヴォーカルでKRELLシステム
の醍醐味を堪能しつつ、でも私の習性で再生音の善し悪しを使い手の好みと
いう次元から切り離してチェックし始めてしまう。低域のウッドベース、中域
から高域にかけてのヴォーカル、同様に高域の情報量を顕著に表わす指を弾く
パート、この曲で色々なシステムを聴いてきたが、今回はどうだろうか?

冒頭から始まったDIANA KRALLの指を鳴らす音、実はこれはT.I 様が長らく
愛用されているESOTERIC P-0sが登場した時に私がサーボの調整項目で使用
した一曲だった。時間のある方は下記の随筆をどうぞチェックしてみて下さい。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto44-1.html

この出足からの音を聴いているうちに気が付いた。T.I 様が指定しておられた
P-0sのサーボモードはノーマル・ポジションでした。私が意図的にこの音質を
選択されたのですか? と尋ねると「う〜ん、そうですね〜、それでいいかな〜
という程度のつもりでやっていただけです」というご返事。

そこで私はリファレンスポジションに切り替えていいですか? とお尋ねすると
どうぞどうぞ!!ということで、いったんCDをストップして推奨しているリファ
レンスモードに変更した。すると…

「あー!!聴こえたなかった音が聴こえるね〜!!」

と、私の背後でT.I 様がK子様に声をかけているのが耳に入る。その通りです。
DIANA KRALLの指を鳴らす音が上記の随筆で述べているように長い滞空時間の
エコー感を伴って空間に飛び散っていきます。これですね〜!!

そして、変化はそれだけではなくヴォーカルの輪郭が整い、余韻感まで一回り
大きくなる。そして、低域のクリスチャン・マクブライドのウッドベースまで
引き締まってくるのだから、サーボモードの重要さが思い知らされたわけです。

なぜ、トランスポートの設定を見直したかという動機は、実は楽音の質感は
こうあるべきだろうという経験則と期待感があり、聴かせて頂いた音質に対し
て非常に高い次元での疑問とこだわりがあり、もう少しこうでなければおかし
いのではないか? という思いがあったからです。

それは、今回の訪問に先立って数日前にあるケーブルをT.I 様に自宅試聴して
頂き、次のようなご感想を頂戴していたことから始まりました。


「川又さん、お世話さまです。CAST MMF cableは大変に気に入りました。
 CASTになってケーブルの影響がなくなるというのは、心地の良い嘘でした。

 CASTの考え方は、インテグレーテッド・アンプを聴く時に感じる一種の
 見通しの良さをセパレート・アンプにもたらすものだと思います。

 そういった意味ではCAST cableは機器内部の線材そのものであり、ESOTERIC
 がグレードアップに6Nや8Nの銅線を使用する事と今回のCAST cableからCAST
 MMF cableに変更するのは方向性として同じものだと思います。

 まず、これまでのCAST cableでゲルギエフの「春の祭典」を聴きました。
 近頃の精進が効いているのか、管楽器は高らかであるし、ティンパニーは
 ズンと沈み込む、我ながら聴き惚れてしまいました。

 じっくりとCASTを聴き自画自賛の時を過ごした後、いよいよCAST MMFに変更
 し同じく「春の祭典」をながしました。

 今までの自画自賛はなんだったのか…!?

 オーディオをやっていると自分がこれまで出していた音、自慢していた音、
 惚れていた音がとたんに恥ずかしくてたまらなくなる時があります。

 久しぶりにこの感覚を憶えました!!

  まず、見通しがまるで違います。
  これまで鮮烈であると思っていたCAST cableがまるで安価な機器に付属して
  いる赤白のピンコードのように感じられます。

  これまでよりもずっと背景が暗くなり、音の立ち上がりが良く、CDのビット
  数が増えたような細やかさです。

  CASTを使用できる環境の方々の全員にMMF cableをお勧めしたいと思います」


そうなのです!! KRELLのコンビネーションだから出来る電流伝送CASTの威力。

T.I 様がおっしゃる「心地の良い嘘」というのは、同社がこのCASTを10年前に
開発した時にケーブルの存在感がなくなる、つまりケーブルのクォリティーに
影響を受けない理想の伝送方式ということを自慢げに述べていたからです。

今までT.I 様がお使いになっていたCASTケーブルはKRELLから供給されたもの
で製造メーカーは不明。価格は長さ3mのもので税別\92,000.でした。しかし、
今回の新製品は下記のように同じ長さで税別\210,000.というものです。

http://www.axiss.co.jp/krelllineup.html#KACCESS

そして、CAST MMFシリーズの製造元は何と、あのNordost社だというものです。

実は、ちょうど次のシステムでこのCAST MMFと従来のCASTケーブルをここで
私も比較試聴していました。


KRELL Evolution 505(税別 \1,700,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓
★KRELL  CASTケーブル vs CAST MMF by Nordost
      ↓
KRELL Evolution 202(税別 \2,700,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
     and
TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.)
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓   
KRELL  CAST ケーブル
      ↓
KRELL Evolution 600×2(税別 \5,400,000.)
http://www.axiss.co.jp/fkrell.html
     and
TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set
http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER
      ↓
KRELL LAT-1000(税別 \9,950,000.)
http://www.axiss.co.jp/krelllineup.html#KSP


残念ながらサンプルのCAST MMFは数多くあるわけではなく、それにT.I 様に
いの一番に納品してしまったので1ペアしかありませんでしたが、プレーヤー
とプリアンプの伝送に使用し二者を比較しました。曲も同じものです。

いや〜、驚きました!! というよりもCAST開発当時のKRELLの自信たっぷりの
コメントはいったい何だったのか!? 正にT.I 様がおっしゃる「心地良い嘘」
を音にして実験したらこうなるという明らかな違いです。

高域の情報量の拡大、音場感の広大さ、余韻感の緻密な表現。そして更に意外
でもあり驚いたのが低域の引き締まり方の変化。これには参りました

このCAST MMFが国内初でT.I 様のシステムにインストールされていたわけです
から、そのパフォーマンスがより引き出されていなくてはいけません。
システムの最も上流に位置するトランスポートの設定変更が先ず正解でした!!


■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777
http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html

「川又さんに聴いてもらっていると何だか裸にされていくような気がするな〜」

とは、私が黙って聴き続けている背中で思わずもれたT.I 様の一言。いや〜
私としては別にあらさがしをしているわけではなく、システムの再生音が健全
であるかどうかという基本的なことをチェックしているだけなのですが…^_^;

しかし、前述の「あれ…、という発見」ということは依然として気になってい
ます。それは耳の位置を前後に移動すると低域の量感が大変大きく変わること、
同時に楽音の音像が肥大して輪郭も見えなくなってくるというリスニングポジ
ションの変化による相違点が次第に分かってきたからなのです。確認の意味で
この曲をかけることにしました。

イントロのペース、キレのいいパーカッション、鮮烈なシンコペーションで
吹きあがるホーンセクション、鮮やかなフォーカスでセンターに定位する
ヴォーカルというチェックポイントが盛りだくさんのスタジオ録音の傑作。

これを聴きながら最初にT.I 様がここで、とお勧め頂いた椅子で聴き始める。
上半身を前後させるだけで低域が変わり音像の見え方も変化する。
それでは、ということでT.I 様にお許しを得て1メートルほど前にあるハイ
バックチェアーに移動し、同じ曲を同じ音量で再度聴き直す。すると…

「これですよこれ!! やっとヴォーカルの口許が見えてきた。ベースの輪郭も
 見えてきたし、ドラムのサイズがきっちり中空と一点で縮小している。
 リズム楽器の音像がきちんと認識できるようになりました!!」

ハイバックチェアーに浅く腰掛けた時の耳の位置、深く座りなおした時の耳の
位置では極端な違いはない。このエリアが最適ポジションなんだろうという
確信が次第に高まってくる。ほんの1メートルくらいの違いなのだが、スピー
カーとの距離と直接・間接音の比率と一次反射音のあり方などが総合的に作用
してのいたずらなのだろうが、どれが正しい音質なのかということを第三者と
しての立場と経験による判定基準をもっているということから現状認識として
お話しすべきことを考え始めていた。そうだ、もっとわかりやすいこの曲で!!


■MUSE 1.フィリッパ・ジョルダーノ/ハバネラ
http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html

私はこの曲でお勧め頂いたハイバックチェアの前後ということで比較すること
にした。それはイントロでの多重録音によるフィリッパひとりの折り重なるよ
うなコーラスの分離感、そして一定のリズムで響くドラムの低域という観察点
が答えになるだろうと推測したからだ。

リモコンを両手に持って先ずはハイバックチェアの後で聴き始める。冒頭の
コーラスは左右のスピーカーの両翼まで広がり、一見雄大なサウンドステージ
を思わせるが発声の基点となる口許の存在感があいまいだ。複数のヴォーカル
がオーバーラップして左右方向に広がっているが実態感が希薄になっている。

その状況に続いてドラムの音が…!?

「これはてきめんだ!!こんなに低域の膨らみ方が違うのか!!」

背もたれのない小さな椅子に腰かけて上半身を大きく前後に傾ける。特に後方
にのけぞるようにして耳の位置を引くとドラムの残響成分が私を包み込むよう
に周囲から押し寄せてくるのがわかる。「ズーンッ!!」とゆったりとした打音
なのだが、その始まりと終わりの切れ味が悪い。遅く立ち上がって室内に不要
な低音を充満させているというイメージだ。逆に前かがみになると驚くほどに
低域の量感が減少する。それらの違いも同じ椅子に腰かけていて起こる現象だ。

では、ということでハイバックチェアに腰をおろして同じ音量でスタートした。
すると今まで「ズーンッ!!」と感じられていたドラムが「ドーンッ!!」という
感じに頭のインパクトがはっきりしてくる。つまり、スピーカーのセンターに
個体感のある打楽器としてはっきり姿を現すようになってきた。そして、再度
同じ曲の頭出しをして冒頭のコーラスを聴き直すと…。

「あー!!やっぱりそうだ!!見える、見えますよ!!」

と内心で喝采を叫ぶ!!オーバーダビングした多数のフィリッパ・ジョルダーノ
の口がスピーカーの中間にきちんと並んでいるのが見えてきたのです!!

「うん、低域の質感とヴォーカルの解像度はいい!!しかし、もうちょっと…」

低域の質感はこれだろう。しかし、複数の口許が整列しているのだが、どうも
それらの定位感をもうちょっとはっきりできないものか…!?更に実験だ。


■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」
http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html

日本の録音は海外の録音に比べてことさら解像度に優れ、ヴォーカルの輪郭が
鮮明に描かれているものが多く、この曲の前半でギターの伴奏だけで歌う
ちあきなおみの声の質感はこれまでにも多くのケースで分析と評価に貢献して
くれたもの。

これもやはり最初はハイバックチェアの後で聴き始める。すると…

「あー!!ヴォーカルが大きい!!」

いきなりだが、聴きなれた曲だけにヴォーカルの質感の変化がたちどころに
わかってしまった。普通だったらスピーカーに接近した方が、つまり対象と
なる物体に接近した方が当然視野の中で大きく見えのが普通だろう。私はこれ
を確認すると直ちにハイバックチェアに移動して同じ曲を繰り返した。

「おー!!ヴォーカルのフォーカスが決まりました!!口許の輪郭が見える!!」

1メートル接近するだけでこんなにもヴォーカルの再現性が変わるものなのか。
当然、センターのヴォーカルが鮮明になるということはバックのギターの音像
もしっかりと認識され解像度も上がっている。そういうことか〜!!(^^ゞ

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私は訪問先で聴かせて頂く最初の一曲で全てを見透かすようなことはできない。

後日、T.I 様から頂戴したメールにはこんな一節がありました。

「川又さん、こちらこそ雨の中、夜分にも関わらずおいで頂き感謝しており 
 ます。試聴中、川又さんに聴かれていると思うと体に力が入って大変でした。」

というお言葉を頂戴しましたが、数ある経験の中から養ってきた健全な再生音
のあり方という指標に照らして、この曲のこの部分はこうあるべきという判定
基準との比較を行い、お客様個々のケースでアドバイスのあり様も違う。

先ずは再生音の健康診断という趣で皆様のシステムを聴かせて頂いていますが、
T.I 様のように徹頭徹尾の取り組みをしていらっしゃるユーザーに対しては
この私でさえ物言いには大変慎重になってしまう。それを感じ取られたT.I 様
のコメントだと思うが、何故に最初にハイバックチェアの後で聴くことを勧め
られたのかということをうかがってみた。

「聴きにくる皆さんがここに座るとちょうどいい、という方が多いんですよ」

なるほど、そういうことでしたか!!
で、T.I 様は普段どこで聴いておられるのか?ということを重ねてうかがうと…

「私はハイバックチェアで聴いているし、スピーカーの位置を合わせる時も
 他のチューニングする時もいつもそこなんです。」

そうでしたか!! はい、それで大正解ですね!!

ゲストの皆さんがここがいい、とおっしゃるのは低域の量感がふんだんに感じ
られて楽音のフォーカスよりも左右へ音場感が広がることに雄大さという肯定
的な要素を優先してしまうからでしょう。

でも、それは初心者的というか、各機器の設計方針とは逆行する現象を演出面
でのうま味として感じているだけであり、近代的なコンポーネントの開発が
何を目標にして行われてきたかということを生かす聴き方ではありませんね。

ですからT.I 様が設定されたリスニングポジションこそ、これらの機材の魅力
を引き出すための基準になるものだと思います。

ご自身の感性でそれを選択され実行されてきたT.I 様、さすがです!!

最後に、あえて私から“現状よりも更に1ランク上”を目指して、という意味
でアドバイス申し上げるのであれば、左右スピーカーの間隔を両方ともにあと
20センチ程度広げてみてはいかがでしょうか?

というのは、色々な伴奏のヴォーカルを何曲か試聴してみて、センターに定位
するヴォーカルの音像にバックの楽器の音像が重なり合っている印象が見受け
られたからです。個々の楽音がエコー感を発散しているのは承知ですが、その
音源となる音像の間がもうちょっと広い方が輪郭表現を更に鮮明にして奥行き
感をより鮮明に感じることができると思います。

120Kgを超えるスピーカーですから、おいそれとはできないでしょうが、ぜひ
お試しになってみることをお勧めいたします!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

しかし、時間がたつのは早いものですね〜(^^ゞ

私が訪問先で先ず最初に観察するのはルームアコースティックです。
次に、その環境の中でスピーカーとリスナーの関係が正しいかどうかをチェックします。

これが出来ていないと、いくら高価な装置でも本領を発揮しません。
そして、自分ではやっているつもりでも客観的な診断をしてもらうことで、
自分が良しとしたことに自信を持って頂くこともSound checkの目的の一つです。

この10年間にT.I 様がいかに情熱的に取り組んでこられたか、ということを
私はしっかりと聴くことによって納得し感心させられました。そして、今後の
取り組みの基礎となる実際の音には大いに自信をお持ち頂いて良いと思います。

Sound checkとは先ず現状認識から入り、その現象をご本人に自覚して頂ける
ように実験によって証明し、できればお金をかけないで調整していけるように
アドバイスさせて頂くことが主目的です。

その意味では、今回の私のアドバイスということではトランスポートの設定と
スピーカーのリプレースメントという二項目だけでしたが、T.I 様が歩んで
来られた道のりに間違いはなかったという確信と自信をご提供できたのであれ
ば、オーディオシステムの健康診断としては意義があったと思います。

あっという間の二時間でしたが、ご夫妻で玄関までお見送り頂きまして本当に
ありがとうございました。私も大変勉強になりました。<m(__)m>

また、きれいな写真もご提供頂きまして重ねてお礼申し上げます。

最後に私はT.I 様の一言が大変印象に残りました。ご覧のように非常に完成度
の高いシステムなのですが、これでおしまいですか!?とお声をかけると…^_^;

「川又さん、私の物欲はまだまだ先がありますよ〜!!」

はい!! 安心しました!!(^^ゞ
物欲のネタを私もがんばってご提供しましょう(笑)

お後がよろしいようで!! <m(__)m>


HAL's Hearing Report