《ESOTERIC 論文コンクール応募作品 Vol.10》


No.0127 - 2002/2/5

千葉県市川市在住 T・I 様より

“誇り”の意味を教えてくれる「Made in Japan」

私は日本人です。

生まれも育ちも日本なら、寿司も天麩羅も芸者も富士山も大好きです。
冗談はさておき、日本の文化や日本特有のあいまいな表現は、個人的に
私の体には「合う」と感じています。

そんなときに「あぁ、日本人なんだ」と感じるワケです。

ところが、自宅のオーディオ機器となると、何故か“Made in USA”の
文字が多いんですよねぇ。

マークレビンソンにPAD、オーラルシンフォニクス……。
ことオーディオのこととなると「日本の文化なんてコレっぽっちもない
じゃないか!」っと怒られそうですが、本当のことだから平謝りするし
か仕方がありません。

でも、自分の耳にさえ日本のオーディオ機器が合えば、手元に置いて
おきたいのです。同じ日本人としての共通意識と申しましょうか、日
本人の誇りの共有と申しましょうか。

そのような“日本人ならではのこだわり”を共に分かち合いたいと、
本心は思っているのです。

そんな私の心を、ただひとつ掴んだオーディオ機器がP-0sでした。

P-0sを選んだ一番の理由は“自分の耳に合う”という音質面ですが、
それ以外の要素にも、エソテリックというブランドに共感を受けました。
その理由を少しだけお話ししたいと思います。

“日本の誇り”を共感でき、所有するだけでも価値観を見出せる製品

私は商品を買うときに“価値観を見出せる商品か?”ということを第一
に考えます。そもそも価値観ってなんなんでしょう?

辞書で牽いてみると…「いかなること、いかなる物にいかなる価値を
おくかという個人個人の評価的判断。(新辞林 三省堂)」だそうです。
そうですね。個人個人の評価的判断。私の価値観とは“性能”“金銭面”
“ステータス性”という3つの面に対して、私独自の判断基準をクリア
していれば、価値観を見出したことになります。

では、これら3つの要素をP-0sの“どの部分”が満たしたのでしょうか?

1/10000mmという世界を市販品に用いた技術

まず第一に製作精度の高さに感動しました。

12cmの円盤「CD」に収められた極小の凹凸をピンポイントで拾う
ために内部パーツの精度を高め、サーボ電流を限りなく少なくして音質
の劣化を抑える。

このP-0sの基本的概念がすばらしい! 「1/10000mmステップ
でレンズを動かし、ピットの芯をトレースする」言葉にしてしまえば、
サラッと読めてしまうものです。

ですが、精密加工の経験が少しでもあるひとならば、この加工精度が
どれだけ凄まじいレベルの精度なのか…。

ハッキリ言って、作ることはもとより、きちんと作れているかを確認
するだけでも、気が遠くなるほど凄まじい加工精度です。

ローディング時にギヤの音が出ようと「潤滑油を使いたくない」と
いう理由が非常によく判ります。

1/10000mmの世界は油膜よりも薄世界なのですから…。

ちなみに、P-0s内に使用しているギヤの材質にもよりますが、
5〜10度の温度変化で簡単に1/10000mmレベルの寸法は変わる
数値です。だからこそ、CDを入れたときにCDのピット位置の情報を
読みとり、ピットの地図のようなものを作ってしまうこともよく判る。

そうしないと、その時々の温度状態におけるCDやギヤの熱膨張によって、
毎回同じような精度は出せなくなってしまう…。P-0sの電源を入れ立て
のときにローディングしたCDを、長時間P-0s中に入れっぱなしにして
いると(P-0sが暖かくなると)、リファレンスモードのときには読みと
りエラーが起きて止まりやすくなることがその証拠。

言い換えれば、きちんとP-0s内の精度が出ているからこそ、温度変化
によってエラーが起きやすくなる(CDを入れ直すとエラーが起きにく
くなる)CDを聞くという姿勢からすれば、この現象は好ましくないもの
ですが、理論的なことを理解すれば、精度が出ているからこそ出る症状。

加工の経験がある私からすれば、好ましくない現象も「すばらしい!」に
なってしまうのです。

この精度の結果が音質に直結していることは、表現力豊かな他の方々が
おっしゃるとおり「P-0sでなければ出ない気持ちの良い音」なのです。

プロジェクトXでも取り上げて欲しいくらいのプロジェクト?

もうひとつはこの性能で160万円という価格に驚きました。
P-0sはステッピングモーターとギヤによって1/10000mmの制御を
しているということですから、内部の加工部品の精度は1/1000mm台と
推測できます。

1/1000mmの切削加工品を作るには、加工工場の地下深く土台を打って
から基礎に玉砂利を敷いて振動を抑え、億単位の値段の切削加工機械を強固
なまでに地面に固定し、室温、湿度管理された室内で素材を削ります。

削っている間も切削部分の温度管理をしなければ、1/1000mm精度の
品物を作ることはできません。

つまり、P-0sの部品を作る作業は、非常に大きな施設と時間が必要だと
推測できます。また、加工経験のある私からすれば「これだけの設計にかか
った時間や、音質を決めるための材質選択、そして利益などを考えると、
160万円という定価でよく作れたなぁ…」と思います。

川又さんが書かれた随筆を読むと「プロトタイプのときからスパイク部分
の材質が変わり、大きな音質変化があった」と書いてありました。

この材質を吟味する作業は、設計だけではクリアできないもので、材料費
がかさみ、開発費に直結する部分です。だから、コストを考えてしまう日
本のオーディオは、技術的にスゴイことをしていても、音質的なツメのあ
まいブランドが多いような気がしてなりません。

P-0sのコンセプトと製作技術、また、このプロジェクトを成し遂げた
エソテリックブランドのTEACという会社のことを考えると「これから
もこのコンセプトでがんばって欲しい」という応援の意味も含めて、16
0万円は、安すぎるくらいの価格設定だと感じてしまいます。

性能と実際の音質から得られるステータス性

最後は、これまでに説明した性能面や音質面にも書いたことと重複するの
ですが「P-0sでなければ出ない気持ちの良い音」に、最大級のステータ
ス性を見出せました。

P-0sと出会ったのは、まだダイナミックオーディオ5555に移る前の
川又ROOM。N801をレビンソンのリファレンスラインで聴かせていた
だいたときの感動は、今でも忘れられません。

その後、自宅にP-0sが納品され、川又ROOMでも、47LabやdCS、
ゴールドムンドなど、数々の最高級といわれるトランスポートとの比較試聴を
してきました。

ですが、やはり「P-0sでなければ出ない気持ちの良い音」が存在するので
す。

しかも、そのステータス性を満たしてくれるP-0sは、私の大好きな日本の
“製品”なのです。

世界に通用するレベルのものを、日本人が作り、その製品を所有することの
喜び。最初にも書きました“日本の誇り”を、P-0sを所有することで共有
できるのです。

音質はもとより、技術的にも、プロジェクト的にも、日本の製品はまだまだ
捨てたモンじゃない。そう感じさせてくれたP-0sに「ありがとう!」と
心の中で言いながら、今日も音楽に浸っています。

所有する喜びを感じられる数少ない「Made in Japan」。
それが私にとってのP-0sです。


HAL's Hearing Report