《HAL's Monitor Report》


No.0156 - 2003/1/18

奈良県橿原市在住 F・O 様より

「定価でも購入したくなる音〜P70試聴記」

モニター製品 ESOTERIC P-70

1:はじめに

 P70を借りる契機になったのはそれまで使用していたトランスポートの
故障でした。それまではマランツのCDR631というCDレコーダーがト
ランスポート代わりでした。

音は定価×十万を越えるプレーヤーと比べれば荒削りでしたが、価格から考
えれば期待以上の音を聞かせていました。故障を機会に「もし、トランスポ
ートにも十分な費用をかければ、どれだけの音がでるのか」ということで
P70を川又店長のご厚意に甘えてお借りすることにしたのです。

2:試聴環境

スピーカー:アコースティック・ラボ「ステラ・ハーモニー」
プリ・メインアンプ:マークレビンソン「No383L」
D/Aコンバータ:dCS「Delius」

電源ケーブルはそれぞれ本体付属のノーマル、スピーカーケーブルはカルダス
「クロスリンク1s」、D/A=アンプ間はPAD「ミズノセイ」でXLR
接続です。ラックはやや貧弱なラックを使っており、専門品ではありません。
(この試聴を機会にリジッドなラックが必要と感じるようになりました。)

3:試聴記

 はじめに告白しておきますと、お借りしておきながら十分な試聴ができま
せんでした。急な仕事と出張が舞い込んできたためです。

そこでわずかながら聞いた2枚のディスクの印象を述べさせていただきます。
P70=D/Aの接続はRCAで、P70で96kHzにアップコンバート
しております。

ベートーヴェン「交響曲第7番」
(C・クライバー/ウィーンフィル:ユニバーサル)

 この演奏の秀逸さの一つに美しいピツィカートがあるといわれているので
すが、いままでのトランスポートではそのほのかに弾けるような音が鈍って
いたのです。ところがP70で聞くとそのまるで小さなガラス玉、あるいは
シャボン玉が弾けるような繊細な弦の音がくっきりと聞こえてくるのです。

線の細い音だけに、まさに解像度が求められる部分なのかもしれません。
初めてこの演奏を1万円のラジカセで聴いた時の、その感動がよみがえって
きたような気がしました。

サラ・ブライトマン「タイム・トゥ・セイ・グッドバイ」(東芝EMI)

 バックがオーケストラですので、簡単な装置で聞くとブライトマンの
ヴォーカルがつぶれてしまうときがあるのですが、P70の演奏ではそれ
ぞれの音がくっきりと分かれて聞こえてきました。それよりも驚いたのは
ブライトマンの息づかいが聞こえてくるのです。

たとえば耳を澄ましていると時折息を吸う音すら聞こえてきます。CDの
音を聞いているというよりも、マイクが集めている音を何のフィルターを
通さずにそのまま聞いているような、そんな印象さえ受けるほどの音でした
(実際にはフィルターを通しているのでしょうが)。

4:得られた結論

 実際にはこの2枚のほか、「エンヤ」や「フィリッパ・ジョルダーノ」
といったCDを回しています。いずれも得られた結論は「音が締まった」
ということなのです。

Deliusを導入したときに解像度が上がり、音の細やかさは高まって
いたのですが当方の設置のまずさもあり、一つ一つの音の粒が「ぶよぶよ」
しているような印象が気になっていました。

P70はその「ぶよぶよ」感を一気に解決してくれたような気がします。

 若干音楽とは関係ないのですが、私は所有する車を若干いじっておりまし
て過日サスペンションを純正のものから若干「堅い」(といってもメーカー
の純正品ですが)ものに交換しました。

結果としてカーブを曲がるときや道路の凹凸を通り抜けたときの「ぶよぶよ」
とした感じがなくなって、慎重に運転すればハンドルの切れもよくなり、また
高速でとばしても道路に吸い付くように走るので速度を出しても安心して運転
でき(!)、少なくとも私にとっては乗り心地の良い車になりました。
(道路のでこぼこを必要以上に拾うのは困りものですが)

 話を戻すと音の「ぶよぶよ」感をなくしたのはまるで車のサスペンション
のような、P70がもつリジッドな装置(VRDS)の恩恵なのかなと勝手
に思っています。

今までのトランスポートはCDレコーダーでしたから、書き込みの安定性に
こそ力が入れられていましたが、再生時のドライブのリジッドさはあまり追
求されていなかったとおもいます。

 音楽の「リジッド」というと、たとえば密度の高い金属でつくったラック
やスピーカースタンドを設置することで音を「堅くする」といった印象があ
り、金属的な音がでるのではというイメージがあったのでクラシックを主に
聴く私はあまりいい印象を持っていませんでした。

ところがP70の「リジッド」というのは音の一つ一つを締め上げるだけで、
「キンキン」というような金属的響きをよびこむものではありませんでした。

(車でいえば、乗り心地はロイヤルサルーンだけど、ハンドルを握ると道路
に吸い付くように走りハンドルの切れも鋭い、という感じです。車では難し
い話ですが。)もちろんDeliusの自然で「優しい」音のせいもあるか
もしれません。「リジッド」だけど聞いていて疲れない、私にとっては望ん
でいた音にまた一歩近づく装置でした。

 いままでオーディオはほかの電化器具のように定価では買うものではな
いと思っていました。でもP70に関してはその考えをあらためなければ
いけないなと感じさせるものでした。

もし今手元に十分なお金があれば、定価でP70を購入しても損をした
気分にはなりません。もっともまだ若輩者ですので、手に届くほどの金銭
的余裕がありませんが(若干下世話になってしまい失礼しました)
同時に自分のぶよぶよした体と心も締め上げないとも…。


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