発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
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【早版⇒H.A.L.'s Short Essay 】 「H.A.L.'s Short Essay No.68」 『触れることで響きを作る!!感性を揺さぶる前例のない音とは!!』 ■ 序章 ■ 「芸術は真実でない。とは、我々誰もが知るところである。芸術とは真実を、 少なくとも我々に理解すべき真実を、認識させるための虚構である。 芸術家は虚構を真実として他者に納得させるすべを知らなくてはならない。」 パブロ・ピカソ これは私の随筆「音の細道」の目次巻頭に引用した一節だが、2009年6月の事、 私は音楽を再生する虚構であるはずのオーディオにおいて、真実としての科学 的な設計指標に基づいて作られたスピーカーの他に、人間の感性によって仕上 げられていくスピーカーがどれほどの驚きと感動をもたらすか、という体験を することになった。なぜ、スピーカーというアイテムでそれが可能なのか!? オーディオシステムの進化とは測定技術の進化と共に近代化してきたと言える。 コンポーネントの性能を示す指標は測定器によって測られた特性・スペックに よって未完成なところ不十分なポイントが指摘され、その測定器の精度が高く なれば被測定側のコンポーネントの精度も向上するということになる。 つまりは科学的な分析力が向上することでコンポーネントを設計する上での パラメーターの数が増加し、またパラメーターそのものの追求レベルが高くな り進歩するという関係にある。 特に、この半世紀に渡る電子技術の進歩とコンピューターの普及というものは オーディオシステムの音質を急激に進歩させ、同時に産業としても拡大させてきた。 その同時代にオーディオ製品を取り扱う仕事に長らく従事してきた私には、 科学の進歩と音質の向上が同意義に思われるのは当然のことだったろう。 音楽という芸術を冷凍保存して好きな時に解凍して楽しむというオーディオと いう趣味は、それを追求していくことで人々に感動を与えることができるとい うことでは「再生芸術」と言える。 では、そもそもの音源である楽器そのものは設計・製造において音の良い楽器 を作るということに、どれほどの科学的な根拠が考えられるだろうか? 当然オーディオ同様に近代の楽器製造技術では各種の自動化された製造機械や コンピューターを使用するということは大量生産の製造過程においては当然の ごとくある事だと思われるが、音の良い楽器を開発するという段階での試作品 はどうなのか? あるいは、コンピューターなど存在もしていなかった数百年前から前人たちは 楽器を作り奏でていたわけであり、その時代に良い音の楽器を作るということ は科学力の助けがあったのだろうか? いや、最も原始的な事だが、試作と試聴の繰り返ししかなかったはずであり、 作者の耳で聞きわけながら良い音、美しい音の楽器を作り上げるという感性に 基づく試行錯誤の繰り返しが職人技として歴史に厚みを加え、人間の五感に よって名器と言われる楽器が作り出されたきたと言えるだろう。 それら楽器作りの名工が求めていたもの、それは美しい“響き”に他ならない。 ■ スピーカーのエンクロージャーはなぜ必要か ■ スピーカーの外形を形作るエンクロージャーはスピーカーボックスともキャビ ネットとも呼ばれることがあるが、そもそもなぜ必要なのか? この存在理由が実はスピーカーにとっての必要悪となっている場合があるとい うことを考えてみたい。 エンクロージャーの役目とはなんだろうか? 真っ先に考えられるのが音源であるスピーカーユニットを特定の位置に保持す るための台座というか設置機能としての役目は誰しも考え付くところだろう。 しかし、それではエンクロージャーという名称は何を意味するのか? これには音響学的に重要な理由がある。 ここでダイナミック型スピーカーの動作原理をなるべく単純に考えてみた。 ダイヤフラムは前後にピストン運動を繰り返し、前進した瞬間にはダイヤフラ ム前面の空気の密度を高め高気圧を作り、逆に後退したときには低気圧を作り 出すということだ。 随筆にも述べているが音波には回折効果があり、再生する周波数が低くなるに つれて回折効果が大きくなってくる。言い換えればウーファーの動作で再生す る帯域ではダイヤフラム前面に押し出した高気圧はコーン背面に回りこんでし まい、また逆に後退したときの前面に発生する低気圧に対してはコーン背面の 高気圧が回りこんで音圧を相殺してしまうのである。 これを簡単な実験でイメージすればウーファー単体のユニットを空間に吊り下 げ、オーディオジェネレーターから低い周波数を入力すると音にならないとい う現象になる。 これを解決するためにウーファー後方に放射される低域の音波を囲ってしまい 前面の音波と相殺されないようにする必要がある。このように低域再生に必要 な囲い込みの効果を求めることから名称もエンクロージャーとされているのである。 もうひとつ事例を挙げれば、フルレンジユニット一発をワイヤーで吊るし、 上述と同じように可聴帯域のすべてを入力するという実験をやったとしよう。 22KHz からゆっくりと周波数を下げていくとすると、ユニット正面では高い周 波数はちゃんと音として認識できるが、300、200、150Hz あたりから次第に音 としては感じられなくなってしまい、100Hz 以下になるとコーンに指で触れて 激しくピストン運動しているのに音にならないという現象になる。 つまり、極端に言えばミッドレンジから上の高い周波数では、エンクロージャー の存在価値は次第になくなってくるということだ。 この自由空間におかれたスピーカーユニットで再生する周波数が低くなるに つれて音圧が減少していく傾斜はオクターブ当たり6dB というリニアなもの であり、ユニット後方を囲い込むことによって低域の音圧が得られるようになる。 以上のことからエンクロージャーの存在理由はダイナミック型スピーカーの 場合には低域再生のために必須のものということになる。 以上は随筆「音の細道」第55 話「VIVID AUDIO K-1」の第一部からの抜粋です。 この続きはよろしかったら下記よりご覧頂ければと思います。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto55.html -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さて、このような目的を持つエンクロージャーは長年無共振思想がスピーカー 設計の主流となり、いや、むしろほぼ全てのメーカーがこの思想に準じた設計 方針であろうと思われる。 これを言い換えれば高剛性、高質量という発想であり、各種の素材を使用して 振動エネルギーをどれだけ封じ込めるか、あるいは受け付けないかということ で数々のスピーカーが作られてきた。 無共振ということは特定の周波数を強調しない、あるいは減衰させないという ことを意味するものだが、実はエンクロージャーが第二の音源になってはいけ ないということでもある。 この第二の音源とはどういうことか、それは上記の随筆でも述べているので、 ぜひ続きをご一読頂ければ理解が深まるものと思われる。そして、第二の音源 にはエンクロージャーの外形と内側での音波の振る舞いという二つの要素がある。 エンクロージャーの外形が四角いものでは外部ではコーナー部の反射、内部では 定在波による変調ということになり、それを科学的に解決していくというアプ ローチがコンピューターの普及と進歩によって解決されてきたということだ。 確かに第二の音源があったのでは録音信号に含まれない音波が発生し、Hi-Fiと いう思想からすればいいことは何もない。しかし、それは第二の音源が人間に とって心地よくない音、コントロールされていない不要な音だから否定的に 考えられるものだと言える。 Hi-Fi思想によって録音され再生される楽音、それを発する楽器の成り立ちを 考えるとき、スピーカーの無共振思想と同様に特定の音階・周波数で共鳴しな いということは楽器作りのノウハウとして必要かもしれない。 しかし、音階を狂わせるようなことがなければ、楽器が発する美しい音の追求 にはやはり美しい“響き”が必要であり、それを実現することが楽器作りの 必須要素であると言えるだろう。 ヴァイオリンやギターなどの弦楽器では、もしも胴体がなくて弾いたり擦った りする弦だけでは音にならないだろう。ドラムやピアノの打楽器でも打たれて 振動するヘッドや弦だけでは音にならない。リードやマウスピースのように空 気の流れで振動しても管共振がなかったら音にならない。 要はコントロールされた美しい“響き”をいかに楽器に与えるかが重要な事と 言えるだろう。 では、スピーカーはどうなのか?“響き”をスピーカーに与えるということは 第二の音源として録音信号に含まれていない不純物を再生音に付加するという 発想があり、それは音楽信号の波形からは歪みと考えられるからだろう。 信号の波形ということは既に音波が電気信号に置き換わっているからこそ言え るものであり、入力信号と出力信号の相似性が崩れた場合のことを歪みという。 二つの波形を比べてみて違いがあることを歪みと言い、つまり比較しただけと いうことであり、物理的な測定によっての観察結果に過ぎないかもしれない。 つまり、設計者の拠り所は耳と感性、人間の五感ではなく測定器だった。 今までのスピーカー設計は“響き”をコントロールできないという理由から “響き”を科学の力で否定し、それを無共振思想という大義名分で納得させて きたのではないだろうか? なぜか? それは作者その人が美しい“響き”を知らなかったからだろう!! “響き”をコントロールするということに人間の五感をもって挑戦し、科学的 根拠を否定せず下地にして美しい“響き”を実現したスピーカーが出現した。 電子工学、音響工学など物理的な知識を有していても、美しい音を知っている ということにはならない。科学は手段であり、手段は過程であり結果ではない。 Kiso Acoustic、2008年10月に設立された会社としては生まれたばかりだが、 販売に向けての事業化の形式を整えただけであり、製品開発そのものは三年 以上前からスタートしていたという。 美しい“響き”を求め続けた日本人が21世紀のオーディオシーンに大きな一石 を投じた。データでは作れないもの。感性で作り上げた美意識を語る…!! ■ こだわりをひも解く ■ 2009年6月1日にハルズサークルに配信した下記のニュースが発端となった。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/655.html そして、次のようにH.A.L.の恒例イベントとなったSunday Concertにて何とか お披露目出来ないだろうか、という交渉が実ったのが6月14日のこと。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/657.html このスピーカーの独自性はStereo Soundでも注目されることになった。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/659.html イベント開始の5時間前に新製品を初めて聴き、それをテーマとしてイベント を実施するというのは異例のこと。一種の賭けとも言えるタイミングだが、 私の心配はKiso Acoustic HB-1の第一声を聴いた瞬間に杞憂に終わった。 Kiso Acoustic代表 原 亨 氏とは以前から面識があったが、それは国内有数の ハイエンドユーザーであるという時期の事。原氏の情熱がこのようなことに 注がれていたということは露知らずの数年間というご無沙汰をしていたものだ。 前回のアポイントメントは6月4日だったが、私が定休日ということで延期され、 その間に関西のオーディオショップを数軒訪れていたということだった。 そして、6月14日のこと。数年ぶりの対面となった原氏を試聴室に招き入れ、 せっかちな私は「先ずは聴いてからじゃないとビジネスの話しをしても仕方な いでしょう。音が良かったらの話しですから…」と生意気にもセッティングを 促し、その第一声を聴き…!? ここからの試聴インプレッションは後述すると して、HB-1の魅惑的な音が私を虜にしてしまった。 惚れ込んでしまうと私の質問数は激増する。一体、HB-1の音はなぜこうなるのか? 早速私はHB-1を解剖するがごとく、音質の決定要素を分析していった。 先ず、webや雑誌でも紹介されている内部構造のカットモデルだが、このサン プルそのものの木材がマホガニーであるということを前提に説明しなければ ならない。 標準仕様としてマホガニー製のHB-1があるが、特注となるハワイアンコアー材、 メープル材のものでは、エンクロージャーを構成する木材はネットワークが 格納されている台座とトゥイーター用ホーン以外は全てがマホガニーをはじめ とするハワイアンコアーやメープル材で作られるということ。 つまり、一般的なスピーカーのようにツキ板仕上げの表面だけで仕上げの違い を出しているのではなく、HB-1はエンクロージャーの構成要素そのものの木材が 違うということを強調しておきたい。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_inside01.jpg 曲面を帯びたキャビネットの胴部分は2.5ミリ厚のマホガニー単板をスティー ムヴェント(高温蒸気による)処理で曲げており、もっとも美しい響きを得る ために側面響板に関しては3.5ミリ厚の単板を採用した。フロントバッフルも 当然無垢の一枚板から削りだしたもの。 エンクロージャートップからフロントバッフルの下まで一枚板が見事な技術で 絶妙のカーブを描いている。雑誌などの写真ではこの角度のものが多いのか、 意図的にトリミングしているのかはわからないが、このアングルでは見えない 重要な要素が隠れている。それが次の写真で見えてくる。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_inside02.jpg クロスオーバーネットワークを格納する台座部分の断面はこのようになっている。 ただし、各種の木材での特注の際にも、この台座だけはメープルを使用している。 この部分をクローズアップしたのが次の写真。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_botom.jpg エンクロージャー下部には次のようなポート導入部がセットされている。 内部で風切り音が発生しないように面取り加工している気遣いが嬉しい。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_port.jpg このポートの入り口から台座部分を通じて外界へと抜けるルートが形成されて いるが、雑誌ではバックロードホーンという表現をしているが、私の考えでは 音波の波長から考えてもホーンロードがかけられるような長さではなく、実質 的に低域の増強効果があるとは考えにくい。 公開しているスペックに再生周波数特性がないので推測しか出来ないが、私が 思うにはバスレフポートの効果を期待しつつも、むしろトランスミッション ラインとしてウーファーユニットの高速応答性を求め、トランジェント特性を 高めるための手段であるように思われる。 ポートチューニングで特定の周波数でQを設け、共振効果で低域を伸ばそうと いうよりも、ユニットのfoまでなるべくゆったりしたカーブで素直に伸ばして いこうと考えられたのではないかと推察している。 言い換えれば、ポートチューニングによって低域を増強するというよりは、 ウーファーユニットの背圧、つまりバックプレッシャーの音圧を前方に導き エンクロージャー内部でウーファー後方に放射された音響エネルギーを減じる ことなく、かつ変調することなくリスナーに届けようという意図だと思われる。 バスレフ方式の変形と言えば簡単だろうか。 実際に聴いてみると確かにかなりの低域まで再生するのだが、ロールオフした 音圧となって控え目な量感という印象の低域であり、欲張って50Hz以下の帯域 までエクステンションさせて大きなストロークを求められた時に破綻しないと いう優先順位があるように思われた。このポイントも試聴の際に後述する。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_bufful03.jpg このベース部分とエンクロージャー本体の関係は正面から見ると興味深い。 内部のポート入口部分の開口面積よりも台座の前方に向けて横幅が広くなる ホーン形状となっていることが分かる。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_bufful04.jpg 次の写真ではフロントバッフルをクローズアップして、トゥイーター用の黒檀 から削り出されたショートホーンを塗装前の質感で材質を確認できる。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_bufful02.jpg 次に、このトゥイーター用ショートホーンを内側から見たのが上記の写真。 高精度の木工技術によりきっちりと接合された黒檀製のホーンは後ろ側では トゥイータードライバーの取り付け用の穴が空けられているが、このように 高精度なパーツの接合がトゥイーターの発するエネルギーをどのようにエンク ロージャーに伝達していくのか、この辺のポイントも後述する。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_bufful01.jpg 次の写真は前述の写真よりも少し引いて撮影したもの。フロントバッフルが 一枚板であり、その肉厚感と同時に木材の質によって響きが異なるということ をうなずかせる観察ポイントでもある。だからこそ、このフロントバッフルも カットモデルではマホガニーであるという説明を要したもの。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_chikaragi03.jpg さて、次は視点をエンクロージャーの内部へと切り替えていくことにする。 この写真ではスティームヴェント工法によって一枚板を何ら傷つけることなく 絶妙なカーブを付けている高精度な職人技が見られる部分。そして、ボディー の側面響板に印象的な配置で取り付けられている力木【Bracing】が見える。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_chikaragi02.jpg この力木は離れて見たり写真で小さく写るとただの棒が貼り付けられている だけと思われるが、いやいや!! ここにノウハウの集大成が見られるのだ。 私も驚いたことなのだが、更にクローズアップした次の写真に注目されたい!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_chikaragi01.jpg 一つずつの木片が、実はこのように個々に違う形にカッティングされているの だから驚いてしまった。 原氏によると、この力木は細く、また中央部をこのように薄くして盛り上げて いく形状が高音の響きに作用するという。逆に太く厚くしていくと低音方向に 向けての響きに影響してくるという。更に興味深いのは、この力木の厚みを 真ん中を薄くして両端を厚くすることで更に低い音を響かせるようになるという。 この技術はマリンバの低い音階を受け持つ木琴のパーツとしても使用されて いるということで、ここまでこだわりを持ってチューニングされたという情熱 を驚きとともに感じいったところだ。 参考に下記をぜご覧ください。 http://www2.yamaha.co.jp/u/naruhodo/15marimba/marimba2.html マリンバの音板の裏側の削り方で出る音が違うというサンプルが聴けます。 力木のチューニングの不思議が同じ原理で説明されているのが興味深いものです。 ブレイシング(力木)とは、ギターやヴァイオリン、ウクレレなど木製弦楽器 のボディ内部に取り付けられた棒状の木材のこと。また、力木を配置すること も指す。ということなのだが、オーディオの世界ではスピーカーメーカーが エンクロージャーの内部に補強材を取り付けるという意味で使われていた記憶 があり、響きの調整というよりは内部の音圧によるエンクロージャーの微妙な 外形変化を避けるための補強というイメージだったように思う。 それにしても、この力木をどこに、どのような形のものを取り付けるのか、 これらは全て実際に試作して打音から決定していくしかないというクラフトマン シップの極みとも言える技術であり、手作業による実験から答えを出していく しかないと言うのだから気が遠くなってしまうような手間がかかるものだ。 原氏が三年かかって開発したという情熱と努力の重みがひしひしと感じられる。 さて、このように内部に隠された秘密が多数あるKiso Acoustic HB-1だが、 実際には高峰楽器製作所の楽器用生産ラインのある工場とは別棟でスピーカー 専用の工房を設け、そこで熟練の職人が四名体制でHB-1を専門に作っていると いうのだから驚いてしまった。 全ての行程を経て一台のスピーカーが完成するまでに35日間という時間がかか るという。更に使用する木材は伐採してから最低七年間は自然乾燥させておき、 加工前の一ヶ月間はエアコンルームに移して強制乾燥させているという。 まったく楽器と同様な材料管理、組み立て、塗装、仕上げという行程で製作 されていくものであり、価格を納得させる要素が実に多数見つかってきた。 その参考としてぜひ下記の高峰楽器製作所のサイトをご覧頂きたい。 http://www.takamineguitars.co.jp/gijyutsu/index.html http://www.takamineguitars.co.jp/yougo/ta_gyou/ti01.html 高峰楽器製作所の工場を間借りするのではなく、専用工房を作ったというこだ わりに原氏が大きく胸を張ったのも肯けるものだった。 ちなみに、HB-1は月産20ペアが限度ということで、職人の手作りだけに増産は 今のところ困難ということだった。これを手にする人は幸運と言えるだろう。 ■ 宝石箱から取り出すような興奮と喜び ■ 私が設計者にインタビューする内容は営業的な視点よりも、むしろユーザーに 近い発想の質問を発することが多い。原氏にこう尋ねた。 「ところで型番のHB-1って何か由来があるんですか?」 すると、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに即答が…。 「日本語の“響き”という意味からHとBを、その第一作として“1”なんです」 なるほど、ラスベガスとミュンヘンのオーディオショーで海外発表をしてから 国内発表という手順を踏んで、世界市場を意識した生い立ちを与える作品だけ にネーミングに込められた思いが初めてわかりました。聞いて良かった!! その“響き第一号”スピーカーの箱を原氏はわざわざ私に開けろという。 48センチ×32センチ、高さ41センチというコンパクトな箱。これに二台のHB-1 が入ってしまうのだから、何ともハンドリングが容易なことか。しかも、二台 でたったの9キロしか重量がないスピーカーなどは前代未聞である。どうれ… きっちりと詰まった箱から先ずは一台を取り出してみると… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case01.jpg 黒い発泡スチロールとクリーニングクロスの生地で作られたカバー、それに 説明書が出てきた。では、ご開帳ということで… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case02.jpg 黒いメーカーロゴがプリントされた内箱を脇に置き、発砲スチロールのケース を割ってみるとこのように… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case03.jpg 初めてHB-1を持った印象は「なんて軽いんだ!!」という驚きだった。 そして、「あー!!なんてきれいなんだろう!!」というため息が続く。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case04.jpg 別にもったいぶるわけではないが、せっかくのこだわりのカバーをかぶせて… このカバーを原氏は帽子と言っていましたが、指紋や汚れを拭き取るクリー ナーとして使う生地であり、聴くたびにきれいにしておきたいというオーナー の気持ちをサポートする付属品と言える。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case05.jpg 帽子を脱ぐようにして姿を現しました!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case06.jpg HB-1の腰のくびれ、ではなくふくらみの後姿にはこのようなバッジが誇らしげ に貼り付けられていました。工房でHB-1を作り上げたクラフトマンの思いを このバッジのステートメントとして刻印されています。いいですね〜。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_serial.jpg そして、ボトムにはギターの胴の中に貼られているのと同じようなサイン入り のシリアルナンバーを直筆で書き入れたステッカーが貼られています。渋い!! さて、その時、原氏から手渡されたのはこれ。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_innercable02.jpg HB-1の内部配線に使われているのと同じケーブルです。先端のバナナプラグと 比較して頂ければ太さは想像して頂けると思いますが、更にクローズアップすると… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_innercable01.jpg 高純度銅線七本をリッツ構造として仕上げられたもので、ドイツ製のものを 試聴した上で選択されたという。ケーブルメーカーは秘密ということでした。 しかし、内部配線としては極太であり、見えないところに神経を使っていると いうこだわりがここでも見られます。お見事!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_terminal.jpg そして、内部配線の秘密の後にはもう一つのこだわりが。昨今はWBT社の各種 プラグを使用するメーカーが増えてきましたが、HB-1のスピーカーターミナル はこのようになっています。このバインディングポストそのものを新規にデザ インして、専用パーツとして作成しているということ。ロジウムメッキを施し しっかりと締め上げることが出来て安定感は抜群。締め込んだプラグも緩むこ となく保持する特注パーツとしてご紹介せずにはいられなかった。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_gel.jpg さて、スタンドに乗せる前にもうひとつ重要なポイントがありました。これは 付属品のゲルと呼んでいる緩衝材。柔軟性と粘性があり、入れ歯固定材のよう に間に挟むことで材質・形状の違う両者を見事に落ち着かせます。一度セット するとはがすのに力がいるくらいです。そして、この柔軟性が美しい“響き” を引き出すのに重要な役目を担っているものです。これも試聴の際に述べます。 さて、ここでスタンドの色合いが見えているが、これはAcoustic Reviveの 特注品となる。その原型は同社のRSS-600であり、塗装と上下ベースのサイズ がHB-1に適合するように設計された。 http://www.acoustic-revive.com/japanese/speaker_s/speaker_s_01.html そして、HB-1をいよいよスタンドに乗せたのが次の写真。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_stand.jpg 当初持ち込まれたスタンドは柱部分の高さが約45センチというもので、その ままセットすると目の前のコンポーネントが邪魔になって視界に入らない。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html それでH.A.L.オリジナル商品である“P-board”(250×420×H50mm 19kg)を 使って少しでも高くしようと配慮したもの。 更に、このセッティングでのメリットもあった。それは、このスタンドの床に 接するベースのフットの構造がスパイクではないということ。下記に写真あり。 http://www.acoustic-revive.com/japanese/speaker_s/speaker_s_02.html このように丸いフットの中にラバー系の材質が貼られており、このフロアーの タイルカーペットの毛足の上に置くとメカニカルアースが不十分ということに なってしまう。それを“P-board”に置くことでしっかりと落ち着き、音質的 にも好ましいセッティングとなった。 さて、このスタンドだが、原氏の開発中の試聴によるとHB-1のトゥイーターの 高さよりも耳の高さを20センチほど高くして聴くと良い状態になるという。 確かにHB-1が描く音場感というものは大変に広大な空間を音で満たしてくれる ので、原氏のおっしゃるポイントは私にも良く理解できた。 しかし、肝心な椅子の高さとリスナーの体格ということを考えると、ひとまず はここのソファーを使用して私の耳で合わせていく方向で試聴してみることに。 また、ユーザーの使用する椅子の高さもまちまちなので、専用スタンドの高さ は高低二種類を用意すべきだろうというアドバイスを申し入れると、何と実現 してしまった。下記がKiso Acoustic HB-1専用スタンドの仕様である。 ■全高 58cm タイプ ★推奨 柱部断面・楕円形 ブルーブラックメタリック仕上げ 税別定価 \268,000. 同オリジナルRSS-600と同一のグレーベージュ仕上げ 税別定価 \324,000. ■全高 68cm タイプ 柱部断面・楕円形 ブルーブラックメタリック仕上げ 税別定価 \288,000. 同オリジナルRSS-600と同一のグレーベージュ仕上げ 税別定価 \330,000. 塗装の仕上げは上記写真の通りのブルーブラックメタリック仕上げであり、 Acoustic Reviveの原型RSS-600の柱部分とは全く違う外観となっている。 グレーベージュ仕上げとはStereo Soundに掲載された仕上げのこと。 各々納期は一カ月程度。 価格は1セットずつの受注生産ということで、オリジナルよりは高価であるが 私が惚れ込んだHB-1の音はこのスタンドで確認しているので自信を持って推薦 したいものである。このスタンドの高さの違いも後述する予定。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さて、実際のセットアップを進める過程で、今回は原氏のご厚意により特注 仕様のメープルも同時に聴かせて頂くことがかなった。これはマホガニーと メープルは仕上げだけでなく木材の質が違うので響きも違うという原氏の言葉 を受けて、私自身が今後のためにも両者を聴いておかないとユーザーに説明が 出来ないから、という無理を聴いて頂きひと晩だけの滞在ということで両方を 聴き比べることが出来たもの。しかし、メープルの実物を見て更なる発見が!! Kiso Acoustic HB-1は高峰楽器製作所の特別工房にて熟練の職人たちが作ると いうことは述べたが、その仕上げの美しさは特筆に値するものであり、これば かりは写真でお伝えするのは困難かと思われる。 とにかく実物を見て頂きたいと思うのだが、私は使用する木材が違えば ボディーの色合いが異なるのはわかるのだが、どちらもフロントバッフルは ピアノブラックのような光沢感のある黒い塗装だろうと思っていたのだが…!?? http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_mahogany01.jpg これはマホガニーのHB-1の立ち姿ですが、これに正面から照明をあてると… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_mahogany02.jpg 如何ですか? 暗く沈んで見えていた黒、ただの黒一色と思っていたものが実は このようにマホガニーの木目が透き通って見えてくるのです。これは美しい!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_mahogany03.jpg その背中を見てみましょう。このようにしっとりとしたマホガニーの木目が 美しくクラフトマンシップの誇りを見せてくれます。これは人に見せたいし 自慢したい美しさです。さて、同じようにメープルも同じスタンドに乗せて みたのが次の写真です。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_maple02.jpg 光を当てないとフロントバッフルは同じ黒だとばかり思っていたのですが、 照明をオンにすると驚きの変化が起こります!!これです!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_maple01.jpg そうです!! メープルという木目、木材の個性がこのような質感として見えてきます!! 原氏が言葉で表現するのが難しいと言っていたことはこれだったのですね!! http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_maple03.jpg そして、同様に背中の美しさを見て下さい。本当に惚れ惚れしてしまいます!! 光を当てるかどうかでこのような変化、正に昼と夜と違う顔という感じですが 直射日光が当たるといけないと気になさる方は、その時にこそ付属の帽子を かぶせてあげて下さい!! 二種類のKiso Acoustic HB-1の各々の美しさに見とれつつ、見極めの試聴をと いうことでセッティングを進めます。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_set01.jpg http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_set02.jpg 口径10センチウーファーの2Wayシステム。この左右トゥイーター間隔は2.9m そのトゥイーターからリスニングポイントまで3.2mというトライアングルで セッティングが完了しました!! いかがでしょうか? 周囲の製品と比較して、いかに小さいかおわかりですか? スピーカーの大きさと比較するため(笑)ではありませんが、原氏との記念撮影を させて頂きました。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_mr_hara.jpg こんな小さなスピーカーを約3メートルも離してセッティングして中抜けしな いのか? 誰しもが思いそうな心配事ですが、さあどうなることでしょうか!? ■ 聴きながら膨らむイマジネーションとは!? ■ Kiso Acoustic HB-1の試聴は初日は6月14日、それから三日間で色々な発見が あり、下記の試聴インプレッションは一時のものではないということを最初に お断りしておきたい。先ずは試聴システムはこのように仕上げていった。 ◇ Kiso Acoustic HB-1-inspection system ◇ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC G-0Rb(税別\1,350,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/g0rb/index.html and TRANSPARENT PLMM(税別\840,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/isolationtrans/index.html http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER and Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\500,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/ ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-DA6100 BNC(Wordsync用)(税別\240,000.)→and ESOTERIC D-01 http://www.esoteric.jp/products/esoteric/mexcel/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC P-01+VUK-P01(税別\2,500,000.) http://www.teac.co.jp/av/esoteric/p01_d01/ and ESOTERIC 7N−PC9100+TRANSPARENT PI8(税別\805,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/7npc9100/index.html http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER and Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\500,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/ ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-DA6300 XLR 1.0m×2 (税別\560,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/mexcel/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… ESOTERIC D-01+VUK-D01(税別\2,500,000.) http://www.teac.co.jp/av/esoteric/p01_d01/ and TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER and Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\500,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/ ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-DA6300 XLR 1.0m×2 (税別\560,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/mexcel/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… JEFFROWLAND Criterion (税別\2,780,000.) http://www.ohbashoji.co.jp/products/jrdg/criterion/ and TRANSPARENT PLMM+PI8(税別\606,000.) http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER and Project“H.A.L.C”H.C/3M(税込み\560,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/halc/ ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-A2500/XLR 7.0m(税別\2,280,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/7na2500/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… HOVLAND STRATOS Mono-block Power Amplifier (税別\5,800,000.) http://www.accainc.jp/hovland.html and TRANSPARENT PIMM+PLMM(税別\606,000.)×2set http://www.axiss.co.jp/transparentlineup.html#POWER ……………………………………………………………………………… ▽ ▽ ▽ ESOTERIC 7N-S20000 MEXCEL 5.5m(税別\2,920,000.) http://www.esoteric.jp/products/esoteric/mexcel/index.html ▽ ▽ ▽ ……………………………………………………………………………… Kiso Acoustic HB-1/Mahogany(税別\1,300,000.) & Maple (時価) http://kisoacoustic.com/ and H.A.L.'s original“P-board” (税込み\68,000.) http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/508.html ……………………………………………………………………………… 国産スピーカーだから国産プレーヤーを選んだ。という単純なことではない。 新製品を評価するときにフロントエンドでの脚色を極力排し、忠実な音像を 限りなく凝縮する能力を持ち、同時に広大な音場感の再現性を持っている ESOTERICのシステムに信頼を置くのは今に始まったことではない。 得られる入力信号に先ず演出のないものを選択し、驚異的なノイズフロアーの 低さを誇るJEFFROWLAND Criterionを中核に置くというのも想定済みのこと。 そして、HB-1を駆動するパワーアンプとして独自の質感とドライバビリテイー を有するHOVLAND STRATOSをあてがうというのはSTRATOSの素性を承知しての事。 HOVLANDに関してはデビュー当時にプリはHP-100とSapphireの組み合わせで 聴いていたが、私にはHOVLANDというメーカーが持っている音質的な指向性よ りは真空管アンプであるということが先に印象に残ってしまっていたようだ。 つまり増幅素子に真空管を使っているのだからこういう音になるのであって、 HOVLANDだから…という彼らの指向性が見えていなかったのだろう。ところが… STRATOSをCriterionで聴き始めた時、以前の分析は大きな間違いであったと 感動のうちに思い知らされたのだった。真空管ではなく高精度のバイポーラー 出力トランジスタを使用し、400W/ch(8Ω)を叩き出すコンパクトなボディーは 以前に体験したSapphireという真空管アンプのニュアンスを踏襲しており、 実に滑らかで高品位な再生音が私を驚かせた。 真空管の持つ温度感、滑らかさとふくよかさ、見事な色艶と言える質感などが ソリッドステートの解像度とパワー感を発揮する中で表現されるという見事な 融合を見せ、これがHOVLANDが本来目指していたものなのかと感動していた。 小型2Wayスピーカーをこのフロアーのエアーボリュームで十分に歌わせる。 しかも、ヒステリックな高域とは無縁のSTRATOSが、いやHOVLANDのテイストが ぜひとも必要だった。今後もKiso Acoustic HB-1とHOVLANDとペアリングを他 のコンポーネントで試みる価値が十分にあるだろう。それほどのマッチングだ。 興奮と感動で多少語り口が変わってくるかもしれませんが、どうぞお付き合い 頂ければと思います。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 6月14日、第一声… この仕事を30年数年やっていて、スピーカーのデザインのコンセプトを先に知り、 その新製品に対する評価を本能的に察するようになっている私が本当に久々に 待ちに待っていたというHB-1だった。 セッティングを終えてから原氏と数人のスタッフが後方に座り、たった10cmの スピーカーがどれだけの音を聴かせてくれるのか、期待と不安がないまぜに なった心境を押さえつつ、先ずはこの一曲が鳴らなければ次はないという選曲。 ■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団 能率が85dBと低いがSTRATOSにとっては何ほどのものでもない。 P-01のリモコンを手元に置いて、いきなりトラック2を押してみると… 「おー!! あ〜!! 何なんだ、この弦楽器は!!」 弦楽器群のアルコで始まる冒頭が流れ始めた瞬間に、私の頭の中にある感動 レベルメーターの針がいきなりレッドゾーンまで振りきれてしまった!! 分解能、音場感、余韻感、質感、反応速度、空間再現性、多数のコンポーネント を分析すべき各種のパラメーターを受け持つ多数のメーターが一瞬にして振り切れた!! 冷静沈着に過去の記憶のファイルと照合するが、私の頭の中にある引き出し を三秒間でチェック完了しても同類の音質を持つスピーカーはなかった!! 「これは一体何たることか!!こんなオーケストラを聴かせるスピーカーとは!!」 驚きと興奮が大脳を支配してHB-1の演奏が進行していく。初めて聴いた!! ヴァイオリンというのは胴体内にある魂柱がコマから表板に乗った振幅を裏板 に伝え、両板の振幅を適切に引き出して音色・音量・響きを作り出すという メカニズムは承知しているし、過去には目の前で弾かれるヴァイオリンを聴い て、その弦と胴体が響きあう生のスプルース、裏と側板・ヘッドなどに用いら れるメイプル(イタヤカエデ)が同時に共鳴しあい響いているという木の質感を 間違いなくHB-1は奏でている。これを私はスピーカーの再生音で初めて聴いた!! いや、逆説的に言うなら、今までの大型であり高価であり、最高級のユニット を搭載している重量級スピーカーでは一度も聴くことがなかった音だ!! そして、管楽器のソロパートがステージの上で点滅するように主題の受け渡し をしながら楽員の位置関係をぽんぽんと変えながら旋律を奏でていく。 「えっ!!ちょっと待ってよ!! 木管のリードが確かに湿っていますよね!!」 左右のスピーカーの出力した音波が空間で合成されることによって定位感を 感じさせるものだが、管楽器が発した楽音の位置関係は極めて鮮明に感じられ、 振動するリードと管の両方の存在感が前例のないくらいに緻密な展開を見せる。 「これじゃあ今まで聴いていたのは管の音だけだったみたいだ!!まずいぞ!!」 クラリネットの響きには間違いなく核心部分のリードの振動が伝わってくる ような錯覚? そう錯覚としか思えないのだが、それがこの上なく気持ちいい!! 同時進行でコントラバスの音質を耳に取り込みながら聴いているが、なんで 10センチドライバーがここまで出すのか!? という驚きが感動の底辺を進む。 私は過去の体験からも10センチユニットが再生できる低域の限界、または量と して低域をひねり出そうとした時の質感の破綻という現象を幾度となく経験し ボリュームを微妙に下げざるを得なかったという思いがあった。 しかし、まったく逆だ!! Criterionのボリューム表示のマックスは99.5なのだが、最初は88くらいから 聴き始めたが、何と気がついたら96まで上がっていたではないか!! 前述の私の言葉で「ロールオフした音圧となって控え目な量感」という表現が あったが、HB-1の出す低音というのは正にこの通りであり、大型スピーカーの ような厚みのある低音ではない。しかし!! この今まで聴いてきた厚みのある低音というのは、実はウーファーとエンク ロージャーの相互作用で作られていた多層構造の低域ではなかったのかと私に 気がつかせてくれたのもHB-1だった。 音源であるウーファードライバーと、その振動板の前後両方から放射された 音波がどこかで合流して迫ってくる低域。複合化され、微妙な時差をもって 複数の低音が重なり合っていたから厚みを感じていたのか!? しかし、Kiso Acoustic HB-1が聴かせる低域は切れる!! いや、早いのだ!! 何枚も重ねられて重くなった低域ではない。だからその分は量的には大口径 ウーファーの比較すれば少なく感じられるのは仕方がない。でも、この質感と バランス感覚を一度聴いてしまったら、このハイスピードなコントラバスの 展開を聴いてしまったら、更に素晴らしいのは低域の余韻感を見事にHB-1は 自身の周辺に憎いくらいにゆったりと広げていくという芸当をこなすことだ!! 従って、厚みがあり重厚だと感じていたものは、実は低域に関しての視界を さえぎってしまい、演奏空間の透明感を損ねていたのではと思い直すほど。 数十人というヴァイオリン奏者、ビオラとチェロを加えると多くて8人か6人と いうコントラバスの奏者に対して、合奏での音量感は主旋律を演奏する弦楽器群 の方が大きいのが当たり前。それをスピーカーによっては迫力満点とばかりに コントラバスに拡声器を付けたような音量までブーストするスピーカーがある が、オーケストラ全体のバランス感覚からすれば、このくらいのコントラバス の音量が逆にいえば自然かもしれない。 「そうだよ、コントラバスの響きって、これのことじゃない?」 聴くもの全てが新鮮であり新発見というマーラーが実に心地よく聴ける!! ギターをモチーフにしたスピーカーだからギター以外はどうなのか? こんな活字の上だけの先入観は最初のオーケストラで吹っ飛んでしまった!! とにかく、弦楽器が好きな方は間違いなく虜になる甘美な音質である!! ■セミヨン・ビシュコフ指揮/パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カル メン」の両組曲から1.前奏曲 8.ファランドール ■チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲 サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団 指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132 http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm どのオーケストラを聴いても美しい。特に弦楽器の鳴り方におけるハイファイ の概念はあっさりと私の頭の中で白旗を上げてしまっていた。なぜか!? ここで原氏の開発にまつわるコメントを思い出してほしい。 「Kiso Acoustic HB-1は、高峰楽器製作所のノウハウを結集した優雅な響きを 醸し出すキャビネット技術と、あらゆる制約を排除して音楽性を追求した調音 作業の結晶です。私たちは美しい響きを得るために最大限の注意を払いました。 それは「設計」→「試作」→「試聴」→「触れて確認する」の繰り返しであり、 完成までに膨大な時間を費やすことになりました。この繰り返し作業による音 の磨き上げこそがHB-1の音造りの根底となっています。」 ここです。先ず他のスピーカー設計では使われない言葉「調音」です。無共振 思想のエンクロージャーでは縁がない言葉であり、多くのスピーカーのカタログ ではエンクロージャーが重厚で共振がないということを誇らしげに述べています。 「調音」というのは正に楽器作りにおいて用いられる言葉であり、それは響き を求めるということにつながっていきます。 そして更に「試聴」→「触れて確認する」という一節。これが決め手です!! 私はオーケストラに課題曲を聴きながら、HB-1に触れてみました。すると… スピーカーに対する既成概念を打ち崩すような現象が指先に伝わってきます。 3.5ミリ厚の単板を採用した側面響板に触れた指先は、そこで脈動している音 のエネルギーをはっきりと振動として感じ取ってしまいました。 そうです、弦楽器のボディーと同じように、弦の振動を伝えられた胴体が振動 するのと同じように細かく力強く息づくように私の指に音というエネルギーを 伝えてくるのです!! こんなスピーカーは初めてです!! ボディーが振動することで周辺の空気に響きをもたらしているのです!! それがコントロールされた響きだからこそ美しさを感じるのです!! 他にも楽器をモチーフにしたスピーカーはあった。美しい木工とニスの仕上げ で外観は魅力的だったが、3.5ミリの響板とは違い、やはり固い胴体であった のは事実だろう。つまりは、木材を使った無共振思想ということか。 当然、それなりの魅力はあるものだが、デザインとしての魅力だったのか? HB-1との極めて大きな違いは美しい響きを出せるかどうかというポイント。 ブレイシング(力木)の設定にどれほどの情熱を注ぎこんできたのか、これが その成果かと思うと原氏の目指したもの求めたものが理解できてくる。 原氏はエンジニアではなくハイエンドオーディオのハイレベルユーザーだ。 数々の名器を求め使いこなし、その中から浮上してきた響きの追求は正確に 的を得ていたものと実感された。私にしては大変珍しく、また大胆でもある 言葉が一曲目を最後まで聴かずに思わず口から飛び出していた!! 「これ注文します!!」 クラシックとオーケストラはこうでなくっちゃ!!と今までうんちくを語って きた皆様には一言申し上げなくてはならない。 「HB-1を聴いてから言って下さい。その方が皆様のためになります!!」 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 美しい“響き”というのは言葉で言うのは簡単ですが、今までHB-1のような タイプのスピーカーが存在していなかったのだから、他のメーカーのキャッチ フレーズの実態がどうであったか再考の必要があるでしょう。そして、それは 高価な買い物をしてきたユーザーという立場であるからこそ原氏は胸を張って 言えるというもの。では、“響き”とはオーケストラのようなホール録音や アコースティックな演奏の録音に対して、生演奏の雰囲気のニュアンスを楽器 のように作られたスピーカーが補足するという考え方で片付けられるのか? つまり、スタジオ録音の色々ではどうなんだろう、というのが次の課題。 ■“Basia”「 The Best Remixes 」CRUSING FOR BRUSING(EXTENDED MIX) http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/ES/Basia/ http://www.basiaweb.com/ http://members.tripod.com/~Basiafan/moreimages.html#remixes1 ■MICHAEL BUBLE/1.「Fever」WPCR-11777 http://wmg.jp/artist/michaelbuble/profile.html スタジオ録音でも電子楽器を多用した録音のヴォーカルものでHB-1を試した。 「あれ!? いけるじゃない!!」 あくまでもバランス感覚の問題だが、主役のヴォーカルに対しての伴奏という 位置付けで考えれば十分な低域の量感がある。もちろん、ここに並ぶ他の スピーカーたちと同量の低音は望むべくもないが、音量を上げても変形しない 低音ということが最大の魅力と言える。 さて、ここでHB-1のカタログで表記されていないスペックを初公開しておこう。 2Wayでは珍しく、クロスオーバー周波数は5KHzに設定しているという。 他社の16センチから20センチウーファーを使った2Wayでは2〜3KHzくらいで クロスさせるものが多いのだが、HB-1は10センチユニットということもあってか 5KHzまでウーファーを伸ばしているということだ。 先程は指で触れてみたが、上記の強力な低音が録音されている曲を聴きながら 今度は耳を近づけていった。すると… http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_case06.jpg このバッジが貼ってあるところ、つまりウーファーの真後ろ。そして両サイド の響板の一番広いところに耳を近づけていくと、薄い板を通して盛大に歌声が 聴こえてきます。また、耳をボディーの上の方に移動していくと、その内部の 反響している音は小さくなっていきます。 http://www.dynamicaudio.jp/file/090615/hb1_bufful02.jpg 上記に写真を紹介しましたが、トゥイーター用ホーンの精巧な埋め込みの状態 を見てきましたが、当然トゥイーターの背圧は音響出力としては後方には放射 されないものですが、振動は黒檀のホーンを通じてエンクロージャーに伝達さ れているものでしょう。 HB-1のエンクロージャー内部では中域まで伸びているウーファーの背圧が響板 を盛んに振動させ響かせているということはわかりましたが、トゥイーターの エネルギーも分量は少ないようですが同様に響きの要素として使っているので はないかと推測しています。 その結果、スタジオ録音での極めて鮮明な音像を描いた録音を聴いても、特に 余分な付帯音がまとわりついているのでは、という心配は全く無用でした。 逆に10センチウーファーかとは思えないような低域が気持よく空間に広がり、 低域に個体感を与えるような音像の締め込みがないために気分爽快に聴けます。 では、アコースティックなスタジオ録音はどうか。次の選曲はこれ。 ■DIANA KRALL「LOVE SCENES」11.My Love Is(MVCI-24004) http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/disco.html ウッドベースは正直に言って心配していました。開放弦での大きなストローク は私の求める音量では厳しいチェックポイント。 ベースが破綻するのではないか、ボトモングしてカキーンというのではないか、 と内心はらはらしながらも逆にボリュームが上がっていくという不思議。 「おー!!いけるいける!!」 T T 様のレポートにありましたが、低音が出ないという小型スピーカーの概念 はHB-1を聴いてしまうとひっくり返ります。こんなスピーカーもあるんだと!! DIANA KRALLのヴォーカルは文句のつけようがありません。見事!! ■ちあきなおみ/ちあきなおみ全曲集「黄昏のビギン」 http://www.teichiku.co.jp/teichiku/artist/chiaki/disco/ce32335.html イントロのギターはさすがにしびれました。アコースティックギターの選曲も 当然用意してあったので、ここでは述べないもののオーケストラ同様に響きを 感じさせる音質は高峰楽器製作所の職人たちの面目躍如たる技の見せどころ。 そっけないくらいに奏でるヴァイオリンのソロは涙ものの質感が胸を打ちます。 ちあきなおみのヴォーカルはスタジオワークの見事さか、左右2.9メートルと いうワイドセッティングのHB-1の小さなボディーの周辺に広大な余韻感を滞空 させる離れ業を軽々とやってのけます。 ヴォーカルという楽音に響きの要素がどのような化学変化を起こすのか!? これは申し訳ないのですが、HB-1を聴き始めて数秒後にはヴォーカル好きな 皆様のハートにつながる導火線に火が付いてしまったことを悟るでしょう!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 6月15日、メープルを聴く… 原氏の好意で貴重なメープルをひと晩借り受けることが出来たということで、 この日の夕方に引き取りに来るまでじっくりとメープルを聴きこみました。 それと入れ替えにひと晩バーンインさせたマホガニーを同じセッティングし、 一日で二種類の材質出来たHB-1をじっくりと比較することが出来ました。 結論は両方ともに昨日の分析と評価ポイントは当然変わりません。これは体験 して頂くことが最も正確な判定方法だと思いますが、両者の違いをデフォルメ して述べると次のようになります。 ■響きの絶対量 これはマホガニーの方が時間軸に対して長い響きの時間を持っています。 ただ誤解して頂きたくないのはメープルの響きが乏しいということではありません。 オーケストラやクラシックを聴かれる方でしたらマホガニーの方が魅力的に 感じられるはずであり、擦る弦楽器はふくよかさが伴うのでチャーミングに 感じられる事でしょう。 ■音像のディティール これはメープルの方が小ぶりの音像を結びます。ですから、ギターのように 弾く弦楽器のテンションの引き締まりとスピード感は妙味です。弦の振動を 克明に描きながら響きの美しさも感じられる魅力があります。 でも、ここからが悩みどころ。マホガニーの方がギターのサウンドホール効果 といいましょうか、胴体の響きがゆったりと消滅していくのでガットギターの ように少しオフマイクで録音したものは大変魅力的なのです。どっちもいいか。 ■音場感の再現性 これはですね〜、スタジオ録音によるリヴァーヴのあり様を観察するような 聴き方ではメープルが若干良いように思います。それは音像が小粒にという 上記の反作用でもあるわけです。 しかし、これも悩ましいのですが、ホールエコーのように楽音の発生から消滅 までの存続時間が演奏に良いうま味を加えてくれるという見方ではマホガニー がいいのです。 ■私の推薦は? 視覚的なデザインと色合いでメープルが断然よい、と思っている方はそのまま。 ただし、納期がかかります。 今まで述べてきたHB-1の魅力を多方面の音楽で楽しみたいという場合は、 マホガニーを採用されることを推薦いたします。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 6月16日、スタンドを聴く… この日からはマホガニーしかありません。そこで、もう一つのチェックポイント。 原氏はご自身で試聴した結果、トゥイーターの位置は耳より10cmから20cm低い 方がいいという判断を下していました。 しかし、私はこのフロアーのレイアウトから目前にある製品に隠れないように あと10cmくらい高いスタンドで使いたいと希望しました。 そこで原氏は比較用にと10cm高いスタンドを送って下さったのです。ここでは “P-board”に乗せているので、昨日までのスタンドではトゥイーターの高さ は床から90cm、本日届いた高い方のスタンドでは床から103cmの高さとなりました。 あのAcoustic Reviveの重厚な作りのスタンドですが、柱部分のみ交換しての 試聴となりました。 トゥイーターの高さは床から103cmとなり、HB-1の姿も視界に浮かび上がる ようになって営業的にはこちらの方がいいな〜と思ってソファーに腰かけ、 同じ曲を聴き始めたのです。ところが… 最初のマーラーを聴き始めて、あれ? と思いました。美しい響きがどこかに いってしまいました。おかしい!? それに弦楽器の質感に違和感があります。 この段階で私は原氏の言葉が納得できました。 念のためにちあきなおみも聴きましたが結果は同じ。 たった13cmの違い、されどこの13センチは大きかった。 私はこの違いに驚き、それを発見していた開発者に猛烈な敬意を感じてしまい、 思わず原氏に電話をかけてしまいました。後は談笑となりましたが、原氏から 見れば自分の感性で判定したことが感性を持って証明されたということで大変 喜んで頂きました。上記に★推薦 としたのはこのような理由からです。 ユーザーの使用する椅子と体格によってスタンドの高さを選択して下さい。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 6月19日、文字通り世界初の受注… 実は、不思議なもので私のテレパシーが通じたものか、6月15日にマホガニー とメープルを聴き比べしようということになったのも、港区にお住まいのVIP であるS様が昼過ぎに来店されたからでした。 私が複数の課題としている試聴を終わってから来て頂こうとご案内を予定して いたのに、以心伝心とはこのことか偶然にもご来店頂きました。と、しばらく すると今度はやはり世田谷区のVIPであるМ様がお友達二人と来店され、何と ミニイベントというか試聴会が始まってしまいました。 VIPの皆さんに原氏をご紹介し名刺交換も済ませ、S様の質問がマホガニーと メープルはどう違うのか、ということ。これには実演をもって答えをお聞かせ しましょう、ということで原氏の車に積んであったメープルを運び込んで急遽 の比較試聴会となってしまったものです。 そして、S様から「川又さん、金曜日にもう一度聴かせてくれるかね?」と いう電話を頂いたものでした。S様がご自身のCDを持っていらっしゃるという ことは何を意味するのかは過去の経験から察しがついていました。(^^ゞ そこで、今日はS様がさすが!!という選曲で持参されたCDを聴かせて頂いたの ですが、それがまた素晴らしく、これは皆様にもご紹介しなければという事 になりました。 S様のオーディオ歴は40年以上、つまり当社の歴史とほぼ同じというベテラン であり、その半分の期間を私が担当させて頂いております。 S様が「先ず、これから頼むよ」と言って受け取ったディスクはこれ!! 神尾真由子「パガニーニ 24のカプリース」22歳にして一昨年のチャイコフス キーコンクールで日本人バイオリニストとして2人目の優勝を飾っている。 http://www.aspen.jp/artist/jp/mayuko_kamio.html S様ご指定のトラックを聴き進むうちに、演奏と録音の素晴らしさがしみじみ と伝わってきます。ヴァイオリンをモチーフにしたスピーカーは確かにありま すが、3.5ミリと2.5ミリのマホガニーが彼女の弾くヴァイオリンに呼応して 響きを醸造し、記録されている信号とHB-1が音響的化学反応を起こしたのか!! センターポジションにはS様、私は右隣のソファーで聴いていましたが、斜め からでもHB-1が聴かせるヴァイオリンの何とも芳醇であり美しい響きか!! フラジオレットを軽くこなし難曲のパガニーニ/カプリースでの素晴らしい 解像度と描写力がありながら、まさにヴァイオリンの胴体が響く様な質感の 彩が甘美なサウンドステージを展開していきます。 ヴァイオリンのソロでこれほどの空間を描き、また指先の動きを克明に描写し スピーカーそのものが歌うという演奏は本当に初めてのことでした。さすが!! そして、次の選曲がまたS様のセンスを光らせました!! 曽根麻矢子「ゴルトベルク変奏曲」 http://avexnet.jp/id/sonem/ http://www.avexnet.or.jp/classics/artist/sone/ いや〜、これには驚きました!!S様の選曲とHB-1の響きに脱帽です!! チェンバロという楽器のもともとの音量感からすれば、オーディオシステムで ボリュームを上げて聴くと、鳥の羽軸などからできたプレクトラム(ツメ)が 弦を下から上にひっかいて音を出すチェンバロの音そのものに誇張感をもって しまうこともしばしばありますが、HB-1からすーっと弾きだされたチェンバロ の音を一度聴けばなぜ美しいのかが解ります。 そうです!! チェンバロにも響板があるからこそ弦を支えるブリッジの振動を 響かせる事が出来るわけであり、そこでHB-1の魅力が証明されるのです!! 響きとは空気が伝える。そして、HB-1は演奏者が呼吸した空気を運んできます。 いやはや驚きました!!もちろん、このディスクもすぐに注文しました(^^ゞ 佐藤 美枝子「さくら横ちょう」 http://www.satomieko.com/ 今度は日本人のソプラノです。人間の体には響板はないからな〜と思ったら 大間違いでした(^^ゞ理屈ではありません。HB-1が聴かせるソプラノで特に 私は音階と声量が上がる演奏箇所に注目しながら聴いていました。そしたら… するっと!!抜けていくんです!!何の引っかかりもありません。 この意味お分かりでしょうか!? トゥイーターが大活躍するソプラノですが、いくら重たくて固いスピーカー であっても、ソプラノの特定部分で耳を圧迫するようなイメージをもたれた ことはありませんか? そんな既成概念を吹き飛ばしてしまうのがHB-1でした。 前述のようにトゥイーター用ホーンの黒檀がバッフルに密接に取り付けられて いましたが、あれほどの声量で歌っても何のストレスも感じません。 そうそう、S様のご愛用スピーカーはKRELL LAT-1000 なのですね〜!! その前に置いて使って頂くということで、私が声を大にして言いたいこと。 Kiso Acoustic HB-1は他の部屋で小さなアンプで鳴らすようなセカンドシステム では決してありません。 皆様がメインで使っているプレーヤーとアンプで鳴らして欲しいものであり、 今ご愛用のメインスピーカーの前にセットして欲しいものなのです!! せっかくのメインスピーカーを買い替えて欲しいなど私は申しません。 第二のメインスピーカーとして同じアンプでもこれだけ違う演奏を楽しめると いう再発見をして頂きたいものです。皆様のプレーヤーとアンプへの投資効果 を再度蘇らせて下さい!! あっ、申し訳ございません。営業トークが出てしまいました |
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担当川又 |
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