発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
No.270 小編『音の細道』特別寄稿 *第23弾* 「Chord Electronics + Nautilus が聴かせる魅惑の世界!!」 |
1.フロントエンドの疑問符 2004.1.21に配信したNo.0833でご紹介したChordのアンプを駆使して いよいよNautilusの新しい可能性を探ろうという試みが開始された。 Chord社長J.Franks氏が来訪されてから急展開し始めた企画だったが、 パワーアンプ8台とプリアンプは2/6に搬入された。 http://www.timelord.co.jp/consumer-audio/audiophile.html このときには、それ以前に使用していたESOTERIC X-01での試聴で 大変素晴らしいパフォーマンスを示していたプリアンプBrumester Pre-Amp 808 MK5をあえて組み合わせたのだが、それが後になって 重要な意味を含むものとなってくるとは誰が想像しただろうか? 同時に持ち込まれたChordのプリアンプのトップモデルCPA4000Eを あえて使用しないで組み上げたのが下記のシステムであった。 -*-*-*-*-今回のリファレンスシステム-*-*-*-*- Timelord Chronos(AC DOMINUS) →dcs 992(AC DOMINUS) → dcs Verdi La Scala(AC DOMINUS) →Ortofon IEEE1394 CABLE→ Elgar plus 1394×2(AC DOMINUS×2)→PAD BALANCE DOMINUS 1.0m → Brumester Pre-Amp 808 MK5(AC DOMINUS)→PAD BALANCE DOMINUS 7.0m→ Nautilus付属Channel Divider(AC DOMINUS & BALANCE DOMINUS 1m×4)→ Chord SPM1400E×8(AC DOMINUS×8)→B&W Nautilus→ murata ES103B With PAD ALTEUS 6.0m 第一印象としてはいきなり何のストレスも感じさせずに快適に鳴り 始めたのだが、その翌日から二つのイベントで早速主役を務めること になった。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/264.html http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/265.html -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さて、上記のイベントの準備のためにセッティングしている中で突然 タイムロードの担当者からアドバイスが飛び出した。Verdi La Scalaから 出力するIEEE1394のケーブルを同時に二系統出力し、それを何と2台 のElgar Plus 1394で受けるというSACD モノDACシステムが組める というのだ。 早速その接続を済ませて音を出し始めたのだが…!? 私は以前にもdcs 974からSPDIF-2の左右の信号を同様に二台のElgar Plus 1394に接続してモノラルでのDSD伝送を試したことがあり、この 時の変貌振りには興奮させられたことを鮮明に記憶していた。 今回は二本のIEEE1394によって入力を与えられたElgar Plus 1394は ステレオ動作を行っており、各々の右chだけ左chだけをプリアンプ に接続するという方式であった。つまり片チャンネルは遊ばせておく という贅沢な使い方ということになる。私はこの検証に三日間ほど かかってしまった。 手始めに前回も使用した押尾コータロー『STARTING POINT』をかけて みたのだが…!? http://www.toshiba-emi.co.jp/oshio/ 確かに押尾のギターは肉厚感を増長し、エネルギッシュな表現には なるのだが…? 次に「Muse」から1.ハバネラを使って… http://www.universal-music.co.jp/classics/healing_menu.html ヴォーカルも若干音像が大きくなるように思われ、雄大な表現に なったと言われればそうかもしれないのだが…!? これらの比較はステレオ動作している二台のElgar Plus 1394から 別々に左右チャンネルを取り出したり、一台から両チャンネルを 取り出したりという単純な比較試聴を行っていたものなのだが…。 どうも納得がいかない!! 三日間は時間を見つけては単純な比較試聴 を何度も何度も繰り返すのだが、dcs 974からSPDIF-2の左右の信号を デジタルDOMINUSを使って二台のElgar Plusを鳴らしたときのような ダイナミックさと緻密さが同居する音質にはならないのである。 「う〜ん、困ったな〜」 そして、昨日私はこれまでのスタジオ録音から一転してオーケストラ をかけてみることにした。ご存知、サンクトペテルブルク・キーロフ 管弦楽団・合唱団による「くるみ割り人形」で同じ比較をしてみた。 http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/valery_gergiev.htm 最初にTwin Elgarで、次に一台で…。「お〜、これだ!! 」 もつれた糸がほぐれてくるように数々の推測と今までの実験が一致して くるではないか!! Verdi La Scalaからの出力を二本のIEEE1394ケーブルでTwin Elgarと した場合には、一台でのElgar Plus 1394と比較して次のような印象を 私は感じていた。 ・音像はちょっと大きくなる。 ・各楽音の肉厚感が増加する。 ・全体の音場感としてのスケールもちょっぴり増加する。 ・エネルギッシュというか迫力とも言えるような濃厚さがある。 これらが個々の楽音が各チャンネルで鮮明に録音されているスタジオ録音で 感じられたTwin Elgarでの演出的な要素であり、特にデメリットとしては 感じられなかったのだが…。 オーケストラを聴いてみると…。 ・弦楽器群の演奏では透明度が低下する。 ・管楽器のフォーカスがにじむ。 ・フォルテの打楽器などが若干音像が膨らむ。 ・全体的に解像度が低下する印象。 ということで、例えば二枚の絵葉書があったとしよう。その絵葉書は 全く同じ写真なのだがセルロイドのような半透明なシートで、二枚を 重ねると裏側が透けて見えるようなものだとする。 一台のElgar Plus 1394では、この絵葉書は一枚だけなので当然写真 の画質もフォーカスがびしっと合っていて解像度も素晴らしいものだ。 Twin Elgarでは、この二枚の絵葉書を重ねるのだが、2、3ミリ程度ずれ てしまっているようなのである。こんな例えでお解り頂けるだろうか。 一枚の画像では大変完成度が高いのに、二枚を重ねたときに微妙に ずれているものだから、そこに写っている風景でも人物でもテレビの ゴーストのように輪郭が微妙に二重になってしまっているのである。 それが個々の楽器をシャープに収録しているスタジオ録音では、まあ 演出の一部として良い意味での肉厚感をかもし出すのだが、大編成の オーケストラでは輪郭のダブりは他の楽器群に影響を与え、余韻感に 求められる透明感というか空間の清涼感を濁しているのである。 「そうだったのか〜!! 納得したぞ。いや〜、これほど時間がかかって しまうとは思ってもいなかった。」 私はこれまでにもP-0sから出力したデジタル信号をdcsのD/Dコンバー ターでDSD変換してElgar Plus 1394に接続したものと、他社の一般的 なPCMのD/Aコンバーターに接続したものを二つのシステムで同時に 鳴らしたことがある。 そうするとDSD変換してからアナログ信号にしたものの方が他社の PCMのDACによる再生音よりも0.何秒が遅れて音が出ることに気付いた ことがあるのだが、やはりIEEE1394を使って送り出す前に暗号化し、 受信した方でもそれを解読するには時間がかかるようである。 だから他のDACと比べるとディレーをかけたように一拍遅れた音が 出るのだろう。ということは、IEEE1394伝送に関しては二台のDACを 使用する場合には、よほど精密に調整しないと微妙に位相がずれる のではないかと推測されるのである。 上記の絵葉書の例えでイメージをつかんで頂ければ幸いである。 そして、二台のDCAであっても暗号化処理しないdcs 974からSPDIF-2 の左右の信号を同様に二台のElgar Plus 1394に送り込んだ時は 本当に素晴らしかった!! これは特選の音質であると自信をもって 推薦できるものだ。Elgar Plus 1394を二台にするのであれば私は ぜひこちらを推奨したい!! 2.システムとしての調和と情報量 さて、かなりの時間をこれらのフロントエンドの検証で使ってしま ったが、ここで大変重要なことが既に既成事実として私に提示され ていたことに気が付いた。 そうです!! 半透明の全く同じ写真を重ねて透かして見たときに、 もしも数ミリでもずれていたらどう見えるか? これを見事に提示 してくれるというChord Electronicsの解像度の素晴らしさである。 さあ、ここで私は今までの実験やイベントで使い慣れたプリアンプ としてBrumester 808 MK5を使用してきたのだが、前述のように 楽音の輪郭表現に関する疑問点については素晴らしい反応をして くれたのだが、輪郭の中身の質感ということについてはどうなのだ ろうか? という思いと、せっかく持ち込まれたChordのCPA4000Eを 使わない手はないだろうと、昨日の閉店前に二台のElgarの使い方 を見切ったときに初めてつないでみたのである。そうしたら…!? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- もう二年ほど前になるだろうか? ChordのSPM 6000が持ち込まれた 時に、当時ここにあったJEFFROWLAND Cherence2 や MarkLevinsonの No.32Lなどの他社のプリアンプで試聴した時のことだった。 Cherence2ではテンションが張り詰めてフォーカスも鋭角的な像を 結ぶようであり、引き締まった低域には爽快な反発力があった。 しかし、弦楽器の音階が高いパートでフォルテになると、どうしても 眩しさが感じられてしまうのである。 それに対してNo.32Lは穏やかなタッチで弦楽器も適度にほぐされて 聴きやすくなるのだが、逆に中・低域でのリズム楽器はテンションが 甘くなってしまってスタジオ録音の醍醐味が半減してしまうような 印象があったのだ。 つまりプリアンプの個性に染まりやすいタイプがChordと言えるの かもしれない。これは無個性ということではない。ニュートラルで あるからこそ、若干の色彩感の変化があっても聴く人にわからせて しまうという素性の良さがあるものだ。 中にはどんなプリアンプを組み合わせてもパワーアンプの個性が 最後まで聴こえてくるアンプもあるので(^^ゞ 「これじゃ、パワーアンプを通じて他者の個性を聴いているような ものだよ。Chordとは何か? これを聴くにはプリがなきゃだめ〜」 ということで、追加でCPA4000Eを持ち込んでもらったのだが…!? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- Chordは非常に合理的なモノ作りをするメーカーである。同じデザ インのサイズのパネルを各モデルに使用して統一感をかもし出し、 同時にコスト低減も図っている。プリアンプの操作感としてはど ちらかというとデリケートなフィーリングと言うよりも、ざっくり とした感触がスイッチやノブに触れてみると感じられるものだ。 そして、SPM 6000をCPA4000Eで鳴らし始めた瞬間に私は内心で喝采 したものだ。 「これだ!! これですよ、これ!! 」 高域のぎらつきはなくなり爽快な透明感で弦楽の演奏がきれいな余韻 をほとばしり始める。そして低域は見事にダイエットして重量感と テンションの高まりを両立させる。 あ〜、こんなことだからアンプの組み合わせというのは作者の感性を 読み取るのに間違いを犯しやすいのだ。 違ったメーカー、作者のプリとパワーアンプというのは、言わば完成 されたジグソーパズルのようなものだ。左右半分ずつをプリとパワー アンプが受け持っていて、それで初めて一枚の絵として完成するので ある。 仮に完成しているジグソーパズルの幾何学的なカットにそって慎重に 真ん中から分けたとしよう。その分かれ目は決して直線ではなく、 ご想像頂ける様にジグソーパズルのあの不可思議な形状での断面で 左右に切り分けたとイメージして頂ければと思う。 左右のどちらの画像を見ても解像度も色彩感も素晴らしく、個々には 完成されている絵がそこにあるのだが、どちらの画像とも別々のメー カーのものを真ん中で合わせようとしても違うメーカーのプリとパワー では決して完璧には一致しないのである。 それが、あの時には千載一遇の出会いとでも言うように、Chord同志の ペアで鳴らし始めたときには、それ以前に聴いていたSPM 6000の評価が 一変してしまったのである。言い換えれば、他社のプリで鳴らしていた SPM 6000の音質は価格的に見ても外観の豪華さからしても全くそぐわな いものであり、そこで分析するのを止めていたら私はChordの製品を ここに置くことはなくなっていたであろうということだ。 誤解されては困るのだがBrumester 808 MK5が単体として優れていない ということでは決してない。Nautilusはパワーアンプの前にチャンネル ディバイダーを配置して使用するものだが、それを中間にはさんだと しても、Chordの設計者の感性は確実に聴く人を説得するということだ。 -*-*-*-*-次のリファレンスシステム-*-*-*-*- Timelord Chronos(AC DOMINUS) →dcs 992(AC DOMINUS) → dcs Verdi La Scala(AC DOMINUS) →Ortofon IEEE1394 CABLE→ Elgar plus 1394(AC DOMINUS)→PAD BALANCE DOMINUS 1.0m → Chord CPA4000E(AC DOMINUS)→PAD BALANCE DOMINUS 7.0m→ Nautilus付属Channel Divider(AC DOMINUS & BALANCE DOMINUS 1m×4)→ Chord SPM1400E×8(AC DOMINUS×8)→B&W Nautilus→ murata ES103B With PAD ALTEUS 6.0m *Elgar plus 1394は一台にしている。 昨日までのシステムを改めて上記の組み合わせで今日から再度の試聴 を開始したのだが、前述のようにCPA4000Eは価格的にはBrumesterの 半分以下なのであるが、SPM1400E×8台というエネルギー感を考えれば、 本命の駿馬にG1の歴戦連勝の騎手が乗ったような見事な手綱さばきが Nautilusを蘇らせたようである。 その手綱さばきを本格的に聴こうと、思い立った選曲がこれだ。既に 発売されてから久しいディスクだがDSDレコーディングという本格的な 追求がなされているものだ。 諏訪内晶子 シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47から 私が選んだトラックは第3楽章:Allegro, ma non tantoである。 http://www.universal-music.co.jp/classics/artist/suwanai/disco_as.htm 冒頭から勇壮な低弦の響きに乗って登場する諏訪内のヴァイオリンは オーケストラを全て背後にうずめてしまうほどの音像の大きさではなく、 若々しいテンポで繰り返されるアルコが実に大胆でありチャーミングだ。 やがて管楽器が右奥からステージ全体に壮麗なエコー感を投げかけ、 ストロボが焚かれて一瞬ホールの隅々まで光が届くように残響の嵐が Nautilusの周辺を取り囲む。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto39.html 私は上記の随筆でもNautilusを鳴らすという目的で集結させた各社の アンプを春夏秋冬の四季になぞらえたり、スープのコクに例えたりと イメージを伝えようと努力していた。Nautilusというスピーカーが その存在感を抹消し、ひたすら空間に描く音楽描写と演奏者の彫刻の ような立体像をホログラフとして描く魅力を縷々述べてきたものだった。 そして、CPA4000EとSPM1400EがVerdi La ScalaとElgar plus 1394 と共演することによって私は新たなNautilusの可能性を垣間見た ような気がする。 諏訪内のヴァイオリンをこれほど見事に定位感として中空に捕らえ、 音源のポジションとして明確な位置を特定しながら、オーケストラの 迫力に臆することなく自分のフォルテをステージの上空に飛散させ ていく過程の余韻が何と素晴らしいことか。 Chordはdcsが送り込んできた情報量を、クールな低域の解像度と ホットなミッド・ハイの濃厚でありシャープなフォーカス感をも 描くという実に多彩であり忠実度の高い再生音の展開を聴かせる のである。このような表現を借りると随筆で今まで述べてきた 各社のアンプの“いいとこ取り”のようなご都合主義のように 受け取られてしまうだろうが、輪郭の再現性を鮮明にしつつ その中身の楽音に温度感を与えるという特質が長らくNautilusを 追求している私には絶妙のマッチングとして認識されたものだ。 一般的なスピーカーのようにネットワークという回路と素子を経由 してスピーカーユニットとパワーアンプが結ばれるということでは なく、パワーアンプの出力端子の向こうに直接ユニットがあるだけ というNautilusはエレクトロニクスの価値観をあからさまに伝えて くれる。この敏感なスピーカーは正にアンプの鏡と言えるだろう。 3.中立性と潜在能力 Chordの特徴が自己主張というよりも他者の魅力を引き出してくれる という能力に長けているのでは、という想像がオーケストラとソロ という対比において存分に感じ取れたという実感が持たれた今、私は Chordがコントロールするシステムの上流に変化を与えた時にどの ような反応を示すのだろうかという好奇心が背中をよじ登ってくる のを抑えることが出来なかった。 それでは、ということで更なる実験を思いついた。それは電源ケーブル が奇跡を起こすというオーバーな表現で推薦したいMoebiusの投入である。 「だめなアンプを引き立てるケーブルはありません。だめなスピーカー を蘇らせるケーブルもありません。ケーブルはコンポーネントが持っ ている能力をただ引き出すだけです!!」 これは私が何度となくお客様に考え方としてお話ししてきた解釈だが、 Moebiusはオーディオ信号が直接通らない電源という位置にありながら コンポーネントの潜在能力を使い手の想像以上に引き出してくれる。 さて、私はそのMoebiusを迷わずに投入したのがシステムの最も上流に あるVerdi La Scalaであった。先ほどの演奏はAC DOMINUSでのものだが、 それとて高価なケーブルである。再度聴きなおしてDOMINUSによるVerdi La Scalaの情景描写を記憶に刻み込んだ。 そして、いそいそと電源ケーブルをMoebiusに差し替えて席に戻り、 再度第3楽章をスタートさせた…!?? 「おー!! こんなにも!! 」 冒頭のコントラバスの重厚なリズムが右側から弾き出されるのは承知 の上だが、Moebiusで聴き始めた瞬間からそのバスのエコーが左側の Nautilusからも湧き上がってくるのが直ちに感じられる。 そして、センターよりやや左側に定位する諏訪内のソロが、逆に右側 のNautilusの周辺にまで自分のエコーを運んでいくではないか。 やがて木管群と混じってオーケストラのヴァイオリンとスネアドラム が右奥から展開するが、映画館の後席から最前列に移動したように 目の前の音場感がスクリーンに対する視野の拡大のように広がる。 一体この違いはなんなんだ!! やがて右後方からホーンセクションがロングトーンを続ける最中に 1stヴァイオリンが主題を繰り返し、再度諏訪内が登場する。その時 にはっとして気が付いた展開があった。センターより左側に位置する 諏訪内に対して、右チャンネルのNautilusにはまるで鏡があるかの ように諏訪内の激しい動きと躍動感をそっくり姿見として私に見せて くれるのである。それほど楽音の消滅までの時間が延長される。 このシステムの最も上流で起こった変化をChordは正確にNautilusに 送り込んでいるという何者にも変えがたい実証であろう。 「こりゃあ〜、ブラボーだ!! 」 試聴室とデスクを何往復もしながら原稿を書いている私が、たった今 第3楽章を聴き終えて口にした一言である。 DSD録音のSACDレイヤーに封じ込められた情報量の多さに舌を巻き、 dcs+Chordが築いた土台にNautilusが踊り、それにスポットライト を当てるMoebiusという絶妙な演奏がまだ耳に残っている。 「あ〜、これを聴かせたいなー!!」 SACDの最上の録音をdcsがどのように料理したかはわかった。それこそ Verdi La ScalaとElgar plus 1394の本領発揮というものだろう。 しかし…、待てよ!? Verdi La Scalaは通常のCDでもDSDにアップコンバートしてくれると いうのが前作からの最も大きな進化なのだから、CDではどうなのか? 私の好きな美人ヴァイオリニストとしてもう一人注目しているのが この人だった。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 川井 郁子 / INSTINCT より冒頭のタイトル曲を聴くことにする。 http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A014783/VICC-60297.html まずはVerdi La Scalaの電源ケーブルをDOMINUSに戻して。 私が始めてこの曲を聴いた時の第一印象は「お〜、セクシー」(^^ゞ というイメージだったのを思い出した。川井 郁子の不協和音たっぷり の切り返しの激しい演奏が脈動感を伴ってNautilusのセンターに浮かび、 リヴァーブをたっぷりと含んだリズムセクションが背後に控え、妖艶な リズムを繰り返すベースが独特の雰囲気をかもし出してくる。突然燃え 上がるかのように川井のヴァイオリンがちょっぴり淫らなアルコを弾き 始めるとバックのドラムとギターも同じように盛り上がってくる。 以前にも同じ曲をNautilusで聴いたが、これほど各パートの間に向こう が透けて見えるような分離感があっただろうか。パワーアンプのドライ ブ能力というものは大音量で示されるものではない。歪感の少なさと、 今私が体験したような音像の輪郭をきっちりと維持することにあるのだ。 さて、DOMINUSによるVerdi La Scalaの演奏を二回聴き、デスクに 戻ってインプレッションを書き残した。さて、再度試聴に入ってから 何が起こるのか? 念のためにVerdi La ScalaをDOMINUSのままで三回目の音を聴き、 Moebiusに差し替えてから再度システムが起動するのを待つ。そして カチッという音がしてElgar plusがLa Scalaを認識したら準備完了。 さて、おもむろにリモコンでスタートさせると…!? 「お〜、のっけからこんなに違うのか!!」 この曲の冒頭はヴァイオリンがゆったりとした導入部をNautilusの センターから両翼に向けてなだらかに広げていくのだが、先ほどに 比べて楽器の存在するポイントとハーモニーが溶け込んでいく空間と の対比が明確に分かれていて、エコーと音源のセパレーションが 断然違うのである。 そして川井のソロが始まったときに愕然とする。川井のヴァイオリン の音像が先ほどよりもきゅっと小さくなっているではないか!! 更に、川井のソロは刺激感も受け取れる不協和音の一歩手前で激しく 切り替えしていて、先ほどは耳に刺さるような瞬間がわずかでは あるが残されていた。それが不思議なことに全く同じボリューム なのにすーっと抜けていくのである。 また左右のNautilusの位置するところにパーカッションが展開する のだが、何とその定位感はNautilusの外側に向かう後方にまで広がり、 録音スタジオの壁を取り払ってしまったかのようにエアボリュームが 拡大されている。 特に後方に定位するリズム楽器の余韻感が滞空時間を延ばして空間 に飛散していくので、川井を取り囲むバックの各パートが距離感を 出しながら鮮明さを増すという相反する効果を生み出している。 試聴室での記憶が手の中からこぼれてなくなってしまわないように、 演奏の途中でポーズをかけてデスクとを往復すること数回。やはり MoebiusがLa Scalaに与えた変化は想像以上であり、それを確実に 受け止めてアナログに変換していくElgar plus 1394の奥の深さを 知り、そしてアナログ信号となってスピーカーまでかけていく過程で ホットな高域とクールな低域をもってNautilusをコントロールする Chordのエレクトロニクスはニュートラリティーの典型であろう。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 私は今夜ほど、今ここで体験した演奏を皆様に聴いて頂きたいと痛切 に思ったことはない。システムの最上流で起こった変化をNautilus まで運んでいく“音楽を伝える血管”としてのChordがいかに素晴ら しい能力を持っているか、その片鱗を未来永劫に私の記憶として留め ておくことだろう。 コンポーネントの個性を言葉で語るのは困難である。 それは、良質なコーディネイトとセッティングという前提で オーディオシステムそのものが奏でる演奏を聴くことによって 言葉が不要であることが証明されるからである!! |
このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。 | |
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