Kiso Acoustic HB-1 Hearing Report-番外編


No.0555 - 2010/3/27

ドイツのオーディオ専門誌より

Vol.24「有益な振動!!」
 
■川又よりご挨拶
 
http://www.stereoplay.de/
 
ドイツのオーディオ専門誌「stereoplay」(3/2010) に掲載されたKiso Acoustic
HB-1の紹介記事を和訳したものをハルズサークルの皆様にいち早くお送り致しまし
た。
 
海外でも高い評価をされ始めたKiso Acoustic HB-1ですが、違った視点と感性
で語るショートエッセイとしてお楽しみ頂ければと思います。
 
            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 
■有益な振動!
 
キソ・オーディオのHB-1小型スピーカーは、楽器のように振動することが
許されます。そうすることによって、このスピーカーは、この上なく自然な
音楽再生を実現するのです。
 
同胞によく思われないことが数多くありますが、オーディオ愛好家の場合、
それは他のコンポと比較して主にソース機器あるいは小型スピーカーに大金を
投じることです。
 
ましてや一見、薄いキャビネット壁で簡単に作られたような小型スピーカーの
場合は良心的に解釈されたとしても懐疑的な視線を向けられることは必至です。
 
従って、キソ・アコースティックのHB-1が気にはなっても13,800ユーロを
払って購入することができないのです。
 
それでは、購入したくなるような魅力とは一体、何なのでしょうか。
 
この問いに対してキソ・アコースティックの創立者であるハラ・トオル氏は、
「キソ・アコースティックは楽器製造技法を発端にしてスタートしたため、
音響的に非常に魅惑的なスピーカーが出来上がりました」と事実に即した回答
をしています。
 
ここで、ハラ氏は多くのオーディオ機器を所有する正真正銘のオーディオファイル
であることを知る必要があります(インタビュー記事参照)。
 
そんなハラ氏は、彼と同じ居住地(サカシタ)に存在するギター・メーカーの
タカミネがオンキョーのために楽器のように響くスピーカー・キャビネットを
製造しているのを見逃しませんでした。
 
そのコンセプトに興味を抱いたハラ氏は工場を訪問して、その時からキソ・
アコースティックのプロジェクトがスタートすることになったのです。
 
しかしながら、このテーマがいかに複雑であるか既に最初の試みにおいて露見
しました。それはキャビネットに適合するドライバー・ユニットとクロスオー
バー・ネットワークを開発しなければならなかったことです。
 
この点を考慮してのハラ氏の経験とコンピューター・プログラム計算による
設計は困難を極めました。
 
このため、古典的な箱型キャビネットよりも取り付けられたドライバー・ユニ
ットに与える影響の大きな新型キャビネットは、数多くのプロトタイプを作り
上げて改善が繰り返されました。
 
キャビネットとドライバー・ユニットを一体化長期にわたる試行錯誤を経て
開発チームは、ピアレスの中低域ドライバーと大幅に改造したフォステックス
のホーン型ツイーター(開口部および位相プラグに黒檀を使用したタカミネ製
ホーンを採用)の組合せに可能性を見出しました。
 
ハラ氏は非常に高価な部品によって構成されたネットワークのクロスオーバー
周波数を5kHzに設定し、すべての楽器の基音は中低域ドライバーが再生し、
音色を決める倍音はツイーターが受け持つようにしました。
 
高域の再生周波数は高域ホーンの効果によって非常に均質に放射され、その
結果として素晴らしく正確な音像を再現します。
 
キャビネット自体は2.5mmから3.5mm厚の薄いサイド・パネルとマホガニー材の
リア・パネルおよびどっしりと厚みのあるローズウッド製バッフルから成る
ギターのような構造をしています。
 
キソ・アコースティックのスピーカーは、ベテランの楽器製造スタッフの手に
よるラインにおいて製造されるために高い完成度を誇ります。
 
木材によって異なる響き標準仕様のマホガニー仕上げの他に、響きが微妙に
異なるメープルとハワイアン・コア仕上げが用意されているのも楽器製造技法
を思い出させるものです。
 
きれいに処理されたスピーカー・ケーブル(顧客の要望に応じて6mまでの
長さ)が付属品に含まれていますが、このケーブルはスピーカーの内部配線に
も使用されています。
 
            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 
■川又より
このスピーカーケーブルの付属ということは現地の輸入代理店が独自に付属
させているものであり、Kiso Acousticとしては輸出の際に付属させていると
いうことはありません。誤解なきよう追記致します。
 
            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 
そして、このケーブルはステレオ・プレイ誌の試聴室でも小さめの居間におい
ても最初にできる比較試聴としても利用できます。
 
試聴ではキソ・アコースティックのケーブルが音質的に有利となり、そのどこ
までも均質な響きはリファレンス・ケーブルとの比較においてさえ解像度の
劣化をほとんど感じさせませんでした。
 
驚くべきことは華奢なHB-1が40平米のステレオ・プレイ誌の試聴室に
おいて著しい音量と低域の量感を伴って鳴り響いたことです。
 
スピーカーは小さくとも、その響きは小型スピーカーを感じさせないものです。
当然ながら深々とした重低音は難しく最低域のオクターブは再生されませんが、
その代わり再生される低音域はクリアな輪郭を描き、非常にスピード感のある
ものです。
 
大編成のオーケストラもびっくりするほど当たり前に鳴り響きます。
その上、このキソ・アコースティックのスピーカーは、より高価でこの点に
おいて卓越したマジコV3(6/08)のようなスピーカーでさえ十分に再現
できなかった個々の楽器の音響的な特質を複雑なパッセージにおいても明確に
描き出すという驚くべき能力を備えています。
 
もうひとつの魅力は、リスニングルームを魔法のようにスタジオやコンサート
ホールに変えてしまうHB-1の広々としたサウンド・ステージです。
 
このためには、聴取位置から1mくらい前方に2等辺三角形ができるように
角度をつけてHB-1をセッティングすることをお勧めします。
 
これによって個々の楽器がピン・ポイントで定位するだけでなく、周波数特性
が完全にフラットになります(測定値を参照)。
 
テストを行った人たちがこの特性に感心するまもなく、それに加えて音楽の
違いを描き分ける能力というHB-1の決定的な特徴が明らかになりました。
 
小さなキソ・アコースティックのスピーカーは、大きなリファレンス・スピー
カーよりも明確に接続された機器の音の違いを描写します。
 
さらに、中程度の質の録音からでさえも多くの音楽的ニュアンスを引き出すこ
とができるため、レコード・コレクションを聴く度に新たな発見ができるよう
になります。
 
この一例がドニゼッティのライブ録音「ランメルモールのルチア(Cetra LO18)」で
す。
レコードの音質があまり良くないにもかかわらず、HB-1はマリア・カラス
の熱烈な歌唱とそれに劣らぬデ・ステファーノの表現力、そしてミラノ・スカ
ラ座の最高の演奏を指揮したヘルベルト・フォン・カラヤンを生き生きと再生
します。
 
HB-1がこのような歴史的な録音だけに実力を発揮すると思うのはとんでも
ない間違いで、このことはジャック・ジョンソンの「バナナ・パンケーキ」を
聴くと納得がゆきます。
 
彼の声もまた比類なく自然に響きわたり、このスピーカーがこのような音楽の
再生にも同様に優れた能力を発揮することを証明しています。
 
文:ダリボール・ベリック(Dalibor Beric)
 
<P30 右上の囲み記事>
ご存知ですか・・・
キソはナゴヤの北側にある伝統豊かな地域で、その名前は木曽の急流に由来し
ます。日本アルプスの境界に接し、その景観は非常に変化に富んでいます。
 
<P30 写真キャプチャー>
@キャビネットの形状と薄い壁は、固有共振を音響的に目立たない領域に押しやる。
A追加された支柱木は振動するキャビネットの共振特性をコントロールする。
Bキソ・アコースティックのバスレフ開口部には一般的な合成樹脂パイプを
 使用せず、手作業で仕上げたウッド材ダクトを投入。
Cキソ・アコースティックのキャビネットは、楽器と同じようにタカミネに
 おいて一つ一つ手作業で製造される。
 
<P31 写真キャプチャー>
楽器製造技法
@キソ・アコースティック HB-1のバッフルは、ドライバー・ユニットが
正確に動作するようにキャビネットの他の部分と比較して非常に厚みのある
しっかりしたものを使用。
 
キャビネットはタカミネで製造されていてもギターのような特性ではなく、
むしろ共振特性がスピーカーの再生音にプラスとなるように影響して音響的な
妨げとならない設計。このことは試聴テストが示すように驚くほど良い成果と
して現れている。
 
Aタカミネのギターはブルース・スプリングスティーン、ニルス・ロフグレン、
ジルバート・ジルあるいはエヴリル・ラヴィーンのようなミュージシャンが
演奏している。タカミネはアーティストの希望に応じて楽器の響きを調音している。
 
<P32 タイトル見出し>
「HB-1の目標は、小さくとも小型スピーカーを超えた鳴り方をする
 スピーカーを創り出すことでした。」
<P32 左の囲み記事>
ラボの測定結果
 
周波数およびインピーダンス
軸上(axal)
上方向10°(10°hoch)
横方向30°(30°seitl.)
インピーダンス・カーブ(Impedanzverlauf)
 
@低域は持ち上がりがなく早めに減衰しているためHB-1は壁に近づけて
 セッティングできるが、壁から少し(0.5m)離すと最良の音場感が得られる。
 
A高域のわずかな持ち上がりは軸上から反れるとなくなるため、聴取位置から
 1m〜1.5mくらい前方に2等辺三角形ができるように大きく角度をつけて
 HB-1をセッティングすると良い結果が得られる。
 
Bインピーダンス・カーブはクリティカルではなく、管球アンプとの相性も良い。
 バスレフ・キャビネットに典型的な2つの隆起が低域に見られる。
 
<P32 右の囲み記事>
インタビュー     ハラ・トオル  キソ・アコースティック社長
 
ステレオプレイ誌:
オーディオの"ウィルスに冒された"のはいつですか?
 
ハラ・トオル:
小学校5年生のときでしたから、大体50年ほど前です。
蓄音機や当時のモダンなシステムを持っていた父親から"感染"したのです。
 
ステレオプレイ誌:
自分自身で購入した最初のオーディオ機器は何ですか?
 
ハラ・トオル:
15歳のときに日本以外ではケンウッドとして知られていたトリオのシス
テム・ステレオ装置を買いました。
 
ステレオプレイ誌:
お気に入りのオーディオ機器は何ですか?
 
ハラ・トオル:
50年にわたってオーディオを続けてきて幸いにも十分な場所もありますので、
お気に入りの機器がいくつか保有しています…一番のお気に入りはやはり私と
これまで人生を共にしてきたヒズ・マスターズ・ボイスの蓄音機でしょう。
 
私が何年もかけて進めてきたプロジェクトは7ウェイ・スピーカーです。
これはJBLのオリンパスをベースにしたものですが、ドライバー・ユニット
もネットワークもすべて変更されていてオリジナルはキャビネットだけです。
 
このようなマルチ・チャンネルのスピーカーをいかにして均質に鳴らすかは
大きな挑戦でした。他に同様に改造したウィルソン・オーディオのグランド・
スラム X1をFM2011パワーアンプでドライブしています。
 
自分用に特別に仕上げた専用キャビネットに収めたウェスタン・エレクトリック
の伝説的なWE124パワーアンプとWE750アルミ・フルレンジ・ユニット
は聴く人を幸せな気持ちにさせるような密度の濃い特異な音楽を表現するため、
同様に手放すことができないものです。
 
さらにチェロとマーク・レビンソンのパワーアンプ、アナログ・ターンテーブル、
録音機器などがありますが、ここで報告するにはスペースが足りなくなるでしょう。
 
ステレオプレイ誌:
これまでにないこのようなスピーカーを作ろうと考えたのはなぜですか?
 
ハラ・トオル:
重量が数百キロもあるスピーカーではなく、簡単に持ち運びができるような
ハイエンド・スピーカーを作りたいと考えたのです。
友人宅に持ち込めるような小さくて軽いスピーカーでありながら、際立った
音質のスピーカーが欲しかったのです。
 
 
<P33 写真キャプチャー>
@高価な空芯コイルおよびムンドルフ製コンデンサを使用した贅沢なクロス
 オーバー・ネットワークは台座の専用ボックスに組み込まれている。
AHB-1に付属する銅線スピーカー・ケーブルは、キャビネットの内部配線
 にも使用されている。
B台座には剛性の高いメープル材を使用。上部のスリットはバスレフ開口部。
Cツイーターはフォステックスのカスタム品、その前面のホーンは黒檀製。
 
<P33 タイトル見出し>
■「HB-1は、人の声を張りのある緊張感を伴って表現します!」
 
ダリボール・ベリック 特集記事編集長
 
キソ・アコースティックのHB-1がオールラウンドな能力を発揮するスピー
カーでないことは、はっきりしています。
 
その代わり、その価格を超えた著しく自然な音色と音楽を描き分ける能力は、
大音量再生時に必要となる音圧不足を忘れさせてしまうほど素晴らしいものです。
音楽の細部に至るまで生々しく描写する感動的な再生音は、これまでに比類の
ないものです。
 
<P33 右端の囲み記事>
キソ・アコースティック HB-1
13,800ユーロ(定価)
代理店:ファスト・オーディオ、シュトットガルト
TEL.0711/4808888
www.fastaudio.com
www.kisoacoustic.com
海外の代理店はインターネット参照
――――――――――――――――――――――――――――――
キソ・アコースティックのHB-1は音圧と低域のパワーを重視する人向けの
スピーカーではないが、音楽愛好家はその豊かな表現力と音色の自然さに心が
奪われるでしょう。
――――――――――――――――――――――――――――――
総合判定
良い−非常に良い 78点
価格/性能ランク  ハイエンド
 
            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 
川又より
 
本文は訳者による原文を掲載したものです。今回は原さんのインタビューが
添えてあったのが印象的でした。
 
前号の訪問記でも述べましたが、“音に対する美意識”をもっているかどうか、
これがオーディオ製品を作る側でも使う側でも、そして販売する側でも大切な
ことなのです。
 
そういう意味では原さんのオーディオ歴と情熱があったからこそ誕生したもの
であり、その“音に対する美意識”にこそ音質の秘密があるといっても過言で
はありません。
 
その原さんから認めて頂いた当フロアーの存在が日本においてはHB-1を最も
優秀な音質で、いや、潜在能力を引き出した音質ということで皆様に感動を
提供出来ているというこが私の誇りでもあります。
 
なぜ人はKiso Acoustic HB-1に魅了されるのか? 簡単なことです。
 
そこに美しさが感じられるからに他なりません!!


HAL's Hearing Report