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H.A.L.担当 川又利明
    
2016年7月14日 No.1310
 H.A.L.'s One point impression!! - Audio-Technica AT-ART1000!!

ハイエンド・ピックアップ・カートリッジ二機種を比較試聴!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1308.html

上記の二機種がまだあるうちにとAudio-TechnicaのAT-ART1000を試聴しました!!
http://www.excellence.audio-technica.com/jp/

■入荷したAT-ART1000を開梱すると高級感あるウッドケースに格納されていました。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.02.jpg

■完全な手作りのため1台ずつ適正針圧が違うのですが、serial No.10は2.1gでした。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.01.jpg

■錚々たるハイエンド・カートリッジたちと記念撮影です。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.04.jpg

■左からTechDAS TDC01 Ti(¥850,000)中央がMy Sonic Lab Signature Pratinum(税別¥750,000.)
 そしてAudio-TechnicaのAT-ART1000はGraham Engineering  PHANTOM II Supreme 10inch
 (税別¥1,280,000.)に装着しています。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.05.jpg

■実際にトレースさせると風格ある容貌となりました。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.03.jpg

■Direct Power Systemという針先が見たい! ちょっぴクローズアップしました。
http://www.dynamicaudio.jp/file/20160709-at-art1000.06.jpg

「私を虜にした“oreloB”というタイトルのLPレコードとは何だ!!」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1307.html

先ず最初に聴き始めたのは上記で使用したシステム構成です。国内ではここにしか
展示がない、ご存じTechDAS Air Force One、Vitus Audioのプリとパワーアンプに
同社製ケーブル、そしてスピーカーはSonusfaber“IL Cremonese”です!!

一般的には約60万円というカートリッジは大変高価なものなのですが、ここでは
上記のようにTechDASやMy Sonic Labのより高価なカートリッジを常設として試聴
しているので、下から見上げた感想というものではないということを最初に述べて
おかなくてはいけないでしょう。

CDでも定番の試聴曲があるように、LPレコードでは先ずこれです。1978年録音の
アルテュール・グリュミオー(Arthur Grumiaux)とソリスト・ロマンド/アルバト
・ゲレッツ指揮によるバッハのヴァイオリン協奏曲第一番イ短調。

その驚きは最外周のA面一曲目、Allegro moderatoに張りを落とした瞬間にやってきました!!
最近は他のカートリッジで鳴らすIL Cremoneseによる高品位、かつ魅力的な艶と輝きの
ヴァイオリンの質感を聴き続けてきたのですが、それらとは極めて異質な音質です。

Audio-Technica AT-ART1000に向けての賛辞にどのような言葉を使えばよいのか、
私は大変慎重になってしまいました。それは、前述のように他社カートリッジの方が
価格的には高いものであり、その序列は否定しがたいものだからです。

AT-ART1000の素晴らしさを語る、ある言葉を用いた時には他社製品ではそうでは
ないのかという比較級での上位という解釈をされてしまうと困ってしまうからです。

当フロアーの環境と設備、使用機器のグレードと私のチューニングという前提の
元に極力客観的にAT-ART1000の特長を言葉にすることの難しさに悩んでいました。

さて、Audio-TechnicaではDirect Power Systemという表現をしていますが、実は
スタイラスチップの直近にコイルを配置するというアイデアは30年前からありました。
代表例としてビクターのMC-L1000などがそうでしょう。
http://audio-heritage.jp/VICTOR/etc/mc-l1000.html

また、振動系の中でカンチレバーの必要性を排除してムービングコイルとスタイラス
チップを直結させるという試みをIKEDAサウンドラボが実現していたことは、マニアの
間では知る人ぞ知る事実です。

ムービングコイルが音溝に最も近い位置にあることで、刻まれた信号の振幅と変位に
忠実に対応し、カンチレバーの素材や形状による個性化から脱却しようというアイデアは
実は古くからあったものでした。

呼び方は違っても動作原理は30年前と同じであり、その当時カートリッジの比較
試聴で私の記憶の奥底にしまい込まれていた思い出を頭の中の古い引き出しから
引っ張り出して来ることになりました。

AT-ART1000で聴くグリュミオーのヴァイオリンの音像は他社のどれよりも小さく、
背後の弦楽合奏者との遠近感を正確に描き出し、くっきりと空間に定位する様は
まさに圧巻という解像度の素晴らしさなのです!!

今までに聴いたグリュミオーのヴァイオリンの質感とは異なり、音色は明るい傾向で
弦の一本ずつに弓があたる摩擦感を極めて鮮明に表し、弦を押さえる左手の指先の
細やかな動きと力加減の強弱が楽音に独特のバイブレーションをもたらすテクニックが
IL Cremoneseのウェットな質感に絶妙にマッチして、思わずため息が出るほどの
美しさが強烈な印象を残します!!

ここで強調しなければいけないのは、凝縮した音像の中身に関して前述のように
麗しい質感でありながら、一種の緩やかな緊張感として音質にたるみがないという
輪郭再現性も実現しているということ。

そして、それらの音像を造形する特徴によって各楽音の存在感が鮮明になり、
ソリストとバックの距離感を以前にないレベルで正確に再現しているという事実。

しかし、音像が鮮明であっても楽音が原色だけで単純な一色のみで周囲から浮き上がって
しまうという幼稚な構図ではないのです。AT-ART1000は音像の構成要素として楽音の
音色を構成する複雑な倍音成分まで見事に再現し、更に音溝に刻まれている微細な
余韻感を前例のない高次元の解像度で広げ拡散し消滅していく、残響の全てを克明に
描き切る情報量の素晴らしさに圧倒されてしまいました!!

フォーカスを甘くしても、音像が膨らんでも、豊かな響きや色艶という言葉で
弦楽器の音は再生装置の個性と演出が濃厚であっても好意的に受け入れてしまう
ケースが多くの場合にあると思いますが、ふくよかでゆったりして温かい弦楽器と
いうイメージを求める人、あるいは そのような音質傾向で聴いてきた人たちに
とっては本人だけの常識と思っていたヴァイオリンのリアルさに驚くことでしょう。

その傾向は次の選曲で決定的な分析結果として更に私を驚かせたのです!!
Grover Washington jr.「WINELIGHT」よりタイトル曲の「WINELIGHT」です。

この曲をIL Cremoneseで聴き始め、直ちに各パートにおいて過去の再生音との
比較検証を私の聴覚が進めていくが、やはり以前に経験のないアナログの音と
いう実感がまず先行する。しかし、この曲だったらスピーカーを変えなくては…
と私のリファレンスであるHIRO Acousticによる下記システムで聴き直すことに!!

◇ H.A.L.'s Sound Recipe / Audio-Technica AT-ART1000 - inspection system ◇

………………………………………………………………………………
TechDAS	Air Force One (税別¥7,000,000.)
http://stella-inc.com/10techdas/
     with
Graham Engineering  PHANTOM II Supreme 10inch (税別¥1,280,000.)
http://stella-inc.com/009graham/index.html
     with
Audio-Technica AT-ART1000 (Open Price 実勢価格 税別¥598,000.)
http://www.excellence.audio-technica.com/jp/
     with
Soulution 750     (税別¥2,600,000.)
http://www.noahcorporation.com/soulution/750.html
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

ESOTERIC 7N-DA6100 RCA / 7.0m(税別¥3,120,000.)
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/7nda6000/index.html

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ESOTERIC  Grandioso C1 (税別¥2,500,000.)
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/c1/index.html
     and
TRANSPARENT OPC2(×2)+PI8 (税別¥1,990,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/#cnt-power-cord
     and
finite element MR02-2+CERABASE 4P (税別¥970,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/finite-elemente/finite-elemente/
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

ZenSati	Seraphim / Interconnect cable XLR 8.0m(1Pair 税別¥5,645,000.)
http://www.zensati.com/
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/960.html 
     and
ESOTERIC 7N-A2500MEXCEL / XLR 7.0m  (税別¥2,280,000.)
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/7na2500/

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
ESOTERIC  Grandioso M1(2Pair 税別¥5,600,000.)★Bi-Amp
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/m1/index.html
     and
TRANSPARENT OPC2(×2)+PIMMX(×2) (税別¥2,580,000.)
http://www.axiss.co.jp/brand/transparent/power-code/power-cord-2/#cnt-power-cord
………………………………………………………………………………
                ▽ ▽ ▽

ZenSati	Seraphim/Speaker cable 3.0m/Bi-Wier(税別¥9,408,000.)
http://www.zensati.com/
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/960.html 

                ▽ ▽ ▽
………………………………………………………………………………
HIRO Acoustic Laboratory MODEL-CCS Improved (1Pair ¥14,250,000.)
http://www.hiro-ac.jp/
     and
H.A.L.'s B-Board×2 (1枚/税別・配送費込み¥122,000.)
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/fan/BZ-bord.html
「特報!!HIRO Acoustic Laboratory MODEL-CCS Improvedとはこれだ!!」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1199.html
ここに紹介した下記の二枚の写真でImprovedモデルとスピーカー本体とネット
ワークボックスをセットしたのがB-Board
http://www.dynamicaudio.jp/file/20150306-model-ccs_improved01.jpg
http://www.dynamicaudio.jp/file/20150306-model-ccs_improved02.jpg
………………………………………………………………………………

アナログサウンドの魅力はゆったりした雰囲気と温度感のある音だろうと考えて
おられるのは、愛用システムに対する愛着があっての事であれば個人の好みという
ことで何ら否定するものではありませんが、再生装置の未熟さによって曖昧さが
魅力として認識されているのであれば誤解というものでしょう。

録音に含まれる各種のリヴァーヴが正確に再現されてのことであれば、それが
雰囲気や空間情報を伝えるものであり、鋭いインパクトによって立ち上がる楽音が
正確な残響成分の再生によって空気感をもたらしてくれるような、音像と音場感の
両立ということが理想なのではないだろうか。各パートの音質が入念に調整された
スタジオ録音の選曲でAT-ART1000の分析を進めていく。

私の試聴では聴覚と視覚が連携している。すなわち眼前に展開する楽音の個々が
定位する中空の一点に私の視点が飛び、様々な音がスピーカー周辺に発生するたびに
楽音の定位する位置に私の視線が向けられる。

人間の視線が運転中にどこに向けられているかを機械が検出して、画像の中に
マーカーが飛び交う映像を見たことがあるが、正に試聴中の私の視線は楽音が
定位する一点に瞬間的に振り向けられ、演奏中の私の眼球は小刻みに激しく動き
続けて再生音の位置に見えないマーカーとして空間に表示しているのです。

もう36年前の録音であるGrover Washington jr.「WINELIGHT」のリードイングルーブ
に針を落とし、急いでセンターポジションに座りミュートを解除する。

数舜のサーフェスノイズの中からPaul Griffinの、あのお馴染みのClavinetの
ソウルフルなイントロが表れる。おや! これは凄い切れ味だ!!

Marcus Millerのベースがしっかりと重量感ある低音で追随し、Steve Gaddの
キックが最初はソフトにHIRO Acousticのシングルウーファーから空気感を含む
打音で空間を満たす! 冒頭のリズムセクションの音像が素晴らしい輪郭を描く!!

Eric Galeのダンプされたギターがエスニック風の旋律を細やかに繰り返し、
シンセサイザーが雄大に広がる輝くような航跡を空間に残すとGrover Washington jrの
サックスがジャストセンターに表れる。

そのサックスの音像がHIRO Acousticによって更に巧妙に凝縮されて濃厚さを示し、
その周辺にはリヴァーヴの拡散領域が広大な広がりを見せる物凄さ!!

これアナログですか!? と、思わず余韻感の微細な信号をここまで出すのか、
という情報量の素晴らしさに舌を巻く!!

そして、この前にIL Cremoneseに聴いた時に気が付いた特徴的な楽音があり、
それを確認したいがためにHIRO Acousticに変更したのですが、前述のように
空間に点として定位した楽音に私の視線がくぎ付けとなったのです。

左チャンネルのスピーカーユニット軸上に表れた音とはパーカッションを担当する
Ralph MacDonaldが鳴らすカスタネットの二連打なのです!!

この高速で叩かれる二連打を文字にするのは難しいのですが「カッ! カッ!」とも
「タッ! タッ!」とも言えるのでしょうが、私がこの曲を過去に聴いてきた回数は
数え切れないほどですが、これほどの切れ味で鮮明に鳴らされたのは初めてでした。

それはインパクトの瞬間の立ち上がりが極めて高速であると同時に、今までの
再生音では打音の後にわずかな余韻が含まれていたことに気が付き、それが今
AT-ART1000で聴くと音溝には刻まれていない信号であったことに気が付いたのです!!

つまり以前の記憶では「カリッ! カリッ!」とか「タンッ! タンッ!」というふうに
単純でシンプルな楽音のはずなのに、付帯する響きがあったという事なのです!!

主役であるサックスの音像のシャープさは予想していましたが、この一秒に満たない
高音のパーカッションの質感がこれだけ鮮度を高め、同時に含まれていた響きが
実は再生装置の個性の表れであったということに初めて気が付かされたのです!!

弦楽器の美しさを見事な表現力で聴かせるIL Cremoneseで最初に気が付いたことは、
ヴァイオリンのように連続楽音ではなく、瞬間的な立ち上がりと消滅という極めて
短時間での楽音によって私が察知したAT-ART1000の特長をHIRO Acousticが簡単に
証明してくれたのでした!!

時間軸が極めて短い楽音であり、その高速反応が音溝に刻まれた信号通りに再生され
たという事に際して、それは同時に音像のサイズが膨らまずジャストフォーカスであり、
ムービングコイルそのものの挙動がマイクログルーブに刻まれた信号にいかに忠実で
あるかという証なのです!!

「私を虜にした“oreloB”というタイトルのLPレコードとは何だ!!」
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/1307.html

私は上記の記事の中で次のように述べていました。

「LPレコードは3分間で100回転しますので、毎分33.3回転という事は1秒間で0.555回転、
 トレースする距離は直径30センチとして外周では94.2センチとなります。よって、
 最外周では1秒間に約52.3センチほどトレースすることになります。」

外周の一曲目という「WINELIGHT」の音溝は物理的にこのような優位性のある記録
状態であるわけですが、この曲で再現される高域信号の楽音の繊細さと切れ味と、
そしてAudio-TechnicaがDirect Power Systemと名付けたピックアップ方式の
素晴らしさと特徴が本来のトラッキング能力の素晴らしさとして認識され、
それを自然な再生音という結果で表したのです。

こんな分析を頭の中で文字にしながら、私の眼球は前述のように激しく楽音の発祥と
消滅を多角的に追い求め、高域信号で実感したAT-ART1000の素晴らしさを今度は
低域のリアルさでも実感する演奏へと進んでいきます。

Marcus Millerのスラップベースが唸りを上げて弾けるのに音像は膨らまない!!
Steve Gaddのスネアがビシッとハイテンションの切れ味を示し輪郭が見える!!

特筆すべきはセンター定位であるサックス、キックドラム、ベースという三者が
躍動感ある演奏を展開しながらも抜群のセパレーションで音像を描き、最も
エネルギー感が集中するセンターでありながら楽音の発生から伸びに伸びる
リヴァーヴの広大な広がりと余韻も実に素晴らしいのです!!

そして、この三者の音像サイズが音量の大小によって呼吸体のように縮小拡大する
という幼稚なふるまいは一切なく、盛り上がったサックスの響きは上へ上へと拡散し
広がっていく音場感の素晴らしいスタジオワークの完成度の高さを表しています!!

一般的なカートリッジはカンチレバーの先端にあるスタイラスチップから数ミリ離れた
ダンパー付近にムービングコイルを配置しています。上記のTechDASやMy Sonic Labも
例外ではありません。

そして、私が聴いてきたTechDASやMy Sonic Labとの優劣がどうかという議論ではなく、
AT-ART1000の最大の特徴がAudio-TechnicaによってDirect Power Systemと命名された
ムービングコイルと音溝の関係にあり、その個性化の方向性として私は楽音の質感に
以上のような特徴があるという事で締めくくりたいのです。

一般的なカートリッジで出せない音をAT-ART1000は出してくれます。しかし、それは
現存する世界中の多数の高級カートリッジメーカーが求めた音質と方向性とは違う
ものであり、ユーザーの選択によって音溝の素顔ともいうべき脚色のない再生音を
どのように描くのか…、使い手の感性を再発見し確認していくことでAT-ART1000が
音楽という芸術を“アートせん”とするのではないでしょうか!

           -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

Audio-Technica AT-ART1000は上記システムによってH.A.L.にて展示実演しております。
ぜひ皆様の愛聴盤レコードを持参されて試聴にお越し下さい。

まて当店の各フロアーでも試聴可能ですので、希望のフロアーの担当者に
試聴をお申し込み頂ければ何よりです。どうぞ@アートせんにご期待下さい!!

川又利明
担当:川又利明
TEL 03-3253-5555 FAX 03-3253-5556
kawamata@dynamicaudio.jp

お店の場所はココです。お気軽に遊びに来てください!


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