《HAL's Monitor Report》


No.0010 - 2000/07/28

つくば市在住 I 様

 モニター対象製品 MARKLEVINSON No.383L / SONY SCD-1

 この度、ダイナミックオーディオ/サウンドパークダイナ店・川又店長の企画によるハルズ・モニターにおいて、マークレヴィンソンのインテグレーテッド・アンプ No.383L及びソニーのSACDプレーヤ SCD−1の2機種を、自宅で試聴する機会に恵まれた。以下にその試聴レポートを記す。

I 我が家にマークレヴィンソンがやってきた

 6月20日、我が家にマークレヴィンソンのインテグレーテッド・アンプ No.383Lが届いた。夜仕事から帰ると、玄関に"marklevinson"のロゴが入ったダンボール箱が置いてあった。40kg近い重量があるため、どうやら家内もそのままにせざるを得なかったようだ。 私がこの機種をモニタ希望したのは他でもない。マークレヴィンソンという名前に対する憧れである。それはオーディオを志向する者にとっては永遠のブランドである。但し、これまではどちらかというと手の届かない、遠い彼方の存在であった。そのマークレヴィンソンが昨年、初のインテグレーテッド・アンプを発表した。
 勿論、だからといって一気に身近な存在になったわけではない。定価は98万円。まだまだ、私のような低所得に喘ぐサラリーマンにとっては遠い存在に変わりはない。ただ、「インテグレーテッド・アンプ」というコンセプトから、このハイエンド・オーディオ・メーカも一般コンシューマを意識し始めたことが窺える。
 という訳で、あのマークレヴィンソンが一体どんなインテグレーテッド・アンプを世に送り出したのか、そこに興味が湧いてモニタを希望した次第である。そこには「過去に多くの名声を勝ち得たセパレート・アンプのテクノロジーが、可能な限りその中に凝縮されているであろう」という期待が込められていた。

 ここで我が家のシステム及びリスニング環境について、簡単に触れておきたいと思う。音楽再生のメインになるコンポーネントは全てヤマハ製、しかもアンプは所謂AVアンプである。AVアンプというとピュア・オーディオを志向されている方々は顔を顰めるかもしれないが、私の場合クラシック音楽、特にオペラも好きなジャンルの一つなのでこのような選択になった。というわけでCD再生時のシステム構成は以下の通り。

 ・アンプ       : ヤマハ AVX−2200DSP
 ・スピーカ      : ヤマハ NS−500YST
 ・CDプレーヤ    : ヤマハ CDX−1200

 まあ、いずれもかなり旧世代のものではある。それからリスニング環境であるが、現在の住居は一昨年中古で購入した戸建ての住宅である。オーディオ・システムが設置してあるのは畳10畳分ほどのリビングで、ダイニングや和室が隣接しているが壁や襖は取り除いてあり、結構開放的な空間である。またサッシのガラスが一層であり、これについては断熱性や遮音性のことを考えて、ゆくゆくはペアガラスにしたいと考えている。 私の住むつくば市は、都市と田舎が混在した不思議な街である。市の中心部に比較的近いにも拘わらず、自宅の周りは田畑に取り囲まれた長閑な環境で、この時期になると始まる蛙や虫の大合唱が唯一の騒音源といえる。田舎育ちの私には蛙や虫の声は寧ろ心地よいサウンドであるが、音楽を聴く際にはそれらが無視できないレベルのバックグラウンド・ノイズとなる。
 以上のように、専用のオーディオ・ルームもなく、リスニング環境は理想的コンディションとはいい難いが、現在の私はそのような環境でそれなりに音楽を楽しんでいる、といったところである。

 このような処に突然マークレヴィンソンが現れた。まるで片田舎のあばら屋に、世界的な有名人が遊びにやって来たようなものである。仕事疲れも何のその、セッティングは届いた当日、家内と息子の寝静まった深夜に私一人で決行した。さすがに40kg近い重量物を一人で持ち運ぶのは少々堪えたが、これもまた道楽の内なので致し方ない。 ところで我が家のオーディオ・システムは息子の侵入防止のため、ガーデニング用のラティス(柵)が張り巡らしてあるが、この大事なVIPも勿論その中に持ち込まれた。そしてCDプレーヤのライン出力を、No.383Lのアンバランス入力に接続し、スピーカ・ケーブルも接続しようとした。そこではたと気が付いたのだが、No.383LのSP端子にはバナナ・プラグ用のジャックがないのである。
 現状のシステムではアンプ〜スピーカ間を、バナナ・プラグの付いたケーブルで接続していたため、それが使えずやや面食らった私は「ははあ、ハイエンドを志す人たちはスピーカ・ケーブルの接続一つをとっても、恐らく妥協を許さないのだろう」と、妙な処で感心し、余っているケーブルを探しに行った。

 そんなちょっとしたハプニングの末、ようやくの電源投入である。これまたNo.383Lには2段階の電源スイッチが装備されている。フロント・パネル左端のメイン・スイッチを入れても、ブーンという音がするが、見た目は何の変化も生じない。右端のスタンバイ・スイッチONでようやく中央のディスプレイに、あの赤い文字が表示される。「おお、電源スイッチにも拘っている」とまた、ここでも感心。
 スタンバイ・スイッチ以降は、付属のリモコンで操作可能である。次にセレクタでCD入力に合わせた。ここでも感心したのは、セレクタを変更するたびにボリュームがOFFにリセットされる点である。先ず最初のCDとして、私お気に入りのリンダ・ロンシュタットのアルバム「ラッシュ・ライフ」をプレーヤにセットしスタートさせた後、リモコンで徐々にボリュームを上げていった。このボリュームもまた、0.1dBステップで設定可能という極めて高精度なものである。

 そしてスピーカから出てきた音を聴いた第一印象は、意外にも「ちょっと高域寄りの音かな」というものであった。それもそのはずである。通常私はアンプのバス・エクステンションをONにして聴いている。これもオーディオの常道から逸脱した行為かも知れないが、特にフルオーケストラなどではどうしても低域の量感を求めてしまうのである。恐らく専用ルームにおいてフルボリュームで聴くことができれば、こんな姑息なことはしなくても済むのであろうが、一般家庭で上げられる範囲などというのはたかが知れている。
 ところがNo.383Lにはそんな小細工を弄するためのスイッチ類が一切ない。あくまでもシンプル&ストレートが基本なのであろう。だから、バス・エクステンションの音に慣れていた私の耳にNo.383Lの音が若干高域寄りに聞こえただけであって、恐らくそれが本物のフラット・バランスなのであろうと思う。
 そのような様々な事情により、No.383Lの実力を十分に発揮できないままの試聴ではあったが、確かにその片鱗を垣間見ることはできたと思う。デュアル・モノーラル構成回路という先入観からかも知れないが、チャンネル・セパレーションが素晴らしく、その結果としてヴォーカルなどの音像定位がクールに決まっているという感じを受けた。カメラでいうならば、フォーカスがビシッと合っているといったところか。とにかく、あの耳慣れたリンダのヴォーカルとバックの暖かいオーケストラの音とが心地よく分離されて聞こえてくる。
 私の好きな音楽はかなり多岐にわたっているが、その他にトレヴァー・ピノックによるコレルリの合奏協奏曲を聴いてみた。イタリアン・バロックの爽やかな雰囲気がどのように聞こえてくるかが楽しみであった。確かにこれまでと比較して各パートの分離が一層際立っており、軽やかさも増していた。もっともこのような最新高級アンプと旧世代AVアンプとの比較自体少々ナンセンスではあるが。

 No.383Lにはまた、「ユーザーインタフェース」と呼ばれる操作性向上のための機能が備わっているが、どうやら音質には無関係らしいので、そちらの方には殆どノータッチであった。オーディオ技術の進歩には大きく2種類のものがある。1つにはこのような利便性や携帯性追求のための進歩であり、もう1つは真に音質向上のための進化である。前者には他にもMDとか最近流行のMP3なども含まれると思うが、私はそうした方面には殆ど興味がない。携帯電話にも拒絶反応を示すような旧人類である。
 ともかく、No.383Lの実力の一端を感じ取ることはできたものの、如何せん音の出口と入口がアンプに対しあまりにも役不足である。そこを何とかできないものかと考えたところ、ハルズ・モニター・リストの中に最新のスピーカやCDプレーヤもあるではないか。中でも私の目を惹いたのが、ソニーのSACDプレーヤであった。SACDといえば、昨年よりスタートした次世代CDと呼ばれる新しいメディアであり、そのスペックは従来のCDを遙かに凌駕している。また、それはCDとの上位互換性があるため、最新のCDプレーヤとしても機能する。
 このSACDプレーヤをNo.383Lで聴いてみたい、との想いが私の脳裏を掠めた。一度に2機種もお借りするのは厚かましいという気もしたが、そんな想いを振り切って川又店長にメールしたところ、店長は快諾して下さった。

II そしてSCD−1が

 6月29日、マークレヴィンソンに続いてソニーのSCD−1が我が家に届いた。やはりこれも30kg近い重量があるため、1人でのハンドリング及びセッティングには苦労したが、さすがにソニーが満を持して世に送り出した第1号機だけのことはある。堂々たる風格を備えている。ただ、この種の高級プレーヤに多いトップローディング方式、音質向上のための方策だろうが、個人的にはセッティング上の制約を伴うと思われる。というのもアナログ・プレーヤと同様、置き場所がかなり限定されるからだ。恐らく、真にいい音を聴こうという人々はそんな些細なことはあまり気にしないのかも知れないが。
 私はSCD−1のアナログ出力をNo.383Lのアンバランス入力に接続した。我が家のCDプレーヤと比較できるように、別の入力チャンネルを選んだ。ここで、SCD−1にはバランス出力端子を装備していることも付け加えておくが、生憎と我が家にはバランス伝送ケーブルがないため、通常のアンバランス接続で試聴した。

 川又店長には私がSACDソフトを持っていないことまで気遣っていただき、数枚のデモソフトを同封して下さった。クラシックとジャズを中心に様々なサンプル曲が入っていたが、その中には私がCDで持っているケイコ・リーのアルバム「ビューティフル・ラブ」からの曲もあった。そこで先ず、このデモソフトから聴いてみることにした。
 電源スイッチをONにし、パネルオープン・スイッチを押すと、ローディングパネルが緩やかにスライドする。ディスクはまた、ゴールドのスタビライザで固定するという念の入れようである。ディスクのセット終了後、再度パネルオープン・スイッチを押すとローディングパネルが徐に閉まり、ディスクの認識を開始する。この間数秒を要する。
 ケイコ・リーのアルバムはシンプルな編成のジャズ・ヴォーカルで、CDでも高音質ということでかなり話題になったものであるが、これをSACDで聴くと更に静寂感が際立つようである。CDプレーヤとSACDプレーヤとで同じ曲をほぼ同時にスタートし、アンプのリモコンでセレクタを切り替えるという実験により、このことは更に明瞭なものとなった。

 SACDのf特性は100kHz以上、ダイナミック・レンジは120dB以上といわれる。もちろんそれを実感するためには他の再生系にも同様のスペックが求められるであろう。ただし、我が家のような旧世代のスピーカでもある程度はその違いを感じ取ることができる。音のレンジが両軸方向で拡大されたことにより、聴感上の密度感とかコントラストが向上したためであろうか。
 デモソフトには、その他にもワルターやグールドなどの旧い録音のものも入っていたが、それらがまるで最新録音のようなリアルなサウンドで見事に蘇っていたことも印象的であった。 SACDというのは、些か逆説的かも知れないが、デジタルでありながらよりアナログに近づくためのテクノロジーといえるのかもしれない。従来のCDでは不可能であった音の微細構造の記録が可能となったことで、楽音以外の情報(例えばオーケストラのライブ録音ならば楽器や奏者の出すノイズ、聴衆の咳払い、ホールの残響成分など)も見事に再現してしまうため、そこから「空気感」という表現も生まれて来るのであろう。もちろん、そのような臨場感を充分味わうためにはNo.383Lのところでも触れたように、いくらSACDといえどもある程度の音量を要すると思う。
 同封のソフトの中には、その他さだまさし及び森山良子のSACDによるアルバムも入っていたが、いずれもヴォーカルやアコースティック・ギターが非常にリアルであるという印象を受けた。

 最後になりますが、このようなモニタを企画していただいたサウンドパークダイナの川又店長に改めて感謝致します。そして当企画が今後更に継続されていくことを願いつつ、この冗長な試聴レポートを締めたいと思います。


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