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H.A.L.担当 川又利明


No.312 小編『音の細道』特別寄稿 *第38弾*
     「GOLDMUND MIMESIS 24 が聴かせる
      ハイエンドオーディオの新世界!!」

■ UNIVERAL PREAMPLIFIER MIMESIS 24(\5,000,000.)をNEOで検証する ■


1.ミッシェル・レバションの理想

ここH.A.L.がまだ隣のサウンドパーク・ダイナにあった頃、GOLDMUNDを
主宰するミッシェル・レバションが持参したノートPCの画面に、当時開発中
であったFull Epilogue Speaker の画像を出して私に語ってくれたものだ。

2chをメインにしながらも、そのクォリティーを維持してマルチチャンネル
に対応していくという構想のもとに、当時拡大を続けていたホームシアター
の将来性にも対応していくいう構想だった。

その主軸となるのはフロントエンドはフルデジタルのプロセッサーとコント
ローラーであり、究極的にはスピーカーにD/Aコンバーターとパワーアンプ
を内蔵させるということだった。それによって、ボリューム・コントロール
はもちろんのこと、スピーカーの出力における位相軸、時間軸なども制御
するというプランをうかがったものだった。

しかし、私はバックナンバーのNo.0470でも述べているようにD/Aコンバーター
内蔵のデジタルボリュームに対しては否定的であり、今もDACからパワーア
ンプに直結するという図式では推奨していなかった。従って、当時レバション
の語る構想に関しては「ふむふむ…」という程度に話しを聞いているだけで
商品としての期待感はあまりにも未来的過ぎて感じていなかったものだ。

デジタル技術をアナログで支配されてきたオーディオシステムのどこに、
どのように取り入れていくのかいう基本構想は1995年にはレバションの
頭の中には浮かんでいた。それが具体的な製品として初めてMIMESIS 24と
いうモデル名が付けられたのが99年のこと。最高のオーディオ用プリアンプ
とマルチチャンネル・プロセッサーを音質的に統合するものして設計思想は
この時に更に高い新たなハードルを目指すことになったのである。

99年から2001年にUNIVERAL PREAMPLIFIERという概念が提起され、新たな
レベル2の設計段階に入った。七つの目標を達成すべく七つのキーテクノロ
ジーを開発していくために同年1月には4名からなる開発チームが発足した。

・Sebastien Benz(Alise4-Alie5) :ハードウェア・デジタル担当
・Raphael Pache :ハードウェア・デジタルとDSPソフトウェア担当
・Antoine Petroff(job4-job5) :ハードウェア・アナログとパワーサプライ担当
・Alan Capt :マイクロプロセッサー・ソフトウェア担当

レバションが要求した回路の極度の複雑さとソフトウェアのレベルの高さ
を52ヶ月という時間をかけ、その内部が具体化したことで昨年1月にラスベ
ガスのCESで発表されたものだ。そして、バグ対策などに時間をかけて完成
度を高め、今回やっと日本に上陸したものである。
http://www.goldmund.com/products/mimesis24/

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私はデジタル領域でボリュームコントロールすることには懐疑的であった。
それは情報の欠落という疑問が絶えず付きまとっていたからであり、その
実例のいくつかを体験していたからに他ならない。そんな私がMIMESIS 24
の構想を聞いただけでは期待感はあまりなかったというのが本音だろう。
そして、実際にMIMESIS 24がここにやってきて何が起こったか!? それは…。



2.NEOを鳴らしてみたかったものとは

私はMOSQUITO NEOの音質とデザイン両面から、いつかは実現したいと願っていた
アンプのペアリングがGOLDMUNDであった。MILLENNIUMがここにあれば良かったの
だが、残念ながらタイミングが合わず実現しなかったのだが、今回は下記のシス
テムで念願の試聴をすることが出来た。


  -*-*-*-*- GOLDMUND  MIMESIS 24リファレンスシステム -*-*-*-*-

 ESOTERIC P-0s(Wordsync使用せず)◇ESOTERIC 8N-PC8000◇  
      ↓  
 GOLDMUND LINEAL DIGITAL CABLE
      ↓   
 GOLDMUND  MIMESIS 24
      ↓  
 GOLDMUND LINEAL DIGITAL CABLE
      ↓  
 GOLDMUND  MIMESIS 29.4ME(D/Aモジュール内蔵型・予価740万円)
     ↓  
 STEALTH Hybrid MLT biwire Speaker Cable 5.0m H.A.L.'s Special Version
     ↓
 MOSQUITO NEO


P-0sはワードシンクを敢えて使用せず、最初は軽い気持ちでStradivari Homageで
ほんのわずかの音を聴いたのだが、「これは!!」という手応えが直ちに得られ
急遽セッティングを変更して上記のようになったものである。軽い気持ち…と
いうのは前述のように私の既成概念から、D/Aコンバーターの入力前でボリューム
調整することなど、どうせ情報の間引きという原理には変わりなかろうという
イメージがあったからだ。しかし…!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

最近は何を聴くにも最初にはオーケストラという習慣で、おなじみとなった
セミヨン・ビシュコフ指揮、パリ管弦楽団 ビゼー「アルルの女」「カルメン」
の両組曲から(PHCP-5276)いつものように1.前奏曲8.ファランドール10.アラゴ
ネーズ15.ハバネラを聴こうと、最初に前奏曲の導入部が始まったところで…!

「こ、これはなんとしたこか!!」

フローティングされたNEOのトゥイーターとミッドレンジは外観に違わず弦楽器
の質感を本当に麗しく再現することが特徴なのだが、これまでに聴いてきたNEO
とは大きく異なる質感を提示していたのである。

先ずは多数の楽器が織り成すハーモニーのレイヤーが、握っていた拳を広げて
指が五本あるという原始的な確認がなされたように、簡単に言えばグーから
パーへ手のひらを返して楽音の個々の存在感が分離されたような様相なのだ。

しかも、その弦楽器の潤い感と柔軟性、広げたシルクのハンカチを手の中から
すっと抜き取った時の心地良い摩擦感と肌触りのように、今まで聴き尽してきた
同じオーケストラの演奏が滑らかに磨かれているではないか!!

8.ファランドールでは更に木管楽器が点としてフォーカスを定め浮かび上がり、
次の瞬間には明確なタンギングによって存在感を高め、そしてエコー感をステ
ージの奥と左右に展開していくのが見事に見分けることが出来る。金管楽器の
響きからは刺激成分が微塵の影も残さずに払拭されており、鋭い立ち上がりを
見せながらもエコー感はソフトランディングで空間に飛び散っていく。

「これは気持ちいい!! いや〜、こんな演奏、いやNEOは初めてだ!!」


次にゲルギエフとサンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団・合唱団「くるみ
割り人形」をかけてみた。
http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/valery_gergiev.htm

「おいおい!! なんでピッチカートの余韻がこんなに長いの!!」

更に先日もStradivari Homageで聞き惚れてしまった諏訪内晶子 シベリウス:
ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47から第3楽章:Allegro, ma non tantoをかけた。
http://www.universal-music.co.jp/classics/artist/akiko-suwanai/index.html

「あ〜、こんな世界があったんだ!!」

すべてのオーケストラで言えることは、楽音の質感が極めて緻密であり、同時
に開放的であり、刺激成分がなく心地良さがあるということ。そして、すべて
に共通することとしてノイズフロアーが極めて低いということだろう。これは
過去のNEOの演奏との比較において強烈に印象に残った。これは凄い!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

音像のフォーカス、ディティールを確認しやすい録音ではどうなるのか、とい
うチェックポイントはこれに限る。

「Muse」からフィリッパ・ジョルダーノ 1.ハバネラをかけることにした。
http://www.universal-music.co.jp/classics/healing_menu.html

「えー!! こんなナイーブでしとやかで、しかし鮮明なフィリッパは初めてだ!!」

解像度が低下すればヴォーカルの輪郭はにじみ、前後感も乏しくなり立体感も
薄れていく。しかし、映像の調整で言うところのコントラストを強めすぎると
ギラギラとしたエッジが耳についてくるのだが、MIMESIS 24の貢献はそんな
低レベルな心配事ははるか10年前に置いてきたと言わんばかりに見事な解像度
とディティールの鮮明さを両立させている。歴代のフィリッパの歌声で最も
私が推選したい演奏だと断言してもいい。これは素晴らしい!!

そんなにヴォーカルが素晴らしいのなら、大貫妙子の“attraction”から5ト
ラック目ご存知の「四季」を聴かずにはいられない。
http://www.toshiba-emi.co.jp/onuki/disco/index_j.htm

「あっ!! 音像の間から向こうが見えるようだ!!」

そうなのだ、イントロのギターとウッドベースの音像、そして大貫妙子の
口元が展開し始めても、各々の楽音がNEOの中間にスポットライトを当てた
ようにぽっかりと空間に浮かび、そのライトが当たっていない周辺の空間
には向こう側が透けて見えるような“音響的無風地帯”が出来上がるのだ。

ノイズフロアーの低さということが要因なのだろうが、それが再生音において
聴覚上でどのような貢献をするのか、この時にはっきり思い知らされた。
音像は彫刻のように周辺から角度を変えても立体像として見られるように、
そしてMIMESIS 24が提供したNEOの周辺の空気にカラースプレーで色が塗れる
ようになったかのように演奏者の存在感がくっきりと中空に感じられるのだ。
演奏者の背景が透明になればなるほど、楽音は立体感を増してくるのである。
私の記憶には、エレクトロニクスにおいてこのような演奏を聴かせてくれる
コンポーネントはなかった!!


3.GOLDMUNDの根底にある思想

思い返せば確か22年前のことか。GOLDMUNDがMIMESIS 2 & 3 のアンプを世に
送り出したとき、それらの音質は剃刀のごとく鋭角にシャープに楽音を捉え
スピーカーを駆動するという定評があったものだ。つまり、同社が標榜する
ハイスピード・アンプという理念は初期の段階では恐ろしく切れ味のいい音
というイメージで認知されたのではなかろうか。

とにかく同社のアンプだけをシステムに組み込むと、そのイメージが先行し
ハイスピードという考え方が打撃音などの鮮烈な音として認知されたものだ。
しかし、本当のハイスピードとは果たしてそんな単純なことなのだろうか?

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

まず、GOLDMUNDが言うところでは音楽の再生には人間の耳に聞こえる帯域
だけでは不十分であるということ。伝送される信号の時間軸と位相軸を完
全に再現するということは、シグナルパスにおいて伝送する波形が垂直に
立ち上がるような矩形波であっても、それを正確に伝送することが必要で
あるということ。そのためにはアンプを初めとした伝送系には広大な周波数
特性が必要であるということ。つまり、正確な波形の伝送にはグループ
ディレイ(群遅延特性)は限りなくゼロに近付けなければならず、伝送される
信号の微細な波形の再現にはオーディオ信号全体に対してミクロの時間軸で
遅れる信号があってはいけないということだ。信号全体をあるべきスピード
で伝送してこそ正確な波形を伝送・増幅できるという考えである。だから
こそ、そこに「ハイスピード」という呼称が言い当てられるのである。

さて、この理念をまずGOLDMUNDはアンプだけで実現したわけだが、他の
コンポーネントとのバランス関係からレバションの理想を20年以上前に
直ちに具現化できたわけではなかった。

私がGOLDMUNDのこの思想を高いレベルで実感したのは、スピーカーを含む
同社のフルシステムを聴いたときである。今までは切れ味が良過ぎて触れ
ることも危ぶまれるように同社のアンプを扱っていたのだが、GOLDMUNDで
すべてを統一したときには逆に剛性と柔軟性が同居する素晴らしい演奏を
聴かせてくれたのである。その体験からも、私はGOLDMUNDの製品に関しては
“血統を重んじるメーカー”として、なるべく同社の製品で統一化してい
く方向性をアドバイスしてきたものだ。

しかし、何としたことか!! 今日私が体験したことは、20年前とは全く逆に
プリアンプとパワーアンプのみで、私がリファレンスとするスピーカーの
パフォーマンスを以前と全く違う次元まで押し上げてしまったのである。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今回のシステムで象徴的なものはMIMESIS 29.4MEである。これにMIMESIS 21
相当のD/Aモジュールが内蔵されており、それでアナログ化された信号経路を
パワーアンプの文字通り直前まで短縮したというものだ。D/Aコンバーターの
手前でボリューム・コントロールを行うという常識外れの発想が、前述の
開発で未知の領域に到達したのである。そして、レバションが目指したデジ
タル伝送の領域を拡大するということが、こんなにも再生音に大きな貢献を
するということが私にも初めて実感されたのである。

さて、ここで視点を変えよう。

パワーアンプに格納されたD/AコンバーターはMIMESIS 21レベルであっても
これほど素晴らしい可能性があるということはわかった。と、いうことは
仮にMIMESIS 24の後にMIMESIS 20MEクラスのD/Aコンバーターを配置し、
その直後にパワーアンプを至近距離の最短のケーブルで接続したら、一体
どのようなパフォーマンスを引き出せるのであろうか?

今まで馴染みがなかったUNIVERAL PREAMPLIFIERという発想だが、これは
音質劣化が極めて少ないD/Aコンバーターとパワーアンプの直結という手法
を私が認めるレベルの高さで実現したものであり、96KHz/24bitというスペ
ックを持っている他社のD/Aコンバーターでも応用できる可能性もある。
つまり、MIMESIS 24のパフォーマンスはD/Aコンバーターのクォリティーに
依存し、かつ選択の基点としてD/Aコンバーターの優秀さを殺さずにパワー
アンプ直結という離れ業をこなすことが出来るということだ。

そして、MIMESIS 24に内蔵する豊富な入出力とDSPのプログラムの更新で
例えばNautilusのチャンネル・ディバイダーの特性をデジタル処理する
ことで、パワーアンプの直前までデジタル化を進めることも可能となる。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私はデジタル領域でボリュームコントロールをすることは否定的に考えて
いたのだが、今回のMIMESIS 24の登場は単なるボリュームコントロールと
いう機能だけではなく、音楽性の上でもパッションを聴く人にアピール
できるという魅力を発見した。

そこがレバションが目指したものなのだろう。

初めのうちはUNIVERAL PREAMPLIFIERというネーミングの意味が不可解で
あったのだが、聴いてみるとデジタル伝送への進化が正しいものであり
アナログ伝送では得られなかった要素が多々発見できるようになった。

2chでもマルチチャンネルでも、そして音楽ソースがデジタルでもアナログ
でも、それをスピーカーの直前まで純粋なクォリティーで伝送すると
こんな新しい世界があるのだということをGOLDMUNDは示してくれた。

つまり、使い手に対してオールラウンドにすべての人々に適応できるテク
ノロジーとして、結果的にユーザーに対してUNIVERALということなのだ!!

最後に確認しよう!!

これまでのハイスピード伝送という言葉は不完全な伝送体系としてGOLDMUND
が位置付けたアナログ伝送であるから必要とされた言葉なのだろう。

しかし、完全アナログ動作のスピーカーを駆動するために、どうしても
アナログの伝送・増幅を行わなければならないパワーアンプと別格として、
その直前までデジタル化すると、そこに“ハイスピード”を意識しなく
ても良いと言う根拠が表れてくるのだ。

オーディオの新世界!! とGOLDMUNDが提言する真の意味がここにある。

私は2004年8月にMIMESIS 24を聴いてレバションの夢が大きく前進した
ことをはっきりと認識した。

次は皆様の番です!! どうぞご来店あれ!!


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
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