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H.A.L.担当 川又利明
    
2023年1月17日 No.1722
 H.A.L.'s One point impression - MSB Select Digital Director

今回のインプレッション記事を作成するに当たり、タイトルをどうするか一考したものです。

格段の進化を遂げたHIRO Acoustic MODEL-C4CSなのか、その立役者となっている
FM Acousticsとすべきなのか、またMSB Select DAC & Transportの威力なのか、
あるいは重要な構成要素となっているTransparent OPUSシリーズなのか、これら
私が承知しているアイテムの存在感があってこそ今回の感動が得られたという
事実もあり悩んだ結果、国内で最初の導入事例となったMSB Select Digital
Directorの名を冠する事にしました。

私はMSB Select Digital Directorなるものの新製品を当フロアーにて聴いてはおらず、
お客様の意志によって導入を決意されての納品時に初めて聴くことが出来たという
未知のアイテムにおける使用前・使用後の比較試聴という大変貴重な経験をさせて
頂くことが出来た事からタイトルを決定したというものでした。

この体験談を何処から語り始めるのか、先ずは2019年の下記からスタートさせる事にします。

H.A.L.'s Special Installation - HIRO Acoustic Laboratory MODEL-C4CS
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1540.html

上記の記事にて掲載している代表的な画像を下記にて紹介しておきます。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190430210713.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190430210724.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20190430210809.jpg

上記の導入から二か月後、日本音響エンジニアリングANKHの追加補強が行われました。

特にスピーカーMODEL-C4CSの上面に設置した特注ANKHの効果は大きなものがあり、
左右スピーカーのセンター上空に浮かび上がるヴォーカルの質感における変化は
私でさえ経験のないものであり、スピーカーのコンディションを究極的に高める
という完成度の追求が功を奏したものでした。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221229133549.jpg

ここまでエレクトロニクス・コンポーネントに変化はありませんが、この後に
三段階に分けてアップグレードが図られ現在のシステムに変化していきました。

先ずは下記の画像をご覧下さい。上記で紹介したスピーカー上面に設置した特注
ANKHの形状が解るものであり、スピーカーの足元にあるパワーアンプも変わっています。

この構図だけではFM Acousticsであることは解ってもモデル名までは解らないでしょう。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133534.jpg

これを正面から見るとこのようになります。FM Acousticsのパワーアンプはフロント
パネルのデザインは共通なので、その高さによってモデル名を判断するしかないのですが、
このアンプは輸入元アクシスにもデモ機はないので国内のイベントや雑誌取材などでも
紹介されていない製品ということになります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133642.jpg

そうです、これはFM1811です。
http://www.axiss.co.jp/brand/fm-acoustics/fm-acoustics/

でも、FM1811は2chのステレオアンプなのに、なぜ片側スピーカーの足元にセット
されているのか、というと下記のようにFM1811×2 Bi-Ampということなのです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133542.jpg

一般的にバイアンプと言えば、2chのステレオアンプ1台に低域、もう一台に
中高域を受け持たせるという方式を指すのですが、私は経験上2台のアンプを
左右に振り分け通常Lch/Rchとしている各々に低域と中高域を担当させ、左右
独立させてモノラル構成とするモノ・バイアンプという方式を推奨しています。

つまり以前にはESOTERIC Grandioso M1を左右2台ずつで同様な方式をとって
いましたが、駆動チャンネル数はそのままとしてモノアンプ構成のメリットを
FM Acousticsにおいても踏襲するということなのです。

同時に電源環境にも妥協なくTransparent OPUS Power lsolatorをアンプ1台に
OPUS Power Cordを使用して給電するという完璧さを求めました。
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/transparent-2/

正面から見ると下記のようになりますが、このスピーカーのリプレースメントは
当フロアーで私が行っている左右間隔とリスニングポジションとの距離感という
トライアングルをそのまま実現したものです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133523.jpg

そして、特筆すべきは下記にて見られるような天井高5メートルという空間サイズが
私の理想とする再生音に大きく貢献しているという事実です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133624.jpg

そして、コンポーネントを格納するラックからの視点では下記のようになりますが、
MSBの共通デザインによる各ユニットが並んでいるのが解ります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133614.jpg

上記の構図では見えませんがラックの最上段にはMSB Select TransportとFM266-MK2Rを
操作しやすいようにと下記のように配置しました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133633.jpg

その下の段の右側に今回主役として国内第一号で納品したSelect Digital Directorを
セッティングしたものです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133605.jpg

そして、ラック最下段にはTransparent OPUS Power lsolator、それらの出力は全て
OPUS Power Cordという強力無比な電源セクションを配置しました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133702.jpg

そのラック全景は下記のようになり、当フロアーでも実現できなかった完璧な
ソースコンポーネントがここに完成したというものです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221228133556.jpg

ちなみに、このオーディオラックは現在はモデル名は変更されていますが、
finite elementeのMR-33-1+SR1120+cbs4という特注仕様でお値段は252万円と
いうこだわりです。下記サイトは現行製品であり参考として紹介しておきます。
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente-2/

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

2022年は三年目のコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻という不安定な世界情勢が
あった一年であり、その12月に国内最初の納品事例となる訪問でしたが、
慌ただしい師走の交通状態もあり輸入元アクシスの到着が遅れるという状況でした。

しかし、それが私にはかえってありがたいものであり、Select Digital Directorを
セッティングする前に、私にとって試聴における万能薬とも言える音質評価の基準と
なっている下記のSACDを使用前の音質確認のために試聴する時間が出来たのでした。

■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html

セッティングに要する時間もかかる事から多数のディスクを持って行っても、
じっくりと試聴する時間も取れないだろうという事で、この一枚に絞ったわけです。
でも、今になって思えば、この選択は大正解だったのかもしれません。

音楽を裸にするスピーカー登場!!その名はHIRO Acoustic Laboratory MODEL-CCS!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1160.html

思えば早いもので8年前に登場したHIRO Acousticは以来、当フロアーにてリファレンスと
して不動の位置を占める存在であり、同社の最高峰であるMODEL-C8CSに至るまで
進化を遂げてきたものでした。

H.A.L.'s Special Release - HIRO Acoustic Laboratory MODEL-C8CS
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1536.html

それほどHIRO Acousticを知っている私ではありますが、前述の新製品を使用する
前のMODEL-C4CSを聴いて私は驚き感動してしまったのです!この段階で物凄いのです!

先ず最初は「1.世界の車窓から」から。お客様にセンターポジションを譲って頂き、
リモコンを手にして約4メートル先の空間に視線を固定し最初の一音を待っていると…

ハープだけ8秒間のイントロで私の眼前に現れた音像はホイッスルと号令で気をつけ!
を言いつけられた青年が指先からつま先までピシッと姿勢をただして爽快な緊張感を
見る人に与えるような素晴らしいテンションと余韻感を発揮しているのです!

それは常々当フロアーで私が聴いてきたHIRO Acousticとは別物という再現性であり、
気をつけの姿勢は引き締まった筋力とプロポーションをイメージさせる見事さで、
私が聴き続けてきたHIRO Acousticを遥かに超える素晴らしさ!先ずこれに驚く!

高音階が左側で低い音階になるにつれて右側に定位するハープ一弦ずつの音像は
センター定位にして驚嘆すべき音場感を発散しており、撥弦楽器であるハープの
響きが目の前の空間にオーロラのような残響の揺らめきを美しく展開する!

そのハープの中心点から湧き上がるようにして登場したチェロの音像は私が知る
過去のHIRO Acousticによる再生音よりも遥かに絞り込まれたフォーカスを実現!

FM1811×2 Bi-Ampがもたらすウーファーの制動力は別次元の引き締め効果を
HIRO Acousticに与え、低域の歪率を前例なきほどに引き下げた結果として
ウーファーから放射されるクロスオーバー周波数以上のレンジでの楽音に対して
強靭なグリップ力をチェロにもたらしているという事が恐ろしいほどに実感される!
これは凄い!

当フロアーのHIRO Acousticで数え切れないほど聴いてきた同じ曲なのに、
FM AcousticsとMSBというコンビネーションが日本製スピーカーの潜在能力を
ここまで引き出すのかという驚きと感動に一曲目からノックダウンされてしまった!

次は伴奏楽器の数も増えた課題曲として「10.Offset Of Love」にトラックを進める。

最初の一曲目で感じ取ったハープとチェロだけというデュオのシンプルな録音であるが故、
その個々の楽音に対する分析で驚いた私に追い打ちをかけるがごとくの出だし!

スピーカーユニットが存在しないセンター左寄りの空間に登場したギターの質感、
一弦ずつの分解能と撒き散らされた余韻感が壮大な音場感を提示し、そして美しい!

弦だけではなくギターのボディーから湧き上がる響きの階層が周辺に広がっていく、
そのグラデーションの中に含まれる多彩な倍音成分が多数の音色の変化として感じられ、
この段階で当フロアーで聴いてきた記憶から情報量の格差を実感させられる敗北感に
見舞われてしまった私は硬直状態で聴き続けるしかなかった。

右チャンネルから強烈なインパクトでコンガが叩かれるのだが、その切れ味の鋭さ。
不思議なことに鮮烈なアタックの打音なのだが聴きやすく爽快な余韻を撒き散らす!

背景には高音階のパーカッションが展開しセンターから盛り上がってくるベースの
重量感が記憶とは違う事という直感が脳裏をよぎり、前曲から感じていた過去の
記憶との変化に準じたチェロがセンターに登場する。

前曲よりも奥行き方向に距離感を感じさせる定位感であるが、リバーブの演出が
程よい臨場感をもたらしスタジオで施した空間創造というセンスの在り方を音にする!

短いフレーズのピアノが切り込むように出現し、その響きを存分に空間に放射しつつ、
彼方から聴こえてくるようなオーボエの楽音が素晴らしい遠近法の消失点を描く!

MODEL-C4CSの巨体からは想像もできない空間再現性、いや、空間創造性と言うべきか!

たった二つの音源であるはずなのに極めて絞り込まれた音像と、くっきりと分離する
余韻という情報の取り扱いに関して、このシステムは私の記憶にない領域まで進化している!

驚くのはまだ早かった!どうしても聴いておきたい課題曲「14.帰水空間」をかけた!

無機的であり人工的なシンセドラムの打音が左、右、センターと順番に出現し、
その低音に絡むように高音階のリアルなパーカッションが背景を彩る。ここで凄い!

MODEL-C4CSの四基のウーファーの存在意義はどこにあるのか。それは極めつけの低歪!

言葉で言えば簡単な事だが、これが再生音ではどうなるのか。大変残念なことに
このシステムが叩き出すドラムの質感に関しては当フロアーのHIRO Acousticでも
実演出来ない事をお詫びするしかない。完全にギブアップです、無理です!

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

世界中にはハイエンドと称するスピーカーが実に多数存在しているが、今までに
輸入された製品を私は多数聴いてきた。その経験からすると中・高域の再生音
よりも低域再生にメーカーと設計者の個性が色濃く表れていると考えている。
それはスピーカーのエンクロージャーの設計方針によって大別できる傾向がある。

ここで言う低域を個性化するエンクロージャーの議論としては、アクティブ
ウーファーやサーボアンプを使って低域を専用にコントロールするような設計
のスピーカーは対象外とする。

平面バッフルのみの完全な後方開放型スピーカーという形式、包み込むという
語源の通りエンクロージャーを有するスピーカーではバックロードホーンのように、
低域でホーンロードをかけて特定の低音を強調しようとするものが少数派だが存在する。

そして、バックロードホーンでは物理的に低域の波長に合わせてホーンの設計を行うと、
どうしても大型化してしまう事情と、低域に位相遅れが発生してしまうという事がある。

次に、エンクロージャーを持つスピーカーではバスレフ型と密閉型があるのは
皆様もご存知の事。むしろ現在ではバスレフ型スピーカーの方が大勢を占める
くらいに製品数は多いと言える。

密閉型スピーカーとして大変高く評価され、AVALONの成功のカギとなった名器、
Acentから理論的にバスレフ型に移行して行った同社の歴史の中で、社長であり
設計者のニール・パテル氏との語りによる下記の随筆をご覧頂くと両方式の
特徴がご理解頂けるものと思う。私がコンピューターを使い始める前の時代に
書いた手書きの図がシンプルで解りやすいかと思う。

第一部「プラトン哲学に生きる音」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto45-01.html

正しくポートチューニングを行えば良質な低域再生が出来るという点に関して、
私は何も異論はない。そのような形式のスピーカーで素晴らしいものは多数あった。
しかし、ここで私は新たな論点を思い付いた。

無響室におけるスピーカーの測定で正弦波を使用した場合にフラットレスポンスが
得られたとして、そのスピーカーにダイナミックな低音を含む非常に動的な音楽
信号を再生させたとしたらどうなるだろうか…!?

マイクロホンで測定できるのは再生周波数特性であり、正弦波によって各帯域に
ピーク、ディップが発生しないようにフラットレスポンスを獲得する。
これは基本中の基本で第一歩であろう。

しかし、多岐にわたる音楽信号で前述のような打楽器やリズム楽器のように
非常に瞬発性があり、発音の瞬間が最大音量で減衰していく音。

あるいは、オーケストラにおける低音楽器で連続するもの、オルガンもそうだが、
一定音圧で継続される信号を再生させたらどうなるのか。この論点においては
測定器での普遍的解析はほぼ困難であろうと思われる。

そして、肝心なことは2chハイファイ再生において表現される楽音の音像と質感に
関しては測定することは困難であるという事。

それはバスレフ型の宿命として、ポートから排出される共振周波数をピークとする
低音は音像の表現性を音場感に誘引し、広がる低音の傾向を良しとしてしまう事
ではなかろうかと推測するのである。

更に、バスレフ型スピーカーはスピーカーユニットの振動板に対するエンクロージャー
内部の音圧、または空気圧による制動効果がないので、振動板のピストンモーションを
高速化できるというメリットも見逃せない。しかし…

バスレフポートから出力される低音は電気信号による再生音とは別種のものであり、
ポートチューニングによって変調された低音と、クロスオーバーネットワークで
フィルタリングされたとは言え、減衰してはいても中・高域の成分を含んでいる事も
事実なのである。

これらの要因から、バスレフ型スピーカーでは再生する周波数と音量によって
周波数特性も変化するし、同じ音量で複数のスピーカーを切り替えた場合に個々の
再生音で低音の質感が大きく異なり製品としての個性を持たせているということが
言えるのではなかろうか。

ただし、個々のスピーカーでの個性と魅力という論点においては製品として認められる
完成度を持っているものも多数あるというのは事実だろう。

このように、ダイナミックな楽音の低音がスピーカーによって大きく表現力が
異なるという前提に置いて、密閉型スピーカーによる低音はあくまでも振動板の
挙動によって作られた一元的な低音ということが言える。

つまり、バックロードホーンやバスレフ型はウーファーの振動板の裏側に放射される
音波をどのように扱うのかというポイントがあるが、密閉型スピーカーでは完全に
振動板の前面から放射される音波のみという原理が大きな違いと言える。

その密閉型スピーカーのエンクロージャーにおいて、振動板の背圧となる音波に
変調をもたらせなければ極めて純粋な低域再生が可能になる。
ここで言う変調とは何か!?

先ずはウーファーが発した音響エネルギーによってエンクロージャーが共振するという事。

これは機械的な共振と言い換える事も出来る。スピーカードライバーが発した機械的な
振動がエンクロージャーからリターンされる時にキャビネットの材質と構造によって
変調された振動がドライバーに影響する。

次に、ウーファーの振動板の背圧がエンクロージャーの内部に放射された後に、
どのように減衰させていくかという音響的手法による変調がある。

言い換えれば、振動板の背圧は内部で定在波を発生させたり、特定の周波数が
強調されたりしてから、再度ウーファーの振動板に襲いかかって来るからだ。

MODEL-CCSの開発過程において、廣中さんは内部に充填する吸音材、いや、
ご本人は吸音材ではなく吸音体という表現をしておられたか、特殊なキルトを
試聴の上で量を調整してエンクロージャーに充填させていると言っていた。

このキルトの説明は私も慣れていないのだが、一種の繊維質であるのは間違いない。
ただし、質量は大変小さく、圧縮するとどこまでも小さくなるが空気を含むと
何十倍にも容積を増すという大変軽量な繊維としか言いようがない。

機械的な共振を徹底的に排除しようという事は内部の写真でも解るだろう。
そして、音響的に背圧を減衰するための手段も試行錯誤の上で確立した。

超低域まで深々とえぐるような重厚な低域をいとも簡単に出しながら、しかも、
MODEL-CCSの低音は音像サイズを音量を上げても変化させないという離れ業と
して物にしているのである。こんな低域再生は私も経験したことがない!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

上記は「音楽を裸にするスピーカー登場」と題した記事からの引用ですが、
何が言いたいのか結論を簡単にまとめると、ミッドレンジとトゥイーターでは
スピーカー振動板の前面に放射される音波のみを私たちは聴いているという事。

言い換えれば、スピーカーの正面で聴く音は電気信号から変換された音波であり、
録音情報に忠実であれというハイファイの概念から言えば記録されている信号のみ
を聴いているという状態であると考えられます。

しかし、低音に関してはバスレフ型の場合にはポートから出力された音波は
ウーファーの振動板の後方に放射された音波をリユースしたものであり、
録音されている原信号にはない音波であるという事です。

もちろん精巧に設計され、マイクでの測定では見事な特性を持っているスピーカーも
多数存在しているのは認めた上での見解となりますが、中高域ユニットが再生する
音波とは違い電気信号にない音波を付け足しているというのがバスレフ型なのです。

これを前提にしてシングルウーファーのMODEL-CCSを起点とし、ダブルウーファーの
MODEL-CCCSに発展し、更にMODEL-C4CSへという進化は低域の低歪化を目指したものに
他ならず、その恩恵は実際の再生音ではどうなるかという視点が、この課題曲の
ドラムの音質によって初めて実感されるものなのです。

ウーファーにおける低歪化という視点では磁気回路と駆動されるボイスコイルや
振動板の品位向上ということが論点とされる場合が多いのですが、それが実現した
として次に論じられるのが振動板の振幅を小さくすること、言い換えればウーファーの
振動面積を大きくするという事によって得られる低歪化をMODEL-C4CSは目指したものでした。

そこにFM AcousticsのFM266-MK2R & FM1811×2 Bi-Ampという駆動力と制動力が加わり、
MSB Select TransportとDACという高速かつ高忠実度の膨大な情報量が加味された低域。

当フロアーでのMODEL-CCCSでさえ、上記のこだわりが素晴らしい再現力で他社にない
低域再生を行っているという事を承知している私でさえ初めて聴くドラムなのです!

シンセドラムと言っても昔のような単調な音色ではなく、サンプリング音源から
作り出された倍音成分を豊富に含む打音は低歪化により極めて高い解像度を獲得し、
今まで一塊の音像であった打音の内部に様々な色合いと質感の成分が含まれていた
事が初めて実感として聴き取れるようになったのです!これには驚きました!

ウインドチャイムのようなきらめく高音のパーカッションと、シーケンサーが
作り出したのか人工的なパーカッションが空間を彩り、スタジオ録音ではあるが
素晴らしい音場感を提示しつつ主役を迎える舞台を作っていくと…。

「なにっ!このチェロのきめ細かな質感は!その音色の余韻の美しさは!」

ハープとのデュオで描かれたチェロが演奏する空間サイズと比較して、この曲では
他の楽器が加わったことにより更に一回り大きなサウンドステージが用意され、
そのセンターでゆったりとアルコによって弾かれるチェロの質感には強靭さと
柔軟性が同居するという妙技をいとも簡単に実現している事に感動しました!

そんなチェロの変化に呼応するように、右側の低音階から左側へ音階を上げていく
パンポットで録音されたマリンバが登場すると、2本のマレットを高速で操り左右に
木琴の配列を展開していく演奏に惹き付けられていく。

マレットがヒットした瞬間コンッ、カツンという音板が跳ねるような硬質な打音が
飛び出したかと思うと、フレーム下の共鳴管が連鎖する響きを発し、左右に飛び交う
素早いマレットの動きが残像として見えそうなリアルな展開に息をのむ!いいです!

チェロが間奏の数フレーズをゆったりと奏でると、リバーブで彩りを加えたピアノが
登場し後方へ余韻感を引き伸ばす。この透明感が向上したピアノの質感は前述の
歪感の少なさから聴きやすさや滑らかさにつながっていくと表現した事と同意義であり、
アナログ信号の起点となっているMSBの美意識を見せつけるのです!

やがてピアノは右手だけの透き通る高音だけのフレーズに変化すると、きらめく
パーカッションとかすれるようなキーボードが背景を再構成しチェロが再登場する。

ゆったりと美しい旋律をチェロが奏でると、冒頭から続いていたシンセドラムの
リズムがふっと無くなり、次第にテンポと音量を落としながら溝口肇のチェロが
終焉のフレーズを実になだらかに演奏し幕を閉じる。いや〜参りました!素晴らしい!

各パートの楽音でオーディオ的に曲の起承転結が提示され、それがオーディオルームの
豊かな空間に瞬発性をもって登場し消滅していくという、余韻で描かれるスケール感を
極めつけの自然さというサウンドステージで聴けるシステムと環境の素晴らしさ!

もうこれで最高これで十分じゃないのか? その思いに圧倒された私ですが…。

そこにMSB Select Digital Directorを追加すると何が起こるのか?
http://www.axiss.co.jp/news/
http://www.axiss.co.jp/brand/msb-technology/msb-accessories/msb-director/
時間経過により上記サイトが更新されていましたら下記リンクをご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20221220154417.pdf

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

MSB Select DACのファームウェアをアップデートし設定変更、DACの入力モジュールを
Digital Directorに移設する合理的な設計。従って他社DACとは互換性なし。

輸入元アクシス担当者の作業が完了し、T.I.様から記念すべき第一声を聴かせて
頂けるという大変光栄であり嬉しい配慮を頂きリスニングポジションにつく。

先程までの感動の余韻が残っている私の心中では、もうこれ以上の進化は必要ない
のではという充実感がくすぶっていたという本音を敢て一言述べておくことにします。

さて、先ずは「1.世界の車窓から」聴き始めると…!?

「うわ!このハープなに!一弦ずつを弾いてから消えるまでの余韻の滞空時間が物凄い!」

数秒間のハープだけという冒頭部でいきなりの変化を察知し、微小信号の再現性が
Digital Directorによって極め付きの進歩を遂げていることが直感された!

「デジタルフロントエンド・プロセッサー」という分野の製品は他社にはない。
MSBだけが開発できたデジタル再生の新領域とも言えるアイテムの新製品。

その第一声で私が感じ取ったのは圧倒的な情報量の拡張という事実だった!

その情報量とは各楽音に内包された音色の豊かさを引き出すものであり、ハープの
弦が弾かれ発散していく響きの多層階に渡る色彩感の出現であり、単純な音色と
ばかり思われていたハープの一弦ずつの響きと残響に実に多様な色彩が含まれて
いたという発見が先行していった。

その驚きに間髪を入れずに私を痺れさせたのが、この芳醇たる余韻感の変化だった!

もちろん、余韻を構成する微小信号がDigital Directorによって再生システム全体の
潜在能力を引き出したという事実に他ならないのだが、同じDACなのに…という既成
概念が、今ここで出現した楽音の実体化という変貌にいとも簡単に覆された快感!!

シンプルな楽器であるがゆえにスタジオモニターのスピーカーでは表現しきれない、
録音作品を制作していた人々でも認識しえなかった楽音の奥深さが見えた来たのです!

たった数秒間のハープだけの導入部でさえDigital Directorの威力を思い知った私、
この興奮状態の私に追い打ちをかけたのがチェロの質感の変化でした。これ凄い!

チェロの音像が空間にリアルに浮かぶさまは音響的環境の素晴らしさによって得られたもの、
音像と響き、そして残響と時間経過に伴って絶妙なフォーカスの鮮明さを示しながら、
周囲の空間に濃厚な余韻が浸透し次第に希薄になりながら忠実に音色と質感を維持したまま、
煙が空気に溶け込んで消えていくような自然な消滅を迎えるまでの時間軸が延長されている!

音像の周辺に広がり展開していく響きのレイヤーには既に以前には感じられなかった
グラデーションの多層化を察知しつつ、逆にチェロの音像の内部に対しても新発見がある!

ゆったりとしたアルコで奏でられるチェロは弓と弦の摩擦感を数倍の解像度で表し、
聴き手の指を演奏中のチェロに導き、その胴体が共鳴し振動している事を触覚として
感じ取られてくれるようなリアルさをイメージ出来たのは初めてかもしれない!

チェロが演奏する音階が高低に推移していくにつれ、指先で感じる振動の感触が
優しくなり力強くなりと強弱の変化を確実に伝えてくれるものであり、その音色の
多様さが音波の発生から減衰まで忠実な相似形で展開していく情報量の増加が私の
知っているHIRO Acousticとは別次元の再現性としてもたらされている!素晴らしい!

Digital Directorによって音像から周辺への響きにまつわる情報量の拡張があり、
逆に楽音の音像という内部における音色と質感を更に自然な表現力へと昇華させた!

きめ細かくなったから質感はつるっと滑らかに変化してくる、濃淡を鮮明にして
力強い楽音を再生しようとすると質感の粗さが気になってくる、そんな従来の
再生音に対するもどかしさを一言で言えば自然な響きと存在感という願ってもない
方向性にいざなってくれるのがDigital Directorの効用なのではと思い始める!

チェロとハープだけという録音であるからこそ、楽音の内外に向けての情報量の
拡張を二種類に分けて聴き取り分析することが出来た。良いスタートです!

次は…「10.Offset Of Love」へとリモコンでスキップさせると!?

冒頭のセンター左寄りの空間に登場したギターの質感、ここから既に凄いことに!
共鳴する胴体を持ちながらチェロとは奏法の異なるギターはハーモニーの美しさが圧巻!

その一弦ずつの分解能はMSB Select DACの驚異的な高速演算によるD/A変換によって、
6本の弦がエッジをきかせた楽音として同時にサウンドホールから吹き出される響き
の集合体のように聴こえるが、実はピックが1本ずつの弦を弾く瞬間を高速度カメラで
捉えたような解像度の高まりとしてHIRO Acousticから空間に放射された残像を感じる!

Digital Directorを使用する前は、この一弦ずつの分離感を優先するような印象が
あったものですが、いわゆるオーディオマニア的な視点からすれば歓迎すべき質感と
言っても良かったものでしょう。そこにピックが弾く瞬間のリアルさがあったかも?

ところが、Digital Directorがプロセッシングした信号を同じSelect DACに送ると、
ギターの胴とサウンドホールによるハーモニーとしての一体感が優先される!

それは右チャンネルでの印象的なコンガの鋭い打音の質感にも同様な変化として
察知することができるもので、Digital Director使用前の方が切れ味鋭い打音と
いう記憶があったのですが、それを眩しく感じる音と例えたらどうだろうか?

鋭いインパクトの瞬間、それに視線を集中して10パーセントの忍耐を覚悟して
眩しいものを見続けていたのではないかと思ってしまうのです。

ところがDigital Directorで浄化されたデジタル信号を受けたSelect DACは、
その設計段階でも得られなかったストレス回避の手段を手にする事が出来たのか、
瞬きを我慢して正視し続けてもコンガの鋭い打音に眩しさを感じる事はないのです!

これを滑らかになった、と表現すると何らかの情報をネグレクトして丸みを帯びた
音質に変化させたのではと懐疑的になる人もいるかもしれないが、それをすると
余韻感が減少するという傾向に転じてしまうので私は直ぐに解ってしまいます。

左寄りのギターと右チャンネルの瞬発的なパーカッションに続き、センターには
ベースが登場し、低域の質感にも変化を感じるが言葉に出来ずに聴き続けた。

そんな観察の視点を登場する楽音ごとに飛ばしつつ、前曲に比べて楽器の数が多い
この曲でセンターに登場するチェロは先程よりも音像は小さく描かれている事に気が付く。

そして前曲よりも距離感のあるチェロが旋律を奏でると、ピアノが生き生きと展開し
スピーカーの向こう側からストリングスが背景を彩るハーモニーが実に美しい。

ひとつの楽音で感じた変化は他の楽器でも同傾向の変化を含ませて心地良く聴き続ける。

Select DACの本質を覆し根底から再生音を作り変えてしまうような幼稚な変化ではなく、
Digital Directorが示してくれる進化とは相当に高いレベルでのチャレンジだったと
聴き進むにつれて実感が湧いてくる。さて、この変化をどう言葉で表現したものか?

あっという間に楽器の数が多くなる「14.帰水空間」にたどり着いてしまった。

HIRO Acoustic MODEL-C4CSの低域再生の究極的な低歪再生という事を前述したが、
これ以上の低音をという思いはDigital Director使用前の音質においてもなかった。

そこまで完成度の高い低域であったのだが、Digital Directorを使用してからの
冒頭のシンセドラムの各パートをじっくりと観察すると微妙な変化に気が付く。
しかし、この変化は以前の分析結果とは少し様相が違うのでは…と考え始めた。

その低域再生における変化を言葉として絞り出す事の至難さを感じつつ…。

ハープにおける余韻感の増長、チェロの内面的質感の素晴らしい向上、コンガの
切れ味鋭い打音が音色を維持しつつも質感は浄化され、ギターの音色に含まれる
多層階の情報量が増大するという変化を感じ取った後の重厚なドラムでの変化!?

Digital Directorを使用しなくても極めつけの解像度がきっちりとエッジのきいた
張りのある打音で個体感を高め、ただひたすらにテンションを引き締める事が
正しい低域再生の方向性だと思っていた以前の傾向と分析に関して、純度を高めた
低域再生とはこういうものだという新しい指標をDigital Directorが見せつける!

ドラムの打音は固く引き締まったもの、その輪郭はくっきりとしたエッジによって
周囲の空間との区別がしやすく、音像を取り囲む境界線が見える程に鮮明であると
いう指針にDigital Directorは新たな新解釈を付け加えていることに気が付く。

ドラムという低音打楽器の残響成分が加味され、エッジという境目を際立たせる
だけでなく、低域再生においての余韻感が更に空間への浸透力をもって広がって
いくという自然な音響空間を作り出しているのではということです。

そのためには打音の中心部、音像内部の低音の重量感、より濃厚になった音色と
いう楽音の質的変化が伴っているということであり、単調な低音と思われがちな
ドラムの密度感が濃厚さを増しているという補足をしなければならなかった!

左右とセンターの三か所で叩かれるドラムは互いの位置で残響を引継ぎし、
この重厚な低音だけで音場感を創造するという妙技にDigital Directorが貢献していた!

続くキーボードと高音のパーカッション、ピアノが展開し主役であるチェロが登場し、
前二曲で察知してきた変化が各パートでの同傾向での変化で見せつけてくる。

いい、素晴らしくいい! 美しい、堪らなく美しい!

この時点でDigital Directorが果たしている効果を言葉にすると、自然さという
一言に尽きるのではないかと思い始めていました。

オーディオの世界で自然さという言葉は良く語られる事なのですが、聴いた音を
肯定的に論ずる時の常套句であり定義づけすることは難しいものでしょう。

HIRO Acoustic MODEL-C4CSという文字通り最高峰のスピーカー、FM Acousticsと
いう最高位のアンプ、MSB Select TransportとDACという三大要素を土台として、
この課題曲はスタジオ録音で各楽音の純度は素晴らしいものであり、それらが
ミックスダウンを経て2チャンネルで再生された状態にて自然さをどのように
説明したらよいのか?

これらの曲で描かれる楽音の質感と空間創造性という事に関して、あくまでも
スタジオ録音という音楽的フィクションの世界観の中で、演奏される楽音個々が
ひとつの演奏空間に存在しているというシミュレーションの完成度の高さという
表現で言い表すことができるのではないかと考えました!

楽音ひとつずつが放つ余韻が中空で交差し、各々の楽音が響く領域は互いに交わり、
その響きの連鎖はひとつの壮大な空間を描き出しているということです。

楽音が空中に浮かんでいます、という単純なものではなく、各楽器が放つ響きに
共通する情報量の拡大と展開する空間での共存を促し、その空間に聴き手を招き
入れることで究極的な臨場感をもたらす働きをしているのではないかと確信しました!

聴き手を演奏空間にいざなってくれるもの、それがDigital Directorなのです!

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私は長らくHi-End Audio Laboratoryと称してオーディオに対する研究活動をして
きたものですが、その成果の端的な表れとしては当フロアーでの演奏という単純な
答えを有していると考えています。

実業レベルで専門店として経営を考えた時に、当フロアーでの限界という事は私
自信が良く知っているところです。

私が志向する理想の音とはどんな音なのか、それを何項目かの妥協を認めた上で
表現しているのがH.A.L.で実演している再生音と言えます。

では、その妥協点を取り除き私が理想とする音とは何か、そして何処にあるのか?

私の全知全能をかけて、お客様の情熱と投資に応えることに全力を注ぎプロデュース
した環境とシステム構成によって、私は幸運にも自分の理想が現実となった実例を
世界に向けて発表することが出来たと感謝しているものです!

「デジタルフロントエンド・プロセッサー」という他社にはない分野の新製品を
MSBはDigital Directorとネーミングしましたが、その納品時に初めて威力を知った
私としては理想のシステムに到達する最終段階を確認することが出来ました。

ですから、私にとってはDigital Directorではなく、Audio System Directorだったのです!

川又利明
担当:川又利明
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