発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナミックオーディオ5555 TEL 03-3253-5555 / FAX 03-3253-5556 H.A.L.担当 川又利明 |
2020年6月30日 No.1606 H.A.L.'s One point impression!! - Accuphase C-3900の魅力!! |
ちょうど二年前の事ですが下記に述べていたように、既に今回の試聴に使用した Accuphase C-3850とA-250でHIRO Acousticを鳴らすという体験をしていました。 H.A.L.'s One point impression!! - Very Exciting Sound by HIRO Acoustic and Accuphase https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1482.html 純A級動作のパワーアンプA-250は約二時間のバーンインを施してから見違えるほどの 音質に豹変したというエピソードが今でも思い出されます。 H.A.L.'s One point impression!! - Very Exciting Sound by HIRO Acoustic and Accuphase Vol.2 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1483.html そして…、上記より次の一節を紹介しておきます。 「最後に私はある発見をしました。近年は視力が落ちてきた私ですが、目の前の Accuphaseコンポーネントにあるロゴマークを注視して、思わず目を細めたのですが… Accuphaseのつづりの“p”と“h”の二文字の縦線が上下に長くなっていることに 皆様はお気付きでしょうか。更に頭文字の“A”の修飾文字のデザインもあります。 前述にインパルス応答とパルス信号という単語がありますが、私は少しぼやけて 見えるAccuphaseのロゴにはっとしてしまいました。 オシロスコープで波形観測して、その画面の中心に表れたパルス信号の“A”と、 その応答性として現れた波形の振幅としての“p”と“h”なのではないかと!! Accuphaseのロゴマークは私の言うトランジェント特性をイメージしているのでは!?」 私が上記をなぜ今ここで再度紹介するのか、というのは実はここで語られていない エピソードが当時あったことを素晴らしい思い出として記憶しているからなのです。 2018年5月30日 No.1473 Accuphase/アキュフェーズ取り扱い開始!! https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1473.html 上記のように私がAccuphaseをH.A.L.に迎え入れてからもう二年、いやまだ二年。 しかし、その短くも充実した二年間で私がAccuphaseに対して抱くようになった 好意と尊敬という気持ちを述べておかなければという思いがあるからです。 それは私にとってAccuphaseの皆様とお会いし話しをしている時が、とても楽しく 充実しているという思いがあるからなのです。 実は、同社とのお取引が始まって間もない頃に上記のようにHIRO Acousticを マルチアンプ駆動するという前代未聞の試みを行い、そのパフォーマンスに 日本製オーディオ機器の潜在能力というものを実感し感動したものでした。 その仕上がった音をわざわざAccuphaseの会長、社長はじめ首脳陣の皆様に 当フロアーにお越し頂き数時間に渡り丁寧にじっくりと試聴して頂いたのです。 また同社の開発陣も何度となく当フロアーを訪れ、既存製品の技術的な解説や 私が発する技術的質問に対し、その場で即答して頂けたという事も何度もあり、 そんなやり取りをしている時は私も好奇心旺盛だった若い頃のマニア的心境を 思い出して熱く語り合ったものでした。 更に営業担当者の自社製品に対する商品知識が開発者並みに素晴らしく、同時に Accuphaseというブランドの歴史から技術的なことまで精通しておられ、単純に 新製品を売り込みに来られるというのではなく、説得力としてのバックボーンに 素晴らしい厚みと情熱が感じられるという事実です。 つまり簡単に言えばAccuphaseの経営陣も開発者も営業担当も、Accuphase社員 全ての皆様はオーディオがとても好きなのです! 大好きなのです! だから私はAccuphaseの皆様と交流を持つ時間が楽しく面白く、そして充実して いるという思いがあり、私がオーディオに対して持っている情熱と大いに共振し、 共鳴できるという心情の在り方を今回は最初に述べておきたかったのです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- そして、前述している同社のトップモデルで採用されている各種テクノロジーを 正にインテグレーテッド化したAccuphase創立50周年記念モデル第一弾E-800に関して、 異例とも言える長編のインプレッションを発表していました。 H.A.L.'s One point impression!! - Accuphase E-800 https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1580.html さて、この創立50周年記念モデルということなのですが、待てよ!? Accuphaseの創立は1972年、だから50周年とは2022年になるのではないか!? https://www.accuphase.co.jp/our_history.html 新製品のキャッチコピーを目にして何も疑問を持たず、ふむふむ50周年記念なのね〜と 思っていたのですが、創立50周年にしてはまだ三年早いのではないかと素朴な疑問を抱き、 日曜日にも関わらず思わず担当者に電話して質問してしまいました。すると… 「弊社の創立50周年である2022年にはAccuphaseの新フラッグシップモデルが全て 出揃うという計画の元に開発を進めており、その第一弾がE-800なのです。 そして今年はプリアンプ、来年から2022年に向けてパワーアンプとプレーヤーの 新製品開発を行いラインアップが完成するのがちょうど50周年に当たります。」 あっ、なるほど、そういう事だったのですね! 改めてAccuphaseの沿革を見直すと、確かに40周年の前にも、その前にも同様な 計画の元に10年ごとにフラッグシップモデルを更新してきていたのです! もっと早く気が付けばいいのにと思わず自分を責めてしまいました(笑) でも、上記の創立50周年記念モデル第一弾E-800について、私に出来る限りの表現を 駆使しての解説とインプレッションを述べさせて頂きましたので、前述したように オーディオ好きなAccuphaseの皆様に対してHi-End Audio Laboratoryという名に ふさわしい評価の記事が提供できたのではないかと考えています。 特に■川又流 AAVAのイメージというくだりでは後述するC-3900で採用された 新開発『Dual Balanced AAVA』ボリューム回路の理解において、16基の水門と 用水路という例えから、Balanced AAVAでは32本の用水路に発展し、そして今回は 結果的に二倍の64本の用水路という発想にて同様な説明が出来ると思いますので、 時間がありましたら再読して頂ければと思います。 このような経緯からAccuphase創立50周年記念モデル第二弾となるC-3900に対して、 私がどのような取り組みをするのか、決して手が抜けない、いや手を抜きたくない という思いが今は頭の中を駆け巡っているのです! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- メーカーサイトでの公開前にペーパーでの新製品資料を頂いたのは先月だったか。 その後、C-3900が正式発表される前にアポイントを頂き二週間後に実物が持ち込まれた。 https://www.accuphase.co.jp/model/c-3900.html リファレンススピーカーHIRO Acoustic MODEL-CCCSを背景にセッティング。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20200616183118.jpg 新旧の比較試聴を行うために下段のC-3850と同じ条件にてセットアップ。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20200616183129.jpg パワーアンプはトップモデルA-250を当フロアーの電源ケーブルにて使用。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20200616183138.jpg ソースコンポーネントは広大な情報量を有するESOTERIC Grandioso P1X+D1Xとし、 下記のシステム構成にて試聴を行った。 ■H.A.L.'s Sound Recipe/Accuphase C-3900 inspection system https://www.dynamicaudio.jp/s/20200616183153.pdf ただし、以前と異なる音響環境として次の二点を追記しておく必要ありと考えた。 日本音響エンジニアリングHybrid-ANKHによるH.A.L.の劇的な音質進化! https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1602.html New Original product-Y'Acoustic System Ta.Qu.To-XLR https://www.dynamicaudio.jp/5555-7F/news/1604.html 上記二項目に関しては各々での試聴記事を作成する予定なのだが、新製品である Accuphase C-3900の実機は当日のみ短期滞在という事で先行してのインプレッションを お伝えしようと思ったものです。 限られた時間なので課題曲を少数に絞り込み、C-3850と比較することでAccuphaseが 目指す音を確認すべく数時間に渡りじっくりと試聴していきました。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 先ずは以下の課題曲をC-3850で聴き、その音質をしっかりと脳裏に焼き付けてプリ アンプのみをまったく同じ条件でC-3900に切り替えて違いはどこかを検証していく。 ■Espace 溝口 肇 best http://www.archcello.com/disc.html http://mizoguchi.mystrikingly.com/ このベストアルバムは各曲ともに異なるレーベルでのリリース曲を集めたものであり、 年代も違う各国のスタジオで収録され、各々で伴奏ミュージシャンも違うし録音 エンジニアもばらばらで、楽曲としての成り立ちだけでなく録音センスも一曲ごとに 違うという面白いCD。 最近よく使うようになった「10.Offset Of Love」は1991年にパリのスタジオで収録された。 これを最初に聴き、次は1988年ニューヨークのMedia Soundスタジオで収録され、 名手Seigen Onoがレコーディングした「1.Espace」を聴き、最後に1997年にロンドンの Living Stoneスタジオで録音された「2.世界の車窓から」の三曲を続けて聴く。 オーディオマニア向けの高音質テストCDなるお題目のディスクもあるが、 私は特に意識することなく一般的なCDを使うことが多い。 ごく普通に売られているCDにどのような情報が刻まれているのかということに関して、 そのクォリティーは再生装置の音質に依存しているものであり、普通のCDには まだまだ大いなる可能性があると常日頃の経験から痛感していたからです。 特にこのディスクは最近のケーブルやコンポーネントの評価に多用するようになり、 チェロという楽器は録音センスによって音像サイズが大きく変化する事を注視している。 ホール録音などではチェロが演奏する音階が高くなると音像は小さくなり、 反対に低音では音像が大きくなるという傾向がスピーカー再生ではよくあること。 ところが、このディスクではスタジオ録音として楽器ひとつずつの鮮明さが大きな 前提となっていますが、チェロの音像サイズに関しては上記のホール録音のような 傾向は見られず、各々きっちりとトラックごとにコントロールされているのです。 演奏する音階に関係なくチェロの音像サイズが小さい順では「10.Offset Of Love」 次に「2.世界の車窓から」そして「1.Espace」が最も大きな音像として聴こえる。 更にチェロとの遠近感という観点では手前に張り出してくるような至近距離で 聴こえるのは「1.Espace」であり、伴奏楽器と横並びの遠近感ということでは 「2.世界の車窓から」となり、そして「10.Offset Of Love」におけるチェロは 伴奏楽器よりも奥深くに位置する遠近法が感じられる。 この試聴を行う前からアキュフェーズ担当者にはこだわりがあり、当フロアーに 持ち込む前から他のフロアーにて通電状態の上でのランニングを行い十分な バーンインを施すという念の入れようで準備されていたことを追記しておきます。 試聴対象機材が数日間ここに滞在するのであれば、アンプの切り替えは気が済むまで 私自身で何回でも行うのですが、当日のうちにC-3900は持ち帰られるということで、 アキュフェーズの技術・営業担当者のお二方が同席の上でプリアンプの接続変更も して頂ける事になりました。人様に切り替えて頂けるというのは楽なものです(笑) そして、この三曲を聴き始めた時、5年前に発売されたC-3850と3年前に発売された A-250で鳴らすHIRO Acousticのクォリティーは最初からウェルバランスであり、 楽音の質感、音場感ともに申し分なく、もうこれでいいんじゃないの〜という音でした。 二枚の絵を見て間違い探しをしようという時に最初の一枚の絵を見た段階で、 そこに描かれている正確な構図、多彩な色彩感、克明な質感の描写などなど、 比較対象とするだけの基本性能というか完成度の高さに先ず納得してしまいました。 さて、それではC-3900に切り替えて全く同じボリュームとして「10.Offset Of Love」を 先ずは比較してみることに。すると… 「えっ、ちょっと待てよ!この生々しさはなに!?楽音の鮮度が蘇るとはこのことか!」 もちろん私の内心の声なのでアキュフェーズのお二人には知る由もない驚き。 真っ先に登場するのはセンター左寄りの中空に定位するギター。 このギターの質感たるや濃密感を高め、同時に輝きを増しテンションをも高め、 私はこの瞬間からC-3850での再生音が過去のものになってしまったと実感した! 右チャンネルではほぼスピーカーの軸上に切れ味のいいコンガがリズムを刻むが、 細かい連打のひとつずつでインパクトの瞬間に立ち上がるエネルギー感が違う! 更に中央にはベースがずっしりと構えた低音を響かせるが、重量感を三割増しに したような充実感がプリアンプだけの変更で起こってしまったことに唖然とする! この布陣で始まったイントロでみっつの楽音に対して共通して起こった変化がある。 それぞれの音像サイズがぐっと凝縮され縮小し密度感を高めているのです! それを否が応でも実感させられることになるのが、センターのベースから更に 奥まった距離感で登場するチェロにおける変化です。 上記の伴奏楽器の変化で共通するポイントを述べると、画像でいうところの輝度を 上げたように楽音が明るく鮮明になること。同時に音像の輪郭がくっきりすることで、 その周囲に発散する余韻感も鮮明になり、緻密で鮮明な質感へと変化した事です。 前述のように、この曲では音階に関わらずチェロの音像サイズは一定なのですが、 その楽音の核心部分の濃密感が高まり余韻感の拡散領域を天井へと広げていく。 チェロが描く音像の左右の幅はしっかりコントロールされたままなのに、情報量と しての空間サイズが上空に拡大していくという、スタジオ録音にしてはあるまじき 変化をC-3900が引き起こしたのだから堪らない! 音像の縮小と音場感の拡大。常々私が求めている方向性が第一声からC-3900で 最初から実現されてしまったことを証明する楽器が更に加わってくる。 右チャンネルの後方にたなびくような響きを伴って登場するオーボエの姿。 センター右寄りに少し遠くにセットバックして表れ短いフレーズでのピアノ。 この両者は音像サイズとしても小さめで遠近感を発揮してスピーカー後方に定位する。 スタジオ録音での遠近感の付け方は音量レベルとリバーブの深さの調整による。 遠く聴かせたいものは音量を下げてリバーブを多めにかけることで奥の方に定位させる。 打楽器であれば、そんなチューニングで遠近感は出しやすいが、オーボエやピアノと いう楽器は余韻感と連携する遠近法が求められる。つまり打楽器の音像サイズは 音量と疑似比例的な関係があり、小音量では小さく大音量では大きな音像となる。 しかし、オーボエとピアノに関しては音量による音像サイズでの遠近感よりも、 その響きが空中に存続する時間軸の長短で遠近法の演出効果を向上させられる。 C-3900はそんな数フレーズだけの伴奏楽器の質感にもスポットライトを当て、 スピーカー周辺の空気を清浄化し音場感の見晴らしを素晴らしく透明にするという ノイズフロアーの低下を再生音にもたらすことが実感された。 この曲の後半ではセンター左方向ギターの後方にストリングスが展開してくるが、 ひな壇のように上下と前後という立体定位で弦楽がギターの背後に広がっていく。 伴奏楽器が出そろったところで、チェロは己の存在感がOffset Of Loveを象徴するように、 この曲に与えられた音場感の造形志向に従って、あたかもステージの一番奥で上半身を ゆっくりと揺らしながら弓を振るう溝口肇の姿をC-3900は見せてくれるのです! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 一を聞いて十を知る…、最初に比較する課題曲の一曲を聴いただけで、C-3900に よって引き起こされた変化は私の頭の中で要因分析がなされ、他の曲ではどのように 再現されるのかという音質変化の方程式が自然発生的に脳裏に書き出されていた。 そう、その方程式が出来てしまうと、あとはx、y、zの未知数として課題曲を入れ替え 職業的推論に基づいてイコールに続く音質傾向の変化が解答として導きだされていく。 そして、最も音像が大きく手前にせり出してくるエネルギー感溢れる「1.Espace」へと、 早くもリモコンに手が伸びていた。 この曲はスタジオ録音であるにも関わらず、あたかも小ホールのステージで演奏 しているかの如く、力強いアルコで反復する弓の動きに連動するように大きく広がる 音像の低音階で始まったチェロが次第に音程を上げていく…。 最初は溝口肇の姿を引いて撮っていた距離感で全体像を映していたイメージの音像から 次第にクローズアップしていき、指板を押さえる指先のバイブレーションがチェロの 高音にビブラートを与え、画面いっぱいに振るえる弦が映し出されるような構図の変化。 つまりチェロの音像サイズがぎゅっと絞り込まれ凝縮した濃密な音色へと変化して いく過程を今回も確認していたのです。しかし、ここでもC-3900は異彩を放ちました! 「チェロだけの演奏なのに4Kオーディオと言いたいくらいの分解能じゃないか!」 またしても内心の声が叫ぶのですが、意地っ張りな私はメーカー担当者の前では 極力平静を保って聴き続ける。この感動を悟られては癪に障るからだ! オーケストラのように大編成で多数の楽器による演奏であれば、その個々の楽音の 鮮明さで解像度の良さを推し量れるものですが、チェロだけの音で何をもって4Kなのか? A線、D線、G線、そしてC線というたった四本の弦によるチェロの演奏を時間軸の 推移に照らし合わせて、その弦一本ずつに感じられる摩擦感、魂柱を通じて胴が震え、 f字孔から溢れ出る弦と胴の積層化された響きの美しさにため息が出る一瞬! そのチェロという楽器の内包する響きの説得力に対して、前曲でも述べた画像で いうところの輝度を上げたように楽音が明るく鮮明になったことを先ず確認する。 つまりチェロという楽音の内面に関しての解像度の高まりが最初の解答となる。 音色の変化、本能的な美しさとして感じ取ってしまうチェロには更なる変化が! HIRO Acousticの低音に関する評価は今までにも多数繰り返し述べてきたこと。 膨らまず引きずらず限りなく入力信号の波形に忠実な低域の再現性ということ。 トゥイーターやミッドレンジという中高域ユニットとウーファーの反応速度が 違ったらどうなるのか? 反応速度とは立ち上がりだけでなく減衰特性が重要。 ウーファーで受け持つ再生音に共振周波数がありバスレフポートからの排出音で 位相の遅れがあったらどうなるのか? そう音像と質感の両方が変わります。 つまりスピーカーでチェロを聴いた場合に、低域の忠実度が思わしくないと音階の 上下変動に際して音像サイズが変化してしまう要因がここにあり、私が多くの経験 からHIRO Acousticを信頼する根拠もここにあります。 そして、HIRO Acousticで聴くとスピーカーの個性ではなく録音の個性が見えるのです。 上記のオーディオ的方程式において他者の評価基準と最も違うところでしょう。 それを前提にC-3850で聴いた「1.Espace」におけるチェロのプロポーションと 無意識のうちに比較していたことが楽音を外面から見た時の解像度と言えます。 ミッドレンジが受け持つチェロの再生音が終わっているのに、まだウーファーは 同じ信号には含まれていない音を発し続けたらどうなるのか…、その心配がない HIRO Acousticで聴くとC-3900の素晴らしさが見えてくるのです! この曲の冒頭から展開する低音階のチェロが眼前の空間に表れた時、その楽音が 占有する面積が、いや空間容積というべきか…、今まで余韻の名残りかと思って いた音像の周辺部分にあった残響が整理されプロポーションが引き締まったのです! それは情報量として存続すべき余韻感が減少したという事ではありません。 楽音の微細な響きの要素は完璧に維持されているのですが膨らまないのです。 これをどう表現していいのか悩むところですが、日本人の感性で理解し易い表現は ないかと愚考していたところ、縁日で売られている綿飴のイメージが浮かびました。 綿菓子機に入れたザラメが極めて細い糸状になって吹き出し割りばしでからめとっていく。 薄桃色の綿飴は空気をはらんで最初はふっくらとしていますが、それをビニール袋に 納めると今までの周辺部の空気をはらんだ起伏が均されて見た目小さくなります。 しかし、綿菓子の質量は同じであり味も同じ。楽音の質感、音色は同じですが うっすらとしていた桃色はやや色濃くなって見えるものでしょう。これです! センターに堂々たる音像をそびえさせる溝口肇のメイン・チェロの姿が鮮明になり、 響きのシルエットが集束する方向性で濃密感を高めているのです! 滑らかに旋律が進行していくと、もう一つの証拠がセンター左側の空間に表れます。 Maxine Neumanのセカンドチェロがピッチカートで短い響きを放つのですが、 弾かれた弦の立ち上がりで示された音像サイズがそのまま維持されて消えていく。 サビを迎える終盤では二本のチェロがアルコで織りなす響きの交差が展開するが、 その楽音の発祥地点が明確に示され、発音から消滅まで音源位置は微動だにしない。 C-3900による内外両面の分解能の向上とはどういう技術によって成し得たものか? 方程式という等式を成り立たせる未知数の値を方程式の“解”といいますが、 私が述べてきた音の表現でも“解”を含む言葉が何と多いことか…。 C-3850とC-3900をイコールで結んだ時、その差とは何かというAccuphaseの“解”を 求めて次の課題曲へと進めていく…。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 一を聞いて十を知る…、から二を聞いて二十を知る…、へと私の分析は加速する。 三曲の課題曲で演奏する音階に関係なくチェロの音像サイズも中間、伴奏楽器と 横並びの遠近感という意味でも中間という「2.世界の車窓から」を聴く。 「あっ! これ圧倒的に違う! そうか…、これは瞬きしてはいけなかったのか!」 私が集中して何かを試聴している時は、しっかりと目を見開いて聴いている。 左右スピーカーが作り出す音像と音場感、そこに多様な楽音が現れる度に私の 視線は激しく動き回り、音源位置にフオーカスするという習慣がある。 映画ターミネーターの第一作でアーノルド・シュワルツェネッガー扮するターミ ネーターが現世に登場し、彼の視野をスクリーンで表現していたシーンを思い 出す方がいれば何を言わんとしているかお分かり頂けるのではないでしょうか。 あるいは最先端の戦闘機に搭載されているヘッドアップディスプレイのように、 対象物に対して高度な情報処理を高速で行ったりする画像と言ったらいいでしょうか。 私は左右スピーカーが見える視野において、正方形の升目をなす方眼罫のような セルをイメージして、音の有り無しでセルを色付け埋めていくことで音源の位置、 音像のサイズ、音色の濃淡、残響の方向性や時間経過など、正にオーディオ分析用 脳内ディスプレイという感じで各種の情報処理を視覚的に置き換えて行い、 拙いながらも自分なりの文章表現で音質を説明してきました。 そんな私の聴き方、音質の分析法からすると、脳内ディスプレイに映し出される 音として、前曲までチェロを中心として連続する楽音という対象がほとんどでした。 それらは分析用脳内ディスプレイの画面の中で数秒間に渡り動き変形し、十分に 観測する時間があるものでした。間違い探しの二枚の絵と前述していた如くです。 しかし、この「2.世界の車窓から」では鮮烈なキックドラムの連打から始まり、 左右スピーカーの各々から鋭い立ち上がりで多数のパーカッションが展開します。 センターではリズミカルなスネアが弾け重厚なエレキベースがタイトな音像で表れ、 多彩なリズム楽器を背景にして馴染みのある旋律のチェロが登場してきます。 冒頭からドラムとパーカッションで始まる「2.世界の車窓から」では以前のように 脳内ディスプレイに映る画像を眺めての分析はしていられないと思いました。 コンマ何秒という短時間でのパルシブな打楽器、高速反応のウーファーによる 瞬発的なドラムの打音、脳内ディスプレイには一瞬しか映らないのですから。 そこで私は脳内ディスプレイでのスクリーンショットで楽音を連写する事にして、 その画像のページをパラパラ漫画のようにめくることで時間軸の長さを想定する ようにしたのです。あくまでもイメージですが…。 そして重要な要素として正方形の升目をなす方眼罫の例えをしていますが、 HIRO Acousticというスピーカーは実に正方形の升目セルが細かく小さいのです! それを前提として、上記イメージの分析法でC-3850とC-3900を比較してみると…。 最初のキックドラムですが、上記の升目セルの数がC-3850に比較してC-3900では ざっと三割程度と少なくなっているのです。つまり低音の音像サイズが縮小している! 次にスクリーンショットの連写画像ページをめくっていくと、これもC-3900では 二割以上ページ数が減っていることに気が付くのです! つまりドラムの音の立ち上がりから消滅までの時間軸が圧縮されたように 引き締まって聴こえる再現性がすこぶるつきの快感なのです! 更に左右チャンネルを飛び交うように鮮烈なパーカッションのスクリーンショットでも、 同様に升目セルの個数が少なくなり音像サイズはこれでもかというくらいに凝縮! 鋭い立ち上がりのパーカッションではキックドラム同様に連写したページ数は どうかと言うと、ここがポイントなのですが音源位置となる空間の一点で発生した 打音はページをめくるうちに升目セルの位置がどんどん音源位置から離れて遠ざかり、 その余韻感を長く中空に保ちながら消えていくという残響成分の増加という傾向を スクリーンショットでの分析結果として私に見せつけてくるのです! これはいい! そんな瞬間的でパルシブな立ち上がりの楽音をC-3900がどう変化させたのか、 上記のような視覚的比喩をしたかったというのが「瞬きしてはいけなかったのか!」と 述べていた理由なのです。 そんな導入部での変化を感じていると今度はど真ん中に定位するエレキベースの 升目セルの数が想像以上に減少していることに驚く。しかも重厚感がアップしている! そのセンター定位のベースと同じポジションでチェロが入ってくるのですが、 両者は見事に分離された音像であり、いずれの残響も混濁することなく整然と 空間に響きのオーラを発散していく美しさに聴き惚れる時間が続く…。 この両者の質感の充実は何と説明したらいいのか、と聴きながら耳からの信号を 処理している脳内の一部分とは違うところでつぶやく声がする…、なに綿菓子か! 前曲での比喩で思いついた綿菓子の形は少し小さくなるが、それが輪郭を鮮明化 した結果であり、甘みの濃度が高くなったように楽音の密度感を高めていく。 このセンター定位のチェロとベースの後方では蒸気機関車の巨大な動輪が力強く 回転しているイメージのリズミカルなパーカッションが継続して鳴らされる。 また古き鉄道の踏切にあったような警報器の甲高い金属音のような響きが左右を 行きかいながら繰り返され、この曲の雰囲気を盛り上げつつチェロのうねるような 旋律が次第にゆっくりと機関車が速度を落としていくようにエンディングを迎える。 聴き終えてしばし茫然、瞬発的エネルギー感の高まりで私の体温は一度上がっていた! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 一を聞いて十を知る…、二を聞いて二十を知る…、から三を聞いて三十を知る…、 上記の三曲を聴いただけで様々な要素を分析し感動の発見があり、これから続く 課題曲においても予測通りC-3900の革新性が実感され続けたのです! この他にも5曲を聴き合わせて8曲で16回の比較試聴を行いました。 それらすべてに前述同様なC-3900の威力を実感したものであり、他の課題曲で 楽音の変化を再度繰り返し書き続けるということよりも、なにがなぜ…そんな 変化をもたらした要因なのだろうかと考え始めてしまったのです。 音質変化の方程式と例えましたが、C-3850とC-3900をイコールで結んだ時、 その差とは何かというAccuphaseの“解”とは何か…!? https://www.accuphase.co.jp/model/c-3900.html 上記C-3900の紹介ページには2010年、40周年記念モデルとしてC-3800を発売し、 2015年には後継機種のC-3850を発売とありますが、その両者の技術的特徴を踏まえて 何を進化の筆頭として挙げているのか、他社と比較して最大の特徴は何かと考えた。 前述した課題曲における変化を思い出し、音像は縮小させながらも質感の充実を図り 美的再現性が向上している最大要因とは何か? 新開発Dual Balanced AAVAボリューム回路とは音量調整の精度を高めることだけが 目的だったのだろうか? 従来に比べてノイズ・レベルは約30%減少したという事が Accuphaseの求めたことなのだろうか? C-3850でのフルバランス構成Balanced AAVAを2回路並列駆動するDual Balanced AAVAの 真の目的ということをC-3900との比較試聴を行いながらずっと考えていたのです。 素晴らしい情報量を発揮するソースコンポーネントから送られてくる音楽信号を 実際の再生音として聴いた時、その音楽成分をわずかでもマスキングするノイズ感を 私はC-3850でさえも感じなかったのです。それよりも更にノイズが三割減少した事が 今回試聴したC-3900の魅力となり得たのだろうか!? そもそもAAVAでは入力した電圧信号を16種類のゲインの異なるV-I(電圧-電流) 変換回路で16種類の電流信号に変換した後、16個の電流スイッチで電流信号を選択、 I-V(電流-電圧)変換アンプで電圧信号に変換する。 Dual Balanced AAVAはAAVAを平衡回路化したBalanced AAVAを2並列化にするという ことで、合計4回路のAAVAに流れる電流量が二倍になるという事。 言い換えれば同じ音量で聴いていてもシグナルパスにおける電流が倍加したことが 前述してきた音質変化の最大要因ではないかと考えたのです。 楽音に鮮度とエネルギー感を与えるのはノイズレベルの低下ではなく、信号電流の 増加・強化ではないのかと愚考しました。 そう! C-3900はハイカレント・プリアンプなのです! それは音楽そのものの鮮度感と躍動感を与えたという感触を得ながらも、しかし… オーケストラなどでの曲中の静寂感は楽音の存在感にも影響があるのではと考えると、 C-3900にはあってC-3850になかったものは何かをチェックていくと、これに気が付く! 雑音・ひずみ低減技術ANCC(Accuphase Noise and distortion Cancelling Circuit)を採用 https://www.accuphase.co.jp/model/c-3900.html なになに!? ノイズと歪をキャンセルできる回路だって!? 私は多数の海外製品、 国産のハイエンドモデルというアンプを多数取り扱ってきましたが、こんな回路が あったなどというのは初めて知りました。いや、他のメーカーではあり得なかったものです。 昔のカセットデッキ全盛の頃にはノイズリダクションシステムというものがありました。 最近のヘッドホン、イヤホンでもノイズキャンセリングをセールスポイントにしています。 でも、プレシジョン・ステレオ・プリアンプと自らが表現しているC-3900の内部で、 ノイズと歪をキャンセルするという回路が入っているということが意外だったのです。 私の古い頭ではノイズと歪をキャンセルさせる回路というものは、音楽成分の情報量を 削り取ってしまうのではないかという疑問があり、思わずアキュフェーズ担当者に 次のように質問してしまったのです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 川又よりアキュフェーズ担当者へ 新製品資料に下記がありました。 I-V変換アンプに『ANCC(Accuphase Noise and distortion Cancelling Circuit)』を採用 高精度と低雑音を両立した『ANCC』採用I-V変換アンプ 「I-V変換アンプに、主アンプの雑音とひずみを副アンプで打ち消す『ANCC』を採用しました。 ボリューム操作時の雑音を低減するため主アンプには高精度アンプを採用し、 主アンプの雑音とひずみを打ち消すための副アンプには低雑音アンプを採用しています。 このような主アンプと副アンプの最適な組み合わせにより、雑音とひずみの高性能化に加え、 ボリューム操作時の雑音も更に改善されています。」 私はなるべく簡潔にと意識して下記の質問をしたのです。 Q:C-3800 C-3850と過去のプリアンプの資料を見ましたが、上記のANCCという技術が 見当たりませんでしたが、このANCCとはC-3900で初めての技術ですか? A:2018年11月発売のプリアンプC-2150、2017年3月発売のCDプレーヤーのDP-430に 採用していましたが、C-3800 C-3850には搭載していません。 Q:私が思うにANCCとは一種のNFBのように思えてならないのです。 技術資料の最後に「ANCC概要」がありますが、入出力波形を比較しての誤差を 打ち消す電流を注入するという一節があるのですが、その電流とはどうやって 生成した信号なのでしょうか? なぜならば、ノイズと歪をキャンセルするということは、その両者をどのように 検出するのかということが前提であり、入出力信号の誤差をノイズと歪と定義づけ、 その逆特性の信号を追加することでキャンセルさせるというのであれば、 原理的に言ってNFB(ネガティブフィードバック・負帰還)ではないかと思うのです。 ANCC概要のブロック図で「ひずみノイズ打消し回路」というのがポイントかと 思うのですが、この説明だと音楽信号とノイズとひずみの区別がつかないのでは? だってノイズとひずみも伝送系のなかで一緒に増幅されてしまうのではないかと 思うからです。 A:ANCCは負帰還によって改善しきれなかった要素を打ち消すフィードフォワード技術です。 出力に誤差が発生するとき、反転アンプの基準電圧も同時に理想状態から変動する。 (※抵抗による歪がない場合。通常抵抗は歪まない。) ANCCはこの帰還電圧を検出し、出力に現れる誤差(歪)を補正する電流を決定します。 それは次の方程式にて求められます… ■川又より ここで本物の方程式が出てくるとは思いませんでした(笑) だめです、私には理解できません^^; 私は上記にて音質変化の方程式と例えましたが、簡単に言えば次のようなイメージです。 C-3850+α=C-3900 または C-3850=C-3900-α という程度です。 このαとは何かを分かりやすく説明したかったのです。そこで、企業秘密とも言える 専門的な数式での解説を頂きましたが、それを噛み砕いて皆様に説明することは 残念ながら私には出来ませんでした。 そこで上記のブロック図と技術的結果のみで簡単に説明できるように、一般向けに 作って頂いたのが下記のファイルです。これはカタログにも同社サイトにもありません。 https://www.dynamicaudio.jp/s/20200624162519.pdf このANCC概略図でInputの直後には一定値の抵抗R1があり、黄色い枠のβにも同等な 抵抗R2があるとイメージして下さい。 このβからInput側に戻される際の帰還電圧がポイント。 この帰還電圧は出力電圧と入力電圧の電位差を、抵抗R1とR2で分圧した電圧となるので R1+R2をR1で割り帰還電圧をかけたものが誤差成分になるという。 そして、R2をR1で割ったものに入力信号電圧をかけたものをマイナスに反転させた ブロック図の黄色い-Aの信号を上記誤差成分に加算したものが理想出力として Outputに表れるという。 この誤差成分に音楽信号が含まれないというのが最大の要点であり、私が質問した ように音楽信号とノイズとひずみの区別を付けなくても誤差が検出できるというもの。 私でさえ満足に理解できない数式によって設計者が何を狙ったのかという結論を シンプルに言葉に置き換えると、大よそこんな感じになると思います。 上記URLによる文章での解説が結論となりますが、要は音質がどうかが問題。 上記のαとは何かということのひとつの答えが上記のDualBalanced AAVAであると考え、 更に私がANCCに目を向けた理由というのが次の実際に試聴した曲での印象だったのです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 当日は8曲で16回の比較試聴を行いましたが、最後の二曲がオーケストラでした。 Chopin Piano Concertos Nos. 1 & 2 https://wmg.jp/yundi/discography/22200/ 2017年6月、ワルシャワ、ポーランド国立ワルシャワ・フィルハーモニーで 録音されたユンディ・リ(ピアノ&指揮)によるショパン:ピアノ協奏曲。 このショパン:ピアノ協奏曲第一番の第二楽章の導入部での弦楽五部による演奏が C3850よりも更に美しく聴こえるのは気のせいか?先ず最初に新旧のプリアンプで 比較したくなった違いが冒頭から感じられる。このしなやかさは何とした事か! クラシック音楽の録音作品でも観客・聴衆をホールに入れたコンサート形式の 実況録音というのがライブレコーディングであり、音楽作品を商品化する前提では パッケージメディアとしてだけでは収益性が薄いので、昨今のクラシック音楽では ライブ録音がほとんどでしょう。 しかし、このユンディ・リのショパンは無観客、つまりセッションレコーディングであり、 聴衆のいないホールでの細やかな響きを存分に取り込んだ優秀な録音であるということ。 低音楽器の弱音での演奏による低域の再現性が素晴らしく、このショパンでも ホールの空間に漂うようなコントラバスの残響が広まっていく情景描写が極めて リアルであり、再生システムの情報量の大きさを再確認しつつC-3900に切り替えた ことで得られる空間再現性の素晴らしさに息を飲みながら聴き続けてしまいました。 もちろん質感の素晴らしさは弦楽五部全てのパートで引き立っているのですが、 ヴァイオリンの音色に関しては他の録音にはない魅力があると発見させてくれたのです! オーケストラの録音ではマスタリングによって弦楽器の量感と質感もスタジオで 調整することが多いのですが、C-3900では26人のヴァイオリン奏者が発する響きの オーラというか独特な空気感をはらんだ雰囲気を感じさせてくれます。いいです! スタジオでのイコライジング次第で明るくも暗くもなる弦楽器ですが、C-3900で 再生するとマスタリングの意図が音になって分かってしまうほどです。 人工的なリバーブをマスタリングで追加したという事ではなく、セッション録音の 環境の素晴らしさが微細な楽音をマイクが拾う事に貢献し、弦楽器の音色と質感に 得も言われぬ美しさを与えている。それをC-3900は正確に伝えてくる! そんなオーケストラを背景にしてユンディ・リのピアノが展開するが、決して ソリストとしてのピアノを誇大表現することなくオーケストラと空間を共有し、 ピアノのサイズ感は主演であることを尊重しつつもC-3900による音像の縮小と 充実感が交響楽団に敬意を払うような空間での響きの調和が見事に展開する。 それはサイズ感という音像の在り方だけではなく、ピアノの打鍵の一音ずつに 素晴らしい分解能を確保しつつ、ユンディ・リの両手が絶妙な柔軟性をもって 鍵盤の上で躍動する情景が脳裏に浮かんでくる。これは素晴らしいです! ピアノが放つ響きが拡散していく空間はオーケストラと同じステージであることが 自然に聴き手に分かる対比であり、ユンディ・リが指揮することで正にワンチームとなり 協奏曲としての調和が音場を共有する素晴らしい録音作品として感動しました! 極めて高い透明感を持ちながら、しなやかでありながらテンションの強弱も見事であり、 素晴らしい情報量を持ちつつ誇張感のないバランス感覚を持ち、聴き手の感性に寄り 添うような自然体での音楽表現というC-3900の妙技に聴き惚れてしまったのです! 私はここにこそAccuphaseの独自技術であるANCCの真骨頂があるものと確信したのです! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- そして、同様なセッションレコーディングでホールにおける音響的情報を極限まで 収録しようと試みた事例として最後に選曲したのがこれです。 マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」(1893年版 花の章付き) https://www.kinginternational.co.jp/genre/kkc-6022/ このトラック2より1893年版での第二楽章である「花の章」を聴きました。 このフランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)レ・シエクルでの録音は2018年の 最新テクノロジーによる高品位なデジタル録音ですが、使用している楽器は ピリオド楽器ということで百年前の楽器を集めて録音されたものです。 ですから近代的なオーケストラで聴ける弦楽器とは違うガット弦、管楽器も ドイツ製とオーストリア製という古いもの。詳細は上記サイトの解説をご覧下さい。 つまり、作曲者が当時聴いていた楽器を使用して、マーラーの感性を忠実に再現 しようという試みであり最新録音による時代物の古い楽器という「花の章」です。 この古楽器と近代楽器の中間に位置する音色をもつピリオド楽器の質感と、 最新技術をもって無観客のホールで湧き起ったオーケストラの空間表現を Accuphase C-3900のDual Balanced AAVAとANCCがどのように引き出していくのか!? https://www.accuphase.co.jp/model/c-3900.html C-3900の解説では上記二つの新技術の他にも実に多項目の技術的要素が述べられ ていますが、そのいくつかは前作のC-3850までの製品にも含まれているもので、 音質的な決定要素は多数あると思いますが、C-3850+α=C-3900またはC-3850=C-3900-α ということで、このαにフォーカスしズームインしての分析と評価であることを 誤解なきように注記として述べておきます。 C-3850による比較対象の「花の章」をじっくりと聴き、間違い探しの元になる フランソワ=グザヴィエ・ロトが目論んだ作曲当時のマーラーの理想に近い音色に よるオーケストラの色調と傾向を2018年という近代録音技術の忠実度に信頼をおき 脳裏に焼き付けていく。すると… 「おー!出だしのコントラバスから違うとは!?これが1893年版のオーケストレーションか!」 C-3900に切り替えての「花の章」が始まった瞬間に間違い探しの最初の答えを発見。 注意していないと聴き逃してしまう一瞬なのですが、流麗な弦楽の調べが始まる 冒頭の一瞬にコントラバスのピッチカートが弾けます! しかも左奥からなのです! *現在主流となっている弦楽器の配置は左から音域順に並べたアメリカ式(第一ヴァイオリン →第二ヴァイオリン→ビオラ→チェロ)、もしくは、楽器の特性上響きにくいビオラを 客席側に出したドイツ式(第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→チェロ→ビオラ)と いうオーケストレーションが主流になっています。 これらは音が融合しやすいメリットがあり合理的に思えるのですが、実は指揮者と しても有名だったストコフスキー(1882-1977)が始めたと言われる新しいものです。 これらの場合、コントラバスはチェロと音を一体化させる必要があるため右奥に置かれます。 ということは、ストコフスキー以前は違ったという事です。 バッハ、ハイドン、モーツァルトの時代からマーラーやRシュトラウスの時代に 至るまでは、古典配置もしくは対向配置と言われるものでした。 左から第一ヴァイオリン→チェロ→ビオラ→第二ヴァイオリンと並びます。 この場合、コントラバスはやはりチェロと音を馴染ます必要から左奥に置かれます。 つまり、多くの作曲家はこの対向配置を念頭に作曲したため、最近では対向配置で 演奏する指揮者がかなり増えています。 典型的な例としてはチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の第四楽章冒頭部を この対向配置で聴くと大変効果的で面白い。マーラーの演奏でも最近は対向配置が多い。 何を申し上げたいかと言えば、チェロとコントラバスはいずれにせよ隣り合うので、 コントラバスが左でチェロが右というのは基本的にないのです。 マーラー自身が自作を指揮した時に、コントラバスを左奥に固めるのではなく、 弦楽器群の後ろに8本のコントラバスを一列に並べた記録もあるので色々な マイナー配置もあるのですが、それでもチェロとコントラバスが離れる事は 基本的に無いのです。 弦楽器を弾いた経験が無ければ、コントラバスとチェロの音の区別、さらには チェロとビオラの音を完全に区別するのは至難の技だと思いますが、上記の事を 念頭にオーケストラの弦楽器の配置にも興味をもって読んで頂ければと思います。 (上記*からは弦楽器奏者のハルズサークル会員から頂いたメールを参考にしています) 私の素人なみの経験としてコントラバスは右奥という配置ではなく、1893年版の オーケストレーションに忠実にと意図したフランソワ・ロトの解釈なのでしょうが、 左奥で冒頭の一音を担ったコントラバスの充実感と存在感からして違うのです! これはDual Balanced AAVAがもたらした信号電流の増加による充実感と直感しました! この低弦が生々しく力感に溢れ、同時に第一ヴァイオリンとの協奏において独立性があり、 その後に続く麗しい弦楽の調べに対して美しいランドマークとなり「花の章」の冒頭を飾ります! そして、儚さをはらむ暗い音色のトランペットが右側奥から響き渡るが、近代的な 管楽器とは異なる質感がここでも発揮され、奏者自身にスポットライトが当たることを 避けているかのように、その響きは広大な領域に展開しオーケストラ全体に傘のように 残響のオーラをかぶせていく空間表現を見せる! このスケール感は何とした事か! ヴァイオリンの小刻みな弓の動きに呼応するかのように、後方に表れる木管楽器の 響きは奏者の定位置をピンポイントに表現することなく、いぶし銀の音色とも言うべき 独特のまろやかさを保ち、更に無人の客席によって温存される余韻感は空中を舞い、 弦楽のピッチカートと共存する響きのレイヤーを私の眼前に展開していく美しさ! 前述のように弦楽器の各パートの区別は私には難しいのですが、右側から発する 恐らくはビオラと思われる弦楽パートとヴァイオリンが主題の旋律を交換しながら うねるような盛り上がりが左右スピーカーから更に両翼へと拡散していく素晴らしさ! 勇壮な響きというよのも、たおやかな音色でオーケストラの背景を描くホルンの 響きが清々しく、左奥のコントラバスはゆったりしたピッチカートを繰り返して いたかと思うと、センター右寄りに登場したオーボエに呼応するように重厚で ありながらも控えめなアルコで主題を上塗りしていく情景にうっとりしてしまう。 高性能な近代録音の恩恵であり、しかも無観客ホールでのセッションレコーディングが もたらした極めて低いノイズフロアーという臨場感の基礎をしっかりと確認するのだが、 実はそこにC-3900で搭載されたANCCによる音響空間の浄化作用が奏功していると実感する! Accuphaseのフラッグシップ・プリアンプ交代劇の一幕ごとに私は安堵感と感動が 交互に押し寄せてくる思いで、この「花の章」を二度、いや三度と繰り返して聴いてしまった! しかも、その度にC-3900のボリュームを2dB、3dBと少しずつ上げて行ってしまった のですが、安堵感としてノイズフロアーは何ら変化せず、ただ楽音の美しさが更に 力強く響き渡る感動と快感に酔っていたのです! あ〜、これは素晴らしい! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 前言を再度繰り返しますが…、C-3900が誕生した根本的な理由はこの一言でしょう! 「つまり簡単に言えばAccuphaseの経営陣も開発者も営業担当も、Accuphase社員 全ての皆様はオーディオがとても好きなのです! 大好きなのです!」 そして、二年前にAccuphaseの代表取締役社長より頂戴したメールより次の一節を この場で紹介させて頂きます。 「会社を大きくして『数量を追うだけの価格競争』を続けていたら、いずれは 破たんが来ます。弊社は、会社規模を大きくしないように、『量より質の追求』 (徹底した品質の追求の下での少量生産)これらを堅持して、アキュフェーズ・ ブランドをしっかり継続して行くこと、これが弊社のモノづくりの基本姿勢です」 創立50周年記念モデルという位置付けは前述の通りですが、Accuphaseの物作りの 根底にある思想は何かという経営者の決意を私は改めて認識し敬意を表するものです。 そして、ユーザーに対するAccuphase製品のイメージとしての外観デザインの不変性に 関しても、私はAccuphaseの皆様との会話の中で明確な回答を受け取っていたことを 思い出さずにはいられないのです。 私はAccuphaseはなぜ新製品のデザインを変えないのか、それだけの品質に対する 自信がおありでしたら斬新なデザインでユーザーにアピールした方が良いのでは ないでしょうかと問いかけたのでした。すると… 「変わらぬデザインにおいて音質を向上させていく事こそが私たちの目標なのです」 Accuphaseというブランドのアイデンティティーがどこにあるのか、私はこの一言で しっかりと理解したように思えるのです。 オーディオ製品の本質は何か、絶えず自身に問いかけ研鑽を積み重ねていくという 経営理念の在り方を製品にどのようにして反映させていくのか。 短時間ではありましたが、創立50周年記念モデル第二弾C-3900のパフォーマンスに 感動し納得した今、私なりの方法で全国のオーディオユーザーに皆様に感動と満足を 提供していくためのパートナーシップとして、改めてH.A.L.によるAccuphaseの 啓蒙活動を推進していこうと決意しました! C-3900によって、いやAccuphaseによって皆様に何が提供できるのか、 Hi-End Audio Laboratoryの今後にご期待下さい! |
担当:川又利明 |
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556 kawamata@dynamicaudio.jp お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください! |