No.0034 - 2000/10/16
東京都練馬区 yossys 様
モニター対象製品:Marantz SA-1
川又さんの好意によりマランツのSA-1を3週間自宅にて試聴することができた。
システムは以下の通りである。
Loudspeaker : PMC FB-1W
Poweramplifier : Luxman M-7i
Preamplifier : Luxman C-7i
Interconnect Cable : Acrotec 6N-A2030(Balance)/同6N-A2040(Unbalance)
Speaker Cable : Acrotec 6N-S1000(Bi-wirering)
Rack : Hamilex GS-611 / GS-601
ぼくのリスニングルームは8畳フローリング。隣室と繋ぎで使っているので、実際のエアボリュームは倍以上。おかげで低音も溜まることなく良く抜けてくれて助かっている。また、音量制限もない。ぼくは、クラシック/ポップス/ジャズと何でも聴く方である。それぞれのソースに合った適切な音量で聴いているつもりだ。必要とあらば、アンプのメーターが振り切れるまで遠慮なく出している。
アンプやスピーカーは上記の通りで、高級機ではないが、いつでもステキな音楽を聴かせてくれる愛聴機たちである。
さて、Marantz SA-1、なかなか立派なデザインである。ヘアライン仕上げのフロントパネルは非常に華やか、センターの表示窓は厚みのあるガラス製。ラックに入れてもやっぱり華やか。トレイにはSuper Audio CDの文字が金色に光っている。これが光を反射して、うまい具合にボディへ金色の影をつくる。心憎いデザインだなぁと思う。
まずは接続だが、バランスアウトとアンバランスアウトの両方を、プリアンプへと接続。SA-1の出力は、どちらも独立回路なので問題はない。適宜プリアンプで切り替えつつ、音質傾向の違いを探ることにした。
早速、ディスクを入れてみる。プラスチック製のトレイは音を立てて「ウィ〜〜ン」と開閉する。なんだか、高級感がない動作音が気になる。慣れの問題かと思ったが、やはり最後までこの動作音の安っぽい響きが気になった。トレイもなんだか頼りなく、ディスクをホールドする窪みも浅いので、ディスクをきちんとホールドする感じは皆無。不安な感じすらした。
SACDディスクではなく従来のCDディスクから試聴を開始。「CD」の赤いLEDが点灯し、再生がはじまった。豊かな中低域をベースとした安定型のバランスで、まろやかな音調と豊かな響き。ハイファイ感を誇示する要素は全くなく、暖かく深く演奏空間を提示する。SA-1で音楽を聴くと、音楽が華やぐ感じがする。なにやら外観と一致する印象なのである。クラシックではとても良く響き、リバーブ成分も美しく減衰する。ポップスやジャズのリズムはパシッ!と決まるタイプではなく、ちょっとノリが重い。"エモーショナル" とか "アグレッシブ" という感じはしない。物足りない感じをうける場面もあるが、これは長時間聴いていても疲れが少ないという利点にもがる。
次は、お待ちかねのSACD。SACDディスクは、見た目には普通のCDと何も変わらない。ローディングするとパネルに「SACD」のLEDが赤く光りを放つ。DSD方式で録音されたディスクから再生される音は、一聴して実に生々しい。これは音の出方の問題。SA-1の真価は、やはりSACD再生時に聴いて取れると思った。CD再生時の比ではないその音と表現力の高さに、感動を持って聞き惚れた。
よく、ディスクの音がマスターテープの音に近いかどうかが問題になっているが、SACDでは感じがちょっと違う。マイクからミキシングコンソールを経て直接モニタリングしている音、即ち録音現場のモニタスルーの音に近い印象。モニタスルーは、一度テープに収録されたものとは比較にならないほどのエネルギーと情報量を持っている。その音は、かなり生々しいものなのだが、SACDはそんな音を彷彿とさせた。ただし、これは一からDSD録音されたものに限る。ハーフインチのアナログマスターからSACD化されたものは、確かにアナログマスターの特徴を出している。このことからも、忠実度が従来のCDよりも増していることが想像できた。
試聴ディスクには、ハイブリッド版が含まれていた。これは一枚のディスクにCD層とSACD層が複合されているものである。PCMとDSDの双方を切り替えて、そのフォーマット間の比較するのによい材料になる。SACD層はCD層にくらべて、音の張り出しが深く、実体感がある。どう聴いてもSACDに分があった(そう作っているのかも知れないが)。
さて、接続だが、今回はアンバランス接続を良しとした。バランス接続に比べて空間が澄んでおり、楽器音に艶がある。サウンドステージも広く感じる。バランス接続の方が落ち着いた印象だが、少しリズムが重い。まぁ、これはほとんど好みの問題。
川又さんからは、試聴用としてSACDディスクを10数枚お借りしたのだが、この中から特に気に入った二枚について書いておく。
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●APPALACHIAN JOURNE <SONY Classical / SRGR730>
YO-YO MA/EDOGAR MAYER/MARK O'CONNOR
このディスクでは、最高に楽しい時間を過ごせた。アメリカのカントリーミュージックも、こんな風に料理されればクラシックファンが存分に楽しめる音楽になるという一例。
O'connorのヴァイオリン、Maのチェロ、Mayerのベース(コンバス)の織りなす見事なハーモニーは、確実なテクニックと音楽性に裏打ちされたアート。それが、DSD録音によって生々しく、そして上品に我が家に届けられた。極めて優れた録音と、極めて優れた演奏が一体になった、非常に価値のあるディスクである。これを聴いて、「従来のCDでは得られない音楽体験ができた!」と思った。
ゲストとしてジェームス・テイラーがギター&ボーカルで、そしてアリソン・クラウスがボーカルで参加している。ポップス系ソースのボーカル録音というと、妙にハイファイ感やクォリティ感を意識させるディスクがあるが、SA-1で聴くこのディスクは違う。ナチュラルだし、クリアーなのに暖かい。「音楽」よりも先に「音」を意識させるなんていう妙なことのないセンスの良さを聴いた。
ホント、絶品。SACDならではの世界が楽しめた。
●echo <SME Records/ SRGS4526>
Paul Blay with 富樫雅彦
圧倒的な緊張感。スリリングな2人の関係が永遠と続く。
これはピアノとパーカッションによるインプロヴィゼーションの記録である。相手の出方をうかがいつつ、互いの音を尊重しあい、瞬時に一つの音楽を創りあげていくという経緯が刻々とディスクに刻まれている。
ジャズとしても聴けるし、現代音楽としても聴ける、オリジナルな世界がここに広がっている。
ぼくには、体験したことのない音楽だったが、たった一度で、この浸透力あるサウンドの虜にされてしまった。
DSD録音は、会場の空気感を余すところなく捉えており、これもまた「従来のCDでは得られない音楽体験ができた!」と思った一枚。このディスクこそ、上記の「録音現場のモニタスルーの音みたい」な印象なのである。
パーカッションの余韻が消える様子を聴いていると、まるで演奏会場にいるような気分になる。しかし、これは本物を越えるリアリティ。まさにこれがオーディオの快感。
このピアノの音は、SACDじゃないと聴けない。相当なクォリティのピアノ録音である。ちなみに、使用されているピアノはベーゼンドルファーのインペリアル。通常のピアノより、オクターヴ分だけ低い鍵盤と弦があり、低域の共鳴が増す。このディスクで聴ける音に一役買っていることは間違いない。
聴いていると、フッと別世界へ誘われる作品。
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最後に。
従来型CDを再生したとき、SA-1の音はキレが甘い部分があるのが気になった。ジャズやポップスのリズムが重くなることがある。安定/落ち着き/リラックス、そんな中に華やかさを合わせ持っているが、ぼくとしては「昔から聴いてきたディスクを、新しいCDプレーヤーでより一層楽しむ」という目的にSA-1を選ぶのはちと不満も残る。
対して、SACDプレーヤとして聴いたSA-1、実に素晴らしかった。DSDという新しい記録方式の可能性を感じるとともに、SA-1の実力も思い知った。これは決してぼくだけの感想ではない。3週間の間、毎日聴き続けたぼくの父親、そしてSACDを目的に我が家を訪れた客達が、みなこれまでのCDと違う世界を感じて帰っていったのである。
それにしても、DSDとSACDという新規格、この価格にしてこのパフォーマンスを出せるとは、本当にすごいものである。今まで数百万円のCDプレーヤーでしか聴くことのできないだろう世界を、ミドルクラスで実現してしまったように感じる。これから、ハイエンドのSACDプレーヤーがどんどん出現すると、それは果たしてどんな世界なのだろうと想像が膨らむばかりである。
最後の最後になったが、川又さん、こんな機会を与えてくれてありがとう!
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