発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
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http://www.tacet.de/ ここで制作しているSACDはなんと4ch収録なのです!! これは私にとってうれしいニュースでした。しかし、実際に聴いてみないことには 何とも言えない。つまり、私が筆を取るには感動なくして執筆意欲は湧かないとい うものです(^^ゞ同社が標榜するTACET Real Surround Sound とは果たしていかなる ものなんか? 私がこれまで取り組んできた5.1chからのダウンミックスによる4chと 比較してみてどうなのだろうか? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACETレーベルは何と、Stuttgart交響楽団の現役演奏者のメンバー五人が「自分た ちの演奏を良い録音で聴いてもらいたい」と1989年に立ち上げたレーベルです。 五人の名前の頭文字を取ってTACETとなりました。 代表者のAndreas Spreer はマイクロホン・コレクターでもあり、マイクロフォンの 違いにこだわったTACET 17、49、110とか、真空管にこだわった録音機材でまとめた TACET 74、117さらに楽器ブランドによる違いを体験できるTACET 34、36、65など ハルズサークルの皆様が喜ばれるタイトルもあります。 TACETの顔と言うべき演奏者の一人Daniel Gaedeは昨年も小学館企画のプライベート コンサートをカザルスホールで開催していると聞きました。日本人の女性バイオ リニストがジョイントしているTACET 117と姉妹レーベルEigenArt1033もあります。 さあ、私がこれほどに感動した4ch録音とはいかなるものか? 早速試聴レポートで す。 -*-*-*-*- SACD 4ch録音 TACET Real Surround Sound検証システム -*-*-*-*- ESOTERIC G-0s ■8N-PC8100■ ↓ 7N-DA6100 BNC(Wordsync)×5本 ↓ ESOTERIC P-01 ■8N-PC8100■ → → → → → ESOTERIC 7N-A2500 XLR ×2 ↓ ↓ PAD DIGITAL YEMANJA XLR 1.0m ×2 ↓ ↓ ↓ ESOTERIC D-01 ■8N-PC8100■×2 ESOTERIC D-01 ■8N-PC8100■×2 ↓ ↓ PAD YEMANJA XLR 1.0m ESOTERIC 7N-A2500 XLR ×2 ↓ ↓ Chord CPA 4000E■ESOTERIC 8N-PC8100■ ESOTERIC A-70 Mono Power Amp×2 ↓ ↓ PAD YEMANJA XLR 3.0m ↓ ↓ ↓ Chord SPM 14000 MOREL Octwin 5.2 CorianWhite ↓ PAD YEMANJA BI-WIRE SPK 5.0m ↓ MOSQUITO NEO フロントchのボリューム調整が簡単にしやすいように再びChordのアンプに戻しての セッティングとしました。 「 The Best of TACET on SACD 2004/2005 」のサンプラーディスクに収録されてい る曲を単体として発売しているディスクごとに取りまとめて私の感想を述べてみる ことにしました。下記のリンクの一番下に紹介されているのがそうです。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pdf/tacet.pdf -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 最初はヴァイオリンのソロというシンプルな演奏からです。 TACET S10 Bach Partitas http://www.tacet.de/ware/00100e.htm 1689年製のAntonio StradivariをFlorin Paulという演奏家が演奏するPartita II * BWV 1004 と* Partita III * BWV 1006 がこのサンプラーに収録されています。 皆様もご存知の1720年に作曲されたヴァイオリン組曲ですが、この曲は他の演奏者 も多数録音しているので比較のために諏訪内晶子やビクトリア・ムローヴァの同じ 曲の演奏も通常のCDですが聴いてみました。どれもヴァイオリンのソロであるとい うこともあってか、深いリヴァーブをかけて溢れんばかりの余韻感を伴って録音さ れているものが大半でしたが、このTACETのPartitasにディスクを入れ替えてみて 直ちに気が付いたことが二つありました。 比較した二人の女性ヴァイオリニストの録音はいずれもフィリップスのものですが、 同じようにTACETのPartitasでもフロントだけの2chで最初はかけてみました。 まず、ヴァイオリンの質感についてです。 フィリップスの二枚でも豊かなエコー感によって潤いは十分に保たれている録音だ と思っていたのですが、TACETの録音でのヴァイオリンには解像度を維持しながらの 柔軟性というか暖かい肌合いが感じられました。 言い換えれば、弓と弦の摩擦感を眼前に見せ付けるのがヴァイオリンの音色を忠実 に再現するということではなく、刺激成分を含ませないという演奏者側の感性だと 思われるものでした。真空管を多用した録音機材とマイクのチョイスとこだわりが TACETの魅力ということなのでしょうが、この最初の一曲で参りました!! (^^ゞ 次に、Partita IIIのPreludioを中心にして比較してきましたが、前述のフィリップ ス盤の二枚と比較して、TACETの2chのSACDトラックを聴き始めて感じたもう一つは 圧倒的に音場感が広く大きいということでした。演奏している現場から収録した音 源をスタジオに持ち帰ってからエコー感を付加するということはクラシック録音の 世界でも往々にしてあることですが、その場合にリヴァーヴを深くしていくという ことと、エコー感が拡散していく空間の大きさも同時に拡大するとは限らないので はないかと推測されるものです。 つまり演奏している空間の音場感をそっくり人工的に後付けすることは大変難しい と思えるのですが、TACETのPartitasでは2chでの比較においても群を抜く空間表現 の大きさが感じられました。また、2chでありながらもアンビエンス感が素晴らしく 時折後ろからエコーが聴こえているのではないかと思わず振り返ってしまいました。 しかし、喜んでばかりもいられません。こだわりある分析力というか私の目の付け 所と厳しさから言えば、TACETのPartita IIIのPreludioの4分の3拍子の演奏で開放 弦のアルコで音階が下がったときにヴァイオリンの音像が左側に引きずられると言 うか、音像が微妙にふくらむシーンが見受けられるのです。どうやら、このような 音像の微妙な変化も音場感のあり方に関係しているのか?と4chに移行する前に私の 頭にメモを書き付けておきました。 さあ、いよいよP-01のリモコンで4chに設定しました。以前にも述べたようにセン タースピーカーはもともとが4ch録音の場合には出力が出ないので、ダウンミックス はせずにC SPはlargeと設定します。D-01のボリュームは-6dBで以前のままです。 「おー!! これは気持ちいいー!!」 2chで描かれるエコー感とは比較にならないほどの広大な空間にワープしたようで す。 今まで目視していた室内の壁がふ〜っと消滅してしまったかのようです!! むむ、ここでちょっと私のチェックが入りました。リアchが出過ぎ、あるいはフロ ントchのレベルがちょっと低いようです。先ほどの開放弦の場面と音階の移行に 伴って、その瞬間にちょっぴり音像がリアchに流れるようです。これは修正しなく ては、ということで。D-01のボリュームを-6dBから半分の-12dBに下げました。 あれ? 今度は小さすぎるのか? では-9dBに…、あれ、あまり変化ないか〜? では、と結局 は-6dBに戻して、フロントchの Chord CPA 4000Eのボリュームがディスプレー上で 38だったのを55まで上げました。うん!! これでよし!! ということで、結果的には フロントchのボリュームを調整することで違和感がなくなりました。 「あれ、ちょっと待てよ!!」 とここで気がついたのは、Stingでの経験でもそうでしたが、何と何と4chでのヴァ イオリンの音像の方が解像度が良く鮮明になっているではありませんか!! そして、先ほど感じた音像のゆらぎというか膨らみと言うか、開放弦の左方向への 流出がなくなっているではありませんか!! やはり、この場合もそうですよ!! 2chというキャンバスでは納まりきれない情報量 を4chで録音・再生を行うことで、フロントchに押し込んだ楽音とその背景描写の 中の余韻成分をリアchに振り分けることで主役のヴァイオリンの音色がこんなにも 鮮明になったのです!! これはいいです!! (^^ゞ しかし、改めて思いましたが、刺激成分のない録音というものは音量を上げても実 に気持ちよく聴けるものですね〜!! これは皆さんにぜひぜひお聴かせしたいです!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S17 Das Mikrofon http://www.tacet.de/ware/00170e.htm このタイトルDas Mikrofonを直訳すると「マイクロホンの仕事」ということになろ うか。NeumannのCMV 3 (1927年) M 49 (1949年) U 47 (1947年) Sennheiserのバウ ンダリーマイク MKE 212 R、そして Bruel & Kjaer 4003や Schoepsの球面上マイク KFM 6 Uなどのヴィンテージ・マイクを使っての録音という洒落た企画のものです。 サンプラーにはモーツァルトのピアノソナタ・ハ長調KV330と(S17での10Tr)と ロッシーニの歌曲(S17での6Tr)が納められています。 これらも最初にSACD 2chを試聴し次に4chへと切り替えての比較を行いました。 2chに対して4chになってからの印象ということで述べてみることにします。 最初のヴァイオリンのソロに続き今度はピアノのソロで比較してみると…。 「あら!? ピアノの打音がほぐれてる…、と言うか、細かくなってるぞ!!」 そうなんです。今までの2chでは打音ひとつひとつにエコー感が伴っていたように 聴こえていたのが、すっきりと打音そのものだけがフロントchに描かれているでは ないですか!! これは非常に見晴らしの良い演奏になりました。そして、楽音全体を 包み込むようにリアchから余韻感が漂ってくるのです。しかし、ここでも思うこと は何とTACETの録音は質感がきめ細かくも優しいのでしょうか。こんなピアノは初め てかもしれません。2chでもそれは共通なのでぜひぜひお薦めしたいものです!! 次のロッシーニのメゾソプラノの歌曲ですが、左に歌手がいてセンターにピアノ、 そしてその後方にはゆったりと何とオルガンが流れているのです。癒し効果抜群だ。 これも2chから4chへと切り替えてみると…。 「お〜、ソプラノがフォルテで声量を上げても聴きやすいぞ。リアchのこんな役割 もあったんだな〜」 そうです、ここでは演奏全体の余韻感をリアchに持たせると言うよりは、歌手の声 量が高まったときだけリアchからエコー感が返ってきます。ピアノとオルガンにも 微弱なエコー感は追加されるものの、実際の演奏では伴奏に徹しているのか音量を 控えめに演奏しているのでしょうか? でも、このように演奏家がフォルテを奏でる 時にのみリアchでの効果が生かされるというのは良いセンスだと思いましたね〜。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S36 Famous violins http://www.tacet.de/ware/00360e.htm このタイトルも直訳すると面白い。「パガニーニさん、これはどうですか?」とな る。 1995年12月28日に録音されたものだが、Amati、 Guadagnini、 A. Guarneri、 P. Guarneri、 Horvath、 Stradivari、 Vuillaumeらヴァイオリン製作者の中でも 巨匠と言われた七人の楽器をSaschko Gawriloffという演奏者が弾き分けた企画も の。 パガニーニやクライスラーというお馴染みの選曲なので楽しめそうだ。これも最初 にSACD 2chを試聴してから4chになってからの印象ということで述べてみます。 このサンプラーにはこのディスクからパガニーニ、ドヴォルザーク、クライスラー らの三曲が収録されていて、いずれもピアノが伴奏についたデュオの演奏です。 しかし、2chでも思われたのがTACETの録音になるヴァイオリンがなんでこうも 優しく美しいのか、ということでした。この質感は弦楽器のファンであればきっと お解かり頂けると思います。ぜひお試し下さい。さあ、切り替えてみましょう!! 「ありゃ〜、これはもしかしたら!! 今までの2chは仮の姿か〜」 これは4chを聴いて初めてわかったことなのですが、2chでのヴァイオリン奏者の後 ろには反射板があったのか? はたまた壁際で演奏していたのか? これが対比しての 私の感じたところです。つまり、2chではヴァイオリンの楽音が発生すると直ちに 後方からの一次反射音のように折り返しのエコー感が聞こえてくるのです。これが 演奏者のいる空間を狭く感じさせ、また背後に反射板を置いたのではという私の例 えになったものです。でも、本当にこれだけ聴いている分には違和感は何もないの ですが…。 ところが4chに切り替えた瞬間からヴァイオリン奏者は壁際からステージの袖に移動 したかのように、そして一次反射が起こりそうな反射板など見苦しいと取り去って しまったかのように、演奏者の背景にさーっと視界が広がっていたのです。いや〜 この時の気持ちよさと言ったら、何と表現したものか!! そうだ、2chではフレスコ画のように眼前に大きく描かれた演奏者の肖像があったと したら、4chでは演奏者は彫刻の立像となってステージに影を落とすような立体感が 生まれたということでしょうか。シンプルな演奏なのに、どうしてこんなに美しく なってしまうのか!! ここでも思いましたが、センタースピーカーがあったら、こう はならないでしょうね〜(笑) -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S49 Das Mikrofon Vol. 2 http://www.tacet.de/ware/00490e.htm これは「マイクロホンの仕事」の続編ですね。しかし、今回はがらっと変わって ジャズです。少々クラシック漬けになっていましたから、いい気分転換です(笑) 1930年代から使用されているリボンマイクや、最も古い1927年製のコンデンサー マイクを織り交ぜて近代的なマイクも使用してGeorg Rox Quartetのジャズを録音 したものです。さあ、これでは面白い発見がありましたよ〜。 サンプラーでは「St.Martin」と「Someday My Prince Will Come」の二曲が収録さ れています。まず2chでの「St.Martin」からです。 これは面白い音像が見えてきました。ピアノは左半分という面積を使って定位して いますがメロディーラインを叩くと左スピーカー上での定位となり、その少し内側 にはアルトサックスがいます。そして、ドラムは右半分に展開しシンバル、スネア、 タムなどは右スピーカー上に定位します。しかし、キックドラムだけはセンターと いう形式なのです。その右側の少し内側にウッドベースが定位しています。 色々なジャズの録音を私も聴いてきましたが、TACETのジャズはいっぺんで大好きに なりました。ステージの奥の方から叩かれたキックドラムの音が床を這って来るよ うに響き距離感を出しています。ピアノの音はアタックでも決してとがらずに聴き やすく、しかし余韻感を正確に残します。サックスのリードはヒステリックになら ずに心地良く、PAやSRという拡声装置を使わないアンプラグドの録音という雰囲気 にとても好感が持てます。これはいいです!! あ〜、このディスクの他の曲も聴きた いですね〜(^^ゞ さあ、4chにしました!! どうなることやら…。 「ふむふむ、フロントchの定位は変わらないね。しかし、何でこんなにピアノや シンバルの音が鮮明になってしまうの!? リアchはどうかな〜」 そうです。Real Surround Soundと称していますが、リアchの振る舞いが今までと ちょっと違うぞ〜。 エコー感は確かに豊かになっていますが、なんとしたことでしょう!! 異変に気が付いた私はフロントchを絞り込んで無音にしてリアchだけを聴いてみま した。するとフロントのLchから聴こえていたピアノのエコー感がRchのリアから、 そして、フロントRchに定位していたドラムのエコーはリアLchから聴こえるではあ りませんか!! 今まではどちらかと言うと右側のエコー感は同じ右のリアchがエコー 感を引き継ぎ、同様に左側のエコー感はリアの左側にという図式が当たり前と思っ ていたのですが、それが逆転しクロスしていたのです。 「やはりさっきの観察は当たっていたのか?」 それはS17 Das Mikrofonにおいてのメゾソプラノの声のエコー感もフロント左側の 定位に対して、リアでは右方向から聞こえていたな〜、という疑念があったのです が、今ここでも同様な技法をTACETの録音に確認したものでした。 彼らの言うReal Surround Soundと称する4ch録音には、このようなテクニックによ る立体感があったということで新たな発見が出来ました。 しかし、最後に追記しておきたいのはリアchのレベルが曲によって大きく違ってい るということです。リアchだけを簡単に聞き分けしてチェックしたいものです。 それで録音側のセンスとして、そのようにしているということであれば良いのです が、これは問い合わせてみる必要がありそうです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S52 Hommage a Kreisler http://www.tacet.de/ware/00520e.htm 冒頭のレーベル紹介でも述べているヴァイオリストDaniel Gaedeの小品集です。 このサンプラーにはS52での2. Aucassin & Nicolette と3. Danse Espagnol、 そして 13. Humoreske が収録されています。弦楽器のファンにはお馴染みの 選曲ではないでしょうか? これも2chから4chへの切り替えで試聴してみました。 Aucassin & Nicoletteを2chの段階で聴き、まず驚いたこと!! それはヴァイオリン の質感、音色そのものでした。大変鮮明でありながら、緩やかであり甘美な音色は 今までに体験したことがないものです。Humoreskeでもアルコのタッチが絶妙の質感 で表現され、弓と弦の摩擦感は克明にわかるのにソフトで優しい音色なのです。 これまでに皆様が再生装置で聴いていたヴァイオリンと比較して欲しいものであり、 演奏者が聴かせたいと思う音楽というTACETの創立者の思想が色濃く現れています。 Danse Espagnoではピッチカートを織り交ぜた演奏が気持ちを掻き立てるようです。 しかし、ここでもTACETの録音センスが生かされていて、ピッチカートもはじけ飛ぶ だけの勢いだけではなく、その細やかな余韻にふくよかな潤いが感じられます。 さあ、これを4chにしたらどうなることでしょう!?まずはAucassin & Nicoletteか ら。 「あれあれ、2chの時よりもフロントchが広がっているぞ!! そして…」 先ほどまでのフロントスピーカー二台での音場感に比較してフロントchだけを見て も空間表現がすっきりして拡大しているのです。それはなぜか…、わかりました!! これまでに感じ取ったことと同じく、センターに定位するヴァイオリンの音像が2ch に比較しても輪郭が鮮明になり、フォーカスもきっちりと合い、更に音像の大きさ を引き絞って縮小させているのです。 従って、楽音の像が小ぶりに変化した分、その周辺の空間が広くなったように感じ られるものです。そして、その空いた空間にエコー感が拡散していくのが大変魅力 的に演奏を美化しているようです。ここでも2chという音源に多くの情報をぎゅう詰 めにしていたのでは、という逆説的な分析が出来ました。 Humoreskeのゆったりしたメロディーは音像をふっくらとした方が情緒的なのではと 2chを聴いて感じていたのですが、大きな誤解でした。4chで表れたDaniel Gaedeの ヴァイオリンは2chよりも遠近感を感じる事になりました。そうです、2chよりも離 れたところで演奏しているように距離感が感じられました。それも音像をシェープ した副産物でしょう。そして、漂う余韻はリアchからもふーっと感じられるので、 演奏者が自分と同じ室内・空間にいるのではという気配が感じられるようになりま した。やはりフロントchだけで表現していたエコー感には無理があったのでしょう。 Real Surround Soundというのは音楽に包まれるという表現がぴったりのようです。 Danse Espagnoでのピッチカートには私も驚きました。2chの時には弦を引っかくテ ンションを強烈に意識し感じたものですが、4chでは流れるようなアルコの演奏と同 じエネルギーを維持し、引き付けて放つというピッチカート奏法を録音した場合の 強調感はまったくなくなっていました。そして、Daniel Gaedeのステージでの立ち 位置の周辺に大きな空間が出来たように、彼のシルエットが鮮明に浮かび上がり、 彼の背後を遠くまで見晴らせるように視野が広がります。マルチチャンネル再生は 単純にエコー感を付け足すだけではありません。フロントch方向にも音場感を拡大 していると言うことが大変素晴らしいのです!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S70 Bach Goldberg http://www.tacet.de/ware/00700e.htm これはジャケット写真を見てお解かりのようにDaniel Gaedeをリーダーとしてビオ ラとチェロで構成されるトリオでGoldbergを演奏したものです。このサンプラーに はVariationen 3とAriaとして2曲が収録されています。今から楽しみでなりません! 左にヴァイオリン、センターにビオラ、右にチェロという定位で演奏が始まりまし た。上記のDaniel Gaedeと同じようにまず弦楽器の質感としては極めつけのものだ と直ちにわかります。NEOは本当にこの質感を上手く捉えて鳴らしてくれます。 さあ、4chに切り替えてみましょう。「お〜、なるほどー!!」 各弦楽器の背景に空間が見えてくる変化、音像が引き締まる変化は同じなのですが、 ここではチェロの変化に大変興味をひかれました。2chでは右側から左方向に大き目 の余韻をチェロの残響が広がる範囲として提示していたものです。それがトリオの 演奏全体を包み込むようで、それなりに気持ちよく聴いていました。 しかし、どうでしょう!! 4chにするとチェロのフォーカスはきちっと結ばれ音像も 同様に引き締まる中で、楽音の核・芯という中心部分が鮮明になり、それ自身が発 するエコー感と大変明確に分離してくるのです。そして、分離したエコー感がリア から他の演奏者を抱擁するように包み込んでくれるという気持ちよさがあります。 ここでも試しにフロントchをゼロとしてリアchだけを聴いてみましたが、各楽器の 位置関係はフロントと同じでした。そして、リアの音量はフロントに比較して大変 微量なものなのですが、それがあるとないとでは臨場感に雲泥の差があります。 今までピアノで聴くことが多かったGoldbergですが、皆様にもぜひお聞かせしたい ディスクがまた増えたようです。心安らかに楽しめるのは4chの魅力でしょうか? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S101 Bach Brandenburg (TACET Real Surround Sound) http://www.tacet.de/ware/01013e.htm 続いてもバッハですが、正直に言ってこのBrandenburg Concertosが今回のサンプ ラーの中で最も刺激的であり、私の既成概念を打ち破るほどのインパクトを感じた ものだったのです。このサンプラーの5.TrにはBrandenburg Concertos 1番ヘ長調の 3.Allegroが、同じく15.Trには第4番ト長調 1.Allegroが収録されている。両方とも いわゆるバロックオーケストラであり、木管楽器、弦楽器とチェンバロという編成 によるものです。 1番ヘ長調ではオーボエとホルンが弦楽器と同等の扱いで主役を演じるもので、特に ホルンの演奏が際立っており余韻感も十分に拡散され気持ちいい。これは2chです。 同じように15.Trの第4番ト長調ではフルートがヴァイオリンを取り囲むようにして 演奏され、チェンバロともども弦楽器群との三者均等の出番があります。全体的に その三者に均一なエコー感が感じられ、聴き馴染んだ曲にTACETの感性が新たな記憶 として絶妙な質感のBrandenburgを加えることが出来ました。これも2chです。 さあ、いよいよ4chへと切り替えました!! 5.Trの1番ヘ長調では予想した通りに、リアchではフロントの演奏に宮廷音楽の演奏 にふさわしい豊かな響きを付加するという展開で、これまでの解説で述べてきたよ うに何の違和感もなく美味なバロック音楽を聴かせてくれました。気分爽快です!! さて、私がこれまでにも多数のバロック音楽を聴いてきましたが、15.Trの第4番ト 長調へとリモコンでスキップした瞬間に一大事が発生しました!! 2chではバロック オーケストラ全体に心地良いエコー感が均一にかけられていましたが、5.Trとは比 較にならないほどの大胆な録音がなされていたのです。 フロントchの左右にフルート奏者が二人両翼に広がって展開し、そのセンターに ヴァイオリンが定位しました。この三者には先ほどの2chではありえなかったこと なのですが、エコーがほとんどかけられていないのです!! そして、ヴァイオリンの アンサンブルとして主題のサポートをする集団が何とリアchに移動し大変豊かな響 きのエコー感が追加されています。そして、左半分のリアchにはなんとチェンバロ がいて、これも面として響くようなたっぷりとしたエコー感に包まれているのです。 近代のオーケストラを前方のステージに展開させて聴くという再生時のパターンは オーケストラの中心にリスナーが位置するのは不自然という当然の発想からそのよ うになるのでしょう。しかし、300年以上前のヨーロッパの宮廷音楽を演奏する楽団 の規模と編成、そして演奏される場所もホールというよりは王侯貴族の宮廷の広間 ということを思い浮かべると、まさにこの15.Trではバロックオーケストラの中心に 自分がいるという位置関係なのです。 フロントchに位置する三者のエコー感を断ち切ることで演奏者たちに接近した印象 を与え、自分の背後に距離をとって他のヴァイオリンとチェンバロの奏者が背後の 石壁に豊かな反射音を響かせてきます。TACETのサイトを見ると、このディスクの タイトル横に(TACET Real Surround Sound)と敢えて追記してあることに気が付く が、 何とも積極的な4chの活用法であり、私が今までに体験したことのないバロック音楽 の再生方法であったことか!! TACETのwebにシンボルとして耳を囲むReal Surround Soundのイラストがあります が、 まさに私は演奏者に囲まれてBrandenburgを聴くという予想もしなかった感動をする ことができました。しかも、楽音の質感については今まで述べてきたように解像度 をきちんと維持しながらの柔軟性ある感触と肌触りのものであり、録音の基礎とし ては文句のつけようがないものです。それらの楽音に三次元的に包み込まれた時の 私の驚きは皆様に事実をお知らせしたいという努力として文章量の大きさとして今 回のレポートとなっています。 実に、実に素晴らしい!! この演奏をリファレンスシステムのコンポーネントを設計し開発した国内外のメー カーの皆さんと、逆に録音をしていてもこれほどのコンポーネントで再生したこと はないはずのTACETの皆さんに聴いて頂きたいものです。そして、このTACETが本領 を発揮した今回の作品を輸入していながら満足に試聴できていなかった輸入商社の 社長さんにも、そして、もちろんハルズサークルの皆様にもです!! (^^ゞ -*-*-*-*-*-*-*-*-*- TACET S117 The Tube Only Violin http://www.tacet.de/ware/01170e.htm これは文字通りタイトル通り、ヴァイオリンという楽器を真空管を使用した機材で 録音したというものです。演奏者は前出のDaniel Gaedeほか、Wojciech Rajskiが 指揮するポーランドのChamber Orchestraなどの演奏で魅惑的なヴァイオリンのため の曲を収録したものです。このサンプラーにはJ.Massenet:Meditation from Thais ご存知の方も多いと思いますが、マスネーの瞑想曲とF.Schubert:Ave Maria op.52 no.6が収録されています。 まずは2chから聴きまじめました。ゆったりとしたピアノの伴奏が左半分を占める 音像で漂い、センターにはDaniel Gaedeのヴァイオリンが浮かびます。 しかし、これまでにも同じ奏者のヴァイオリンは何回も登場していますが、この ディスクでの音色をどう表現して良いのか困ってしまいました。真空管を使用して の録音ですが、このハードウェアの選択がことの他ヴァイオリンの質感に影響を 与えているのでしょう。ただただ…、ゆったりとした時間の流れを感じながら聴き いってしまいました。もう、小うるさいことは言わずに音楽に浸っていたいという 心境でしょうか? でも、職業的に私にはそれが一番難しいのですが(笑) さて、4chにしました。すると…!? 「おー!! ピアノが〜!?」 そうなんです、2chでもゆったりしていたピアノは真空管のせいか、などと思ってい たらとんでもない。豊かな残響をフロントスピーカー二台という器で再生したから そのようになっていたようです。4chではピアノの伴奏は周囲すべてからゆったりと 湧き上がってくるように空気にわずかな色をつけ、白い霧のように私を包み込むで はありませんか!! このピアノは白く濁る温泉のように、ひたひたと耳に優しく響き、そしてこれまで に観察したのと同じようにヴァイオリンの音像は引き締まって展開するのでした。 伴奏のピアノは何の抵抗もなく空気に浸透するように拡散していき、それを舞台装 飾の一部とするかのように逆にヴァイオリンにスポットが当たり鮮明な音像が見え るようになってくるのです。伴奏の楽器が持つ音場感と主役の楽器のフォーカスを 同時に演出するというのは2chでは無理でしょう。ここにも新しい4ch再生のあり方 を発見することが出来ました。しかし素晴らしい!! このままで時間を忘れてしまい たいという誘惑にかられるサンプラーでした。さあ、これからはどうしようか〜!? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- オーディオ業界の有名人であり大先輩のある人物から次のような言葉を聞いたこと が強く印象に残っています。それはオーディオマニアに対して生の楽器の演奏家が 述べた言葉だと思ってください。 「私たちはオーケストラの音を調和させてひとつにまとめていこうと努力している のに、どうしてオーディオマニアの人たちは解像度だ分解能だと言ってオーケス トラをばらばらにしようとする聴き方をするんでしょうね〜!?? 」 う〜む、記憶に残っているのですから確かにポイントを突いた指摘なのだと思った ものでした。 演奏者が聴かせたい音、そして自分でも聴きたい音、それは複数の楽器と演奏者が 互いの出し合った音を空間で調和させ混ぜ合わせることでハーモニーやアンサンブ ルの美しさを表現した音ということなのでしょう。その意味では今回のTACETの感性 と技術が同社の創設者たちの意志を大変良く表していると感心しました。 私は今回のサンプラーを聴いて、再生側で上記の演奏者の願いとユーザーの願望を かなえるためには何が必要かということがおぼろげながらわかってきたように思い ます。それは、音楽を再現するのに2chというディメンションでは限界がありそうだ ということです。 フロントchにリアchを追加するというイメージ、それは2+2で単純に四つの音源に よって音響的な情報を付け足すという発想でした。しかし、今回の体験で私が感じ たことは2×2という考え方で、四つの音源が発した音が相関する六対の中間定位と して音像を形成し、音場感を自然に拡大していくという事実確認だったようです。 そして、そこにおける最も大切なことは4chにすることによってフロントchの解像度 と描写力が大変向上するということです。これを見逃してはいけません!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 私の“よんちゃん行脚”は先ずはハードウェアの選択と使いこなしから始まりまし たが、今回のディスクを聴くことでソフトウェアの重要性をつくづく認識しました。 つまり、“よんちゃん行脚”の主旨に沿った録音制作であり、音楽家の感性を再生 側でも理解しようとする動きです。 本当に良い勉強になりました。そして感動しました。 SACD 4ch再生と言うのは、本当に“行脚”と言うべき修行の旅であると思いました。 これからも色々な人々と音楽に出会っていくことでしょう!! しかし、この4chは聴いてしまったら止められませんな〜(笑) どうぞ、この機会にハルズサークルにご入会くださいませ!! |
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