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H.A.L.担当 川又利明
    
2021年5月10日 No.1662
 H.A.L.'s One point impression!!-Chord Electronics Reference Range Vol.2

歴史を振り返れば同一ブランドでスピーカーまで含めてハイエンド・オーディオ
システム全てを完成していたのは、かのGOLDMUNDが先ず最初に思い起こされるところです。

確かにフルGOLDMUNDで構成したシステムにひとつでも他社製品が混じると同社の純血が
崩れてしまう感があり、血統を重んじるブランドGOLDMUNDとして私も評価していました。

そして、ふと気が付いてみると長らく当フロアーでリファレンスとしているESOTERICの
Grandiosoシリーズはどうかと言うと、アンプだけでなくソースコンポーネントも含めて
スピーカーを除いたエレクトロニクスコンポーネントのラインアップとして完成している
事に改めて気が付きました。

H.A.L.'s One point impression!!-Chord Electronics Reference Range
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1660.html

上記でも述べていますが、最近当フロアーにて試聴したアンプに関して、
私は一貫して設計者の感性を納得出来るレベルで聴き取るには、同一思想で設計
されたプリとパワーアンプという純正のペアリングが必要であると考えています。

これは広義においてはディスクトランスポートとDACの関係においても言えることで、
ESOTERICのES-LINKに代表されるように自社独自規格にて音質革新を行ってきました。

もちろん異なるメーカーのトランスポートとDACにおいてSP-DIFやAESという一般的な
伝送方式において再生することは性能的には何も問題はないのですが、自社の目指す
音質を確立するためには同一ブランドでの組み合わせに大きなメリットがあるという
ことでアンプの分野と共通した価値観があると思います。

上記のChord Electronicsにおいてはどうかというと、次の二者がそうでしょう。

Chord Electronics Blu/MK2 (税別¥1,400,000.)
https://www.chordelectronics.jp/products/choral-range/blu-mkii/

Chord Electronics DAVE (税別¥1,500,000.)
https://www.chordelectronics.jp/products/choral-range/dave/

この両者を二本のBNCデジタルケーブルでDUAL伝送することで最大 705.6kHzの
アップサンプリング伝送を実現し、DAVEと組み合わせた際に最大のパフォーマンスを
発揮するように設計されています。

実は、この両者が発売されて間もなくという4年ほど前になりましょうか、
Blu/MK2とDAVEの組み合わせを私は当フロアーで体験していたのです。

その当時はアンプもスピーカーも他社のものでしたが私は音質を高く評価しました。
両者の組み合わせ価格が290万円ということを考えると驚異的な音質だったのです。

しかし、その当時はdCS Vivaldi Oneは出るは、Sonusfaber/Homage Traditionは出るは、
その他にも有力な新製品が続々と登場し、ついぞBlu/MK2とDAVEのインプレッションを
書くゆとりがなかった事を思い出します。

ChordのDACの最初のヒット商品と言えばDAC64でしょう。発売当時は36万円でした!
ハルズサークルで初めて取り上げたのは2002年9月のことでした。

ここから始まったChordの技術進歩は次のDAC64mk2、QBD76、QBD76HD、QBD76HDSDへと
同社DACの歴史を次々と書き換え「Digital to Analogue Veritas in Extremis」へと
進化していったわけです。これがDAVEです!

そして、その当時から叫ばれるようになった“ハイレゾ”という音楽ファイル再生の
急速な発展と進歩にぴったりと歩調を合わせてニーズを確率してきたのもDAVEでした。

PCオーディオからネットワークオーディオなどと呼称の変化はあったものの、
ファイル再生に関して弊社での先駆的な取り組みをしていたのがH.A.L.3の島でした。

そのH.A.L.3の島がDAVE二台を使って更なる高みを目指した試みを行っていました。

DynamicAudio 5555 H.A.L.3  CHORD DAVE 2台使用
https://bit.ly/3hArKL9

DynamicAudio 5555 H.A.L.3   CHORD ULTIMA PRE2 試聴レポート
https://bit.ly/3yc1iNM

さて、2chステレオ再生が出来るDACを左右二台使うと音は良くなるのか?

このメールマガジンをスタートした2000年7月のハルズサークル創刊号にて紹介している
dCS Elgar Plus(当時280万円)というDACを二台使用して鳴らしたことを思い出します。
もったいないような使い方ですが激変した音質に驚いたものでした。

その体験を元にモノDACの先駆けとして三年後の2003年には次のような企画もやりました!

Dynamic audio Original products by GOLDMUND MIMESIS 21D
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/243.html

左右独立MONO DACの威力ということでは20年以上前から私は承知していたものです。

ここまでトランスポートにはESOTERIC P-0s+VUK-P0を使ってきたわけですから、
前述のようにトランスポートとDACは同メーカーがいいなど当時は言えなかったと
いう時代背景を思い出します。

そして、翌2004年には遂に最初からモノラル構成のDACがESOTERICから発表されました。

今年最大のニュース!! ESOTERICがCD/SACDの頂点を極めた!! 
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/314.html

その年の9月に書き下ろしたのが下記の随筆でした。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/oto53.html

…どうも年のせいか(笑)昔話の前置きが長くなってしまい失礼致しました。

Chord Electronicsのプリとパワーアンプという純正ペアによって当フロアーにおける
リーズナブル? な価格帯でも素晴らしいパフォーマンスを発揮するという体験をした
私は前述のように同一メーカーのソースコンポーネントを組み合わせることで、
しかもDAVE二台でモノラル仕様とすることでChordの感性を更に理解できるのでは
ないかと考えたのは当然の帰結と言えるかもしれません。そこで下記システムです!

H.A.L.'s Sound Recipe/Chord Electronics Reference Range-inspection system Vol.2
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210515175107.pdf

実際のセットアップ状態は下記にてご覧下さい。ラック一段でセットできました。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210515180725.jpg

分かりづらいと思いますがDAVEのディスプレーにチャンネル当たり705.6kHzに
アップサンプリングされていることが表示されています。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210515180715.jpg

これはH.A.L.3の島からそっくり借りてきたものですが、ESOTERICに続き全ての
エレクトロニクスコンポーネントをChordで統一してHIRO Acousticを鳴らすという
システム構成が完成したわけです!(以前に比べるとリーズナブルでしょうか?)

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

そして、このフルChord Electronicsのシステム構成が完成した時、私が最初に
聴きたいと考えていた選曲は先ずヴォーカルからでした。

■Melody Gardot/Sunset in the Blueより1.If You Love Meと9.From Paris With Love
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/products/uccm-1260/
https://www.universal-music.co.jp/melody-gardot/about/

「弦をブランド名にしたChord Electronicsですから!」という言葉で前回の記事を
締めくくったわけですが、スタジオ録音の音質的演出を施された弦楽器を私は
ストリングスと呼んでいると述べているように美しくお化粧した弦楽器と前例が
ないほど魅力的だったMelody Gardotのヴォーカルを最初に聴きたかったのです!

前回はステンシルプレートの例えで音像と音場感の両方を拙い文章で語りましたが、
Chordの純血によって眼前に浮かび上がってきたストリングスとヴォーカルの何とも
魅力的な質感に思わずうっとりさせられてしまいました。これはいいです!

前述のようにBlu/MK2とDAVEを4年前に聴いた時、最も強く印象付けられたのが
弦楽器とヴォーカルの素晴らしさだったことを思い出します。

UltimaPre2とUltima5のペアを聴いた段階で私がこだわっている音像と音場感と
いう両面で合格点以上の評価をしましたが、その解像度と情報量に加えて独自の
色彩感というものをChordのカラーとして新たに認識したものです。そして…

■大貫妙子 「pure acoustic」より7.「突然の贈りもの」
http://www.universal-music.co.jp/onuki-taeko/products/upcy-7097/

続くヴォーカルの課題曲として以前にも述べていますが、この「突然の贈りもの」は
ヴォーカル、ピアノ、ベース、サックスという全てがセンター定位なのです。

冒頭からの三分間はピアノ伴奏による大貫妙子のヴォーカルのみで、これを聴いて
いるだけで克明な音像と広大な音場感を同時に察知することが出来ました。

そして、Blu/MK2とDAVEによってヴォーカルの質感の艶やかさ滑らかさ、そこに
高レベルな透明感が加わったことが感じられ、極上の歌声が胸にしみ込んできます!

同一ブランドで構成される人により設計者の意図と理想が以前にも増して感じられ、
その美意識を言葉にすると前回の文章を再度繰り返すことになってしまいそうです。

とにかくChordの純血がもたらしたものは大音量に任せた迫力一辺倒の再生音と
いうものではなく、弦楽器とヴォーカルにおけるしなやかさと絶妙な音色の美しさ
という表現で私の語りに歯止めをかけておかなければと思います。そして更に…

>この時初めてUltimaPre2とUltima5のペアによって、私が求め目指している情景描写が
>三日目にして表れてきたのです! 素晴らしい、これは実に素晴らしい!

この驚きを経験することになった下記のオーケストラをかけた時でした!

■マーラー交響曲第一番「巨人」第二楽章 小澤征爾/ボストン交響楽団

上記のスタジオ録音によるヴォーカル曲での変化量にて推測していたBlu/MK2とDAVEを
加えたことによるChordのパフォーマンスの伸びしろは私の想定よりも桁外れであった
という衝撃の事実をここで思い知ることになったのです!

「これは想定外じゃないか、なんと広大なサウンドステージなんだ!」

弦楽五部の合奏で楽音の質感は前述のように文句なしの素晴らしさなのですが、
想定外と言ったのは音場感、空間再現性の素晴らしさに度肝を抜かれたからです!

UltimaPre2とUltima5のインプレッションでも散々述べてきたことなので、
それを上回る称賛の言葉は私のボキャブラリーが乏しいので思いつかず、
これは課題曲の枠組みを変えなくてはと興奮と好奇心に引っ張られて滅多にない
取り組みへと踏み出して行ってしまったのです。

当フロアーでコレクションしているマーラー交響曲第一番「巨人」のディスクを
すべて引っ張り出してきて聴き比べてみたくなってしまいました!理由は後述します。
https://www.dynamicaudio.jp/s/20210519123606.jpg
録音の古い順に写真左上から[1]右へ[2][3]、下段の左から[4][5][6]とします。

1977年録音の[1]で小澤征爾/ボストン交響楽団にて私が使用しているのが下記になります。
https://www.universal-music.co.jp/seiji-ozawa/products/uccg-4428/
現在では下記に置き換わっているものと思います。
https://www.universal-music.co.jp/seiji-ozawa/products/uccg-51015/
これだけがアナログ録音です。

1989年録音の[2]は下記になります。クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー
https://www.universal-music.co.jp/p/uccg-50013/

1987年録音の[3]は下記で私がリファレンスにしているCD 小澤征爾/ボストン交響楽団
(私の手元にあるCDは初版ものなので大分昔に廃盤)
https://www.universal-music.co.jp/seiji-ozawa/products/uccd-4783/

2008年録音の[4]は下記になります。小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ
https://www.universal-music.co.jp/seiji-ozawa/products/uccd-1244/

2008年録音の[5]は下記になります。マンフレッド・ホーネック/ピッツバーグ交響楽団
https://octavia-shop.com/shopdetail/000000000127/all_items/page5/disp_pc/

2018年録音の[6]は下記になります。フランソワ=グザヴィエ・ロト/レ・シエクル
https://www.kinginternational.co.jp/genre/hmm-905299/

また、第二楽章を聴くのか!? いいえ、Chord Electronicsの血統を感じ取るには
もっと挑戦的、攻撃的、オーケストラ全ての楽器群をアグレッシブに演奏させる
第四楽章 Sturmisch bewegt「嵐のように運動して」がふさわしいと考えたのです!

シンバルの強烈な一撃で開始され炸裂する打楽器と金管楽器の咆哮が冒頭から噴出する。

低音の金管と低弦がぐっと重みある旋律を奏で、ヴァイオリンの激しく上下する脈動
から第二主題ではビオラが重要な警告的動機を示し、うねるような激しいフォルテから
一転して流麗な弦楽合奏にて中間部を構成しクライマックスへと盛り上がっていく。

20分前後という演奏時間を言葉でつづるのは困難であり、ご存知の皆様はふむふむと
うなづいて頂けるであろうという安心感をもって、拙いスコアーの文章化はこの辺で
止めておこうと思いますが、この楽章こそChord Electronicsにふさわしいと直感したのです!

この交響曲で当初第二楽章として構想され、後に削除された「花の章」(Blumine)を収録して
いるのは上記の[1]と[6]であり、その二枚だけは5トラックで[4]もモーツァルトの一曲が
あるので5トラックが他のディスクの4トラックすなわち第四楽章となることを追記しておきます。

ただし、ある意図があり私が試聴した順番は[1]からという順番通りではありません。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

先ず私が最初に聴いたのは最新録音の[6]でした。このディスクでの第二楽章他も
以前に聴いていることから、ホール録音におけるChordが再生する音像と音場感を
以後の比較の土台にしようと考えたからです。なぜか…

この録音でレ・シエクルが使用したのはピリオド楽器で、ドイツ、オーストリア、
一部フランス製による約100年前の楽器であり、マーラーが作曲当時に聴いていた
楽音を再現し作曲者の感性を現代に蘇らせるというフランソワ=グザヴィエ・ロトの
意図があるとライナーノーツに記されていました。

そのロトの発想を生かした録音ということで、マスタリングにおいてもリバーブの
追加はほぼ感じられずホールトーンを生かしたものであり、それ故に私が目指す
音像と音場感の両立という観察視点に適しているからなのです。ではスタート…

冒頭のシンバルの響きはあっけないほど瞬間的に短時間で終わり、つづく金管の
ファンファーレも暗い音色で遠目に聴こえ、ティンパニーの打音もステージ奥の
中央に留まる展開で音像のあり方を最初からきっちりと示してくる録音。

瞬間的な大音量の楽音をリバーブで延長することのない、いわばステージ上の
オーケストラを視覚的に見た配列と前後感を正確に表している録音であることが
最初から聴き取ることができる。特に渋い音色の金管楽器に新鮮さを感じる。

しかし、ピリオド楽器によるガット弦のヴァイオリンを筆頭に弦楽器の躍動感と
高音階のアルコにおいては挑戦的な音色とテンションがあり、その質感をChordが
次々に白日の下にさらすような解像度で訴えかけてくることに納得してしまいました!

スタジオユースを前提とした設計のChord Electronicsは、UltimaPre2でのユニークな
二系統のBUSSラインを設けているように機能的なプロユースも配慮していますが、
肝心な音質に関して録音の特徴を正確に再現するという基本性能の素晴らしさを
自社のソースコンポーネントを含めて証明した選曲であったと思います。

次に聴いたのは1977年録音の[1]でした。この時、小澤征爾は42歳でボストン交響楽団の
音楽監督に就任してから4年後というドイツグラモフォンによるアナログ録音。

その後、『大地の歌』を除くマーラーの交響曲全集をフィリップスの録音にて行い、
その一枚が私が多用している[3]ということになります。

[6]は2018年録音という事で最新のデジタル技術を用いながらもピリオド楽器という
古風な楽音での演奏であり、[1]は今から思うと近代的な楽器を使いながらも1977年の
アナログ録音ということで対照的なマーラーの録音と言えます。さてこれは…

冒頭のシンバルの輝きは抑え気味の明るさというか控えめ質感であり、トランペットの
鳴りっぷりも遠慮がちに聴こえる出だし。特徴的なのは打楽器の振る舞いだろうか。

グランカッサの打音はステージ奥に留まるボリューム感で空気を揺さぶる程の迫力と
はならず、低音階の金管や弦の響きも轟々たる楽音の奔流という印象ではなく、
各パートの音量に応じて音像の拡大と縮小がない巧妙な録音と言えるでしょうか。

金属製の巻き線を施した弦が主流になっている近代の弦楽器による質感は適切な
マスタリングのせいか派手さは押さえられ、弦楽五部の各パートが自身の音像と
すべき領域の提示の仕方が均一かつ程よいバランスながら躍動する。

これらをしばらく聴くうちに前曲で述べたステージ上のオーケストラを視覚的に
見た配列と前後感を正確に表している録音と大変共通項が多いことに気が付く。

主題の旋律を奏でる弦楽五部に対して時折りのメッセージ性を含む管楽器と打楽器の
短時間の演奏部において、そこにスポットライトを当てたかのような際立ちを表す
ことがなく、[6]と同じようにオーケストラ全体を俯瞰するような各パートの捉え方の
均一性が好ましい。アナログ録音という古さよりもドイツグラモフォンらしさという
印象を正確にBlu/MK2とDAVEが拾い上げUltimaPre2へ送りこんでいると感じられた!

次に聴いたのは同じドイツグラモフォンの1989年録音の[2]でベルリン・フィルの録音。

私はどうもマーラー交響曲第一番の第二楽章が早めに演奏されると好きになれないの
ですが、この[2]でもその傾向があるが第四楽章では違和感なく聴けるというもの。

冒頭のシンバルの一撃は少し遠くに感じられ直後に展開するオーケストラ全体での
質感が今までの二枚のディスクと大きく異なっていることに私は着目しました!

これまでの二枚に比較してリバーブが巧妙に使われているという音場感の広がりを
Blu/MK2とDAVEのコンビがたちどころに引き出して音にしてしまったのです!

金管楽器の響きの滞空時間が延長され、トランペットの残響だけでも空間を構成する。
ヴァイオリンの集団としての音像は前よりも左側に広がるように響きの領域が広い。

何よりもグランカッサやティンパニーの打楽器が叩かれた瞬間から左右に広がって
いく残響成分が増量しており、濃度が薄くなっても音像の展開として認めるならば
ゆったり大きな音像として低音打楽器の響きが録音の演出効果として迫力を感じさせる。

弦楽五部の左右への展開も演奏の音量感に伴い響きの拡散領域が縮小拡大するようで、
低弦部の短時間のアルコやヴァイオリンの切り返しの上下動に伴い残響成分が空間に
浸透していく過程でワインヤードタイプのホールの上空に展開していく響きの連鎖を
本当に上手くBlu/MK2とDAVEがアナログ信号に復元していると実感させられた!

良い意味で[6]と[1]との対比からオーケストラの録音センスによる個性が再生音に
引き出されているという比較が面白く楽しい! さあ、次はどうするのか?

小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラという日本人演奏家のオーケストラで、
長野県松本文化会館でのライブ録音としてデッカが収録した2008年録音の[4]は、
Decca ClassicsのレーベルディレクターであるDominic Fyfeがプロデューサーを
務めB&Wをモニタースピーカーとして録音作品の骨組みを作っているというもの。

長野県松本文化会館
https://www.matsubun.jp/

対して2008年録音の[5]はピッツバーグ、ハインツ・ホールにてライヴ収録され
オーストリア出身のマンフレッド・ホーネックがピッツバーグ交響楽団を指揮し、
株式会社オクタヴィア・レコードの江崎友淑氏が横浜市にあるEXTONスタジオにて
日本人のエンジニアによって録音作品として制作されたという対比が面白い!
https://www.octavia-records.com/exton-studio-yokohama

ピッツバーグ、ハインツ・ホール
https://pittsburghsymphony.org/pso_home/web/heinz-hall

日本人アーチストの演奏を海外のエンジニアが録音作品に仕上げ、外国人指揮者と
オーケストラによる演奏を日本人エンジニアの感性にてスタジオで仕上げていると
いう二作品の比較をChord Electronicsはどのように聴かせてくれるのか。

奇しくも同じ2008年に録音録音された二枚ですが、73歳となった小澤征爾が振る
唯一の国内録音である[4]から聴くことにしました。するとこれがまた…

冒頭のシンバルの激しさは一瞬のうちにダンプされたのか短時間でなりを潜め、
続くグランカッサと低音の金管が繰り出し、トランペットが出現してきた瞬間に
今までと全くことなる音場感の造形に驚いてしまった!

とにかくグランカッサやティンパニーとの距離感が近く音量も桁外れに大きい。
トランペットの残響はほぼ感じられず丸裸という印象で同様に距離感なく近い。

弦楽五部の音量感がそれらに比べて小さく貧弱に感じられてしまう。
特に低弦の響きが希薄であり管楽器の向こう側にヴァイオリンがあるのかと、
位置関係を勘違いしてしまうほど弦楽器が遠くに行ってしまうバランスに戸惑う。

中盤でヴァイオリンの盛り上がりに同期したクレッシェンドでティンパニーの打音が
少しずつ大きくなっていく過程があるのだが、別空間のスタジオブースで録音した
ように、果たして同じステージにいるのかと疑ってしまうような空間の分離感に驚く!

木管楽器も同様に至近距離で音が立ち上がり、弦楽器との間にパーテーションを
立てて演奏しているかのように別空間であるかの如く分離感がつきまとう。

スタジオユースを前提とした基本設計のChordは演出的な音、脚色した音色は当然
否定しているのだが、それが録音センスをここまで如実に引っ張り出してしまった
という正確無比な仕事ぶりに脱帽しつつ、海外録音のオーケストラとここまで違う
のはなぜなのだろうかと考え、ホールの違いなのかレコーディングエンジニアの違い
なのだろうかと戸惑いを覚える有様でした。

マスタリングの段階でリバーブ処理すれば各パートの楽音に意図した残響を付加する
事は出来るでしょうが、その前にバランスをとらなければ残響の大小というお化粧も
整わないであろうと思われました。

それとも、このバランスこそDeccaが狙った音だと言われてしまえば元も子もないのですが、
これまでに聴いてきたマーラーとの違いがあまりにも大きく、あるいは録音そのものに
正確に表現されたことに驚いてしまったのです!

確かに鮮明な音像を求めると標榜している私ですが、同じステージ上での演奏では
同一空間で響き合っているという感触が欲しいのがオーケストラ録音なのですが、
打楽器と管楽器の音像は極めて鮮明でありリバーブのない質感ではあるのですが、
[6]と[1]で経験したホール全体におけるリバーブの節約効果とは明らかに違うのです。

国内録音のマーラーではじめての体験をしたので次は[5]としましょう。

余談ではありますが現在は完売してしまった同じ指揮者とオーケストラによる下記の
マーラー交響曲第三番のSACDにて馴染みのあるホールであることも追記しておきます。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/GUSTAV_MAHLER.html

冒頭のシンバルの響きの滞空時間は短めなのですが、続く低音階の金管と低弦の
うねるような合奏が始まった瞬間に眼前に表れたステージとホールのスケール感が
全く違うということに気が付きました。残響を追う私の視線が思わず天井を向きます!

[4]で聴いたオーケストラとの距離感がす〜と遠のき、同時に左右方向へも響きの
空間が広がり弦楽五部の主流における音量感も戻ってきたという感じです!

慣れ親しんだホール録音における遠近感が回復し、Chord Electronicsが得意とする
弦楽器のしなやかさも感じられ、打楽器の位置関係も奥行き感の拡張という遠近法の
消失点を遠くに見せる音像のありかに不思議な安堵感を覚えてしまいました。

その証拠はステージ上手奥からのトランペットの響きが節度あるリバーブをまとい
ながらも遠近法に忠実な音像にて出現した事、そして何よりも私の好みにマッチした
グランカッサの打音の素晴らしさに表れています。

以前にも使った比喩ですが、音像の中心点から発祥した楽音が富士山型の広がり方で
消えていく事に美しさを感じるのです。それと対照的なのがアルプス型でしょうか。

楽音の核というか中心部から出現した音が左右方向に広がり展開していく時に、
その残響成分がアルプスの急峻な稜線のように急降下して消えていくという例え。

それに対して富士山の頂上に当たる最も音量が大きい音像の中心部から発生した
音がなだらかに左右に広がりながら展開する稜線の下降線のようにゆっくりと
拡散しながらグランカッサの打音が消滅していく過程を見せてくれるのです!
これが私は大好きなのです!

打楽器における好感の持てる音像と残響の消え方により、ステージ両翼への響きの
拡散を視覚的にも感じることができるような描写力にChordのパフォーマンスが
しっかり表れていることに感動しつつ、1989年録音の[2]でベルリン・フィルの
録音で感じられたホールエコーの展開の美しさに共通するサウンドステージが
この録音でも実感され、その音響環境において響く弦楽五部の瑞々しい展開が
Blu/MK2とDAVEが引き出した素晴らしい情報量として私を納得させてくれました。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

五枚の同じマーラー交響曲第一番の四楽章を聴き比べ、同じ譜面から演奏される
音楽にこれほどの違いがあるものだと実感し思い出したことがあります。

もう40数年前のオーディオブームの時代によく原音再生という言葉が使われました。
何気なく耳にすれば解ったような解らないような原音という意味を考えてみました。

私が思うに原音を再生するとしたら、無響室でモノラル録音した音を同じ無響室で
モノラル再生することが、かろうじて原音再生と言えるのではないかと思います。

録音環境そのものに音響空間としての特性があり、再生する空間も同様です。
その両者全てに固有の音響特性があり、全ての録音と再生という行為の結果は
その空間の音響特性に依存したものとなります。

そして、モノラルではなくステレオ録音と再生ということになれば、スピーカーと
いう音源が存在しない空中に音像を定位させるという原理を考える時、録音センスと
再生テクニックにより大きな変化が発生するということを今更ながら実感しました。

そこに録音作品を制作する側の感性があり、再生する側の理想と現実があるものです。

そこで聴き手の理想とはどういうことかを考えれば、聴き手の経験値によって音質
評価レベルの高低が発生し、高いレベルでの再生音は人々に納得と感動を与えると
いうことになります。そこには使い手の主観が存在していることには変わりありません。

オーディオの使い手による独断と偏見、自画自賛、あるいは自己満足とも言えますが、
五種類のマーラーを聴いた私が最後に聴くことにしたのは、52歳という指揮者として
脂の乗り切った小澤征爾とボストン交響楽団による1987年録音の[3]でした。すると…

思い切った音量設定による迫力ある冒頭のシンバルには金色の鱗粉がまぶしてあり、
叩き合わせた瞬間に飛び散り舞い上がった金色の粉が中空に煌めく余韻をはためく!

タンギングのきいたチューバから突き刺すように吐き出された低音管楽器の咆哮と、
見事な同期で叩かれるグランカッサの打音が重厚な低音の波動となって押し寄せる!

高速で上下する弓の連動が細かく鋭い切り替えしで音階を駆け上がり、中央からの
ティンパニーの打音の背景を作り出す華麗とも言える導入部に痺れる!

打楽器の遠近感は緻密な距離感を保ち音量の大小によって前後の位置関係を変える
ことなく安定感を保ち、トライアングルの輝きも正確に一点の輝きとして描き切る!

怒涛のように繰り出された導入部から次第に弦楽の調べが等距離で展開すると、
トランペットの響きはチャーミングなメークアップが施された美音として鳴り響く!

この弦楽五部の質感と音色に関しては今回の比較試聴において私は最高点をつけた。
いくら独断と偏見と言われようと美しいと感じる自分の感性に嘘はつけない!

コントラバスの静かな通奏低音がセンター奥から漂ってくると、チェロとビオラの
見事に調和したハーモニーがステージ上手の半分を埋め尽くす響きのオーラを描き、
ヴァイオリン二部が下手半分の空間にしっとりとして潤いのある弦の輝きを連ねる!

管と弦のバランスが完璧に保たれたサウンドステージに、木管楽器の短いフレーズが
不意に現れては消え、メロディーを引き継ぎながらピンポイントの音像を的確に
示しつつ自らの残響を空中に残していく分解能の素晴らしさを控えめに訴える!

ゆったりとした主題が静々とヴァイオリンによって空中を漂うように流れ始め、
いつしかクラリネットによるカッコ―の鳴き声によって再び律動のきっかけとなり、
ホルンとヴァイオリンの絶妙なハーモニーから次第に終局へ向けてオーケストラ
全体の躍動に離陸の合図を送り壮大なフィナーレへと突き進んでいく!

低音の管が合間を見て強烈な一節を吹き鳴らし、戸惑うようなつかの間の静寂を招き、
管楽器がリードして弦楽を巻き込んだ鋭い音符ふたつの合奏で終焉を迎える!

いや〜、実に素晴らしい! というよりも私が好きな録音ということでしょうか!

Blu/MK2とDAVEが抽出し、UltimaPre2とUltima5のペアに伝えられた音楽の真相が
HIRO Acousticによって眼前の空間に解き放たれ、34年前の録音データに眠っていた
演奏者のパッションが蘇った瞬間でした! これは聴いて頂ければ解ります!

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回のChord Electronicsによる試聴体験を経て再度次の一節を述べておきたい。

オーディオ専門店ですから当然扱い商品の販売が究極的な目的となりますが、
その前に扱い商品を研究するという発想を持っているということです。

それは結果的に対象商品を設計制作した作者よりも、同じ商品を作者が知らなかった
高いレベルで実演するという事が研究所として必要不可欠な要素であると考えています。

スピーカーメーカーの試聴室で鳴らされた音質よりも、アンプメーカーのラボで
聴かれる音質よりも、プレーヤーメーカーの実験室で聴く音質よりも、各々の製品の
製作者が知り得なかった音が同じ製品を当フロアーで演奏した時に実現出来ること。

オーディオコンポーネントの商品価値は音質によって判定されるべきであり、
その点において私には価格崇拝主義というものはありません。

良いものは価格にこだわらず認め紹介し推薦しているものです。
高価であれば全てに合格点を与えるということはありません。

それは私の独善的な判定、独断と偏見によるこだわりと評されれば、そのように
発言される人々に対しては言葉では何も反論せず、実体験として人々に提供する
研究成果の音質と感動をもって対応するのみです。

そして、研究成果は私が提供できるオーディオシステムによる音質ということに
なるわけですが、研究者としては論文をもって研究成果を発表し世に問うことが
必要であり、厳密な意味で論文型式という堅苦しい書き方はしませんがレビューと
して情報公開していることが私にとっての研究発表の機会であると言えます。

そして、文系の論文とは違い理系の論文においては、そこで述べられている実験
方法を忠実に第三者が試行したとしたら同じ結果が得られることで研究成果が
事実として認められるということになろうかと思います。

その点において私が当フロアーで出している音質を、そのまま場所を変えて手に
入れたいと要望される方には、ビジネスとして入念なプランニングのもとに然るべき
予算を伴いますが、実現可能であり研究成果と同じ音を提供することで証明可能です。

さて、ここで過去の随筆、第41話と第53話でハイエンドオーディオという言葉の
定義について、傅 信幸氏が実に上手く表現しているコメントがあるので紹介します。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/oto/

「ハイエンドオーディオ機器は確かに高価である。しかし、金ムクのパネルだから、
 ダイヤがボリュームに埋め込まれているから高価なのではない。
 そんなのはまやかしだ。

 ハイエンドオーディオの設計者は自分に忠実でうそがつけなくて、妥協すると
 いうことをあまり知らず、了見の狭いせいもあって没頭し、ただし一種の鋭い
 感は働いているが、その結果生まれてきたために高価になってしまうのである。」

「しかし、そうやって誕生した製品は、わかるユーザーを大変納得させる。
 ハイエンドオーディオの存在価値はそこにある。
 ユーザーは音楽とオーディオに情熱を注ぐ人である。

 そういうあなたと同じ思いをしている人たちの作った作品は、あなたの五感から
 更に第六感まで刺激するに違いない。それをハイエンドオーディオと呼ぶ。」

私は自分が目指しているもの、また第三者にハイエンドオーディオを説明する時にも
度々引用させて頂く名言であると思っているが、なぜこの段階で述べたかったのかと
言うと前述の私の研究目的と通ずるものであり、同時に数々のハイエンドオーディオと
呼ばれる製品に対する判定基準がここにあるからなのです。

音楽を愛する人たちが作り、音楽を愛する人たちが使用する道具として、
感動こそが最も重要な要素であり、その感動は個人の経験値によってレベルの
高低があり一様ではないということ。

そして、私の研究目的として私自身のレベルアップを元に研究対象製品の価値観を
高める努力と実演を行い、それによって体験者の経験値すなわち感動できる音質の
レベルアップも同時に行っているということです。

簡単に言えばハイエンドと呼ばれる製品の音質をユーザーが感動し納得できる
音質にて実演し、その価値観を販売前に啓蒙し理解して頂ける環境とノウハウを
備えていなければならないということになります。それが専門店の使命です。

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今回のChord Electronicsは決して安い商品ではありません。しかし…

当フロアーでの価格帯からすれば皆様に推薦し受け入れて頂ける可能性が高いと
思われるレンジではないかと考えています。

私は決意しました!
UltimaPre2とUltima5(×2 Bi-Amp)のペアをH.A.L.の一軍登録とすることを!

■試聴に関しては予約の上でご来店下さい。
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/appoint.html

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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