■Maegaki
もう20年以上前の事だろうか。パソコンを使い始めてから色々な画像を撮影し、
画像修正ソフトを使って色彩補正を行い使用していた。
ところが、そこに落とし穴があったのです。当時、使い続けていたパソコンの
液晶モニターのバックライトが年々老朽化し輝度が落ちていたことに気が付かず、
暗い画像を正常な明るさに補正したつもりが、正常なモニターで見ると明るすぎて
色彩が白っぽく変化してしまっていたのに気が付かなかったのです。
良かれと思ってやったことなのですが、何をもって基準とするかを見落として
しまうと正しい判断が出来ないという当たり前の事なのですが、それは音質を
判定する際にも同様な事が言えるものだと、私はある日の経験を境にして考えを
改めることになったのです。それは下記の2021年9月27日のことでした。
H.A.L.'s One point impression!! - B&W 801D4 GlossBlack
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1680.html
下記の画像で紹介している株式会社ディーアンドエムホールディングス本社ビルの
試聴室での体験でした。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210927163050.jpg
この試聴室はmarantzブランドによる研究拠点でもあり、企業秘密もあるので室内の
他の場所は撮影できませんでしたが、この建物は本格的な鉄筋コンクリート造りの
重厚な建築であるという。
二つの鉄道路線に挟まれ、更に幹線道路に隣接するという立地であり、近隣からの
振動と騒音を遮断する事を最大の目的として、複雑な構造のビルの内部において
梁や構造物を避けるために非常に困難な設計となったという。実はこれも日本音響
エンジニアリングによる施工で作られたものでした。
外殻壁の大きさは一辺が7.825m、もう一辺が10.275m、高さは4.3mというもので、
その内部にぶ厚い遮音層を作り一回り小さく一辺が7.025mと9.725mで高さ3.15mと
いう空間を再構築しています。更に室内には吸音層と拡散の内装を施していき、
結果的な室内空間としては一辺が6.1mと8m、天井高は2.7mというサイズになり、
容積的には外殻では約80m2、仕上がりの室内では約49m2という空間となりました。
ただし、完成当時と現状では大分変化しており、D&Mシニアサウンドマスター
澤田龍一(澤田さん)らの手によって室内音響の改修が繰り返されてきたという。
そして、驚くべきは試聴室としての音響特性の素晴らしさです。
今回は無理をお願いして貴重なデータを頂くことが出来ました。例えば…
■周波数帯域別残響時間特性
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211017175634.jpg
全帯域で平均残響時間は0.2秒とスタジオレベルの素晴らしさで、特に目を引くのが
90Hzから60Hzという超低域においても0.3秒程度の残響時間に収まっているということ。
一般家庭では300Hz程度から下の周波数では10倍以上の残響時間になってしまうのが
当たり前というものであり、この低域の静寂性という事実がスピーカーの性能と
音質判定に大変大きな役割を果たしているということなのです。
■インパルス応答実測残響時間特性
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211017175647.jpg
前記の残響時間特性は連続するノイズを音源として測定されたものと考えられます。
こちらは独自のフィルターによって帯域制限されたパルスを放射し、音圧の減衰量を
積分化してグラフ化したものだと思いますが、横軸の経過時間で0.2秒まで約70dBの
減衰量となり、素晴らしいことに以後の時間軸においてレスポンスは一切の変調なく
いわゆる定在波に当たるリップリ成分や反復する音圧は皆無であるということです。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
H.A.L.'s One point impression!! - B&W 800D3!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1324.html
上記は五年前の記事ですが、今回D&M本社ビル試聴室で体験した音質は私にとって
驚愕すべきものであり、記憶をたどっても現在とは違うと思えるものでした。
五年前に現在の音質であれば私は気が付いていたと思うのですが、恐らくは当時
から現在までの間に澤田さんらの手によって更にルームアコースティックを調整
されたのではないかと考えています。
H.A.L.'s One point impression!! - B&W 801D4 GlossBlack
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1680.html
上記のインプレッションでも軽く触れていますが、ルームアコースティックの
改善によってスピーカーの音質に関する印象が大変大きく変化したということです。
私は常々音像と音場感の両立ということをオーディオシステムでの再生音に求めて
きたわけですが、それは限りなく小さい音像と限りなく広大な音場感という相反する
要求と言い換えることが出来ます。
今回私が持参したCDの枚数はもっとあり試聴した曲も10曲くらいはあったと思います。
最初は小編成での演奏という録音から聴き始めたのですが、器楽曲だけでなく
ヴォーカルを含めて、この部屋と801D4から繰り出される音質に圧倒されてしまいました。
先ず、音像という評価基準では大げさでなく私の経験値において過去最高でした。
贅肉を削ぎ落としたかとごとくのヴォーカルなどは圧巻の一言!
歌手の存在感が左右スピーカーのセンターにくっきりと浮かび、正にピンポイントで
定位するヴォーカルに驚いてしまいました。
更に伴奏楽器とのセパレーションが完璧に保たれ、各々が発する残響が空間で
交じり合わないという当たり前のように言われても実現は大変困難なことです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210927163050.jpg
上記の画像からもお分かりのようにスピーカー周辺に反射波を発生するものはなく、
左右と後方にも余りあるスペースが取られ、聴いている私の後方にも数メートルの
空間があり、左右スピーカーの中間に定位する音像は極めつけの鮮明さです。
こんな音像表現をするスピーカー、同時に試聴環境の素晴らしさをどのように
例えたらよいのか、この私でさえ記憶のない究極的に凝縮した音像なのです!
H.A.L.の当フロアーでも、あるいは今まで体験してきた他の環境における違う
システム構成においても、今まで良かれと思っていた再生音の音像が実は…。
再生音を聴いている空間で眼前に浮かび定位する音像のひとつずつを、
LEDのような極めて小さい光源による照明あるいは灯りであると例えましょう。
そして、その光源の周囲には水蒸気でもいいし白いスモークでもいいし、とにかく
空気にうっすらとした濁りというか不純物が漂っている、もしくは室内に充満している。
そんな情景を思い描いて下さい。
光る一点を見つめると輝きの中心部のきらめきを感じつつ楽音の音像を認識するも、
その光源の周囲には水蒸気の微粒子に反射し白濁した空気がオーラのように見え、
微細な乱反射は光源から遠ざかるにつれて薄くなり、楽音の残響として広がる
余韻感として例えられるのではないかと思います。
そのような微妙な音像周辺の乱反射によって感じられる周囲にたなびく余韻を
肯定的に考えれば響きの美しさとも言えるし、音像の輪郭をぼかしてしまう要素と
否定的に考えられる両方がありますが、肝心な微細な乱反射が起こり得ない環境で
ないと判定が出来ないものです。この私でさえ今まで気が付かなかったのですから!
更に、この音像が発する再生音には様々な周波数の高さがあるという現実です。
一般的な家庭環境では周波数が低くなるにつれて光源を包む水蒸気は濃度を増すと
いう傾向があり、低い周波数では乱反射が多くなり白濁する領域が広くなります。
このように以前の私も、そして一般的な室内環境でも音像周辺にまとわりつく
スモークのような反射音の存在に気が付かないでスピーカーやオーディオシステムの
音質を議論してきたという現実を思い知らされたのがD&M本社ビル試聴室での体験でした。
室内の空気を換気扇で入れ替えたのか、大きく窓を開け放って換気したのか、
はたまた強力な空気清浄機が備え付けてあったのか、漂うスモーク、充満した
水蒸気などがことごとく消え去った情景を目の当たりにしたのです。
電球で言えばフィラメント、LEDでは発光体そのものという光源の実態が見えるのです!
ヴォーカルではマウスサイズで音像を語ることがありましたが、歌手の顔が見える
ではなく、艶めかしく動く唇だけがスピーカーのセンターに浮かぶと言った方が
良いくらいに声の周囲には乱反射による曇りは皆無であり、ただただ歌手の背景と
なる空間がすっぱりと見えるだけなのです!何もない空間に音像が見えるだけなのです!
ギター、ピアノ、管楽器、打楽器など全ての楽音でも同様な情景となり、今まで
体験した事のない極小の音像がB&W 801D4の中間と周辺に点在し、それら全てが
楽器そのものの写真を中空にピンアップして貼り付けたように鮮明な音像として
固定されていくのですから堪りません!
私の目の前にある風景そのものを巨大な印画紙にして、ジャストフォーカスの画像が
焼き付けられていくように浮かび上がってくるのですから極上の音響的快感です!
そして何よりもドラム、ベースといった低音楽器の音像も同様に鮮明に描き出され、
再生周波数がいくら低くなっても空気中に乱反射する微粒子がないので呆れるほど
引き締まった、いや…、実はスピーカーが出している本当の低音とはこれだけなんだ!
という究極的なダイエット効果をもたらしていることに愕然としてしまいました。
ここ以外の環境で聴いてきたスピーカーの低音には全て響きの贅肉がついていた
という衝撃の体験が私の記憶と認識を大きく揺さぶってきたのです!参りました…
色々なスピーカーに対して、またバスレフ型スピーカーの低音とはこうなんだ…
と今まで評価していた土俵そのものを見直さなくてはならないと私は直感しました。
私はB&Wの新作801D4をより正確な判断を求め今後試聴していくに当たり、自分が
どのような音響空間にて聴いているのかというスタンスを正しく理解することが
出来たという事、オーディオ製品を聴いているということは同時に試聴空間の
ルームアコースティックの影響下にあるという認識を得たということを明記して
今後の試聴と分析に望んでいくという事をお伝えしておかなければと思いました。
D&M本社ビル試聴室ではスピーカーそのものの音質を正しく評価するための場であると、
D&Mシニアサウンドマスター澤田さんからも明確な言質を頂いておりました。
スピーカーの音質検証にふさわしい環境そのものが音楽を聴いて楽しめるルーム
アコースティックと言えるのか、というと様々な要素があり一概には言えません。
ただ音響的環境によってスピーカーの本性を見誤るというミスを侵さないためにも、
今回の体験は私にとって大変有意義であり、この後に語っていく801D4の魅力と能力を
正しくお伝えしていくための判定基準を得たということを述べておきたかったのです。
Hi-End Audio Room Design / Produced by H.A.L.
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/rd/
私は上記の活動を通じてオーディオルームをどのように設計し施工するのかという
経験を多数重ねて来ましたので、D&M本社ビル試聴室のように室内にフローティング
させたもう一つの部屋を構築するというノウハウを学習してきました。
その結果、音楽が楽しめるという音響空間とスピーカーを始めとするオーディオ
機器の開発・設計を目的とした試聴空間との音質的特徴をしっかり理解できました。
H.A.L.'s Hidden Story!! - 日本音響エンジニアリングHybrid-ANKH
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1647.html
日本音響エンジニアリングHybrid-ANKHによるH.A.L.の劇的な音質進化!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1602.html
上記の私のホームグラウンドにB&W 801D4が導入され、前記の経験によって私の
知見に多少の…、いや、大きな判断基準のレベルアップがなされたという前提にて
これより本格的な試聴と分析に着手していきます。
以上、長い前置きとなりましたが、B&W 801D4を評価する直接の文章ではないので
語るべきかどうかを悩んだ末に多少の恥じらいもあり序章、プロローグという表現
ではなく、「Maegaki」とさせて頂きました。ここからが本番です!
第一章「論点の復活」
私がダイナミックオーディオに入社した当時、B&Wを輸入していたのはラックスでした。
DMナンバーシリーズでありふれたブックシェルフ型スピーカー、コーンが黄色という
のが特徴だったでしょうか。当時は鳴かず飛ばずという印象しかありませんでした。
その後は輸入元が今井商事に変更になり、下記のビデオの冒頭で紹介されている
1979年に発表された801、その後の801Fを輸入していた。
でも、当時の私には全く記憶がなく、高級品という部類で若手営業マンの私には
縁がなかったのかも…。
■B&W 800 Series Diamond D4 Overview
https://youtu.be/wapsTgV0xbs
1982年頃だったと思うのですが、ナカミチがB&Wを輸入するようになり、Matrix
構造補強を取り入れたMatrix801S2が登場した。ここでJohn Bowersが作り出した
トップモデルのスピーカーとして本格的に日本市場に紹介されるようになりました。
この頃、技術集団だったナカミチが盛んにアピールしていたのがMatrix bracing、
現在でも継承されているB&W独自の内部構造によるエンクロージャーデザインでした。
この頃にオントップ・トゥイーターと合成樹脂のエンクロージャーによって独立した
ミッドレンジ、そしてMatrix bracingを施したウーファーキャビネットという三分割
された3ウエイスピーカーの原型が出来上がってきたと言えると思います。
参考リンク
https://www.bowerswilkins.com/ja-jp/blog/products/history-of-nautilus
そして、1993年から日本マランツが輸入を開始するようになりましたが、
ここで以前のB&Wにはなかった強力かつ独創的なスピーカーが登場し私を惹き付けました。
随筆「音の細道」第九話「鸚鵡貝の誘惑」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto09.html
当時はまだ完全な商品化というレベルではなく、日本へのプロモーションの一環として
雑誌取材と評論家の試聴ということで、純然たる試作品として短期間日本にやって
きたものだったのです。それを私は聴きました!
この当時に私に解説して頂いたのが、現D&M シニアサウンドマスターである
澤田龍一氏(澤田さん)だったのです。本当に長いお付き合いとなりました。
今となっては稚拙な文章と画面の構成ですが、下記のyoutubeが良い教材になっています。
開発者Laurence Dickie本人の物ではありませんが、2014年にアップされた動画で今でも
見られるので、今後も削除される可能性が少ないだろうと考え紹介することにしました。
B&W Nautilus Loudspeaker story - Laurence Dickie
https://www.youtube.com/watch?v=0FKyfTsyYZI
そのNautilusとの出会いから二年後1995年の再会が第29話「続・鸚鵡貝の誘惑」です。
私のフロアーで何とか展示して欲しいとの輸入元の要望を受けつつ、先ずは実際に
ホームグラウンドで聴いてみたいという願いが三日間だけかないました。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto29.html
その翌年のこと、今度は三か月間に渡り有名ブランドの複数のアンプでドライブ
するという試みのドキュメントが第39話「新・鸚鵡貝の誘惑」です。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto39.html
以上はB&Wが鬼才Laurence Dickieに開発を託した言わばNautilusプロジェクトであり、
それを受けて多くのお客様にオーナーとなって頂いたという思い出があります。
そして、B&Wが70年代から培ってきた800シリーズのMatrix構造とNautilusテクノロジーが
融合した画期的なスピーカーNautilus800シリーズが1998年に発表されました。
第46話「ノーチラス・ウィルス/増殖する鸚鵡貝」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto46.html
長文であることを前提に私が今後述べていく論旨の核となる要素が説明されているので、
出来ることならばご一読頂ければありがたく推奨するものです。
この強力無比な低域再生をベースにしつつ、Matrix構造による各項目の素晴らしさを
実現した上記N801から2005年発表の801Dまで38cmウーファーを継承したが、それ以降は
同口径ウーファーによる後継機は作られなかった。
Matrix構造を継承しつつ、25cmウーファーをツインドライブする形式をB&Wは選択した。
その方針転換はなぜ行われ成功したのか、2001年発表のSignature800が現在につながる
原点となる開発項目の完成形となり、その後のB&Wフラッグシップモデルの起点となった。
第49話「45×65に棲む鸚鵡貝」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto49-01.html
優秀なスピーカーが開発されれば、それを鳴らそうとする優秀なコンポーネントの
開発も促進される。これは昔ながらのオーディオシーンの展開であり、古くは
JBL4343やApogeeなどアンプの駆動力がモノを言うスピーカーに興奮した一時代を
作っていました。そして、B&W Signature800の登場も同様にエレクトロニクス・
コンポーネントの設計者たちを多きに触発し刺激したのでした。
第50話「Made in Japanの逆襲」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto50-01.html
そのストーリーを前述の澤田さんとのインタビュー型式にて解説しているのが
上記の第50話ですが、ここまでを引用範囲として紹介しておきます。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さて、この辺で「論点の復活」というテーマについて語っていきたいと思います。
私たちがスピーカーという道具を使って音楽を聴く時、あまりにも当たり前の事として
忘れてしまっている大きな要素があります。
フルレンジスピーカーから2ウエイ、3ウエイ4ウエイとスピーカーユニットの数が
いくつになっても、ウーファーによる低域再生に関してはエンクロージャー形式
から密閉型やバスレフ型、バックロードホーン等の方式がありますが、私たちは
スピーカーユニットの前方に放射されている音波だけに強い関心を持ってきました。
しかし、実際には各帯域のスピーカーユニットの後方にも全く同じ音響エネルギーが
放射されているという事実に関心を向けるということが、スピーカー設計者でも
ユーザーにおいても大変に少なかったのではないでしょうか。
そのスピーカー後方に放射される音波を「背圧」とか「back pressure」あるいは
「internal pressure」などと表現するのですが、低域再生での分類は後述するとして
表面上で目に見えないスピーカー後方に放射された音波はエンクロージャー内部で
折り返しの反射音となり、これがスピーカーの振動板を後方から叩き圧力をかけ
歪率を悪化させる大きな要因となっているという事実があります。
そのスピーカーの背圧を消去するという偉業を達成したのがオリジナルNautilusでした。
テーパード・チューブ・ローディングという方式により、スピーカーの振動板が
後方に放出した音波を消滅させ、振動板に対する背圧の影響を取り払った成果が
Nautilusの真骨頂であったわけです。
それを如何にコンベンショナルなスピーカーに応用転嫁していったのかという事は
上記の音の細道 第46話にて解りやすく解説しているものです。
初代801のオントップ・トゥイーターにはテーパード・チューブを取り付ける事で
高域の背圧がリターンすることなく純粋で低歪の高域再生を実現しました。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/pho/zu-46-2.gif
ミッドレンジでは懐かしい上記の図でも分かるように、Nautilusのテーパード・
チューブと球体のメリットを融合させたものであり、これによってミッドレンジ
ドライバーの振動板に対する背圧を巧妙に減衰させているのです。
B&Wのスピーカーは何で丸まった変な形をしているのか、という原理が内面的には
上記の要素を満たすためのものであり、外面的には下記の随筆で述べているように
エンクロージャーデザインによって発生する反射波を抑制するという目的があるのです。
これもご存知のようにLaurence Dickieが創立したブランドです。
第55話「VIVID Audio K-1」
http://www.dynamicaudio.jp/file/060806/oto-no-hosomichi_no55.pdf
広義で言えば球面波の再生を目指したNautilusテクノロジーのひとつがスピーカー
そのもののデザインに起因しているという事であり、現在のタービンヘッドに
おいても反射波の発生を抑制するものとしてご理解頂ければと思います。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さあ、ここで公開済みのB&W 800 Series Diamond D4に関するリリースを
ご紹介しましょう。簡潔な文章と画像で説明されていますので是非ご覧下さい。
■B&W 800 Series Diamond D4 Information on sheet
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024144819.pdf
新製品をどのようにして消費者に説明するか、誰でも解りやすい構成のファイルであり、
開発メーカーのテクノロジーを結果として発表するに適しているものであると思います。
これらをニュースソースとして今後はネット、雑誌、など各種メディアで広範囲に
プレゼンテーションされていくことでしょう。
そして、結果的にセールスに結びつけば広告代理店の仕事はめでたくmission complete!
しかし、私は宣伝されている新技術の真の目的とは何か、これを皆様にお知らせしたく
「論点の復活」として問題提起しました。
1998年に発表されたB&W N801/N802/N803/N804/N805これらはNautilus 800seriesと
呼ばれてきましたが、前述のように2001年のSignature 800(35周年記念モデル)からは
Nautilusの冠は外され800D series、800Diamond series、800D3 seriesとなり、
今回は800D4 seriesとされました。
その論点とは何か、私は前述してきたNautilusテクノロジーの最も根幹となる技術は
テーパード・チューブによるスピーカーユニット背圧の影響力からの開放と考えています。
背圧の影響と述べましたが、これは音圧を減衰させるというだけではなく、ミッド
レンジドライバーの歪率を低下させる新機軸をB&Wが開発したということなのです!
それは、今回の800 Series Diamond D4において最も革新的な技術が発揮されているのは
新設計のミッドレンジドライバーであり、その開発目的こそがダイヤフラムの背後で
何が起こっていたのかという未解決要素を駆逐することにあったと思うからです!
新発想のNautilusテクノロジーによって、その論点を私はクローズアップします!
第二章「Biomimetic Suspension」
AVALON、Wilson Audio、日本ではHIRO AcousticやY'Acoustic等々の著名なスピーカー
メーカーではドイツやデンマークなどのスピーカーユニット専門メーカーのドライバー
ユニットをパーツとして購入しアッセンブルすることで製品を組み立てています。
しかし、B&Wはスピーカーユニットそのものを内製化している数少ないメーカーであり、
それ故に自社開発によって他社にない高度なドライバーユニットを搭載できるという
大きなアドバンテージがあります。
私が復活させたい論点として800D4シリーズの805D4を除くスピーカーに搭載された
バイオミメティック・サスペンションこそ、ミッドレンジドライバーの革新性の
最たるものとして、またNautilusテクノロジーの新機軸であると考えています。
スピーカーユニットの構成パーツとして日本ではダンパーと呼ばれるものであり、
海外ではスパイダーとかサスペンションという呼ばれ方をしますが、それを解説
している資料が下記の29Pから31Pにありますので是非ご覧下さい。
■B&W 800 Series Diamond D4 Product Overview
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024144622.pdf
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さて、このサスペンションですが雑学的にオーディオ史の中で過去にはどのような
種類があったのか参考までに調べてみました。(澤田さんからの資料提供による)
最初のダイナミック型スピーカーは、1920年にパリ博覧会に展示された、
WE社の有名なライス&ケロッグのスピーカーで、コーン中心に蝶ダンパーを備えていました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024165948.jpg
ALTEC 604B 1948年頃 蝶ダンパーを使用していました。1950年代までは蝶ダンパーが
主流でしたが、その後、布コルゲーション・ダンパーに変わっていきました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024170250.jpg
GOODMAN AXIOM 80 1964年頃 カンチレバー・サスペンション
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024170457.jpg
ジョーダンワッツ モジュールユニット 1970年頃 ワイヤー・サスペンション
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024170709.jpg
パイオニア CS-3000 mid-range 1972年頃 ワイヤー・サスペンション
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024170831.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024170839.jpg
クライスラー Lab.1000/2000 1975年頃 ストリング(釣り糸)ダンパー
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171055.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171103.jpg
ONKYO E-83A 1975年頃 蝶ダンパー
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171300.jpg
ONKYO M-6II 1976年頃
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171500.jpg
ONKYO M-80 1977年頃 蝶ダンパー
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171509.jpg
ビクター SX-500DOLCE 1995年頃 スパイダーサスペンション
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171741.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024171752.jpg
布コルゲーション・ダンパーに対して、蝶ダンパー、ワイヤー・サスペンション、
カンチレバー、ストリング・サスペンションなどの、ソリッドな素材でシンプルな
構造のソリッドサスペンションは、その音抜けの良さゆえに時折採用されてきましたが、
生産性、安定性、大振幅への対応性などが難しく長くは続きませんでした。
上記のようなソリッド・サスペンションの歴史があり、それぞれ音の良さが
評価されていましたが商品としての普及拡大はなく、このような状況を理解していた
B&Wは8年かけて材質、形状を開発し大振幅の必要のない(ストローク3mm程度)
ミッドレンジにのみBiomimetic Suspensionを採用したのです。
上記の参考画像はネットより収集したものであることを追記致します。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
そして、このBiomimetic Suspensionがタービンヘッドの内部にどのようにして
納められているかという展開図を下記にてご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024162401.jpg
次に実際のスピーカーユニットではどのように使われているかという貴重な画像がこれ。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024162935.jpg
Biomimetic Suspensionそのものの具体的な材質名は非公開とされていますが、
熱可塑性ポリマーの一種でスーパーエンジニアリング・プラスチックと呼ばれる
高性能樹脂の一つです。耐薬品性、耐放射線性、耐疲労温度範囲(零下から200度以上)
など、非常に優れた特性を有しますが、樹脂としては非常に高価です。
次にコンティニュアム・コーンの裏側も見える貴重な画像がこれです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024162756.jpg
B&Wのカタログや資料で特徴を箇条書きしたページでコンティニュアム・コーンの
単語の次に小さい文字でFSTと書かれていることにお気付きでしょうか?
FSTとはフィクスト・サスペンション・トランスデューサーの略であり、コーン外周を
機械的にはほとんど保持しない、エアーシールだけのための事実上のエッジレス
構造で1998年のNautilus800シリーズから採用されていたのですが、上記の画像で
コーン周辺にエッジが一切ないという特徴に表れています。D4も同様です。
コーンの裏側に塗ってある樹脂はエア漏れ防止の柔らかいもので、コーンの変形を
妨げません。800D3から採用されたコンティニュアム・コーンですが、以前のような
黄色いケブラー製コーンにも見られた独特な動特性を持っています。
ケブラーコーンの重要な働きは繊維質を特殊な接着剤で表面をコーティングしている
ものの完全には固めていないので、ボイスコイルの動作に応じて意図的な分割振動を
起こすようになっており、滑らかな楽音の質感を醸し出す要素となっていました。
織布を樹脂で固めていないので、分割振動が織り目に沿って起きる…つまり円形の
コーンが分割振動すると、あたかも四角いコーンのようなモードになり、分割共振
帯域でのピークやディップが平均化されて滑らかになるというものです。
コンティニュアム・コーンは、ケブラーコーンのような繊維束を編んだものではなく、
細い繊維がガーゼのように隙間を開けて織られており繊維がしなやかに動くことができます。
そのためピストンモーション・モードから分割共振モードへ連続的に移行し、境目が
わかりません。この連続的なモードの移行をcontinuumと称しています。
さて、このようにほぼ全ての他社スピーカーユニットでも、そして前作800D3の
ミッドレンジドライバーでは繊維質に接着剤を含侵させコルゲーション型にプレス
したダンパーを使用してきたわけですが、振動板と同相でピストンモーションで
動作することになります。
同相で動くので振動板に背圧として悪影響を直ちに及ぼす存在と言い切れるもの
ではありませんが、今までは技術的注視の対象にしてこなかったことは適切な
材質と形状にさせるための開発力がなかったという事でもあります。
しかし、一秒間に数千回というピストンモーションに追随させるには、材質的にも
ピストンモーションさせやすいコルゲーション形状から発する分割振動の面でも
解析されて来なかったというのが実情でしょう。そこにB&Wはメスを入れたのです!
これは言い換えれば布製ダンパーそのものが第二の音源として不正確な音圧を内部で
発生させていたという事であり、振動板に正確無比な究極のピストンモーションを
させているという努力に水を差す要因でもあったわけです。
ですからスピーカーユニットの背圧を取り除くというNautilusテクノロジーの
目的と一致する新技術と言えるものなのです。ちなみにオリジナルNautilusの
ミッドハイドライバーの振動板の後方はテーパード・チューブの空間に直結しており、
このようなボイスコイルを支持する大きなダンパーという存在はありません。
次に振動系の支持構造でNautilusテクノロジーを発揮させた801D4のミッドレンジ
ですが、802D4以降の下位モデルにはない新たなテクノロジーが発揮されています。
先ずは下記の新旧ミッドレンジの心臓部である磁気回路の末端が見える画像を
比較してみて下さい。
バスケットの中心部でセンターに見えるのがポールピースという磁気回路の末端で、
中心の穴の外側にリング状スリットが見えますが、ここにボイスコイルボビンが
挿入され内部の強力な磁界の反作用にてピストンモーションを行うという部分です。
801D4 ミッドレンジ・バスケットと磁気回路
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024174226.jpg
800D3 ミッドレンジ・バスケットと磁気回路
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024174235.jpg
ミッドレンジのショートリングは、800D3まではセンターポールのみに銅キャップを
被せていましたが、801D4では内周のポールピースに加えて外周のトッププレートにも
ショートリングを装着しています。このような内外周の両方にショートリングを
B&Wが用いたのは初めてだという事を追記しておきます。そして、澤田さんから一言。
「800シリーズのtweeterは2001年のSignature800以来銀のショートリングを使って
いますので、今回の801D4で初めてtweeterとmi-rangeに同じキャラクターを持つ
銀のショートリングを採用したことになります。
今回の802D4と801D4の中高域の音の差は、多くはここに由来します。」
このショートリングは802D4/803D4/804D4は銅製ですが、801D4のみ非常に導電率の
高い銀を素材としています。銀のショートリングはSignature800以来の800シリーズの
トゥイーターには使用して来ましたが、ミッドレンジなどのコーン型ドライバーに
使われたことはありませんでした。それを解りやすく可視化した下記の画像をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211102160724.jpg
この画像にてBがポールピース・ショートリングで、肉厚のチューブではなく
薄いもので先端が内側に折れ曲がっています。Cはトッププレートであり、
その中心部の円周状となっているDがトッププレート・ショートリングとなります。
では、このショートリングというパーツは何を目的として採用されたのか?
技術的な解説では専門用語が多く長くなってしまいますが、上記に示した801D4の
ミッドレンジ・バスケットと磁気回路と各パーツが飛び出している展開図の画像を
見ながら皆様の頭の中でイメージして頂けるよう簡単に説明したいと思います。
先ずミッドレンジ・バスケットの画像の中心部に円形の隙間(ギャップ)が見えますが、
ここにボビンに巻かれたボイスコイルがはまり込み中心位置に保持されます。
そしてボイスコイルに音声信号の電流(ボイスコイル電流)が流れ、ギャップ内に
均一に設定された磁束の中でフレミングの左手の原理によってN極からS極に向かう
磁力線(主磁束)に対して90度の角度で信号電流の流れる方向に応じて動力が発生し
スピーカーの振動板を前後に動かします。この辺の基礎的なことはご存知かと思います。
ボイスコイルを駆動するための磁気回路は十分な磁束密度がボイスコイルのストロークに
対してそれをカバーできるだけの幅でギャップ内に均一に確保されているのが理想です。
これに対してボイスコイル電流によって交流磁界が発生し、それによって主磁束が
変調を受け、主として第三次高調波歪を生じます。これを電流歪と呼びます。
この電流歪対策として一般的に用いられるのがショートリングです。磁気回路に
影響を与える交流磁界を発生するボイスコイルのインダクタンス分をショートする
ことによって影響を抑圧するものです。ショートリングは電気抵抗の低いリングを
ボイスコイルのできるだけ近くに配置することで機能するのです。
通常は、ポールピースに電気抵抗の低い銅やアルミニウムのリング、あるいは
キャップを装着します。この電流歪の抑圧は、リングの電気抵抗が低いほど、
またボイスコイルに近いほど効果があります。だから銅よりも銀なのです!
もう一つの要素が振動板が前後にストロークする際のボイスコイルのインダクタンスで、
ショートリングがない場合はボイスコイルが後ろに引っ込んだ場合は鉄心入りコイル、
前に出た場合は空芯コイルとなり、ストロークの前後でインダクタンスは大きく変化します。
その際に引っ込んだ時のインダクタンスが大きくなり歪の要因となります。
もっと要約するとボイスコイル電流によって交流磁界が発生し、ギャップ内の磁束に
反応してボイスコイルに交流抵抗を発生させ、信号電流対する微弱な抵抗成分が
出来てしまうので正確なボイスコイル電流の流れを邪魔してしまう…という感じです。
そのボイスコイルに発生する交流抵抗をショートさせて信号電流が流れやすくする、
という意味合いからショートリングという名称になったものです。退屈な話しですが
皆様の頭の中でなんとなくイメージして頂ければ何よりです。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
このようにD4シリーズになったことで、磁気回路の強化策が具体的な形で見られる
ものですが、ここまで惜しみない新技術を投入し入念な設計を行っていた801D4の
タービンヘッドには更なるチューニングが施されていました。
上記の画像にて見られるAがそれです! 私はB&Wの解説動画を見てニョキっと
タービンヘッドからこぼれ出てくるように描かれていたパーツに注目たのです。
そのように動画にも映し込むということは設計者の熱意を表したものなのか!
これはTMD(Tuned Mass Damper)質量制御ダンピングシステムと呼ばれるもので、
ハウジングの共振と同じ周波数で共振するサスペンションを持った重りを加えて
キャンセルし、ハウジングの共振を効果的に抑える方法です。
ビルの共振(横揺れ)を、その周波数で共振するように重さを調整した貯水槽で有効に
キャンセルする技術として知られています。この機構はD3から適用されています。
D3シリーズのタービンヘッドを組み立てる過程となる貴重な画像が下記です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211025172040.jpg
上記のD3の画像ではタービンヘッド内部の左右にビスの頭が見える程度のサイズですが、
D4では下記の画像にようにTMDそのものも大型化し、更にタービンヘッド奥の5枚の
フィンにも制振材が加えられています。これほどの強化策は見事としか言いようがありません!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211025172027.jpg
そして、次の画像をご覧下さい。クローズアップしていますが実際には小さなものです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211025173955.jpg
これはミッドレンジのコーンのセンターにはめ込まれているもので、
材質はEVA(エチレン酢酸ビニルコーポリマー・ビニルアセタート)ビーチサンダルや
お風呂場マットなどに利用されている素材で水や紫外線に強い性質のものです。
これはアンチレゾナンス・プラグと呼ばれているもので、上記のTMD同様に振動系の
共振を減少させるためのパーツです。
アンチレゾナンス・プラグが最初に採用されたのは2011年のPM1です。その後、
他モデルにも採用されていき下位の700シリーズや600シリーズにも既に採用されています。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さて、ここでミッドレンジドライバーのセンターにD4シリーズからはアンチ
レゾナンス・プラグが採用されたと述べてきましたが、以前の800シリーズでは
フェイズプラグが差し込まれていたものでした。
私とB&Wの歴史の一端という事で下記の随筆が思い出されますが、最後まで再読
しないと見逃してしまうエピソードがありますので下記にて紹介しておきます。
第50話「Made in Japanの逆襲」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto50-06.html
上記の「8.Signature 800をサポートする“楽器(brass)”とは!?」という事で
紹介していたのは私のオリジナル商品であった『BRASS SHELL』というものです。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/b_shell/b_shell.html
2002年当時に取り組んでいたものですが、上記には次の一節がありました。
「私はこれまで懇意にして頂いた同社のSenior Product Manager MIKE GOUGH氏、
また日本マランツ株式会社の澤田龍一氏にもこの『BRASS SHELL』を贈呈して
“私たち”の情熱を知って頂き、そして評価して頂ければと考えている。」
実は、この『BRASS SHELL』は前述のショートリングの作用にも関係し、更に
振動板の共振を抑制するアンチレゾナンス・プラグの前身に当たるものとして、
ミッドレンジが発する高域成分の拡散と磁気回路の機械的制振効果もあるという
二種の効果をもたらすものだったのです。
そして、このオリジナル商品は澤田さんを通じて当時のB&W開発陣にも送られて、
下記のようなレポートも頂戴していたのでした。
「H.A.L.オリジナル商品“BRASS SHELL”をB&Wはどう評価したのか!?」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/b_shell/b2_shell.html
澤田さんから当時を懐かしむメールを頂きましたが、そこにもショートリングの
効用との関連性を含め近代B&Wの開発にまつわる解説を頂きましたので紹介します。
「川又様 お世話になっております。フェイジングプラグの件、懐かしいですね。
Mike Goughは、2015年に67歳で退職し、今は多分73歳になるのでしょうか。
当時は、Nautilus800シリーズでした。
B&Wがスピーカーの歪を解析するツールとして、クリッペル・ディストーション・
アナライザーを導入して、盛んに解析を始めた時期でもあります。
今考えてみると、フェイジングプラグの材質による音の違いは、当時考えられていた
機械的な音質差及びボイスコイル・インダクタンスのレベル及びそのストロークに
対する変動だけでなく、ショートリングに流れる音声電流の主として高い周波数域に
対する導体としての音質的キャラクターも影響しているように思います。
Nautilus800シリーズのmid-rangeは、フェライトマグネットを使用した一般的なもので、
ポールピースにショートリングとしての銅キャップあるいは銅リングを装着していました。
トッププレートも標準的な厚さで、一応ボイスコイルのストローク範囲をギリギリ
カバーしていました。
従って、振幅が大きくなるにしたがってショートリングでキャンセルされるボイスコイル・
インダクタンスがわずかばかり変化し、ストロークの前に出る方向で少々インダクタンスが
増える傾向にありました。
そのために、ポールピース上に導電性のフェイジングプラグを装着すると、このわずかな
インダクタンス変化を抑える方向に働きます。
フェイジングプラグ(あるいは根元のリング)が、銅だと効果がありすぎて変化が逆転し、
銅よりもやや導電性の低いアルミやブラスの方がちょうど釣り合う結果となりました。
そういうことですので、特性的にはアルミでも、ブラスでも、ブラス+ブラスでも
ほとんど違いはありません。
音質的には、素材の固有の機械的特性もあるでしょうし、その素材に音声電流を流した時の
音質的キャラクターの差もあるでしょう。リスナーにとって好ましいものを選べば良いと思います。
Signature800以降のmid-rangeの磁気回路はネオジウムマグネットに変わり、
その強力な磁気エネルギーゆえにトッププレートの厚さがNautilus800シリーズの
倍となりましたので、完全なるロングプレート・ショートボイスコイルとなり、
フェイジングプラグによる電気磁気的な特性差は、ほとんどなくなりました。
もちろん機械的なキャラクターの違いはあります。
また、当時のNautilus805については、銅キャップを使用していませんでしたので、
これにブラスにしろ銅にしろアルミにしろ、導電性のフェイジングプラグを装着すると、
明らかに周波数特性が右肩上がりになりました。
mid-rangeと違って2wayのwooferはロングボイスコイルなので、トッププレート厚の
倍以上の巻き幅があり、フェイジングプラグの一部もその中に入るからです。
805S以降は銅キャップを装着していますので、周波数特性が変わるほどの変化はありません。
以上、ご参考になれば」
澤田さん、ありがとうございました。大変に参考になりました。
昔のフェイズプラグからアンチレゾナンス・プラグへと、ショートリングの代わりに
数種類の金属製リングをボイスコイルの直近に配置した際の変化ということで、
B&Wの開発に触れることが出来た貴重な体験でした。色々やって来ましたね〜。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
実は、このアンチレゾナンス・プラグはウーファーにも使用されているのですが、
どこにどんな形で使われているのでしょうか? 後述の解説にご注目下さい!
さて、次にまたまた未公開画像をご紹介します。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211025173434.jpg
D3シリーズとの大きな変化として見られるタービンヘッドを乗せている801D4の
アルミトップパネルを取り外したシーンです。重量は実測2.15kgでした。
上記のように内部に入念な共振対策を施したタービンヘッドですが、それを本体に
連結させるトップパネルは、エラストーマ等の柔軟性ある素材を使いデカップリング、
つまり機械的にタービンヘッドをフローティングさせているという構造になっており、
コノリーレザーに包まれてアルミ製という存在感は外観からは解らないのものです。
人間で言えばタービンヘッドは頭蓋骨でトップパネルは肩甲骨みたいなイメージでしょうか。
それではD4シリーズの骨格にはどんな変化があったのか、重要な低域再生をになう
ウーファー用エンクロージャーも革新的な設計が成されているのです。
第三章「骨格と風穴」
ここで23年前に発表されたN801の今となっては懐かしくも貴重な図面を下記にて紹介します。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/pho/zu-46-1.gif
中高域の背圧を消去する方法を説明する際に低域の背圧はどうするのか、という
課題を残しておきましたが、この図面でも分かるようにエンクロージャー内部の
Matrix構造を見えるように書いていますが、Matrix bracingという表現も前述して
いましたのでエンクロージャーの補強、強度を高めるためという目的がクローズ
アップされがちなのですが、実は上記のようにウーファー後方に発生する音圧を
減衰させるという目的もあるのです。
さて、それではN801に比べてすらっとしたプロポーションになった近代のMatrix
bracingとはどのようになっているのか、800D3シリーズ(800/802/803)の中から
803D3に使用されたMatrix構造のパーツが下記の画像です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026141726.jpg
下記は800D3にMatrix構造を組み込んだ製造過程のもので内部の様子が解ります。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026141734.jpg
D3シリーズのMatrix構造は基本的に同形態となりますが、アルミアングルが水平方向
のみであるのに対して、800D4シリーズ(801/802/803)では垂直方向にも加えられています。
ここで801D4のアルミ製骨格の全体像を下記にてご覧下さい。ただし、という事で
下記画像でのボトムプレートは801D4だけであり802以下のモデルにはありません。
そして、上記の垂直方向でのアルミアングルも確認して頂けると思いますが、
これらはあばら骨というイメージでしょうか。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026144840.jpg
そこに内蔵の各器官と言えそうなMatrix構造を組み込んだ画像が下記になります。
アルミ製バックパネルという強靭な背骨と前面のアルミアングルあばら骨に包まれて、
前述のウーファー背圧を減衰させる構造体としてご理解頂ければと思います。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026144823.jpg
更に特記しておきたい要素としてバックパネルにクロスオーバーネットワークの
各素子を取り付けているというのはD3時代と同様なのですが、Matrix構造の背板に
よってウーファーの背圧と振動から各素子を遮蔽しているという巧みな構造です。
アルミ製バックパネルと木部の隙間、この空間を密閉しているということです。
さて、このような801D4の金属製骨格の画像を見て私にはある疑問が浮かびました。
あの強力な25cmウーファーをどのように取り付けているのかと…。
ウーファーがはまり込むマウントリングが二個あるのは画像から解りますが、
そのリングの後ろに四角く湾曲したアルミパネルが見られます。
私はB&Wスピーカーの大きな特徴であるリバースラップ・キャビネット前面の内側に、
この四角いパネルをはめ込みキャビネットの木部を挟んでマウントリングを取り付け、
そこにウーファーユニットをはめ込んで固定しているのだろうと考えたのです。
ところが、事実は私の憶測よりも奇なり…。私の想像を超える設計が成されていた
事実を下記のカタログやB&Wのyoutube動画にも紹介されていない画像で知ることに!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026150752.jpg
私の推測は途中まで合っていたのですが、キャビネットに取り付けているのではなく
Matrix構造とこのように連結されていたということを今になって初めて知りました!
801D4の強靭な低音の秘密がこれだったのです!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さて、801D4の骨格とはいかなるものかという新発見の後は、その強力無比なパワーを
生み出す脚力、筋力という意味で新開発の25cmウーファーにスポットを当てていきます!
H.A.L.'s One point impression!! - B&W 800D3!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1324.html
★上記より次の一節を抜粋しました。
次に802D3の20センチウーファーのリングカバーを外したところの写真です。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160902-IMG_2434.JPG
新開発のエアロフォイルコーンの素材とは簡単に言うとシンタクチック・フォーム
(syntactic foam)という微小(50umくらい)な樹脂の中空の球体を、樹脂で固めて
成形するもので、潜水艦や深海探査船などの内壁の浮力層等に使われます。
任意の形状に成形可能で、軽く圧力に大変強い特長があります。
また、従来モデルで使用していた発泡樹脂シートのロハセルに比べて、固有共振の
Qが低いことも特長です。B&Wは強度の更なる向上と言った説明をしていますが、
それよりもコーンの固有音が少ないことの方が効果が大きいのではないかと思っています。
実際に、従来のロハセルコーンとエアロフォイルコーンそれぞれをこぶしでコツコツと
叩くと、その違いがよく解ると思います。でも、展示品ではやらないで下さい(笑)
さて、この802D3のウーファーですが、写真で外見だけ見ると表面のスキンは同じ
なので分かりませんが、実はセンターキャップは薄いカーボン系素材で指で押すと
ペコリとへこんでしまいます。
D3シリーズが登場した時にエアロフォイルコーンの素晴らしさを声高に宣伝して
いたのですが、B&Wが考えるフラッグシップモデルでは見た目では分からない
ここを改善したのです。↓これが800D3のウーファーユニットです。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160902-IMG_2417.JPG
802D3のウーファーのセンターキャップは直径58mmで、ボイスコイルの直径は
38mmということで、ウーファーコーンとセンターキャップの両方に接着されていました。
ところが、今度の800D3のウーファーでは直径90mmのセンターキャップなのですが、
厚みがあるため口径75mmのボイスコイルとほぼ同口径であり、エアロフォイルコーンと
一か所で接合されているのです。なんと800D3のウーファーはセンターキャップまでもが
エアロフォイルコーンでと同じ材質で出来ているのです!!
800D3のウーファーは新設計によるもので、エアロフォイルコーンのメリットを
追求し、センターキャップも同質として完成度を高めているのです。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
↓これが800D3のウーファーユニットです。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160902-IMG_2417.JPG
そして、当フロアーにある801D4のウーファーを撮影したのが下記の画像です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026154810.jpg
この二枚の写真を見比べてみて直ぐに解るのはセンターキャップの質感の違いでしょう。
800D3ではエアロフォイルコーンでと同じ材質だったのですが、801D4では何とも
言えない軟らかさというか、ふくよかさを感じる外観。
これは前述していた材質EVA(エチレン酢酸ビニルコーポリマー・ビニルアセタート)
つまりミッドレンジで使用されていた下記をそっくり大型化したものだったのです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211025173955.jpg
しかし、それでも重量は800D3のエアロフォイル・キャップと変わりません。
このアンチレゾナンス・プラグは振動系の不要な共振を制御するためのものですが、
なぜB&Wは強靭なエアロフォイルコーンと同質なものではなく強度的には発泡体と
いうことで軟らかい材質をウーファーにまで採用したのか?
アンチレゾナンスプラグは約半世紀前のワーフェデールの特許でしたが、
ウレタンを使ったために劣化が激しくて使われなくなりました。
そのワーフェデールよりB&Wに移ったスピーカーのコンピューター解析の第一人者
であるエンジニアのピーター・フライヤーが、約40年後にB&W45周年モデルのPM1の
ウーファーで復活させました。
今度は耐久性に大変優れたEVAを使用し問題なく、PM1以降は小口径のウーファー
には使われていて下位の600シリーズや700シリーズで採用されてきました。
800シリーズはモデルチェンジが遅いので大口径のウーファーに使われたのは
今回が初めてだという。
800D3のウーファーではセンターキャップの変形を嫌って、コーンと同じ強度のある
材料を使いました。そのためウーファーの高域共振周波数(ハイカットピーク)は、
800D2や802D3よりも高くなりましたが、それでも1.5kHz付近にピークがあります。
アンチレゾナンスプラグはボイスコイルボビンの共振を抑える上に、そのピークをダンプ
するので、800D3のウーファーと高域共振周波数は変わらずピークの高さが10dB低いという。
しかも柔らかい材料とはいえ立体なので薄いキャップのような空気圧での変形はしない。
B&Wのウーファーのキャップは、Matrix時代はキャップ鳴きの少ない柔らかなフィルムを
使い(当然変形するので低音の効率は低い)Nautilusシリーズ以降は薄いカーボン
ファイバークロスのドームをボイスコイルボビンを伸ばして支え、それでも強度が
足りないので徐々に径を小さくしていき、800D3でコーンと同じ強度の素材を使い、
今回は変形しないが音を出さないアンチレゾナンスプラグにしたという。
さて、下記は800D3ウーファーを側面から見たものですが、白いリングのスペーサー
上下に黄色いダンパーがふたつあるのが解かると思います。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026161052.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160909-IMG_1212.JPG
そして、下記が801D4のウーファーの外観です。何とシングルダンパーに変更されています!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026161102.jpg
以上を理解するために重宝する貴重な画像が下記になります。グレーの部分が
アンチレゾナンス・プラグで、シングルダンパーであることも良く解かると思います。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026161648.jpg
赤紫色の円盤形ネオジム・マグネットが前後に二個、橙色のヨークを挟んで配置
されており、その幅と同じくロングトラベル・ボイスコイルが配置されているのが解ります。
振動系の質量は同等に保ちながら磁気回路は変わっていないように見えますが、
実は鉄部品(ヨーク、トッププレート、ボトム)の鉄の種類が変わっています。
通常の鉄より2倍程度カーボンの含有率が高いもので、磁気特性は変わらないものの
電気抵抗が高くなります。それによってエディ・カレントによる歪みを低減している。
以上の変化がなぜ起こったのか、私の推測は前述したBiomimetic Suspensionを
採用したミッドレンジドライバーによってもたらされた開放感と瞬発力、そして
微細な信号にも忠実に反応する感度の高さと情報量の増加にマッチさせるため!
だから振動系を支持するダンパーは大振幅に対する制動力、機械的保持力よりも
敏感に反応するシングルダンパーへ変更し、初動感度を高速化しミッドレンジとの
連携を高めたのではないかと。
同様に微小信号に対する反応が極めて繊細になったという事はウーファーが出力
する低域に付随する倍音成分の忠実度を高めるため、アンチレゾナンス・プラグに
よって共振制御力を高めコーンと振動系が発する微細な歪を減衰させたのでは!?
全ては画期的なBiomimetic Suspensionのメリットを最大限に引き出すための
マッチングを優先させた設計変更ではないかと私は考えています!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
さて、ここで刺激的な画像を紹介したいと思います。これです!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026182344.jpg
何とも巨大なバスレフポートではありませんか!こんなものが内蔵されていたのか!
既に公開している私のインプレッション記事でも下記のように紹介していました。
下記の画像は801D4底部にあるバスレフポートを覗き込んで撮影したもの。
なぜ、こんな画像を敢て紹介するのかというと今回の801D4はバスレフ特有の
低域変調がほぼないという音質で、私に言わせれば快挙と思えたからです。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210927163020.jpg
さて、ここで私は大分昔の事を思い出しました。かのJBLがK2シリーズで38センチ
ウーファーを搭載していましたが、エンクロージャーの容積を問い合わせたら
120Lとの回答、同様に38センチウーファーを搭載したSonusfaberにも質問したら
やはり120Lとの答え、そして、1998年に発表された初代Nautilus800の時にもB&Wに
同じ質問をしたら偶然とも思えないのですが120Lとの返事があったことです。
スピーカーユニットの口径を表す考え方の数字はメーカーによってまちまちで、
ミッドレンジやトゥイーターなどはほぼコーンやドーム型など振動板の直径を
16cm、2.5cmなどと表示しているので問題ないのですが、ウーファーだけは実際の
数字と振動板の直径とは一致しないのです。
大体38cmウーファーと言っても実際のコーンの直径はエッジを含んでも34cmから
35cm、801D4の場合は25cmウーファーとなっていますが、実際のコーンの直径は
エッジを含めても22.5cmでした。
ウーファーユニットの口径とはスピーカーユニットのエッジを支えるフレーム部で
取り付け用ビス穴の間隔、その距離の数字にて表現しているものが大半であると
いうことを先ず述べておきます。
ですから実際のウーファーユニットの振動面積に対してエンクロージャー容積が
何リッターという特定の関係はなく、あくまでも各社の設計次第ということになります。
そして、私は801D4の低域用エンクロージャーの容積を問い合わせたところ、
ズバリ90.5リッターという回答がありました。さて、以上を参考にしてバスレフ
ポートの話しに戻しますと…。
このバズーカ砲(笑)のような巨大なバスレフポートは実は802のものでした。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026182344.jpg
ここで前述のJBLやアメリカ製ハイエンドスピーカーと言われた20年以上前の
スピーカーのバスレフポートを実測した事を思い出すのです。大体が直径8cm
または10cmで長さが18cmから20cmで単純なパイプというものでした。
その時代のスピーカーで特定の周波数で唸るような低音の曲を再生すると、
円筒形のポートから盛大に風が吹き出してきたものです。見事な低域共振でした(笑)
そこで、801D4、802D4のバスレフポートのサイズを実測してもらったのです。
すると下記のサイズであることが解りました。
801D4 : 内径=約100mm、長さ=210mm
802D4 : 内径=約100mm、長さ=420mm
なぜこのようになっているかというと、802D4の場合は2本のウーファーの振動板
面積に対するエンクロージャー容積が801D4より小さいからということになります。
バスレフポートの共振周波数は801D4が27Hzなのに対して802D4は22Hzです。
802D4はウーファーの振動板面積に対してエンクロージャー容積が比較的大きく、
従ってバスレフポートの共振周波数は低めであり、801D4はウーファーの磁気回路が
強力でQが低いので、振動板面積に対してエンクロージャー容積が小さめでバスレフ
ポートの共振周波数は802D4よりは高めということ。
えっ、802D4の方がポートチューニングの周波数が低い!?
それだけ低い周波数まで再生出来るのか、801D4よりも重厚な低音がでるのか!?
いえいえ逆です、エンクロージャー容積が802D4の方が小さいので、出来るだけ
低い周波数まで再生しようとすると共振周波数を低くせざるを得ないということです。
では同じ低音が出るのか!? いいえ、私にとっては大きな違いでした。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
私は801D4を最初に試聴した時に、上記のバスレフチューニングに関して澤田さんに
「D4の低域再生ではポートチューニングをB&Wはどのくらい重視しているのか」と
質問したのですが、その回答が印象的でした。
「ほとんどエア抜きのようなものでバスレフ効果で低音を出そうとはしていません」
それを聞いて私は安心し納得したのです。バスレフをどのように理解するのか、
このバスレフポートの存在感に関しても下記の随筆が大きな参考になるでしょう。
第45話「美音倶楽部」第一部「プラトン哲学に生きる音」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto45-01.html
第四章『analyze』に下記の図があります。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/pho/zu-oto45-01.gif
問題視されるバスレフ型スピーカーの変調を示した図が下記
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/pho/zu-oto45-02.gif
低域の大変低い周波数にて共振周波数を設定し、その共振による特定周波数の
音圧増加を追加することでスピーカーシステムの低域再生能力を高めるという
理屈なのですが、問題点のひとつは共振周波数よりも高い周波数にて変調歪が
発生するというポイントです。図ではリップル成分としているカーブのことです。
このような低域の変調歪を発生させない工夫のひとつがMatrix構造の特徴なのです。
つまりはミッドハイレンジと同じくウーファー後方への音波に含まれるミッドバス
帯域の背圧にも消音効果をもたらしているのです。
これもNautilusのテーパード・チューブの役割を波長の長い低域の再生帯域に対して、
それよりも波長が短くなる中低域の歪率を低下させる巧妙な応用技術と言えるものなのです。
私は国内外を問わず多数のスピーカーを聴いてきましたが、同じ曲の低音を様々な
スピーカーで比較すると本当に大きな違いと個性があるという体験をしてきました。
トゥイーターやミッドレンジの背圧はB&WのNautilusテクノロジーによるテーパード・
チューブでの減衰をもたらすという方式を採用していない他社の場合には、中高域の
背圧は閉じ込めてしまうだけです。ですから背圧の影響があるのですが、それでも
振動板の前方に放射される音波のみを聴いているという状態になります。
しかし、ウーファーの背圧に関してはバスレフやバックロードホーンのように、
位相反転させたり共振周波数での共鳴効果によって増強補強した低音のとして
リユースし低音の増量や迫力を出したりする演出効果として裏側に放射された
音波を外界に放出しリスナーに聴かせているという実態があるわけです。
「確かにバスレフ型の場合、ポートの共振周波数以上で干渉によるリップルが多少
ありますが、B&Wが採用している下向きのダクトの場合はほとんど起きない。
通常のバスレフ型のスピーカーの場合、共振周波数より低い周波数では急激に
歪が増えますが、800D4シリーズでは歪率の増加はないと澤田さんから一言」
もちろん、巧みに設計されたバスレフスピーカーで優秀なものもありますが、
前述のように変調された低音を吹き出してくるスピーカーも多かったものです。
その変化の原因がバスレフポートの存在であるという事と、それによる不本意で
不正確な低音が出されるスピーカーは私の推薦機種から外れるようになってきた
ということで、完全密閉型のHIRO Acousticのようにウーファーの背圧を外界に
放出しないスピーカーに信頼感を持つようになってきたのです。
ちなみに、HIRO Acousticの22cmウーファー1個に対してエンクロージャー容積は
約100リットルというもので、ユニットメーカーの理想値に合わせて設計されています。
ポートチューニングに頼らず、上記のようなポート共振周波数の倍音成分に不要な
低音の変調をもたらすことのないB&Wの低音が後述する試聴評価で確認されていきます!
第四章「オントップトゥイーターの見えざる進化とは」
見えざる…としていることには訳がありまして、先ずは単純に見えるところから
説明していきますとNautilusテーパード・チューブが11cm伸びています。
これはダイヤモンドドーム・ダイヤフラム後方のエアチェンバーを大きくする事で
より低い周波数帯域まで背圧消去の効果を増大させたものです。
更にボイスコイルボビンのエア抜きの穴を2つ増やし呼吸を楽にしました。
ボイスコイルが巻いてある部分にも穴を2つ開け、磁気ギャップ内のアルミの量を
減らすことによって電磁ブレーキを軽減しました。もちろんこれらは振動系の
軽量化にもつながります。
次に、たった5秒間ですが面白い動画を下記にてご覧下さい。
https://2020dynamicaudio.com/1336-2/
801D4のトゥイーターはこのように全方向に軽く動くようになっています!
そして、特筆すべきは振動板の駆動方向である前後にも軽く動くのです!
当店には歴代の800シリーズの中古が沢山ありますので、初代のN801や800D、
そして800D3のトゥイーターも同様に次から次へと全部動かそうとしてみました。
ところが…、先代の800D3などは前後方向には頑として動かず、左右方向にも
ほとんど動かないという感じで、それ以前の各世代の800シリーズも801D4に
比較するとわずかに微妙に動きはするのですが大変硬い取り付け方でした。
B&Wは研究の結果、トゥイーターに対して最も有害な振動は振動板の動作と同方向で
あるという結果を得たということで、D4シリーズでは動画と同じ動きをするように
特殊なL型デカップリング・アングルを開発し採用したのです!
ここで、またまたオリジナルの画像資料を作成しましたので下記をご覧下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211102155756.jpg
上記で述べたL型デカップリング・アングルが(I)と(J)であり、二点支持によって前後
方向へのアクションを可能としています。
アルミ製タービンヘッドの上にフローティングさせて取り付けられたトゥイーターは
柔軟性ある支持方法で動き、本来の性能と魅力を発揮するように設計されました。
さて、今から16年も前の事ですが日本で私しか販売しなかったスピーカーがありました。
下記にて紹介しているMOSQUITO NEOです。
「Nautilusを目指したスピーカーの進化とは」
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto54.html
アルミとカーボンファイバーのボディーのトップに位置するトゥイーターは、
上記同様に特殊なダンピング素材であるアメリカのデフレックス社が開発した
DEFLEXによってアイソレーションされており、指で押すとやんわりした手応えで
動くようになっていました。上記随筆の8Pから10Pをご覧下さい。
高剛性のボディーにトゥイーターを如何にしてマッチングさせるのか、このノウハウは
大変重要な要素であり見えざる要素として801D4の魅力を支えているポイントなのです!
さて、D4シリーズのトゥイーターに関しては地味ではありますが、積み重ねが
重要な結果となる変更が加えられています。
要は、ダイヤモンドドームとサスペンション、磁気回路の役割には変更はなく、
いかにスムースにストロークさせるかということに対して、わずかな阻害要素の
数々を注意深く取り除いていった結果だという。
ダイヤモンドドーム・ダイヤフラムの背圧を軽減するために、まず3マグネット式
(メインマグネット、リパルジョン(反転)マグネット、フロントマグネット)で
あった磁気回路からフロント(フラックス補正用)マグネットを取り去りました。
理由は少しでもドームの裏側の空気室の容積を増やしたかったからです。
フロントマグネットはリーケージフラックスを抑え込むのが目的でしたが、
磁気回路の形状を最適化することによって削除できました。
ここで上記のトゥイーターアッセンブリーの展開図に関して下記にて説明します。
というのは、実は上記の展開図はD3シリーズのものを流用したもので、正しくは
D4シリーズとは内容が異なっていたのです!他のシーンで見かけたらご注意下さい。
A:ボトムプレート
B:注記:D4にはないフラックス補正用のマグネット ★上記解説の通り
C:銀製ショートリング
D:リパルジョン(反転)マグネット
E:真鍮製取り付け金具
F:メインマグネット
G:ボイスコイルボビン
H:ダイヤモンドドームダイヤフラム
I:L型2点デカップリングアングル
J:L型2点デカップリングアングル
注記:AとCはEよりも前方に位置する ★D4シリーズでは配置が変更されています。
下記の画像はE:真鍮製ハウジング向け取り付け金具にH:F:D:リパルジョンマグネット
までを取り付けた製造過程のスナップというものです。注記:の状態を示しています。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211101181055.jpg
さて、見えざる…というポイントで私が気が付いたトゥイーターに関する要素が
もう一つありました。以前の800シリーズで次のスペックを私は承知していたのですが…。
クロスオーバー周波数:350Hz, 4KHz
スロープ:Woofer 18dB/oct. Mid-range -12dB/oct./12dB/oct. Tweeter -18dB/oct.
近年のB&Wの3ウエイスピーカーのクロスオーバー周波数は350Hzと4KHzであることは
知っていましたが、上記のトゥイーターのローカットフィルターのスロープが何と
801D4では-6dB/octとなっていることでした。
以前には-18dB/octだったのに、-6dB/octに変更すると低い周波数成分による振動板の
ストロークが大きくなり歪率の悪化につながるのではないか、どうして変更したのか?
すると澤田さんからは出来の悪い生徒を諭すように回答があったのです(笑)
「B&Wは2004年までtweeterのハイパスフィルターは例外を除いて18dB/octでした。
しかし、2005年の800Dシリーズから原則-6dB/octに変わりました。
それは、トゥイーター・オン・トップの構成で、キャビネットに取り付けられた
ウーファーあるいはミッドレンジと、バッフルのないトゥイーターとの音放射特性の
差が急激に起こらないようにするためでした。
そのため、それまでのトゥイーターの最低共振周波数f0が1kHz〜1.5kHzであった
のに対して、300Hz〜500Hzとトゥイーターとしては非常に低い値に設定されました。
これによって浅いスロープであっても歪の上昇を抑えたのです。」
おー! そういう事だったのですね! 大変失礼致しました。
私は今回のD4シリーズに関して、お客様には次のように説明してきました。
「B&Wは過去の技術の上に最新技術を積み重ねたモノ作りをするメーカーです。」
つまり、進化であって変化ではない技術の積み重ねがB&Wの最大の特徴でもあり、
前述のようにスピーカーユニットからエンクロージャーに至るまで自社製である
という企業努力が世代交代ではなく世代革新というB&Wの開発姿勢を象徴するのです!
それでは最後に、またまたオリジナルの資料を下記にてご紹介致します!
B&W歴代800シリーズトップモデル比較
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211030162111.pdf
各世代のトップモデルの歴史を知るという事は言い換えれば当時のシリーズの
下位モデルまでも、その時代の最新技術的を採用してきた事を知ることにもなり、
皆様が愛用して来られたB&Wスピーカーの位置付けがご理解頂けるものと思います。
その頂点を極めたD4シリーズの登場が私のハートを激しく揺さぶったのです!
第五章「音楽のコンティニュアムとは」
2021年9月28日(火)は記念すべき一日であったかもしれません。
B&W 801D4 GlossBlack Set-up Document
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1681.html
上記の時点で先ず最初に当フロアーに801D4は下記のようにレイアウトしました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210929161800.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210929161810.jpg
そして、Maegakiで述べていたように試聴環境における音質変化の重要性を認識し、
当フロアーの音響特性を考慮してB&W 801D4/Phase 2として下記のように変更。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211019184344.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211019184353.jpg
D&M本社ビル試聴室ではスピーカーの中心で左右間隔は802D3/802D4が2.9m、
800D3/800D4は3.1mで内振りはD4の方が深いというセッティングでしたが、
当フロアーの801D4では左右間隔は約3.6m、スピーカー前面からリスニング
ポイントまでは約3.6mという配置。
9月28日から約二週間聴き続け、リスニングポジションの変更で低域の質感を
より良いポイントへとリプレースすることから本格的な試聴を開始しました。
言うまでもなく、搬入直後からエンハンサーCD-ROMを300時間以上リピートさせ、
バーンインの熟成度を高めてからのことです。試聴システムは下記の通り。
H.A.L.'s Sound Recipe / B&W 801D4 - inspection system
Vol.1
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211102164409.pdf
これからは様々なソースコンポーネントとアンプに切り替えて801D4を試聴して
行くことになりますが、その先鞭として先ずは長年HIRO Acousticで採用してきた
リファレンスであるESOTERIC Grandiosoシリーズに統一して聴き始めることにしました。
これはソースコンポーネントとアンプをワンブランドで統一し音質の純血を保つことで、
出された評価に対してプレーヤーやアンプとの相性、相関関係で一部の製品の貢献度と
いうバイアスがかからないようにという配慮でもあります。
そして、パワーアンプはモノアンプ二台なのでシングルワイヤー接続としていますが、
上記リストで初物がインストールされているので軽く紹介しておきます。
New Original product release-Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Jumper Cable Type2
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1683.html
Y'Acoustic System Ta.Qu.To-Jumper Cable Yype 2を使用しての試聴という事になりました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211102163238.jpg
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211102163247.jpg
実は、このたった25センチのケーブルなのですが、使用開始直後の印象に対して
一週間ほどのバーンインを繰り返してからの音質が激変し、それに801D4が敏感に
反応したことも私にとっては大きな収穫であったからです。Ta.Qu.To-Jumperいいです!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
■溝口肇「the origin of HAJIME MIZOGUCHI」
https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3355&cd=MHCL000010099
http://www.archcello.com/disc.html
「1.世界の車窓から」
これはいい課題曲を見つけたと重宝しながら聴いています。
ハープ奏者 堀米 綾 とのデュエットによるシンプルであり素晴らしい録音です。
https://www.ayahorigome.com/
https://www.ayahorigome.com/biography
1987年から放送開始された同名のテレビ番組はあまりにも有名ですが、この2012年の
アルバムでは新録音されSACDとして発表されたもの。聴き馴染みあるメロディーでは
ありますが素晴らしい高音質であり、シンプルなデュオの演奏を展開するサウンド
ステージの極めつけの透明感を801D4は果たしてどのように表現するのかが期待される。
広く使われるコンサートハープはダブル・アクション・ペダル・ハープのことで
7本のペダルがあり、各々の操作で半音ずつ上下させる機能がある。日本語では
ハープを竪琴というわけですが、その言葉からはピンとこなかった事実がありました。
竪琴と言うと腕で抱えられるサイズの楽器をイメージしてしまい、単純にフレームの
中に多数の弦が張ってあり弾いて音を出す楽器だと思っていました。
でも、実際にはピアノの鍵盤数に匹敵する47本の弦を張っているコンサートハープは
共鳴胴を持つ撥弦楽器ということで、ギターや琴と同じように弾かれた弦を共鳴させ
音を響かせているという楽器なのです。単純に弦を弾いた音だけではなかったのです。
ハープの上のフレームはNeckと呼ばれ、折れ曲がる部分はKneeと称され、そして
下のフレームはBodyで弦の下側を支える共鳴胴はSoundboardと表現される。
ヴァイオリンと同じ弦楽器でありながらオーケストラでは挿入楽器として使用され、
ステージの奥から短いフレーズを響かせるパートが多いものですが、スタジオ録音で
極めて鮮明にクローズアップされた14秒間のイントロをハープだけが奏でると…
「おー!たった14秒間で私のハートを鷲づかみにした801D4!これ素晴らしいです!」
堀米 綾のハープはセンター定位なのだが左側に高音、右側には低音階と展開し、
このパートで最後の一音を弾いた後は共鳴胴を感じさせる残響だけが漂うのです!
たった14秒間のハープの演奏に秘められた極めつけの情報量がほとばしり始めたのです!
このハープの余韻がこれほどまでに含まれていた録音だったのかと驚いてしまいました!
この14秒間のハープだけのイントロでは最後の4秒間ほどは弦を弾いていない。
その4秒間に空中を漂う余韻だけの空間に溝口肇のチェロが登場してきた瞬間に
私はGrandioso P1Xのリモコンを取り上げ思わずリピートのスイッチを押していた!
第四楽章までの交響曲ではないが、このあと私は四回も繰り返して聴いてしまったのです!
そんなハープのイントロに私の心は震撼し、続くチェロの質感に驚愕する私の
脳裏に図らずも浮かび上がったビジュアルはこれでした!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211109112732.pdf
この肌色の奇妙なものは何か、もう一度下記にて存在感の大きさを伝えたいのです!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211109154730.pdf
第一章「論点の復活」で述べたNautilusテクノロジーの革新性を、スピーカー
ユニットを自社開発製造するB&Wだからこそ出来たBiomimetic Suspensionという
新機軸で実現した音との出会いを、ハープとチェロという小編成の演奏の中に私は
強烈に感じ取っていたのです!
ピッチカート奏法のハープの弦一本を爪弾いた瞬間に共鳴胴の存在感を響きとして
空間に描き、不思議なことに単純な弦を弾いただけなのに余韻の中にビブラートする
響きの重複と反復という耳に心地良いリアリズムを造形するのです!
弓で擦るアルコ奏法によるチェロにおいても、ハープ同様にBiomimetic Suspensionの
威力が摩擦音と胴の響きの両方に驚くべき情報量の増加をもたらし、音階によっては
くっきりと、またふくよかに響き渡るチェロに多様な表情の変化をもたらすのです!
ホール録音とは違いコントロールされたスタジオ録音で、奏法の違う二種の弦楽器で
ミッドレンジドライバーの革新性がこれほどの感動と情報量を発揮するものかと驚く!
チェロの指板の上で溝口肇の指が細かく震えるように動き、高音階では弦の響きに
芳醇な音色のバリエーションを加え、音階が低くなるとビブラートさせた低音が胴鳴り
と相まって絶妙な温度感を感じる豊かな低音を801D4のセンターから湧き上がらせる!
そうか! だからウーファーをシングルダンパーにしたのか!
そうか! これが銀のダブルショートリングの威力なのか!
ミッドレンジとの協調性と追随性がチェロの質感に素晴らしい変化をもたらした。
「気持ちいい、ひたすらに心地いい音! 生体模倣技術が生み出した新境地とはこれか!」
D4シリーズの音は以前とは違うのか変化したのか? いや、生物同様に進化したのです!
従来のB&Wでも成し得なかったミッドレンジの革新がNautilusを蘇らせたと直感しました!
「14.帰水空間」
この曲でユニークなのはシンセドラムの打ち込みによる打音で左右とセンターの三点から、
各々異なる音色のドラムとして登場し約20秒間一定のリズムだけを聴かせるところ。
左チャンネルからは重低音のドラム、右チャンネルは明るく抜けのいいドラム、
センターではわずかに音階の高い打音と高音階のパーカッションがきらめく。
そんな人工的なドラムだが逆に正確無比な打音の繰り返しを曲の最後まで続け、
それが最前列に並び手前に張り出して来るかの迫力があり前後の定位感を保ち、
それとぴったり寄り添うような重厚なベースがセンターに登場する。
その背景にキーボードのシュールな音色のハーモニーが展開し始めると、ドラムとは
真逆のアコースティックなチェロ、マリンバ、ピアノが交代で主題の旋律を奏でる。
前曲のハープ同様に、この時のマリンバもピアノも左側に高音、右側に低音階と
展開し、センター定位ながらも独自の音場感を提示してくる。
極めて明確な低音リズムと幻想的とも言える奥に展開する三者の楽器が個性的な
空間表現を提示し、帰水空間というタイトルから連想される癒し効果が心地いい。
こんな展開の一曲ですがチェックポイント満載の課題曲なのです。
先ずは冒頭のシンセドラムの質感ですが、これはスピーカーシステムによって
本当に千差万別の鳴り方をするのです。
しかし、アコースティックな本物のドラムとは違い、ドラムヘッドとシェルに
よって作られる倍音成分の成り立ちによって雰囲気のある空気感というか響きの
延長線上にある音色の違いを楽しむというよりはドライな打音のみというもの。
これがスピーカーによっては「ドス!」「ドン!」「バス!」「バム!」のように
文字で表現できるほどの大きな違いとなって再生されるのだから大変です。
これは第三章「骨格と風穴」で述べたウーファーユニット、エンクロージャー、
そしてバスレフポートという要素から発生する多様性という事になるのですが、
なぜこのようになるのかと言えばメーカーと設計者による各種パラメーターの
優先順位が違うからということになります。
測定すればフラットな周波数特性であるという根拠の元に各社のスピーカーは
同じゴールを目指して設計されるものの、正弦波など測定用の信号波形ではない
ダイナミックに変化する音楽信号に対しての忠実さと商品としての演出効果を
秤にかけているからとしか私には言えません。
そのような意味で前述したウーファー振動板の後ろ側に放射された低音をどう
扱うかによって個性として様々な低音が出来上がってしまうのです。
■B&W 800 Series Diamond D4 Overview
https://youtu.be/wapsTgV0xbs
上記の動画ではアビィロードスタジオやスカイウォーカースタジオなど、音楽と
映画の音作りをしている最高レベルのスタジオでB&W800シリーズが使われてきた、
いや、使われ続け今後も使い続けられていくということが語られています。
40年くらい前のスタジオモニターと言えばJBLやWestlake、TADやRey Audio等の
大口径ウーファーを搭載したラージモニターがホーンと一緒に壁に埋め込まれている
モニタースピーカーが憧れの的だったわけですが時代は大きく変わりました。
何故かと言えば、それらの大型モニタースピーカーは四角い箱という形状の大容量
エンクロージャーと大口径のダクト、もしくは四角い穴によって構成される大きな
バスレフポートを持っていたからです。
それらのスピーカーでモニターされて作られた音楽の低音は、例えばドラムで言えば
ヘッドを叩いた瞬間の信号さえ与えてあげれば、バスレフポートがドラムのシェル(胴)
の響きを加えた低音を出してくれたので、インパクトの瞬間だけの電気信号を録音して
あげればスピーカーが盛大な低音を出してくれたからです。
つまり、往年のモニタースピーカーは、それ自体でドラムのシェル(胴)の役割を
果たしていたという事になり、肝心な録音信号にはドラムのスティックが叩いた
瞬間だけの音をミキシングしていれば良かったという時代があったと思います。
ですから近代的な、言い換えれば正確な低域を再生するスピーカーでは叩いた
瞬間の音だけが聴こえ、ドラムのシェル(胴)が鳴り響くという迫力という演出を
否定した再生音になってしまいます。まあ、聴いて楽しめればいいのですが私には!?
旧態依然としたモニタースピーカーで作られた音楽は制作現場のスタジオモニターを
使って再生する分にはバランスが取れますが、それはスピーカーの個性と演出効果が
通用する時代であれば良かったのですが現状ではいかがなものでしょうか。
Maegakiで述べたことを思い出して頂ければお分かり頂けると思いますが、誤った判断
基準で聴いてしまうと、演出された盛大な低音を出すモニタースピーカーで作られた
音楽を、それとは違う設計思想のスピーカーで聴いた場合には低音不足になってしまう。
逆に低域の再生能力が低いモニタースピーカーで作った音楽は、低域の再生能力が
素晴らしいスピーカーで聴いたら低音が出過ぎてしまうということになるのです。
これはスタジオの音響特性とも関係するもので、仮にライブな環境で音作りをすれば
仕上がった作品の低音とリバーブの深さは控えめになってしまうでしょう。
私は低域再生に何の演出もしていないシンプルな密閉型エンクロージャーで構成
されているHIRO Acousticと出会い、前述した音楽を制作する側と再生する側での
スピーカーの違いによって起こる低音の実に様々な多様性を確認してきました。
ですから私は特定の低音を再生した場合に、どうしてこのスピーカーはこんな
低音が出るのだろうか、という理由が分かるようになってきました。
逆に、こんなスピーカーで際した低音はこうなるだろうな…という予測が出来、
そして実際に鳴らしてみると推測通りの低音が出るということを体験してきました。
そして、今の私には大変貴重な判断基準が備わっていることを実感しています。
Maegakiで述べたD&M本社試聴室での体験です。前述のスピーカーの違いによる
低音の違いを正確に理解するためには、ルームアコースティックという環境条件を
如何に正しく理解し判断していけるかという事です。これには今も感謝しています。
さて、話しを戻しましょう。
第三章「骨格と風穴」というタイトルでの風穴とは推察の通りバスレフポートの
事を例えているわけですが、バスレフ型スピーカーの全てを否定的に考えている
ものではありません。下記のスピーカーなどは素晴らしい成功例のひとつでした。
H.A.L.'s One point impression!! - Sonusfaber AMATI Tradition!!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1396.html
当時、AVALONのニール・パテルが問題視していたバスレフ型スピーカーの変調を
示した下記を思い出して頂ければと思います。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/pho/zu-oto45-02.gif
本来の録音信号にはない低音が追加されてしまうという事が最大の問題なのです。
その変調された余分な低音がないかどうか私は直感的に判断できる自信があります。
そして、この「14.帰水空間」も展示開始直後からバーンインの進行具合を見る
ためにも何回も繰り返して聴いてきたものですが、熟成した状態で新たに聴くと…
「凄いです!このドラムの質感!テンションと解像度の両立し更に素晴らしい倍音の豊かさ!」
前曲でハープの質感に言及していますが、解像度が素晴らしいということは逆に
言えばインパクトの瞬間がどれだけ鮮明か、立ち上がりがどれだけハイスピードか
というトランジェント特性の素晴らしさの裏返しでもあるのです!
そのトランジェント特性は倍音成分の正確な再生が出来るということが大前提であり、
ここでも私はミッドレンジドライバーのBiomimetic Suspensionによる大きな貢献度を
実感しました。ドラムの音色を構成する中高域方向への威力をまざまざの見せつける!
そして、ドラムの低域方向への音色は何によって構成されるかというとポートです。
B&WはN801の時代からFlowportと呼ばれる独自のバスレフポートを開発し、以来
同社のスピーカーには伝統的に採用してきたテクノロジーがあります。
ポートの両端は関数曲線によってポート開口部がフレアー状に形成されており、
このFlowportの独特な形状という特徴の他に、もう一つ独特のテクニックが用いられている。
無数に刻まれているディンプルと呼ばれる細かいくぼみがそうだ。ゴルフボールと
同じように空気抵抗を低減する効果があり、前述のエアーの噴出音を極少に抑えている。
高速で移動する物体、逆に言えば固定されているものに対して高速でぶつかる空気に
よってノイズが発生する。新幹線のパンタグラフにも同様な原理から細かい突起が
つけられており、騒音対策の重要な要素として知られている。
これは夜行性のフクロウが滑空して獲物に接近する時に、小動物の発達した聴覚が防衛
本能を刺激し逃がしてしまうわけにはいかないので、風切り音を出さないために羽根に
見られる数多くの小さな突起からヒントを得たというエピソードを耳にしたことがある。
自然界には流体力学の法則に従った素晴らしいメカニズムが当然のごとく存在して
いるわけだが、B&Wに当時在籍していたゲリー・ギーブス博士が流体力学の専門家で
あるということを考えればうなずけることである。
Biomimeticが生体模倣技術ならばFlowportもしかり!B&Wは伝統技術を尊重する!
私がポートチューニングによって低音を出すのかという質問を澤田さんにした時、
ほとんどエア抜きですと頂いた回答が、正にこのドラムの質感に表れているのです!
ドラムのインパクトの瞬間にはしっかりと重量感があり、その響きが数瞬の時間軸に
おいて801D4から発せられ、その響きには変調された余分な低域成分が皆無である
ことを私はしっかりと確認していました!これはD&M本社試聴室での経験と一致します!
その証拠に左チャンネルの重々しい音色、右チャンネルの切れ味と抜けのいいドラム、
センターでの引き締まった音像のドラムと、三種類個々の質感が極めて鮮明な違いと
なって打ち出される!
これほど明確な打音の違いが出せるからこそモニタースピーカーとして採用される
のだろうと、惚れ惚れする爽快なドラムの連打が801D4の低域再生を物語る!いいです!
この高解像度で極めて鮮明なドラムのリズムが、この曲のキーポイントになる
音場感を造形し、スピーカーとの距離と同じところ、すなわち801D4そのものが
ドラムの音源位置としての遠近感で響き渡り、センターに表れるベースの重量感が
向上していることを一言追記しておきます!その背後に先ずはチェロが登場する。
「えっ、なに、このチェロ!今まで聴いてきた溝口肇とは別人じゃないのか!」
前曲でもたっぷり溝口肇のチェロを聴いてきたはずなのに、そこまで言うのか!
その理由は801D4が聴かせる遠近感、奥行き感、立体感という素晴らしさがあるからです!
昔のスタジオでは壁に埋め込まれたラージモニタースピーカーと前述していましたが、
前方のみに音波を放射するホーン型スピーカーであることも含めて、残念ながら
音場感というものをスタジオで確認するためには適用性が低かったのでは…。
素晴らしい録音の音楽は空間を作り出し、音像と音場感の両立が必須だと考える。
モニタースピーカーとしてB&Wに求められたものは何だったのか、改めて私は確認した。
前曲のハープとのデュオでは、ほぼハープと同じ距離感のチェロだった。それが
この曲ではドラム後方の奥深くに、801D4のトゥイーターの上方にチェロが定位する。
スタジオ録音での遠近感の付け方は意外にシンプル。遠くに聴かせるには音量レベルを
小さくしリバーブをかけることで距離感が感じられるようになる。
そんな三次元的な音作りを目指したとしたら、どんなモニタースピーカーが必要か。
ドラムのはるか向こうから響き渡るチェロの滑らかな美音が既に答えとなっていた!
801D4が聴かせるチェロ、美しい…とにかく美しい!
弓と弦の摩擦感を眼前で披露する迫力もチェロの魅力であることは間違いない。
しかし、絞り込まれた音像から艶やかで滑らかで心地良い音色のアルコで奏でられる
遠目から響き渡るチェロが、周囲の空間に余韻をたなびかせて漂っていく美しさに
私は聴き惚れ、録音テクニックの妙味を感動と共に味わっていたのです!
やがて主題のメロディーはマリンバ、ピアノに引き継がれ、同時にキーボードが
シュールな音色で背景に大きな空間を提示し始め、その合間にウィンドチャイムを
始めとする高音階のきらめくパーカッションが散りばめられていく…。
ミッドレンジドライバーの革新性は前述したが、いやいや〜801D4の進化は演奏を
聴き進むにつれて項目を増やし、私の頭の中のチェックシートの行数は増えるばかり!
他のスピーカーで聴いてマリンバを叩くマレットの硬さが音になっていたのか、
一打ずつコン!コリン!と木琴の存在感を硬質な音色として良い解釈で聴いてきたのか?
鋭さ硬さをイメージさせる打音は音像の引き締まりも連想させるので、私は否定的には
感じていなかったのです…、ところが!
801D4が聴かせるマリンバの打音には一打ごとに響きと余韻がパッケージ化されたようで、
インパクトの瞬間に続く音像の緻密な定位感を保ちつつ、マレットのゴムヘッドに毛糸や
綿糸を厚く巻きつけたような打音の変化、質感の潤いが堪らない味わいとして耳に優しい。
そして、鍵盤の下部に各音階によって長さを変えた共鳴用の金属管があるわけですが、
その共鳴音が空間に保持されて消滅までの時間軸を永らえていることに驚く!凄い!
今までのスピーカーでは感じられなかったマリンバの情報量の増加はピアノでも!
その後を引き継ぐピアノの粒立ちが克明になり、左右スピーカーの間隔に広がる
鍵盤の展開は巧妙なパンポットで広がりを感じさせ、打鍵の瞬間から発せられた
響きには適量のリバーブが施され余韻感を演出させて空間に溶け込ませていく!
木琴とマレットの関係と同様にピアノのハンマーと弦のアタックからほとばしる
余韻の素晴らしいこと!だが決してアタックの鋭さが鈍くなるということはない。
スタジオワークで施したピアノの残響は、あたかもホールで録音したのではと
思わせるほど、耳で感じるエアボリュームの大きさが感じられる!これはいい!
打楽器二者の素晴らしさはインパクトの瞬間の鋭利さは維持しながらも、つづく
響きの質感に程よく心地良い潤いと微妙な柔軟性をもたらしたと言えると思います。
それら質感の向上は高音階のパーカッションでも感じられ、Maegakiで語っていた
音源をLEDなどの光源のきらめきと例えていたイメージがここでも当てはまった。
空間に散りばめられた細かい金属の鳴り物が弾けるように、また揺れるように
きらきらと輝く透き通った高音を響かせる描写力が素晴らしいのです!
前述ではミッドレンジの革新に合わせてウーファーも変更されたと納得したが、
それらはトゥイーターとの関連性においても言えることなのでは? そんな思いが
こんなビジュアルを頭の中に浮かべてしまうのです。
↓たった5秒のこれです。
https://2020dynamicaudio.com/1336-2/
801D4のダイヤモンドトゥイーターは磁気回路に変更点はあったものの、振動系は
同じものなのに何故か私には進化しているように思えてならなかった。
ミッドレンジドライバーのBiomimetic Suspensionによる革新性にマッチするよう、
801D4のトゥイーターのマウント方式にもサスペンションが施された。これです!
かすれた音色のキーボードが背景を飾り、ウィンドチャイムのキラキラと輝く響きが
空間を飛び去って行くように展開し、高域での情報量の素晴らしさをここでも実感した!
再びセンターに戻ってきたチェロがゆったりとした旋律を奏で、揺らぐことのない
定位感を最後まで保ちつつペースダウンしていき、無音の空間が戻り幕を閉じる。
今後ここで801D4を試聴される皆様には上記の二曲を必ずお聴かせしなくては!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
廃盤の宝庫と言える当フロアーのCDコレクションの枚数はざっと2,000枚くらいだろうか。
しかし、その中には長年の試聴経験に基づく優秀な録音が多数あり歴史を物語っている。
■Joe Morello/Going Places「9.Autumn Leaves」(DMP/CD-497)
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211110155508.jpg
Digital Music Productsに関して参考リンクは下記
https://en.wikipedia.org/wiki/DMP_Digital_Music_Products
Joe Morelloとはこの人。そう、Dave Brubeck QuartetのTake5でのドラムが有名です。
https://www.youtube.com/watch?v=CzqkSiSNC3g
https://www.youtube.com/watch?v=y_YY2N7uqKw
上記もその中からの選曲。今はなきDMP(Digital Music Products)の一枚。
1993年の録音で当時としては最新鋭のWadia A/D converter、YAMAHA DMR8 20bit
DIGITAL Mixerを使って録音されたもの。DMPでTake5を再録音したものもあります。
この「9.Autumn Leaves」はウッドベースとドラムだけというデュオの録音。
更に特筆すべきはJoe Morelloはブラッシュワークだけで演奏しているという事。
実はこの曲、私は三回も繰り返して聴いてしまいました。気持ちいいからです!
しかも、回を追うごとにボリュームを上げ最後にはGrandioso C1Xのディスプレーで
-17.5dBという音量まで上げてしまいました。この音量は体験して頂くしかない!
先ずはウッドベースからAutumn Leavesの馴染み深いメロディーが数フレーズ演奏され、
その後にドラムが登場するのですが、特筆すべきはベースの音像表現の素晴らしさ!
音量を上げても音階が上下してもセンターにビシリ!と定位する音像サイズは見事に
コントロールされており膨らむことはありません。ウーファーの高さまで縦方向に
音像が引き伸ばされ、またバスレフポートからの背圧の残響で床に落ちこぼれる
ような印象は皆無であり、もしろ801D4のミッドレンジの高さにくっきりと音像を
浮かび上がられる爽快感が素晴らしいのです!
そして、ブラッシュワークだけで叩かれるドラムの打音の何とも鮮烈であり、
私の記憶にあるJoe Morelloよりも801D4によって加速された打音が叩き出されます!
スティックはしなることはありませんが、ブラシは演奏者のテクニックによって
各種のタムのヘッドにヒットされる瞬間に、あたかも野球のピッチャーのリリース
ポイントの巧妙さと力強さのように、またテニスプレーヤーがサーブを放つ一瞬の
腕のしなりにも似て、ブラシがしなってインパクトする瞬間のエネルギー感が物凄い!
ドラムのヘッドをブラシで撫でるように軽妙なリズムを刻む奏法は馴染みのものですが、
音階の違う複数のタムのヘッドをビシリ!バシリ!とヒットするJoe Morelloの腕に
筋力の高まりと目に見えない程のスピード感を感じる激しくもセンスあるドラム!
そんな目にもとまらぬ早業でブラシで叩かれるタムに聴き惚れていると、ハイハット、
シンバルの切れ味鋭い打音が織り交ぜられ、ベースのピッチカートが奏でる枯葉の
メロディーラインに躍動感あるアクセントを付けて進行していく演奏に息をのむ!
そして、前曲でのシンセドラムのドライで801D4のウーファーが鳴っているという
距離感で叩かれたドラムとは打って変わり、アコースティックなキックドラムの
空気をはらんだ打音が爽快にバスレフポートから余韻を叩き出す迫力に唸っていた!
キックドラムのヘッドを鋭く高速で叩くビーターのインパクトが、なぜこうも
力強く鮮明に目視出来るがごとくの鮮烈さで描き切れるのだろうか!?
更にキックドラムの叩き出した重量感ある低音が正確に立ち上がり、正確に消えて
行くのかという低域再生におけるウーファー振動系の挙動を何が支えているのか?
そうか、それか!という記憶が801D4の骨格を示す画像として頭に浮かんだのです!
801D4だけであり802以下のモデルにはないボトムプレートの存在感です。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211026144840.jpg
801D4の210mmという長さのFlowportをしっかりと足元で支えるぶ厚いアルミ製の
ボトムプレートの威力は、派手な低音を撒き散らすのではなく正確無比に低音の
録音信号にウーファーをトレースさせる事、ウーファーの振動板の高域共振を
しっかりと押さえ込んでいるアンチレゾナンス・プラグの威力を生かすこと!
複数の技術革新によって叩き出されるスリリングなドラムに私の体温は一度上昇した!
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ハープという撥弦楽器、ドラム、マリンバ、ピアノにパーカッションという打楽器、
そして人の声に最も近いと言われる弦楽器であるチェロで801D4の威力と魅力を感じて
きた私が次に聴きたいもの。そう、人の声ヴォーカルという選曲にたどり着くのに
なんの疑問もなく自然な成り行きだった。それでは、という事でお馴染みのこれ。
■Melody Gardot/Sunset in the Blue
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/
1.If You Love Me
オーケストラなどのホール録音では弦楽器、スタジオ録音ではストリングスと
言い分けている事は以前にも述べていたが、イントロのストリングスを聴いた瞬間に
その質感に過去の記憶にはない良い意味で異質なものを感じ取っていた!
「ちょっと待って!このストリングスの音色、これって初耳なんですけど!」
スタジオ収録されたストリングスは音質的演出を行うのが普通であり、そこに
エンジニアとプロデューサー、アーチストの感性が表れていることは普通なのだが、
どうにもこうにも「If You Love Me」の冒頭で流れ始めたストリングスの質感には
この私でも記憶がないほどの美しさ滑らかさがあることに驚愕する!
そしてMelody Gardotの歌声がセンターに浮かんだ直後、秀麗な連続する楽音の
あまりにも美しい、そして美味しいと本能的な感動に過去の膨大な音の記憶を
高速サーチして出た結論が初耳という驚きと発見だったのです。
私は以前からオーケストラの弦楽五部の各パートに関して面で展開する、管楽器は
それに対して点という音像のあり方で音源の発祥地点での有様を例えてきました。
その弦楽器でいう面とは集団での合奏が左右スピーカーの中間定位として横並び
する演奏者が多数存在するという臨場感を比喩するものなのですが、大切なのは
その集団が平面的ではなく立体的に内部に分解能を感じさせ、演奏者一人ずつに
固有の音色を感じ取れる情報量の素晴らしさが響きと余韻となって空間提示して
くれることを重視しているということなのです。
そう!この録音でのスタジオでのストリングスはスピーカーに貼り付いた印象ではなく、
まさに801D4周辺の空間に浮かび上がっているという三次元的な響き方であり、同時に
醸し出されるゆったりとしたアルコの弦は空気と同じ浸透圧で響きを発散し空間を
広げていくという妙技があり、それが同時にヴォーカルにも感じられるという素晴らしさ!
ヴォーカルはセンターに濃厚かつ妖艶な口許の音像を保ちつつ、その残響が心地良く空間
に浸透し消えていく有様に今までのスピーカーとは違う!という思いが頭の中に定着した!
ストリングスは摩擦によって発音している、それは解かる。歌手の声は喉から、
いや全身から湧き出る声量をともなって中空に存在感をピンナップしていく。
連続する楽音が発祥から消滅まで、言い換えれば空気に浸透していくまでの描写が
無音から発音、それが連続しつつ残響が空間にたなびき空気に溶け込んでいく連続性!
そうだ、これをB&Wはcontinuumと言いたかったのか!
ピストンモーション・モードから分割共振モードへ連続的に移行し境目が解らない。
コンティニュアム・コーンは細い繊維がガーゼのように隙間を開けて織られており
繊維がしなやかに動くことで再生する周波数の高低の変化を滑らかに再現出来る!
801D4での採用が二世代目となるコンティニュアム・コーンのビジュアルがひらめいた!
continuumとは物質・事件などの連続性を意味するというが、その秘訣がこれだったのか!
https://www.dynamicaudio.jp/s/20211024162756.jpg
この課題曲ではドラムは軽いブラシだけでヘッドを撫でる演奏で背景にリズムを刻み、
その下側でベースがゆったりと重みのある低音をセンターで響かせ、渋いトランペットが
間奏で鳴り響く際にも、統一感ある空間表現にcontinuumな安定感が素晴らしい!
9.From Paris With Love
https://www.youtube.com/watch?v=RCckn1H5DIE
私はこの曲のイントロのストリングスのメロディーを聴いていると、セーヌ川の
きらきらとゆらゆらと揺れる水面の風景を思い出してしまうのです。
このゆったりとしたロマンチックな旋律は801D4のcontinuumな音質表現の魅力を
しっかりと表現しているようで感動的。前述の滑らかさ美しさが歌声の脇役となり、
私が気が付いた以前の記憶と違う要素として、ジャズ・ヴァイオリニスト寺井尚子の
ソロバートでのしっとりした音色でした。以前はもっとドライだったような気が…。
これほどストリングスとヴォーカルの美しさを聴かせるのであればオーケストラでは!?
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
私が今回801D4を語るにあたって使用した課題曲は本稿で述べているよりもっと多い。
感動の大きさに文章量は比例するという私の悪癖もあり、それでなくとも大変な
長文となっている現状であり、ここで語るのは試聴した課題曲における最大公約数的な
印象として抜粋したものであることを明記しておきたい。よってオーケストラでは下記を。
■マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団/1987年録音の[3]を聴く
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]として。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg
この第二楽章での冒頭、弦楽五部の合奏が始まった時に前曲での予感が早くも的中する!
一般的には50人編成の弦楽五部が繰り出した響きの多様性に私は早くも舌を巻く!
音質的演出を前提としたストリングスの質感はスタジオワークでの感性の表れだが、
ホール録音のオーケストラにおいてもマスタリングでは音のお化粧を施しているもの。
それは上記で紹介したように同じ曲を複数のアルバムで聴き比べれば解かるものですが、
同じオーケストラの各パートにおいて以前に感じ取れなかった要素を発見することもある。
多数の奏者による弦楽の質感において、録音情報に隠されていた演奏集団が内包している
一人ずつの奏者の存在感がどのように聴こえてくるのか、音楽的解像力の素晴らしさがある。
白いパレットに絵具を置き、それを少しずつ混ぜていく事で中間色が出来上がる。
今までは二色から三色程度の絵具を出して、それを混ぜ合わせての新色を見ていたのか?
ところが、これほど聴き慣れた曲であるのに、801D4が鳴らし始めた瞬間から私の
パレットには五色、六色の絵の具が追加されたのだと思わざるを得ないのです!
801D4で聴く弦楽器の音色には今までになかった中間色、新しい色彩が感じられる。
隣り合う絵具を混ぜる、対角線にある絵具をちょっと加えて変化を付けた色なのか。
とにかく弦楽器の発する音色の数が圧倒的に増加したという現象に戸惑い感動した!
そして特筆すべきは管楽器の質感だ! 右チャンネル奥からのトランペットの響きに
抜群の透明感が備わり、今までは微妙なヒステリーを起こしていたのかと我が耳を
疑うように801D4が発する金管楽器の質感には輝きながらも滑らかさがあるのです!
左右両翼から繰り出される馴染み深い旋律には私が初体験する描写力によって、
これがモニタースピーカーの仕事なのかと納得させる美的解像度の素晴らしさ!
しかも、グランカッサとティンパニーの打音は遠近感ある音像提示が素晴らしく、
決してステージ前にせり出してくることはなくディティールが膨らむ気配もない!
トライアングルの極小の音像もしっかりと輝きながら残響成分の保存性が素晴らしく、
逆に木管楽器の個々のパートが奏でるフレーズごとに定位感がピン止めされて安定し、
そのおっとりした音色がステージ上にしばらくの余韻を滞在させる見事な情報量!
なんと優しい、それでいて輝きがあり、空間への浸透力を持つ響きの連鎖であることか!
801D4が聴かせてくれるオーケストラに皆様も新しい音色を発見されることでしょう!
■Atogaki
仕事でもオンとオフがあるように、私が聴く音楽にもオンとオフがあります。
ハルズサークルの配信では以前から何度か述べてきましたが、長らくの間
私はガラケーを使い続けて来ましたが昨年6月にiPhone SEを使い始めました。
今ではほぼ24時間iPhoneを使い続けるという生活になっています。
夜寝る時には睡眠状態をモニターし記録するアプリをずっと動かし、朝はその
アプリのアラームで目覚め、通勤時には歩いても電車でもApple Musicを聴き
続けているので、LINEなどは使いますがゲームは一切やっていません。
仕事で聴く音楽は試聴ということでオンのとしての選曲ですが、Apple Musicで
聴く音楽とはオフのモードであり歌謡曲、洋楽の懐メロから実に様々な音楽を
聴いていて、その中で当フロアーのシステムで聴きたい仕事用の音楽を発見する
ということもよくあります。こんなオジサンがAirPods PROを耳に差し込んで
日々歩いているのですから若者からしたら珍妙な姿かもしれません(笑)
特に今年6月から始まったApple Musicの空間オーディオ、同時にドルビーアトモスの
再生も限定されたヘッドホンで出来るようになり楽しみが倍増しました。
その中で最近、大変気に入っているのがThe BeatlesのLet It Be/Super Deluxeです。
https://music.apple.com/jp/album/let-it-be-super-deluxe/1582541991
空間オーディオ、ドルビーアトモスの再生はAirPods MaxおよびAirPods Proの
いずれかでないと出来ないのですが、そのパフォーマンスには大満足しています。
特にダイナミックヘッドトラッキングという機能が面白い。
例えばポール・マッカートニーのヴォーカルが正面から聞こえているシーンで、
頭を左に向けると右方向からポールの声が聞こえ、逆に右を向くと左耳で歌声が
聞こえるという定位感の移動があり、それに伴奏全体も伴って定位が変わります。
いや、定位というのは正しくないか? 常に音楽全体が正面に位置しているという
状態が保たれているという事になります。これがリアルでいいのです。
ですから、当フロアーのハイエンドシステムで聴くのとは違う楽しみ方という
もので最近は良くビートルズを聴いています。
帰宅途中の夜道ではザ・ロング・アンド・ワインディング・ロードですね〜。
朝の出勤で歩きながらゲット・バックとレット・イット・ビーがいいですね〜。
2021MIXではドルビーアトモスで聴けるので2ch再生とは違った素晴らしさです。
更に、iPhoneのソフトウェアをiOS15.1にアップデートしたら、何とドルビー
アトモス以外の2chステレオの曲でも下記のように空間オーディオで聴けるように
なっていたのですから驚きました。
https://support.apple.com/ja-jp/guide/airpods/dev00eb7e0a3/web
https://www.phileweb.com/review/column/202109/22/1397.html
https://dime.jp/genre/1232708/
いや〜、実に楽しいものです。ダイナミックヘッドトラッキングも良いのですが、
サラウンド効果で普通の曲が聴けるとは思ってもいませんでした。
でも、厳密に聴き比べるとドルビーアトモスのように楽器の各パートごとに
チャンネルがあり、楽器ごとの定位感があるのとは少し違うようです。
ハイエンドオーディオで聴く私にとって仕事のための音楽ではなく、オフの時に
好きな音楽を空間オーディオで聴けるのは本当に楽しいものです。
さて、ラジオでもネットでも下記のLet It Be/Special Edition が話題になって
いるようですが、一応当フロアーの試聴盤としても取り寄せしました。
https://sp.universal-music.co.jp/beatles/
一応…、などと言っているのには私なりの理由がありました。
ビートルズと言えばアビィロードスタジオ、今回のSpecial Editionでもモニター
スピーカーにはB&Wが使用されていたはずなのですが、果たして801D4であるのかどうか?
2021 Tokyo international Audio Showの会場で澤田さんを探して尋ねてみたのです。
私の意を汲んだ澤田さんから下記の返事がありました。
「金曜日に会場でいただいたご質問の件、B&Wより回答がありました。以下の通りです。
アビーロードスタジオに最初に801D4が納入されたのは実は少し狭い第二スタジオで7月30日でした。
ご存知の通りサウンドルームの広さの関係から、本来なら801D4は第一スタジオと第四スタジオ
(ペントハウススーツ)のサウンドルームにマッチするのですが、これらは現在800D3を使用しており、
それに対して第二スタジオは古いノーチラス801のままでしたのでこちらを優先しました。
サウンドエンジニアは急激な変化を望みませんので、私たちも無理に切り替えることは
したくありません。それでもいずれ他のスタジオも最新型に切り替わって行くでしょう。
また、お尋ねの801D4をモニターに使った音楽作品について、まだクレジットできるものはありません。
とはいえ、いずれこのスピーカーをモニターに使って制作された音楽が世に出るでしょうから、
その時が来たらおしらせします。」
ここまで述べたら、そして私の音楽に対するオンとオフのcontinuumを実現するとしたら、
最後の選曲はこれしかありませんでした。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
当フロアーにもビートルズのCDは下記のように何枚かありますが、音質的理由から
オーディオシステムを吟味するための試聴には使用して来ませんでした。
THE BEATLES/「1」
https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/products/tocp-71000/
上記は確かにリマスターなのですが結果的にフィル・スペクターが施したサウンド
オブ・ウォールと呼ばれていた多重録音による音質であり試聴には向いていません。
THE BEATLES/Let It Be…NAKED
https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/products/tocp-70895/
これはリマスターではなくリミックスによるもので、バンドとして彼らがスタジオで
出していた音を再構成したもので初めて聴いて感動した思い出がありました。
THE BEATLES/LOVE
https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/products/tycp-60031/
これはリミックスではなく、リプロデューシング盤ということで膨大な彼らの
音源データを再構成したもので私も大好きなアルバムです。
THE BEATLES/ABBEY ROAD
https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/products/uicy-79051/
上記もリミックスされているものでハイファイという観点からすれば傑作でした。
(上記URLは長らくの期間において今後変更される可能性がありますのでご注意下さい)
Let It Be/Special Edition
https://sp.universal-music.co.jp/beatles/
Maegakiから始まり前述してきたように判断基準が誤ってしまうと結果も異なり、
またモニタースピーカーの性格によって録音作品の品位も変化してしまうという事。
しかし、B&W 800D3を使用して制作された最新盤をドルビーアトモスのような立体音響ではなく、
2チャンネルのハイエンドシステムにより801D4で聴けるということに私は興奮していたのです!
私の音楽に対するオンとオフのcontinuumが果たしてどんな感動をもたらすのか!?
(Let It Be)
オリジナルは1969年1月31日にサヴィル・ロウ3番地のアップルスタジオで録音された。
この当時のモニタースピーカーは何だったのかは不明ですが、上記のように同じ
ビートルズであっても過去に発売されたCDのバージョンは数種類あり、別テイクの
録音もあるので、彼らがスタジオで出したバンドのみの音ということでは上記の
Let It Be…NAKEDに収録されているバージョンが最も近いものと思います。
もう半世紀も前の録音テープからB&W 800D3を使って、どのように再構成したのか?
先ずはイントロのポールが弾くピアノの質感に痺れてしまいました。
極めてシンプルで演出的チューニングの香りがないピアノが、こんなにも自然で
アコースティックな音だったのか!
続くポールのお馴染みのヴォーカルですが、これがまたリバーブをこそぎ落として
オンマイクの迫力と新鮮さが801D4によって眼前に現れた時、私は震えました!
でも、ここからなのです!
アビィロードスタジオ3で三か月後にジョージのエレキギターが収録されます。
そして、1970年には同スタジオ2で下記のパートがオーバーダビング用パートが
更に収録されていったのです。
ポール:ベース、マラカス、エレキピアノ、バッキングヴォーカル
ジョージ:エレキギターソロ、バッキングヴォーカル
リンゴ:ドラム
リンダマッカートニー:バッキングヴォーカル
更にトランペット2本、トロンボーンにバリトンサックス、テナーサックス、
そしてチェロも数本が加わっていたのです。
Apple Musicでドルビーアトモスで聴くと各パートが前方以外の位置から包まれる
ように聴こえてくる初めてのLet It Beが楽しく面白かったのですが、そんな定位感の
問題ではなく、801D4が自分が存在している空間で身体全体に投げかけてくる素晴らしい
Let It Beに私の記憶はみるみるうちに上書きされていったのです!
ベースの重量感はこんなにあったのか、ドラムの重みが空気を震わせる響きに驚き、
ビリー・プレストンのオルガンはこんなにクラシックな響きだったのかと感動する!
マラカスの音は巧妙にパンされた左右に散りばめられ、左右チャンネルの両翼に
はみ出すようにホーンの響きが背景を彩っていたとは!
Let It Be…NAKEDと思わず聴き比べてしまい、同じ曲においてもバリエーションが
こんなにもあったのかとビートルズの歴史の重さを801D4という超近代的なモニター
スピーカーによって、あからさまに目撃した事の興奮は未だかつてないものでした!
50年前の音源データを駆使して近代に蘇らせた素晴らしさ、それをサポートしてきた
B&Wの存在、新しいモニタースピーカーの完成度によって私たちの目の前で展開する
ビートルズの存在感と素晴らしさ、時の流れもcontinuumとすれば801D4の登場は
歴史的音楽遺産と私たちをつないでくれる正にコンティニュアムと言えるでしょう!
ここまでの長く拙い文章にお付き合い頂きました事に感謝致します。
長きに渡る本稿の執筆は正に(The Long And Winding Road)でした。
長らく歴代モデルのB&Wをご愛用頂いている皆様へ、そして他ブランドの
スピーカーを使ってこられた皆様にも最後の一言は…B&Wに(Get Back)です!