発行元 株式会社ダイナミックオーディオ
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H.A.L.担当 川又利明
    
2023年9月20日 No.1742
 Hi-End Audio Room Design / Produced by H.A.L.-Vol.7

Hi-End Audio Room Design / Produced by H.A.L.-Vol.7

東京都文京区 N.N様邸

          ■オーディオの履歴書■

2015年12月16日 No.1271
ご記憶下さい!! Hi-End Audio Room Design / Produced by H.A.L.
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1271.html

上記を公開したのが6年前となりますが、このHi-End Audio Room Designには
次の一節がありました。

「そのためには先ず皆様とのカウンセリングからスタートします。」

カウンセリングと言いましても面接試験のように堅苦しいものではなく、お客様が
オーディオと音楽を高レベルの環境で楽しんでいきたいという思いを私が聞き取る
ものであり、お客様の夢の自己表現をして頂く場として気軽に考えて頂ければと思います。

上記のようにオーディオルームに関する構想をどのように実現していくのか、
その好例と言えるストーリーを語るに当たり先ずはユーザーのプロフィールから
ご紹介したいのですが、そのオーディオの履歴書と言えるものが既にあったのです。

No.0026 - 2010/3/26 東京都渋谷区 N.N様-H.A.L.'s 訪問記
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/fan/hf_visi0026.html

早いもので上記の訪問記から13年目となりましたが、N.N様とのお付き合いは更に
歴史がありまして、弊社のマラソン試聴会に最初に参加されたのは1998年の事でした。

最初にN.N様からメールを頂いた当時は練馬区在住であり、15年ほど前に新築された
ご自宅のオーディオルームへお伺いしたのエピソードをつづったものでした。

その間に多数のコンポーネントもアップグレードされてきましたが、訪問記で紹介
しているように当時でも素晴らしい音響空間であったのですが、二年前に頂いた
ご相談から新しい物語りが始まったものでした。


           ■プロジェクトスタート■

■2021年2月

川又様
お世話になりますN.Nです

突然のことですが、家族の都合で引っ越しすることになりました。
既に文京区の西片に土地を購入し現在設計に入ったところです。

前回は思いのままに部屋を作り最初はどうにもならなかった音も調音パネルの
組み換えなどで限界を感じながらも少しずつ改善していったのですが、
今回予算的に可能であれば専門の業者にお願いしてみようかと考えております。

設計から防音施工、調音まで一体いくらかかるかなど全く予備知識がないのですが、
以前メルマガでオーディオルームの設計施工の話を興味深く読ませていただいたので
ご相談させて頂きたく存じます。

メルマガでは日本音響エンジニアリングさんがご担当されていたようですが、
あのお宅のような豪華な部屋にはできないです。念のため…

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■川又より

N.N様
いつもお世話になります。
今回は大変ありがたいお声がけを頂きありがとうございました。
以下の件承知致しました。

確かに上記ページでは日本音響エンジニアリングによる設計施工事例をご紹介しています。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1271.html
なぜ私が同社を推薦しているかという理由も上記のように述べています。

確かに現実的な問題としてご予算は重要な項目ですが、予算そのものに合わせて
という設計施工ももちろん可能でございます。

「そのためには先ず皆様とのカウンセリングからスタートします。」

と上記ページでも述べておりますが、出来ましたらN.N様に直接にお目にかかりまして、
日本音響エンジニアリングの担当者も同席させ、当フロアーにて近い将来に一度
三者会談を設けさせて頂ければとご提案申し上げます。


日本音響エンジニアリング ご担当者様
いつもお世話になります。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/fan/hf_visi0026.html

上記の訪問記にて紹介しているお得意様より大変ありがたいお声がけを
頂きましたのでご紹介致します。使用機器など上記を参照下さい。

どのレベルまで求めるかによって予算も上下することは私も承知しておりますが、
私から信頼できる会社としては御社が最有力であり、お客様のご都合に合わせて
当フロアーでの検討会に出席して頂きたく要請致します。


            ■基本構想の立案■

このような経緯からN.N様とご家族が打ち合わせのため久しぶりに当フロアーに
ご来店頂いたのは2021年2月末の事でした。

通例であればお客様がどんな部屋にしたいのかという事からカウンセリングが
スタートするものですが、上記の訪問記にもあるように長年のお付き合いから
N.N様が目指されているものを私は先刻より承知しているものでした。

ピアノも置かれるという事と予算面での折り合いをどうつけるのかというポイントが
最初の課題であり、日本音響エンジニアリングもそれを意識しての設計着手となりました。

この段階では既にN.N様ご家族は指名した設計事務所において大よその基本設計を
されていたということで、鉄筋コンクリート造りで地上三階建て、その一階に新規
オーディオルームを作るという事で、最初に拝見した一階の間取り図がこれでした。

N.N様邸 初期構想の間取り図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230903151605.pdf

文京区の閑静な住宅街に位置するN.N様の部屋は玄関から廊下を使い一直線の奥。

道路面から玄関は地上一階とみなされるが、実は傾斜地を掘り起こして平坦化した
敷地であるために、その奥に位置するオーディオルームは斜面の中腹に当たり言わば
半地下という構造になります。

図面にて大よそ7.6メートル×8.2メートルという外壁にて予定される空間ですが、
この段階では全くの方形という対向面が存在すること、半地下という事からドライ
エリアの設置をする必要があるかどうかの確認と検討、家屋全体の設計と施工に
関しては先行して着手されるということで本プロジェクトが動き始めたものでした。

オフィスビルなども含めて内装を施さずに躯体がむき出しのままで賃貸に出す、
あるいは店舗用だけでなく個人宅の場合にも同様な状態で引き渡しを行い、他者に
よって内装と設備工事を行うという分業制をスケルトン渡しという業界用語で表します。

私が携わった複数の案件においてもハウスビルダー、または建築設計士と工務店に
よって家屋全体の工事を行いつつ、オーディオルームに関してはスケルトン渡し
ということで、その内装と設備工事を受け持つ分業制が可能かどうかを先ず検討します。

テレビCMなどでも有名なブランドの大手ハウスメーカーですと住居全体の保証制度の
関係から日本音響エンジニアリングがハウスビルダーの下請けという契約となり、
施主様とハウスメーカーの契約の中に予算などが盛り込まれるというケースもあります。

さて、N.N様の場合には契約した設計事務所から上記のスケルトン渡しが可能であると
いう事で分業制が成立しましたので、N.N様と日本音響エンジニアリングとの直接契約に
よって進行していく事になりました。

そこで私が日本音響エンジニアリング担当者に提案したのが、上記の訪問記にて
紹介している渋谷区に現在するN.N様のオーディオルームを視察させて頂き、
今後の設計においての目標を具体例として研修してきて欲しいという事でした。

最初の打ち合わせから三か月程度の期間に基本構想が次第に形になり、同時進行で
対金融機関への交渉にも必要という事から概算予算の見積書の作成など多項目が
同時進行する中で、初期構想の間取り図を拝見した私から音響的な選択によって
方形の間取りを台形に変更し定在波の発生を回避する事を提案したいという事。

また、ドライエリアを床面積として利用できるように設計変更できないかの検討、
そしてスピーカーとスクリーンを配置するとしたら方向はどちらに向けて設定する
かなど、何回も図面を書き直すなどの打ち合わせと検討が進行していったのです。

先ず基本的な事なのですが、あらゆる部屋で必ず必要なものが出入り口のドアです。
このドアの位置とスピーカーを設置する場所をどうするかが設計のスタートとなります。

左右スピーカーの間隔は出来るだけ離して広くしたい、しかし二台のスピーカーの
間隔を広げていくということは逆にスピーカー両側の左右壁面との距離が近づいて
いくということになり、距離の二乗に反比例して減衰していく音波に対して一次
反射音が増加していくという事でもあり、その一次反射音を如何に拡散し減衰させ
ていくかという事が音響設計の基本となります。

そこで先ずはN.N様のお部屋においてスピーカーを設置するに当たり、左右間隔が
出来るだけ広げられる壁面はどこかという視点で最初に提案したのが下記の図面。

この段階で幸いにも地下室に必要とされるドライエリアは設置しなくとも大丈夫
との設計事務所からの知らせもあり、床面積にゆとりが出来た事も幸いしました。

■左右スピーカー間隔を最大限に取れるレイアウトの第一案
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909161253.pdf

この段階からピアノを何処に置くのかという課題を最初から盛り込んでいますが、
音響調整アイテムの詳細や各種コンポーネントの配置、スクリーンとプロジェクター
などに関しては含んでおらず、先ずは音質最優先での発想というものです。

■各機材の収納とビデオプロジェクター・スクリーンを含めての第二案
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909161311.pdf

次の段階として左右スピーカーの周辺環境を等しくするという基本構成を維持するため
外壁の形状を修正するという大胆なアイデアを提案し、更に多数の機材収容スペースを
盛り込み、それとビデオプロジェクターとの配線距離も考慮して、第一案とは逆の
壁面を利用してスピーカーを設置するという上記のプランの検討に入りました。

N.N様が最も優先するのが2チャンネル再生によるハイエンドオーディオの音質、
次にプロジェクターによる映像投影に関して以前よりもスクリーンサイズは少し
でも大きくしたいという事、そしてピアノ演奏の音質配慮というプライオリティを
再確認させて頂き、建物の外形つまり外壁の形状も修正可能であるという事から
第三段階の提案として思い切ったのが下記の第三案です。

■オーディオ再生最優先とスクリーンサイズ拡大に機材収容を加味した第三案
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909161303.pdf

左右スピーカーの周辺環境を共通とする事、定在波抑制のための室内空間の台形化、
多数の機材収納と配線距離の配慮、ピアノ周辺の音響的環境の充実等々、多数項目の
要求を満たす室内レイアウトに関して最善の選択が出来上がってきたのです。

さて、本プロジェクトにおいて要所ではN.N様と直接の面談による打ち合わせを行いつつ、
日本音響エンジニアリングから修正図面をN.N様にお送りした回数は10回以上あり、
かつメールでのやり取りも150回以上の通信量となり、次第に形になってくる過程で
N.N様にイメージをつかんで頂くためにパースが作成されました。

リスニングポイントから正面を見ての方向・スクリーンは収納式で見えていない
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230903171059.jpg
向かって右後方からのアングル
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230903171049.jpg
向かって左後方からのアングル
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230903171108.jpg

これは打ち合わせの段階からのN.N様のコメントから仕上げの想定をイメージした
ものであり、本プロジェクトを進行していく上での方向性を確認して頂くための
パースですが、渋谷区の以前の部屋の用途をそのままに意匠面でもインテリアの
好みを反映させていくための素材という事になります。でも、このようなパースを
実際に見せられると夢が膨らむという期待感はますます高まってくるものでしょう!


           ■完成度の高みへ挑戦■

そして、私が提案した基本構想に日本音響エンジニアリングのノウハウが生かされ、
更にN.N様の創意あふれる様々なアイデアが盛り込まれ、何度も図面の書き直しが
行われ遂に具体化された構成が出来上がってきたのです。

■最終的な機材配置と仕上がりを想定する平面図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909161438.pdf

部屋を取り囲む鉄筋コンクリート造りのグレーの建屋躯体は平均的な厚みは14センチ、
その内側にグリーンの固定遮音層が増設されています。

その両者を空間として閉じる出入り口のドアはスタジオなどで採用される気密性の
高い二重の防音ドアが用いられ、室内に入りドアを閉めると外界のグランドノイズは
見事に遮断されます。

オレンジの音響調整スペースは日本音響エンジニアリングの企業秘密となるノウハウに
よって吸音・拡散体を仕込み、室内の残響時間と一次反射波をコントロールするものであり、
同時に台形とした室内空間の対向面においても更なる定在波抑制のための技術が施されています。

■斜め反射壁の下地が下記のように仕込まれ定在波の発生を極限まで抑止
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909180145.jpg

建屋躯体の台形構造に加えて室内の対向面をなくす独自構造が採用され、機材収納
スペース背後の壁面を除く室内全周に厚さ15mmの合板によって傾斜壁を構成しています。
これは壁面を仕上げてからは見えない構造であり注目すべき点として紹介します。

■固定遮音層の内側に斜め反射壁、その上に下記のような枠組みを構成して仕上げの
 ファブリックを張っていく前の段階。これも仕上がってしまうと見えないノウハウ。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909180925.jpg

そして、黄色で示されるANKHが設置されていくのですが、ここにも未公開のノウハウが!

■特殊配列による特注ANKH
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909172917.jpg

この画像を見ても分からないでしょうが、市販のANKHを並べた際のつなぎ目に当たる
所で更に拡散効果を高めるために標準仕様のANKHとは柱状拡散体の配置を変えている。

同社のAGS(SYLVAN・ANKH)であり詳細は下記をご覧頂ければと思います。
https://www.noe.co.jp/business/own-products/ags/

Acoustic Grove System ナチュラルで心地よい音場を実現するルームチューニング機構
https://www.noe.co.jp/technology/27/27news1.html

市販品のANKHに採用されているものは三種類の太さになっています。一例として
ANKH-I(フラット型)では柱状拡散体各々の太さは約30ミリが9本、約50ミリが6本、
約60ミリが4本で合計19本となっています。下記は参考まで。

H.A.L.'s Hidden Story!! - 日本音響エンジニアリングHybrid-ANKH
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1647.html

当フロアーでも上記のように多数のANKHを導入していますが、三種類の太さによる
柱状拡散体の配置を変更することで、特定周波数の拡散効果を高める技術を開発し
今回のように設計段階からANKHを設置する場合にのみ適用しているとのこと。

N.N様の一言から私が問い合わせたことにより初めて知り得たものであり、同社の
こだわりと技術力を無言のうちに実現していたというエピソードとして初公開する。

さて、次にピンク色で示された配線ピットに注目して下さい。今までの経験では
配線ピットを壁と床が接する巾木の部分に仕込んだものがありましたが、今回の
ように床のみに設置して同じフローリング材でフタを作り仕上げることも可能です。

平面図の左上にラック収納スペースが設けられていますが、ラックの後方には十分な
スペースを取り各機材の配線が安全確実に行えるように配慮され、その床面にピンク
の配線ピットが設置された。

ラック後方の配線ピットから各種ケーブルが各方向へと伸びているものですが、
その大半がサブウーファーを含めて7台のスピーカーが設置された方向へ床下を
通じて配線され、スピーカー後方の床面にピンクで表示される配線ピットへとつながる。

■スピーカー後方の配線ピット
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910135945.jpg

床に仕込んだLED照明の列に沿うように設置された配線ピットはフローリング材にて
仕上げられており、ちょっと見ただけでは分からないように巧妙に仕込まれている。

■最も太いスピーカーケーブルを配線ピットから引き出したところ
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910140256.jpg

■電源ケーブルなどもこのように配線ピットに収納
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910140311.jpg

ここにもN.N様の周到なこだわりが見られ、配線ピットからの引き出し口に関しては
厚みのあるフエルトでカバーを作り、また木製ブロックによって床との接触をなくし
アイソレーションも施すという徹底ぶりが見受けられる。

■貴重なケーブルが垣間見えるスナップ
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910143916.jpg

配線ピットの紹介に際して、上記の画像にて左方向に金色の美しいケーブルが引き
回しされているのが見えます。これはプリアンプとパワーアンプ間に接続されて
いるもので確か8.0mの長さがあるZenSati SeraphimのXLR Interconnect cableです。

ZenSati Seraphimが遂にH.A.L.の音を変え始めました!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/960.html

H.A.L.'s One point impression!!-ZenSati Seraphim
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/939.html
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/943.html

これはN.N様が採用された多数のケーブルの中で最も高価なものであり、同時に現在
では輸入されていないので貴重なケーブルとして紹介させて頂きました。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■天井と床の構造を含む最終的な仕上がりを想定する断面図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909161445.pdf

この図面で上のX方向断面図にて今回のN.N様が冒頭のコメントでも述べていたように
予算面での配慮を最も重視した構造が見られます。それは床だったのです!

この図でもグリーンの固定遮音層が設定されていることが解りますが、注目すべきは
床の構造において鉄筋コンクリート造りの基礎と接していることです。

今までの事例では浮き床構造として基礎の上に直接に生のコンクリートを打設する
のではなく、ある単位面積で製造されたコンクリートパネルを防振ゴムの上に敷き
詰めていくという「乾式」という方法。

または基礎の上に下記の事例のように二重にコンクリートを打設して、それら全てを
防振ゴムによってフローティングさせる「湿式」の二種類があります。

★防振浮き床の各工程について(下記より抜粋引用)
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1550.html

■ベタ基礎の上に防振ゴム307個、グラスウールを敷き詰めた最下層の行程
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135622.jpg

■その上に40枚に及ぶコンパネを敷き詰め絶縁のためのポリフィルムを張っていきます
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135635.jpg

■出入口の境界線にある段差に注目。浮き床は基礎から約23センチの高さと厚みがあります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135645.jpg

■その上に15センチのコンクリート層を形成するための鉄筋ワイヤーを敷設します。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135653.jpg

■いよいよコンクリートの打設を行います。この質量は多分7トンくらいでしょうか?
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135715.jpg

■コンクリート打設後の状況です。本格的な防振工事とはここまでやります!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713135724.jpg

■電気式床暖房を設置しながらフローリング貼り付けの仕上げ
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713143332.jpg

■一般的なフローリングは床の端から張られていきますが、オーディオルームとして
 部屋のセンターをしっかり定めるため、きっちりとセンターから貼り付けていくと
 いう細かいこだわりの工事となります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713143343.jpg

■浮き床構造が完成し仕上がった状態となります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190713143353.jpg

日本音響エンジニアリングの浮き床構造には「乾式」と「湿式」の二種類があり、
木造建築や基礎の強度が鉄筋コンクリートほどない場合には「乾式」を採用する。

上記の事例は「湿式」による浮き床構造ですが、当然予算面でも相応のコストが
かかるものですが、N.N様の要望にお応えすべく議論と検討が重ねられました。

そこに大変大きな貢献を果たしていたのが、実はN.N様邸における高レベルな基本
設計の充実という事でした。

X方向断面図においてグレーで示された床の鉄筋コンクリート造りの基礎の厚みが
平坦部で300ミリという強固な厚みであった事です。

文京区の閑静な住宅地であり鉄道、幹線道路、地下鉄などの騒音源が付近にない
ということも幸いし、30センチもの厚みのある基礎の上に更にコンクリートを
増し打ちすることで鉄壁の固定遮音層を構築しようという方針となったのです。

■床全面に徹底されたコンクリートの増し打ちの状況。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910153545.jpg

■廊下のレベルとオーディオルームの床レベルを一致させる厚みを求めて調整された
 コンクリートの増し打ち。色の違う壁面は固定遮音層。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910153600.jpg

非常に頑健で強固な基本設計の基礎があったればこそ、コンクリートの増し打ちと
いう言わば「湿式工法」でありながら低予算で実現できた秘訣がここにありました。

さて、弊社が入居しているビルの床は基本的には事務所向けのOAフロアーであり、
多数のOA機器のための配線が床下で行える浮き床構造となっています。

このビルが建築される前に担当するゼネコンの担当者たちと打ち合わせしたのですが、
浮き床板一枚当たりの耐荷重は300キロ以上ある浮き床なのだから、どんな重量物を
置いても大丈夫だという設計担当者の前で、私は持参したゴム製ハンマーで会議室の
床を叩いて回り、これだけ振動するのだからOAフロアーの浮き床にスピーカーを
置いたら良い音は出せないと力説した事を思い出します。

その打開策としてスピーカー設置スペースにおいて波型鉄板スラブの上に、特殊な
シートによって床の基礎部分から分離させ現状復帰が出来るような配慮を行い、
この試聴室の床の半分以上となる約38uに渡り厚さ10cmのコンクリートを流し込んで
固めてありますが、ざっと計算するとコンクリートの重量としては約8.7トンという
大変きな質量をもって床を補強していたのです。

そんな経験がある私はN.N様邸におけるコンクリート増し打ちの実態はどうなのか、
興味が湧き日本音響エンジニアリングの担当者に問い合わせしたところ…、なんと!

私が提案した台形の床面積を平均値で計算すると61.2uの床面積となり、増し打ち
したコンクリートの厚みは平均値で140mmという事から総重量は約19.7トンという
驚くべき質量によって補強されたという事が分かりました!これには驚きました!

そもそも建屋躯体の鉄筋コンクリートの基礎の厚みが300mmという事は質量の計算に
入れていないものですが、その上に更にコンクリート増し打ちを行ったということで、
今回は効率よく高い費用対効果を出せた一例として紹介しておきたいと思います。

次に、X方向断面図でのピンクの部分ですが、仕上げとして説明されていますが、
スクリーンボックスを収納するために立下り天井として20センチほど天井を低く
仕上げているものです。

■浮き遮音天井の下地工事のスナップ
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910161808.jpg

■空調ダクトを含む浮き遮音天井構造の外観
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910161800.jpg

■天井に仕込む音響調整スペースの下地工事-これだけ空間を使っているのです!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910161745.jpg

そして、Y方向断面図を見てお分かりのように浮き床構造は採用していませんが、
浮き遮音天井構造として空調ダクトスペースの下に部屋全体を包み込むようにして
遮音層と音響調整スペースが形成されています。これはイケると私は思いました!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

前述の第三案に乗っ取り図面上での検討協議を繰り返し詳細をつめていった結果、
各アングルから見た壁面及び天井の仕上げを想定した竣工図が下記となります。

■平面展開図AからDまでの壁面仕上げ想定図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909163105.pdf

■上記壁面AからCを含むアングルにて施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909171046.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909173200.jpg

■上記壁面AからCを含むアングルにて機材設置後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909163642.jpg

■上記壁面AからCのアングルにて照度を下げて床間接照明の点灯画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909171627.jpg

■上記壁面AからCにて実装したスクリーンを展開した画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909163657.jpg
採用された150インチ・スクリーンは下記
Stewart LUXG2150HUM13SBMB-12-2-6  電動150HD 赤外線リモコン仕様
上黒12インチ(304,8mm)UM130生地マイクロパーフォサウント゛

■ビデオプロジェクターとスクリーン収納部を含む天井面の竣工図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909163126.pdf

■平面展開図DからEまでの壁面仕上げ想定図
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909163115.pdf

■上記壁面Dの左半分を臨むアングルにて施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909165121.jpg

■上記壁面Dの左半分からEのコーナー部を見たアングルにて施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909165133.jpg

■平面展開図DからEまで含むアングルにて施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909171413.jpg

■平面展開図Eのアングルにて貴重な工事中スナップ画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909170529.jpg

■上記壁面Fの左半分の機材収納ラックを臨むアングルにて施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230906171137.jpg

■上記壁面Fの左半分の上部にて扉付き機材収納ラックの施工後の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230906171150.jpg

■上記壁面Fの機材収納ラック施工中の貴重な工事中スナップ画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909170741.jpg
ラック後方には別室の空間があり機材の配線に関して直接にアクセスできる配慮

■玄関よりオーディオルームに至る導線として廊下の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909172310.jpg

■オーディオルームから見たアングルにて開閉するソフト収納棚の仕上がり画像
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909172336.jpg

■最後の仕上げとして、この部屋に合わせて新調されたスタインウェイが光ります!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910164851.jpg

足掛け二年間に及ぶ時間をかけて完成したオーディオルームの音響特性はどうか、
新居に移られてから数か月経ち各機材と家具などの設置も完了してから日本音響
エンジニアリングの担当者が訪問し最後の音響調整を行ってからの測定となりました。

■東京都文京区N.N様邸伝送周波数特性
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910134331.pdf

私が先ず注目したのは低域の周波数特性でした。音響設計を行っていない一般的な
部屋ではほぼ全て500Hz以下の低音が盛り上がってしまう傾向がありますが、それが
このように5dB程度の偏差に納まり、特に100Hzから300Hzの最も低音楽器の音量感が
発揮される帯域において伝送特性が極めて優秀であるということが素晴らしいものです。

次に3KHzから20KHzにおいて左右チャンネルの偏差はほぼないに等しい見事さであり、
音圧偏差に関しても±3dB以内という超がつくほどの優秀な伝送特性に驚きました!

同時に50Hzから125Hzという低域において、そのオクターブ上の周波数においても
定在波の存在を思わせるピークの発生もなく優等生的な伝送特性です。これはいい!

■東京都文京区N.N様邸残響時間周波数特性
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910134321.pdf

音楽の主旋律とも言える500Hzから4KHzにおいての残響時間は約0.2秒、しかも
左右チャンネルの誤差はないに等しく、スピーカーの左右で環境の変化なきようにと
基本設計の段階から配慮してきた甲斐があったというものです。

そして、特筆すべきはドラムやベースなどの低音楽器がグイグイと音楽をリード
していくような録音で、一般的な室内でストレスが感じられて音量が上げられない
という原因が250Hz付近の帯域において残響時間が長くなってしまう事にあります。

酷い場合には1秒以上まで長くなってしまい、よく言われるブーミーな音になって
しまうものですが、このポイントで0.5秒程度で整理された低音になるという事が
実際の音楽再生でどうなるのか、期待が高まるスペックを目にして遂に試聴です!

素晴らしい音響特性の数値が実際の再生音でどうなるのか、これからが私の仕事です!


      ■試聴によって確認されたパフォーマンスとは■

■東京都文京区 N.N様ご愛用システム(2023年6月現在)
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230910163435.pdf

関連リンクを参考として

「H.A.L.'s One point impression!! Kharma Grand Ceramique Midi 1.0!!」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/598.html
実際には同型スピーカーにてダブルウーファータイプを特注にて導入されました。
古い記事なのでリンク切れはご容赦頂ければと思います。

この仕事を長らく続けて来た私にはオーディオシステムにおける再生音に関して、
自分が理想とする音、求めている音質というものに対する一家言がある。

これまでに何回も述べてきた「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という指標です。

これはスピーカーやコンポーネント、ケーブルや各種アクセサリーなど全ての
分野のオーディオ製品に対して言える事であり、それは今から9年前に出会った
HIRO Acousticの存在によって決定的になったと言えるかもしれません。

ここで「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という私の持論に関して、
少し説明しておく必要があると思いますので簡単にまとめてみました。

音像と音場感のどちらが優先されるのかというと、オーディオシステムでの再生音
に関しては間違いなく音像の明確さという事が重要な事であると考えています。

音像そのものが可視化出来る程にリアルに再生されることで、楽音個々の位置関係と
遠近感が三次元的に認識される事になり、空間に彫像の如く音像が屹立することにより、
その周辺に音のない空間が感じ取れるようになり、その無音の空間に音像から放たれた
残響成分が余韻感として拡散していく状況が観察できることによって音場感が構成されます。

私が集中力を高めて試聴する際には、両目をしっかりと見開き左右スピーカーの
音源位置と、楽音が定位する中空の一点一点の音像を空間にプロットしていくという
聴き方をしているのはそのためなのです。私は音、音楽を見つめながら聴いています。

もしも音像が不明解で曖昧な再生音、あるいは音像の空間における投影面積が大きく、
その楽音がぼやけているような場合には、平面的な音になり楽音の実態感は薄れ、
音像と余韻との区別がつかなくなり音場感は感じられなくなります。

更にドラムやパーカッションなどの打楽器、ピアノのような打弦楽器、ハープのような
撥弦楽器などのテンションが高く立ち上がりが高速であり、引き締まった質感を
再生するシステムである場合には音像の明確さが感じられ易い傾向があります。

また、上記でシステムと書きましたが音が出せる総合的な事例を述べたかったものであり、
私は前述しているようにスピーカーやコンポーネント、ケーブルや各種アクセサリーなど
全ての分野のオーディオ製品に対して同様な評価基準を持っていることも述べておきます。

最後に上記のように音像と音場感の関連性に関して正確な判断をしようとした場合、
再生システムの置かれた音響的環境も重要な要素である事を追記しておきます。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記は以前に私が発表した下記からの抜粋ですが、この中に今後述べていく多数の
要素が含まれているということで既読の方も多いと思いますが再提示致しました。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1723.html

最後に音響的環境が重要と述べていますが、オーディオシステムの試聴を行う事で
逆にルームアコースティックの評価を行っていくというのが今回の目的と再確認する。

メインスピーカーKharma Grand Ceramique 1.0 Enigma upgrade(Aubergine Finish)の
左右間隔はスピーカー中心点にて約3.7メートル、撮影した耳の位置とスピーカーとの
距離は約4.8メートルという当フロアーよりも少し大きなトライアングルとなっている。

更に「私は音、音楽を見つめながら聴いています」と述べていますが、その意味を
説明しているように私が行った試聴に関して、その観察眼の対象となった視界とは
どんな風景なのか下記の画像として前置きしておきます。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230813140509.jpg

この風景に私は方眼パターンを重ね合わせるようにイメージし、そのグリッドのひとつ
ずつに定位する音像を当てはめるようにして、再生音の分析と評価を行っていきます。

プリアンプAyre KX-R TwentyとSACD Player CH Precision D1のリモコンをお借りして、
持参したディスクを用意してセンターポジションのソファーに腰を下ろして…

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

近年私がリファレンスとしている定番の課題曲、最初はチェロとハープだけという
デュエットの小編成録音から試聴を開始しました。この最初の一曲が凄かった!

「1.世界の車窓から」

この曲を何度、どれほどのシステム構成と試聴対象のアイテムを変えながら聴いて
きたことか、数え切れない程の使用頻度である選曲であり、既に私の頭の中には
演奏そのものがテンプレートとして焼き付いているという一曲。それが…

「えっ、見えたぞ!ハープの弦が!こんな風景は見たことない!」

冒頭のハープだけの8秒間のイントロが始まった瞬間に、私でさえ今まで一度も
目にしたことがないという音風景が出現したのです!

47本の弦が張られたコンサートハープの曲線美が印象的な強靭なフレームと、
アクション・ペダルが装備された共鳴胴による優美なプロポーションを思い浮かべ、
今まではひとつの楽器として一体となったハープの姿を見ていたのでしょう。

この曲はハープを演奏者の右側から見た位置関係で左側に高音階、右側に低音階と
いう定位のパンポットで録音されており、二台のスピーカーの広がりに合わせて
左右に広がるハープそのものの存在感として大きく展開するという録音となっています。

私は今まではハープのフレームまで含めた楽器の全体像として見ていたのでしょう。

ところが、左右のKharma Grand Ceramiqueの高さほどにハープの弦が整然と垂直に
張られ並んでいるかのように、その弦一本一本がくっきりと見えるような克明さで、
弾かれる瞬間のディティールを鮮明に聴かせる再生音を私は初体験しました!

しなやかな指で弾かれた弦が、目に見えるような振幅で空気を揺るがす残像が耳でも
感じられるようなリアルさで一音ずつ空間に放たれ、その余韻がぷーんと細かな
唸りを残しながら漂っていく残響の美しさに驚愕する!こんな音初めてです!

それは垂直に並んだ弦の一本ずつの位置関係を明確に空間にピン留めしたかのように
鮮明であり、焦点距離を正確にハープに合わせていた情景なのですが、シンプルな
ハープの弦による一音がこれ程の残響成分を含んでおり、未体験の空間再現性を
可能とした情報量の素晴らしさと音響空間としての完成度の高さに驚き感動しました!

そして、オーロラのようにたなびく余韻感という清涼な空気感がもたらされた時、
多数の弦の向こう側でジャストセンターの中空に溝口肇のチェロが登場します。

「えっ、なに?このチェロのプロポーションは!こんなスマートなチェロだったのか!」

冒頭のハープだけでなくチェロの質感と音像に関しても同様に多数の試聴経験があり、
こういう感じで聴こえるだろうという予測が見事に覆された事に快感を覚える!

以前からオーディオシステムでチェロを再生すると音階によって音像サイズが変化
するという事を何度も述べてきました。それはスピーカーの個性によってチェロの
楽音をウーファーが受け持つ帯域で低音階の演奏となった際に、バスレフポートの
共振周波数と設計者の感性によって演出的な低音を出すスピーカーがあるからです。

これはピアノでも同様な現象が起こるものです。大編成のオーケストラでしたら
低音楽器の迫力と量感があってよろしいという評価をされる場合もありますが、
音域の広い単独の楽器を再生する場合に音階が低くなるにつれて、スピーカーの
低音特性によって演出的な音質になってしまうケースがあるのです。

そして、大切な事は上記の低域再生における質的変化という現象を考える際に、
スピーカーの低域特性とルームアコースティックの低域特性とが重複した場合、
その変化量が大変大きくなってしまうという現象です。

ところが、N.N様のオーディオルームにおいて、チェロの音像サイズに関しては
音階がいくら変化しても私がイメージしている方眼グリッドにきっちりとはまり、
ぐっと低い音階となっても膨らまない見事なプロポーションなのです!

前章で紹介した伝送周波数特性と残響時間特性の500Hz以下の特性を見て頂ければ
解りますが、音響設計をしていない一般的な室内では300Hzから250Hz以下の帯域では
レスポンスでは数デシベル、残響時間でも三秒から二秒程度まで長くなってしまうという
傾向があり、そのような環境下ではスピーカーの低音特性も大きく変化してしまいます。

H.A.L.'s One point impression & Hidden Story - B&W 801D4
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1685.html

上記で株式会社ディーアンドエムホールディングス本社ビルの試聴室での体験を
述べていますが、本当にコントロールされた優秀な音響空間において低音楽器の
再生音を注意深く聴いてみると、録音の品位と再生システムの特徴という事を
正しく理解するには実体験による耳での判定による記憶が必要だと思わざるを得ない。

つまり、音響的環境の優秀なところで高品位な録音と優れた再生システムで聴く
というトレーニング的な体験によって経験値が高まり、検証すべき対象の再生音に
対して環境の問題なのかオーディオシステムが役不足なのかという判断が初めて
出来るようになると考えています。そして、私はこのような経験値の高さを誇れる
だけの仕事をしてきたという自負があります。

それにしても、13年前にN.N様にお求め頂き納品したKharma Grand Ceramiqueが、
一曲目からこれ程の素晴らしい音を奏でてくれるとは本当に驚きであり感動でした。

「オーディオルームはコンポーネントの一部です!」と宣言している私ですが、
アップグレードとはコンポーネントだけが対象ではなく、音響空間こそが音楽
再生に関して大きな支配力を持つものでありグレードアップの対象であると言えます。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/rd/

しかし、楽器はたった二つだけという最初の一曲で実に多くの考察と評価が出来た
ことに我ながら驚いてしまいました。透明感が素晴らしいハープ、滑らかであり
実に美しいチェロというシンプルな録音で察知した評価項目が多数あり、それから
想像されるパフォーマンスの素晴らしさを他の課題曲で聴く期待感が高まります!

「10.Offset Of Love」

冒頭のセンター左寄りの空間に登場したアコースティックギターの質感に最初の驚き!

前曲のハープ同様にピックで弾かれた弦のテンションが見事に引き締まっており、
それが一弦ずつの輪郭を鮮明化するという方向に作用することから、音源である
スピーカーユニットが存在していないはずの空間において、彫像の立体感さながらに
ギターの存在を中空に定着させる素晴らしい音像表現に魅せられてしまった!

更に一弦ずつの爪弾きがサウンドホールから倍音をはらませた響きとして溢れ出し、
上下左右の空間に拡散していく描写力にルームアコースティックの威力を思い知る!

文京区の閑静な住宅街に位置するN.N様の部屋は玄関から廊下を使い一直線の奥にある。
道路面から玄関は地上一階とみなされるが、実は傾斜地を掘り起こして平坦化した
敷地であるために、その奥に位置するオーディオルームは斜面の中腹に当たり言わば
半地下という作りになっています。

昔は地下室にオーディオルームを作るというのがマニア憧れという時代もありましたが、
日本音響エンジニアリングの設計・施工による確実な遮音・防音性能があれば地上階でも
全く問題のない音響空間の造形が可能であり、地下室が最上であるという発想は過去の
ものと私は考えており推薦もしていないのが現状です。

更に掘削と掘り起こしの工事という割高の施工費を心配することもなく、法令による
地下室へのドライエリア設置義務もなく、更に地下水の漏水や湿度管理などの付帯
費用が増額してしまうという心配もいりません。

話しを戻すとN.N様の部屋のS/Nは都心部においても格段に素晴らしい性能であり、
入室後にドアを閉じると都会のグランドノイズは皆無であり極めつけの静寂さなのです。

その環境があってこそ、前曲でのチェロとハープというアコースティックなデュオの
演奏においても、余韻の滞空時間を延長し楽音が消滅する寸前の微小な響きの残滓を
空中に漂わせることが出来たのです!

前曲で実感した素晴らしさがイントロのギターで確認されると、すかさずセンターに
ベースが登場するのですが、このベースの音像サイズが小ぶりであり引き締まった
質感で濃厚かつ重量感ある低音を繰り出してくることに予想的中とほくそ笑む!

今回の試聴で初めて登場した低音楽器を耳にして定在波が皆無である事をすぐさま
確認したが、これはこの後に続く課題曲でも後述するので見送りとします。

さて、このアルバムは全曲を通じてスタジオ録音ながら絶妙な空間表現が施された録音で、
それ故に私の言う音像と音場感の両方を検証していくには打ってつけなのですが、
その中でほとんどの楽音が左右スピーカーの中間に定位しています。

私はスピーカーユニットが存在していない空間に表れる音を中間定位という表現を
しているのですが、その際の音像が鮮明であることが再生装置と環境の優秀さを
推し量る上で重要なポイントになると考えています。

そして、私が注目しているチェックポイントが右チャンネルスピーカーの軸上に定位する
鋭いコンガの打音だったのです。このアルバムでは珍しく中間定位ではなく、右側の
Kharma Grand Ceramiqueの位置と距離感で炸裂するコンガがこれまた素晴らしい!

左にギター、右にコンガ、センターにベースというトリオの伴奏に迎えられて、
センター奥にチェロが登場するのですが、伴奏者三人との距離感はスピーカーと
等しいとして、チェロはそれらの向こう側に遠のき、しっかりした遠近法で描かれる。

これはスピーカーをはじめとするコンポーネントの優秀さによるものなのですが、
私のフロアーのリファレンスシステムと比較しても、前述のようにスピーカーのある
風景に対して私がイメージしている方眼パターンによるひとつずつのグリッドが
小さくなっていることに気が付く。これは言い換えれば音像サイズが小さいという事。

残響時間が絶妙にコントロールされた時、演奏者各々の音像から余分な響きを取り除き、
あくまで録音信号に含まれる情報だけが研ぎ澄まされるとこうなるという見事な整列。

こればかりはコンポーネントにいくら投資しても実現できない鮮明なホログラムが
空間に並び、しかも遠近感まで忠実に再現する有様に私が求めている音質の方向性を
N.N様の部屋とシステムが先導する形で実現してくれたことに感激したのです!

惚れ惚れと聴いているとセンター右寄りで中間定位のピアノがスピーカーの奥で
転がるように短いパッセージを奏で、ギターの背後にしっとりとストリングスが
流れるような旋律を奏でながら、チェロを包み込むように展開するメロディーの
美しさに私はソファーに身を沈めたままで動けない状況が続く。これいいです!

正面から見た方眼パターンによる分析は、更に遠近法まで表す3D画面のように奥に
向かって傾斜したグリッドを提示するようになり、二曲目の課題曲で楽器の数が
増えた演奏で音像提示の仕方を左右方向だけでなく前後関係にも表すという非常に
高度なサウンドステージを完成させたことを驚きと感動を持って私は実感しました!

「14.帰水空間」

アコースティックなドラムではなくシンセドラムという、言わば無機的で単調な
打音を冒頭から曲の最後まで連続する一曲であり、左、右、センターと三か所に
パンポットされた定位によって、左右チャンネルのスピーカー一台による打音、
センターでは左右二台のスピーカーの共同作業によるドラムがスタートした。

シンプルなドラムだがスピーカーによって千差万別の再生音となり、よく言われる
原音再生という解ったような解らないような常套句を思い浮かべると、オーディオ
システムによる特にスピーカーの個性によって、これほど音質が変化するものだと
いう事が実感され、その事実を突き付けられると原音再生という単語は死語と化す。

そんな経験を数え切れないほどしてきた私から見ると、このドラムの立ち上がり
から楽音の消滅まで何の変調もなく減衰していく忠実さがHIRO Acousticのような
密閉型スピーカーの特徴と言える。

バスレフ型スピーカーではバスレフポートの影響によって、音像の肥大化、音色と
質感の変化、音量感の変化などが起きやすいものなのですが、前述のように音響
空間の特性とスピーカーの低音再生の特性が重層した場合に変化量が大きくなると
いう事は事実として体験済みなのだが、その特徴ある低音再生からルームアコー
スティックの影響を取り除いたらどうなるのかという設問に関しては検証は難しい。

その難点に関して唯一私の経験から実感されたことは、やはり上記にある株式会社
ディーアンドエムホールディングス本社ビルの試聴室における体験だと断言できます。

その環境での試聴からB&W各種スピーカーの低音に関しての設計の優秀さを確認し、
それを当フロアーをはじめとして一般家庭への納品にて経験してきた音質差という
記憶がしっかりあるからこそ、私は上記のルームアコースティックの影響を差し引いた
バスレフ型スピーカーの優秀な低音再生という見極めが出来るようになったのです。

N.N様に長年ご愛用頂いているKharma Grand Ceramiqueもバスレフ型スピーカーであり、
当フロアーでも輸入されていた当時に試聴した記憶があるのですが、この新しい
オーディオルームで鳴らした同じドラムの再生音の素晴らしさが私の記憶の頂点に
位置付けられる音響空間に匹敵するものであるということが直感されたのです!

先ず左チャンネルのドラムは最も重量感ある打音であり、そのエネルギー感が大きい
ゆえにスピーカーの低音再生の特徴が感じられやすいものです。

言い換えればスピーカーによって最も変化量が大きい低音と言えます。
左チャンネルスピーカーに定位する最初のドラムは良い意味で当フロアーでの
HIRO Acousticの出す低音に瓜二つなのです!これは素晴らしいです!

打音の立ち上がりから消滅まで同一な質感であり音像も例の方形グリッドのサイズ
からはみ出すこともなく引き締まっており、音色が変化したり膨らんだりしません!

次の右チャンネルからのドラムはアタックの瞬間から鋭いテンションと切れ味いい
音色によって弾けるインパクトの一瞬が印象的なのですが、バスレフポートの
影響から質感が軽くなったり甲高い音色になってしまうこともあるのです。

しかし、この時は極めつけのスピード感がウーファーだけでなくミッドレンジとの
連携をも印象付ける高速反応の打音で炸裂し、私の過去の経験による同じドラムの
再生音ランキングのトップに躍り出てきたという素晴らしさなのです!

そして、注目すべきはセンターに定位する左右二台のスピーカーによって再生される
二連打のドラムです。この音が上記の評価ポイントにおいて最高クラスの質感なのです!

二台のスピーカーによる合成音でありセンターに定位するドラムは音源であるスピーカー
ユニットがない空間に出現するものであり、その分ルームアコースティックの影響を
受けやすいものであり音像サイズも膨らみがちになる傾向を今まで多数経験してきた。

ところが、N.N様の部屋ではあろうことか左右スピーカー単独で鳴らすドラムよりも
音像サイズは小型化しており、しかも残響として音像を取り巻くはずのドラム周辺の
響きまでも整理され、インパクトの瞬間から周辺に叩き出された打音が素晴らしい
ブレーキ効果を伴って二連打のドラムをひとつずつの打音としてくっきりと分離し、
今までついていた低音の尾ひれを爽快に消し去っているのです!これは凄いです!

センター定位のドラムがここまで鮮明に、私も経験がないほどに引き絞られた
音像サイズとなって私の視野にイメージしていた方眼グリッドの1セルを更に凝縮
したという驚きで、当フロアーでも聴くことの出来なかったドラムに感動しました!

続いて左右スピーカーの両翼まで到達するかと思える広大なサウンドステージを
描きながら、かすれた女性コーラスをイメージさせる音色のシンセサイザーが
オーロラのようにたなびく響きの背景を提示すると、主題の旋律をキーボードが
中空に散りばめていくという幻想的な音の景観を眼前の空間に創出する!

ウインドチャイムのようなきらめく高音のパーカッションと、シーケンサーが
作り出したのか人工的なパーカッションが空間を彩り、スタジオ録音ではあるが
素晴らしい音場感を提示しつつ主役を迎える舞台を作っていくと…。

ハープとのデュオで描かれたチェロが演奏する空間サイズと比較して、この曲では
他の楽器が加わったことにより更に一回り大きなサウンドステージが用意され、
そのセンターでゆったりしたアルコによって弾かれる溝口肇のプロポーションは
見事に引き絞られていたのです!

この美しいメロディーは弓の切り返しを感じさせない絶妙なアルコによるチェロの
存在感を、あたかも見えないセンタースピーカーによって単独音源としてスピーカー
のセンターに定位させたような精密な響きと音像を浮かび上がらせる!

そんなチェロの変化に呼応するように、右側の低音階から左側へ音階を上げていく
パンポットで録音されたマリンバが登場すると、4本のマレットを高速で操り左右に
木琴の配列を展開していく演奏に惹き付けられていく。

マレットがヒットした瞬間コンッ、カツンという音板が跳ねるような硬質な打音が
飛び出したかと思うと、フレーム下の共鳴管が連鎖する響きを発し、左右に飛び交う
素早いマレットの動きが残像として見えそうなリアルな展開に息をのむ!いいです!

紐で吊り下げられているマリンバの音板ひとつずつに音像としての存在感が表れ、
高速のロール(トレモロ)から2本マレットでの和音まで一粒ずつの音の結晶が弾ける!

主題の旋律を再度チェロが引き継ぐ間奏が濃密な音像の中身と、立ち昇る余韻感として
センターから周辺部へと連鎖する空間という響きの情景描写にうっとりしていると、
細かいタッチで右手の指が鍵盤上を滑っていくようなピアノのソロバートが始まる。

同じコードをオクターブずつ下げながら数フレーズごとに繰り返し、時折りの単音で
ロングトーンの残響を漂わせるリバーブで彩りを加えたピアノが余韻感を引き伸ばす。

この透明感が向上したピアノの質感はマリンバ同様に鍵盤の配列が音階の推移と
共に方眼グリッドの分析法にぴったりと当てはまるような解像度の極みを見せながら
展開し、ルームアコースティックの素晴らしさによって中空に点々と微小音像を
刻みつけていく!素晴らしいです!

私の視線は楽音が表れる中空の一点を見つめ、また新たな音が発生する一点に向けて
素早く反応し、無意識のうちに眼球と視神経が目の前で展開する様々な楽音の発祥と
消滅のサイクルを監視し続けるという試聴スタイルを心地良く続けていく。

やがてピアノは右手だけの透き通る高音だけのフレーズに変化すると、きらめく
パーカッションとかすれるようなキーボードが背景を再構成しチェロが再登場する。

ゆったりと美しい旋律をチェロが奏でると、次第に歩むテンポを落として行くように
主題の旋律をソロで奏でながら繰り返し、伴奏楽器が少しずつ退いていき、ふと立ち
止まるように一定のリズムで音量を下げながら冒頭から続いていたドラムが鳴りやむと、
最後のフレーズをチェロがしっとりと演奏し幕を閉じる。あ〜いいな〜これ!

長年ご愛用頂いてきたKharma Grand Ceramiqueは正に水を得た魚のように、音像と
音場感の再現性にとってルームアコースティックの重要性を証明し、躍動する楽音と
精緻な定位感によって私のイメージした方眼グリッドは過去最高の細やかさとなって
N.N様は目指された音楽の世界観を実現されたと納得し感動しました!そして…


         ■測定結果を音質で確認する醍醐味■

最初の三曲の課題曲にてN.N様のオーディオルームの特徴を語り尽くしたのではと
思われるでしょうが、久しぶりに「感動の大きさに文章量は比例する」という私の
悪癖が鎌首をもたげ、いや…まだ語り足りないという思いが他の曲ではどうなった
のかを少しずつでも述べておかなくてはと更に記憶の引き出しを開けることに。

■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]として
1987年録音の[3]から第二楽章を聴く。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg

音像と音場感の関連性に関して私なりの方眼グリッドという分析法がオーケストラ
ではどうなるのか。それは上記の中間定位という私なりの表現方法にも関連していく。

第二楽章の冒頭では弦楽五部の合奏から右側に登場するトランペットがポイント。

「あ〜!しっかり並んでいます空間に!そしてトランペットの質感も素晴らしい!」

この曲で私が最初にチェックするのは弦楽五部の各パートが、やはり音源である
スピーカーユニットが存在しない空間にどのように定位し並ぶかということ。

スピーカーのオンアクシス、つまりスピーカーユニットが存在している地点に
貼り付いたように定位するのではなく、センターから左寄りの空間に第一第二
ヴァイオリンが総勢26人の集団として横並びに展開し、センター右寄りの位置に
ビオラ10人とチェロ8人という集合体として方眼グリッドに当てはまるかどうか。

スピーカーによっては左右スピーカーの軸上に上記の弦楽集団が貼り付くように
塊となって表れ、本来ステージ上に横並びの音像を提示して欲しいものが団子状態に
なってしまうケースがあるからです。そんな幼稚な再生音になるわけがないと、
冒頭から見事な中間定位で弦楽パートが颯爽と空間に整列し期待以上の解像度を見せる!

弦楽各パートは集団でありながら演奏者個々の微妙に異なる音色をつぶさに表現し、
右奥のコントラバスが重厚なアルコでしっかりとバックアップする合奏が見事!

ここで思い出すのは過去に経験した定在波の問題。打楽器の低音で定在波を認識
することは不可能ではないが、ドラムなどでは録音の演出で施したリバーブなのか
定在波なのかを見極めるには経験値が必要になる。

オーケストラの録音では多種多様な大編成の演奏で特定の周波数で発生する定在波を
見分けにくいと考える向きもあるかと思いますが、私はこの曲で過去に何回も定在波の
存在を発見し確認した事がありました。

この演奏でコントラバスの特定の音階にて、音圧が大きくなり残響時間も延長され、
鼓膜に圧迫感を感じ唸るような低音成分の定在波として感じられた経験がありました。

上記ではベースという低音楽器を初めて聴いた際に見送りした定在波の問題点に関して、
実は過去に定在波を経験した選曲で納得してから語ろうと思っていたからです。

既に皆様もご存知のように対向する壁面や床と天井の関係から、それらふたつの
反射面の距離によって音波の波長と一致した周波数にて定在波は発生します。

反射面の硬度と材質によって一次反射音の周波数特性は変化しますから、一概に
計算上だけで定在波の周波数を特定することは出来ませんが、低音に関しては
前述のコントラバスなど低弦楽器で、中高域の周波数では打楽器などの残響が
繰り返されることなどで定在波を確認出来ますが、聴く位置によって感じ方も
違ってくるので見極めには経験が必要になってきます。

N.N様と日本音響エンジニアリング担当者を交えての打ち合わせをスタートした当初、
地所の形に合わせて方形に住居の形を図面化したものを見て、一般的な建築家で
あれば当たり前のように方形の部屋で間取りを考えてしまうという初期の図面を
拝見していたのでした。その段階で私は既に定在波を警戒していたのです。

そこでN.N様に提案したのが平面図を見て部屋を台形にするという事でした。
スクリーンを設置しスピーカーを置く方向の壁面を広げるということです。

建築面積での制約がある場合には床面積を変えずに立面図で見て対向する壁面に
傾斜をつけることで、方形の部屋の対向面をなくすことで定在波を回避できます。

既に前章で述べている低域の再生音に関する素晴らしさでも確認していましたが、
過去に定在波を見つけることになった同じオーケストラの課題曲においても、
まったく低音再生に混濁した残響成分はない事を再確認しました。これでいいのです!

右方向からのトランペットも素直な音色と開放感ある残響成分が心地良く響き、
スピーカーとシステムの優秀さを低歪率という原則にのっとり再生しているという
安心感があり、更に室内の一次反射音の影響が皆無であるという確認にもつながりました。

その後にステージ上の遠近感を的確に再現しての木管楽器の短いパッセージが左右に湧き起り、
ソロバートの管楽器の残響が方眼グリッドの各位置で正確に定位しながら展開していく
描写力の素晴らしさにオーケストラを聴く前の私の予想が次々に的中していきます!

CH Precisionのソースコンポーネント、Ayre KX-R TwentyとMX-R Twentyという
鉄壁の布陣によるシステム構成に、スーパートゥイーターMewon TS-001が加わり、
Kharma Grand Ceramiqueの潜在能力を極限まで引き出したN.N様のラインアップ。

そして、ルームアコースティックの完成度の高さによって、しっとりとした響きの
弦楽器と空間に克明な音像を描く管楽器が文句のつけようがない素晴らしい
オーケストラの課題曲に私の耳は美味を味わい舌鼓を打つ快音に痺れていたのでした!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

■大貫妙子/ATTRACTION 5.四季
https://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/

この曲のイントロでセンター左寄りの空間に登場するアコースティックギターは
溝口肇の課題曲でも述べた素晴らしさをそのまま反映したものでした。

爪弾きの一音ずつの響きが鮮明であり一弦ずつの余韻が実に美しく展開し、
ベースの低音が空間を埋めていく中でセンターに輝くように出現するトライアングル。

この透き通る高音の響きは特筆ものでありスーパートゥイーターの恩恵が見事な
余韻感として漂う風景に思わずため息というもの。これはいいです!

広々としたサウンドステージが呼び込んだヴォーカルのマウスサイズが小さい!

前述のチェロで確認した音像と同様に鮮明なディティールがスピーカーセンターに
浮かび、スタジオワークで施されたリバーブが上下左右に残響を広げていく有様を
しっかりと見せつけるリアリティーに私は思わずyes!と内心で小さく叫ぶ!

その背後に遠近法を保ったままで登場するストリングスの調べは渓流のせせらぎの
ような清らかさを示し、やがてセンターでしっとりと鳴らされる鈴の音を引き立てる。

右手奥に遠のきながら消えていくクラベスの打音には耳で感じる木肌のぬくもりがあり、
ヴォーカルの人肌による温度感に同調して美しく空間を漂っていく描写に言葉を失う。

■UNCOMPRESSED WORLD VOL.1より Track No.3 TWO TREESとTrack No.4 SAMBIENTA
http://www.hifijapan.co.jp/accusticarts.html
http://www.dynamicaudio.jp/file/100407/UncompressedWorldVol.1_booklet.pdf

3.TWO TREESとは粋なタイトルだと思わせるセンター左寄りのサックスと右寄りの
中空に定位するピアノのデュオという曲。

中間定位という表現はこの曲のためにあるのかと思ってしまうほど、かのECMの
録音を彷彿とさせる広大な音場感が魅力の演奏。

センター定位のヴォーカルの音像はくっきりはっきりという方向性で語れるが、
この曲でのサックスとピアノに関しては左右スピーカーの中間に表れるので、
音源位置をここだというワンポイントで表すのが難しい。でも何も心配はない!

サックスのリードから、そして真鍮の管そのものから発せられた響きは右側の
スピーカーまで拡散し、それでいて楽音としての実態感を鮮明に描く美技に酔う!

ピアノの鍵盤は全体像を広く大きく聴かせるのではなく、センター右寄りの中空に
演奏するオクターブ数だけをクローズアップさせる音像の捉え方をさせており、
むしろシングルトーンで印象的に引き伸ばす一音ずつの浮遊する余韻を見せる技法!

4.SAMBIENTAでのイントロでは多数のパーカッションが空間を埋め尽くすように展開し、
時折り混じる鋭いホイッスルやウインドチャイムの響きに輝きを与える解像度の見事さ。

これも溝口肇の課題曲で聴いた極めて低い周波数のシンセサイザーの低音が私の
視野を網羅するほどの広大なサウンドステージを描き出し、重低音のバイブレーションが
確実な脈動感として室内の空気を震わせる迫力が素晴らしい。

オーケストラでも確認した定在波の兆候がない素晴らしい音響空間を我が物顔で
支配する、人工的であるがゆえに正確な波動感が室内を満たしていく快感がいい!

■HELGE LIEN / SPIRAL CIRCLE   7. Take Five
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245411462

シンセサイザーの重低音が前例のないほど鮮明に聴こえるという安心感からの選曲。
このTake Fiveはドラムソロからスタートするのですが、中でもキックドラムの
質感がスピーカーと室内音響の真価を計るにふさわしいチェックポイント。

ビーターが叩くキックドラムのヘッドのチューニングをあまくしているのか、
音像を意識させない空気感をはらんだ低音がセンター左寄りの空間に大きな
投影面積をもって炸裂する独特の低音。重たいのに軽い?という不思議な質感!

Kharma Grand Ceramiqueの左右四基のウーファーが、高速反応であり重量感ある
打音を遠慮なく叩き出す鮮烈さを、低域周波数の的確な減衰を実現しているルーム
アコースティックが素晴らしいサポートを見せて、一打ずつのインパクトを捉え、
その音圧を心地良く肌に訴えかけると速やかに消滅し余分な低音の足跡を残さない
すこぶるつきの気持ち良さをリスナーに与える爽快感に思わず音量が上がる!

多数の金物のパーカッションと小口径のタムを鋭くヒットするドラミングの迫力を、
ここぞとばかりに撒き散らすイントロが終わってほしくないのにと思わせるほどの
極小の音像表現とスピード感、巧妙なパンポットによる抜群の空間定位によって
左右スピーカーの全幅を使ってドラムセットの全てを鳴らし切る素晴らしさ!

そして、お馴染みの変拍子のピアノがTake Fiveの旋律をセンター右寄りの空間に
ぽかんと浮かべるように表れ、少し遠目に位置するベースのサポートを受けて展開する。

やがてウッドベースがソロをとるとピッチカートから弓を持ってのアルコに切り替え、
グイグイと唸るような低弦の響きを右奥でかき鳴らす演奏に惹き付けられる。凄い!

溝口肇の課題曲で述べたように複数の楽音に遠近法があり、トリオの演奏でありながら
ソロバートでの前後感を巧妙に提示し、そのスタジオワークの気配りを邪魔しない
音響空間の仕上がりに音楽ジャンルを超越した完成度の高さを私は確認していった!

音楽作品はスタジオで作られる、その制作側の情熱と感性を更に引き出す次の選曲。

■Kirkelig Kulturverksted  30 years’ fidelity
https://www.kkv.no/en/music/divers-2

7. Som En Storm, O Hellig And - Ole Paus & Oslo Chamber Choir
https://www.youtube.com/watch?v=9CJBropx7SE

長時間の残響時間を有する教会における録音と、音響環境を整えたスタジオでの
鮮明な録音を融合させて作られた上記の課題曲が更に私をしびれさせた!

ちょっと調べてみると、このOle Pausはスウェーデンとノルウェーのバラードの
伝統におけるノルウェーの吟遊詩人であり、作家、詩人、俳優とのこと。

彼はノルウェーで最も人気のあるシンガーソングライターの一人と考えられ、
ボブ・ディランに相当するノルウェー人であり「国民の声」と言われていという。

この曲の冒頭は大変美しいオスロ室内合唱団による合唱から始まります。

そして、この混声合唱が始まった瞬間に私の口は半分開き、声にならないほ〜と
いうため息が…。

前述の課題曲でチェロの質感が音像サイズの凝縮と同時に、如何に素晴らしいかを
述べてきましたが、Kharma Grand Ceramiqueが醸し出す人間の声、広大な空間を
描き出すコーラスの美しさに感動してしまいました!

「これは私でさえも未体験だ!透明感溢れる歌声が広がっていく空間と余韻の素晴らしさ!」

ノルウェー語でSom En Stormとは「嵐のように」という意味らしいのだが、その嵐の
前の静けさを歌ったらこうなるのだろうかと思ってしまうほどの清々しいコーラス!

そして、左右チャンネルに二本のギターが軽やかにカッティングを刻むリズムが入り、
センターにはウッドベースが登場する。ここです!

センター定位のベースは膨らまず広がらず極めて鮮明な輪郭を描くのだから堪らない。
ルームアコースティックの完成度が低音楽器の音像に与える影響の大きさに納得する。

そして、そのペースの定位は同じくするが更に遠方の上の空間からサックスが登場する。

このサックスは十分にウェットな質感を保ち、正に点音源と指さすことが出来る
ような引き締まった音像から呆れるほど広大な音場感の広がりをもって展開する。

そして、何よりも今までに聴いたことのない質感のサックスであることに思い当たる。

このサックスの音色と質感、そして余韻感というものをKharma Grand Ceramiqueが
主体を成して表現しているのは当然のことながら、スーパートゥイーターの貢献が
見事な音場感として展開しており、高域の情報量を適切に存続させる多数のANKHの
相乗効果として空間再現性の素晴らしさとして私を唸らせる。参った!

そして、絶妙なリバーブによって残響という衣装をまとった伴奏楽器とは反対に
すっぴんのOle PausのVoiceがほぼノンリバーブという鮮明さでセンターに登場すると…

「一皮むけた声質と言ったら過去の事例に申し訳ないが、それほど鮮明だから仕方ない!」

喉元から発する息遣いをマイクが拾っているのか、唸るように唇を閉じて発する
低い声は耳元で囁かれた時に感じるくすぐったい空気の振動を思わせるリアルさ!

歌うでもなくラップのように叫ぶでもなく、しっとりとしながらグルーブ感のある
Voiceが正に吟遊詩人として語り掛けてくるリアルさに背中がぶるっとする!

「オンマイクでのリアルな声、余分なリバーブもない緻密な音像が素晴らしい!」

このOle PausのVoiceに関しても私が今までに聴いたことのない質感、好ましい
音像サイズの表現としてセンターに浮かぶ情景に驚いてしまったのです。

微量な濁りもなく爽快ですっきり整理された素晴らしいVoiceというものを、
この音響空間で私は初めて聴きました。こんな声だったのか!

知らぬ間にOle Pausの背後にはオルガンが表れ、長いトーンの合間に細かい音符を挟み、
ギターとベースの背景に風に揺らぐ音響カーテン、いや、オーロラのように煌めき
揺れる響きの背景を形成する。これがまた素晴らしい!

二本のギターはVoiceの合間に交互にスリリングな見せ場を作り、間奏でのサックスを
再度迎え入れ、リードのバイブレーションをたなびかせるサックスとの連携において、
あたかも教会という豊かな響きの空間で吹いているような美しい音場感を私の眼前に
展開していった。この整然と楽音のポイントを提示する音場感はいったい何なんだ!

youtubeでパソコンのスピーカーで聴いている皆さんには想像も出来ないハイエンド
オーディオの極みとも言いたい演奏空間にしびれていると、オスロ室内合唱団の
コーラスが冒頭の主題をもう一度繰り返し、その厳かな響きが数秒間私の頭の中に
余韻のリフレインを残して幕を閉じる!いや〜、これには震えました!いいです!

10. Mitt Hjerte Alltid Vanker - SKRUK / Rim Banna
https://www.youtube.com/watch?v=42fIQbjp3bY

SKRUKは1973年に設立されたノルウェーの合唱団で、指揮者のPer Oddvar Hildreと
共に現在まで広範囲な活動をしている。Rim Bannaはパレスチナの歌手、作曲家。
この曲も、くれぐれもパソコンのスピーカーで聴いて誤解なさらないように(笑)

Rim Bannaが登場するのは冒頭の一分間だけ。しかし、このソロバートが凄い!

伴奏はウッドベースだけ。それも、わずかにそっと弦に触れるだけという弱音の
ピッチカートでヴォーカルに寄り添うような低音の起伏を響かせる。

このRim Bannaのソロヴォーカルが聴かせる音像の忠実さ克明さという描写力に驚く!
同時に彼女の歌声によってスピーカーの周辺に出現するサウンドステージの素晴らしさ!

それはヴォーカルの質感に先ずは安定した艶やかさと滑らかさが感じられるという
基本構造の上に成り立っていて、ここでもスーパートゥイーターの存在感を実感し、
その貢献は楽音そのものよりも提示する空間のスケール感に対する成功例として
人間の声をここまでリアルに浮き上がらせるのかという発見に言葉を失う!

そして、一分後にセンターからアフリカ系パーカッションの乾いた打音が出現し、
同時に右チャンネルからは一定間隔で鳴らされる鈴の音が幻想的な空間を醸し出す。

その辺からベースは低音階のピッチカートで存在感を示し始め、先ずはSKRUKの
男声合唱が重厚なベールを思わせるハーモニーで湧き上がってくる。ここがいい!!

幾重にも重なるコーラスはパートごとの分解能を理路整然と示し、センター右寄りの
中空に極めて鮮明であり美しいピアノが登場する。このピアノの質感は絶妙な立体感と
ともに、まさに空間を転がるように一鍵ずつの打音の連続と、その瞬間から放出される
透明感抜群の響きの連鎖を展開していく。これは見事! ピアノの一弦にも音像あり!

ゆったりした男性合唱が招き寄せるように女性コーラスが登場し、youtubeでも分かる
バラード調の旋律が上品なうねりを伴って重なり合っていく。素晴らしいです!

右チャンネル寄りのピアノが儚なげなメロディーを奏でていると、左チャンネル寄りの
後方から女性ソプラノが立ち上がり清涼感溢れるみずみずしい歌声を披露してくる。

伴奏楽器はシンプルであるが繰り広げられるコーラスの響きの階層は美しい連なりを見せ、
それを縫い上げるようにピアノの美音が演奏空間を引き締めながら、しっとりと幕を下ろす。

スタジオと教会という残響時間が極めて異なる空間で演奏された両者の楽音を
絶妙なテクニックで合成することで展開する録音芸術の見事な再現性!

この二曲を聴いて、これほどの自然な滑らかさを表現するスピーカーであった事、
私にして初めてという体験の空間提示の素晴らしさと魅力に納得しつつ、ルーム
アコースティックの素晴らしさに感動してしまった!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

GODZILLA: KING OF MONSTERS(ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
https://wmg.jp/ost/discography/21102/

このサントラ盤を入手してから当フロアーのシステムで聴き、下記のようにロンドンでの
スタジオ録音、掛け声パフォーマー、渋い般若心経もあり、和太鼓のダイナミックな
低音あり、マスタリングはバーニー・グランドマン・スタジオで行ったという
こだわりももありオーディオ的にも注目できるものです。

Godzilla KOTM - Making the Music - Bear McCreary (official)
https://m.youtube.com/watch?v=YINrERKAR4A&list=RDYINrERKAR4A
https://www.youtube.com/watch?v=jV0w7jGK04s&list=RDYINrERKAR4A&index=4

このCDを聴きたくなった理由のひとつが、近代化された劇場でサブウーファーを
駆使したサラウンドシステムで映画の効果音に負けじと、壮大かつ重厚な超低音を
意図的に録音に含ませているサントラ盤であるという事でした。

私は異なるサイズと画質のスクリーンと音響システムによる、みっつの劇場で
この映画を観ましたが、それぞれに共通するポイントもあれば違う印象もあり、
更に音楽だけのサントラ盤を当フロアーのシステムで聴くことにより、音楽作品
としての聴かせどころというか、劇場の音響システムではなくハイファイシステムで
聴いた際の音像と音場感という着目点で観察分析をすることが出来ました。

それをN.N様のお部屋で聴いてみると、当フロアーで聴いてきた音質との違いが
次々に発見され、それは劇場という大空間での印象ともかけ合わせることで更に
ルームアコースティックの素晴らしさを評価できるのではと期待したからです。

【Disc 1】 17. Goodbye Old Friend

冒頭は宗教曲を思わせる女性コーラスから始まり、しばらくすると混声合唱に発展し
雄大な響きの大変美しいコーラスへと展開していく。これだけ聴いていると映画音楽
とは思えないような神秘的であり壮大な空間の広がりが、画像とスクリーンがなくとも
私の眼前に出現した事に興奮と感動が押し寄せてきたのです!

やがて右奥から勇壮なドラムによる力強いリズムが静かに始まり、次に左手から
低い音階を奏でる中国?の弦楽器が登場し、次第に高まるドラムのリズムに呼応する
ようにホルンを中心とした管楽器が壮大なサウンドステージを背景に描き始め、
そこにヴァイオリンの調べが空間を満たしていく。この盛り上がりいいです!

長大なクレッシェンドで声楽と管楽器による広大な空間へと拡大する響きが渦巻き、
うねるような旋律が頂点を迎えた時、一瞬の静寂が戻り再び混声合唱による主題が
繰り返され、壮大な低音の残響を残しながら消えていくドラマチックな一曲です。

そして、その重厚感極まる低音はドラムだけではなく、コントラバスかシンセサイザーか
分からないのですが、同程度の低音階にて脈打つような重低音が空間を埋め尽くして
いることにはっと気が付く。サブウーファーは使っていないのに!

三分に満たない短いトラックながら声楽とオーケストラが音の洪水のごとく押し寄せる
という迫力の中に、各パートの分解能を更に高めて音像を明確にし、広大な音場感と
両立させる再生空間の品位を、この音響空間が高めていたことに改めて驚き感動した!

このCDは何かをN.N様には告げずに最初の一曲を聴いた後に、種明かしとして最も
なじみ深い次の二曲を連続してかけて行ったのです。

【Disc 2】 07. Mothra’s Song  09. Godzilla Main Title

07.では冒頭から重厚なドラムが独特のリズムで叩き出されてくるのですが、
当然のことながらスクリーン後方のサブウーファーが大活躍する曲であり、
子供時代に観たモスラの映画で歌われていたテーマソングでしたが、これを
最初の劇場でエンドロールが流れ始めた時に聴いた時には感動ものでした。

このCDはクラシック音楽のように録音レベルが小さく、言い換えれば大きなピーク
マージンを必要とするほどダイナミックレンジが広い録音であり、この曲では
最初のドラムだけに音量を合わせてしまうと後で大変な事になるというもの。

劇場ではドラムの迫力だけで相当なものでしたが、ストリングスが入ってくると
やはり映画向けの音質だな〜と思ってしまうものですが、Kharma Grand Ceramiqueは
待ってましたとばかりに高品位な弦楽器として再現し、打楽器の強烈な音圧の中で
緻密であり正確なストリングスを丹念に響かせていく事で存在価値を発揮します!

09.では冒頭のお馴染みのゴジラの主題がチューバとバストロンボーンの低音金管
楽器によって、重厚な合奏でバリバリと空間を突き破るような迫力で鳴り響く。

日本人の掛け声パフォーマーたちが威勢のいい声を張り上げ、低弦楽器の重い合奏が
うねるように旋律を奏で、シンコペーションをきかせた叩きつけるような管楽器の
アクションが広大な空間へと残響を広げていく迫力に酔いしれる!気持ちいいのです!

そして最後に劇場のサブウーファーをこれでもかと意識して叩かれるドラムの一撃!

空気をブルン!と震わせて空間に放り投げた重低音の残響が、まさにストップウォッチの
秒針の動きをイメージさせて余韻の時間軸を計れるような響きを残し、雷鳴のように
遠ざかっていく素晴らしさ!

それはサブウーファーの音質を肌で感じる劇場での低音とは違い、前述してきた
ようにN.N様のお部屋の音響特性によって、録音に含まれている超低域が室内に
充満することなく速やかに減衰することで、私も知らなかった低音楽器の詳細な
ディティールが描かれていたからです。

そして、この強力な低域のエネルギー感が発祥から消滅まで、定在波の影響が一切
ないというリニアな減衰特性に支えられているという事が実感されました!

この未体験の低域の解像度によって描き出された情報量に私は白旗を上げたのでした!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

猛暑の夏、お伺いするとN.N様のご家族からも大変なおもてなしを頂き、目の前に
供された美味しそうなケーキとコーヒーに手を付けることも忘れて聴き続けました。

これまでに聴かせて頂いた課題曲のポイントやサントラ盤にまつわるエピソード、
選曲のあれこれにまつわる感想などを語りつつ、遂にギブアップした私はやっと
おもてなしのスイーツに手を伸ばして味わったものでした。美味しい!

そう、味わいと言えば…。

一流レストランのシェフが供する料理を味わって、その熟練の感性によって作られる
料理はレシピを真似しただけでは出来ない領域の完成された味だと感動出来るでしょう。

その美味に隠されたテクニックのひとつずつ、スパイスと調味料の配合における感覚、
その名人芸による料理から隠し味をひとつずつ抜き取り外して行ったらどうなるのか?

日本音響エンジニアリングの技術で作られた音響空間の構成要素をひとつずつ分解し、
取り去っていくという実験が出来れば技術的要素各々の貢献度を分析することが
出来るかもしれませんが、一流レストランでの食の味わいというマナーに反する
事になるのと同じ事だと私は納得し味わい楽しむことに専念すべきだと思いました!


          ■N.N様より頂いたメッセージ■

詳細なレビューとお褒めの言葉を頂戴しありがとうございました。
実際に機器の変更なしで、これ以上ないであろうと思えるほど劇的に音空間が
グレードアップしました。

川又様をはじめ、ご尽力頂いた日本音響エンジニアリングの皆様には大変感謝致しております。

以前の部屋では何の知識もなく、使い勝手と見た目だけを重視して設計したオーディオ
ルームでしたが、調音パネルや調音グッズをどのように工夫しても根本的には解決でき
ないということを思い知りました。

この度、たまたま家を新築するという話の中で、予算のことは別にして、とりあえず
川又さんに相談してみよう…と、それ程深く考えずにおりましたが、いつの間にか
壮大なプロジェクトになり、あまりにも分不相応な立派で快適なオーディオルームが
完成いたしました。

設計の段階では分からなかったことで完成して音が出てから気づいたことですが、
実際に工事が始まると吸音材の配置と量、更に板の配置など、音のために計算され
尽くしたプロとしてのノウハウや知見がファブリックの壁紙の奥に詰まっており、
その技術力に圧倒されました。

完成後には日本音響エンジニアリングの音響調整や川又様による試聴確認及びチェックなど、
徹底した検証がなされ、それだけでもなんて贅沢なことなんだろうと実感しております。

自分がこれまで目指していた音は、どちらかというと音場感重視で、常に立体感や
浮遊感を引き出す方向で調整をしてきました。

部屋いっぱいにエネルギーの粒が放出され、それを体全体で浴びる…といった感覚でしようか。

川又様が理想とされる「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という指標に関しては
音像と音場は両立し難いものと認識していたのです。

つまり、音像感にフォーカスするとエネルギーがセンターあたりに集中して空間感が
損なわれると実感しておりました。

ところが音響調整後、この部屋で聴くと今まで以上に部屋全体に音の広がりが感じられ、
さらに実体感としては"引き絞られた音像"となり、音像と音場が矛盾なく両立する
ようになったのです。

これこそが、このオーディオルームで得られた発見であり、最高の喜びとなりました。
これはすべて経験やノウハウを基にした技術力に裏打ちされた成果に他なりません。

裏話をお伺いすれば、一つ一つが計算され、多数のスタッフの打ち合わせが行われており、
都度調整と確認が行われているとのこと。

オーディオ機器が入っていないにも関わらず何故最終的な音にまで仕上げることが
できるのか、まさにプロフェッショナルな仕事がなせる業なのだと思います。

日本音響エンジニアリングとのご縁を結んで頂いた川又様には改めて感謝申し上げます。

また、この部屋はピアノのレッスン室としても活用しております。

オーディオルームとして最優先に設計された部屋ですが、ピアノの周囲が多数のANKHで
囲まれているせいか、非常にオーガニックでナチュラルな響きが得られる空間でもあります

本文中にもありますが、今回あまりの音の良さに、部屋に相応しい音を求めて
ピアノを新調してしまいました。

ピアノを演奏するのは同居しております姉ですが、本人の感想も下記にお伝えしておきます。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

完成した部屋に長年愛用していたグランドピアノが運び込まれて、初めて音を出した時の驚き。
今までと本当に同じピアノなのかと疑いたくなる余裕のある音。

指先の微妙なコントロールに応えてくれる知的な音。
なぜこんなに違うのか。
この音響空間のなせる業であることは明らかでした。

それは,私にピアノ弾きであったことを思い出させ、何十年かぶりにピアノに
没頭することとなりました。

自分の音を聞くのが楽しい。練習が楽しい。
そして、新たにとうとう憧れのピアノを手にしてしまいました。

ショールームで試弾した時、透明感のある豊かな伸びのある憧れのあのピアノの音色でした。

いよいよ、そのピアノが我が家に運び込まれました。
初めて弾くのはショパンのバラード四番にしようと決めていました。

冒頭のG音。
打鍵したときに現れたその音に私は痺れました。

奥行のある美しい音が広がる空間。
澄んだ豊かな優しい音に包み込まれる浮遊感。今でも私を興奮させます。

オーディオをプライオリティとして作られた空間ではありますが、ピアノが主役と
なったとき、見事にピアノにスポットライトが当てられました。

小さいけれど一流のホールです。驚きです。本当に素晴らしい。

日本音響エンジニアリングの理論と技術。川又氏の知識と知恵。
そこにあのSTEINWAYが加わって叶った最高のピアノ室。

私なんかには勿体ない。

余談ですが、こういう環境で日々練習できる孫たち。なんて幸せ者でしょう。
うらやましくて仕方ありません。

この部屋に関わって下さった全ての方々に厚く厚くお礼申し上げます。


           ■聴覚と感性による判定■

最終章の題名にふさわしいN.N様のメッセージを大変嬉しく拝読させて頂きました。

その中で私が最も嬉しく思ったことは「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」と
いう意味と実際をN.N様にご理解頂けたことであり、私と同じ音風景を見て頂けたと
いう事が究極的な結論であったという事かと思います。

そして、N.N様のお言葉にもありましたが、私の理想とする音風景は残念ながら
オーディオコンポーネントのアップグレードだけでは得られない可能性が高いと
いう事でしょうか。

もちろん当然のことながらオリジナルの音響空間として多数の成功例もあるという
前提で“可能性が高い”という表現にしておりますので誤解なきよう追記致します。

私も本文にて書いているように、音響的環境の優秀なところで高品位な録音と
優れた再生システムで聴くというトレーニング的な体験によって経験値が高まり、
検証すべき対象の再生音に対して環境の問題なのかオーディオシステムが役不足
なのかという判断が初めて出来るようになると考えています。そして、私はこの
ような経験値の高さを誇れるだけの仕事をしてきたという自負があると述べました。

今回のプロジェクトによってN.N様は以前と同じオーディオシステムであるにも関わらず、
同時にピアノを弾かれるお姉さまも以前と同じピアノであるにも関わらず、音響空間の
刷新によってスピーカーとピアノから発せられる音がどのように変化したかを体験して頂き、
その成果を高く評価して頂きました。本当にありがとうございました。

このような完成度の高い音響空間を創造する日本音響エンジニアリングの情熱と
技術力が最も重要である事を最後に述べておきたいのですが、では専門店の営業職
という私との連携において自分自身の役目というものを次のように考えています。

日本音響エンジニアリングの仕事ぶりを結果的な音質として確認するために訪問させて
頂き試聴しましたが、私が同社を信頼し推薦する最大の理由として同社は責任施工体制を
標榜しており、設計から施工後の音響環境まで一貫したポリシーと業務体制を徹底して
いるということが最も重要な事だと考えています。

過去には設計だけを依頼し、施工は工務店という分業制であり、またハウス
デザイナーが他にいる場合には内装に関わる意匠の制限などもあり、完成後の
音響特性に誰がどこまで責任を持つのかという不安がありました。施主様の
満足感が満たされなかった場合には、このような分業制が問題視されるでしょう。

このような優秀な技術集団である日本音響エンジニアリング株式会社がありながら、
私が存在する事でお客様にどのような貢献が出来るのか…という見識が重要です。

それは、オーディオルームを作りたい。それも費用に見合う高品位なものを、
というお客様の理想を叶えるためのプロデューサーとしての役目と言えます。

ハイエンドオーディオにおける最上級の再生音質を私のレベルで認識しており、
結果としての音質にこだわる監査役としての使命が私にはあるという事です。

それを一言で言いますと、完成したオーディオルームにて私が試聴しOKを出さないと
同社の仕事は終わりにならないということでしょうか。

私は過去の例でも日本音響エンジニアリングに対する忖度は一切なしでダメだしを
したことがあり、私が試聴して指摘した問題点を同社は再工事することで解決し、
その修正後の試聴を私が再度行って納得すれば最終的な仕上がりになるという事で、
お客様のために私の経験と感性をもって音質評価を行うことで責任を果たすものです。

そして、またひとつHi-End Audio Room Designの実例が誕生したということになり、
下記のように同社の技術ニュースに掲載されました事を最後にご報告致します。

■日本音響エンジニアリング発行の技術ニュースVol.56掲載記事抜粋
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230909162425.pdf

私が追求する理想の音「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という指標を
先ずは当フロアーにて確認して頂き、それが皆様の好みに一致するという事であれば
H.A.L.と同じ音風景を皆様の部屋で実現することは可能です。

以前から新しい音に巡り合うたびに「私の仕事は聴く事から始まる」と言ってきましたが、
それはオーディオ製品だけでなく皆様の夢と理想というお話しを聞く事からも私の仕事が
始まるという意味でもあります。

皆様と共にH.A.L.の音を聴きながら、皆様の夢と希望というお話しをお聞きする事。
そんな出会いとご用命を心待ちにしております。

N.N様そしてお姉さま、この度はご信頼頂きまして本当にありがとうございました。
これからも生涯を通じてお付き合い頂けましたら私も幸せです!

                               2023年9月

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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