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H.A.L.担当 川又利明


No.108 「今世紀最高のCDトランスポート登場」
二台のP-Oを同時比較試聴 P-0sのフロントビュー・ディスプレイ部 P-0シリーズ・メカデッキ カプラー部拡大(両モデル共通) P-0のスピンドルモーター・ドライバー基板
P-0sのスピンドルモーター・ドライバー基板 P-0のピックアップ・リード部分 P-0sのピックアップ・リード部分 P-0sリモコン

以下の内容はH.A.L.'s Circle Review No.0001 として数日前に配信したものをそのまま掲載しました。これからも有意義な情報提供を行ってまいります。どうぞ皆様の新規登録をお待ちしております。

 3月17日、ティアック株式会社のハイエンド部門、つまりエソテリック・ブランドの開発責任者である大間知 基彰氏と唐金 利生氏が訪ねて来られた。これまでのP-0に関する私の販売実績に対しての挨拶と当アフローでの演奏のクォリティーについての視察ということが本来の目的であったと言う。そこで私がP-0のバージョンアップを含めた将来像に対して行った質問が、具体的な形となって手元に託されたのが5月2日のことであった。突然の大間知氏の電話で「例のP-0sがやっと出来ました。これから持って行ってもいいでしょうか。」新しいものに目がない私が断るはずがない。ちょうど数人のお客様で立て込んでいるところにP-0sが到着しセッティングを行った。誰しもが見れば不思議に思う二台のP-0が居並ぶこととなった。(写真 二台のP-0)しかし、よく観察すると二台のP-0には若干外観上の違いがある。すぐわかるのは(写真P-0sのフロントビュー・ディスプレイ部)であり、カウンターがブルーになっている。正式な製品では、このディスプレイ内部にP-0sのネームプレートが配され、リアパネルの製品名版にはシリアル番号とともにP-0sの刻印が入れられる。私のもとにはシリアルNo.1001のP-0があるのだが、これにはPADのACドミナスと同グレードP-0専用DCケーブルを使用しており、更にゾウセカスのアイソレーション・システムにセッティングして可能な限りに補強サポートされた“ちょっと違ったP-0”には自信を持っていたのである。これら二台のP-0をdcsのシステム900pro/ver.1.0に同じケーブルで接続し、私のリファレンスであるオリジナル・ノーチラスを使って比較試聴しようというのである。

 まず、P-0特有のメカ・ノイズが解消したという単純な変化をテストCDをローディングして試してみることにした。P-0のノイズは大きく分けて三種類ある。詳しくは随筆のNo.44で述べているが、ディスクをローディングする際に高速でピックアップを移動するヒューンというモーター音。
次に、これは演奏中でも状況によっては聞こえるものだが、ターンテーブルが回転を始めるときのグーンという低い音程感の回転音。そして、最後がスレッド送りメカが偏芯制御を行って高速でステッピング・モーターを駆動するキュンキュンという周期性のあるノイズである。最初のローディングのノイズは解消しようがないというのだが、さてP-0sが回転を始めた。いつもであれば、もうこの段階でターンテーブルを駆動するスピンドルモーターのグーンという唸りが聞こえてくるのだが、アレ、アレ、静かだ、ほとんどターンテーブルが回り始めたのもわからないくらいだ。さあ、カウンターがスタートしてキュンキュンが始まるぞ、と身構えていると、アレ、アレ、と拍子抜けするように無音なのである。まるで心配性の親を小ばかにしたように平然とカウンターは秒を刻んでいくではないか。それはないでしょう。今までP-0に惚れ込んで使い込んできた私が呆れるほどに静粛性が向上しているではないか。

 それでは先ず最初に、P-0の致命的な弱点とされていたメカノイズの発生要因がどこにあるのか内部をのぞいてみる。(写真 P-0シリーズ・メカデッキ)このような構造なのだが、中央付近に見えるアルミ・メカデッキの左側にある黒い四角いモーターがステッピングモーターであり、スレッドベースを駆動するスクリューベアリングとの結合部を拡大したのが写真(カプラー部拡大)である。P-0を開発当初このステッピングモーター及びカプラー部がキュンキュンという偏芯制御ノイズの発生源であろうと考えられていた。なにせ0.1ミクロンの精度を実現するためには、これらの機構部品もリジッドに取り付けなければならず、柔軟性のある緩衝材でフローティングさせてメカノイズの低減を図ろうものなら途端に精度が落ちてしまう。しかし、目の前で開封したP-0sのメカデッキは従来と何ら構造は変わっていないではないか。
 さて、それではどのようにして偏芯制御ノイズとターンテーブルの回転音を解消したのか。最初にターンテーブル駆動用のスピンドルモーター制御回路である。まず写真でP-0のスピンドルモーター・ドライバー基板をご覧頂きたい。そして、次に新しくなったのP-0sのスピンドルモーター・ドライバー基板の写真をご覧頂きたい。パーツ点数と回路の重厚な変化は概観からもおわかりいただけると思う。技術的には以下のような新開発のテクノロジーが盛り込まれた。

《旧回路はモーターコイルに流す駆動用電流が、PWM(パルスワイドモジュレーション)のデジタル波形処理で構成されていた。P-0sに採用した新回路は、駆動波形の滑らかさを最優先する処理回路で、トルク変動を大幅に少なくする事ができる。その結果は音質向上に結びつくと共に、併せてモーターの振動が非常に少なくなった為、音楽再生時のモーター音が静かになった。》

その他には機械的な改良も行われており、ターンテーブル用ブリッジの完全固定化もターンテーブルの回転に静粛性を与えたポイントとなっている。

 そして、次がいよいよキュンキュンという偏芯制御ノイズへの対応である。
これも基本的にはレーザーピックアップ駆動用(送り・偏芯追従)スレッドモーター制御回路の電気的な新開発で問題を解決している。この制御基板は写真 P-0シリーズ・メカデッキの左側にステッピングモーターからケーブルが延びているところに格納されているのだが、垂直に取り付けられているために実物の比較は撮影できなかった。以下は技術的な開発ポイントである。

《新回路はモーターの駆動電流を大きくすると共に、ステッピングモーターのマイクロステップ動作周波数を従来より最大で14倍高い周波数(19kHz)に変更した。その結果、モーターの応答性が極めて速くなった為、音質向上が図られると共に、レーザーピックアップの送り・偏芯追従時に発生するモーター音を少なくすることができた。また、マイクロステップ周波数が高くなった為に、モーターの振動とメカニズムの共振周波数をずらす効果があったことも、聴感上SN比向上につながった点である。》

 このように私も含めてメカノイズの根源はメカパーツの固有特性にあるという認識であったものが、実は電気的な要因も含んでいたのである。特に演奏中のキュンキュンという偏芯制御ノイズは、前述のような対応を図る前はステッピングモーターの磁気回路が磁極反転の際に磁場がモーターハウジングに衝撃を与えていたことがノイズの原因になっていたものと考えられる。それが、今回の制御基板の変更で信じられないほどに解消されてしまったのである。

 さて、メカノイズの解消は大いにストレスを打ち消してくれた。しかし、それだけが今回の開発の目的であったのか。いや、違うと大間知氏は力説する。私は第一印象で受けた音質の変化と向上に対しては、もっとじっくりと見極める時間がほしい。というわがままを願い出て、現時点では世界に一台しかないと言うP-0sをゴールデンウィークの期間中ここで継続して試聴させて欲しいという懇願を申し出た。あまりの熱意に折れてくださった大間知氏にお礼を申し上げ、私は早速自分で販売したP-0のオーナーの皆様に連絡を取り始めた。いやいや、本当に忙しい連休となった。既にP-0とノーチラスをシステムで愛用されているお得意様が何人もいることから、二台のP-0の比較試聴の連続である。先ずは、先に述べたようにドミナスとゾウセカスで徹底したサポートを受けているP-0と、付属品のありきたりなACケーブルとDCケーブルをつないでポンと置いたP-0sをいちいちケーブルを差し替えて比較することにした。シリアルNo.1001のP-0に私が追加したPADのオプションは金額にすると何と約180万円となる。これまでの分析で自信を持っているP-0の演奏であった。

 いつものヨーヨー・マのシンプリー・バロックで比較する。
「あれ、ちょっと待てよ。違うぞこれは!」
とP-0sに差し替えたときの印象に戸惑いを覚える。
次は大貫妙子ではどうだろう。
「ははぁ、なるほど、こりゃ参ったな。」
この瞬間まで鉄壁のサポートを施してきたP-0に自信があったのだが、もろくもP-0sの前に崩れ去っていくではないか。PADに支えられたP-0で最も顕著にサポート効果が表れていたのは情報量としてのエコー感の美しさであった。しかし、P-0sが聴かせる演奏では楽音の輪郭表現が一層鮮明になっており、しかもウッドベースやピアノの低音階の質感に重量感と例えてもよい濃厚な色彩感をたたえているのである。従って、ヴォーカルにおける口元のフォーカスイメージがぎゅっと音を立てて絞り込まれたような収束感があるものだから、PADがサポートしているはずの余韻感と比較しても楽音とエコー感のセパレーションが大変見事なのである。いやはや、これはまずい。これほどにも違うのか。 それでは一体P-0の中で何が起こったのか。それは主に内部の各基板を接続するワイヤリングとアースポイントの徹底追及が改良点の主眼であった。

《各種電源/信号用線材のシールド強化。個別に述べると、レーザーピックアップ接続用フラットケーブル。スレッドモーター接続用ケーブル。スピンドルモーター接続用ケーブル。》

 P-0には御馴染みとなったクリスタルグラスの丸い天窓があるのだが、そこからのぞける部分にもなるほどと唸らせる改良の後が見られる。写真P-0のピックアップ・リードをご覧頂きたい。ピックアップされた最も新鮮なデジタル信号をインターフェイス基板に送り出すのが、このグレーのフラットケーブルである。次に写真P-0sのピックアップ・リードをご覧頂きたい。銀色に近いグレーのシールドを施した跡が顕著にご理解頂けるはずである。同様なシールドの強化が本体内部の随所に施され、しかも驚くべきことにその革新のメスは電源部にまで及んでいる。内部の基板からはシャーシー内部の複数のアースポイントにワイヤリングが施され、これらすべてをヒアリングからの選択でこなしてきたと言う。これでは開発に時間がかかったわけだ。

 さあ、もう一つP-0sには心憎い配慮がなされていた。最初に述べたように3月17日に訪問を受けた際に頂戴したリモコンが最後の写真P-0sのリモコンとして紹介している。とにかくエソテリックの十周年記念モデルとして当時の年内発売を至上命令として開発を急がされたチームには、さすがにリモコンまで後悔のないレベルでの設計が間に合わなかったと言う。そして、この最終形態のP-0sに思いを込めてデザインしたのがこのリモコンである。何と裏面は本皮張りであり、バランスを微妙にとりやすくしている下部の金属部は無垢のブロックから削り出しているという。操作感は抜群で目視しなくともスムーズにコントロールできる。まだ日本に三本しかないリモコンはずっと私の手元に残ることだろう。

もうこれだけで大変に長いメールになってしまった。試聴レポートとしてはもっと書き足りないものがあるのだが、これ以上の文書量では随筆レベルになってしまうので、P-0sの素晴らしさを極力凝縮することを眼目としてまとめたつもりである。それでは、このP-0sは今後どのようにして販売されていくのか、ユーザーから見て一番の関心事を最後にまとめることにする。

1. 一般の方々へは六月中旬発売のステレオサウンド誌で初公開の予定。
2. 製品の出荷は7月末くらいからの予定。
3. 本来P-0は総生産台数1000台の予定で部品調達を行い発売された。現在のところ既に900台前後の生産を完了しており、本体の構造的な部品は残り少ないボディーを使っての限定生産となる。従って、正確な数字は発表できないが数十台程度の生産で完了となる。
4. 定価は前述のリモコンを標準装備として\1,600,000.に最終決定した。
5. バージョンアップの受付は上記の雑誌広告では10月1日から11月末日までの受付期間で価格は\350,000.と発表される予定。これはメーカーとしてバージョンアップに関するパーツ数量を事前に調べて必要個数を確保する必要があるからとのこと。この点で都合が合わない場合は私にご相談ください。ちなみにバージョンアップの実施も今年の秋以降となり、二週間程度の預かり期間を要することになる。
6. ご予約について
前述のように既に試聴された方々から本日現在で7台の予約を受けており、全国に配分される総数のうち相当数を確保するつもりだが、雑誌が販売される時には完売の可能性もある。これからのご予約も含めて今後は具体的な契約によって予約を確実なものとして受け付け、既成事実を作ってからメーカーに供給を要求するつもりである。ただ、ほとんど先着順と言うことになると思われるので早めの検討が望ましいと思われる。

とにかく私にとってデジタルソースのリファレンスであるP-0sは生産が完了しても当フロアーの必須モデルとして展示を続けるつもりであり、大げさな表現であるが二十一世紀になっても存在価値が薄れることはないと考えている。そのP-0シリーズの最終モデルを所有しているかどうかが、皆様の今後のオーディオライフにとって大きな価値観となることを自信を持って宣言出来る。最後に営業マンの本性をちょっぴり述べさせていただきますが、全国の皆様のリアクションをお待ちしております。

これほど長いメールを最後まで読んで頂いてありがとうございました。また、ファックスでの情報を受信された皆様には肝心な写真が見られないことをお詫びいたします。

 これで、やっとH.A.L.'s Circle Reviewの第一号を配信することが出来ました。胸のつかえが取れたような心境ですので、次回からはH.A.L.'s Know-howや懸案のH.A.L.'s Monitorなどのお楽しみな情報もデイリーのつもりでコンパクトに配信してまいります。どうぞ今後にご期待ください。

ありがとうございました。

最後に大変重要なホットニュースを付け加えておきます。今回ご紹介したP-0sの実物を5月26日(金)から28日(日)の期間に当フロアーに再度持ち込み一般公開前の試聴イベントを行います。これまでに述べてきたように店頭で聴いてから購入ということは、恐らく予約完売の際には出来なくなると思われます。最初で最後のチャンスになるかもしれません。
どうぞ皆様ご参集ください。


このページはダイナフォーファイブ(5555):川又が担当しています。
担当川又 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556
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