発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
No.235 小編『音の細道』特別寄稿 *第十八弾* 「やはり私は実物を聴かなければコメントできない人間です!?」 |
1.存在を知っている事と聴くということの強烈なギャップ 日本の国技である相撲の世界で、いわゆるプロとしての職業力士は 800人弱の人数がいるというが、いわゆる幕内の力士は確か28名程度 と名前が知られる関取はごく少数である。 野球の世界でも甲子園で頂点に立つ高校は全国3万以上の高校の中から 勝ち残ったものであり、プロの世界でも一軍選手になる人材、ましてや 近年ではアメリカ大リーグに進出できる選手となれば正に野球人口の中 では氷山の一角というレベルであろう。ピラミッド型の人口構成による 様々なスポーツ、産業、科学、芸術などの有名無名の存在感は厳しい競 争関係の上で勝ち取られた実績がものを言う世界であり、誰しもが納得 するレベルの階層というものがあると思う。 さて、私が従事するオーディオ業界、特に作り手と使い手のこだわり によって価格もパフォーマンスも大きな格差があるハイエンド・オー ディオと称される世界は知名度と実力が果たして一致しているものな のだろうか? 世界的な視野で見れば、1950年代に創業した老舗と言われるメーカーが 欧米諸国には多数存在しているのだが、それらの知名度が高まってきて 一般的な普及と商品化は70年代になってからであろう。 第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争などが終結し、戦後の復興と 同時進行するように軍事的電子技術者が民間で活動するするようになり、 現在世界的な知名度を得ているメーカーは大半が70年代後半に設立され たものである。もちろん、現存するオーディオ・メーカーの創立者たち はすべてが軍事関係であったわけではないが、経済成長と趣味としての オーディオが普及していったという市場の推移は、それら創業者の音質 へのこだわりをビジネスとして成立させるだけの拡大を見せていたのも 事実である。 そして、私がこれまでに皆様に紹介してきた多数のコンポーネントは、 国内においても比較的大手と言われる輸入商社が各々の情報網と人脈 から輸入を決意して私に情報をもたらし、それを私の独断と偏見!?に よって評価して認められたものだけを選りすぐって推奨してきたもの である。 言い換えれば、雑誌などのメディアで大量に広告宣伝費をかけて認知度 を高め、販売の機会拡大を狙うというマーケティングとはまったく相容 れない販売スタイルが私の特徴でもある。つまり、私なりの商品評価の ハードルが極めて高レベルであるという自負と、それを認めてくださり 購入して頂いた多くの皆様の満足度が更に自信を強める結果となったも のである。 私はいくら高価であっても、いくら雑誌などで有名なブランドであって も、ここで検証するパフォーマンスにおいて認められないものは推奨し ない。逆にまったく無名とは行かないまでも、ほとんど知名度がない メーカーであっても、良いものは独自に販売プロモーションを企画し お得意様の多くに喜びと満足感を提供していくというビジネスの根本 をずっと以前から確立してきたものである。 さて、前置きが大分長くなってしまったが、全国規模で見渡しても、 恐らくその実物を適切なセッティングと環境で試聴できるという機会 に恵まれていないながらも、私が率直に驚いたパフォーマンスを持つ アンプが登場したのである。それが、久々に私自身が筆を取り皆様に ぜひお知らせしなくては…、という思いにさせてくれたのがこれ!! 1996年ドイツのシュツットガルトに設立されたAccustic Arts の トップモデルAMP II \1,600,000. とPREAMP I\650,000.である。 http://www.hifijapan.co.jp/accusticarts.htm すべては、実際の音を聴いてから始まった。ここH.A.L.のハードルを 驚くべきパフォーマンスでクリヤーし、私の感性を動かしたというこ とは何を意味するものか? 他社比較ではなく、オーディオのテイスト にこだわり続けた私が皆様に発したい強力なメッセージとしてご一読 頂ければ幸いである。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 今回の主役はプリ・パワーアンプであり、その前後は下記のような 私のリファレンス・システムにて試聴したものである。いや!! 試聴というよりは私が音楽を楽しむことが出来たのです。 これは滅多にないことです!! (*^_^*) Timelord Chronos(AC DOMINUS) ↓ Word sync only→dcs BNC Digital Cable ↓ dcs 992/2(AC DOMINUS) ↓ Word sync only→dcs BNC Digital Cable ↓ Esoteric P-0s(AC/DC DOMINUS & RK-P0 & MEI Z-BOARD & PAD T.I.P) ↓ Digital DOMINUS PLASMA-SHIELDING ↓ dcs 974(AC DOMINUS) ↓ dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS) ↓ Balance DOMINUS(1.0m) PLASMA-SHIELDING ↓ ☆ Accustic Arts PREAMP I(AC DOMINUS) ↓ Balance DOMINUS(7.0m) PLASMA-SHIELDING ↓ ☆ Accustic Arts AMP II(AC DOMINUS) ↓ DOMINUS Bi-Wire Speaker Cable(5.0m)PLASMA-SHIELDING ↓ B&W Sibnature 800(With BRASS SHELL) 2.最初の一口 まず、最初にAccustic Artsで聴いた曲はこれである。 ラッセル・ワトソンのセカンドアルバム「ヴォラーレ〜ザ・ヴォイス2」 http://www.universal-music.co.jp/classics/watson/index.htm この中のお気に入りのタイトルナンバーである「Volare」1958年にイタリア のサンレモ音楽祭でグランプリを獲得した名曲で色々なアーチストがカバー しているおなじみのカンツォーネの代表曲である。 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のチェロが最初に右側から登場し 左側からヴァイオリンが群れとなってイントロが流れだした。うまい アレンジのヴォーカルのスケールの大きさを支える巧みな録音である。 「Volare oh oh! Cantare oh oh oh! 」 この数秒間に私の耳から頭脳へと、最後には口元の筋肉が思わず弛緩 するような刺激が背筋へと伝い落ちた!! 「なんなんだ!! この躍動感というか、楽音の生き生きした演奏は!? まるで、これから包丁を入れようとする魚がまな板から飛び跳ねた ような今までに体験したことのない新鮮さだ!! もぎたての野菜をほおばって、サクッと甘さのある水分が弾けるよ うにして口の中に広がった瞬間の喜びのようだ!!」 職業柄、私の第一印象でコンポーネントの素性を見極めるということ にはかなりの自信があり、この時には正直に言って私の感性は大きく そして激しく揺さぶられたのである。 ポピュラー・シンガーのようにマイクを意識して発声する歌唱法と、 オペラ歌手のようにフォルテの極みの声量の両方を巧みに歌い分ける ラッセル・ワトソンが後者の堂々たる声量でヴォーカルが展開する。 S800の得意とする空間表現の美味、P-0sとdcsによる微細なまでの 情報量の掘り起こし、その両者に挟まれたAccustic Artsが、これ 程までにラッセル・ワトソンに輝きと潤いを同時に与えるとは誰が 想像したことだろうか…。 曲も中盤に差し掛かるとギターのラテン・パーカッションがオーケ ストラに彩を添えて、思わず体が動き出してしまう軽快なリズムが 展開する。そのギターとパーカッションの切れ味が何と良いことか。 そして、注目に値するのが余韻感の美しさである。この価格にして ずば抜けた情報量を平然と放つAccustic Artsのコンビであるが、 パワーアンプのAMP IIのゲインは31dBと一般的なメーカーよりは 高めの設定となっている。 KRLLやMarkLevinsonなどのメジャーなメーカーは大体が26dB、 JEFFROWLANDは26と32dBの切り替えを可能としているが、このハイ ゲインだけがAMP IIの秘訣ではなさそうだ。それは… 3.余韻感の存続と相反する打撃音 パワーアンプのゲインが他社に比較して約6dB大きいということが、 単純にアンプの個性として認証できるものではないということは これまでの経験から当然のこととして私は考えている。 では、何を持って評価すべきなのか…、すぐさま選曲を変えた。 チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲 サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団 指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132 http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm 1トラック目の序曲が始まったところで、尋常ではない相違を発見した。 弦楽器の質感がとにかく滑らかでありスムーズなのだ。この曲では 左右の弦楽器群が交互に演奏を繰り返すパターンがあり、それがやが ては重なり合って重厚さを増していくのだが、ややもすると鮮明に過 ぎると表現されるゲルギエフの録音では弦楽器の質感が再生システム の力量不足で“荒れぎみ”に感じられてしまうことがある。 しかし、Accustic Artsの聴かせる弦楽器はことさらに粒子が細かく、 すこぶるつきの透明感をS800に提供しているのである。いくつかの アンプでこの曲を試してみると、3分を経過しようとする頃合の弦楽 器の重奏部分で、ヴァイオリンのアルコがガラスを引っ掻くような 刺激成分を含んでしまうことがあるのだが、Accustic Artsでは磨き 上げたガラスがその存在を消してしまうようにホールに拡散する余韻 も含めて見事な質感でヴァイオリンの本数を数えさせてくれるのだ。 そして、トライアングルの軸棒は決して太くならず、清流の水面に 反射する陽光のきらめきのごとく鮮明に存在感をステージ上に示す。 これは凄い!! 続く15トラック目の「お茶(中国の踊り)」ではまたもや驚きが 待っていた。ファゴットの独特のリズムが繰り返される空間が広い、 モノラル・アンプでの優位性をこの空間表現の大きさで推奨すること は多々あったのだが、1ボディーのステレオアンプでこれ程の広さ を悠々と表現するものにはお目にかかったことがない!! そして、先ほどとは変わって同じ弦楽器群がピッチカートでファゴ ットの背景を埋めていくのだが、またこのエコー感の滞空時間が長い。 フルートがスピーディーに吹き始めるが、演奏者の息吹を浄化した ように音色に刺激成分がないので、楽音にエッジが切り立つことが なく演奏者に力みが感じられず、ひたすら聴きやすい音色をものに している。これは見事だ!! さあ、16トラック「トレパーク(ロシアの踊り)」だ。ここでは ちょっとボリュームを大きめに設定している。打楽器と弦楽器の 両者をハイパワーで鳴らして、そこに混濁する様子があるかどうか を見極めたいがためである。どうだろうか…。 「えっ、これは…!?」 いきなりフォルテで始まるフルオーケストラの迫力もさることな がら、各パートの位置関係がきっちりと描かれているので、弦楽器 が何層ものレイヤーに分かれてアルコを続けていく解像度に破綻する 気配すら見えないのだ。これは凄い!! そして、タンバリンとティンパニーが一挙に打撃音を放射した…!? その瞬間…、私の記憶のファイルの中で、たった今打ち出された打音 に匹敵するものがなかったと瞬時の検索結果が表示された!! この打撃音の引き締まり方は尋常ではない!! 打撃音の検証であれば、やはりこれを聴いてみないと…、ということで すっかり定着したテスト用CDのこれを持ち出してきた。 「TRIBUTE TO ELLINGTON」DANIEL BARENBOIM AND GUESTS http://www.daniel-barenboim.com/recordings/398425252.htm 13トラック目の Take the 'A' Trainで冒頭に繰り広げられるジョエル ・スペンサー(ds,perc)のドラムロールが聴きどころである。さて…!? 「おー!! こんなにテンションが張り詰めているなんて…!!」 たちどころに出だしの数秒間でAMP IIのポテンシャルが見事に発揮 された。とにかく速い!! 打音の一つ一つがS800の強力なウーファーに対して、パワーアンプが 急発進しながらもしっかりと路面にグリップを効かせて、エンジンの トルクをロスなく伝えているという実感が目の前に展開する。 S800のウーファーの振動板は肉眼でその振幅を観察できることも あるのだが、AMP IIの制動感はドラムの響きを床面付近に滞留さ せることなく、すっくとS800の立ち姿のその位置でスティックの 連打を再現するのである。これは爽快だ!! ダンピングファクターをことさら表示するメーカーも少なくなって きたが、それを1000以上と表記するAMP IIの自信の表れなのか!? とにかくティンパニーのヘッドが叩かれた瞬間に、その余韻は音速 を超えるような勢いで拡散していくのだが、それを叩き出した楽器 そのものはパニックブレーキをかけたごとくの制動感をもたらして、 その定位置のままでヘッドの振動が終息していく様子を鮮明に聴か せるのである。このアンプが有しているドライブ能力は、はるかに 価格を上回るものであることを私は自信を持って実演できるだろう!! 流麗であり滑らかであることだけが取り得ということでは、私の評価 基準では合格しない。しかし、この時の打音には脱帽の一言である。 4.濃厚さと淡白さの共存 次第にAMP IIの実力が身にしみてくる演奏が続くのだが、優れたアンプ やシステムというものは、多数の楽音の各々に対して対応性を持ってい なければならない。 ヴァイオリンなどの弦楽器はソフトに、ピアノはハードに…、極論を 言えば各人が色々な楽器に対して「こう鳴って欲しい…」という思い いれというか期待感を持ってしまうものだ。そして、それらのどちら かに偏ってしまうと失敗するのである。つまり、“柔”も“剛”もど ちらともこなさなくては本物ではないのだ。 そこで、いよいよ総合的に検証するにはバックの演奏に豊富な楽音を 含み、その中で展開する女性ヴォーカルの質感との調和を見るに限る。 そこで、コンピレーションアルバム「Muse」UCCS-1002 の一曲目。 http://www.universal-music.co.jp/classics/refresh/muse/muse.html FILIPPA GIORDANOのカルメン「ハバネラ」をかける。多重録音された バックコーラスのエコー感と解像度の違いが鮮明に見て取れるので 多くの比較試聴に使用している一曲である。何回も何回も冒頭から の90秒程度をリピートして、バスドラム(タブラ?)の低音の引き締 まり方がまた素晴らしい!! ポーンと中空に放たれた低域である。 「むむ…、これは…!?」 今までにも耳にタコが出来るほど聴きなじんできた曲なのだが、 FILIPPAのヴォーカルがぐっと手前に抜きん出てくるのである。 しかも、その色彩感がこれほど濃厚に感じられたことはない。 そして、よくよく観察するとバックコーラスとの距離感が稀な程 奥に展開してくれるのだが、ただの音量・レベル的な遠近感だけ ではなく、メインヴォーカルの濃厚さに対して新券の透かしのよ うに色合いを程よく淡く表現するのである。立体的とはこれか!? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- おいしいものには“食が進む…”と良く言われるが、おいしい演奏には 何と表現すべきなのだろう。次々にあれもこれも聴きたくなる。 http://www.universal-music.co.jp/jazz/artist/diana/uccv1036.html 最近お気に入りのDIANA KRALL「LIVE IN PARIS」で唯一のスタジオ録音 である12トラックめの「Just the Way You Are」がやはり聴きたい。 ダイアナが弾くイントロのピアノ… これはちょっと驚き。ピアノの弦のバイブレーションを感じてしまった。 続くダイアナのヴォーカル… 濃厚さがシルエットの大きさに影響するのか、やはり手前に一歩引き寄 せた感じで定位するヴォーカルはこの曲の雰囲気を更に引き立てる。 マイケル・ブレッカーのテナーサックス… これだ!! というのは、濃密なヴォーカルを聴かせるのであれば、やはり サックスもグラマーな展開を予想したものだが、ここで吹き鳴らされる リードのバイブレーションは何とキリリとしていることか。そして、 余韻も軽々と中空に飛散していくので後味良く、鋭いフォーカスを描く のだが淡白なのである。 オーケストラも良し、ジャズも良し、ヴォーカルも良し!! 正にH.A.L.の高レベルなハードルを余裕を持って飛び越えていく、私が 実際に試聴するまではまったく視野に入れていなかったダークホースの 発見である。 S800を試聴に来られるというお得意様の電話をありがたく頂戴したが、 そのお客様には数年前に私が納入したJEFFROWLAND COHERENCE & MODEL9 という同社のフラッグシップ・モデルを使用していることをはっきりと 私が記憶していた。しかし、そのお客様に私の口をついて出た言葉は!? 「ご来店お待ちしています。ぜひお聴かせしたいアンプがあるんですが!!」 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 価格とメーカーの知名度に隠されているものは何か!? 本物を皆様ご自身の耳で確認されてはいかがでしょうか!? そのために、ここH.A.L.があるのです!! |
このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。 | |
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