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H.A.L.担当 川又利明


No.234 小編『音の細道』特別寄稿 *第十七弾* 
「好奇心がもたらした思わぬ展開・P-0s with VUK-P0の新たな可能性!!」
H.A.L.'s short Essay

1.好奇心が引き出した可能性とは?

P-0s with VUK-P0の詳細は昨年のバックナンバーNo.0400で述べているが、
その中で次のような記述があった。

・44.1/88.2/176.4KHzのワードシンク対応

*44.1KHzは既にTimelord Chronos(クロノス)などで使用可。それを倍の
 88.2KHzという更にステップアップしたワードクロック同期が実現。

*88.2KHzのワードシンク対応モデルはESOTERIC D-70sとdcs 992/2。
 176.4KHzのワードクロックを出力するD/Aコンバーターまたはクロック
 ジェネレーターは現在存在しないが、将来の可能性を十分に認めて
 ユーザーの投資を将来にわたり保護しようとするもの。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、このようにせっかくP-0s with VUK-P0ではワードシンクの
クロック周波数に設定されている176.4KHzなのだが、残念ながら
市場に出回っている商品(一部の業務用モデルにはあるが)には装備
されていないフォーマットであった。

そして、そこで私はワードシンクの可能性をここでも試聴してみたのだが。
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/218.html


せっかくTimelord Chronos & 992/2がありながら、何とかならないものかと
Timelordの黒木社長に「992/2で176.4KHzの設定は出来ないでしょうか?」と
お願いしたのがそもそものきっかけとなった。

しかし、P-0sの変化を見ていながらタイムロードが176.4KHzのワードシンク
に積極的な取り組みを見せていなかったのには、ちょっと事情があったよう
なのである。


2.試聴環境とシステムの相違による発見とは?

さて、以下はクロノスを設計されたタイムロードのエンジニアである米谷氏
が黒木社長を通じて176.4KHzについての見解を述べてくれたものである。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

992の176k対応の件ですが基本的に992/2でなくては対応できません
ので、まずその点をご了承していただく必要があります。

次に実際にTEACでの実験では、44.1よりは88.2の方が良かったが
176は良くなかったという結果が出ております。

これについての技術的な理由を説明すると、まずWCKは基本的に低ければ
低いほど周囲の影響を受けなくなり高品位になります。

従って、意味もなく周波数を高くすることは、かえってジッターなどの
特性を劣化させ、当然音質も劣化するというのが大前提であり大原則です。

では現実に何故44.1よりも88.2の方が良い結果であったか?
これはインターフェースのフォーマットに起因していると考えられます。

今やディジタル機器の内部の伝送フォーマットはC-MOSレベルで行われて
いますが、WCKの場合はTTLフォーマットで送られています。

C-MOSフォーマットの場合は符号の1と0の比率...デューティー比が
50:50になりますが、TTLフォーマットの場合は符号判定の閾レベル
が異なっているために厳密にはデューティー比が50:50になりません。

つまり厳密には半周期毎で見ると周波数が高低しているのと同じになり
これはジッターと言えるわけです。

TEACのメカそのものは88.2だろうが176のWCKを送られようが、
基本的に44.1でしか動作しないので送られた信号を自動的に分周して
44.1になるようにしているわけです。

この分周回路はC-MOSなので50:50の比率になるので、44.1を直接
受信するよりもC-MOSで分周出来る88.2の方が良くなるというわけです。

しかし、176の場合は分周の点で88.2と何ら代わりがありません。

方形波の伝送は少なくとも基本波の100倍の周波数特性.群遅延特性の
平坦さが要求されます。

44.1kの場合は4.41Mまでの特性で良いものが、176の場合は17.6M
までの特性を要求されるものです。

17Mの信号など数センチ引き回しただけで大幅なジッターを発生してしま
うものです。

この点からも176kの伝送には44.1よりも4倍優れた伝送路でない
限り「同じ性能」が出せない、(つまり同じ伝送路ならば4倍悪くなる)
ということをご理解していただいた上で176kのWCKということを考え
ていただきたいと思います。

技術側からの意見としては176KのWCKの使用は全く勧められない悪しき
選択であると考えます。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

私も、このように言われてしまうと、そうなのかな〜と思ってしまいました。
でも、やってみなけりゃあ解らない、のもオーディオの世界の楽しさ、難し
さでもあります。

それに、第一米谷氏はティアックで行われた実験結果を肯定する形で理論
を述べておられるのだが…、失礼ながらティアックの試聴環境とシステム
全体のクォリティーに関しては、私はここで行うテストにおいても決して
引けをとらない、いや、新しい発見を出来る可能性さえあると考えている。

私はCDトランスポートやDACを設計するメーカーの試聴よりも上の音質を
目指しており、アンプを評価するメーカーのラボよりも高音質を求め、
スピーカーの音質決定をする試聴室よりも素晴らしい演奏を可能にしたい
ということで、ここH.A.L.の名前の通りの機能と目的を求めてきたものだ。

そして、何よりも私自身が自分で納得しなければユーザーに対する提言と
してもアドバイスとしても、自信をもったコメントは一切発しないもので
ある。そのこだわりの環境とシステムでどうしてもP-0sに176.4KHzのワード
シンクを入力してみたかったのである。

そして、タイムロードの黒木社長が遂に折れてくれたのである。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

川又さま

今回の992への処置につき、技術側からのコメント(上記)を送らせていた
だきます。必ずしも数値を上げていくことが良好な結果を得るものではない、
という内容です。

しかし、また、偶然に理論を裏切る結果が出ることもあるのが、オーディオ
の世界でもあります。

まずは、弊社のスタンスとして「この変更が最善ということでお勧めすると
いうことではない」ことを先に申し上げておいた方がよろしいと判断しました。

機械が壊れるわけでも、元通りお使いいただけなくなるわけでもありませんの
で、まずは実験ということで。よろしくご査収ください。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

はい、ありがとうございました。いいですよ〜、技術的見解と他の場所での
試聴の結果がどうであろうとも、喜んで176.4KHzが出せる992/2でP-0sを
テストさせて頂きます!! こんな業界初のテストをさせて頂けるなんて今
からむずむずしてきますね。どんな結果になることやら…!??


3.意外を通り越して唖然とする結果とは?

2003年3月2日、P-0sの収穫と接客の多さ、メールの処理に終われる数日が
経過し、中々課題を試聴することが出来ずに時間が過ぎていったのだが、
本日やっと時間を作ることが出来た。

そして、試聴システムも以前とは変化しているので、まずそれをご紹介
することにする。


                   Timelord Chronos(AC DOMINUS)
                ↓
              Word sync only→dcs BNC Digital Cable
                ↓
                      dcs 992/2(AC DOMINUS)
                ↓
              Word sync only→dcs BNC Digital Cable
                ↓
       ここで、992/2の出力を切り替えて比較試聴
                ↓
 Esoteric P-0s(AC/DC DOMINUS & RK-P0 & MEI Z-BOARD & PAD T.I.P)
                ↓*VUK-P0 Version
                  Digital DOMINUS PLASMA-SHIELDING
                ↓*88.2KHz伝送
         dcs 974 & 3ch-BNC Digital DOMINUS 
                ↓
                  SPDIF-2によるDSD伝送*これが凄い!!
                ↓
                  dcs Elgar plus 1394(AC DOMINUS)
                ↓
               Balance DOMINUS(1.0m) PLASMA-SHIELDING
                ↓
            Connoisseur 3.0 (Metal Version) (AC DOMINUS)
                ↓
               Balance DOMINUS(7.0m) PLASMA-SHIELDING
                ↓
                  JEFFROWLAND MODEL 12(AC DOMINUS)
                ↓
                 DOMINUS Bi-Wire Speaker Cable(5.0m)
                ↓
                  B&W Signature 800(With BRASS SHELL)
                ↓
                    murata ES-103B & PAD ALTEUS

  
176.4KHzが出せる992/2は特に外見も何も変化するものではない。近年の
992/2の出荷時のデフォルトのセッティングではワードシンク出力の1-5番
と7-11番が44.1KHz、6番と12番が88.2KHzの出力に設定されているので、
これら出力端子の接続を差し替えることで各種の周波数を切り替えるもの
である。

そして、今回の992/2では前述の出力に加えて5番と11番が176.4KHzの出力
に設定され、その他は従来通りであり三種類のクロック周波数を出力する
ことが可能になったのである。それらをつなぎ換えての比較試聴となった。

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

前号でご紹介している広島県からのご来店に備えて、夕べはシステムエン
ハンサーを徹夜で回していたのだが、それは既に11番の176.4KHzにて演奏
していたものなのである。従って、前号でご紹介したN・N 様はおいしい
方の音質で試聴されていかれ、貴重な体験をされていたのである。

最初に私が試したのは…、定番のこれ。

チャイコフスキー:バレエ音楽《くるみ割り人形》op.71 全曲
サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団、合唱団
指揮: ワレリー・ゲルギエフ CD PHCP-11132

http://www.universal-music.co.jp/classics/gergiev/discography.htm

1トラック目の序曲をまず聴く。

「今日はずっとこれで聴いてきたから快調で気持ちいいね〜」

と思いつつ、15・16トラックと176.4KHzで聴き流して行く。

次に、P-0sのワードシンクをオフにして、992/2の出力を12番の88.2KHzに
つなぎ直し、再度P-0sのワードシンクのインジケーターが一分程度点滅を
繰り返すのをじっと待っている。そして、Elgar plus 1394のディスプレイ
が“DSD”と表示され、わずかにカチッとロックの音がする。

さあ、今度はどうかな〜と、まだ冷静さを保ってP-0sをスタートさせる。

「あれ、エコーが減ってる。弦楽器もちょっと乾燥ぎみだ。トライアン
 グルの響きが尾を引かない。フルートの余韻がたなびいていかない」

え〜、どうしたことだろうか!!
http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/brn/218.html
以前の試聴では44.1KHzに対して圧倒的に88.2KHzが優位を占めていたのに、
この176.4KHzとの対比ではこんなにも格差が生じてしまうのだろうか!!

「うそでしょ〜!? そりぁないよ!!」

と信じがたい変化にわが耳を疑い再度176.4KHzに接続を切り替えた。

「あ〜、やっぱり…、私の耳とここのシステムの敏感さは間違ってない!!」

これって、米谷氏のいうジッターが増えたせいで、お化粧が厚くなって
しまったということなの??

いや、私の経験と判断からしても、楽音に余分な質感が加わったわけで
はない、明らかに純度の向上として質感の向上であると私の耳は言って
いる。大編成のオーケストラでは多数の楽音が各々のパートで変化を
物語っているが、たった三人の演奏ではどうなのか?

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

今では、私のテストCDとしてなじみになったこれ、Peter Cincotti

http://www.jvcmusic.co.jp/cincotti/

このアルバムトラック4「Sway」原曲はメキシコの名曲「キエン・セラ」
をすぐさまP-0sにセットした。今度は順番を逆にして88.2KHzが先だ。

この曲はピアノのイントロから、リムショットとタムの気持ちよい
アタックから入り、重量感のあるベースが参加してきてトリオの演奏
になるのだが、何とすべて“センター定位”というレコーディング
であるとご紹介している。ふむふむ…、と納得して待ちきれない心境
で11番の176.4KHzにつなぎなおした。

イントロのピアノ…
「あれ!? さっきより広がっているけどテンションは引き締まってる??
 ジッターが増えたら逆の結果になるんじゃないの??」

リムショット… カツッ!!
「おお!! 切れてる!! 早い!! そしてシャープだ!! このアタックは凄い。
 ジッターが増えたら逆の結果になるんじゃないの??」
 
タムの一発…
「いい!! テンションが高くなって引き締まってるよ!!
 ジッターが増えたら逆の結果になるんじゃないの??」

ベースの参入…
「うそ!! ピッチカートの瞬間のエネルギーが濃厚になってるよ!!
 ジッターが増えたら逆の結果になるんじゃないの??」

ピーターのヴォーカル…
「うん!! 完全に浮いてる。周辺に拡散していた声のシルエットと
 いうか口元の投影面積が小さく引き締まっている。輪郭がさっき
 よりも鮮明になっているじゃないか!!
 ジッターが増えたら逆の結果になるんじゃないの??」

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

大編成のオーケストラと、たった三人のスタジオ録音。その両者ともに
みずみずしく響き渡る空間情報のあり方と、弦楽のように継続する楽音
の滑らかさが向上するという変化の有様。

そして、スタジオ録音のトリオでは、アタックが鮮明に立ち上がり低域
のエネルギー感が充実し、口元の輪郭も明確になっていくという対照的
な変化のようだが、P-0sの真骨頂である“録音のままに”という情報の
正確さが引き出されたことが確実であると考えられる。

これは驚いた!! 事前の技術的見解を肯定も否定もせずに、この試聴を
行ったというものなのだが、これはどなたにお聴かせしても私と同じ
印象をもたれるであろうことは自信をもって申し上げられる。

「176.4KHzを注入したP-0s with VUK-P0素晴らしいです!!」

さあ、それを知ってしまった私は皆様に何をご提案すれば良いのか!?

          -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さあ、この続きはハルズサークル会員のみに配信されているレビューで
明かされています。皆様もどうぞご入会下さい。



このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
E−mail:kawamata@dynamicaudio.jp
お店の場所はココの(5)です。お気軽に遊びに来てください!!

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