第五話 「円高の時代に思うインポート・オーディオの価格」
輸入商品を取扱う上で、避けて通れない話題の一つとして価格の問題がある。情報社 会の今、数ある輸入商品が生産されている現地でいくらで売られているか、現地の雑誌 などをお読みになってご存じの方も多いと思う。私の知りえる範囲で、例えばアメリカ 製の物だとドルでの現地価格を単純に最近の為替レートで円に直した場合の約1.5倍 から2倍くらいの定価が日本でつけられているのだ。一体これは安いと言えるのか、高 いと考えられるのか?一般的には、輸入販売の慣例として日本での価格決定に現地メー カーは干渉していないのが通例である。流通機構も単純で、弊社は輸入商社と直接取引 をしており、いたってシンプルな構造である。それでは、日本での価格をより下げられ る可能性はどんなところにあるのだろうか。私は輸入のプロではないので、実現するか どうかは別として考えてみた。 ( 1)日本への保険を含む輸送経費を、一部でも現地メーカー負担とする。 ( 2)日本語のカタログを現地メーカーが製作する。 ( 3)日本国内での広告宣伝費を一部、もしくは全額をメーカーが負担する。 ( 4)オーディオ評論家に対するプレゼンテーションをメーカー自身が行う。 ( 5)アフターサービスのための保有パーツを委託販売にして、輸入商社に在庫負担 させない。 ( 6)同様に詳細なサービス・マニュアルを製作し、修理技術の修得を日本側商社に 依存しないで研修させるシステムをメーカー側で作る。 ( 7)日本に自費でショールーム(試聴室)を開設し、高度な音質でのデモとセッテ ィングを行い、担当の人材も自費で雇い入れる。 ( 8)当たり前の事だが、日本語の取扱説明書を製作し商品に添付する。 ( 9)輸入された製品に対して、出荷前の検品や調整を行わなくて良いくらいの高い QC(クォリティーコントロール)を実現する。 (10)生産国からの輸出価格を一方的に値上げしない。また、出荷価格の変更は一方 的に行うのではなく、日本側と検討し双方の協議の上で実施する。加えて、コ スト削減など経営努力で価格を維持する努力をする。 (11)日本の出版社に対しての広告原稿を、輸入元と日本の広告代理店を使わず現地 メーカー自身が製作する。 (12)一部の高額製品でセッティングを必要とするものは、日本に出先機関を開設し 自社で対応する。 思いついたものを列挙したが、その道の専門家が考えればまだまだ色々な項目が出て 来るかもしれない。こんな要求を海外のメーカーに突き付けたら、一体どんな事になる だろうか。貿易摩擦、輸入障壁とマスコミが使う単語は色々とあるのだが、日本で輸入 品がもっと売れるようにするためには、外国の企業にもっと考えてもらわないといけな いと思う。言い換えれば、これらの仕事を輸入商社の皆さんがやっているわけだ。日本 で有名なブランドでも、社員数は十数人という海外メーカーが多い。これらの小規模な 会社に、こんな要求をすること自体が虚しくなってしまう。世界経済にとっては、オー ディオというマーケットは何とちっぽけな市場であろうか。スケールメリットが発揮出 来ない市場だけに、私は輸入商社の仕事量と日本でのコストを考え、大勢においての価 格設定で妥当なところではないかという気持ちが強いのである。あまり大きくならずに 小規模であるがゆえに、魅力ある製品が産まれてくる事実も周知の通りである。この問 題の解決策として、私が最後に提案できるものが唯一ある。定価設定は輸入元の判断だ が、販売価格を決めるのは私である。どうぞ私をうまく利用して、仲良くお付き合い願 いたい。私も特別な価格情報を数多く持っているのだが、安いだけではない。どうぞ、 ご安心頂きたい。肝心な商品選択については〈正論へのこだわり〉をもって、これから も皆様のご相談を承って参ります。 【完】 |