《HAL's Monitor Report》
No.0107 - 2002/5/3 柏市在住 阿部 仁 様より モニター対象製品:Ayre K-1x 現在の使用機器 スピーカー Thiel CS2.3BEM パワーアンプ Ayre V-1x CDプレーヤー Wadia 830 スピーカーケーブル Wireworld Eclipse3 電源ケーブル Wireworld Electra3 Reference Power Cord ラック SR Composites SRX-BX、SRX-1 「V-1xの正妻」 V-1xの試聴記(No.0043)に、「CDプレーヤーのデジタルボリュームで音量調整 を行うことにより当面を過ごそうと決意した」と書いたのはもう一年半前のこと になるが、まあ色々あって「当面」の期間はまだまだ解除されそうにない。 今の音をより自分の理想に近づけるための課題は、ステージを前後左右方向へ 拡張したいのと、実在感やスタビリティを向上させたいという二点。 音場感を拡大していきながら、ホログラフィックというよりもう少し実在感の ある音像を屹立させたい。プリアンプの追加で、この課題がどこまで解決でき るかというのが、今回のK-1x試聴の「音」に対する狙いである。 また、V-1xの正妻としていつかはK-1xをという想いは募るものの、実際にK-1x の音を聴かぬままに憧れ続けるのも、そろそろ限界。 ここで一度K-1xの素性を知り抜いて、再度確固たる意志の元に、購入計画を 達成できるような意志を確立しようというのが、今回の試聴の「生活改善」 に対する狙いであったりもする。 しかしながらK-1x、根拠もなく簡単にV-1xとベストマッチが図れると思って いた私は甘かった。 試聴CD 1枚目:Keith Jarrett/Still Live Keith好きには定番中の定番。少々古いが録音品質は秀逸。 まず最初に耳に飛び込んでくるのが、ステージの見通しと安定感の良さ。 V-1x直結でも自分にとって不足はないが、K-1xを介すと音場がより一層左右 方向に拡大される。 ステージの中央ではなく、中央より左右に離れたところで解像度や鮮度感、 奥行き感が向上し、その帰結として、左右方向に拡大された音場感が築き 上げられている。 遠近法の焦点を頂点とする三角形が台形になり、底辺も少し広がる感じだ。 また、今までより音像の隈取りがハッキリすることも影響してか、音場感 は広がるが音像は奥に引き込まれない。 けれども、この変化は私の中では賛否両論。 各楽器の前後定位が明確になるのは好印象だが、吸い込まれそうな音場の 奥に引き込まれる余韻、というV-1x独特の、また私にとって美味しい要素 でもある、一種の幻想感は薄らぐ方向となる。 けれどもこの盤は音場感の良さが際立つので、K-1xはいい方向に働いてい ると言える。 試聴CD 2枚目:木住野佳子/Tenderness V-1x試聴時にも利用したCD。音の透徹感が好ましい。 CDプレーヤーをV-1xに直結したときのピアノの余韻には、酔える。 一つ一つ鍵が成す音のそれぞれが、暗い暗い音場の奥に溶け込んでいく。 ちょっと偏執気味かもしれないが、この独特の雰囲気に酔っている自分に 気付く。 K-1xを通すと予想通り定位感がハッキリとしてくるが、この盤の持つ私が 好きな雰囲気は損なわれる気がする。音の純度が少々甘くなる。 また、ピアノの輪郭を強めるあたりが、V-1x独特の奥行き成分に被ってい るようにも感じる。 3曲目の電子ピアノには一種の粘りの様なものが感じられるようになるし、 ベースのスタビリティは明らかに向上するので、K-1x介在の効果はあるの だが、この盤について言えばK-1xを通さない方が好きな人もいるかもしれない。 この盤の持つ雰囲気、音そのものの純度という点では、V-1x直結の方がいい。 定位感はK-1xを介在させた方がいい。非常に微妙である。 試聴CD 3枚目:寺井尚子/All For You V-1xの試聴記では「寺井尚子は絶対にライブの方がいい」と書いたが、最近の 寺井尚子はCDもいいです。木住野佳子のライブは相変わらず駄目だけど。 K-1xの効果は躍動感に現れた。中央のバイオリンだけでなく、左のギター、 右のサックス共に自分の立ち位置を主張する。それぞれの楽器間の前後関係も キチッと示す。 その位置関係を保ちながら、個々の役者が躍動感を持って演奏する楽しさ、 ノリが伝わってくる。 こういう演奏が毎日聴けるようになれるのは、かなり嬉しいことだと思う。 キース・ジャレットのピアノにも感じたことだが、バイオリンの高域が直結時 よりも少し強調されている。この高域の癖は、V-1x直結の場合は気にならない ので、V-1xに刺し変えた付属電源ケーブルのせいではなく、K-1xの素性による ものだと思う。 この高域をどう自分好みに調理していくかが、もし私がK-1xを導入したとき の第一の課題となりそうだ。 試聴CD 4枚目:Jacintha/Autumn Leaves(XRCD) 5曲目のAutumn Leavesではミュートトランペットの定位感が向上しているの が判る。また、ここまでの盤では、K-1xを介在させると高域が強調される傾 向にあるのだが、ミュートはK-1xを介した方が聴きやすくなる。 このあたりから単に「高域が強調される」という言葉では片付けられなく なってくる。 V-1x直結時の、言葉を丁寧に重ねていくような緊張感は、K-1xを通すと自然 で優しい方向に寄る。緊張感を好むのであれば直結、優しさを求めるのであ ればK-1x介在と、ここでも微妙な判断を委ねてくる。 最後のHere's to Lifeに限っては、全面的にK-1xを通した方が断然いい。 この最後の曲のみボーナストラックとなっており、他の曲と比較すると録音 品質が落ちるのだが、K-1xを通すとそのことは全く気にならなくなる。 これはとても好ましい変化だ。 試聴CD 5枚目:Al Di Meola/Plays Piazzolla K-1xの効果が最もいい方向に働いてくた盤。1曲目の途中、2本のギターのみ になるところでは、その等身大の立ち姿、演奏者の表情が浮かんでくるほど のリアリティに圧倒される。 「リアリティに圧倒される」という言葉は、V-1x直結時には使えない言葉で ある。今回も30枚ほどのCDを乱聴してみたが、概ね上の感想で代弁できる内 容だった。 実は、今回は試聴の本気に至るまでにちょっとした「作業」があったので、 それもあわせてレポートする。 ノイズフロアと電源ケーブル K-1x到着後の音出し一発目は、正直言って幻滅してしまった。 無音時のノイズフロアが想像以上に大きい。スピーカーと自分との距離が 2.4m程度、音量も常識的な範囲までしか上げられないという環境にあっては、 そのノイズに気が取られて音楽に集中することが難しい。 この程度のノイズフロアであれば全く気にしない人もいるとは思うが、私に とっては許容出来ない範囲だ。もしK-1xの奏でる音にどれだけいい要素が あったとしても、このノイズフロアを低減出来なければ、私はK-1xを選択 出来ないとさえ思った。 このままでは試聴も続けられないので、試しにWireworldのElectra3をK-1x の電源ユニットに刺し、K-1xの電源ユニットを他の機器からできる限り離し て設置してみた。 すると、無音時のノイズフロアはCDプレーヤー直結の時とほぼ同レベルまで 落ち着き、音楽を聴くときには全く気にならないところまで来た。 ホンの思いつきレベルの対策ではあったが、V-1xと同様に、K-1xも電源系の 品質にはかなり敏感に反応することが判った。この敏感さはAyre製品に共通 する要素なのかもしれない。 電源ユニットと本体間の接続 K-1からxへのバージョンアップに伴い、電源ユニットとK-1x本体を接続する ケーブルが脱着可能になったのはいいが、電源ユニット側のDサブ9ピンの コネクタはどうにかならないものだろうか。 また、どれだけ締め上げても遊びが出る点が不安になる。ある意味「Ayre らしい」と言ってしまえばそれまでだが、ここはちょっと残念な部分。 このコネクタだったら直結の方がマシだと思う。 まとめ K-1xを通さないで、V-1xとCDプレーヤーを直結した方が自分にとっては 好ましく思える盤は、幻想的でスタティックな鳴り方に惚れている盤だった。 木住野佳子もJacinthaも、ノリではなくあくまでも一つ一つの音の持つ透徹 感に惚れていた。その様な盤の場合では、K-1xを介在させることにより、透 徹度が多少弱まることがある。これはK-1xの持つ音の素性、特に高域に現れ る強さが影響していると思う。 しかしながらK-1xは、ステージの前後左右方向への拡張、実在感やスタビリ ティの向上という達成課題を解決するという私の当面の目標を、ある程度達 成できるのも事実である。 今までV-1x直結で聴いてきた音場感が、K-1x介在でここまで拡大できるとい うことが判っただけでも、今回の試聴は豊作だった。 また、V-1xの透徹度をどれだけ殺さずにプリを活かすかという、考えてみれ ばとても基本的な課題を、K-1xの試聴を通して気付かされた点でも貴重な体 験だった。 最後に 今回のK-1xの試聴後、K-1やK-1xのレビュー記事を国内外含めて乱読したが、 2週間の自宅試聴は、どのレビューよりも私の経験値を増加させた。 自宅視聴は、店頭試聴の何倍もの知見を一聴で得ることができるし、購入後 の後悔という最悪のリスクを限りなく低くすることもできる。 けれども、機器を評価する上で自宅視聴がはベストな環境だと知ってはい るものの、通常は「できれば」という条件がつくものだ。 しかしながら、今回も川又様にお送りしたメールは数通。是非「これは」と 思う機器がある方は、川又様にご一報頂いては如何かと。 川又様、ステラボックスジャパン堀川様、V-1xに引き続き今回も本当に ありがとうございました。 さて、「音」に対する狙いは確認できた。 次は「生活改善」に対する狙いをどう実現していくかが明日からの課題である。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 阿部 仁 様 労作のレポートありがとうございました。 私は製品をひたすら賛美するようなレポートばかりを掲載しているわけでは ありません。一人の体験と教訓がハルズサークル会員の皆様にとってヒント になり、各々の課題が生まれては解決されていくという過程に貢献したいと 思っているものです。 一言川又 より |