《HAL's Hearing Report》


No.0016 - 2000/12/29

東京都大田区在住 K.K 様より

 いつもH.A.L.'s Circleを楽しませて頂いている一人です。

 川又さんに2001年のダイナのカレンダーをキープして貰っていたのですが、時間の都合がつかないつかない・・・と、引き取りを伸ばしに伸ばしていたらいつの間にか12月27日。これはいけないと思い、一人で行くのは心細くて一緒にいた先輩を拝み倒して同行してもらい、御茶ノ水から歩くこと10分。
 行ってきましたROOM KAWAMATA。

 2度訪ねたのですが、川又さんは昼食に出かけていて、中に入れず。3度目の正直でやっと川又さんとお会いすることが出来ました。メールでは何度もお話したことはあったのですが、実際に会話を交わすのは初めてでした。名前を申し上げたら、すぐに分かってくださってとても嬉しかったです。

 ちょうどその時は、ウイルソンベネッシュの「Discovery」がジェフロウランドのピラミッドで鳴っていました。僕はメーカー名すら初めて聞きましたが、ちょうど置いてあったStereoSoundに載っていたので、大まかなことは分かりました。DiscoveryはうちのNautilus805と、形や大きさこそ似てましたが、出てくる音はサイズから考えればかなり濃密で、低域の充実が印象的でした。僕は目が悪いので最初2ウェイだと思っていましたが、実は独特の形状で、底にウーファーが付いていたのでした。4スピーカーらしいので、中にもう1個ウーファーが入ってるのでしょうか? とりあえず、低域の充実は納得しました。

 僕に合わせて、川又さんは早速CDを宇多田ヒカルに切り替えてくださいました。自分もよく聞いているCDなので、自分の部屋との差が良く分かって勉強になりました。
 僕は部屋の大きさの制約から、あまり大きなスピーカーは買っても置けないので、将来にある程度の諦めもあったのですが、Discoveryはあのサイズで立派に鳴っていたのでとても感心しました。
 ただ個人的には、まだなれていない所為で、ツィーターが低い位置にある音には違和感が若干ありました。

 そのあと、川又さんが一時期リファレンスに使用していた大貫妙子の「四季」をリクエストして試聴。先輩と「いい音だねぇ・・・」と恍惚と聞き入っていた所に、川又さんが登場。折角だからとGOLDMUND+Nautilusに切り替えてくださいましたっ。
「来た来た!」と内心、大喜び。先にいらっしゃっていた方も、ポジションをセンター側に一つ詰められて、聞くぞ!、という体制に。再び、「四季」。

 曲が始まって、「あー、これだよ、ここの音は・・・」と、ある種の安らぎを感じながらしばらく楽しんで、ふと気付きました。「あれ?また・・・?」前回訪れたときもNautilusの音を聞いて、無意識のうちに笑みがこぼれていたのですが、それがまた起こりました。いいと言われている音は、イベント等ほかの場所でも色々聞いています。でもこの現象だけは、この部屋でしか体験したことがありません。自分でも不思議でしょうがないです。

 いや、理由はわかっている気がします。
 おそらく、人間は本能的に「音」と「音楽」を聞き分けているんだと思います。川又さんも僕の感動の声に「音楽が伝わってくるでしょ」と嬉しそうに答えてくださいましたがまさに、音楽を感じました。

 あの部屋で、極限まで本物に近づけられた音は、僕のまだ未熟な聴覚を完全に「これは音楽だ」と認識させてしまったようです。だからあの時、本物の音楽に触れた瞬間の悦びが湧き上がり、つい笑みがこぼれました。多分そうに違いありません。

 まぁ、抽象的な感覚論ばかりですが、Nautilusの音はやっぱり大好きです。「四季」を聞きながら目を瞑れば、音楽によって、日本の四季の情景が確かに浮かんできます。けれどもふと気付くと、脳裏に浮かぶ景色に対して、音楽が美しく鮮やかな色彩を与えているような、逆転のイメージが起こっていました。あまりにもナチュラルだからでしょうか。

 結局、今の僕にとって川又さんの部屋は、確かに、凄いシステムととんでもない高価な品がずらりと並んだ、世にも稀な部屋ではありますが、一度あのソファーに深くつつまれて目を閉じれば、ただそこでは「音楽」が少し前のほうで「演奏」されているだけ。全くそれだけになってしまいます。その時の安らぎは、ちょっと言葉には出来ませんが、なにか不思議な安心感に満ちています。一般的になされているオーディオの議論から完全に解き放たれた、ある種の開放感を感じずにはいられません。

 そんな僕の幸せの中、川又さんはH.A.L.のお仕事でお忙しいご様子なので、いろんな曲をあれこれ勝手に試聴させていただきました。先輩がクラシックを聞きたいというので、ホルストの「惑星」を聞きました。個人的には「木星」の雄大な雰囲気の後半部分が大好きなのですが、川又さんがお客様と会話をされていたのでヴォリュームをかなり絞って聞きました。

 でもやっぱり、Nautilusの自然な響きは失われることなく、その音量ならばその音量による響きが心に何かを訴えてきました。感動でした。

 この辺りで、やはりこれだけの装備あってこそのNautilusなんだなぁと実感させられました。いかんせんレベルが違いすぎるので、突然聞いても「凄いです。」としかいえないのですが、いつか他のアンプと比較できたらいいなと思います。

 時間の都合で、お別れの時間がきました。気付けば1時間?2時間?・・・どれだけ居たかは覚えていません。過去に同じようにココへいらっしゃった方のレポートでも、皆さんあっという間の云時間なんですよね。僕もまた、あっという間でした。

 川又さんにお礼を言って、下界に降りました。受験が近くて単調な日々の中で、一際輝く素敵な時間でした。

* * * ↓オチ↓ * * *

 感動が薄れないうちに、レポートを書こうと思ったので、御茶ノ水からすぐに家に帰りました。  自室に戻り、「ROOM KAWAMATAは凄かったけど、俺のも捨てたもんじゃないよねー」と思いつつ、「惑星」の同じ録音のCDをセット。トラック4。

「・・・・・・。」
「なんじゃこりゃーーっ!!」

 そういえば思い出しました。こんなH.A.L.'s Circleの皆さんの中にいるからこそ、しょぼい環境だと思っていますが、普段は高校生にして100万円のシステムを持つ人。来る友達、友達、皆納得して帰っていき、弟も僕の部屋に来るたびに新しい音の発見に感動して帰っていきます。

 そして、僕の部屋を去った友達は自分の家に帰り、音楽を流してその音質にヘコみ、弟の部屋からは叫び声すら上がります。昨日までの自分の部屋の音と、今日感じる音の差に「むかつくーー!!」と。

 その声を聞くたびに、ほくそ笑むわけですが、今日は立場が一転しました。なるほど、いつも皆はこういうショックを受けていたのか、と思いつつ呆然と佇んでしまいました。何度も何度も「マジかよ・・・」「マジかよ・・・」と一人呟かざるを得ません。結局、30秒経たないうちに止めてしまいました。音像がぼやけ過ぎて、楽器の音が全部合わさり一つの団子になったようで全く聞くに堪えませんでした。

 結局川又さんの部屋は、行ってびっくり、帰ってびっくり、2度も心に大きな衝撃を与えてくれる、すさまじい部屋でした。

 僕はオーディオが好きですから、このショックはどこか気持ちいいです。でも、友達に対してはちょっと自粛しないと、この手のショックは受け手には痛いですよね。まぁ幸い、このショックはすぐに回復されるので、また明日から自分を誤魔化せば全く支障は無いですから安心です。僕自身、すでに回復の兆しが見え初めています・・・。

 やはり帰ってから分かることは多かったです。雑誌を読み、店に通い、細かいアクセサリを試して、「あっ、この辺が良くなったかも」と、より良い音を模索して行くことも一つの楽しみではありますが、川又さんに快く試聴させていただいたことで、「あっ、この辺が悪い。だから良くしたいな」と、明確で信頼に満ちた基準から、自分の音を見つめることが出来るようになりました。  また、川又さんの誤魔化しの無い言葉は、最初はストレートすぎる気もしましたが、すぐにそれが川又さんの元を訪れる皆さんから、大きな信頼を得ている所以なんだと実感しました。

 そんなわけで、突然ではありましたが、20世紀の終わりに素晴らしい感動をありがとうございました。 拙く、具体性も全くないレポートになってしまいましたが、これが僕の正直なところです。

 川又さん、あの音のイメージが記憶から薄れたら、また遊びに行っちゃっていいですか?


HAL's Hearing Report