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Nautilus800シリーズをベストサポートする「BRASS SHELL」とは!?

「H.A.L.オリジナル商品“BRASS SHELL”をB&Wはどう評価したのか!?」

● ● Vol.1 素材の選択 ● ●



8種類の材質による “Phase Plug”

ここH.A.L.で演奏しているS800それ自体の音質は、通常の製品とは違うものになっている。 この写真を見てお解かりのようにNautilus800シリーズのミッドレンジ(N805はウーファー)には必ずこのフェイズプラグが装着されている。
その重要性は、取り外して音を出してみれば誰にもわかるところなのだが、これまでの標準付属品はプラスチック製のものであり、 それに着目したアイデア商品として
私も過去に何セットも販売してきたものがCOPPERHEADであった。
当時COPPERHEADが登場した頃はNautilus800シリーズに標準で装備されているプラスチックのフェイズプラグとの比較しか出来ずにいたものであり、 当然のごとく付属品に対してその優位性を評価して相当の販売もしてきたものだった。 そして、前作「音の細道」の第49話「45×65に棲む鸚鵡貝」では、このフェイズプラグに関して次のように述べている。
「さて、S800のミッドレンジユニットに話しを戻すことにする。 このコーン型ドライバーには振動板の動きをエアーダンプするセンターキャップは排除され、ボイスコイルボビン内部の空洞共振を防止し、 更にコーンネックでの音圧集中を拡散させる砲弾型フェイズプラグがN801の時代から取り付けられていた。 B&Wではこのフェイズプラグも様々な材質のものを試作しテストしていたが、従来のプラスチック製のものから、 キャラクターが少なく聴感上のノイズフロアーも低減しているアルミブロック削り出しのものに変更しているのである。」
私が信頼するB&Wの設計陣が判断したことに口を差し挟む根拠も理由もなく、S800の開発に当たっての彼らの判断を信じるしかないではないか。 いずれにせよ、私には各種素材による試聴などはできないのであるから・・・。ところが、ある関係者の尽力により、それが実現したのである!!
写真の左側から順に材質を述べていくと、
  1. ジェラルミン   : 重量80g
  2. ステンレス    : 重量230g
  3. 砲金       : 重量260g
  4. アルミニウム  : 重量80g (S800標準付属品)
  5. 真鍮       : 重量240g
  6. アルミ/真鍮   : 重量150g
  7. 純銅       : 重量260g
  8. COPPERHEAD : 重量250g
さて、このような比較試聴の構想を打診された折に、過去からの製品としてのCOPPERHEADに対して更なる音質向上を期待して私が試作を依頼していたのが 6.アルミ/真鍮である。 アルミ砲弾型の内部をくりぬき、そこに超精密加工で真鍮を組み込んだものであることが写真(右から三番目)からもお解かりいただけるだろう。 異種金属を密接させることで、その固有共振をキャンセルすることが出来るものであり、古くはアナログプレーヤーのターンテ−ブル、 新しいところでは、ご存知GOLDMUNDのスピーカーであるEPILOGUEシリーズや同社のアンプMIMESISシリーズにも生かされているテクノロジーである。 そのアイデアを拝借して試作したのが、この異種金属結合型のフェイズプラグである。 時系列は前後するのだが、今回の試聴に当たっては微妙な変化を追及することになり、環 境も重要と判断して、使用するS800の中間には一次反射波の影響も排除して一切他のスピーカーを置かないようにして次のラインアップで行った。

Timelord Chronos>dcs 992>Esoteric P-0s>dcs purcell1394>dcs Elgar plus1394>
Jeff Rowland Coherence2>HALCRO dm68 >B&W Signature 800
Digital & Ward clock cable by dcs and other cable PAD DOMINUS & RLS

さて、次に使用する曲だが、何と言ってもフェイズプラグという機械的に取り外す作業を本当に何回も繰り返すことになり、 あまり長い曲では前例との比較をしようにも記憶が薄れてしまう。
出だしから数十秒でその特徴を引き出すための選曲が求められる。
そこで、このところテストには欠かすことの出来ない存在となったコンピレーションアルバム「Muse」UCCS-1002 の一曲目。 FILIPPA GIORDANOのカルメン「ハバネラ」を共通の課題曲として使用することにする。 試聴の順番については重量の軽い方から、そして白色系素材から黄銅色へという流れで進めていくことにした。画像の配置とは順番が違うのでご注意を。
 まず、最初にウォームアップもかねて聴きなじんだ付属品のフェイズプラグを装着した状態で音を出し始める。 付属品とは言え他の800シリーズに付属しているプラスチック製とは比べ物にならないほどの密度感と重量があるフェイズプラグだが、計ってみると80g。 それをなぜ標準としてB&Wが採用したのか、その謎もこれから解き明かされることになる。
 
1.ジェラルミン : 重量80g
席に戻ってP-0sを再度スタートさせた。
「えっ!!?? おかしい!? 何か・・・」
さっきまでFILIPPAの口元、そしてバックコーラスからと芳醇なエコーがS800の周辺の空間を満たしていたのに、 そのエコーが突如としてなくなってしまったのである。 そして、各ヴォーカルの前後の位置関係に劇的な変化が起こっている。
みんながみんな、すべて手前にやってきてしまうのである。 そのエコーが消失してしまった反作用なのか、口元の大きさはキューッと絞り込まれるようにコンパクトになるのだが、余韻がないので潤いを感じることが出来ない。 そして、フォルテがやってくる・・・!? 「あっ、ちょっとうるさい!?」 そう、アンプのボリュームは一切変更していない。この試聴に関して操作しているのはP-0sのスタート・ストップだけなのに・・・。 良く言えば、華やか・・・、にぎやか・・・、悪く言えばストレスを感じるフォーカスのにじみや解像度の劣化が感じられる。
まったく重さは同じなのに何と言う変化だろうか・・・!?
結論・・・だめです、これ!!
2.ステンレス : 重量230g
次は白色系で光り輝くステンレス。重量もいきなり三倍になり、ずしっと手応えのある存在感。
それだけで何だか期待できそうな予感がしみじみとする。
さあ、今回もクルクルと回して交換を急ぐ・・・、ふ〜、あと何回やるんだろうか?
先ほどの変化に目を丸くした私は、次に起こることへの好奇心でワクワクしながら席に戻って 再びP-0sのリモコンに手を伸ばす・・・!?「あらあら〜、ちょっとがっくり・・・」
見るからに頼もしいずっしりとしたステンレスは前のようにエコーという情報をもらすことなく、ビシッと標準品のフェイズプラグよりも期待していたのに。
まず、エコーは戻ってこなかった。ジェラルミンと同等レベルだ。しかし、ヴォーカルはジェラルミンよりはちょっぴり柔軟性を取り戻す。 ウエットな質感を少しは取り戻し、ファルテのうるささは緩和された。しかし、標準品には及ぶすべもない。
結論・・・だめです、これ!! 
7.純銅 : 重量260g
さて、次は今回のサンプルの中で最もヘビー級の銅である。
商品化されたCOPPERHEADよりもずっと赤みを帯びた色調で、よく銅とことを"赤"と表現することが実感される。さて・・・、どうなることやら!?
「え〜、こんなに・・・!?」
簡単に言えば演奏しているホールやスタジオの照明を三割ほど光量を落としたような感じだ。
一気に暗くなってしまったのである。全体の色調としては鮮やかさに欠け、逆にいいように表現すれば落ち着きが出たと言えるかもしれない。
そして、面白いことに先ほどのジェラルミンで前方にせり出してきたヴォーカルは奥に奥にと引きこもってしまう。 フォルテは丸みを帯びて一見聞きやすく感じられるのだが、よくよく観察してみると解像度が落ちている。 各楽器の領域をお互いに犯しあっているようで、輪郭の鮮明さがない。
従って、エコー感を感じたいのだが、楽音とエコーのセパレーションが認識できないので、これまでと格差を付けて評価することは困難。
結論・・・惜しいけど、ちょっとだめです、これ!! 
3.砲金 : 重量260g
これは外観からも感触からも前の銅と似ている。
もちろん含有する異種素材の分量が違うだけなのだから無理もないが・・・!?
ちょっと、試聴する以前から期待できない予感がしきりにする・・・。
とりあえず、何回目になったか覚えてないくらいの動作でクルクルと交換を進めて席に戻ってきた。さて・・・!?
「あ〜、やっぱりそうだねー」
多少は銅よりも明るさが増すのだが全体的な色調は似たり寄ったり・・・。
結論・・・だめです、これ!!
5.真鍮 : 重量240g
同じヘビー級でも10g程軽い真鍮である。B&Wがなぜアルミを採用したのか!?
やはり重量が重たければいいと言うわけでもなさそうだし・・・、この真鍮も同系列の音なのかな〜、と、ちょっぴり意気消沈して交換のスピードもダウンしている。
さて・・・、とP-0sスタート。 「えーー!! どうしてーー??」と、その第一声を聴くなり私は狂喜してしまった。 まずは単純なことが発見された。そう、エコーが標準品と同等、あるいはそれ以上に長く美しく響くではないか!! 「お〜、こりぁいいぞー!!」と思わぬヒットに喜ぶ。
そして、各楽音の質感が麗しいではないか。不思議だ。ヴォーカルは先ほどの銅や砲金よりも手前に位置を代え、空間表現も抜群で標準品を上回る可能性もある。 それがフォルテにいたる部分で解像度を維持しているのでストレスも感じられない。いったいなぜ!?
この真鍮、結論はが付くほどの合格!!
8.COPPERHEAD : 重量250g
さて、この真鍮を聴いたあとで、私としては苦悩の試聴となるCOPPERHEADを取り付けることになった。
これまでに相当数の販売をしてきただけにオーナーの皆様に対して申し訳ない結果になってしまったらどうしよう。 と思いつつ、ただ皆様の投資効果を維持するためとは言え嘘はつけない。 まあ、この製品の発売当時には比較対象がなかったということで、どうかご理解を頂くしかないであろう、と自分を納得させて席に戻った。
「う――ん、やっぱりそうか〜」というのが率直な感想。 つまり前述の銅や砲金に近い表現なのである。エコーは少なく、一見落ち着いたように見えても色調は暗い。 ただ、救いとしてはフォルテでの解像度はそれらよりは良いものが感じられる。
でも、今となっては合格とは言いづらい。
6.アルミ/真鍮  : 重量150g
さて、起死回生なるか!?
私が要請して作ってもらった試作品を最後にとっておいたものである。
画像を見てお解かりのように、砲弾の後部に真鍮をはめ込んだところが見られると思う。
重量はちょうど標準品と銅などの中間的なところである。
さあ、期待と不安が入り混じった心境で交換を済ませ、席に戻った・・・。
「うん、エコーはまあまあいいぞ。フォーカスもきれいに出ている!!」
と、第一印象は良好である。フォルテも解像度は維持されているようだ。しかし、空間表現のスケール感は標準品の方に分があることがわかる。 健闘はしているが、これは単純に言い切れる判断は出来ない。



そうだ!!これに真鍮と標準品とで決勝戦をやろう!! と、次なる選曲にいそしむ。
S800のミッドレンジにおける差異を確認したいということで、 シンプルでありトランジェント特性とその残響のあり方を確認したいということから、この曲を選択する。
「WIZARD OF OZONE〜小曽根 真ベスト・セレクション」UCCV-2003の11トラック「We're All Alone」をP-0sにスタンバイする。 そして、もう何度目か忘れてしまった作業を繰り返し標準品からスタートする。
4.アルミニウム : 重量80g
当然のことながら安堵感を覚える聴きなれた演奏に、再度B&Wがこれを選択して音をまとめていった理由が鮮明に感じられる。 とにかくエコーが噴出する様は随筆で評価したとおり素晴らしいものがあり、 その余韻感を情報量として聴き取りたいアコースティックな演奏には本当にベストマッチと言えるものがある。
そもそもリファレンスだ。簡単に言えば、これだけ聴いていると欠点の探しようがないのである。
6.アルミ/真鍮  : 重量150g
次の順序としては、この標準品と先ほど高く評価した真鍮とのハイブリッドであるこれを取り付けた。 このサンプルだけが黒く塗装してあるが後ろからのぞけば工夫の後が見受けられる。
さあ、この曲ではどうか!? 「あっ・・・、なかなかいいじゃない」という第一印象は、不思議なことに演奏を続けていくうちに色あせてくることになる。
小曽根がこの曲で真価を発揮している右手により強烈なシングルトーンでのヒットの瞬間に空間に飛散していくエコーに陰りがあるではないか。 そうだ、全体としては標準品に比べて、やはり輝きとして楽しみたい部分の演奏に明るさが足りないのである。これは微妙な判定だ・・・。
システムのグレードが上がるにつれて、強烈なアタックもストレスなく聴けるものである。 そして、その歪感の低さはノイズフロアーの低下ということと同時進行で行われなくてはならない。 その意味で、フェイズプラグのいうパーツから最も固有の共振を取り去ったものが、この構造にあるのではないかと思われた。 しかし、実際の耳とこれだけの高レベルのシステムと環境において私が判断するには音楽を聴かせる楽しさは標準品の方が勝っていると思うのである。 ダンプしすぎるというよりも、「過ぎたるは及ばざるが如し」という状況が少し見え始めてしまった。
惜しい・・・、実に惜しい・・・。
5.真鍮 : 重量240g
さあ、決勝戦をやった甲斐があった。
小曽根の弾き出すようなピアノによってフェイズプラグの存在感が次第にわかり始めた。
しかし、結果的には商品化ということでNautilus800シリーズのすべてにこの恩恵を提供していきたいという私の気持ちは、逆に言えば標準品 (この場合にはS800のアルミ製を示しており、既にこの段階で805〜801までのプラスチック製とは次元が異なるということはご理解頂きたい。) と比較しても明らかな投資効果を私が感じられなければ商品化する意味がないということだ。
 さて、決勝戦に残った三者において、標準品を上回る確実な根拠を発見することが出来るのだろうか・・・。 本当に何度目の作業かを忘れてしまった動作で真鍮のフェイズプラグを取り付けた。 先ほどの予選とも言うべきFILIPPAの曲のように連続し継続するヴォーカルのような楽音とはまったく違うピアノの切れ味が、 その瞬間のS800のミッドレンジの挙動をつぶさに見せてくれるようである。
さあ、高速のトレモロによる最初の一音が待ち遠しい。 「おぉっ!! これはいい!!」
まず、エコー感は申し分ない。標準品よりも消え去る一歩手前の微量な余韻まで引き出しているようで、 下手をすると標準品よりもその視覚的なエコーの残照を正確に捉えている。
そして、これはぜひ追記しておきたいという印象が、そのピアノの音色の透明感というか鮮明さである。 とにかく瞬発力が維持されてハンマーがヒットする弦のテンションが生き生きと張り詰められる。この爽快さはアルミに勝っていることは誰でもが感じるだろう!!
そうだ・・・。ここで私の推測がB&Wの設計陣の感性を代弁することが出来ると確信された。
彼らは、ピアノによるこのような表現に加えて、弦楽器やヴォイスの表現にも平均率を求めてアルミを採用したに違いない。 仮に、ここでの実験と同じように真鍮も彼らが試していたらということだが・・・。もし、彼らが真鍮製のフェイズプラグを試していなかったとしたら・・・!? それは大いなる見落としということになるだろう。後日、この点は問い合わせてみることにしようと思った。
さて、次なる関心のポイント。スタートから3分から5分の間に打ち鳴らされる小曽根の見事なまでの高速なシングルトーンがきた!!
「えっ・・・、これは・・・」思わず目の前で炸裂したピアノに引き込まれた。
そう、決勝戦に残った三者の中で、これまでのふたつに比較して明らかにハンマーがヒットした瞬間のフォーカスが鮮明なのである。 つまり銅などによる丸みをつける方向で聴きづらさを解消するという、解像度を下げての逃げ腰の変化というものではない。
ピーンッと張り詰めたテンションをそのままに、ただひたすら空気中のホコリをすべて払い去ったような視覚的透明感を高めての炸裂音なのである。 そして、その後に続く時間の経過とともにリニアに減衰していく余韻の何ともきれいなことか。
沼や川の沈泥の上を泳いでいた魚が、物音に驚いて目にも留まらぬ速さでピュッと泳ぎ去ったとイメージして頂きたい。 そうすると、魚が去った後には急激な水の動きでかき出された沈泥がモーッと噴出して土煙を上げたとしましょう。 今回の色々な素材の実験では、このような印象を持つものもあった。
しかし、いまこの瞬間に打ち鳴らされたピアノは、石と岩場の間を流れる清流に生息する魚たちが、同様に驚いて逃げ去っても川底には石ばかりであり、 決して土煙が上がることのないような澄み切った空間での余韻の表現が今、この真鍮のフェイズプラグによって実現されたようだ。
高速反応にまったく動じることなく、そのパ−ツに求められた機能を果たし、そして私の判断によっても標準品に対しても投資効果を認められる素材がやっと・・・、 やっと確認できたのである。

● ● Vol.2 仕上げの選択 ● ●

このフェイズプラグの商品化までには上記の試聴から四ヶ月がかかっており、その間に更なる完成度を目指して試行錯誤が繰り返されてきた。 しかし、前述のように真鍮という素材が特定され、その優位性を確認してからというもの、ずっと私のフロアーにあるS800は 試作品の「真鍮製フェイズプラグ」を装着したままで演奏を続けている。そんな中で体験することになったのがこのシステムであった。

Esoteric P-0s or GOLDMUND EIDOS38>GOLDMUND MM20 Millennium Evolution DAC>GOLDMUND MM22 Millennium Evolution pre amp>GOLDMUND Millennium mono power amp>B&W Signature 800

この超強力なエレクトロニクスに支えられてS800は見違えるほどの美貌を獲得したのだが、
ちょうど、このラインアップが揃っていたときに「真鍮製フェイズプラグ」の次なる課題を試聴することになったのである。
それは、前回の試聴において素材選びに関する結論は十分に決着することが出来た。
しかし、商品化に当たっては類似品との差別化のために私は特殊な"光沢があるメタリックな紫色"という塗装を希望したのであった。 素材は決まったが、塗装というデリケートな比較をするのに、上記のフルGOLDMUND Millenniumシリーズの絶品とも言える解像度と木目の細かさ、 広大な空間表現とハイスピードの極みとも言うべきプレイバックシステムがまたしても予想外の結論をたちどころに提示してくれたのである。
 課題曲と聴き方は前回同様であるが、塗装の厚みや手法などが異なるサンプルを複数試したのだが、音質の変化は意外な方向に展開していったのである。
前回は8種類の素材による違いを吟味したのだが、今はその結論は自信を持って「真鍮」を特定しており、 以来私のフロアーのS800にはこの「真鍮製フェイズプラグ」を取り付けて日々演奏していた。
私は素材の吟味であれだけ時間と神経を使って聴き込んでいたので、音質を左右するポイントは心得ている。
まず、明るい黄色のS800ミッドレンジになじんでいるクリア仕上げのフェイズプラグのままで、FILIPPA GIORDANOのカルメン「ハバネラ」を聴いてみる。
「うん、これだったら付属品に勝るぞ。さて、この音質を維持したままでメタリック・パープルというカラー・コーディネイトの真鍮製フェイズプラグが評価できれば、 商品化に向けて更に大きな前進だ!!」と、
正直に言って素材が優先されていれば塗装はさほど影響はないだろうと高をくくっていたのである。
そして、フルGOLDMUND Millenniumシリーズによって更に敏感になったS800に、惚れ惚れするような
メタリック・パープルの試作品をいそいそと取り付けて席に戻った。
 さあ、「ハバネラ」がスタートした。・・・・・・!??この間わずか数秒間。
もうこの段階で大きな違いが現れてきたではないか。わずか数ミクロンという皮膜程度の塗装が、なぜにこんなにも音質を変貌させてしまうのか。 とにかく何らかの塗装を施したものは、「真鍮製フェイズプラグ」で最も"旨み"として評価したエコー感が減衰してしまうのである。 バックコーラスも含めて複数のFILIPPAの口元が確かに高解像度に再現されるのだが、 先ほどまでのこぼれ落ちるようなエコー感がふっつりと無くなってしまったではないか。
これでは付属品の方が断然いい。
同じ素材でも塗装によってこれほど情報量に違いがあるということは私にとっても驚きであった。
付属品のアルミのフェイズプラグは砂を高圧で吹き付けて磨くという手法によって濃いグレーに仕上げているが、 これほど敏感なシステムで鳴らすS800ではせいぜい真鍮に表面保護の皮膜を作る程度でクリア仕上げしたものが最上と判断された。
いやはや、いい勉強をさせてもらった。真鍮の素材感をそのままにしておくのがベストである。

● ● Vol.3 構造の選択から商品化へ ● ●

 さて、フェイズプラグというキーパーツに構造的にどのような手を加えることが出来るというのか?
一部のマイナーメーカーが前述のCOPPERHEAD同様に、色々と違った素材を削りだしてフェイズプラグを商品化する動きがいくつか見受けられた。
果たして、それらは音質的な検証をどの程度、どのような環境とシステムで、 そして、どのような耳と感性の持ち主が行ってきたかという背景説明は聞いたことがない。 ただ、このような材質で同じ形に削って作りました・・・、というだけであろう。
従って、価格的にも二個で3万円程度のものがあることも承知している。
そのような状況で、いわば後発と言える私がプロデュースしたフェイズプラグに、一体どのような特徴と付加価値を加えることが出来るのか、 これはひとえにフェイズプラグというパーツの機能と働きを知り尽くし、B&WのNautilusシリーズを知り尽くしていなければ実現できないことだろう。
その最後の課題(この特殊な課題も私が考案したものなのだが・・・)を実際に検証するために、以下のシステムで三度目の徹底した試聴を行った。

Timelord Chronos>dcs 992>Esoteric P-0s>dcs purcell1394>dcs Elgar plus1394> Jeff Rowland Coherence2>Aria WT350XM>B&W Signature 800Digital & Ward clock cable by dcs & other cable PAD DOMINUS & RLS

試作品は数十個を作成し、試聴時間はこのシステムに至るまでで十数時間にもなり、 不確定要素を自ら発見し、次なる試作品をもって仮説を検証して確認を繰り返す。
そんな数ヶ月間を経て、今完成したのがこれである。


BRASS SHELL(真鍮の砲弾) 登場!!

 さて、私がプロデュースしたNautilusシリーズのフェイズプラグ『BRASS SHELL』を、万全の自信を持ってここにご紹介する。
「ボイスコイルボビン内部の空洞共振を防止し、更にコーンネックでの音圧集中を拡散させる砲弾型フェイズプラグがN801の時代から取り付けられていた。」 と既に述べているが、ボイスコイルボビンの内部に入り込むフェイズプラグの砲弾形状の基部に下の写真のように音質を調整するために 三種類の交換可能なリングを採用した。
右の写真の下側にある完成形が標準サイズであり、写真では同じ真鍮のリングを取り付けてある。 上の一個は、このように三種類のリングを交換できるという構造を示しているものだが、フェイズプラグ本体に一番近い位置にあるのが同じ真鍮であり、 フェイズプラグ本体にも、ミッドレンジユニットのボイスコイルボビン底部にも平面で接するものである。
その次が「銅」の同じ形状のリング、その下が今回のデリケートな試聴によって追加された真鍮製で 凹型に削り込み外周のラインでボイスコイルボビン底部に圧着させるという構造だ。

 まず、この『BRASS SHELL』の表面仕上げはクリア塗装のみという素材感を表現したものだが、 その表面の質感には“これでもか!!”というレベルのこだわりの“バフがけ”が施されており、 私がこれまでに目にしてきた類似品とは比較にならないほどの光沢と輝きのある美しさとなっている。
削り出し工程のうっすらと“切削痕”を残しているような品物とはわけが違う。
この仕上げに関するこだわりは一人の経験豊かな担当者があたり、一点の曇りやムラも見逃さないほどの厳密なチェックを受けてから出荷される。 そして、注目して頂きたいのは、『BRASS SHELL』を納める黒い円筒形のケースだが、これは少し大きな直径のアルミの棒の内側を繰り抜き、 更に外周も削り出して作ったという大変に凝ったものだ。『BRASS SHELL』を装着した後には、 付属品のフェイズプラグをこれに入れて眺めてもよし!!という配慮である。 更に、このケースには一個一個にシリアルナンバーが刻印され、化粧箱には『BRASS SHELL』のロゴをエッチング加工して 真鍮製のシリアルプレートが貼り付けられ同じシリアルナンバーが記載される。それだけ一つ一つの仕上がりにこだわりと責任をもつという 徹底したハイエンド志向をここにも発揮している。
 さて、気になる価格だが 2個1セット\98,000(税込み価格)。  5.1chなどのマルチチャンネルにも使用して頂きたいので1個\50,000(税込み価格)での単品販売も行う。 そして、これはH.A.L.オリジナル商品として私が流通を取り仕切ることになり、当面は当フロアーでの独占販売となる。 何と言ってもプロデュースしたのは私ですから・・・。 そして、音質的な責任も私にあるわけですから・・・。

『BRASS SHELL』のチューニングポイント

 さて、これは『BRASS SHELL』の付属リングを拡大したものである。 私の推奨としては右下の「両面フラット」で本体と同じ真鍮製を先ず最初に装着して聴き始めることをお薦めしたい。
これまで『BRASS SHELL』を検討するのに使用してきた三種類の錚々たるコンポーネントのどれを組み合わせても、 見事な余韻感と質感の向上をニュートラルな視点から聴かせてくれるものである。
エコー感を美しく拡散し、楽音の質感も滑らかな方向へといざなってくれるものだ。 その状態でしばらく試聴されてから以下に述べるような感性の好みに応じて残る二種類のリングをお試し頂きたい。
 まず、写真の上にある「銅製のチューニング・リング」にすると、エコー感はほんのわずかに減少するが、 蛍光灯よりは白熱電球へという色温度の調整にも似た演奏全体の輝度を微妙に減じる方向に質感が変化する。 これは「Vol.1 素材の選択」の“銅”の部分でも述べている素材の特徴が、表面の音波が反射する部位に発揮されたものではなく、 ボイスコイルボビン内部の空洞共振をコントロールしたいという私の発想が生かされているところでもある。
「真鍮製・両面フラット」を標準にすると“やや落ち着きがある方向へ・・・”“楽音の明るさを微妙に暗い感じに・・・”“余韻感を少々淡白に・・・” このような傾向を望まれる方にお試しいただきたいものだ。
 さて、写真の左側が何と言っても面白い。同じ真鍮製なのだが、機械的な締め込みに対しては外周での"線接触"の方が圧着力は高くなる。 このように微妙に削りだした「凹面処理・真鍮チューニング・リング」は更に微妙であるが聴く人をうならせる変化をもたらす。 「真鍮製・両面フラット」を標準にすると“やや躍動感を付加する方向へ・・・”“楽音の明るさをより明るい感じに・・・”“余韻感を更にみずみずしく・・・” という変化を示すのである。 同じ素材で機械的な接合方法が違うということだけで、このような変化を発見したことも驚きだが、音楽全体にエネルギー感を求め、 かつ楽音の質感の変化は極力避けたいという方にお薦めしたいものである。
 さあ、このような微妙な検証を果たしてB&Wが行ってきたかどうか。
あるいは、彼らの試聴室と使用システムでは判断できなかったのか。
それは敢えて問い正すべきことではない。B&Wの感性として不問に伏すべきものであろう。
しかし、私はこれまで懇意にして頂いた同社のSenior Product Manager MIKE GOUGH氏、また
日本マランツ株式会社の澤田龍一氏にもこの『BRASS SHELL』を贈呈して “私たち”の情熱を知って頂き、そして評価して頂ければと考えている。
車の世界では名だたる高級車のチューニングに数々のオプションが販売されているわけだが、 その車、そのブランドの価値観が大変に高いということから商品化されるものだろう。
S800をはじめとしたNautilusシリーズが同様に高い評価をされているからこその『BRASS SHELL』の開発ということの一言に尽きる。
 そして、この『BRASS SHELL』は2002.7.26にファーストロットが入荷したのだが、 この入荷の数日前にまたまた驚きのエピソードがひとつ起こったのである。
『BRASS SHELL』の特徴の一つでもある入念なバフがけによる見事な光沢感と表面仕上げの美しさを保護するために、 これまではクリアー塗装を標準として最終的なツメを行ってきた。
しかし、製作者の求める仕上がりの基準が大変に高度なために、クリアー塗装の乾燥工程について今ひとつ納得できないところがあった。 そこで、クリアー塗装に関しては乾燥方法によるトライにも関わらず、思うような高いレベルでの光沢感が得られず、 製造元からの提案で天然素材の特殊な油性溶液によるコーティングではどうかという打診があり、 スプレーで吹き付けて乾燥を待つだけのクリアー塗装に対して、金属面の洗浄を金属加工製品専用の特殊溶剤で行い、 そこに特殊なコーティング液を塗ってから丹念に手で磨き上げるという手法に切り替えたのである。
 さて、見た目は同じ透明皮膜の仕上げなのだが、コーティング仕上げのなんとも光沢感が素晴らしいことと、 クリアー塗装vsコーティング仕上げでの比較試聴を最後のチェックとして行った。
すると…不思議なことにコーティング仕上げの方が音の鮮度が高く、情報量も多くなっており、余韻感の保存性もクリアー塗装より素晴らしいのだ。
これには、驚いた。わずかな表面皮膜の違いによっても、このように敏感に音に影響する。 そして、そのデリケートな違いを表現できるシステムと環境がここにあったということで、 ますます『BRASS SHELL』は開発当時よりも自信が持てる音質になって完成を迎えることが出来たのである。
この仕上げ工程に関する詳細は下記の通りであり、更にこだわりの精神が伝わってくるものとして追記することにした。
    ■BRASS SHELL本体ならびにチューニングリング
  • 真鍮ならびに銅の無垢材からの削り出し加工
  • 加工場所の室温、湿度を一定に保ち、切削加工誤差を1/100mm以内まで追求
  • 石油系の特殊溶剤を使用して洗浄(手作業)
  • 旋盤と専用治具によって行うミラーフィニッシュ処理(機械作業)
  • 耐腐食性を増すために特殊コーティング処理(手作業)
    (コーティング剤は天然素材を原料とした液体を使用)
    (変色を防ぐため、ミラーフィニッシュ後3時間以内にコーティング)
  • 本体にのみシリアルナンバーを油性インクにてプリント(手作業)
  • 検品器具を使用しての検品作業(手作業)

    ■本体以外の付属品
  • アルミ無垢材から削り出し加工によって作られた専用ケース
  • 専用ケースは表面にヘアライン加工を施した後、
    ブラックアルマイト処理、内部の特殊塗装を施して高級感を演出
    (ブラックアルマイト処理は専用の液槽に浸けて行う電解処理)
    (内部の特殊塗装は職人がハケによって行う最高級の手塗り)
  • スウェードを基調とした専用BOX
  • 真鍮プレートにエッジング加工を施したシリアルプレートを専用治具によってBOX上面に接着
  • 専用の打刻治具を製作してのシリアルナンバーを打刻
販売に関するお問い合わせは川又あてにメールにてお願いいたします。
※ おかげさまで完売致しました ※
この「BRASS SHELL」の販売には、ハルズサークル会員特典が設定されています。
どうぞご利用下さい。
こちらからお申し込み願います


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