No.0015 - 2000/08/13
川崎市在住 会社員(40歳)Briareos 様
モニター対象製品 BOW Technology ZZ-One
僕は基本的に小さくて高性能なものが好きだ。好きだと言うよりは、無性に惹かれ
てしまうという方が正しいかもしれない。
例えば、カメラの場合だと、NikonF4とコンタックスのT2を持っているのだが、気
に入っているのはT2の方で、ちょっと遠出をするときなんかは必ず持って出かける。
もちろんF4もいいのだけれど、小さなチタンボディにカール・ツァイスのf2.8/38mm
Sonnarレンズを搭載、露出優先AE撮影、オートフォーカスのフルオート感覚で撮れる
かと思えば、絞りと距離をマニュアルで合わせて本格的に撮ることもできたりするT2
の方がやっぱり好きだ。
オーディオに関してもやっぱり小さいモノに惹かれるようだ。スピーカーだったら
小型2wayが好きだし、アンプはプリメインの薄型、CDPも基本的には薄型が好みだ。
今年の1月まで使っていたスピーカーはボレロ・ピッコロだったし、アンプはAURAの
VA-100EVだった。残念ながら、どちらもちょっと不満が出てきて買い換えてしまった
のだけれども、今でも好きな製品であることには変わりない。
というわけで、今回、モニターできることになったBOW Technology
ZZ-Oneは、その外観、佇まいからして前から気になっていたモデルである。薄型で、
かつ美しくデザインされた(まさにデザインと呼ぶにふさわしい)シャシーに無帰還
シングル・プッシュプル、デュアル・モノコンストラクション、必要最小限のスイッ
チ類という極めてシンプルな構成は、音以前に、モノとしての存在自体に強く惹かれ
てしまう。今使用している国産プリメインアンプに比べると、そのコンセプトや設計
思想において、全く正反対の存在である。「やっぱり、ヨーロッパ文化だよな」とか
思ったりするわけである。
さてさて、前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。
初めに断っておかなければならないのは、僕はオーディオ歴は25年と長いけれど
も、本当の意味でオーディオの奥深さがわかってきたのはつい最近、正確には、今の
システムに買い換えたとき(去年の12月〜今年の1月)であるという点である。今
にして思えば、それまでの24年間は、いったい何を聴いていたのだろうと情けなく
なってしまう。1枚のCDの中にこんなに情報が入っているとは思いもしなかった。も
ちろん、今使用しているシステムは、決してハイエンドではないし、きっとハイエン
ドのシステムだったらもっと凄いのだろうなぁと思うけれども、それでも、ちょっと
したカルチャーショックだったのである。その意味では、僕は未だにオーディオの初
心者のような気がするし、実際、比較しなければ音の違いがわからないと言うレベル
だから、やっぱり初心者なんだと思う。それに、残念ながら、音を語るための言葉の
持ち合わせも少ない。だから、オーディオ雑誌の視聴レポートのようには書けない
し、もしかすると試聴評価自体も的はずれかもしれない。そんな不安はあるけれども、自
分なりの視点で、ZZ-Oneの視聴レポートを書いてみたいと思う。
まず最初に、今のシステムについてふれておこう。
プリメインアンプ :Luxman L507-s II
CDP :Teac VRDS-25x(トランスポート部のみ)
DAC :Alchemist TS-D1(Turtle)
SP :SonusFaber ElectaAmator II
デジタルケーブル :WireWorld SilverStarlight II
インターコネクトRCA :WireWorld Eclips II
SPケーブル :MIT T2s Biwire
CDP-ACケーブル :WireWorld Electra Reference Power
アンプACケーブル :Harmonix X-DC10
その他 :千曲 CPS-22MKII-CL, P.A.D. CRYO-L2
:Acoustic Reviveスーパーアースリンク 等
「小さくて高性能で美しいモノが好き」と言っている割にはアンプもCDPも大きい
じゃないか、という声が聞こえてきそうだけど、全くその通りで、今の機種に決して
満足しているわけではない。これらはCPを考慮したつなぎの機種だと思っている
(欲しいと思った機種は高すぎて手が出なかった...)。でも、音の傾向とかは比
較的気に入っている。この音で、シャシーがもっと小さければもっと満足度は高いん
だけどね。
一方、アマトール2はというと、これは昔から憧れていたスピーカーで(その当時
はアマトール2ではなくてアマトールだったのだけれども)、もう、好きというレベ
ルを超え、愛していると言っても言い過ぎじゃないと思うくらい。たぶん、別のス
ピー
カーを追加で買うことはあっても決して手放すことはないと思う。僕のシステムにお
ける王女様ですね。この王女様に、いかにして機嫌良く歌ってもらえるようにするか、
というのがアンプとかCDPとかアクセサリー類の役目。ZZ-Oneは、そのルックス、佇
まいからして王女様の婿殿候補として十分な資格を有しているアンプのように思う。
では、実力の程、拝見しよう。
3週間の試聴期間の間に聴いたディスクは約20枚くらい。その中から、ZZ-Oneの
特徴が印象的に現れていると感じたディスクを中心に触れてみたい。
・ Keith Jarrett Trio / Standards Live (ECM)
このディスクはScott LaFaro を擁したBill
Evansトリオの4枚のRiverside版と並んで、僕が最も好きなJAZZのアルバムであると
同時に、オーディオの深みにはまるきっかけともなったアルバム。KiethのピアノとJack
DeJohnetteのドラムスのシンバルの音の余韻が、細かい粒子となって空間に漂って、
すごく独特な、クールな臨場感を醸し出しているんだけれど、そのクールさと対照的
に、徐々に熱くなっていく3人のプレイがとても印象的なアルバムだ。
まず2曲目のThe Wrong Bluesを聴く。空間の奥行きがいつもよりも深く感じられる。ピアノとシンバルの余
韻の長さは507s2とそれ程変わらない。音色はというと、シンバルの金属っぽさは507
s2の方がわずかながら勝っているように思うけど、ピアノの音はZZ-Oneの方が生っぽ
いような感じ。さらに聴き進む。あーっ、なるほど。ベースの音の存在感が増してい
る。ドラムの音もそうだ。要するに一つ一つの音の勢いというか、力強さというか、
エネルギーが強い感じ。それが生っぽく感じる理由かな。次は4曲目のToo Young To Go
Steadyを聴く。やっぱり同じような印象だ。家は賃貸マンションなのであんまり大き
な音を出せないんだけれど、小音量でも低音がしっかりと聞こえる。ウーハーの動き
方が507s2とは全然違うようだ。それがはっきりとわかったのは曲の終わりの方にあ
るドラムスのソロの部分。スネアの音が全然違う。ズシッと重い感じを伴って響いて
くる。アンプの出力だけでみるなら507s2の方が大きいのだけれど、パワー感はZZ-On
eの方がむしろ強い感じだ。うーん、なかなかやるなぁ。
・ 寺神戸亮 / J.S.バッハ : 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
ある意味でZZ-Oneに最も期待していたのが、弦の音色だ。果たしてどんな音を聴か
せてくれるのか。このアルバムは最近買ったものだけど、とてもお気に入りの1枚で
ある。1曲目のソナタ第1番ト短調を通して聴く。
何か、いつも聴いている音色と違う感じ。言葉にするのが難しいけど、影のあると
いうか、艶めかしいというか、娼婦のようなというか、そんな印象を受ける。ZZ-One
の表現力に、僕自身の表現力がついていかない。507s2の音と全然違うという訳では
ないのだが、何か微妙に違う感じに聞こえる。これが正しい音なのかどうかはわから
ないけど、いずれにせよ、魅力的というか、気になる音だ。いつまでも浸っていたく
なる。
・ Yo-Yo Ma / Haydon & Boccherini : Cello Concertos
トラック7〜9のBoccheriniのチェロ協奏曲変ロ長調。実はこの曲に限ったことで
はなくて、オーケストレーション全般に感じたことなのだが、音(楽器)の前後のレ
イヤーが507s2よりも明確に聞き分けられる。左右方向の音のセパレーションは同じ
くらい。もう一つ感じたのは、一番低い部分の低音がしっかりとしているというか、
締まっていること。ZZ-Oneと比べると507s2の低音はヴワッとしたふくらんだ音のよ
うに聞こえてしまう。
結論。
ZZ-Oneの実力恐るべし。音に関しては明らかに507s2よりもアマトール王女にふさ
わしいと言えよう。デザインも素晴らしい。当然これは買いだろうと思った。3週間
の試聴期間の2週間までは、何とかお金を作って買うつもりでいた。でも最後の1週
間で、気が変わった。最終的に今回は見送ることにした。
理由は2つある。1つは、欲が出てきたこと。もっといろいろな音を聴いてみたく
なった。確かにプリメインを前提にするなら、現状では最もよい選択かもしれない。
でも、それで満足できるかどうか自信がなくなってきた。僕自身の性格からすれば、
きっと、もっと上を目指したくなるだろう。だとすると選択肢は極めて限られてしま
い面白くない。でもプリメインにこだわらないなら選択肢はまだまだあるじゃないか
と思った。507s2はプリとメインが分けられることだし、段階的にステップアップは
できる。
それともう1つは、リモコンがないこと。全然本質的ではない理由だけれど、隣近
所に迷惑にならない範囲でできる限り大きな音を出そうと思うと、曲によってボリュー
ムを調整することが不可欠なのです。そうした場合、リモコンが無いというのは非常
に不便であるということがはっきりと認識できた。最初は我慢できたんだけど、試聴
期間の最後の方では、一々席を立ってボリューム調節をするのがかなり面倒に思えて
きた。
という訳で、魅力的なモニター価格の提示があったにもかかわらず、今回は見送る
ことに決めた。でも、将来、余裕ができて、2セット目のシステムを組むことができ
るようになったら、ZZ-Oneを手に入れたいとも思った。憧れだったアマトールも結局
は手に入れたんだから、いつかは実現するだろう。メインシステムのスピーカーはア
マティで、サブはアマトール2をZZ-Oneで鳴らそう...なんてね。
以上、多分に冗長な文章となってしまいましたが、ZZ-Oneの試聴レポートでした。
ここまでおつき合いいただいた方、どうもありがとうございます。
また、最後になりましたが、このような機会を与えていただいた川又氏にも心から
感謝の意を表したいと思います。自宅のシステムにつないで3週間も試聴できるとい
うのは、実に素晴らしいことだと思いました。この企画が、今後ますます発展し、永
続することを願ってやみません。本当にありがとうございました。
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