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H.A.L.担当 川又利明
    
2023年4月14日 No.1729
 H.A.L.'s One point impression - 石川さゆり「Transcend」

 ■ H.A.L.'s One point impression - 石川さゆり「Transcend」■

本作『Transcend』は、1973年3月にシングル「かくれんぼ」でデビューした、
石川さゆりの歌手活動50周年を記念して制作されたアルバムである。

石川さゆり「Transcend」
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17610386
シングルレイヤーSACD(※SACD対応プレーヤー専用ディスク)

上記サイトにて紹介されていない私が気になるポイントを最小限に述べておくと…

ビッグバンド・ジャズ・スタイルの3曲「津軽海峡・冬景色」「ウイスキーが、
お好きでしょ」「天城越え」は角田健一ビッグバンドによる伴奏。

録音は2022年11月に行われ、収録会場となったのはビクタースタジオの「Studio 301」で、
面積約125u(天井高6m以上)という広いメインエリアとその周囲に最大10室のブースを
備える日本の音楽界を支えてきた名門スタジオである。

12月に入ってから「Bunkamura Studio」において録音されたストリングス編成の3曲
「風の盆恋歌」「人間模様」「朝花」はグレート栄田ストリングスによる伴奏。
こちらも約120uの広さのメインルームとその周囲に複数のブースを備える響きの
良さが定評の録音スタジオだ。

ビッグバンド曲は96kHz/32bit、ストリングス曲では192kHz/32bit(いずれもPCM)という、
2種類のハイスペックによるマルチトラック録音が行なわれたが、このサンプリング周波数と
ビット数は内沼の指定によるもの。

Recording Engineer 内沼 映二
https://www.mixerslab.com/engineer/uchinuma/

Bunkamura Studioの録音からわずか数日後の2022年12月半ば、MIXER'S LABのスタジオ
「LAB recorders」(B-studio)において、内沼の手により前述のマルチ・トラックマスター
から2ch(ステレオ)へのミックスダウンが実施された。使用されたのは、SSL(Solid
State Logic)のアナログ・ミキシング・コンソール「SL9072J」。

シングルレイヤーSACDは、MIXER'S LABの選択により、SSLコンソールのアナログ出力
からそのまま録音されたハーフインチのアナログテープがマスター音源となった。

内沼によると「PCM音源からDigital to DigitalでDSDに変換してSACD用のマスターを
制作するよりも、一度ハーフインチのアナログテープに録音して、そのアナログ音声を
DSD化したほうが音の厚みや、さゆりさんの声に艶があって良かったんです。
不思議と音の奥行き感も、アナログテープを経てからDSD化したほうが豊かでした。
最終的に制作されるメディアを想定して、これも聴感を優先しての決定です」という。

このハーフインチのアナログテープはRecording Madia Group製のテープは20年ほど
前に製造されたものでMIXER'S LABの秘蔵品であった。

テープスピード76cm/sで制作されたマスターテープはMIXER'S LABのマスタリング
エンジニアである加藤拓也の手に委ねられ、スチューダーのA820テープデッキおよび
Pyramixを用いてSACD用の2.8MHz/1bit・DSDデータが作られた。

その際、すべての曲でフラットトランスファーが選ばれたため、皆様の手に届くSACDの
音はマスター音源となったアナログテープとニアイコールと思っていただいて差し支えがない。

以上は(株式会社ステレオサウンド レコード事業部)による解説より抜粋

そのライナーノーツの最後に次の一節があります。

「なるべくボリュウムを上げて、大音量で聴いてください。できれば大きなスピーカーでね」
と内沼は笑う。ボリュウムを上げてもうるさく感じられないのは、優秀録音の証であり、
この録音に内沼自身が大きな手応えを感じたからこその発言であろう。

その成果は皆様のオーディオシステムで体感いただければ幸いである。
石川さゆりの歌の魅力と歌手活動50年の重みをどうぞご堪能ください。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

Stereo Sound Flat Transfer Series/石川さゆり「天城越え」「朝花」を初めて
聴いたのは2012年12月のことで、それ以来折々の試聴に使用してきました。

その後の同シリーズの美空ひばりも含めて現在でも当フロアーのコレクションとして、
お客様の好みを察知した際には意外性ある選曲として多用してきたものです。

このマスターテープから何も足さず引かずというFlat Transfer Seriesは以前に
録音された貴重なマスターテープの品位をそのままにというコンセプトであった
ものですが、今回は新録音ということで私の興味関心にジャストミートしたもの。

2023年4月某日、発売直後のアルバムを手にした私はいそいそと試聴室にこもり、
日本の音楽を日本のスピーカーとコンポーネントで聴けるという静かな興奮を
楽しんだのでした! 先ず最初に組み合わせたのは当然のリファレンスシステム!

H.A.L.'s Sound Recipe / 石川さゆり-Transcend - inspection
system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20230423170058.pdf

「津軽海峡・冬景色」

一般的にはビッグバンドがステージに並ぶと、手前にはサックスセクションがあり、
左からアルト2本、テナー2本、バリトンサックス1本の計5本で構成されることが多い。

その次がトロンボーンセクションで、一般的には3本のテナートロンボーンと1本の
バストロンボーンで構成されるが持ち替えがあったり5本編成ということもある。

このような、ひな壇の一番上で奥に並ぶのがトランペットセクション、これも一般的
には1番トランペットが最も高い音域を演奏し、2番、3番につれて音域が低く
なるという演奏スタイルが多い。直線的で華やかな音色で旋律の盛り上がりを飾る。

各セクションでの1番というのは必ずしも列の一番端という位置ではなく、多くは
左から二番目が1番、左端が2番、その右に3番4番という配置が一般的なもの。

しかし、これらはステージでの立体的な配置であり、平面の床が当たり前のスタジオでは
各プレーヤー正面にセットしたマイクごしに指揮者を見ながら各パートごとに横並びとなり、
ベースやピアノなどはパーテーションで区切り、ドラムとヴォーカルは専用ブースで収録
するというのがスタジオ録音での基本形となっている。

私もビッグバンドは好きなので当フロアーにも多くのCDがあり、スタジオで収録した
際の各パートの配置は大同小異という参考画像も多数見てきましたが、出来上がった
作品の一曲ごとにスタジオの録音風景とは全く異なるサウンドステージとなる。

最近はよく「引き絞られた音像と広大な音場感の両立」という私のモットーを
述べることが多いものだが、それを目指したシステム構成にて日本人には圧倒的な
知名度を誇る名曲の数々がどのように聴くことができるのか期待のうちにスタート!

ふとカウントベイシーを思わせるピアノがセンター定位で短いフレーズを飾ると、
リズムセクションのドラム、ベースは控えめな音量感で登場し、ミュートをきかせた
トランペットが左側でふんわりと呟き、ダウンテンポのイントロが始まった。

えっ、この曲はなんだ? イントロだけではまったく解らない、聴き慣れて耳に
しみ付いている津軽海峡・冬景色のイメージとは全く異なる出だしに数舜の戸惑いを
感じた直後、角田健一ビッグバンドがエネルギッシュに展開する。ここから既に凄い!

セクション内で旋律と対旋律とベースラインを完結させることが出来るリード、
つまりサックスセクションが左右スピーカーの間に幅広く展開し、柔らかな音色
ながら重厚なハーモニーを前面に押し出してくる素晴らしさ!これいいですね!

ブラスセクションの質感は極めて正確に捉えられ、リードセクションとの分離感も
当然のごとく完璧であり、HIRO Acousticの特徴である音像表現がビッグバンドの
迫力と繊細さをキープしたまま各パートを私の眼前に並べていき、ステージ感を
見事に再現する奥行き感と高さを伴って見事なひな壇を構築していく爽快感が堪らない!

そして、ビッグバンドの放つ響きは左右両翼と天井に向かい拡散し、巧妙なマスタリング
によって包容力を感じさせる音場感を整えたかと思うと、知らない間にステージ手前に
歌手の立ち位置を空けていたことに気が付いた。そこにいよいよヴォーカルが!

オリジナルの「津軽海峡・冬景色」では劇的なオーケストラの雄大なイントロから
歌い始めていた石川さゆりは、このジャズアレンジでは歌い方も変えてくるのでは
と思っていたのですが、素人の私から見ても原曲に近い淡々とした歌い始めだった。

失恋、失望の歌なのにゆったりとしながらも力感溢れるビッグバンドとの共演と
いうことで、演歌的なこぶしのきいた歌い方を彼女がどう自分なりのアレンジをして
くるのだろうかと思っていたのですが、その辺は円熟したベテランの持ち味なのか、
オリジナルで張りと伸びのある見事な歌唱で全体をまとめていたものを、ほんの少し
だけテンションを緩めているのか、ビックバンドの迫力とエネルギッシュな伴奏を
巧妙にいなし切々と歌い上げていく素晴らしさに私は惚れ惚れと聴き続けていました!

船山基紀の編曲も素晴らしい出来栄えで、ビッグバンドの各パートが織りなす対旋律で
交叉するリードのハーモニーと、全体の緊張感を時折りほぐすように短いフレーズで
顔を出すトロンボーンのひょうひょうたる印象も素晴らしく、ひな壇の上からここぞ
という時に鋭く響くトランペットの爽快なシンコペーションに思わず身体が動く!

トラックタイムはちょうど4:00という「津軽海峡・冬景色」もう終わってしまうのか
という思いから、私はリモコンで一曲リピートをかけて聴き続けてしまいました!


「風の盆恋歌」

前曲ではビッグバンドの各パートの配置がステージとスタジオでは異なるが、
スピーカーで聴いた際にステージと同じひな壇の上下と遠近が感じられるような
巧妙なミックスダウンによって録音されていると述べましたが次はどうか?

フルオーケストラでの弦楽五部は三管編成で50人編成ですが、今回の録音でバックを
務めたグレート栄田ストリングスでの編成人数に関しては資料はありませんでした。

しかし、上記サイトで約120uの広さのBunkamura Studioにおける収録風景の写真から
想像するに、3本のコントラバスが壁ぎりぎりにいるというものなので、恐らく30人
以上という弦楽編成ではなかろうかと推測しています。

ビッグバンドのひな壇型配置を録音テクニックによって再現していると述べましたが、
こちらの弦楽編成はスタジオでの配列と同様な定位でミックスダウンしたという。

すなわち、第1ヴァイオリンを左側、第2ヴァイオリンを右側といった具合に両翼に
ヴァイオリンを振り分け、中央左にビオラ、中央右にチェロ、右後方にコントラバスと
いう定位感で仕上げられているということです。

そんな資料の一節を頭に入れてリスニングポジションにつきリモコンでスタートすると…。

ヴァイオリニストであり、作曲家、編曲家でもある斎藤ネコのアレンジが実に見事で、
先ずは冒頭の弦楽合奏が40秒間続く。この40秒間だけで満腹という音質の素晴らしさ!

冒頭から重厚な響きで弦楽五部での合奏に驚く! 出来るだけ大きな音量でという
お薦めに従い、前曲よりもプリアンプのボリュームを2dBほど大きくしていたのですが、
ホール録音とは違い弦楽各パートとの距離感は近く想像以上に腹に響く音量。

そして、スタジオ録音でのコントラバスの重量感とゴリゴリという摩擦感を含む
重々しい響きに圧倒される出足。しかし、弦楽各パートの質感は何とも素晴らしい!

クラシック音楽での弦楽器でも収録後にスタジオでリバーブをかけて残響を調整すると
いう作業は行われているのが一般的なのですが、MIXER'S LABの内沼映二氏の感性による
ものなのか、同社マスタリングエンジニアである加藤拓也の判断なのか、ここで聴ける
弦楽器の実態感は大変素晴らしく、透明感を維持しつつ弓と弦の適度な摩擦感をも描写し、
弦楽器の胴が共鳴する独特の響きを感じさせるリアルさに私はすぐさまフォーカスした!

この40秒間という導入部が終わると一瞬の静寂があり、そこに石川さゆりが無伴奏で登場する!

オーディオマニア的には無伴奏のヴォーカルという録音は大変興味深いものであり、
生々しい肉声のリアルさ、リバーブなどスタジオワークのセンス、私の言うところの
音像と音場感の両立などなど多項目の判定項目と鑑賞ポイントとして注目したいもの。

この録音での石川さゆりの歌声が実に素晴らしい! 左右スピーカーのセンターに
くっきりと浮かび、その輪郭を聴き手に見せる事が出来るほどの解像度を持ちつつ、
くどすぎないリバーブによって空間に溶け込むように消えていく余韻感の美しさ!

このソロヴォーカルを30秒以上の楽しめるだけでも価値ある一曲だな〜と思いつつ、
うっとり聴いていると歌詞の三行目で「若い日の 美しい…」というフレーズから
しっとりした旋律でストリングスの伴奏が戻ってくるのです。

最初はビオラのピッチカートと第二ヴァイオリンのアルコ、次は第二ヴァイオリンの
ピッチカートと第一ヴァイオリンのアルコ、弦楽五部でピッチカートを奏でるパートが
数フレーズごとに交代しつつ、コントラバスのピッチカートとヴァイオリンのアルコと
いう組み合わせまで多彩な背景を石川さゆりの歌声に提供しつつ進行していく編曲の巧さ!

主題の旋律を清々しく流麗な弦楽が奏で、間奏であるはずなのに私はセレナーデの
味わいを感じつつ二番の歌が始まると…。

弦楽伴奏の編曲者のセンスというのは、如何に歌手に寄り添うようにアレンジして
行くのが大切なことかと思い知らされる展開が見えてくる。

一番の導入部での見事な演出も素晴らしかったが、二番に進行してから弦楽器の
アレンジに日本人らしい?巧妙な仕掛けと配慮が織り交ぜられていることに気が付く。

この曲の歌詞をこの場で引用するつもりはないが、1985年に出版された高橋治の
恋愛小説をモチーフに三木たかしが作曲し、なかにし礼による作詞でつづられた
『風の盆恋歌』の深淵なる情緒感に感動してしまいました。

ピッチカートとアルコによって演奏法を変えながら弦楽パートが交代しつつ違う
旋律を奏でていくのですが、そのパートの交代という進行はズバリ歌詞に同期して
いるという私にとっては驚きと感動の組み立て方をしていたという事なのです。

音楽の玄人であれば当然の事のように考え出来ることなのでしょうが、石川さゆりの
しっとりした歌声を美しい、本当に美しい音色の弦楽伴奏で聴いていると日本語の
歌詞の一区切りずつでピッチカートを受け持つ弦楽器が自然に入れ替わっていくと
いう匠の技と、スタジオ録音だからこそ可能な弦楽の響きの保存性の素晴らしさと
いうものに感動しました! お化粧、味付け、色付けしない弦楽器の音とはこれでしょう!

そして、何よりも聴きながら私の興味を引いた歌詞の意味する人情の物語りという
原作の小説を読みたくなってしまいました。私の読書の指向性に恋愛小説という
ジャンルはなかったのですが、この曲を聴いて読みたくなったというのは本当です。
https://www.shinchosha.co.jp/book/103911/


「ウイスキーが、お好きでしょ」

トラックタイムは3:06と短い曲。1991年2月21日に日本コロムビアからSAYURI名義で
発表した楽曲で私も大好きな一曲。当フロアーのコレクションにもベストアルバム他
二枚のCDがあり、前述のFlat Transfer Seriesでも発売されていました。

イントロは右側のテナーサックスが印象的な旋律を奏で、ドラムはブラシによる
シンバルとハイハットが軽いリズムを刻みセンター定位のベースはゆったりとして、
ミュートをきかせたトランペットの切ない音色に合わせてスローテンポでスタートする。

左側ではギターとピアノが控えめなユニゾンで脇を固めると、ヴォーカルをいざなう
ようにセンターではまろやかなトロンボーンが軽やかにメロディーを奏で、そこに
スポットライトが当たったかのように石川さゆりの歌声が浮かび上がる。

オリジナル曲は既に32年前のもので、当時の石川さゆりのヴォーカルは伸びやかで
透明感ある豊かな声量で歌い上げていましたが、熟練の領域に達した本企画での
録音では肩の力を抜いて良い意味でリラックスしているような歌い方で大人の雰囲気!

この曲の歌詞は2フレーズでわずか四行というシンプルなもので、それをバラード調の
ゆったりした歌い方で三回繰り返すとあっという間に終わってしまう。しかし…、

プレーヤーのカウンターが1:25となった瞬間に、ビートがきいてテンポアップした
豪快なビッグバンドが炸裂するスウィンギーな間奏がダイナミックに展開する!
これがまたいいのです!

ざっと30秒間に渡り力強いトランペットの重奏が突き上げるように吹き鳴らされ、
多層階のハーモニーを展開するサックスセクションが前面に迫り、爽快なビッグ
バンドのエネルギー感を全身で浴びるような間奏が飛び去って行くと、再び石川
さゆりのヴォーカルがセンターに戻ってきて「ウイスキーが、お好きでしょ」と
しっとりと歌い上げ、最後の約20秒間は次第にテンポを落としていくビッグバンドの
響きを空間に残しつつ幕を閉じる。いいですね〜、ウイスキー飲みながら聴きたい!


「人間模様」

普段の仕事では歌謡曲というジャンルの音楽を試聴の課題曲として使用する事は
あまりないのですが、今から20年前にリリースされていた曲で正直に言えば私も
ここで聴くのは初めてというもの。

吉川忠英のアコースティック・ギターがフィーチャーされたストリングスバージョン。
その約20秒間のイントロでは思わずため息が出るほど美しい弦楽器の質感に感動した!

第一、第二、ビオラ、チェロと四小節ごとに同じメロディーが積み重なっていく、
川の水が流れるような旋律のストリングスが聴き手の心境に一服の鎮静剤となる。

以前に思ったことですが、今の日本のポップスで歌われる歌詞はほとんど英語が
含まれているものが大多数ではないだろうか。でも、ここでは純粋な日本語だけ!

アーチストも聴く側も若い世代という事は認めつつ、日本語の歌詞に込められた
情緒感というものを改めていいな〜と、石川さゆりのヴォーカルが始まった時に
じっくりと思い知らされました。

この曲の歌詞をここで引用するという野暮な事はしませんが、下町情緒と言ったら
若者たちにピンとこないと笑われてしまうでしょうが、この曲で語られる男女の
思いという本当にしっとりとした曲の進行に見事にハマるアレンジの素晴らしさ!

左側でギター、右側でチェロだけという伴奏でセンターに浮かぶ石川さゆりの声は、
曲によって歌い分ける円熟の歌唱であり、歌詞に込められた人情が素晴らしい質感の
弦楽伴奏によって引き立てられていく進行に我を忘れて聴き惚れる。

音楽家ではない私は楽曲をオーディオ的興味関心で聴いてしまい、その分野での
ワードを使っての表現しか出来ませんが、こんな弦楽器の音色があるのだな〜と
いう新発見がしっとりと余韻を残す素晴らしさでした!この弦は是非聴いて欲しい!


「朝花」

Stereo Sound Flat Transfer Series/石川さゆり「天城越え」でカップリング
されていたのがギターバージョンの「朝花」でした。初出は2007年の曲です。

それが発売された2013年以降は試聴の課題曲で何度も使用してきた馴染み深い
曲であり、ギター伴奏だけの石川さゆりの歌唱力の物凄さが聴ける優秀録音でした。

そんなシンプルな伴奏での「朝花」が何と、里アンナの奄美三線と坂本雅幸の
チジン(奄美の鼓)がフィーチャーされたストリングスバージョンで新録音された
という事で、ぐっと惹かれる思いでリモコンのスタートボタンを押したわけです!

先ずはイントロから流れてきた実に包容力のあるストリングスのアレンジの素晴らしさ。
ゆったりと流れるような旋律を奏でるヴァイオリンの質感の何とも美しい事か!

クラシック音楽でヴァイオリンのソロという録音は多数ありますが、それらでは
意図的なリバーブが弦楽器の質感に大きな演出を加えているものが多く、ここで
聴いていると商品としての受けを狙った気配がぷんぷんと感じられるものでしたが、
作曲家の作品を演奏する際に指揮者の解釈があるように、曲によって録音する際にも
同様な解釈というものがあるという事を強く感じる弦楽器の音色と質感なのです!

前述のギターバージョンの「朝花」では石川さゆりの歌唱は張りと力強さを感じ、
ある意味ではたくましい女性の声という印象がありましたが、この録音での歌は
熟練のしっとりした声色というか、良い意味で脱力しリラックスした伸びやかさが
感じられるものであり、私の言う音像の見え方という点に関しても自然体で空間に
浮かんでいるという表現が相応しいと感じました。いいですね〜実にいい!

奄美三線の淡泊な爪弾きがセンターでくっきり描かれ、チジンの打音が放つ低音
成分がスタジオの空間で追い風を受けたがごとく重量級の余韻を残していくのを
私は感じ取っていました。

スタジオ録音におけるコントラバスのピッチカートの響きは実に鮮明に引き立ち、
そのアルコによる重厚感ある低音が右奥から響いてくると、ホール録音にはない
摩擦感の粒立ちというリアルさが確かに聴き取れることに興奮してしまう!

石川さゆりの歌唱に寄り添うように展開するストリングスの編曲の巧みさに聴き入り、
情緒感溢れる日本語の歌詞をしっかり意識しつつ本企画に内心で喝采を送りました!


「天城越え」

今まで聴いてきた曲の中で私が最も多く試聴に使い聴いてきた曲が「天城越え」です。
イントロからエンディングまで演奏の随所を頭の中で再生出来るほど聴き馴染んで
きた「天城越え」がビッグバンドによってどう生まれ変わるのか。さあスタートです!

曲と歌に寄り添うような伴奏の編曲が素晴らしいと前述しましたが、この曲では
同様に曲に合わせた録音センスの違いがイントロから感じ取れます。

これまでビッグバンドの各パートの音量感でドラムは控えめであったのが、
この曲層で歌詞の意味するところを汲み取ったのか、キックドラムや低い音階の
タムの打音が以前に増して大きめに録られており、リズムセクションの迫力が
他の曲に比べてメリハリあるバランスとなっています。

サックスセクションは左右スピーカーの両翼まで広がり、特にテナーサックスの
低い音階でのまろやかな音色が右側から生々しく聴こえ、最も広い音域を担当する
サックスの厚みと押し出しのある展開が素晴らしい。

石川さゆりが低く弱く声を抑えるパートではトロンボーンが巧妙に背景を作り、
穏やかな音色が良いクッションとして演奏をまとめ、正に直線的な音として印象
付けられるトランペットの咆哮が背後から立ち上がる快感!

石川さゆりのヴォーカルは熱を帯びた歌唱で音像の存在感を引き立たせ、サビのフレーズ
ではトランペットとの掛け合いのように歌詞の一括りごとに冴えわたる音を放射する!

原曲のイメージが強すぎるのか、この曲はこうでなくてはと石川さゆりのファンの
皆さんは思うかもしれませんが、彼女のキャリアあってこその新しい試みとして
高音質の新録音で聴く「天城越え」にマッシブなジャズテイストが発揮されたもの
として私は好ましく評価し、この原稿を書く前に三回も繰り返して聴いてしまいました。

歌手活動50周年という節目で日本人が作ったスピーカーとコンポーネントによって、
この試聴室において私も初めて見る音楽の景色に聴き惚れ見惚れているひと時の幸福を
より多くの人々にも感じて欲しいと思いました。音楽っていいですね〜!

そんな思いを胸に下記サイトからの一節を下記に引用したいと思います。
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17616004

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ちなみに本作は、演奏と音声を同時に録音する一発録音が採用(実施)されており、
その意図についての石川のコメントを、少し長くなるが紹介すると…

石川さゆり:談

「今の録音の仕方は、カラオケを録ってから、ボーカルを録って重ねていくことが
 多くなっていますけど、私は同時に録音していた時代にデビューした世代なので、
 未だにオケを録る時に、一緒に歌うということをずっとしております。

 演奏をする皆さんとセッションをしている、音楽を通して会話をしているとも言えます。
 それが心地よくて、それこそが音楽なんだなって感じています。

 スタジオにいると、それが感じられるので、本当に大好きな場なんですよ。
 歌い手として幸せを感じていますし、皆さんには本当に感謝しています。

 感情や高揚するものが音楽の中にはある。
 人と人を通して本気でそれを重ねた時に、聴いてくださる方々にも、感動が
 生まれるのだなって感じます。

 そういうことを生業としてやってきた50年だったのだなってすごく感じていますし、
 このアルバムを通して、1人でも多くの皆様に、(その思いを)共有していただけたら、
 幸せに思います」

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私もダイナミックオーディオに入社して今年で45年となりました。
その半分以上でハイエンドオーディオという分野を追求してきました。

上記の思いに共通する所があるとすれば、当フロアーで実演して来た世界中から
やってきた多数のオーディオ製品と私は再生音を奏でるというセッションをして
きたのではと思うのです。

再生音を通じて多くのコンポーネントたちと会話していたのかもしれません。

その成果は輸入元を通じて、あるいはメーカーの人々が来日した時に設計者たち
にも伝わっていたはずです。

それはスピーカーやコンポーネントという単品では機能しないものを組み合わせ、
人々を感動させるというゴールを目指すものであり、その音質に共感し感動して
頂いた皆様と音楽を共有させて頂くという事こそが、私の仕事というものであり
多くのお客様に感謝あるのみです。

音楽業界において音質をどのように考えて作品を制作していくのか、ステレオ
サウンドの今回の企画に対して私は敬意と称賛を惜しむことなく送るものであり、
音楽を通じて豊かな人生が実現するように微力ながら頑張っていきたいと思います。

そんな元気を石川さゆり「Transcend」から頂きました。
本当にありがとうございました。

H.A.L.の音質で試聴したいという皆様のご来店をお待ちしております!

ご予約はこちらから→ https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/appoint.html

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

石川さゆり「Transcend」は一般的なCD・レコード店では販売しておりません。

ご来店にてお持ち帰り可能というお客様であれば当店1F サウンドパーク・ダイナ
担当:矢部(木曜日定休)にご注文頂けましたらお取り寄せ致します。
TEL:03-3255-2151 / FAX:03-3255-2159   info_spd@dynamicaudio.jp

また地方にお住まいの方は下記サイトにてご注文頂ければと思います。
https://www.stereosound-store.jp/

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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