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H.A.L.担当 川又利明
    
2024年3月8日 No.1757
 H.A.L.'s One point impression!! - ESOTERIC Grandioso P1XSE & D1XSE

ESOTERIC Grandioso P1XSE & D1XSE国内最速展示導入完了
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1747.html

上記のように国内最速にてGrandioso SEタイプの新製品を展示導入しながら、
今までだったらESOTERICの新製品に関する試聴記事を真っ先に発表してきた私が
なぜ今まで沈黙していたのか?

2019年製の展示品、旧型P1X+D1Xは相当な時間使い込んできた物であるのは事実です。

閉店後も徹夜でリピートさせたりして2万数千時間以上使い込んできたものであり、
そのエージングの効果は日本一ではないかと思うほど実に滑らかで繊細であり、
私の求める音像と音場感の両立を現実のものにしてきたと思っています。

それに対して工場出荷されたばかりのGrandioso P1XSE & D1XSEがたちどころに
世代交代を宣告するような快音を奏でたのかというと、そうではありませんでした。

VUK-P1X SE / VUK-D1X SE / VUK-K1X SE
https://www.esoteric.jp/jp/category/vuk

その点、多数のご注文を頂戴してきた上記のバージョンアップサービスを受けられた方々は、
ある意味幸運だったのではないかと思います。

オーナーの皆様が長年愛用されてこられたGrandiosoシリーズがSE化の進化を遂げて、
お手元に戻ってきてからの高評価はユーザーの実感として素晴らしくなったという
報告を多数頂いており、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

さて、ここでSEモデルの試聴評価になぜ今回は時間がかかってしまったのかを最初に
述べておかなくてはと考えました。導入当初からいくつかの躓きがあったのです。

先ず、その第一が上記の圧倒的なエージングの差であるという事を最初に述べて
おこうと思います。

逆に考えれば今まで三か月間、SEモデルを従前のように毎日使い続けてきた成果と
いうものが音質的熟成として実感出来るようになったことで、ESOTERIC開発者でも
体験していないだろうハイレベルなシステム構成と環境にてSEモデルの真価を確認
出来たと今になれば嬉しく思っているものです。

次に…、上記の国内最速展示導入完了の記事で次の一節と写真がありましたが…

■11月22日(水)より展示・試聴を国内最速にて実施致します。
 セットアップ完了! 新製品が出るとESOTERICだらけという状況となりました!
 https://www.dynamicaudio.jp/s/20231121174553.jpg

このリンクで見られる展示状況で左側が新製品のSEモデルで右側が旧型P1X+D1Xです。
SEモデルにてマスタークロックジェネレーターGrandioso G1Xが使用されていますが、
旧製品の方には最初はGrandioso G1Xはありませんでした。

「Master Sound Discrete Clock for Digital Player」搭載というのがSEモデルの
最大の特徴であったわけで、この内蔵クロックが進化したというのなら、Grandioso
G1Xを使用せずに新旧比較すれば良いのではないかと数日間取り組みました。

そもそもマスタークロックジェネレーターという高精度な外部クロックの恩恵を
受けずともGrandiosoシリーズは優秀なプレーヤーであることは事実なのですが、
その真骨頂を引き出そうとすれば、やはり私にとってGrandioso G1Xはマストであり、
長年Grandioso G1Xを標準として使用してきた私はCLOCK SYNCなしで試聴していると
我慢ならないもどかしさを拭い去ることが出来ないという結論に至り、それで最初の
数日間を無駄にしてしまいました。そこでGrandioso G1Xをもう一台用意したのです。

さあ、電源関係とケーブルなどオプションを除けば、これで両者ともに互角の
セッティングとなっただろうと思いきや、第三の躓きがありました。

H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-BNC
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1624.html

上記には次の一節がありました。

ESOTERIC Grandioso D1XからC1XまではES-LINK Analogに設定し、最初に今まで
当フロアーで使用してきたBNCケーブルで聴きましたが、これは最新型ではなく
ESOTERIC 7N-DA6100III BNC 1.0mで一世代前の製品であることを注記しておきます。
https://www.esoteric.jp/jp/product/7n-da6100iii_mexcel/top

二台のGrandioso G1Xを用意したのですが、旧型P1X+D1Xには上記の7N-DA6100III BNCを
使用し、SEモデルにはTa.Qu.To-BNCを使用して比較試聴を始めたのです。

これは何と言ってもプリアンプの入力を切り替えるだけで新旧比較ができるので、
最初は何も疑わずに効率的に切り替えが出来るからという理由だけで選択しました。

しかし、それが私のこだわりにとっては思わぬ誤認をもたらすことになったのです。

先ずは圧倒的なエージングの格差、次に内蔵クロックの改善なのであれば外部クロックなし
でも違いは分かるだろうという思い込み、そして更にBNCケーブルの重要性ということです。

上記のESOTERIC製BNCケーブルと当フロアーリファレンスのBNCケーブルとで新旧比較すると、
どうしても納得出来ない音質的特徴が耳に焼き付いてしまったのです。これはどうしたものか?

そこで、両者で使用したBNCケーブルを入れ替えてみると…、あろうことか私が
察知した新旧製品の特徴・性格というものが入れ替わってしまったのです。

SEモデルの音を聴いていたのではなく、BNCケーブルの音を聴いていた!
これでまた数日間を無駄にしてしまいました。

結論としては手間を省くためにプリアンプの入力を切り替えればいいという方法ではなく、
新旧比較する際には三本のTa.Qu.To-BNCをいちいち差し替えて聴かなければならない
という認識に至り、一曲ごとにGrandioso G1XからのBNCケーブルを両者に配線し直す
という徹底した同条件での比較試聴をすることにしたのです。それが下記システムです。

H.A.L.'s Sound Recipe / ESOTERIC Grandioso P1XSE & D1XSE - inspection
system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20240217153739.pdf

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、唐突ではありますが下記の一節をご覧頂ければと思います。

1位	6m23	アルマンド・デュプランティス
2位	6m14	セルゲイ・ブブカ
3位	6m07	KC・ライトフット
4位	6m06	サム・ケンドリクス

ブブカの名前でピンときた方もいらっしゃると思いますが、陸上競技の男子棒高跳びの
歴代世界記録の推移というものです。ただし、時系列は省かれ特定の選手が記録した
最高値というだけのデータなのですが、私は今回の試聴を進めていく中で思いついた
説明方法のいったんとして引用したというものです。

ネット検索すれば膨大な資料が見つかりますが、この男子棒高跳びの一番古い記録は
1912年アメリカ人のマーカス・ライトによる4.02mとありました。

初めて5メートルを超えたのが1963年、記録更新は数センチから1センチという単位で
長年に渡り少しずつ伸びていき、当時はソビエト連邦所属(後にウクライナ所属)と
なっていたセルゲイ・ブブカが初めて6メートルの壁を超えたのが1985年の事でした。

この競技では何と73年の歳月をかけて2メートルの記録更新となり、その時代によって
高きハードル(バー)を飛び越えてきたという歴史があったわけです。

そして、現在の記録では2023年9月17日に記録されたアルマンド・デュプランティスの
6.23mが世界記録となっているものですが、そこに至る過程では当人の記録更新は
1センチ刻みで伸ばしてきたという、本当に寸刻みの伸長であったわけです。

経営母体の遍歴はありましたがESOTERICというブランドがスタートしたのは1987年。

その当時はセルゲイ・ブブカの6.03mが最高記録で、この世界記録は更に現在まで
37年という歳月をかけて20センチ伸びてきた事になります。

この競技に関して日本企業の面白いサイトがありましたので下記に紹介します。
https://www.tdk.com/ja/tech-mag/athletic/004

その昔は竹のポールを使っての競技だったものが、1960年代ポールにグラスファイバーや
カーボンファイバーが採用されてから棒高跳びの記録は飛躍的に伸びてきたという。

競技するのは肉体であっても道具が変われば更なる高みに伸びていけるという可能性。
ただし、記録の伸び方は本当に1センチ刻みの細かさという事実。私は考えました…

この競技の記録は年代と共に比例関係にあるわけでもなく、競技者個人の力量に
よって記録更新の伸び方も異なり、ただし道具の進化によって競技そのものの
レベルアップが大きく変化して来たということ。

オーディオの世界に置き換えてみれば1982年のCDプレーヤー発売によって、
一般ユーザーがデジタル再生の手段を手にしたことが、まぎれもなく道具の進化に
よって得られたオーディオ界の大きな進歩であり飛躍であったと思うのです。

それから42年という歳月を経て世界中のメーカーと開発者がデジタルオーディオの
進化を押し進めてきたわけですが、デジタルの世界は日進月歩と言われつつも
様々な視点による開発対象の技術によって得られた音質変化を考えてみると、
前述の棒高跳びのように1センチの伸びなのか5センチ・10センチという伸び幅なのか、
長年の経験から思い返される新製品の音質評価に関して多様性を感じるものです。

何を言いたいのかと言いますと、簡単に言えば前作Grandioso P1X+D1Xという存在
そのものが世界最高クラスのレベルであり、更に当フロアーの環境とセットアップと
いう私のこだわりとプライドをかけて実演している音質レベルを前提にすると、
前述の棒高跳びの記録更新のように、はるか6メートルの高みにあるバーを
見上げるがごとくの大変高度かつ微妙な比較試聴となったという事なのです。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

試聴記事ならとっとと音質に関する説明を書け、というお叱りを覚悟しつつ私は
もう一つデジタルオーディオに関するこだわりを述べておきたいと思いました。

何が私のこだわりなのかというと、デジタル再生のソースとしてCDディスクなのか
データファイルなのかという選択に関して、依然として私はディスクをリファレンスに
しているという現状に関する考え方です。

当フロアーでは歴代のESOTERICのディスクトランスポートとD/Aコンバーターを
リファレンスにしています。これは元よりアンプやスピーカー、更にケーブルや
電源関係の製品を見極めるのに最高の音源は何かという価値観からの選択です。

言い換えれば、CD再生システムの音質は製品としてパッケージ化された完成度があり、
電源やケーブルなど付随するアイテムの選択によって音質変化はあれど、基本的には
私が認定した音質を特定・固定させた商品として販売することが出来る事を意味しています。

確かにハイレゾという言葉が市民権を得て久しくなりますが、ネットワークオーディオ、
コンピューターオーディオ、ファイルやストリーミング再生と言われる分野では同様に
電源やケーブルによる音質変化はあるものの、その本質を追求していく仮定では
サンプリングレート、レゾリューション・ビット数、ファイル形式、リッピング機能
におけるアルゴリズム、伝送方式やWifi環境の影響などなど現在では解明できていない
要素と多様性が多数あり、いまだパッケージ化された完成度という見方では未開拓
分野ではないかという私見として一抹の不安があります。

オーディオシステムの最上流に位置するソースコンポーネントの真価によって、
続くアンプやスピーカーの音質も影響を受けることは当然の事であり、前述の
ようにBNCケーブルだけでも私にとっては相当な違いとして認識できるもので、
万全の納得感を得ていないデータ再生というソースにてアンプやスピーカーの
音質評価をしたくないという事、しいては試聴して頂くお客様にも自分で納得して
いるソースコンポーネントにて音質を見極めて欲しいと考えているものです。

よって、今回のSEモデルの登場は今後数年間は当フロアーの基準たる音質を確固たる
ものにしてくれなければ困ってしまうものであり、外観は全く変わらないが開発者の
こだわりとして内蔵クロックと一部のアナログ回路やメカニカルな部分でのマイナー
チェンジが今後のリファレンスとして最高レベルを更新したという実感を得るまで
私は納得しなかったのです。

そうです、前述の棒高跳びの記録更新に例えてバーを1センチ刻みで臨むのか、
いや…、それでは物足りない。私としては前述の次の一節にこだわったのです。

「ESOTERICというブランドがスタートしたのは1987年。その当時はセルゲイ・ブブカの
 6.03mが最高記録で、現在まで37年という歳月をかけて20センチ伸びてきた」

SEモデルの評価とは前作から1センチの記録更新では納得出来ない。それならばと
頭上6メートルにあるバーを私は一気に10センチ上げて試聴に臨んだのです!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私は今までにも仕事オンとオフでは聴く音楽が全く違うと述べてきましたが、
今回の試聴は正に最高の仕事モードで取り組みました。

同じ曲を比較しつつ試聴する事10回以上、知らぬ人が後ろで聴いていたら
「この人なにやってんだろうか?」と思うことでしょう。
でも、これが私のこだわりであり仕事なのです。

H.A.L.'s One point impression - ESOTERIC Grandioso M1X
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1704.html
その表現方法として、この記事の一節を下記に抜粋引用しておきます。

この後に述べる課題曲の比較試聴において、以前から音質表現に使用してきた
「音の等高線理論」という表現方法を最初に説明しておきたいと思います。

小学生で習う地図の等高線です。簡単に言えばリスナーが前方にある左右二台の
スピーカーを見た際に、そこに等高線が描かれた地図を上から眺め見下ろしている
という状態をイメージして頂きたいものです。

スピーカーの前に地図をスクリーンのように垂らしているという構図になり、
音像の在り方を等高線の間隔・密度という解釈でサイズ感を例えており、標高が
高くなるにつれて平地の緑から茶色へ、更に山の頂上では赤茶色に色分けされて
いくという色彩感の変化で音圧の分布と音色の濃淡を例えようとしたものです。

等高線の間隔は斜面の角度を表していますが、富士山の稜線のようになだらかに
間隔のあいた等高線が左右スピーカーの間に広がったとすると、音像そのものも
正面から見るとゆったりとした存在感であり響きが拡散していく領域が広いという例え。

逆に等高線の間隔がぐっと縮まり密になり、楽音の核というか中心点に対して音圧が
密集しアルプスの稜線のような急斜面として楽音の投影面積が縮小されていくという
例えで凝縮した音像があり、俯瞰的に見た地図を思い浮かべて頂ければと思います。

そして、この三か月間SEモデルにて行った新旧比較で試聴した曲は多岐に渡り実に
多くの課題曲を聴き続けてきたわけですが、それら一曲ごとの印象を述べるには
相当な文章量になってしまうものと考え、多数の選曲において最大公約数的な説明が
出来る曲は何かを考えた結果、それらを集約出来る代表例として選択した曲がこれです。

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

またかとお思いの方も多いと思いますが、私が追求している音像と音場感の両立と
いう局面で分析するには最適な選曲という思いは変わりません。

また、何回か経験があるのですが、私が試聴で選曲したものがオーディオイベントで
使われた事も多数あり、更に当フロアーに試聴に来られたお客様がCDを持参されて同じ
曲を聴き始めるという事も度々あり、私の選曲が多方面でお役に立っていたようで、
その波及効果による共通素材としての選曲に自信が持てるものと考えました。

さて、前述の「音の等高線理論」によって私はどう分析していったのか、先ずは…


「1.世界の車窓から」

ハープとチェロのデュオ、しかも冒頭8秒間はハープだけのソロという録音です。
ぷ〜んと香るようなハープの爪弾きが立ち昇る眼前の空間を私は凝視していました!

ここで思い返されるのが前述の新旧のエージングにおける圧倒的な違いです。

当初、私が不満に思っていた事のひとつが、SEモデルよりも旧型P1X+D1Xが発する
余韻感の滞空時間が長く、音像の克明さを評価する以前に余韻成分の情報量が
SEモデルでは物足りなかったのです。

しかし、三か月以上のバーンインを経て、SEモデルが放ち始めた芳醇な余韻感が
感じられるようになり、やっと評価の土俵が確立されたという安堵がありました。

左側の高音階から右側に向けて低い音階へとパンポットされた弦が定位し、
センター定位のチェロが中央の空間に浮かび上がるという構成。もうここから違う!

急峻な傾斜を表す緊密な間隔の等高線によってハープの一弦ずつが空中に発光する
かのように、その爪弾きから余韻感までを極めて鮮明な音像表現で配置されていく。

この解像度の素晴らしさに新旧の違いはなく、つまりは何本の等高線がどのような
間隔で描かれ音像を提示しているのかという着目点に関してはほぼ互角なのだが、
しかし何かが違う…、どうしてもSEモデルの音像の方がきりっと引き締まって見えて
しまうというのはどういうことだろうか?でも、そこが美しい、これはいい!

47本の弦が張られ7本のペダルを有するコンサートハープには共鳴胴が存在する。

同じ撥弦楽器であってもギターやマンドリン、琴や三味線というような共鳴胴の
響きが分かりやすいものもあれば、どうしてもハープという楽器のスタイルから
弾かれた弦だけの音、響きではなかろうかとイメージしてしまうものでしょう。

これまで数百回は聴いてきた曲なのに、どうして質感が違って聴こえてしまうのか?
等高線の本数は同じなのか、その間隔も同じなのか、シンプルな楽器であればこそ、
その再生音の違いが何処にあるのかと、のっけから突き付けられた疑問に戸惑う。

その解答が見つからないうちにチェロが登場してきた。これも違う!
ハープ同様な相違点と言えるだろう音像の明確さが先ずは直感される。

弾かれた弦による瞬間的な音源位置を空間にプロットしやすいハープは、楽音の
発祥から消滅までを視覚的にトレースしやすいと言えるかもしれない。

それとは違い弓を使うアルコで奏でられるチェロの連続する楽音は、弓と弦の
振動が共鳴胴の響きを誘発し、演奏の強弱によって残響の拡散領域も異なり、
響きの連鎖によって美しさを提示するものと考えると、弓と弦が擦れ合っている
地点を音像として捉えるには無理があるかもしれない。

弓を使う弦楽器は至近距離で聴けば、あるいは演奏者本人が認知している楽音と
いうものは弓と弦の摩擦感と振動として直接的に耳と肌に伝わってくるものだろうが、
距離感をもって聴くと滑らかなエンベロープとして心地良い響きの艶を感じてしまう
という現象が録音作品にも表れていると考えられます。

その楽器との距離感は録音環境によっても違いがあるもので、ホールエコーを含む
大きな空間での残響を好意的に取り込んだものもあれば、スタジオ録音では振動する
弦のリアルさをオンマイクで捉えようとしたものもあります。

溝口肇のチェロは曲によってチェロとの遠近感が異なるように録音されており、
楽器の数が多くなると遠くなり少なくなると近くに感じる遠近感を巧妙に使い分け、
この曲ではハープの向こう側に距離感を持たせての定位となっています。

この曲ではチェロの単独演奏より音像サイズは小ぶりになっているのですが、
何ともSEモデルでの再生音では演奏者の引き立て方が違う、もっと簡単に言えば
チェロの音像そのものが写真ではなく油彩で描かれた絵画として感じられるのです!

油絵具を筆で塗りつけるだけでなくナイフで盛り付け、たっぷりとした肉厚感のある
絵具が同じ色彩の中にも色の隆起と陰影が感じられるような立体感を醸し出し、
音像そのものが浮き出るような立体感。これか、という手応えを実感する素晴らしさ!

この曲を何百回と聴いてきた私はSEモデルで初めて見た音風景に痺れてしまいました!


「10.Offset Of Love」

たった二つの楽器による再生音の分析は、その後に続く課題曲における評価の方向性を
予感させてくれるものであり、次の曲でも過去の記憶と照らし合わせ旧型P1X+D1Xとの
違いをチェックしていくポイントを適切なガイドラインとして示してくれました。

イントロではセンター左寄りの空間に表れたギターの質感にチェックが入りました。

前曲のハープ同様に一弦ずつのピッキングではエッジが引き立つようになり、同時に
立ち上がりのエネルギー感が増量され、不思議な事にテンションは高まっているのに
弾かれた弦の鋭い瞬発性に刺激成分はなく余韻が引き立つようになっている!

ギターのボディーとサウンドホールはひとつであるにもかかわらず、弾かれた弦の
一本ずつに分離感がありながら、重なり合う響きはきちんと積層化された音階として
聴き分けできる分解能の素晴らしさ!

いやいや、もうこれだけでハープの教訓が発揮された分析が出来たというものですが、
今思い返せば前述の第二の躓きというマスタークロックジェネレーターなしでの試聴で
感じたもどかしさの際立つシーンがこのギターだったかもしれない。そうだったか!

Grandioso G1Xなしでの試聴では6本のギターの弦を見えない紐で縛り、きゅっと
引き締めたかのように1本の弦をひとつの音像と見なすならば、それらの集合体が
ひとくくりの集団として聴こえてしまう傾向があったのを思い出します。

他の選曲でも同様な物足りなさとしても感じたものでしたが、その教訓はSEモデルの
評価に際してはマスタークロックジェネレーター必須という思いを強くしたものです。

内蔵クロックの性能が高くなったのなら外部クロックの必要性は低くなったのか、
あるいは費用対効果を考えればGrandioso G1Xを使わなくとも良くなったのか、
という期待感を持たれた方には申し訳ないのですが、「Master Sound Discrete
Clock for Digital Player」という新機軸の真価を見極めるには、それを支配する
マスタークロックジェネレーターの優秀さを含めての評価であると考えられるのです。

さて、ギターの次には右スピーカーの軸上に定位するコンガの猛烈に切れ味のいい
打音の質感とテンションに惹き付けられました。

音量を上げていくと右スピーカーのミッドレンジが破裂したのではないかと思う程の
切れ味鋭い一撃。ギターの一弦ずつに鮮やかな蛍光塗料を塗ったのではないかという
解像度の劇的変化をもたらしたSEモデルの真骨頂がコンガの打音を輝かせる!

しかも、特筆すべきは強烈なインパクトの後に奥行き方向に尾を引いて消えていく
余韻感の何と素晴らしい事か!オーディオ的快感の打音が脳裏でリピートする!

そして、センター奥に表れたベースの重量感と音像サイズの縮小を察知しつつ、
低域の再現性に関してもSEモデルの進化を直感するが、これは次の選曲で評価
しようと考え、同じくセンター定位のチェロの音像に視点を切り替えていく。

前述のように楽器の数が増えるとチェロとの距離感が遠くなる傾向という前後定位の
見立てが、SEモデルでは更に的確に感じ取れるようになる。これはいい!

遠近感が感じられるという事は言い換えれば音像の輪郭が鮮明になるという事、
不明瞭な音像では前後感が曖昧になり奥行き方向での立体感が希薄になってしまう。

ところが…、前曲よりはチェロが遠くに定位しているという音場の組み立てが
SEモデルでは功を奏しているのか、すこぶるつきのプロポーションでチェロが鳴る!

つかず離れずという遠近感でピアノが短いフレーズを空間に撒き散らし、
センターの深みにオーボエが登場すると、チェロが演奏する数フレーズずつの
同じメロディーを両者が繰り返し進行していく心地良さ。

その全景を背後から包み込むようなストリングスが演奏空間をひとつにまとめ、
チェロが先導する旋律の移行を楽しむように寄り添って繰り返していく安らぎ!

え〜、いいじゃないかSE、と音質評価を置き去りにして耳にタコという選曲を
いつの間にか楽しんでいる自分に気が付く。

何百回聴いた曲に新鮮さを感じるということはどういうことか? SEは何をした!?


「14.帰水空間」

読書を趣味とする私ですが、もっぱら読むのはフィクションばかり。
同じ小説でも風景描写に関する書き方にも作家の個性は当然表れているもの。

私が好きなエンターテイメント性の高い小説では写実的な文章で登場人物が見ている
風景を書いてるものが多いが、それは文章で書かれたものが読者の頭にストレートに
映し出されるという感じでしょう。

しかし、今までに読んだ本の中には登場人物の視点ではなく、風景のワンポイントを
取り上げることで読者の脳裏に情景を想起させ、想像力を刺激する文体を得意とする
作家をたまに見つけることがあります。

私は性懲りもなく同じ課題曲を何度も繰り返し語る時に、その演奏の情景描写に関して
ボキャブラリーの枯渇を自覚するような心境があるのも事実であり、それほど同じ曲を
語ることに関して必要性を疑いたくなる思いもあると素直に白状しなくてはなりません。

そして、前述のように数か月間SEモデルの試聴を繰り返してきた私は、この溝口肇の
アルバムの他にも多数の曲を聴いてきたものですが、それら他の曲を聴こうとする
動機を与えてくれたのが、このアルバムであるという選曲の起点となっていたものです。

その動機の最たるものが、この「14.帰水空間」の随所に散りばめられているのです。

冒頭からの左右、そしてセンターと繰り返される三種類のドラムの音。
このパートだけでSEモデルが実現した未開の境地を思い知ることが出来るのですから!

さて、ここで前述の第三の躓きというBNCケーブルに関するエピソードが思い出されます。
シンプルなドラムの音でありながら、それ故に変化の在り方が誰でも分かってしまうというもの。

これが旧型P1X+D1Xの低域なのかと思って聴いていたドラムの音は、実はESOTERICの
旧製品7N-DA6100III BNCケーブルの音だったのです。これをSEモデルに移したら
ドラムの質感は旧型P1X+D1Xの音に逆戻りしてしまったという事なのです。

上記にてY'Acoustic System Ta.Qu.To-BNC 3本を新旧比較の度に差し替えて同じ
BNCケーブルにて比較しなければならなくなったと述べていました。

このケーブルに関しては少々大げさではありますが「音像を支配するTa.Qu.To-BNCの神業!」
と表現してきたものですが、この言葉の意味は聴いて頂ければ解かる自信があるものです。

そして、このケーブルを旧型P1X+D1XからSEモデルに差し替えて、ドラムを聴くと…!?

「なに!SEモデルにはウーファーのf0(最低共振周波数)を引き下げる力があるのか!?」

左右とセンターの三種類の異なるドラムの音、左では深く沈み込む凄みのある重低音、
右では弾けるテンションが際立つ破裂音、センターではたおやかな連打の小気味よさ。

これらをHIRO Acousticのウーファーは正確無比に再生するのだが、その振動板に
10円硬貨を瞬間接着剤で貼り付けたのではないかと思われるほどの重量感が加わる!

振動系の質量が増加すれば反応が遅くなるのは必至という発想を覆し、
密閉型エンクロージャーのHIRO Acousticは十分な内容積の設計によって振動板に
ダンピング作用は一切もたらせないので高速反応は維持され、低音の音色に濃厚な
色彩感を追加しドラムの輪郭を鮮明にしつつ密度感を高める変化をもたらす。これは凄い!!

そのウーファーに使われている強力なマグネットを取り外しテーブルに置いたとする。
砂鉄を均等にまいたトレーを手に持って、その上にかざし近づけて行ったらどうなるか。

細かい粒子が磁力線によって引き付けられ、マグネットの形に沿って黒々と密集した
濃密な集合体を描く有様をイメージして頂ければSEモデルの低音を説明できるのでは!

同じ量の砂鉄であっても磁力が集約させた真っ黒な塊、その吸引力となる音像の
再現性が一例とするドラムの音で証明される。BNCケーブルを共通化させた上で
シンプルな打楽器の低音で確認された情景の変化は他の楽音にも当然作用していく!

センター定位のチェロに関しては前曲よりは手前の前後感で空間に浮かび、
そこにも作用した砂鉄への磁力線の描画は周囲の空間まで余韻として拡散していき、
次第に薄くなっていく黒い粒子の流れを目視することができるでしょう。

左右に音階ごとに並び展開するマリンバが登場すると、マレットの連打が克明な
残像となって空間に点在し、小指の先ほどの小さなマグネットを並べたように
ピンポイントで磁力に引き込まれた砂鉄が小粒な音像をきっちりと並べていく!

砂の芸術作品「JAPAN」サンドアート
https://www.youtube.com/watch?v=9_KzJybg6BA

そんな情景描写をイメージして頂ければと上記のリンクも参考提示しておきたい。

ドラムとマリンバという打楽器の質感に前例のない貢献をSEモデルが実現しているが、
その後に入ってくるピアノの打鍵の音像と、続く余韻感の素晴らしさを何とか表現
できないものかと引用したのがサンドアートでの砂の振り方と散らし方です!

この未体験の透明感ある空間表現がどうして可能なのか?
それは微小信号の最後の一粒までが再現できるという情報量の素晴らしさと、
楽音の核として最も濃密濃厚な音像を再現するという両者によって成されたもの。

高速な立ち上がりを見せるピアノの一音ずつが、いかにして空間に消えていくか、
その余韻の延長線がサンドアートの手法と磁力線の流れによって描写出来るのでは。

SEモデルの進化とは超強力なマグネットの威力としてイメージして頂ければ良いのでは!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回は絞り込んだ課題曲でSEモデルの印象を語りましたが、実際に試聴した曲数は
もっと多くのものがあり、オーケストラでもヴォーカルでもジャンルを問わず多数の
試聴を繰り返してきたものです。

全ての選曲において上記の印象は最大公約数的に当てはまる進化と言えるものであり、
「音の等高線理論」という表現方法を最後に引用すると次のようになります。

旧型P1X+D1XとSEモデルにおいて等高線の数と間隔は同一であり、音像サイズも
ほぼ同じという解像度である事を繰り返しておきます。

ではなぜ、ハープの再生音を聴いた時に「どうしてもSEモデルの音像の方がきりっと
引き締まって見えてしまうというのはどういうことだろうか?」と思ってしまったのか?
「音の等高線理論」には次の一節がありました。

「標高が高くなるにつれて平地の緑から茶色へ、更に山の頂上では赤茶色に色分け
 されていくという色彩感の変化で音圧の分布と音色の濃淡を例えようとした」

そうです、等高線という線画は同じなのですが、SEモデルでは上記の色彩感が
素晴らしく鮮明に濃厚になっているという事実で説明できることなのです!

音像と音場感の両立として私が確信している下記のSEモデルのテクノロジーは
「音の等高線理論」における色彩濃度が素晴らしく高まったということです!
https://www.esoteric.jp/jp/content/grandioso_se

さあ、そうすると前述の棒高跳びの記録更新に例えれば、SEモデルがクリアーした
バーの高さは何センチなのか!?

「ESOTERICというブランドがスタートしたのは1987年。その当時はセルゲイ・ブブカの
 6.03mが最高記録で、現在まで37年という歳月をかけて20センチ伸びてきた」

私の採点では1センチどころではありませんでした! 10センチはいってます!

なんだ、20センチではないのか〜、はい、ESOTERICにはまだまだ伸びしろがあると
いう事で更に頑張ってほしいと思っていますので(笑)

最後に…、SEとは何の略なのか?
先日、私はESOTERICの新社長に愚かな質問をしたのでした。

オーディオ界ではSEと言えば当たり前のようにSpecial Editionということでしょう。

しかし、私が感じたのは…!?

Suggoku E の一言だったのです!

川又利明
担当:川又利明
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