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No.280 小編『音の細道』特別寄稿 *第28弾* 画像付き改訂版
     「まさしくfalls in loveの心境!!
      こんなスピーカーが欲しかった!!」
1.MOSQUITOとは?

1993年南仏プロヴァンス地方に属するマルセイユに誕生したハイテク企業
の一つがMOSQUITOである。2,600年前にフォセアエ人によって築かれた古く
からの大港湾都市マルセイユだが、現在では航空宇宙産業、エレクトロニ
クス各種産業などの研究センターが集結し風光明媚な風景の中に一大工業
都市として発展を続けていると言う。

MOSQUITOは音響、デザイン、電子工学、流体工学、素材工学、コンピュー
ター・シミュレーション、品質管理などスピーカー設計と製造においては
最先端のテクノロジーを持つ企業へと数年間で成長したと言う。フランス
国内では既にJM labに次ぐマーケットシェアーを確保するほどの急成長を
見せていると言う。

MOSQUITOの創立者はMarc NOUCHI社長はスピーカーとそのデザインの改革に
熱い情熱を注ぐ人物であり、フランス国内でもデザインと技術力を高い次元
で融合させる研究を熱心に続けるエンジニアである。同じ情熱を共有する
副社長Hubert DUPREZはセールス・マネージャーとして手腕を発揮している。

さて、肝心な音響エンジニアのトップはPhilippe PENNA氏が勤めているのだ
が、なんと彼の祖父はこのマルセイユで既にウッドレス・スピーカーを作り
上げた経歴の持ち主であった。その影響もあってPhilippeは幼年期からスピ
ーカー音響の世界に親しみ、彼が養った知識と情熱が2000年から開始された
“NEO”の開発に注がれているのである。

さて、前回の配信で語ったエピソード…。

私が輸入元の社長にいつ実物を持ってこられるのか? と聞くと、

「明日の午前中に自分が運んできましょう!!」 と、おっしゃる。

この輸入元というのはCONEX JAPAN株式会社というハイテク製品を輸入する
会社であり、設立は1996年というから結構な実績を残しながら日本で成長
を続けているベンチャー企業と言えるだろう。最初に輸入したのはドイツ製
のIMS-CS RF Componentsというから、高周波電子パーツと言うことになる。
それから三つの大きなプロジェクトでヨーロッパのハイテク企業から電子
工学部品や光学製品なども輸入し、防衛産業にも関わる技術的に高度な製品
を各種輸入して現在に至っている。

そのCONEX JAPAN株式会社の社長がEric CHARLERY氏であり、日本語ぺらぺら
のバイリンガルである。このエリックが先週私に電話でコンタクトしてこられ、
今回の“NEO”の日本におけるセールス・パートナーになって欲しいと
いうアポイントがあったものだ。このエリックが実に親しみやすく、昨日の
最初の会見からとんとん拍子で話しが進んだものだった。また、ここに来ら
れるまでにはステレオサウンド誌の某評論家氏の紹介があり、こんなスピー
カーを取り扱えるのはカワマタさんより他はいないでしょうという推薦のも
とに来訪されたと言う。

簡単であるが、私の解説で物足りない方はどうぞweb siteをご覧下さい。
http://www.mosquito-groupe.com/


2.“NEO”Physical feature

三年間の研究開発で生まれた“NEO”はフランス国内とドイツの一部で販売
されているが、アメリカの市場には参入していないと言う。アメリカのハイ
エンドオーディオ市場に関しては急ぐことなく、日本のマーケティングを先
行させようということらしい。そこでマーケティングのプロであるCONEX
JAPANのエリックが“NEO”をプロモーションすることになったのである。

“NEO”は横幅が420mm奥行き630mm、高さは1,300mmで重量が70Kgである。
日頃から100キロ以上のスピーカーに慣れている私から見ると扱いやすい
サイズと重量である。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo03.jpg

“NEO”のボディーは画像を見てもお解りのように一切の直線がなく、エア
ロダイナミクス・デザインである。複数の円、ゴールデンレシオ、オジーブ
様式を基本としてシンプルで幾何学的な曲線の集合体としてデザインされた。

エンクロージャーはwebを見てもお解りのように、どこにも完全に平行面が
ないのである。このフォルムもコンピューター・シミュレーションによって
音響的な影響を解析して定在波が発生しないように計算されている。

この独特なデザインのボディーは吸音材を注入したアルミハニカムを芯材と
して、両面をカーボンファイバーとグラスファイバーをエポキシでバインド
したコンポジット素材ではさみサンドイッチ構造としている。その厚みは
何と30mmという贅沢なものであり、振動エネルギーを瞬時にして減衰させ
温度や湿度の影響も受けず理想的なエンクロージャーを形成している。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo05.gif

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

フロントメインバッフルは厚さ20mmの無垢のアルミからの削り出しである。
その上部にサブバッフルが同様の厚さで削り出され8本のビスで強固に取
り付けられている。トップに位置するトゥイーターはそれとは全く逆に
フローティングされており、指でフレームを押してみるとダンパーを介して
ふわふわと動き浮いているのがわかる。これは賢い設計である。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo04.gif

このトゥイーターはフランスのAudax社のもので、ポリエチレンでコーティ
ングされた2.5cmソフトドーム型トゥイーターとなっている。ソフトドーム
ながら高域特性は-3dBで37KHzまで伸びているので、大変ニュートラルな
印象を持つ。

次に厚みが40mmにも及ぶサブバッフルの下側にマウントされたミッドレンジ
はMorel-UKから供給される14cmDPCコーン型ドライバーである。22cm口径の
二個のウーファーも同様にMorel-UKのものであり、これらはネオジウム・マ
グネットを使用したNeoLinシリーズと称されている。

さて、トゥイーターはフローティング構造であるということを述べているが、
それとは対極的なのが二個のウーファーの固定方法である。他のスピーカー
のようにウーファーユニットの周囲にあるべきはずの固定用のビスが見当た
らないのである。実は、上記の素材による高剛性のエンクロージャーの後方
からガスシリンダーのシャフトをウーファーユニットの後部にあてがい、何と
25キロの応力を加えてフロントバッフルに圧着しているのである。もちろん
ウーファーの金属製バスケット・フレームが直接フロントバッフルに接して
いるわけではなく緩衝材をはさんでフローティング構造としているのである。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo06.gif

ガスシリンダーからの圧力がウーファーのフレームからフロントバッフルへ
と伝えられ、均一に分厚いバッフルに圧着させることでウーファーの発する
機械的な振動はエンクロージャーとバッフルの両方向へ伝播し、バッフルの
足元にある二個のステンレス球と後方にある1本スパイクによって迅速に
メカニカル・アースが取られるのである。このステンレス球はフロントバッ
フル下部を削り取った窪みに巧妙にはめ込まれるようになっており、機械的
にスピーカー本体にも床面に対してもワンポイントの接点で支持されるよう
になっている。

とにかく、木のボックスによるエンクロージャーの考え方とはまったく違い、
変調されたエネルギーをスピーカー内部に溜め込んで位相をずらして放出す
るようなことがないので、メカニカル・ハイスピードという表現で“NEO”
のボディーを語りたいものだ。

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

次に電気的に各ユニットの使い方を見てみよう。トゥイーターの下側のクロ
スオーバー周波数は4.2KHzと意外に高いところに設定されている。この口径
と同じハードドーム型トゥイーターを使用している他社システムの多くは、
大体2KHzから2.7KHzくらいでクロスさせているものが多いのだが、4.2KHz
以上を受け持たせるというのは大入力の際の歪み率では大変有利であり、
後ほど述べる再生音の特徴にも大いにつながってくるものなのである。

さて、トゥイーターがこのようにゆとりある動作が出来るということに関し
て実はミッドレンジ・ユニットに秘訣があるのである。
下記の随筆は8年前に執筆したものだが…、

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto35.html

ここで初めてMorelのユニットを搭載したEGGLESTON WORKSのANDRAについて
述べているのだが、とにかくMorelのドライバーをミッドレンジに使用すると
クロスオーバーはワイドに設定できるものであり、ミッドレンジとトゥイー
ターのつながりを考慮すると-6dB/octというシンプルな一次フィルターで
済むので位相の乱れもなく、音楽の中心となるミッドレンジを生き生きと
鳴らすスピーカーシステムを設計しやすくなるのである。

“NEO”のミッドレンジは600Hzから4.2KHzを受け持つバンドパスフィルター
で設定されているが、この上下も-6dB/octという緩やかなスロープ特性で
つないでいる。ただし、前述のトゥイーターの下側スロープは-12dB/octと
いう特性で、なるべくトゥイーターにはミッドレンジの成分を混入させな
いという配慮が見られる。そして、ウーファーのクロスオーバーは600Hzと
なっており電気的には3ウェイ構成となっている。しかし、ここでもう一つ
のノウハウが2個のウーファーに生かされているのである。

実は“NEO”を“ウッドレス・スピーカー”と称しながらも、エンクロージャー
内部には二枚の仕切り板が組み込まれているのである。これは幾何学的な
デザインのボディー内部にしっかりと形状を適応させるための選択であるが、
そこにも細かい配慮がなされている。

まず、この二枚の木板はアメリカのスピーカーメーカーが盛んに述べている
“ブリージング”と呼ばれているエンクロージャーが呼吸するような微妙な
変形を抑制するための補強ではなく、ミッドレンジと二個のウーファーの音
響的な作用を作り出すためのものなのである。そのために剛性は求められて
おらず、二枚の木板の配置も各々縦横に違う角度で取り付けられており平行
面をなくすように設定されているのが下記の画像でも観察できるだろう。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo07.jpg

そして、このミッドレンジのキャビティーを構成する上の木板表面には
アクリルウールが貼り付けられており、ユニット後方へ放射される高域成分
を吸収するよう配慮されている。ミッドレンジ後方のキャビティーには天然
ウールが詰め込まれており、ミッドレンジ・ユニットが後方に放射する
4.2KHz以上の帯域も自然減衰させるように配慮されている。

次に上側のウーファー後方のキャビティーは前述のガスシリンダーのシャ
フトが中央に位置しているが、吸音材は特に詰め込まれていない。しかし、
ウーファー後方のキャビティー内部表面には約3センチ厚のウレタンが
敷き詰められており、吸音する帯域を中域から低域にまで拡大しながら
コンポジット構成のボディーをダンプさせているのである。

また上記の内部の画像からキャビティーのセパレーターとして取り付け
られた木板に小さい穴が多数開いているのが見受けられる。これは上側
のウーファーが後方に放射する600Hz以上の中高域成分は上記のように
内部壁面のウレタンで吸収させつつ、上部ウーファーのダイヤフラム後方
に放射される背圧(バック・プレッシャー)の波長の長い低域成分を下側
のキャビティーに抜く、いわば空気穴として機能させているのである。

それによって、このように見えないところにノウハウを発揮しながら、
上側のウーファー用キャビティーはクロスオーバー周波数600Hz以上の中
高域に対しては密閉型エンクロージャーとして働き、同時に600Hz以下の
低域方向に対してはエアーを抜くことでトランジェント特性を高めている
のである。だから、この多数の小さい穴を上のセパレーターのように吸音
材を貼り付けてふさいでしまわないようにしているのである。

次に下側のウーファーだが、これは電気的には上と同様に600Hz以下の
信号を入力されているのだが、バスレフのポートチューニングが共振
周波数33Hzで設定され、更に低域まで再生帯域をエクステンションさ
せているのである。能率は92dB/2.83V/1m、400Wの最大入力という
パワーハンドリングを可能にして、“NEO”の総合的な再生周波数帯域
は-3dBで27Hz〜37,000Hz、-2dBでは30Hz〜22,000Hzというワイドレンジ
を確保しており、1KHzにおける歪み率も0.12%というスペックを持って
いるのである。

最後にカーボン・コンポジット構成のボディーはブラックの他にイエ
ロー、レッド、ブルーと標準色が選択できるほか、有名な高級車であ
れば、そのカラーコードで好きな色に仕上げることも出来るものだ。

http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/m-neo01.jpg

現在はこのカラー仕上げサンプルをメーカーに要望しているところだが、
ドイツのショーでMOSQUITOのブースに展示された“NEO”にご注目頂き
たい。鮮やかなブルーと一部イエローの背中が見えるのだが、車と同じ
塗装工程による仕上げで高級感をかもし出しているものだ。


3.“NEO”のパフォーマンス その1.ベース・コントロール

ちょうど“MEXCEL Cable”の評価のために、前回はNautilusを使用して
いたのでMEXCELスピーカーケーブルを登場させることは出来なかったが、
シングルワイヤーで接続する“NEO”については下記のようにいよいよ
7N-S20000を使用することになった。ちなみにここに導入した7N-S20000
は特注の5.0mなので価格は\5,840,000という恐ろしい金額になってし
まった^_^; このケーブルはBi-Wireが出来ないので、同じものをもう
1ペア用意したので、結果的には倍のコストがかかっていることになる。

NEOはシングルワイヤーです。上記は他のスピーカーの対応で準備した
ものです。一応念のため(^^ゞ

下記のシステムで本日数時間の試聴を行ったことで、今回ショートエッセ
イを緊急に執筆しようという気持ちになったのだが、ちょうど本日は時間
切れのようである。これから念のために一晩システムエンハンサーをかけ
て入念にバーンインを行い、明日じっくりと聴き込んでから試聴レポート
を作成することにした。


     -*-*-*-*-今回のリファレンスシステム-*-*-*-*-

 ESOTERIC G-0s(AC DOMINUS)    
      ↓                 ↓
      ↓                  7N-DA6100 BNC(Wordsync)
      ↓                 ↓
 7N-DA6100 BNC       ESOTERIC P-0s+VUK-P0
 (Wordsync)         (AC/DC DOMINUS & RK-P0 & MEI Z-BOARD & PAD T.I.P)
      ↓                 ↓
      ↓               7N-A2500 XLR ×2(Dual AES/EBU)
      ↓                 ↓
 dcs 974 D/D Converter(AC DOMINUS)
      ↓                 ↓
 7N-DA6100 BNC×1     7N-DA6100 BNC ×2
 (Wordsync)            (SPDIF-2 DSD Audio Signal)
      ↓                 ↓
 dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS+SAP RELAXA3PLUS & PAD T.I.P)
             ↓  
     7N-DA6100 RCA 1.0m(2ch Audio Signal)
             ↓  
 HALCRO dm8(AC DOMINUS)
             ↓  
     PAD BALANCE DOMINUS 7.0m
             ↓  
 HALCRO dm68 ×2 (AC DOMINUS×2)
       ↓  
 ESOTERIC 7N-S20000
       ↓
 MOSQUITO NEO

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

一月はやい五月晴れ? とも言える快晴の日曜日、夕べの一晩の熟成が
どのように音質を研ぎ澄ましたのか期待に胸膨らませて出社した。

最初から大編成というよりは最近聴きなれている曲からということで、
押尾コータロー『STARTING POINT』6.Merry Christmas Mr.Lawrence
をかけた。http://www.toshiba-emi.co.jp/oshio/

「あら〜、この気持ちよさは一体なんなんだ!!」

MEXCELスピーカーケーブルの貢献ももちろんあるのだろうが、情報量とし
ての余韻感については申し分ない。いや、ひょっとすると私がこれまでに
聴いてきたスピーカーの中でもトップクラスかもしれない。

私がセッティングしたMOSQUITO NEOの左右のトゥイーター間隔はピッタリ
3メートル、私が試聴しているポジションでトゥイーターの耳の距離は
約3.7メートル。これは私が距離を測りながらセッティングしたわけで
はなく、この試聴室の音質傾向を知っている私が聴きながら合わせた
ポジションである。

MOSQUITO NEOのセンターに押尾のギターがピン!!と立ち上がったと思った
ら、その両翼に光の尾を引くようにエコー感が拡散していく。のっけから
音場感の広さには文句の付けようがないことが瞬間的に理解された。

そして、特筆すべきはギターの質感に刺激成分が皆無であり聴きやすいこ
とだ。この第一印象はこれから述べていくMOSQUITO NEOの総合的なパフォ
ーマンスのおおもとの特徴として最初から感じられたことなのだが、今ま
でテンションがパリンパリンに張り詰めたガット(弦)をピィーン!!と弾い
た後にキラキラと輝くように飛散するエコー感とは質感が違うのである。

次に12.HARD RAIN にスキップした。この曲はギターのボディーをヒット
しての低域が織り交ぜられ、それが本来のギターの低弦とのリズムと絡み
合うように独特の重量感をかもし出しているのだが、この低音階の響きの
一部分が取り残されるようにして位相が遅れてしまうと直ちに解像度が
低下してしまうというチェックポイントがあるのだ。

しかし、MOSQUITO NEOの低域は早い!!

どの低音も置いていかれるものは一つもなく、全てが一様のスピード感
で再現されるので、音像が膨らむということがない。これは凄い!!
では、低域の絶対量と重量感はどうなんだろうか? そこで…。

先ずは倍音成分を多く含み、スピーカーシステムの低域再生に関して
質感をチェックしやすいウッドベースの録音で早速試して見ることにする。

BRIAN BROMBERG 「WOOD」よりソロのベースで鮮明な録音で以前からテスト
に多用しているのが11.Star Spangled Banner、この原題だとわかりにくい
が要するに「星条旗よ永遠なれ」である。さあ、どうなるのか!?
http://www.kingrecords.co.jp/saisin/bass/index.html

ここで演奏するフロアー型スピーカーでも口径22センチというウーファー
のものはなく、そんな小さな口径のウーファーがどの程度の重量感を見せ
るのか? ちょうどB&WのNautilus802のウーファーが口径20センチなので
いい勝負なのだが…!?

「おお〜、これはいい!!」

ベースのソロはスピーカーにとって、位相を遅らせてもキャビネットの
サポートを受けて量感を補う性格の低域を付加しているものもあるが、
この曲の冒頭の強烈なピッチカートが弾かれた瞬間に私の疑問点は霧散
してしまった。前述のようにMOSQUITO NEOの二個のウーファーは電気的
には600Hzというクロスオーバーを与えられているのだが、各々はエンク
ロージャーを独立させることによってメカニカルに低域のみの2ウェイ
構成を実現している。たった22センチのどちらかと言うと小型ユニット
なのに、このときのBRIAN BROMBERGのウッドベースは重量感たっぷりに
私の眼前に展開した!!

バスレフポートを持っているスピーカーはウーファーの正面に放射される
低域と、0.何秒遅れでポートから排出される低域成分の両方を知らず知ら
ず聴かされているものだが、ポートからの低域に位相遅れがあり同時に
キャビネット内部の共鳴、定在波などの不要成分を含んでいると演出的に
量感を追加する働きをしてしまうものだが、MOSQUITO NEOは「そんな幼稚
な設計ミスはしていないよ!!」と言わんばかりに正確無比な低域をハイ
スピードに再現するのである。私の内心では思わず拍手喝采である。

 必要にして十分、どころか他社のスピーカーで演出効果として誰もが甘
んじて受け入れてきた、いやそれを好みの範疇としてスピーカーの個性と
して片付けてきた低域のあり方に一石を投じるベースをMOSQUITO NEOが
こともなげに実現したのである。

さあ、弦楽器での低域の再現性はわかった!!
では打楽器での低域はどうなんだ!? 気に入ると意地悪になる性格なのか、
妥協したものはここに置きたくないという信念の現われなのか、次なる
テストのために私は選曲を変えた。実は、その後の一時間というもの、
私は聴き惚れてしまって、この原稿の執筆を忘れてしまうほどだったの
であるが…!?

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私はスピーカーの低域再生に関しては、コントラバスやオルガンのよう
に継続する楽音と、ドラムやパーカッションのように瞬間的に立ち上がり
消えていく打撃音との二種類で必ずチェックするようにしている。さて、
MOSQUITO NEOの22センチウーファーは私の求める要求にどこまで応えて
くれるのだろうか!?

私のテストでは瞬間的に500Wから800W程度を出力することもあり、まさに
テストコースで開発中の新車で最高速度での挙動を分析するような過酷
ともいえる状態を作り出している。もちろく、いつもそんな大音量で全て
を聴いているわけではないが、打音のように瞬間的なものは人間は音量感
をさほど感じずに、小さな音量でも連続する音は大きく感じるものである。
ドラムのテストでは私は限界ぎりぎりをスピーカーに入力しているものだ。

先ずはスタジオ録音で正確にコントロールされなければいけないものを
ということで、これまでにも頻繁にテストにしようしている fourplayの
「The Best of fourplay」(WPCR-1214)の5.chant の冒頭20秒間に入って
いるハーヴィー・メイソンの強烈なフロアータムをかけることにした。
現在ここに展示しているスピーカーは、皆このようなテストに合格した
ものばかりであり、随筆などでご紹介しているNautilusやAvantgarde
なども同様に高いハードルをクリアーしてきたものである。
さて、ボリュームをじりじりと上げてからスタートさせた…!?

「こっ…、これは!!」

軽々と叩き出されるというのだろうか? 心配していた口径の小ささなど
微塵のかけらもないほどに払拭する打音の鋭さと、残響として残される
ドラムヘッドのバイブレーションがこの55畳ある室内の空気に感動的な
波動を与える。これは凄い!!

次にGRPの名作であるDave Grusinの「MIGRATION」の1.PUNTA DEL SOUL
2.SOUTHWEST PASSAGEと連続して見事にスタジオで管理されて録音された
ドラムの鳴り方を観察した。テンションは見事に張り詰め、適度にEQと
リヴァーブがかかったドラムが爽快に鳴り響く。Nautilus801のように
38センチという大口径のウーファーが叩き出す低域とは違い、高速反応
するMOSQUITO NEOの22センチウーファーは決して打音の構成要素に遅れ
を出すことがない。とにかく早い!! これを軽い低音と錯覚されることも
あるだろうが、数々のスピーカーを聴いてきた私が判定するに低域の再生
帯域は十分に延びており、重量感が不足すると言うことはない。見事だ!!

さて、同じスタジオ録音でも楽音に手を加えていないアコースティックな
録音のドラムでどうなるか、次の選曲に移る。

「TRIBUTE TO ELLINGTON」DANIEL BARENBOIM AND GUESTS
http://www.daniel-barenboim.com/recordings/398425252.htm

13. Take the 'A' Train の冒頭にあるドラムロールを久し振りに聴く
ことにした。思えばB&WのSignature 800で数々のアンプをチェックする
時にも、このドラムが色々なことを教えてくれたものだ。さあ…!?

「あ〜、そうだったのか!! こういう録音だったんだ!!」

前述のようにスピーカー内部に極めて短時間蓄積された低域がエンクロー
ジャーとポートチューニングの影響によって個性として認められる低域
を個々に出していた。私は過去のそれらを否定するつもりはないのだが、
ここで聴くことになったMOSQUITO NEOでのドラムは付帯する響きを取り
除いていくと何が残るのかという明確な事実を私に叩き込んだのである。

低域の打撃音の楽しみ方に重量感というものがあるだろうが、録音に入
っていない低域成分を旨みとして加える傾向があったのだろうか?
それだけを聴いている分にはいいのだが、MOSQUITO NEOの低域は見事に
贅肉を取り去り、ドラムヘッドにスティックがヒットする瞬間のみを
忠実に捉えるのである。そこに打撃音の膨張という現象は皆無なのだ!!

さあ、面白くなってきた!! 次をかけよう!!

dmpのMorello StandardからTake Fiveを聴く。
http://www.dmprecords.com/CD-506.htm
続けて、もう一枚のJoe Morelloをかけてみる。
Going Placesからは、この一曲Autumn Leavesである。
http://www.dmprecords.com/CD-497.htm

低域を検証して次に進まなければ…、という内心の思いとは逆に次々に
曲を聴きたくなってしまう魅力がMOSQUITO NEOにはあるようだ。
さあ、この二曲で私は更なる驚きを体験することになる。

キックドラムである。先ほどまでのドラムは大きなタムをヒットしての
音色に音響的な調味料を上手に加えて、見事にオンマイクなドラムを展
開してきたものだが、このJoe Morelloはそんな手加減はしていない。

この人のキックドラムは手を加えることが少ないアコースティックで
シンプルな録音であり、それ故にスピーカーの低域のキャラクターに
よって再生音も色々と変化する。特に大口径のウーファーでは録音に
入っていない「バフッ!!」という独特の付帯音が追加され知らない間に
そのスピーカーによる“楽しさとしての演出効果”にもてなされている
ことがあるものだ。しかし…!?

「そうそう、本当はこうだろう!!」

「タンタン!!」と小気味良く切れ上がり余分なものを残さずに、それでいて
スピーカーが構成する前方の空間に大きく広がることがなく音像を確立する。
そう!! これですよ、これ!!
これを淡白な低音としたら、他の低音は肥満体となってしまうのか?

よ〜し!! ドラムのチェックの最後はやっぱりこれだ。Audio labの
「THE DIALOGUE」から(1) WITH BASSと(3) WITH VIBRAPHONEのトラックだ。
http://www.octavia.co.jp/shouhin/audio_lab.htm

口径22センチのMOSQUITO NEOに対して、これまでにはAvantgardeのBASS
HORNや大型システムで散々聴き込んで来た曲だが、どうなるのか!?

「これでいいんですよ!! ドラムのサイズは!!」

高さが1.3メートルというMOSQUITO NEOが私の目の前に作り出した音楽
が映るスクリーンの大きさは、これまでに体験した他のスピーカーに対して
その身長にふさわしく巨大なものとはいえないだろう。

しかし、各ドラムのパートの音像が見事に引き締まっているので、各々
の打音の輪郭が重複することなく、個々の分離を維持して展開するのだ。
打音の印象はこれまでと同じなのだが、録音過程での操作をしていない
録音の成果が明確に音像のセパレーションとして理解できる。そして何よ
りも気分爽快なテンションでパーカッションが弾けるので、余分な響き
を否定し排除するというMOSQUITO NEOの真髄が思わぬところで確認できた。

これは私が長年唱え続けてきたエンクロージャー(箱)の存在感がないスピ
ーカーである。素材とテクノロジーという設計の妙味が素晴らしい低域の
再生を可能にしたのである。しかし…、低域の反応を確認するために実に
多くの時間を使ってしまった。先を急がねばと思いつつ、次なるチェック
ポイントは既に頭に浮かんでいた。


4.“NEO”のパフォーマンス その2.ハーモニーと空間表現

ここまでで相当な時間を使ってしまったが、逆に言えば私がこれほど聴きた
いと思うスピーカーは滅多にない。そして、今回のシステムの中核である
HALCROの超低歪みというポリシーとMEXCELスピーカーケーブルのパフォー
マンスが重要な構成要素であることも述べておきたい。

さあ、大音量でのインパルス応答の快感にしばし酔いしれていたが、次は
ぐっと音量も控えめな曲(笑)で更にMOSQUITO NEOの検証を続けていくこと
にする。多用な楽器が背景を埋めてヴォーカルも同時にチェックできるものを
と「Muse」からフィリッパ・ジョルダーノ 1.ハバネラをかけることにした。
http://www.universal-music.co.jp/classics/healing_menu.html

毎度お馴染みの曲なのだが、導入部が始まったときに私は言葉を失ってし
まった。こんなことってあるのか?

「Nautilus同様にヴォーカルが浮かんでいるぞ!! これは凄い!!」

スピーカーだけにスポットを当てすぎるつもりはないのだが、他の構成要素
は以前からここにあったものであり、新たにMEXCELスピーカーケーブルが
加わったと言うことはあるのだが、左右のMOSQUITO NEOにはさまれた空間に
たった二つの音源しかないという事実を忘れさせてくれるほどに見事な中間
定位でフィリッパのヴォーカルとバックコーラスが並ぶのである。

そして、散々言い尽くしているがMOSQUITO NEOの低域のコントロールが
この曲で一定のリズムで繰り返されるドラムにまたしても発揮されている。
音像が引き締まり、ヴォーカルの立ち位置を邪魔することなく、各パート
に低域の混入を防止している様子が良くわかる。さすがである!!

そして、Audax社のソフトドーム型トゥイーターとMorelのミッドレンジの
連係によるものなのか、極めてスムーズで滑らかなヴォーカルの質感が心地
良く耳をくすぐる。そう、もっと音量を上げても大丈夫よ、とフィリッパが
しゃべれるはずもない日本語で語りかけてくるようだ。この声の質感と時折
フォルテでバックが盛り上がるパートなどもメタルドーム型のトゥイーター
による演奏とは違い決して眩しくない。音量を上げることを室内の照明の明
るさを調光器で強く明るくしていったということに例えると、MOSQUITO NEO
で聴くヴォーカルはいくら強くスポットライトを当てて音量を上げても決して
ぎらつくことなく、平常心で歌手を見つめることが出来る質感の素晴らしさ
が感じられるのである。この感触はたまらない!! では次は…? これもおなじ
みで大貫妙子の“attraction”から5トラック目ご存知の「四季」である。
http://www.toshiba-emi.co.jp/onuki/disco/index_j.htm

「うっとりするような声だ、こんな感触は初めてだな〜!」

“ウッドレス・スピーカー”という表現は私も今回始めて使ったものだが、
木を使ったスピーカーでの傑作があるのは事実である。しかし、木材とい
う機械的な変位をする素材を使うにはそれなりの設計が必要であり、ただ
ウッドという触れたときの感触からのイメージで温かみのある音質のスピ
ーカーだというのは短絡的ではなかろうか? 国産でもモルトウィスキーの
樽でスピーカーを作ったというシャレもあったが、ユーザーの既成概念を
上手くセールスポイントに生かしたというとこもあるだろう。

一切の木材を使わないスピーカーとしてはGOLDMUNDのEPILOGUEを私は
大変高く評価している。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto41.html

また、カーボンファイバーを使用したスピーカーも過去に傑作があった。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto33.html

このようなハイテク素材を使用した事例では金属臭というか、硬質でひん
やりした冷たさや鋭さという言葉でのイメージを持っているのが普通だろ
うが、実は優秀な設計者に手にかかるとウッドよりも人間味と温度感を
たたえる演奏が出来てしまうのである。このときの大貫妙子の声には極上
のシルクの手触りを思わせる“天然素材の演奏”という印象が瞬間的に
私の頭の中にひらめいたものだ。そして、バックのストリングスが同様
に素晴らしい質感だ。エコー感は申し分なく潤いを含み、MOSQUITO NEO
の身長以上の空間提示をしているではないか。

これはひょっとして、Nautilusのお家芸のはずではなかったのか??

次第にNautilusやSignature 800の独壇場として私が認知していた領域が
何とMOSQUITO NEOによって鮮やかに更新されていくではないか!!

「それをできるのはB&Wだけじゃないぞ!!」と言わんばかりだ!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

バックの弦楽器の美しさとヴォーカルのしなやかさを聴き進むうちに
男性のヴォーカルでも確認しなくては、と次なる選曲である。

RUSSELL WATOSON である。つい先日TBSのニュース番組に出演して
オ・ソレ・ミオを生で歌っていたが、好青年という印象であった。
http://www.universal-music.co.jp/classics/watson/index.htm

まず『The Voice』から1.Nella Fantasia 

イントロが始まったところで、またまた私の口はあんぐりと開いた
ままになってしまった。この音場感の広さと背景に並ぶオーケストラ
そしてコーラスとの奥行き感はなんということだろうか!! そして
ここでもグランカッサを静かに叩いてごく低い周波数でのリズムが
時折繰り返されるのだが、その質感が素晴らしい。重々しい低域だ
と思っていた他のスピーカーでは、実はグランカッサを床に置いて
叩いていたのではと思ってしまうほど、MOSQUITO NEOでは打音その
ものがちゃんと他の楽音と同じステージに乗っているかのように宙に
浮かんでいるのである。

クロスオーバー・クラシックという呼び方でホール録音の楽音をスタ
ジオワークで巧みにヴォーカルと重ね、一つの音場感に組み上げてし
く手法は最近の流行であるが、それにしても中空に定位する楽音と
余韻の浮遊感は私の認識ではNautilusが最高であったのだが、今ここ
で歌っているRUSSELL WATOSON の背景描写はNautilusのレベルに達して
いるのではないか? という疑いが私の胸中をよぎっていく。

さて、次は12.Funiculi - funicla 

背後のオーケストラもそうだが、バックコーラスの広がりと各パート
の鮮明さはなんとしたことだろう。しかも、RUSSELL WATOSONの声と
決してオーバーラップすることなく、エコーが飛び散るように空間
に尾を引いて消えていく。素晴らしい!!

14. 誰も寝てはならぬ Nessun dorma! 

静かに合唱がNessun dormaの主題を繰り返し、次第に盛り上がる中で
RUSSELL WATOSONの声量がステージを埋め尽くすように展開していく。
しかし、ここでも私の目と耳を奪っていったのは中間定位の素晴らし
さである。この中間定位とは左右のスピーカーの間の音源があるはず
もない空間に定位するという音響的虚像のリアルさを述べたものであ
るが、これを逆説的にたった一言で表すと次のようになる。

「スピーカーが消える!!」

あ〜、まずい!! Nautilusの専売特許であったはずの最大のセールス
トークがデビューして一年目という新参者に奪われてしまったのか!!

            -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ギター・ソロ、ウッドベースのソロ、ドラムなどでMOSQUITO NEOの
正確な楽音のコントロールの有様を確認し、次にバックの演奏が色々な
ヴォーカルで音場感のあり方も確認した。しかし、もう一つ確認して
おきたい楽器がある。

そう、ピアノだ!! 

しかもソロの演奏で聴きたい。私はスタジオでの録音で程よいお化粧を
施した例として「WIZARD OF OZONE〜小曽根真ベスト・セレクション」
UCCV-2003の11トラック「We're All Alone」を。
http://www.universal-music.co.jp/jazz/j_jazz/ozone/m_ozone.htm

そして、ヴァレリー・アファナシエフによるムソルグスキー「展覧会の絵」
を前回同様にチッェクして見ることにする。私が使っているディスクは13
年前の初版のものなのでディスクNoはCOCO-9046だが、最近では下記のよう
に再販売されている。
http://columbia.jp/crest1000/list111-120.html#crest118
http://columbia.jp/classics/index.html

インパルス応答性能を思わせる立ち上がりの鋭い楽音は同時に余韻感も聴き
どころであり、これまでにテストしてきた曲はどれも両方が同時に検証でき
るものだ。そして、ピアノの質感も上記の曲を使って色々なシステムで各々
の特徴をよく引き出してくれたものだ。さて、どうなるか!?

まず上記二曲において安堵感ともいえる十分な余韻感が片やスタジオワーク
での巧妙なリヴァーブから、そして片やフランクフルトにあるドイツ銀行ホール
におけるエコー感として、MOSQUITO NEOは演奏時間が累積されるほどにみず
みずしくなるかのように絶妙の音場感を発生させる。これはいい!!
そして、聴き進むうちに…!?

「待てよ〜? 今までのスピーカーで聴いてきたピアノの質感と違うぞ!?」

全くシンプルであり、かつ私の過去の記憶のファイルをいくら探しても
このようなピアノの質感が思い当たらないのである。

高炭素鋼で作られたピアノの弦がハンマーに叩かれて音が出るという原理は
誰でも知っていることだろうが、木製の芯にフェルトを巻きつけたものが
ピアノのアクションにずらりと並ぶハンマーであるいうことを思い出させて
くれたのである。

まさか、このハンマーの芯材が金属やプラスチック、あるいはセラミック
のように非常に剛性が高いもので作られているピアノを数多く聴いてきた
のではなかったのか!? と、自問してしまった私がそこにいたのだ。

MOSQUITO NEOが聴かせるピアノはいずれの録音でも、聴く者をピリピリ
させるような緊張感をもたらすことは決してなく、打音の瞬間が程よい
引き締まり方をしながらも冷たく硬質に感じにならないのである。実に
聴きやすく、それでいて十分な解像度と余韻感が両立しているのだ!!

一音ずつが明確にセパレーションしながら各々のエコー感を放射し、それで
いて金属的な響きは皆無であり、本来の響きはカエデやメープルという主材料
でピアノが作られているということがイメージとして伝わってくるかのようで
ある。響きが重なる和音が幾重に展開しても、音源の輪郭を細かく描写し、
それでいて“人肌”に優しい質感が今までになかったピアノの音色となって
耳なでていくようだ。

さあ、解像度ありテンションあり、しかし、そこにしっとりとした落ち着き
をピアノで提示できるということは、多数の楽器群でハーモニーを構成する
オーケストラではどうなってしまうのか? MOSQUITO NEOの最終チェックは
いよいよオーケストラに迫っていく!!


5.“NEO”のパフォーマンス その3.オーケストラを極める

ヴォーカルという主題でチェックしたつもりが、それを取り巻く全体像
としてステージにあるべきもの全てを見事に再現するMOSQUITO NEOだが、
最も私が素晴らしいと感じている楽器がある。弦楽器である!!

フィリッパ・ジョルダーノや大貫妙子のバックでも、そしてRUSSELL
WATOSONのステージでも私が過去に覚えのあるヴァイオリン、ビオラ、
チェロ、コントラバスなどの弦楽器群の質感が素晴らしいのである。

いよいよMOSQUITO NEOの分析の締めくくりはオーケストラにしようと
思っていたのであるが…。実は、昨日はバーンインを終えるのももどか
しく数曲オーケストラを聴いたのだか、それがまた最高であった!!

この私は多くのブランドを扱うので“最高”などという表現は滅多に使わ
ないのであるが、昨日はオーケストラばかりを聴いていたのである(^^ゞ

なぜ、それほどMOSQUITO NEOでのオーケストラに衝撃を覚えたのか?
それは前回の小編『音の細道』*第27弾*続編で「ESOTERIC“MEXCEL
Cable”とConnoisseur 5.0が鳴らすNautilus!!」に登場するこの曲、
セミヨン・ビシュコフ指揮、パリ管弦楽団によるビゼー「アルルの女」
「カルメン」の両組曲である。(PHCP-5276 廃盤)を時をほぼ同じくして
聴いた時の印象があまりにも強烈であったからだ。

1.前奏曲が始まった瞬間に只者ではない描写力が私を襲った。それは
主題を演奏する弦楽器群の存在感がしなやかな質感とともに空間に
浮かび上がったからである。

まず、オーケストラの弦楽器群を一つに束ねてしまったように聴かせる
スピーカーは意外と多いものだが、対象比較の実例をその場で聴かない
と一般的にはわかりにくいことだろう。しかし、MOSQUITO NEOで聴く
弦楽器は各パートごとにまるで空間にブラシをかけてストリングスの
流れに方向性を付けながらも個々の演奏者の存在感をきちんと区分け
して聴かせるという解像度の素晴らしさにある。

次に、弦楽器の質感なのだが、これを例えるには難しいが上等なシルク
のハンカチを二の腕にかぶせてそうっと引っ張るときの肌の感触と例え
たらどうだろうか。艶やかであり光沢があり、その上しなやかなので
摩擦とはいえない人の肌に優しい感触をともなってハラリと落ちていく
のである。それに比べると今ひとつの出来栄えのスピーカーでは、生成り
の生地か手ぬぐいを肌に感じたようなものである。

この一本一本の弦楽を分離する見事な解像度と、本当に耳に心地良い
感触という質感の素晴らしさがオーケストラを聴くことに快感を覚える
ほどの興奮をもたらしてくれたのである。

ソリッドウッドによって作られた名器、sonusfaberのGuarneri Homage
に関しては下記に詳細を述べているが…、正に私はGuarneri Homageの
質感にマッチした低域をペアリングさせたスピーカーが表れたという
例えもオーバーではないと考えている。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto11.html
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/oto/oto16.html

8.ファランドールでは前奏曲と同じ主題を管楽器といっしょに繰り返し
始まるのだが、このときの管楽器の質感もまた素晴らしい。それは
ヴォーカルのサ行の発音がMOSQUITO NEOでは心地良く聴けるという特徴
にも通じるものであり、管楽器のエコー感を鮮明に振りまきながらも
耳に刺さるような刺激臭は一切ないのである。これは快感である!!

そして、木管楽器にスピーカーのセンターを明け渡して太鼓のリズムが
軽快にホールに響き渡り、タンバリンの打音が距離感をもって空中を
飛んでくるとヴァイオリンがピッチカートを刻み始め、そのデリケート
な余韻感が見事に木管楽器のステージ上で調和するからたまらない!!

大太鼓が連打される最後のパートでは前述の見事な低域がホールに低音
のエコーだけを取り残してはまずい、と言わんばかりに見事に引き締め
てフィニッシュさせる。オーケストラの各楽器の余韻感に統一感を持た
せることがいかに大切かをMOSQUITO NEOは私に“楽しく”教えてくれる
のだから頭が下がってしまう。

「カルメン」10.アラゴネーズでは冒頭のお馴染みの主題が爽快に演じら
れた後、中央ではオーボエとフルート、そしてタンバリンが軽快に絡み
合い、それをヴァイオリンのピッチカートが包み込む展開が続く。
その中でアルコに転じた弦楽器がなんと美しいことか!! 新しい録音とは
言えないが通常のCDに含まれる情報量をことごとくピックアップしている
P-0sを主力としたコンポーネントの面目躍如たるところであり、アンプ
とケーブルという伝送経路の実力に舌を巻き、そしてMOSQUITO NEOの
美しく引き締まった肢体を惚れ惚れと“耳”にする快感が続く。
さて、次は…!?

15.ハバネラ では冒頭からトライアングルとタンバリンのリズムが弦楽
のアルコの隙間から奥行き感をもって響き、その距離感はNautilusの
それを上回るかのような錯覚さえ引き起こす。どうしてMOSQUITO NEOは
こんなにステージの奥まで視野を広げ、かつ遠近感の表現において抜群
のセンスを持っているのだろうか?

それはトゥイーターのハウジングのデザインにあるのだろうと私は考えた。
私はNautilusやそのシリーズ製品の関しての解説で球面波をきれいに
拡散することがいかに音場感に貢献するかと言うことを繰り返し述べて
来たものだが、その球面波を生成するにはユニット自身の周囲に反射
面があってはいけないのである。それがNautilusのデザインの根拠にも
なっているのだが、MOSQUITO NEOでは写真を見てお解りのようにトゥイ
ーターは空間にポンと独立する形でデザインされており、余分なバッフ
ル面を持っていないのである。

大方のスピーカーはトゥイーターも面積がある平面に取り付けているも
のだが、そのトゥイーター回りの反射面がユニット後方への球面波の
拡散にストップをかけてしまっているものと私は考えている。そして、
MOSQUITOのエンジニアたちもそれに気が付いているのであろう。
やはりトゥイーターを限りなく小さい取り付け面積で設計することが
音場感の再現性に大きく関与しているということを具現化したのである。

「もし私がスピーカーをデザインしたら絶対に同じことになるな〜」

と自説を思い浮かべながら演奏が進み、感極まったという例のところで
フォルテが発散される。この楽員が一斉に放射するエネルギーが空間を
伝わってくる過程でどれだけ原型を留めるのか。この原型とは各楽器の
立ち上がりと消滅という時間軸に対する位相のあり方とご理解頂きたい。
それがきちんとそろっていないと、どこかで強調された残響だけが残り、
そのせいで他の楽音も“迫力に見間違う”ことのある荒さが付加される。

しかし、MOSQUITO NEOに関しては、そんな心配はなかった。指揮者の
タクトの動きがもしもスピーカーの余韻成分を一刀両断にすぱっと切り
裂き、これ以上の響きを出すなと指示したように、伸びる余韻はその
ままで空中を滑らせ、一部の楽音だけが垂れ流すスコアーにないエコー
をピタリと制止するのである。設計の古いスピーカーには出来ない芸当
であるが、MOSQUITO NEOはこともなげにタクトの動きを音にしている。

つややかな弦楽器の質感に包まれながら、しかし切れ味を失わないと
いうオーケストラを私は本当に楽しむことが出来た。スタジオ録音に
付いても稀に見る魅力を発揮しているMOSQUITO NEOであるが、やはり
オーケストラという醍醐味に私を導いてくれたMOSQUITO NEOに、私は
近代稀に見る情熱で一目惚れしてしまったようだ。

サンプルとして語ったオーケストラの演奏は一つだけだが、実は時間
のある限り何曲も続けてオーケストラを聴きまくったものだった。
ただ、他の曲での私の印象を語り続けると終わらなくなってしまうの
で、Nautilusでの演奏で聞き込んでおり、最も比較対照に記憶の新し
い選曲としたものだ。

さあ、MOSQUITO NEOはここに来られた人たちにどのくらい気に入って
いただけるであろうか? その確立を予測するのも私のビジネスの根本
でもあるのだが、それは私の自信によっても大きく左右されるものだ。

最後にMOSQUITO NEOは私に大いなる自信を与えてくれたことに感謝し
ている。ここでMOSQUITO NEOを聴かれた皆様のお顔に至福の表情が
表れることを私は90%という確立で見ている。さあ、皆様はその中の
一割でしょうか? それとも…!?


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
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