第二十九話「続・鸚鵡貝の誘惑」





第一章『商売人の直感』

 「遂に平成5年10月4日がノーチラスとの出会いの日となった。東名高速横浜イン
ターを出て八王子方面へ約5キロ。相模原に本拠を構える日本マランツの試聴室に夕方
遅く駆けつけることになった・・・。」【随筆『音の細道』第九話】早いもので、あれ
から2年経ってしまった。今年、平成7年10月12日、池袋サンシャインシティーで
行われる全日本オーディオフェアの会場でノーチラスに再会出来るということで朝一番
に出かけて行った。一応出展メーカーの各ブースには顔を出しながら馴染の人々に挨拶
はするが、頭の中では既にノーチラスの事しか考えていない。気も漫ろに文化会館7階
にあるマランツのブースにたどり着くと、二年前にお会いした澤田氏と小菅氏という同
じ顔ぶれの皆さんが出迎えてくれた。さっと、ブース内を見渡してノーチラスのセッテ
ィング状態を見て、今回のデモにおける澤田氏のご苦労が思われた。ノーチラスの間に
は大きなアンプのラックが置かれ、ノーチラスが作り出す音のフォログラフが立ちのぼ
るべき空間を占めているのだ。これではノーチラス本来の空間表現力が発揮出来ない。
しかし、狭い会場に持ち込んだ機材数を考えれば、たぶん私でも同様なセッティングに
ならざるを得ない状況である。本家の日本マランツの人には怒られるかも知れないが、
ノーチラスの再生音を考慮すれば、お隣りのマランツブランド製品を展示していた広い
方の部屋でデモをやって欲しかった。午前中の早い時間帯が幸いしてか、人は少なかっ
たのでデモ用ソフトから2枚ほど澤田氏に頼んでかけて頂いた。前述のような状況でノ
ーチラスも正確な90度セッティングにはなっておらず、中高域の空間描写は初めから
諦めて低域の再生能力だけを集中して聴ける曲を選んだ。先ず最初はイーグルスの「ヘ
ル・フリーゼス・オーヴァー」(MCAビクター・MVCG196)の6曲目「ホテル・カリフ
ォリニア」の冒頭部分である。大変美しいアコースティックギターの展開から、独特の
重量感をもつキックドラムのようなリズム楽器の重低音がズシーンと入って来る。その
瞬間に私が思ったことをたった一言で表現するとこうなる。「こりぁ、売れるぞ!」2
年前にノーチラスを聴いた時はセッティングの制約から、私が求める低域の音量が得ら
れなかったのだ。商品として一番危惧していたは低域の量感であったのだが、ノーチラ
スはそんな私の懸念を笑い飛ばしてしまうほどの低域再生能力を軽がると眼前で披露し
てくれたのである。それでは、と2曲目はジェニファー・ウォーンズの「ザ・ハンター
」(BGMビクター・BVPC203)から「ウェイ・ダウン・ディープ」のイントロ
で入るシンセベースの規則正しい振幅を伴う低域を聴く。続いてラストの曲「アイ・キ
ャント・ハイド」を聴く。私は心の中で唸った。「ウ−ン、脱帽です、文句なし。」数
々のスピーカーと、それらのエンクロージャーデザインの相違による低域再生のキャラ
クターを聴いてきた私にとって、これこそがニュートラルの極みであり、これほど箱の
存在を感じさせなかったものはない。「数ある日本のオーディオ店でもノーチラスを鳴
らしきって、正確な説明が出来るお店はここより他にありません。どうか、ノーチラス
の展示を入れてもらえないだろうか。」前日に日本マランツの営業所長である小菅氏か
ら要請があった時には正直言って、「何台売れるかもわからない。しかも、デザインも
独特で価格も500万円もするスピーカーを導入して成功する自信はないなァ。」と、
私のフロアーに永続的に展示する事には大変慎重になっていた。しかし、今日ノーチラ
スを聴いて考えは大きく変わろうとしている。

第二章『アナログかデジタルか』

 2年前に日本マランツの試聴室でノーチラスを聴いた時と現在とでは、セッティング
の内容に大きな相違がある。あの時はCDプレーヤーのデジタル出力を試作のデジタル
・チャンネルディバイダー2台に入力して、L/R合わせて8チャンネル分のデジタル
信号をD/Aコンバーター内臓の4台のアンプに接続してアナログ変換して聴いたのだ
った。私は理想的にはノーチラス専用のデジタル・チャンネルディバイダーを開発して
から発売すべきだと考えていたが、今日ノーチラスを聴いて少し考えが変わってきた。
その第一の理由は、結果的に再生音を聴いて不満がないこと。第二に、それでなくても
パワーアンプをステレオで4台も必要とするノーチラスに対して、その周辺機器の規模
を考えての事だ。もしデジタル・チャンネルディバイダーを標準装備としていたら、均
等で優秀なD/Aコンバーターを4台も用意しなければならず、パワーアンプ4台の上
にこの様な条件が付いてしまったらユーザーの負担が大きくなり過ぎてしまう。それで
は、デジタル・チャンネルディバイダーにD/Aコンバーターを内蔵させて、アナログ
出力としてパワーアンプに直結するというアイデアもある。しかし、世に名だたるD/
Aコンバーターが存在している以上、フィリップスの1ビットDAC7でハイエンドユ
ーザーが納得するだろうか。また、8チャンネルものボリュームコントロールをディバ
イダー内部で行うことにも無理がある。そして、デジタル・チャンネルディバイダーを
現時点で標準装備としてしまえば、スーパーCDやDVDといった近未来のニューメデ
ィアの台頭やデジタル技術の進歩に追随出来る可能性がなくなってしまう。今回B&W
社がアナログの4ウェイ・チャンネルディバイダーを標準装備としたことについては、
デジタル技術の先駆者でもある親会社フィリップスの存在を考えても大変賢明な処置で
あったと思う。また、そのチャンネルディバイダーに一切の調整機能を持たないことを
不満とする声もあるが、私は逆に賛成の立場を表明したい。その理由は二つ。先ず、4
ウェイマルチ駆動が前提だけにバランスを取る事に個人差があれば、ノーチラスの完成
度が発揮されないこと。マルチ駆動というのは両刀の剣で、変化する事が自在であるだ
けに標準値が判断しにくく、バランスに対する迷いの連続でノイローゼ状態に落ちいる
可能性もある。つまり、周波数特性をいじってばかりで、肝心な音楽を楽しむことを忘
れがちになってしまう、という事例を私はこれまでにも数多く見ているのである。そし
て、ティール、アヴァロン、ウィルソン・オーディオ等と世界的な評価を受けているス
ピーカーマニュファクチャラーの発想として、ユーザーが勝手に電気的な手段によって
周波数特性に変化を与えることを否定した設計をしているという事。ハイエンドと称さ
れる高級品の位置付けとして、自分たちのバランス感覚における感性をそのまま味わっ
てもらうという事を大切にしているのだ。自分の腕前に自信とプライドのあるシェフ、
あるいは板前がいる料理屋ではテーブルに調味料を置いていないという事と同じような
気がする。客が勝手に塩、胡椒、しょう油やソースをかけて食べるという風景は一流の
店では見られないことである。こうした事は、自ずから客層を限定する行為とも言える
のだが、自社が送り出した製品を自分たちが設計した通りのバランスで使って欲しいと
いう頑固さを私は評価したいと思う。二つ目として、技術的にはチャンネルディバイダ
ーにCRを使った調整機構が付加されることだけで、位相の変化量が大きくなる可能性
も見逃せない。シンプルな帯域分割の役目だけに徹したものをノーチラスの標準装備と
したことにも賛同するものだ。

第三章『サイレンサーを纏った鸚鵡貝』

 さて、私はこれまでにもスピーカーのエンクロージャーデザインによって、低域の表
現に独特の個性が発生することを店頭の実物によってデモンストレーションを繰り返し
てきた。特に本年9月1日に行った試聴会は記憶に新しいところだ。フランス、フォー
カル社のユニットを採用しバスレフ方式のエンクロージャーによって、ハイスピードと
高能率を実現して評価されているウィルソン・オーディオのWITT。そのバスレフポ
ートの宿命である共振と風切り音を真っ向から否定して、パッシブラジエーターの有効
性をCS7で実証したジム・ティール。インフィニティーに在職していた1968年に
低域のサーボコントロール理論を製品化し、ジェネシスVでその神髄を日本に知らしめ
たアーニー・ヌデール率いるジェネシス。この三者を同時比較しようとした試みで、近
代スピーカーメーカーの象徴的なデザイン思想を楽しみながら来場者に解説することが
出来たのである。そして、忘れてならないのが古典的であるが、ARやアヴァロンに代
表される密閉式のエンクロージャーを有するメーカーの存在である。この様に、バスレ
フ方式、密閉型、パッシブラジエーター搭載型、サーボコントロール方式、と低域再生
を論理の核としたエンクロージャーデザインは4つに大別される流れを持っているので
ある。それでは、ノーチラスはこれらのどれを採用しているのか。外観でわかる通り、
バスレフポートとパッシブラジエーターは存在していない。チャンネルディバイダーは
付属するが、サーボコントロール用のアンプはもちろんない。残るは密閉型か、という
とそれともちがう。結論から言うとエンクロージャーの形態としては、ノーチラスは無
限大バッフルをシミュレートして設計されているのである。簡単に言えば、4ウェイの
スピーカーユニットをリスニングルームの一面を占める外壁の内側に取り付けたものと
考えられる。従って、ユニットの背面に放射された音波は外界に開放されて、リスナー
のいるべき室内には入ってこない。ユニットの背圧が箱の外に出てこない、と言うので
あれば密閉型と同様とも言える。しかし、ユニットが動作する環境がまるで違う。密閉
型は一定の容積がユニットの背後に存在しているため、その容積の大小によって振動板
のピストン運動にバネ性のある制動効果をもたらしてしまう。加えて、その容積の大小
によってユニットのエフゼロが変化するので、素直に低域を延ばそうとすればエンクロ
ージャーの大型化を求められる。注射器の先を指で栓をして、ピストンを動かすときの
抵抗感と同様だ。しかし、無限大バッフルではユニットの後方には文字通り無限大の空
間があるので、密閉型のようにユニットの動作に制約はない。しかも、ユニット後方が
無限大であれば低域の再生限界もユニットの裸の特性まで引き出すことが出来るのであ
る。ひと昔前までは、ウーファーの振動板の素材には軽くて硬いものが良いとされてき
た。日本メーカーでは盛んに新素材をスピーカーに採用し、ウーファー・コーンの上に
人間が乗せても壊れないというデモンストレーションを見せられたことがある。しかし
、驚いたことにノーチラスのウーファーの振動板を手に持ってみると、しっとりとした
質感があって指で曲げて見るとかるくたわんでしまうのだ。ユニットの背後に、前述の
ようなエンクロージャーのタイプによって発生する制動効果や共振がないために、この
方が良いのだとB&Wは柔軟性のある素材でウーファーの振動板を作ってしまったのだ
。しかしながら、室外に音を吐き捨てにする単純な無限大バッフルは現実的ではない。
エンクロージャーの内側に求められる機能として、またユニットの後方で起こる諸現象
に対して確かに無限大バッフルは理想的かも知れない。しかし、ユニットの前方に放射
された音波の拡散については、まったくの逆効果を持っているのである。私はこれまで
にも、自然な音波の拡散は球面波によって行われると説明を繰り返してきた。トライア
ングルの音は上下左右、360度のあらゆる方向から聴いても均一なのだ。人間の声や
楽器が発する音波も、基本的には同様な球面波なのである。無限大バッフルの例えで引
用した、壁の一部から音が出たらどうなるか。球体をスッパリと半分に切って伏せたよ
うな、ドーム状の拡がり方をするという事になる。ドキュメンタリー映画で目にする原
子爆弾の爆風が地上をドーム状にふくらんでいく、あのイメージである。本来ならば何
の抵抗もない空間に、球面を描きながら拡がっていく音波が180度の平面で仕切られ
てしまうために、その平面上を正半球状に反射を繰り返しながら拡がっていくのである
。壁にあいた穴から言葉をしゃべってみれば、声が不自然に強調されて聴こえて来る様
子は想像に難しくない。簡単に言えば、音像の不明確さ不鮮明さをもたらしてしまうの
である。さて、スピーカーエンクロージャーの役割を、この様に内側と外側の両方に渡
って考えて見ると、ノーチラスがいかに画期的であるかがご理解頂ける事と思う。先ず
、外側へ拡散する音波については、写真で見てもおわかりのようにユニットの周辺には
バッフル面がない上に一切の鋭角がない。つまり、音波の反射を極限まで廃絶して理想
的な球面波の拡散に寄与しているのである。「それだったらば、あんな変な格好にしな
いで真んまるのボール状にしてしまえば良いじゃないか。」ごもっともなご意見です。
ちょうど、この状態と理屈を『音の細道』第八話に図解入りで解説してあるので、是非
ご一読頂きたい。外側の音波の拡散に対しては、確かにボール型スピーカーというのは
まずくはないだろう。しかし、エンクロージャー内部で中・高域の定在波が起こらない
というわずかなメリットを差し引いても、低域の再生に関する内側の諸問題を考えたな
らば、球体であることが全ての解決策とはなりえない。低域再生を考えると、前述のよ
うな方式のどれを採用するかによって、エンクロージャーデザインはかなりの制約を受
けざるを得なくなるのだ。エンクロージャーの内側というのは、言い替えれば無限大バ
ッフルで言うところの外界ということになる。
 つまり、この状態と同じという事は、ユニットの向う側へ出た音は聴こえず戻ってこ
ないということ。そして、もう一つはユニットの振動板に一切の負荷や制動や共振を与
えないということ。球面波の実現を維持したままで、この条件を満たすためにはどうし
たら良いか。B&Wはこう考えた。「ユニットの後方へ出る音を消してしまえば良い。
」バスレフポートやパッシブラジエーターという手段で、低域を更に拡張するという他
社と比べて何と対象的な発想だろうか。低域の再生についてエンクロージャーの助けを
求めない。従って、何の誇張感もない自然な音質が得られる。B&Wは、それを4本の
消音管によって実現してしまったのである。30センチ口径のウーファーには、同口径
を保持するのに必要な間口を持って、逆放物線カーブを描きながら細くなっていく約3
メートルの円錐管を取り付けたのである。音速(340m)を約3メートルで割算する
と113≒120Hz。これがまっすぐな単なるパイプ状のバスレフポートであったな
ら、これの四分の一で28Hzという基音が共振周波数となり、ボー、ボーと素人受け
する低音を盛大に吹き鳴らすことになる。しかし、ノーチラスではこの管にテーパーを
つけて先を細くしている。この先ゆき細いツノの先端へ進行した特定周波数の音波(空
気の疎密波)は消音管としての減衰効果で弱められ、先端でより気圧を高められ圧縮さ
れる。そこで待ち受けているのがツノの先端の穴で、自由空間に放出された瞬間に音波
として圧力を一機に消滅させられてしまうのである。この3メートルの円錐管はグルリ
と巻かれているので、ツノの先端の穴の役目は台座を貫通しているケーブルの取り込み
口が兼用しているのである。ミッドバスのユニットを担当する2番目に長いツノの長さ
は、1・07メートルなので、同様な計算をしてみると基音は約80 。ミッドハイの
ツノは約0・7メートルだから約120Hz。トゥイーター用のツノは約0・42メー
トル程度なので220Hz。それぞれのツノは、これらの偶数倍、偶数分の一の周波数
軸を中心に消音器として機能しているのである。ただ、この様なテーパード・パイプは
ストレート・パイプとは異なり基本共振は低い方へシフトしてしまい、計算上では明確
化出来ないという曖昧なところがある。実質的には、前述の半分程度の周波数になるら
しい。そして、ノーチラスのエフゼロは28Hzとされているのだが、何と16Hzに
もレスポンスが観測されており、その並々ならぬ低域再生能力をうかがい知ることが出
来る。30センチウーファーの裸の特性が真に得られるとこんな可能性もあるのかと、
驚きも新たにノーチラスの潜在能力に更なる期待が募る一方である。

第四章『鸚鵡貝を歌わせるアンプとは』

 この様にしてノーチラスは、ユニットの前後に放出した音波を押し返したりする負荷
や制動、共振点というものが一切なくスピーカーユニットが自由空間に浮いている状態
となる。巨大なる壁を取り払って、無限大バッフルと同様の結果をノーチラスは実現し
たのである。従来は、エンクロージャーによる箱の内側での低域再生の捕捉増強、外側
では中高域の反射と拡散という現象を通じてスピーカーを鳴らし、そして同時にアンプ
の音質もそれによって判断をせざるを得なかった。言い替えれば、低域は振動板の向う
側に出る音も一緒に聴き、中高域は箱によって反射撹乱された音を聴かされてきたわけ
だ。それがノーチラスでは、眼前に配置されたユニットの正面だけの、しかも理想的な
きれいな球面波を描く再生音を聴くことが出来る。極論を言えば、従来と比較してノー
チラスではアンプから送り出したエネルギーの半分は消えてしまうという事になる。こ
れは電気的にインピーダンスが低いとか高いとかいう次元とは違って、アンプにとって
は前代未聞の厳密極まりない「審査委員」あるいは「審判」となるに違いない。音源と
なる振動板に対して、電流として音声信号を与えない特異な電気的特性を持つエレクト
リック・スタティック型、クォードやソニー、マーティンローガンやサウンドラボなど
のコンデンサー型スピーカーの存在。同じプレーナー型でありながら、リボン状または
薄膜の振動板に多大なる電流を流さなければならないアポジーやマグネパンの存在。ノ
ーチラスの場合はパワーアンプの出力は直接スピーカーのヴォイスコイルに到達するの
だが、一般的なダイナミック型スピーカーの電気的特性は、内臓のパッシブ・ネットワ
ークを通じてスピーカーを駆動するためにネットワークの特性が支配的になる。代表的
な例としてはインピーダンスカーブに変動の多いティール、逆に優等生的とも言えるき
れいなインピーダンスカーブを持つアヴァロンなどがある。しかし、これらの事例を通
じても無限大バッフルの諸条件を作り出すことに成功し、音響的にスピーカーが中空に
浮かんでいるユニットの裸の特性を相手に仕事をしたパワーアンプはなかったのである
。1970年代後半に、アポジーを代表とする低インピーダンスのプレーナー型スピー
カーの登場がアンプの設計思想に大きな変化をもたらしたように、ノーチラスの登場は
90年代のアンプの設計思想に再び変節をもたらすのではないかと考えている。多くの
マニアが待ち焦がれていた「箱のないスピーカー」、しかも驚くべき低域再生能力を持
っているとしたら。この議論の終結を実際の試聴によって更に裏付けるのであれば、中
途半端なアンプを用意する事は出来ないと思われた。マーク・グレイジャーからは、マ
ークレビンソンのパワーアンプ4台とそのフルシステムをB&Wに納入したという。ア
メリカではチャンネルディバイダーの開発に絡んだクレルが、やはり自社のアンプ4台
でノーチラスの再生を試みたという。さる筋から入った情報で、9月にイタリアのミラ
ノで行われたオーディオ・ショーでは、ジェフローランドのアンプを使用してノーチラ
スを鳴らしている写真も目にしている。海外のこうした情勢からして私も一大決心をし
た。11月12日には、当社の年に一度のイベントであるマラソン試聴会の最終日にノ
ーチラスを登場させる予定だ。ここではクレルとジェフローランドで組合せを行い、私
のフロアーでのノーチラスのデビューを飾る予定である。これまで大変聴き馴染んでき
た両社のアンプを使用して、ノーチラスの再生音にかなりの検分が出来るはずである。
そして、ご案内の通り来る平成5年11月25日には、クレルに加えてマークレビンソ
ンのフルシステムという世界市場に冠たる実績を有するアメリカを代表するアンプを登
場させる。これで、ほぼ海外でのノーチラスのデモを再現することになるであろう。そ
して、日本市場で大変評価されており、気になるスイスのブランドも登場させる事にし
た。4台のパワーアンプを必要とするノーチラスにとっては、スペースを取らない1ボ
ディー・ステレオアンプとして評価の高いFMアコースティックスは魅力ある組合せの
ひとつである。そして、フロントエンドのラック、インターコネクトケーブルなども自
社製で特定し、自社製品のサウンドに血統的な関連性を見せるゴールドムンドとの相性
も注目されるところだ。パワーアンプはFMアコースティックスとは対象的に、完全な
モノラルアンプで統一したゴールドムンドのフルラインである。これで、今後ノーチラ
スとの相性を語る時に必要となるであろう世界的な高級アンプを2日間に渡って検証す
ることが出来る。敢えて、今回の試聴会のご案内と重複する内容を随筆中に取り上げた
ことには、将来的にも本随筆を多くの皆様に読んで頂き、私が日本国内におけるノーチ
ラスのオーソリティーとして、皆様のご相談に応じられることを表明したという願いが
込められているのである。リスニングルームの空間に音の彫像が浮かび上がり、そっと
ノーチラスが誘惑の言葉を語りかけてくる。そんな時、暗夜紺色(ミッドナイトブルー
)の魅惑的な鸚鵡貝は、必ずや貴方の胸につながる導火線に火をつけてしまう事でしょ
う。
                                    【完】


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