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H.A.L.担当 川又利明
    
2020年8月10日 No.1610
 H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL & XLR Vol.2

H.A.L.'s One point impression!! - Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL & XLR
https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1609.html

上記の一節にて私がTa.Qu.To-SPLとXLRの両者に対して最大の特徴として掲げたのは
双方ともに次の二項目でした。

他のケーブルにはない最大の特徴! 音像を支配するTa.Qu.To-SPLの神業!
他のケーブルにはない最大の特徴! 音像を支配するTa.Qu.To-XLRの神業!

それを確認し皆様にご理解頂ければと、先ずはシンプルな編成でのスタジオ録音と
してリバーブやイコライジングという音響的な演出を排したヴォーカルものを
課題曲として紹介しました。

更にオーケストラという大編成で大きな空間で演奏され、同傾向の録音センスで
個々の楽音の音像が鮮明でありTa.Qu.To-SPLとXLRの特徴が分かりやすい選曲は
ないかと随分と探したのですが、やっと…これはという録音が見つかりました。

これは2011年にイタリアのベネチアにある下記の歴史的建造物にて録音されました。

SCUOLA GRANDE DI SAN ROCCO
http://www.scuolagrandesanrocco.org/home/

CDのライナーノーツには詳細な情報がないので、この1478年に設立された修道院の
どのホールで録音されたのかは不明ですが、再生音から感じ取った演奏空間の響き
のニュアンスを皆様と共有するためにも最初に紹介しておきたかったものです。

■H.A.L.'s Sound Recipe/Y'Acoustic System Ta.Qu.To-SPL&XLR inspection system
https://www.dynamicaudio.jp/s/20200707135755.pdf

試聴システムは上記の通り前回と同じものですが、スタジオ録音とは異なる音場感と
独特の楽器の音色という着目点において、若干の説明を先に述べておきたいと思います。

既に上記で述べているようにスタジオでの音響的な加工を極力行わずに演奏空間に
おける楽音の発祥から消滅まで緻密に記録しておくことを狙った作品であるという事。

その意味からも近代的なオーケストラの音質とは一線を画する楽器の採用と、
指揮者兼プロデューサーとしてのこだわりが再生音にも表れているもの。

付属のブックレットにはオーケストラ各パートの演奏者と使用楽器のリストがあり、
Cordesというくくりで弦楽五部のアーチストが書かれているが、彼らが使用する
弦楽器はすべてガット弦であることが先ず第一の特徴。

次に、Ventsとしてくくられている管楽器に関しても相当のこだわりが見られる。

それらの管楽器は古いもので1870年代、そして1900年代が主になり、新しいもので
1930年代ということで古楽器ではないが時代楽器、ピリオド楽器という事で作曲者が
当時聴いていた楽器をそのままに使用しているという事。

特に私が悩んだのがブックレットではCorsと書かれた楽器でした。

オーケストラの管楽器で使用される管楽器として、このCorsというものが見当たらず、
ネットで検索してもズバリのものが見つかりませんでしたが、やっと手がかりが見つかりました。

『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』(Les soirees de Paris)は、1912年に創刊され、
1914年に廃刊されたフランスの月刊文芸・美術誌なのですが、その中で「狩の角笛
 (Cors de chasse)」という一節に巡り合ったのでした。これからたどっていきました。

文学的由来はさておいて、無学な私が知らなかっただけで広義で言えばホルンの
事でありフランス語では「コールcor」ということを私が知らなかっただけでした。

大分回り道をしてしまいましたが、これらも1900年前後に作られた3ピストンの
ホルンということで、近代楽器とは違う音色を聴かせてくれます。

さて、この辺で今回の課題曲とは何かをお知らせしましょう。
https://bru-zane.com/pubblicazione/les-siecles-live-lapprenti-sorcier-velleda-polyeucte/

上記の1- L’apprenti sorcier, scherzo d’apres une ballade de Goethe (1897)です。

もったいぶった言い方で失礼しました。下記にて種明かしとしましょう。

デュカス:交響詩『魔法使いの弟子』フランソワ=グザヴィエ・ロト,レ・シエクル
録音:2011年4月12日ヴェネツィア、スクオーラ・グランデ
https://www.kinginternational.co.jp/genre/kkc-5391/

フランソワ=グザヴィエ・ロトの録音作品は他のインプレッション記事でも最近よく
使用しているものですが、彼のピリオド楽器を使っての録音を聴き続けていると
今まで聴いてきたメジャーレーベルのオーケストラの音が如何に作られてきたものか
という事が本当に解ってしまうものです。

しかし、前述のようにTa.Qu.To-ZeroとTa.Qu.To-SPL&XLRという組み合わせにおいて、
他のオーケストラの録音における音響的演出というものは当然のごとく肯定的に
大変美しく聴けるのですが、今回の試聴においてはより高いハードルを課す思いで
極めて自然であり虚飾のない録音という事で望もうと考えたものでした。

             -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回の試聴では最初にGrandioso D1Xというアナログ信号の最上流からプリアンプまで、
異分子として前回も使用した1メートル58万円の当フロアーで以前にリファレンス
ケーブルとして使用していた国産某社のケーブルをつないで比較対象を先ずは入念に
聴き込んでスタートした。もちろん、これでも素晴らしいパフォーマンスなのだが…

オーケストラにおいて音像を語るのであれば管楽器の再現性に注目すべきと以前から
思っていたのですが、その意味において今回の選曲において時代楽器の管楽器が
どのように表現されるのかという事に私はフオーカスしていたのです。

しかし、事はそんなに単純なものではなかったという事が冒頭から分かってきました。

それはフルTa.Qu.To-XLRに切り替えた瞬間に表れてきたのです!

「何と! 音場感が何でこんなに違うんだ! 音像よりも余韻感とスケール感が段違い!」

それは他のオーケストラの録音ではマスタリングの段階でリバーブを施すしたという事が
管楽器の再生音で感じやすいものなのですが、一連のロトの作品では安直にリバーブに
よる演出、音楽のお化粧を施すということをしていないための反作用として新たな発見が
あったと言っても良いと思いました。

一音符の瞬間的なピッチカートを左側のヴァイオリンが弾き、右側では弱音のビオラが
長い連続音を静々と奏でる冒頭部。そこに木管楽器の短いパッセージが登場し、
静寂を上塗りする微弱音が交差して魔法使いの弟子を物語る背景が形作られていく。

15世紀末に作られたイタリアの修道院の広大な一室で、指揮者を取り囲むようにして
レ・シエクルのアーチストたちは居並んでいるはずなのに、その天井や床に描かれた
壁画や彫刻によって楽音にも立体感が与えられたのか、連続する弦楽器には多彩な
色彩感を、ピンポイントで発する木管楽器には響きの上昇気流を与えたかのように、
微妙に暗い音色と音量感に乏しいはずの時代楽器の面々が空間で躍動する!

抑えた音量にも関わらず各パートの楽音が発した余韻が空間を伝播し、奏者の
位置関係をきっちりと示しながらも活力を得た余韻が消滅までの時間軸を延長する!

出足の数フレーズで感じ取れた空間再現力はフルTa.Qu.Toケーブルの新たな特徴として、
スタジオワークに依存しない録音現場の音場感を忠実に描き出していることに驚く!

アナログ信号の最上流に配した1メートルのケーブルだけで、ここまで音場感が変わるのか!

Ta.Qu.To-XLRに統一されたことでシグナルパスの血統が確立され、極めて高品位な
アナログ信号の素晴らしい情報量が演奏空間を造形した事に予想外の驚きと感動が先行する!

スケルツォ(scherzo)の主部が登場する前の緩やかな序奏で新たな魅力を垣間見せた
Ta.Qu.To-XLRのパフォーマンスは、先ずは記録されている情報の一部として弱音部の
再現性の素晴らしさを聴かせ、Grandioso P1Xのカウンターが2:17となった瞬間に
右後方からの強烈なティンパニーの一打で私の期待と分析に応えてくれたのです!

「お〜、この引き締まった音像とテンションが凄い! それに余韻が…」

コンサートホールでステージの奥から距離感をもって響くティンパニーもいいですが、
石造りの修道院のホールで叩かれたティンパニーの打音は鋭いインパクトを持ち、
室内での反射音を鮮明に録音にも含み、その打音の終焉まで他の楽音に邪魔されず、
壮大なスケール感を伴って空間に余韻を漂わせていく描写力が爽快であり素晴らしい!

ここから始まる主題の展開は管楽器の活躍でお馴染みの旋律が空中を飛び交うように
演奏空間の響きの素晴らしさを示し、弦楽器のうねるようなメロディーが多層構造の
響きのレイヤーを私の眼前に描き出していく快感! これはいい!

思わず指先でソファーのひじ掛けを軽く叩きながらリズムをとり聴き惚れてしまう!

6分を過ぎたところからコルネットがリードする前半のフィナーレが近づき、
ティンパニーの連打と相まってフォルティシモが炸裂し、飛び交う管楽器の
フレーズが小気味よくパートごとの展開を繰り返し盛り上がっていく壮大さに息をのむ!

エネルギーを爆発させたごとくのオーケストラが一斉に息をひそめると、
それを引き継ぐかのように7:10からバス・クラリネットがソロをとり始めて、
対向する左側ではコルトンパソン(ファゴット)が会話のようなカノンを奏でる。

「お〜、バス・クラリネットの背後にこんな低音があったのか!」

その背後にゆったりと響くグランカッサとコントラバスの低音が伴っていたとは!

呼応するコルトンパソンが次第にテンポを上げていくにつれ、いったん終息したと
思われたオーケストラが息を吹き返し、主題の展開に厚みを加えて加速していく!

10分過ぎまで主題の再現部が進行していくと、センター右寄りで独奏ビオラが!

このピオラの旋律は今までの怒涛のような盛り上がりから一服の清涼剤のような
優雅な響きと余韻をもたらし、大編成のオーケストラを背景にしてソロ演奏の
音像が鮮明に描かれ、打楽器と管楽器に続き弦楽器においても音像の輪郭表現が
素晴らしいことに感激せざるを得なかった! これは素晴らしいです!

その余韻が空間を浮遊し消滅までの音の寿命を永らえていくケーブルの魔法に感動した!

トラックタイム 11:17という交響詩『魔法使いの弟子』は何を見せ何を聴かせたのか!?

老魔法使いが振るう魔法の杖はTa.Qu.Toに変わり、指揮者フランソワ=グザヴィエ
・ロトが振っていたのはTa.Qu.Toだったのだと…、そして私は思いついたのです。

これはTa.Qu.To-SPL & XLRがもたらした交響幻想曲だったのだと!

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https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/circle.html

川又利明
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