《HAL's Monitor Report》


No.0074 - 2001/10/09

「マーク・レビンソン No383L試聴記」
奈良県橿原市在住 TO様


現有機器(試聴当時)
CD:    日本マランツ     CDR631(トランスポートとして使用)
PRE:   アキュフェーズ     DC300
POWER:  マッキントッシュ    MC275レプリカ
SPEAKER: アコースティック・ラボ ステラ・ハーモニー


ことし8月のことでした。今年一番の大仕事を片づけ、久しぶりにゆっくりと音楽を愉しもうとしたときでした。ステラ・ハーモニーとMC275の組み合わせに何となく違和感を感じはじめたのです。なにかのっぺりとして、「聴かせる」音が聞こえてこないのです。ボーカルはあまり気にならなかったのですが、オーケストラがひどく狭く聞こえるのです。
 スピーカーの足周りを固めたりしてみましたが、あまり改善の方向には進みませんでした。知り合いに相談したところ「JBLのような大味なスピーカーじゃなければ、潜在力を生かし切れないのではないか」といわれ、スピーカーの買い換えを考えていました。大阪のオーディオ店を回ってさまざまなスピーカーを聴きました。JBLのスピーカーも聴きました。ですがマッキントッシュのアンプでならすJBLの音は今ひとつ趣味とは違っていたのです。
 9月になり、東京を訪れる機会に恵まれたので「5555」にお伺いしてみました。5Fで様々なスピーカーを聴かせていただいているうち、店員の方から「どんなスピーカを使っているのか」と質問を受け、お答えすると「とてもよいスピーカーだ」といわれました。そのとき、学生時代に初めて「ボレロ」の音に出会ったときのことを思い出しました。「朝の冴えきった雰囲気を醸し出す」とよく賞されるような澄んだ高音に惹かれて、このスピーカーを買ったことを忘れていました。そこで7Fにお伺いして、川又店長に相談させていただいたのです。

 店長のご厚意ですぐに「No383L」をお借りすることができました。届いた日は夕方からの勤務でしたので、早速383を取り出して1時間ほど試聴しました。CDR631は業務用のCD−Rレコーダーですので、このDACは使わず、DC300をDAC代わりにして出力を固定し、383に入力しました。かけたCDは「アルバン・ベルク四重奏団/モーツァルト・協奏曲集」(EMI)。曲は静かで雅やかなものですが、聴いている本人は大きな衝撃を受けました。弦の一つ一つの音がものすごい説得力を持って訴えかけてくるのです。まるで一つ一つの音符が分解されて耳に入ってくるかのように、録音されている音楽を余すところなく表現していく、という印象を受けました。聞き惚れてしまって時を忘れ、昼食の時間を失ってしまいました。

 宿直勤務を終えて楽しみに帰ってきた私が、最初に聴いたのはいつもリファレンスにしている「アンネ・ゾフィー・フォン・オッター/グリーグ歌曲集」です。最初の印象と変わらぬ383のすばらしさがこのCDの演奏からも感じられました。オッターの透明度の高い歌声がまるで部屋を包み込むように響いていきます。歌詞の一つ一つがまるで切り離されて、耳に入ってくるような独特の印象。これまでに自分の家では聞こえなかったような音です。そしてこのCDの最大の魅力は音が小さいとき(とくにピアノの伴奏しか聞こえない、前後奏)に醸し出される不思議な静寂感なのですが、この静寂感を見事に表現してくれました。沈むように響くピアノの音、そのわずかな強弱も確実に伝えてくるのです。

 次にかけたのはこれまたリファレンスにしている「カール・ベーム/ワーグナー さまよえるオランダ人」の序曲です。この録音はバイロイト音楽祭の時のライブ音源で、モーツァルトの名手として「堅く、確実に」聴かせるベームの演奏とはひと味違った「火を噴くような」演奏なのですが、MC275の時はその迫力がぼやけて聞こえていたのです。ところがこのアンプは期待していた迫力感とともに、ワーグナーらしい「広がりのある」音を聞かせてくれたのです。バイロイトのピットから劇場全体に響くがごとく、音が広がっていくのに、一つ一つの楽器の音は漏れることなく聞こえてくる、というものでした。

 残念ながら、試聴はここで終わってしまいました。3枚目をかけようとした途端、会社から急な仕事で呼び出され早朝出勤・深夜帰宅を繰り返す羽目になってしまって結局あまり試聴する時間がとれないまま期限を迎えたのでした。
 短い間でしたが、383Lの音を噛みしめることができました。MC275から比べれば、確実に1つ1つの音を鳴らし、CDに記録されている音の大小・高低をあますところなく表現するという印象を受けましたが、その反面この三年間にわたって真空管をメインにしてきた私には、機械的な音のような印象を感じさせるところもありました。ボレロ系列の「冴えるような高音」にも「もう少し」という欲を感じさせるところもありましたが、クラシックばかりを聴く私には適した機械ではないかと感じているのです。


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