《HAL's Monitor Report》


No.0154 - 2003/1/12

千葉県市川市 T・I 様より

モニター製品 MarkLevinson No.32L

前回の登場はこちらでした。そして、今回は…!!
http://www.dynamicaudio.co.jp/audio/5555/7f/fan/hf_moni0132.html


モニター試聴機:MarkLevinson No.32L

自宅の機器
トランスポート:VUK-P0ver.upP-0s(88.2kHzシングル出力、PAD AC
DOMINUS Rev.B sig)DAC:M.Levinson No.360SL(AC DOMINUS Rev.B sig)
プリアンプ:M.Levinson No.380SL(AURAL SYMPHONICS ML-CUBED GEN2i→
CSE RX-201A(100Hz)→AC DOMINUS Rev.B sig)
パワーアンプ:M.Levinson No.33HL
スピーカー:B&W Sigunature805(with BRASS SHELL)

 またモニター機を借りてしまった。

心の片隅で半分後悔はしているものの、うれしさも半分ある。

なぜなら“いつかは…”のプリアンプでもあるし、現在使用しているNo.380SL
とどの程度の差があるのか? ということも知りたかったからだ。

ラインナップ的なことを考えれば、No.32Lのすぐ下にあたる弟分。価格的には
倍以上ものひらきがあるものの、音質的にそれほどの違いがあるのだろうか?

 また、自宅で使用しているNo.380SLの環境は、CSEのRX-201Aというクリーン
電源から電源を供給している。ご存じの方も多いと思うが、RX-201Aは交流電
源を単純にきれいな正弦波の交流にするだけではなく、交流の出力周波数を
変えることができる。

50Hzや60Hzは当たり前のこと、80Hzや100Hzといった高い周波数にあげること
もできる。機器によってはなにかしらの許容範囲を超えて故障の原因にもなる
のかもしれないが、自宅で使用しているNo.380SLに100Hzでの入力をしたとき
の弦楽器のプリプリ度は、何物にも代え難い物があり、いまでは手放せない
機器のひとつになっている。

 おさらいのためにNo.32Lの作りを思い出すと、コイツは独自に電源部を
持っている。100V(50/60Hz)の交流を一度直流に変換したあと、400Hzの交流
に戻し、さらに再度直流に変換してアンプ部に導かれているらしい。

スペックだけで考えるなら、ウチのNo.380SL+RX-201Aよりも上だ。

とはいえ、構成的にやっていることはまるっきり同じではないにしろ、近い
ものがある。この差がどれだけのものなのか? という電源面からの作りに
も興味があるのだ。

しかし、忘れてはいけないのは自分の物欲だ。

前回、B&Wのシグネチャー805をモニターとして借りたときには、そのパフォ
ーマンスからすぐに購入を決断してしまった経緯もある。S805ですら悩んだ
上に購入したシロモノなのに、今回借りるNo.32Lは価格的にもS805の実に
6倍以上。

「もしや、また…」ということを考えると、モニターを申し込んだ自分に
「よかったのか?」と自問自答したくなってしまう。

そう思いつつも、「お正月はH.A.L.'s Monitorでハイエンド体験!!」なる
企画を提示されてしまうと、「ハイハイ」とすぐに手を挙げてしまう。

年の瀬でごった返す12/30の秋葉原までスキップしたくなるような気分で出掛
けてしまい、川又さんへの挨拶もほどほどにNo.32Lを持ち帰ってきてしまった。

持ち帰ってすぐに電源ケーブルをNo.32Lにつなぎはしたものの、試聴とは
いかない。「まずはNo.32Lを暖めなくては…」私も少しは我慢のできるオトナ
になれたのだろうか。

そのまま丸1日電源を入れっぱなしにして、No.32Lが試聴できる状態にまで
もっていきたいのだ。そうそう、ケーブルを繋いでいて思ったのだが、No.32L
付属のDCケーブルの貧弱さはなんとかならないのだろうか? 

ドミナスや他の極太ケーブルを見ていると、PADもNo.32L用のDCケーブル作って
くれればいいのに…、と思ってしまう。

まぁ、そんな余談はさておき、No.32Lが暖まるまでの間は、聴き慣れたNo.380SL
+RX-201Aの音をおさらいしつつ「明日はどのCDから比較を始めようか?」と思案
にあけくれていた。

大晦日。普通なら大掃除だ、年始の準備だといったことをしなければいけない
時期なのに、私はというと、オーディオラックの裏で格闘している。

狭いスペースのなかで固いケーブルをNo.380SLから差し替えるのはひと苦労な
のだ。見た目には大掃除をしているように見えつつも、やっていることは180度
違う明後日の方向。「音楽を聴きながら掃除する」というもっともらしいい
い訳をいいつつ、比較試聴開始です。

悩んだ末に選んだのは「ウイントン・マルサリスのスタンダード・タイム
VOL.3」このCDは機器を換えるたびに、マルサリスのトランペットの音が
コロコロ変わる不思議なCD。
聴き慣れた機器の状態からの違いを聞き分けるのにはピッタリな1枚。

最初はNo.380SL+RX-201A(100Hz)で、コンセントからRX-201Aまでのケーブルが
オーラルシンフォニクスのML-CUBED GEN2iで、RX-201AからNo.380SLまでが
AC DOMINUS Rev.B sig。「うん、聴き慣れた空気だ」左側でハーリン・ライリー
がリズムをとりながら、レジナルド・ヴィールのベースが、奥にありながらも
ブルンブルンと自己主張し、続けてウイントン・マルサリスが入ってくる。

RX-201Aが無いと、ヴィールのブルンブルン感が丸くなり、躍動感がなくなって
しまう。また、マルサリスの定位も滲んでしまい、RX-201A様々の空気が醸し出
されているのだ。

さて、No.32Lにケーブルをつなぎ換える。No.380SLのACケーブルは腹下に刺さる
L型タイプで外すのがめんどう。というわけで、No.32LにはRX-201Aから外した
オーラルシンフォニクスのML-CUBED GEN2iを繋ぎ、No.380SLと同じボリュームに
合わせて比較開始。

「ゲ! ホントに同じボリュームか?」

絶対におかしい。ボリュームの数値は同じなのに、明らかにNo.32Lは何もかもが
力強く、しかも音がズ太い。いや、ズ太いなんてもんじゃない。超極太だ。

ライリーのスティックに入る力。ヴィールが弾く弦の音。No.32LとNo.380SLでは
ゲインが違うのだろうか? No.32Lはゲイン調整できたはずだけど、川又さんに
確認するのを忘れていた…。そう考えてしまうくらいノーテンキに明るい。

この音を聴いて、以前、川又ルームでS800をゴールドムンドのミレニアムシリー
ズで聴いたときのことを思い出してしまった。MIMESIS22MEのボリュームは、確
か
に音量もあがるのだが、それ以上に楽器のパワーをどんどん入れていくような不
思議な聞こえ方のするボリュームだったのだ。

これと全く同じことが、No.32Lのボリュームにも起こる。ある一定の音量から
先は、ボリュームの数値以上に楽器の力があがっていくのだ。No.380SLは単純
に音量しかあがっていかないのに…これは違い過ぎる。

また、あのときはゴールドムンドの内に秘めた明るさを存分に堪能させてもら
ったが、今日のNo.32Lの明るさはそれ以上だ。川又さんが「No.32LとNo.33HLを
組み合わせたときの音は随筆に書いてあるとおりですよ」といっていたことが
よくわかる。

よかった。あのとき私は「レビンソン党を離党してゴールドムンド党に入党し
なければいけないのか…」と内心思っていたのだ。そんなことウチの小さな政
治的スケールで見ても、経済的にも出来ない。

今すぐにではないにせよ、No.32Lがあればゴールドムンド党に入党するのでは
なく、今まで共にしてきたレビンソン党にいても何の問題もなさそうなのだ。

好みの問題なのでゴールドムンド党の方には悪いのだが、いやー、実に嬉しい。
レビンソン万歳!

またしても話が逸れてしまったので元に戻そう。

ライリーとヴィールに続いて入ってきたマルサリスの3次元的なトランペット
の音。こんなマルサリスのトランペットは聴いたことがない。リスニングルーム
の中央で像が結ばれたと思ったら、そこからキラキラと輝く光を発しているかの
ような不思議な音。

もちろん、耳障りなキラキラではなく、初めて聴く魅力的な立体音。
川又さんはオーディオの音は解凍音楽だといっていた。料理に詳しいわけでは
ないが、冷凍した料理を解凍して冷凍前よりもおいしくなることはまずないと
私も思う。

オーディオから再生される音楽もそうなのかもしれない。ただ、このマルサリ
スのトランペットは生音ではないだろうけど、再生音楽としては聴いていて気
持ちの良い音だ、と私自身は評価してしまう。

舌(耳)が肥えていない証拠なのかもしれないが、私にとってNo.32Lを通して
出てくるこのトランペットの音は非常に魅力的なのだ。

イカーン。1曲目からイヤな予感でもあり嬉しい予感が的中してしまった。
「No.32Lが欲しい…」我ながら自分の物欲にあきれてしまう。

他の曲をいろいろと聴いてNo.380SL+RX-201Aのいいところを探そうとするも
のの、こうなるとまったく見つからない。そればかりか、縦横方向に定規でも
ひいたような定位感。重心が低く、No.380SL+RX-201のとき以上というブルン
ブルンのベースと低音の重さ(電源の周波数があがると、楽器の立ち上がりが
良くなるように感じられる)。

ナニを取っても、No.380SLとは格が違うのだ。価格的に倍以上する理由がやっと
わかったような気がする。

さぁ、今度ばかりはどうしよう…。

確かに試聴=幸せの増大ではあったものの、ローン残高増大でカタがつくよう
な相手じゃないぞ。少しはオトナになったついでに、我慢しながら仕事に励ん
で前向きにものごとを考えよう。

そうだ、プリを換えるだけでこれだけ音が良い方向に変わることがわかっただ
けでも、すごく大きな収穫じゃないか。いつかは…の日までの辛抱だ、っと心
に誓うしかない。寂しいけれど、No.32Lからケーブルを外し、梱包してまた
ダイナに持っていかなければ…。

短い期間ではあったけれど、非常に実りある発見が多かったNo.32LとNo.380SL
との比較試聴であった。



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