「すばらしい音ですからぜひ聴いてください。」とか「凄いですよ、これは。」
とか、大仰なほめ言葉を先に発して持ちこまれる新製品は私はあまり好きではない。
好きではないというより、担当者の言葉の分だけ感情的に割り引いてから試聴させて頂くようにしている。
むしろ、黙って持って来てもらって私が聴いてから自分の判断で評価したものこそ、どうやら私は
販売に力を入れてしまうところがあるようだ。
さて、このzoethecus audio(ゾウセカス・オーディオ)とは簡単にいえば高級オーディオラックである。
同社の製品を大きく分類すると「AMPLIFIER STAND」と呼ばれるパワーアンプの置き台と
「COMPONENT SUPERSTRACTURES」と呼ばれるフロントエンド・コンポーネントのシステムラックの2種類となる。
まず、この「COMPONENT SUPERSTRACTURES」は、これに使用する特殊な素材で9層構造の棚板で、荷重15kg
以下のものを使用する際のZ.Podと、それ以上の荷重に対応するz.slabを選択することが必要になる。
そして、棚板が2枚用のフレームであるz.2/Rから6枚用のz.6/Rまでを選択して初めてシステムラックとして
使用できるようになる。ちなみに棚板が3枚とすればz.3/Rで、これにz.slabを3枚使用すると合計で\384,000.
という価格になるわけだ。
参考のためにプリントした“写真”は古いもので、現在は棚板のz.slabは単なる一枚板で真中が割れていない
タイプへと仕様変更されている。また、これらのインチでのサイズと日本価格を示したものを“別表”として
読み込んであるのでクリックして頂きたい。
さて、肝心な音なのだが、この比較試聴は大変力仕事となってしまった。ジェフロウランドのパワーアンプを
「AMPLIFIER STAND」であるz.block 2にあげた場合と直置きの場合を何度も比較試聴したのである。
当フロアーはゴム層のあるフロアーカーペットが敷き詰められているが、この上に直置きした場合には各楽器が
穏やかな表現になり一見聴きやすいのだが、低音のリズム楽器の反応がテンションを失ってしまう。
これをz.block 2に置き直してみると、ベースやドラムのテンションが高まりミッドハイレンジの解像度も
一段と向上するのが実に鮮明に感じ取れる。
次にジェフロウランドのモデル8Tiを堅牢なレンガステージに直接乗せてみた。
すると、今度は演奏自体に緊張感が満ちてくるのはいいのだが、エコーに尾ヒレがつきまとってしまう。
これをz.block 2に置き直してみると、付帯音が整理され音像の明瞭度が向上する。
しかし、フロアーカーペットに直置きしたようなダルな低音になることもなくテンションは見事に維持されて
いるではないか。
「こりゃいい!」
床の状態が如何なるものであろうと、zoethecus audioを使用すると間違いなくニュートラルな質感表現に
変化するのである。同じパワーアンプがあっけに取られるような豹変ぶりを見せ、当フロアーの音質的
リファレンスを根底からくつがえすセットアップシステムの登場に頭を抱えてしまった。
だって、ここにあるすべてのパワーアンプにzoethecusを使用したら大変なことになってしまう。
しかし、一度聴いてしまうともとに戻したくないのである。
そして次はz.3/Rにz.slabを3枚使用した\343,000.のシステムラックをテストした。
あまり癪に触るので比較するラックも高級品を用意した。
ゴールドムンドのミメーシスラック(\480,000.)にj1プロジェクトのプレーンボード+コーンスタッドを
追加したもの(合計価格\174,000.)を乗せたものを使用する。合わせて\654,000.という高額なラックに
エソテリックのP0を乗せて、いつものテスト曲を繰り返し聴き込む。
そして、アンプをミュートして配線をぶらさげたままP0をzoethecusのz.3/Rシステムに乗せ変えた。
さあ、ミュートを解除して課題曲の冒頭を再生し始めたとき、「まいったな、完敗じゃないか。」と
腹立たしいほどに音質差が目に見えてくる。
今の今まで自信があった最高のラックに乗せたP0の音という認識があっというまに崩壊してしまったのである。
完璧な剛性を誇るゴールドムンドのラックにj1のアイソレーションボードを組み合わせ、これこそP0には
ベストのコンディションと思っていたものよりも更に低域が引き締まるのである。
いや、低域だけではない。オーケストラのすべての楽器にかかっていた光を反射する薄いラップをサッと
はぎとったように、解像度の向上はだれが見ても一目瞭然と言えるほどの差異を見せつけるではないか。
今まで、ラックは体裁よく機能的にコンポーネントを収納できさえすればいい。
そう思っていた私に、ラックとは音質向上のための一種のコンポーネントであるという認識に、たった数分間
の試聴体験によって根本的に改めさせられてしまったのである。
これには参った。ただでさえ実験と試聴によって商品の価値観をご理解頂き、その上で販売していくという
私のセールスポリシーから考えれば今後は大がかりなラックにおける「使用前使用後」の比較試聴を実演
しなければいけなくなる。
そして、当フロアーの標準ラックをすべてzoethecusに入れ替えたりすれば、一体いくらかかることやら。
そんな恐ろしい計算は後回しにして、早くも当フロアー用のzoethecusを注文しようとしている私に呆れて
しまった。完全なオーダーメイドシステムの音質追求型システムラックzoethecusは、間違いなく使われる
人を幸福(経済的には不幸な?)にしてくれることを請け合います。
当フロアーでご体験ください。