発行元 株式会社ダイナミックオーディオ 〒101-0021 東京都千代田区外神田3-1-18 ダイナ5555 TEL:(03)3253−5555 FAX:(03)3253−5556 H.A.L.担当 川又利明 |
No.087 「WADIA POWER−DAC & PAD DOMINUS」 |
ここにはオリジナルノーチラスのオーナーたちが週末ごとに集まってこられる。オリジナルノーチラスを使用しておられる方々から見るとN801は弟分として認識されており、このフロアーでエレクトロニクスを吟味する際のリファレンスとしては役不足の感がある。しかし、4ウェイマルチのオリジナルノーチラスではパワーDACを試聴することは出来ない。ただ、私も気にしているのだがコントローラーのワディア390にはSTリンクの出力が8系統あるのだ。クロックリンクを用いるためにパワーDAC本体1台につきSTリンク2本を使用するのだが、ワディア390を3台用意したらノーチラスを鳴らすことが出来るだろうか。まず1台のワディア390に対してトランスポートからデジタル信号を供給する。この際、1台のワディア390にはSTリンク以外にバランスデジタル入力を1系統増設しダブルAES/EBUで192キロHzサンプリングを入力可能としておきたい。これを通常の使用状態と同じく左右チャンネル各々2本ずつのSTリンクで2台のワディア390に分岐させるのである。この2台のワディア390それぞれから左右合計8台のパワーDACに信号を供給するのである。そして、肝心なパワーDAC本体個々にはノーチラスの付属チャンネルディバイダーが持っている帯域分割/ミッドハイレンジの遅延回路/ウーファーの低域補償などの機能をデジタル領域でプログラムしてもらう。きっと凄いだろうなァ、とひとり夢物語を思い浮かべてしまった。地球上で最高の、そして生涯最高のシステムを予算を無視して購入したいという人が表れたら、米国のワディア社と英国のB&W社の双方に交渉してドリームシステムをプロデュースしてみたいと思う。どなたか宝くじが当たったらチャレンジしてみませんか。 さて、パワーDACの可能性に身勝手な夢を見ながら日々パワーDACのバーンインが進行していくのが感じられる。12月12日のこと、試聴用サンプルとして貸し出していた20アンペアACドミナス2本が戻ってきた。待ち兼ねていた私は早速ACケーブルをドミナスに取り替える。ワディア390にも15アンペアのACドミナスを使用するので合計3本を必要とする。これらはすでにある程度の通電を行なっていたものを差し替えたので早々に判断できそうだ。まず、決まりになっているヨーヨー・マを最初にかけた。「エッ!」と思わず我が耳を疑う。五日目になってますます円熟味を増したと感じていたパワーDACの表現力に今まで何の不満も持たなかった。いや、疑問を呈するスキを与えるようなレベルの音ではなかった。しかし、この変化はどう例えたらいいのだろうか。ヨーヨー・マのチェロのフォーカスは更に一層コンパクトな収束を見せているのに、彼が体をゆらしながら演奏するチェロのエコーはより広範囲に、そしてスピーカーの奥行き方向へと拡散していくのである。それほど微細なエコーのなごりを耳で感じる残像のごとく聴かせるということは、すなわちノイズフロアーが更に低下しているという証でもある。極めて大きいダイナミックレンジを誇るデジタルオーディオであるが、その底辺となるS/N比を考えれば、もはやシーとかシャーとかいう質感のノイズは論外であり感じることもないだろう。しかし、演奏の周辺に漂う空気の鮮度をイメージさせるような、あるいは演奏の背景にあるキャンバスを白地からガラスの透明感に変化させるような、そんな微妙な音場感の変質はもはやS/N比という尺度では語れないような気がする。やはりノイズフロアーの認識というのは聴感上で行われるべきものであり、測定器につながれるマイクロホンでは分類の出来ない情報評価なのであろう。とにかく静かになると同時に滑らかさを増した弦楽器の音色は格別であり、こんな音は聴いたことがなかったという常套句を再度使うことになってしまった。大貫妙子はどうだろう、とほぼ推測の範疇にありながらも曲を変えてみた。「やっぱりそうだよ。」目の前の丘を登りきると遥かなる眺望が目の前に展開するのを期待しつつ、息を弾ませながら斜面を駈け登ったあとの満足感があった。ヴォーカルの背後にこれだけのエコーをしまい込めるゆとりの空間があったことをパワーDACとドミナスが教えてくれた。一度ドミナスでパワーDACを聴いてしまうと、標準品としていっしょに販売しなければいけないくらいの必要性を感じてしまう。 私はいつもドミナスを試聴されたお客様に申し上げているのだが、ダメなスピーカーを素晴らしい演奏に変身させるケーブルはありません。ダメなアンプをよみがえらせるケーブルもありません。ただただ、潜在能力として本来製品の価格のうちに秘められている魅力をそのまま引き出してくれるケーブルが存在するのみです。パワーDACを開発する過程でワディアのエンジニアたちが聴いてきた音、そのパフォーマンスを上回る演奏がここ東京で聴けるとしたら、それは彼らのプライドを傷つけることになるだろうか。いや、私はそうは思わない。自分たちが誕生させたコンポーネントが、より高い極みに向けて成長していくことを喜んでくれるのではないかと考えている。ドミナスはすべてのコンポーネントに対して大いなる成長を促すサブ・コンポーネントであり、決して主役の座をパワーDACから奪いさることはないだろう。 本場アメリカでも聴くことの出来ないレベルの音がここでは演奏されている。それはコンポーネントを作り出す、すべてのクリェイターたちの感性が望ましい形で発揮され進化する現象と言える。そして、それを聴き評価する日本のオーディオファイルたちによって、そのレベルは更に高いものへと更新されることだろう。その一員に皆様も参加されることをお勧めする。 |
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