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H.A.L.担当 川又利明
    
2020年12月20日 No.1643
 H.A.L.'s One point impression!!-Ypsilon & Siltech Triple Crown Series

Dyna Selection 2020での壮大なH.A.L.の企みとは!?--実演日程を速報!
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1632.html

上記の試みを実行できたのは実に短期間でした。
その組み合わせたるや錚々たる金額となり、ざっくり9000万円というお値段。

何とも非常識なシステム構成であり営業的には甚だ非効率的というか、実際の
商売としてはおいそれと商談が発生することもないだろうという非現実的なもの。

そんな価格帯のオーディオシステムを聴き、その内容と感動を文章化することに
果たして意義があるのか? もっと売りやすい価格帯の商品をセールスするために
時間を使うべきではないのか、という葛藤は今に始まったことではありません。

コロナ禍の最中でもあり全ての業種でも苦境に陥っている昨今ではなおさらのこと。

そして、そんな時期であっても私がこなさなければならない課題試聴の対象は日々
当フロアーにやってきて順番待ちという有様で、製品の評価と分析という仕事が
山積しているという状況で忙しい日々を送っているのが事実。

しかし、価格にこだわらず良いものは良い。それを追求していく事こそが日本の
オーディオ業界のレベルアップと、しいては実演することで聴かれたユーザーの
感性を高めるという啓蒙活動にこそHi-End Audio Laboratoryとしての使命がある
という信念を貫いていかなければならないと思っているものです。

そんなカッコイイことを言いましたが、本音は私の好奇心の趣くままにというもの。
それが出来るのも多くのお客様と取引先各社の皆様に支えて頂いているからでしょう。

とてもありがたいことであり、遣り甲斐ある仕事であるという感謝の気持ちを忘れる
ことはありません。さて、そんなこだわりから今回のシステム構成とは下記になります。

■H.A.L.'s Sound Recipe/Ypsilon & Siltech Triple Crown Series-Inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20201206132229.pdf

先ずはSilver Editionの名の通り内部配線を純銀で構成したYpsilon PST-100mk2 SEに
対してSiltech Triple Crown Seriesをどのように使用したかをご確認下さい。

ESOTERIC Grandioso D1Xのアナログ出力からプリアンプへ、そしてパワーアンプ、
更にスピーカーへとシグナルパスをTriple Crownで統一しています。

パワーアンプYpsilon HYPERIONの電源ケーブルは20A仕様のためTransparentの
XLPC(20A仕様)×2として、アナログ信号を伝送するDAC二台とプリアンプに
Triple Crownを使用しました。これが最も妥当な使い方と判断してのことです。

短期間ではありましたが私の課題曲を一通り試聴しましたが、結論から言えば
長らくの付き合いとなっているHIRO Acousticがこれほどまでに美しく鳴ったのは
初めてではないかと驚きと感動に突き動かされてしまいました!

そして困ったことに、この美しさをどんな言葉で表現すればいいのかと悩んでしまい、
私のボキャブラリーでは語り尽くせないのではと思いつつ日数が経過してしまったと
いうことなのです。

ではなぜ私は美しさという言葉を使ったのか、それを私自身に問いかけながら
最も象徴的であり印象に残った選曲で記憶を引き出していく事にしました。

KHATIA BUNIATISHVILI  Motherland / 4.Clair de lune/Debussy
https://www.sonymusic.co.jp/artist/khatiabuniatishvili/discography/SICC-30172
http://www.khatiabuniatishvili.com/music/motherland/
http://www.khatiabuniatishvili.com/

ドビュッシーの『ベルガマスク組曲』第3曲である「月の光」は8分の9拍子による
ほとんどピアニッシモで演奏される夜想曲で優しく切ない曲想で有名であり、私も
大好きな曲です。

それをYpsilon & Siltechで聴き始めた瞬間に、ただものではないという美音の
虜になってしまったのです!

Jesus-Christus-Kirche (Dahlem)イエスキリスト教会というドイツ南西部にある
教会で2013年に録音されたものですが、高さが22mもある天井はスリットの入った
木製羽目板で構成されるというもので、ヨハネス・ビーレ教授が1929年秋以降に
音響に関する問題に取り組んだ成果としてクラシック音楽の録音にも多用されて
いる建築物であるという。
https://www.jesus-christus-kirche.de/

この教会での実際の録音事例として下記の動画をご紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=aNiy1x457S4

さて、ピアノという楽器は録音環境とマイクセッティングによって音の印象が
大きく変化する楽器であることは皆さんも経験済みの事と思います。

ホール録音を印象付けたいピアノでは距離感があり演奏空間の響きを多分に含むもの。
逆に至近距離を感じさせたいスタジオ録音では打鍵の一音ずつが正に眼前で響くもの。

録音センスによって千差万別であり、アーチストによって固有の特徴を意図して
録音作品に仕上げられたものは同じ楽器であっても様々な表情を見せるものです。

私はKHATIA BUNIATISHVILIというピアニストをこの録音で初めて知ったのですが、
このディスクに収録されているピアノの質感に大変素晴らしい印象を持ちました。

それには上記のイエスキリスト教会という素晴らしい音響空間の恩恵もあるでしょうが、
ピアノソロの録音として秀逸な音質であることが再生システムのグレードと同時に
直感され私の記憶にないほどの美しい響きだったのです。

この「月の光」はピアニッシモで演奏されるいるはずなのですが、弱音であっても
含まれている情報量の豊富さから、私にとってのリファレンスであり聞き慣れている
HIRO Acousticによる冒頭のピアノの一音から今までに経験のない美的要素が多分に
感じられました!

上記のように録音作品における距離感としては遠すぎず近すぎず、演奏空間による
残響の分量が極めて優れた配分であり、正確に打鍵の表情を捉えながらも豊かな
余韻感が再生音に感じ取れる素晴らしさが第一印象となったのです。

後日、同じ曲を同じHIRO Acousticによる違うシステム構成でも聴き直したが、
オーディオ的に分析するとYpsilonというアンプの存在感が大きく貢献している
ということを最初に感じ取りました。

それはピアノの音を再生する上での音像の明確さと極めて高い緊張感を有する
テンションの素晴らしさというポイントでした。

KHATIAの弾くピアノの一音ずつが独立した打鍵の分離感を空間で表現し、それは
眼前の空間において中空に表れたピンポイントの音源を克明な音像として示す。

そして、その打鍵の背景には極めて透明度の高い空気感を感じるものであり、
湿度も気温も低い清浄な空気が存在し響きの質感を音の消滅の最後までしっかりと
描き切るという弱音に対する高度な空間表現能力を感じるのです。

聴き続けるにつれて再生音のノイズフロアーの低さというものに、私はYpsilon 
PST-100mk2 Silver Editionというプリアンプの存在感を更に強く感じました。

管球式アンプでありながら曖昧な音像という印象は全くなく、極めて高度であり
引き締まった音像を究極的な空間表現のもとに展開するという高純度の再現性。

とにかくピアノの打鍵の一音ずつが、これほど高解像度な質感をもって空間に
並ぶという音を初めて聴いたといえます!

プリアンプの支配力というポイントに私の感動の第一要因があると分析したのですが、
アナログ信号のシグナルパスをSiltech Triple Crownで統一したという影響力も
当然のことながら意識せずにはいられませんでした。

H.A.L.'s One point impression!! - Siltech Triple Crown Series
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1631.html

■Dominic Miller / Absinthe (CD)よりタイトル曲1.Absinthe
https://dominicmiller.com/product/absinthe-cd/
https://www.youtube.com/watch?v=sY6aQy0MJ7k

私が上記で述べたアコースティックギターに関する次の一節がどうしても蘇る。

「ある意味では以前より硬質に感じるのだが、それは音像の輪郭再現性が極めて
 高い証拠となり、一切のにじみがなく極めつけの透明感をもって音像を造形する。」

それはESOTERIC Grandiosoシステムに対して使用したSiltech Triple Crownによって
感じ取った変化であり、当然他社のアンプでも同傾向の変化が想定されたからです。

つまりはYpsilon PST-100mk2 SEとの相乗効果ということになるでしょうが、
管球式アンプとは思えない音像の鮮明さがあると述べましたが、余韻感の素晴らしさは
このプリアンプのトランス式アッテネーターによるボリュームコントロールでも大きな
要素となっているものと推測できました。

余韻感というものは音像の輪郭表現が明確で鮮明であればあるほど、楽音の核と
言える中心部と周辺の空間に拡散していく残響の区別がつきやすいものであり、
まして背景の空間におけるノイズフロアーが低ければ低いほど微細な余韻がまだ
残っているという感触を聴き手にもたらすものなのです。

そのようにして音像と音場感の両立ということが私の理想であり、今回のシステム
構成にて私でも経験がなかった理想的な再生音に巡り合ったと感動してしまいました!

熱狂的な情熱を黄金の陽光として描く音があるとしたら、今回のYpsilon & Siltechは
正に月光のような銀色の光が照らし出す美しくも静謐な音ではないだろうか。

私はドビュッシーの後にも多数の課題曲を聴きまくってしまいましたが、
全てのジャンルの曲においてもクールビューティーという印象は変わらず、
HIRO Acousticが求めている理想像にことごとく一致した音であったと追記します。

だからHIRO Acousticの生みの親である廣中さんに一番聴かせたかった…。

本稿の文章量はさほどでもありませんが、2020年のベストサウンドは何かと問われたら、
私は間違いなく今回のHIRO Acoustic & Ypsilon & Siltechと言うでしょう!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

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