発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
No.128 「Jeff Rowland Model 12 Hi-Current Versionによる覚醒!!Nautilusの潜在能力」 |
まず最初に現在のセッティングをご覧いただき、私の苦労話しをきいて下さい。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/pho/001015/al-pyr.jpg これは正面から合計16セットのモデル12を捉えた壮観な眺めである。注意深くご覧になるとモデル12の電源部と中央にランプのある本体の上下関係に不揃いなところがあるのに気がつかれると思う。このレビューのNo.0035でも述べているHi-Current Versionは1ペアのモノラルアンプで1チャンネルの再生を行なうものである。2台のモデル12に同じ信号を入力しスピーカーへの出力端子を2台ともにショートし、1台のアンプから出力のプラス、もう一台からはマイナスをスピーカーへと接続するのである。輸入元で用意したHi-Current Version用のカルダス社製の30センチ程度のバランスケーブルとスピーカー端子用のジャンパーケーブルを使用するため、二台のモデル12が離れてしまうと接続できない。しかも、PADのRLSノーチラス用特注スピーカーケーブルのリードワイヤーが50センチ程度の長さのため、ウーファーからトゥイーター用の4ペアのモデル12の距離が離れすぎてもいけない。この二つの条件を念頭に入れて行なうパズルのように複雑怪奇な配線作業には、試行錯誤を繰り返しながら2時間弱の時間がかかってしまった。 そして、それらのアンプの背後を見られれば呆れてしまうようなオールドミナスによるワイヤリングの物凄さ。長さは一様ではないが使用したパワーアンプ用の20アンペアACドミナスが全部で16本。そしてノーチラス用のチャンネルディバイダーとRLSノーチラス用の光源ボックスの15アンペアACドミナスが3本。ざっと価格を計算すると、これら電源ケーブルだけで約740万円となる。「おいおい、正気かよ」と思われるでしょうが、これらが揃わないことには私の満足できる再生音にはならないのである。そしてチャンネルディバイダーからHi-Current Versionとなった4セットのモデル12に接続するバランス・ドミナス4ペアで480万円。これらを合計するだけで「Oh!!crazy!!」と言われても仕方ないシステムの裏側である。
しかし、物凄いのは金額だけではない。配線している私は一番下のモデル12にかがみこんで指先の作業を強いられる。しかも、納得のいかない私は当初のセッティングを全部解除して、アンプの積み上げ方からすべてをやり直す始末。汗みずくで足腰が痛くなるし、いやはやこんなセッティングは勘弁して欲しいと自分で企画したことを忘れてブツブツとぼやきながらの作業であった。「ちょっとこっちのアンプで鳴らしてくれない!?」などと言われたらどうしようと思ってしまった。ご来店の際にはぜひ裏方のワイヤリングの仕事を見て頂きたいものである。「あー、しんどいー。」さあ、努力の甲斐あって仕上がった風景がこれ。 このシステムが本領を発揮し始めたのは二度目のセッティングを完了し、アンプがこれでもかと熱くなってきた10/14の夕方であろうか。有楽町で開催された東京インターナショナルオーディオショウの開催にともない、ここ数日は沖縄から札幌までと全国から数多くのお客様が見えられたが、その会場から流れてきたノーチラスオーナー3組が来店されたころ、Hi-Current Version Nautilusは鳴り始めたのである。私が何気なくかけた一曲目、綾戸智絵「Life」の冒頭の一曲「NEW YORK STATE OF MIND」のイントロから「エェッ!!なにこれ!!」と、今まで体験したことのないノーチラスの変貌ぶりに一同の驚きが各々の顔を見合わせるという見慣れたリアクションを引き起こしていた。 綾戸のハスキーヴォイスが猛烈な瞬発力で立ち上がったかと思うと、ドライバーショットの加速で飛び出したゴルフボールが優雅な放物線を描いて消えていくようにエコーが天井の更に上空まで飛散していくではないか。そして、そのあとに続く綾戸のピアノは鮮烈という単語を二乗したくらいの高速反応で立ち上がるのだが、何ら微塵のストレスも感じさせない。力強い、そして美しい。 もちろんヨーヨー・マもかけたのだが、バックのヴァイオリンがすがすがしく心地よい余韻のレイヤーを構成していく。「ハイカレントだから迫力と力感にあふれ、物を言わせぬ大音量でこそ本領発揮なんでしょう、どうせ」などど思ったら大間違い。私はジェフの作品ではモデル8と9においてHi-Current Versionを体験し、そしてつい先日のモデル12と三度目の体験となるわけだが、すべてに共通しているのはマッチョなイメージへの変貌ではない。逆に余韻が従前にまして振りまかれ、サウンドステージの大きさはポンと拡大され、楽音の始まりから終焉まで滑らかにトレースするようになるのである。その証拠に、パワーを上げて??ではないのです。このHi-Current Versionの真髄を試すのであれば音量を絞り込んでいただきたいのである。一般的にはボリュームを絞り込んでいくと、音像の表現が希薄になり、実像が半透明になっていくようなモーフィングの視覚効果が感じられるのだが、Hi-Current Versionはいくら音量を絞り込んでいっても、音像の色彩感が薄れ楽音の実態感がインビジブルに変化していくことはないのである。従って、正確なエコーの表現は正確な相似形で縮小され、小音量においても楽音と周辺の空気感にセパレーションが感じられるのである。 アメリカのある有名なスピーカーメーカーの社長が言っていたことだが、「中高域のユニットは電圧駆動だがウーファーは電流駆動、あるいは電流制御という考え方で絶えず電流を流しつづけなければ正確な低域再生はできないものだ。」そうだな、と思う局面は今までにも数多く体験し私も納得していたコメントなのだが、このHi-Current Versionノーチラスの演奏を聴いているとミッド・ハイレンジもひょっとすると電流駆動なのではないかと思えてくるのである。 ホールのエコー感、スタジオ録音の精巧なエコー処理、それらがHi-Current Versionとノーチラスの出会いによって、これほど以前と違った変貌を遂げるということは、録音に含まれている微細な信号を数ランク上のレベルで抽出することが可能になったと仮定さぜるを得ないのである。 つまり、微小な信号をエコー感としてスピーカーから放出させるには、ミッドハイレンジのユニットに対しても微量な余韻成分の信号を継続して送り込み、絶え間ない電流の流れによって演奏の背景描写となる空気感を発生させているようなのである。とにかく美しいノーチラスが再度誕生したのである。 先月はオールKRELLのモノアンプ8台でノーチラスを演奏していた。 大きな電流を発生させる無限のパワーを持つKRELLというキャッチフレーズは事実として、その堂々たるパワーの裏付けを演奏に表現してくれたものであった。そして、数あるノーチラスオーナーの幾人もKRELLの演奏を聴き、ご自分のシステムとの相違を好意的に評価していただいたものであった。 しかし、しかし、このHi-Current Versionノーチラスは単純にパワーの大きさを提示するものではない。パワーの大きさを発揮するデモンストレーションとしては打楽器の立ち上がりを鮮烈に描き、インパクトの瞬間にエネルギーを凝縮させるという印象を実演によって誇示することが容易である。 だが、Hi-Current Versionノーチラスの本領は、もちろんインパクトの瞬間を精緻に捉えると言うことを当たり前として、その後に続く余韻の再現性が常識の埒外と言えるほど正確であり美しいのである。従って、楽音そのものと背景の空間表現のコントラストが鮮明さをますので、演奏者と楽音の色合いが濃厚に表現される。しかも、楽音のエッジはしっかりと描ききるのでディティールはこの上なく明確に浮かび上がる。 さあ、困った。ノーチラスのオーナーには新たな境地を提案し、これからノーチラスを目指そうとする皆さんには数年先の成熟を先取りする形で提案する再生音が生まれてしまったのである。そして、ノーチラスの潜在能力は限界がなく底なしであることを痛感させられてしまった。本当に磨けば磨くほど輝きと練熟の極みを高めるノーチラスには脱帽であり、オーナーの皆様にとっては生涯楽しんでいけるパートナーとして、また自らの手で育成していく我が子のように、時を重ねるほどに成熟し光沢を増していくのである。 このHi-Current Versionノーチラスは来年の三月末まで常設し、皆様に体験していただけるように企画しております。私が考えうる最高の演奏を体験して頂き、皆様なりのスタンスでオーディオシステムの構築を進められていくお手伝いをさせていただければと思います。 何も私はここで演奏している約5000万円のシステムをそのまま販売しようとしているわけでは決してありません。皆様から見て、頂上を知っている人間から得られる助言と、五合目までしか登ったことのない人間からもらうアドバイスとに違いを発見していただければと思います。 あ、そうそう、近日中にこのHi-Current Versionのモデル12に強力なライバルが登場してくる予定です。もちろん、それもちゃんとお知らせいたしますのでどうぞお楽しみに。そして、私はこれから「マラソン試聴会」の準備で猛烈に忙しくなってしまいますので、配信のペースはちょっと落ちるかもしれません。でも、皆様からのメールはすべて拝読させて頂いておりますのでご安心を。 それでは、私の労作であるHi-Current Versionノーチラスを聴きに、一人でも多くの皆様がご来店いただけることを祈り今回のメールを締めくくります。ここでお目にかかりましょう。ありがとうございました。 |
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